<スペース削減! 一行で分かる前回のあらすじ>

 変態は鉄の剣を手に入れた。







 内容がよく分かったところで本編へどうぞ。

るーちゃん「……なに、コレ!? 何のドラクエなの!?」

才人「柳也さん、あんた何と戦うつもりですか!?」

柳也「なるほど! そういう話かッ。つまり俺はいまは懐かしい野鳥の会の皆さんと一緒に紅白の会場に立って、ひばりちゃんと歌合戦すればいいんだな!?」

タバサ「……うるさい。シルフィード、やっちゃって」

柳也「ぎゃぱあああああああッ!!!」






 
 ……というわけで、改めて本編へどうぞ。
 




 “土くれ”のフーケ。

 それは現在、トリスティン中の貴族を恐怖に陥れているメイジの盗賊に付けられた異名だった。

 いわゆる縄張り的な活動範囲を設けず、トリスティンの東西南北あらゆる場所に出現し、あらゆる手段を以って貴族達の宝を次々と盗んでいく。なぜか平民の持つ宝には一切手をつけず、その目的も不明。その正体を見た者はおらず、男か女かも分かっていない。ただ分かっていることは、トライアングルクラスの、土系統のメイジであることのみ。

 まさしく神出鬼没、正体不明の大怪盗。それが、土くれのフーケだった。

 フーケの盗賊のテクニックは多岐に渡る。警戒厳重な貴族の屋敷に繊細に忍び込んだかと思えば、別荘を粉々に破壊して大胆に盗み出したり、白昼堂々王立銀行を襲うこともある。かと思えば夜陰に乗じて邸宅に侵入したりもする。

 しかし一方で、フーケは盗みの技に、共通した魔法を使う。すなわち、“錬金”の魔法だ。“錬金”の呪文で扉や壁を粘土や砂に変え、穴を開けて潜り込むのだ。貴族達は当然対策として“固定化”の魔法を扉や壁にかけるが、フーケの“錬金”は強力で、大抵の場合は、“固定化”の呪文などものともせず、扉や壁をただの土くれに変えてしまう。“土くれ”の異名は、そんな盗みの技に由来している。

 また、忍び込むことが困難な場合は、巨大な土のゴーレムを使う。その身の丈はおよそ三〇メイル。城でも壊せるような巨大なゴーレムで、フーケはこの圧倒的な力と、錬金の技とを状況に応じて上手く使い分けることで、数々の盗みを成功させてきた。

 そして、犯行現場の壁には、決まってこう書かれるのだ。

 『秘蔵の○○、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』と。





 巨大な二つの月が、魔法学院の本塔の外壁と、壁に垂直に立った人影を照らしていた。

 長く青い髪を夜風になびかせ、悠然とたたずんでいる。黒のローブを着込み、身体のラインと顔を隠したその人物は、誰であろう、土くれのフーケだった。

 彼は、あるいは彼女は、素足で本塔の外壁に立っていた。足の裏から伝わってくる冷たい感触に、軽く舌打ちをこぼす。

「さすがは魔法学院本塔の壁ね……。物理的に強い力が弱点? こんなに厚かったら、ちょっとやそっとの魔法じゃどうしようもないじゃないの!」

 足の裏で、壁の厚みを測る。土系統のメイジには、そんなことも出来る。

「確かに、“固定化”の魔法以外はかかっていないみたいだけど……これじゃ、私のゴーレムの力でも、壊せそうにないね……」

 フーケは腕を組みながら思案した。

 強力な“固定化”の呪文がかかっているため、得意の“錬金”はこの壁には通用しない。そしてゴーレムの力でも、壊せそうにない。

「やっとここまで来たってのに……」

 フーケは歯噛みした。

「かといって、“破壊の杖”を諦めるわけにゃあ、いかないしね……ん?」

 さて、どうしたものかと頭を悩ませるフーケの目が、きらり、と光った。

 獲物を見つけた、猛禽の如き鋭い眼差し。

 フーケが視線を向けたその先には……やたら騒がしい一団があった。





 夜。

 例によってヴェストリ広場に稽古のためにやって来た柳也達は、しかし、何人かのギャラリーを擁していた。

 というのも、才人の行っている修行に興味があるらしいキュルケが、見学したい、と言い出したのだ。

 必然的に彼女の友人のタバサが同伴が決定。ルイズも、「憎きツェルプストーの女がウチの使い魔達にちょっかいをかけないよう監視しなきゃならない」と言って、無理矢理見学に参入した。どうやらキュルケの実家とは、因縁の付き合いらしい。

「ひいひいひいじいさんが、どうのとか言ってました」

「違う! ひいひいひいおじいさんのツェルプストーがね、わたしのひいひいひいおじいさんの恋人を奪ったの!」

「……らしいです」

「はぁ……」

 柳也は、いまいち得心のいかぬ表情で呟きながら、溜め息をついた。純白の褌には無銘の脇差の他に、あの日タバサに買ってもらった剣の姿がある。

 視線を、ギーシュの方へ向けた。

「……それでギーシュ君? ミス・ロッタは、なにゆえここに?」

 柳也はついで視線を彼の背後にいるケティに向けた。目が合う。にこやかに笑いながら手など振ってくれる。なかなかに可憐だった。

 ギーシュは怪訝な表情を浮かべながら、

「よく分からないんですが、彼女が、僕達の稽古を見てみたい、というものですから連れてきたんですが」

「……俺達の稽古などを見て、何が面白いんだ?」

「僕も、そう言ったんですが……」

 ギーシュはますます訝しげに顔をしかめて、

「平民の剣術の修行を一度見てみたい、と言って聞かないものでしたから」

「……そうか」

 柳也は気の乗らない様子で頭を掻きながら、また溜め息をついた。見学したところで、あまり楽しくはないと思うが、彼女達がそう言い張るのなら仕方がない。

 柳也は気を取り直して、早速稽古を開始した。

 才人は昨日に引き続き素振りの練習を。ギーシュはワルキューレの戦術研究と、柳也との模擬戦を繰り返す。単調だが重要な修行風景が展開した。

 稽古というものは、やる気のある人間にとっては充実した時間だが、やる気のない人間にとっては酷く退屈な時間だ。

 見学する側もそれは然りで、四半刻も経たぬうちに、キュルケが「つまんなーい」と言い出した。

 柳也は稽古の手を止め、しかめっ面で言う。

「そう、言われましても……」

 稽古とはもともと単調で、つまらないものだ。それを面白くするのは、取り組む人間の心がけと創意工夫次第である。その心がけが欠けている彼女には、何を言っても無駄だろう。

 キュルケは、終いには「もっと派手なのはないの?」とまで言い出した。

 柳也は臓腑の煮え繰り返る思いを自制するのに必死だった。

 米神を引くつかせながら、笑顔で、

「じゃあ、一つだけ、とっておきの、派手なのをお見せしましょう」

と、言った。

 口調こそ穏やかだったが、凄まじい憤怒の念が、彼の丹田で渦を巻いていた。

 才人とギーシュが、稽古の手を休めて訊ねる。

「ミスター・リュウヤ、派手なの、というのは?」

「……かめはめ波だ」

「は?」

 才人が茫然と訊き返した。なにゆえ、ここで元居た世界であまりにも有名な、あの漫画の必殺技の名前が出てくるのか。

 異世界の貴族達は総じて、呆けた表情をする。

 柳也は才人を見た。

「勿論、本物のかめはめ波ではない。だが、近いことは出来る」

 永遠神剣の力を使えば。体内寄生型の相棒達の力を使えば、そのものは無理でも、近い技を出すことは出来る。

 かめはめ波とは、要するにレーザービームだ。レーザーとは、大雑把に定義すればミクロのエネルギーを増幅して、一点に集束する技術のことだ。体内寄生型の相棒達に命令して、両腕の構造をレーザー発振器に変え、ポンピングに必要な材料さえ揃えてやれば……。

 ――出来るな、二人とも。

【う、うむ……】

【は、はい】

 怒気を孕んだ柳也の言葉に、己の肉体に寄生した相棒二振りは狼狽しながら頷いた。

 しかし一度は首肯したものの、〈戦友〉が控え目に諫言する。

【で、ですがご主人様、この世界ではあまり神剣の力は使わない方針でいくのでは?】

 ――状況によりけりだ。構わん。やってしまえ。

 柳也は、きっぱり、と言い切った。

 腹が立っていた。

 自分達が普段から欠かすことなく行っている努力の時間を、「つまらない」の一言で片付けたキュルケに対し、腹が立っていた。

 彼女の度肝を抜いてやろう、という思いが、柳也から冷静な思考力を奪っていた。

 柳也は右腕に〈決意〉を、左腕に〈戦友〉を集中させた。筋肉を、骨を、血管を、人外のそれへと作り変える。準備は整った。

 両足を肩幅よりもやや広く広げ、腰を落とした。両腕を勢いよく突き出し、掌で球体を掴んでいるイメージ。そのまま、腰元に持ってくる。

 ポンピングの材料は、炭酸ガス。すなわち、二酸化炭素。空気中の分子にマナのエネルギーを送り込み、激しく揺さぶる。赤い光芒が、柳也の手の中で生じた。

「あ、あああああの、りゅ、りゅりゅりゅりゅりゅ柳也さん!?」

「黙っていろ! こいつは物凄い集中力を必要とするんだ!」

 炭酸ガスを利用したレーザーは、現代世界の地球で最もよく使われているレーザーだ。出力を自在に調整出来、水に吸収されやすい特性から手術用のレーザーメスとしても使われる。赤外線のビームで、窒素やヘリウムを混ぜることで途方もない高出力を可能とするが、それゆえにエネルギーの扱いは難しい。

 柳也の額に、じっとり、と脂汗が噴き出す。

 柳也は両足に力を篭め、臍下丹田に気を篭め、ゆっくり、と掌の中のエネルギーを上昇させていった。

「か〜」

 赤い光の光芒は、柳也の眉間の皺が深くなればなるほどに輝きを増し、

「め〜」

 周囲の空気を焦がす熱は、より高く、強大になっていく。

「は〜」

 エネルギーレベルは、すでにメガワット・クラスに及んでいた。

 TNT火薬に換算すれば、一キログラム以上のエネルギーだ。

 これだけのエネルギーを、拳大の一点に集約すれば、如何なることになるだろうか。

「め〜」

 柳也は、キッ、と上空を睨み上げた。

 なるべくなら標的はド派手な破壊が望めるものがいい。

 キュルケの鼻を明かしてやれるような標的はあるまいか。

 一瞬のうちに視線を走らせた柳也が選んだのは――――――魔法学院本塔外壁!

「波――――――ッ!!!」

 柳也は一気に、両腕を突き出した。





永遠のアセリアAnother × ゼロの使い魔クロスオーバー

ゼロの魔法使いとその使い魔と、ついでに現われた守護の双刃

EPISODE12:「焼け焦げた助下筋」





 ルイズは目が点になった。

 キュルケも目が点になった。

 才人などは、唖然とした表情で口を開けたまま、その方向を見つめている。

 ケティが目元をこすり、タバサが眼鏡のレンズを拭った。二人は同時に改めて目線を送ったが、現実は変わらなかった。

 ギーシュは、あまりの事態に落ち着きをなくし、ジルバ・ダンスを踊り始めた。

 そして、褌の男こと桜坂柳也は、

「……やべぇ、やりすぎた!」

と、後悔の念強く、呟いた。

 一同が視線を注いだその先には、ぽっかり、と直径三〇センチほどの穴が開いた本塔の外壁があった。





 柳也達の姿を捉えると同時に中庭の植え込みの中に身を潜めていたフーケは、薄く笑みを浮かべた。

 何が起こったかは分からないが、とにかくチャンスだ。

 あの男が作り出した穴に向かって、エネルギーを送り込めば。

 フーケは呪文を詠唱した。長い詠唱だった。詠唱が完成すると、地面に向けて杖を振った。

 芝生に覆われた地面が突如として盛り上がり、そして……。

 土くれのフーケが、その本領を発揮した。





 穴の開いた壁を見つめる一同が、一斉に我に返るきっかけをもたらしたのは、柳也の鋭い声だった。

「ッ! 全員、この場から逃げろ!」

 突如として投げかけられた柳也の言葉に、一同は一瞬、呆けた表情を浮かべたが、やがて等しく顔面に驚愕の感情を貼り付けた。

 ゴーレムが。

 巨大な土のゴーレムが。

 こちらに向かって、歩いてくる!

 それも、かなりの速度で!

 ケティの悲鳴が上がった。

 タバサが素早く上空を旋回していたウィンドドラゴンを呼び、自分とキュルケを回収させた。

 柳也は咄嗟に、側にいたルイズとギーシュを抱えて地面を蹴った。神剣の力で脚力を強化し、跳躍。あっという間に地上十メートルの高空へと舞い上がる。

 才人は練習用の木刀を放り捨て、夢中でケティの方へと駆け出した。

 ゴーレムの進路上には、彼女の姿があった。

 一年生のメイジは突然の事態に腰が抜けてしまったか、ぺたん、とその場にしゃがみこんだまま一歩も動かないでいる。

 そんなケティに向かって、ゴーレムは無慈悲に、無感動に、肉迫した。

 やがてケティの頭上で、ゴーレムの足が持ち上がった。

「こっんのおおお――――――ッ!」

 才人は地面を思いっきり蹴って跳んだ。

 昔テレビで観たラグビーの試合をイメージしながら、ケティに向かって突進した。

 ゴーレムの足が落ちた。

 ドスン、と相当の質量が地面を叩く振動。

 間一髪。

 才人と、才人に突き飛ばされたケティは、その巨大な足を、間近にて茫然と眺めた。

「なんだ、あれは!?」

 いまだ上空に身を置く柳也の鋭い声が、夜気を裂いた。状況から顧みて、あれもゴーレムの一種なのだろう。しかし、こんな巨大なものまで作れるとは……!

 柳也の視線が、ゴーレムの肩に向けられた。

 そこには、ゴーレムの術者と思しきメイジが立っていた。

 柳也は慄然とした。

 黒いフードを目深にかぶったその人物は、柳也の方を見ると、何か呟いた。

 唇の形から意味を推測。

 件のメイジは、 柳也に向かって「ありがとう」と、呟いていた。

 穴の開いた壁に向かって、土のゴーレムが拳を打ち下ろした。





 フーケは、インパクトの瞬間、ゴーレムの拳を鉄に変えた。

 壁に拳がめり込む。鈍い音がして、壁が崩れた。黒いローブの下で、フーケは微笑んだ。

 フーケは土のゴーレムの腕を伝って、壁に開いた大穴から、宝物庫の中に入り込んだ。

 中には様々な宝物があった。しかし、フーケの狙いはただ一つ……。

【こっちだ……】

 不意に、頭の中にそんな声が聞こえた。

 年老いた男の声だった。フーケは、きょろきょろ、と辺りを見回したが、側には誰もいなかった。

【こっちだ……】

 また、声がした。

 フーケは声に誘われるままに足を動かした。不思議と、声の存在を疑うとか、声に逆らおうとか、そういった感情は生じなかった。それを不思議に思わない自分がいた。

 やがてフーケは、様々な杖が壁にかかった一画がを見つけた。その中に、二メイルほどの長さの杖が、鎖で壁に繋がれていた。飾りッ気の無い樫の木の棒の先端に、巨大な青い結晶体がはめ込まれている。フーケはその下にかけられた鉄製のプレートを見た。
 
『破壊の杖。持ち出し不可』

 フーケはますます笑みを深めた。

 フーケは躊躇いなく杖を手にとった。

【……そうだ。それでいい】

 また、フーケの頭の中に、声が響いた。

 先刻よりも強く、よりはっきりと。

 フーケの目の前で、青い閃光がはじけた。





【……ッ! 主よ!】

「分かっている!」

 ルイズとギーシュを抱えたまま地面に着地した柳也は、〈決意〉からの甲高い警告音に、反射的に穴の開いた本塔を睨んだ。

 夜の夜気に晒された身体が、小さく震える。

 背中に、滝のような冷や汗が流れていた。

 気付かぬうちに呼吸も浅っている。

 師の様子の変化にギーシュが「ミスター・リュウヤ?」と、訊ねた。

 柳也はそれには答えず、硬い口調で言った。

「ギーシュ君、ルイズ……いますぐ、ここから全速力で逃げろ」

「ちょ、ちょっと、それってどういう……」

「いいから! 早く逃げろ!」

 ルイズの言葉を遮って、柳也は言い放った。

 腹の底から、ありったけの気を、言の葉に載せる。

 数々の戦場を潜り抜けてきた男の、胆力を篭めた一喝を真正面から受け止め、ルイズは思わず腰を抜かした。ショーツにひんやりとした感触。どうやら僅かに失禁してしまったらしい。地面にへたり込んでしまった彼女は、そこで初めて、柳也が自分を「るーちゃん」ではなく、「ルイズ」と呼んでいることに気が付いた。

 柳也は二人に背を向け、腰の鞘から昨日プレゼントされた剣を抜いた。

 鈍い鉄の刀身は約七〇センチ。正眼に構え、ゴーレムを睨む。

 柳也は背を向けたまま、ギーシュに言った。

「……ルイズを頼む。正直、守りきれる自信がない」

 この気配。この重圧。なにより、どこまでも巨大なマナの気配。

 間違いない。あの壁の向こう側には、自分と同じ存在がいる。

 永遠神剣という兵器を、掌中に収めた存在が。

【ご主人様……このマナの量は……!】

 ――ああ。少なくとも、第五位の永遠神剣だ!

 柳也が断定的に呟いた次の瞬間、本塔の中から、膨大な量のマナが弾けた。

 壁に開いた大穴から漏れる光芒。

 己の肉体に寄生する相棒二人よりも先に、本能が……そして魂が、警鐘を鳴らした。

 柳也は眼を剥いて叫んだ。

「ギーシュ君! 早く、ルイズを連れて逃げろ―――――!!」

「は、はいッ!」

 怒声一喝。

 ギーシュはいまだ腰が抜けたままのルイズに素早くレビテーションをかけて引っつかむと、必死の形相で走り出した。

 次の瞬間、大穴の向こう側で途方もない熱量が発生した。

 いまだかつて感じたことのない高出力のマナを孕んだ炎の塊が、大穴から飛び出した。

 柳也達のいる場所に向かって。

 物凄い速さで。

 周囲の大気を焦がしながら、一直線に突き進んだ。

「〈戦友〉!」

【オーラフォトン・バリア、出力全開!】

 〈戦友〉の声が頭蓋に響き、柳也の前面に金色の精霊光の壁が生じた。

 柳也自身と、背後の二人を守るように。

 〈戦友〉のオーラフォトン・バリアは、出力を最大にまで上げれば、メガジュール・クラスのエネルギーを持つ対戦車砲の直撃にも耐えられる。この防御を正面から突破出来た相手は、いまだかつて悠人とアセリアの二人しかいない。

 柳也は、絶対の自信を持って、猛然と迫り来る熱塊と対峙した。

 そして、激突。

 桜坂柳也の誇る最強の防御壁は、一瞬にして、消滅した。

「ぐああああああああああ――――――ッ!!!!」

 柳也の口から、絶叫が迸った。

 身を焼く、圧倒的な熱量。

 炎の舌が、その身を取り巻く。

 熱い、という感覚はすぐに消滅し、同時に、痛い、という感覚も消滅する。

 ただ違和感が。

 細胞の一片々々を、肉体を構成するマナの一つ一つを、削られている、焼かれている、という違和感が、彼に悲鳴を上げさせた。

 肉の焦げる臭い。

 大地の焦げる臭い。

 大気の焦げる臭い。

 様々な異臭は、しかし、やがて消滅する。

 柳也の身を焼く炎は、秒とかからずにエネルギーを使い果たした。

 血に塗れ、炎に焼かれ、身体中のありとあらゆる感覚を奪われた男は、その場に膝を着く。

 浅い呼吸。

 高密度のマナで構成された肉体は、生命活動こそ維持していたが、その運動は微弱だった。

 心臓も。肺も。必死に命を繋ぎとめようとしていたが、危険な状態だった。

「へぇ……〈殲滅〉のコロナ・インパルスを受けてまだ生きているなんて……あんた、なかなかやるじゃないか?」

 その声を、柳也が聞くことはない。

 耳の奥から血を流す柳也は、すでに聴覚を失っていた。

 柳也以外の面々が、ゴーレムの肩に視線を向けた。

 土のゴーレムの肩には、再び、黒ローブのメイジが立っていた。

 その手に、青い結晶体を頂く杖を携えて。

「……土くれのフーケ」

 ウィンドドラゴンに乗って上空を旋回するタバサが、小さく呟いた。




<あとがき>

 今回は色々と怒られかねない内容だなぁ。

 どうも、読者の皆様おはこんばんちはっす。タハ乱暴でございます。

 ゼロ魔刃、EPISODE:12、お読みいただきありがとうございました。今回の話はいかがだったでしょうか?

 今回の話の読みどころはなんといってもかめはめ波。ええ、かめはめ波ですとも。

 かめはめ波に向ける男の情熱などを感じ取っていただければ幸いです。

 さて、次回はついにフーケとの戦闘です。永遠神剣を手にした彼女と、柳也達がどんな死闘を繰り広げるのか。少しでも楽しみにしていただけれるのなら、タハ乱暴、これ以上の喜びはありません。

 次回もお付き合いいただければ幸いです。

 ではでは〜




フーケが神剣を手に入れ、柳也もピンチ。
美姫 「と言うか、明らかに自業自得よね、これ」
まさか、柳也が壁を壊すとはな〜。
美姫 「まさか、ハルケギニアで神剣同士がぶつかり合う事になるなんてね」
ああ、次回が気になる。
美姫 「どうなるのかしらね。次回も待っていますね」
ではでは。



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