注)この話はHeroes of Heartに登場するオリキャラ……闇舞北斗のストーリーであり、本編開始前の外伝的内容となっております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――1972年7月20日。

 

 

 

 

 

 

……感じる。

常人では到底感知できないほどか細い気配だが、確かに威圧感と殺意に満ちた視線を感じる。

その数、およそ100人。1個中隊にも満たない兵力だが、相手の武装を考慮すると、実質的な戦力は軍隊のそれぐらいだろうか。

都市部から離れたこの廃工場ならば、銃声などに気遣う必要もなく撃ち合える。それこそ、爆弾を使っても車のバックファイヤー程度にしか思われないであろう。

しかも相手はこの廃工場がどんなものを生産し、どんな仕掛けがあるか、どこの地盤が緩いかなどを熟知している。

そんなのが100人。しかも銃で武装しており、味方は俺だけ。

状況は圧倒的にこちらが不利だ。

しかし逆に、都市部から離れているのならばこちらも気兼ねなく銃撃戦を行なえる。いざとなれば山に逃げることも可能だ。

配置されている連中は工場内に潜んでいる100人だけ。

それなりに高く険しい山に四方を覆われているので、ある程度敵を倒してから逃げれば、山の地形を生かして形勢を逆転すればいい。

山ならば、即席のトラップぐらいいくらでも作れよう。

 

「―――ふぅぅぅ……ふっ!」

 

気合と同時に、殺気が殺意に変わり、背後より1人飛び出してきた。

――武器は刺突用のナイフ。

刃風が唸り、俺の背後より迫る。

サイドステップでそれを躱すと、振り向き様にナイフを持った手を脇で締め、空いた手でナイフを奪い、延髄に突きたてる。

ビクンッ! と、震えて、男はうつ伏せに倒れる。

続いて今度は20人ばかりが拳銃を手に、前に出てきた。

 

“パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!”

 

音から察するに9mmパラベラム弾。

どうやら消音機具は取り付けられていないらしい。

すぐさま回避運動をとり、端へ、端へと逃げていく。

――と、突如として、目の前に3人の男が現れた。

どうやら挟み撃ちにしたいらしい。だが―――

 

「ふん……っ!」

 

10メートルほどの距離まで縮んだ瞬間、地を蹴って、爆発的加速で接近する。

音速を超える9mmパラベラム弾を躱しながら走っていたのだ。おそらく、先刻までの走りが俺の限界だと思っていたのだろう。

一瞬唖然として、3人の男は隙を見せた。

裏社会において、たとえ仲間であっても隙を見せるのは禁物だ。いつ裏切りに遭うか分かったものではない。

一瞬の隙をついて、戦闘服のベルトに引っかけられたホルスターからナイフとブレードを抜き、まず2人首を切断する。2つの屍がガクリと膝を着いて倒れる前に着地し、最後の1人の鳩尾を突き上げるように蹴る。

壁に叩き付けられ、背骨をやられたのだろう。男はピクリとも動かなくなった。

それをコンマ秒とかからず確認してから、膝を着いて倒れようとする2つの屍の首根っこを持って、例の20人が放った銃弾の盾にする。

骨が砕け、肉が引き千切られる音が響いて、辺りに血の臭いが漂い始める。

穴だらけになった盾を今度こそ捨てて、反時計回りに壁をつたい、物陰に潜む敵を殺す。

拳銃やライフルを使う必要はない。

鍛えられたナイフと、練磨されたブレードの二振りがあれば、それで充分だった。

飛び交う銃弾で同士討ちを誘い、爆発的加速で接近して刃を振るう。

こちらも拳銃は持っているが、弾丸がもったいない。

敵の持っているサブ・マシンガンやアサルト・ライフルを奪って攻撃をしていると、いつしか、廃工場には俺と5人の男がいるだけだった。

 

「な、なんなんだ! あの化け物は!?」

 

化け物とは失礼だなと思いつつ、死体に紛れ、気配を窺う。

うろたえる男達を眺めながら、俺は腰の Assassin に手をかける。

死体に腕を滑り込ませ、スライドを引く音を隠して、わずかな隙間から銃口を覗かせる。

視界は狭いが相手の位置は気配で分かっていた。

5人は5人ともボディアーマーを着ているようだったが、45ショッカー弾にはたとえ最高のレベル4の防弾性をも貫通する威力を有している。俺は躊躇いなくトリガーを絞った。

 

“バスッ”

 

内蔵された消音機構によって消された音。

トリガーを絞ると同時に、また死体の山の中を移動した。

 

「ああっ!!」

 

悲鳴が上がる。

男の1人が額に大きな穴を空け、手折れ込む。

残った4人が円を作ってライフルの銃口を向けるが、俺の潜む位置とはてんで見当違いの方向ばかりだ。

 

「くそっ! 一体奴はどこから……?」

「キースももう駄目だ。応援はまだか!?」

 

連中は『木を隠すならば森の中』という言葉を知らないらしい。

俺が死体の山に埋もれているとも知らず、連中は驚愕してばかりだ。

 

“バスッバスッ”

 

今度は二連発。その分少しだけ反応が遅れたが、見事敵には命中し、残るは2人となった。

――と、そこで俺は妙なことに気付いた。

気配が――

気配が1つ、増えている?

 

“プシュ! プシュ!”

 

炭酸が抜けるような男がして、何か黒い飛来物が2人の男を襲う。

それが機械のように正確に射出されたニードルだと気付いた時、2人はすでに絶命していた。

俺は全身の能力を五感に総動員して、ニードルを撃った主を探した。

意外にも、“彼女”はすぐに見付かった。

機械の駆動音が耳について離れない。

それこそ機械のように無表情で彼女は、なぜか瞳をライトのように輝かせ、辺りを照らした

 

「自動人形か……」

 

知らず、口に出して呟いていた。幸いにも、彼女は気付かなかったようだ。

――自動人形。

この世界にはロストテクノロジーと呼ばれる、過去に失われた未知の技術が存在する。

代表例で言えばノアの箱船がいいところだろう。

一般には聖書の中の、空想の産物と考えている人間が多いようだが、すでに〈ショッカー〉はその存在を確認している。

縦300アンマ(135メートル)、横50アンマ(22.5メートル)、高さ30アンマ(13.5メートル)という寸法で出来たあの船は、造船技術の黄金率(30:5:3)で出来ている。

あれも一種のロストテクノロジーなのだ。

自動人形もまた、そういったロストテクノロジーの産物である。

話によると、“夜の一族”と呼ばれる吸血種が隆盛を極めた時代……すなわち中世期に製造された人造人間であるらしい。

その性能は普通人の数倍から数十倍のパワーを発揮し、オプションを取り付けることで様々な機能を発揮するという。

今、放ったニードルもそういったオプション機能の1つなのだろうか。

なんにしろ、先刻まで戦っていた100人と同等、もしくはそれ以上の力を、あの女はひとりで保有していると考えられる。

俺もずいぶん高く見られたものだ。

 

「熱源センサー探知開始」

 

冷たい声が屋内に響いて、赤外線と思わしき赤い光線が女の瞳から放たれる。

死体と生者の体温の違いを調べているのだろう。徐々に光線がこちらに迫ってくる。

どうやらこのまま隠れているのも限界らしい。

 

「…………さっさと姿を見せておくか」

 

光線が目前まで迫ってきて、すぐさま俺は死体の山を掻き分けて這い出た。

ブレードを抜き、床へ蹴って一気に接近する。

彼女は俺が姿を見せた瞬間、センサーをライトに切り替え、素早く両肘から突き出すように備え付けられたブレードを展開した。

その機械的で正確な動きに感心しつつ、横薙ぎにブレードを振るう。

 

“ガキィッ”

 

金属と金属のぶつかり合う音。

俺の放ったブレードの斬撃は、彼女のブレードによるガードで阻まれていた。

なかなかの反応速度である。しかし―――

俺は空いたもう片方の拳で相手の肘関節を砕き、ブレードを持った方の腕を捻って、奴の片腕を切断した。

人間の皮膚に似せた軟質ゴムの下にある鉄の骨格が露わになる。

 

「!!」

 

あらかじめプログラミングされていた挙動なのか、女の表情が驚愕に染まった。どうやら、俺の動きが予想外のものだったらしい。

自動人形は所詮機械だ。中には限りなく人間に近い存在もあるらしいが、目の前の女は典型的前者のタイプと言える。

機械はプログラミングされた機能しか機能しない。イレギュラーに直面した場合、機械は機械として機能しなくなる。

もっとも、それは当然のことと言えた。柔軟な関節部分とはいえ、鋼鉄製の骨格を砕くだけの腕力を持つ人間など存在しようはずがないのだから……

だが、俺は人間ではない。

常人の数十倍のパワーをその身に有する、『改造人間』なのだ。

 

「フンッ!」

 

腕をしならせ、威力を増幅させて殴打する。

俺自身計測はしたことはないが、秒速25メートル近い高速から放たれる拳は、それなりに強力で、いかに自動人形の装甲であっても砕くことは可能だ。

右の拳で女の脇腹を抉り、左のブレードで残ったもう片方の腕を切断する。

やっと機能を回復させたのか、自動人形は人間では到底ありえないような反応速度で蹴りを繰り出す。

俺はそれをバックステップで躱し、距離をとった。

“バチバチッ!”と火花が散っている。さしもの自動人形も、両手をもがれては戦力の低下は否めない。

あとは煮るなり、焼くなり好きにすればいいだろう。もっとも、俺はそんな趣味はないので即座に倒させてもらうが。

 

「ハァッ!」

 

爆発的超加速で懐に接近し、ブレードを一閃する。

 

“ズバァァァァァアアアッ!”

 

機械ならではの駆動音と電流が唸った。

飛沫を上げるオイルが俺の頬を濡らす。

引火の危険性を考慮して、俺は即座に後退した。

 

「ああああああああ……?」

 

だが意外にも爆発することなく、可憐なる凶器はその機能を停止した。

 

 

 

 

 

俺は身を翻すと、廃工場を後にした。

まだ本来の任務が終了していないのだ。

今までの戦闘は本来の仕事において生じた副産物に過ぎない。

我ら〈ショッカー〉に仇なす中国マフィアも、これでしばらくは黙り込んでくれるだろう。

本日のターゲットの顔写真を思い出しながら、俺はピースを口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Heroes of Heart外伝

~漆黒の破壊王~

―――奪われた誇り―――

第三話「VS仮面ライダー」

 

 

 

 

 

 

 

 

――1972年7月26日。

 

 

 

 

 

「―――そうか。よく決断したな」

 

夏休みも真っ盛りの7月のある日、中間、期末と、両試験において壊滅的点数を取得した少数の生徒の追試験を終えて、闇舞北斗は進路指導室で1人の男子生徒と向かい合っていた。

少年の名前は柴崎哲夫。北斗が今年受け持つことになった三年生クラスの、言わばあぶれ者である。

もっとも、それはついこの間までの話で、今では教師の間でも評判の生徒なのだが。

 

「しかし族抜けとは思い切った決断をしたな。お前、この後大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないよ。俺、もしかしたらリンチされるかもしれない」

「仲間から抜けるとリンチか……まるでヤクザだな」

「予備軍だよ。ヤクザの道に入る奴、5人に一人なんだ」

 

哲夫は今年の春までとある暴走族に入っていた。

それは今も続いているのだが、この夏、ついに族抜けを決断したらしい。

 

「リンチって、袋叩きに遭うってことだろう?」

「殺されたって奴もいる。俺は見てないけどさ、殺したって自慢してるんだ。海に沈めたって」

 

北斗は複雑な表情を浮かべた。

自分もまた、一時期ヤクザの人間と関わりを持っていたが、もう10年以上前の話だ。

まだ、そんな連中がいたのかと、不思議な既視感にかられていた。

 

「誰がそんな事を?」

「西郷ってやつ。俺達の頭でさ、みんな気に食わねぇって思ってても、誰も逆らわないんだ。遣り合ったって、かなわないから」

「いくつなんだ、その西郷ってのは?」

「22」

「大学生なのか?」

「まさか。あぶれ者だよ。働いちゃ、辞めるってのを繰り返してる。そう遠くない日に、あいつヤクザだね」

 

どういう組織なのか、すでに北斗は見当をつけていた。

高校生の不良グループを、チンピラがいいように扱っているというものだ。

北斗はそういった組織をいくつも見てきた。臆病な不良が集まったグループで、結局喧嘩になるとそういったチンピラに頼ってしまい、最終的にはそのチンピラの言いなりになってしまうのだ。

 

「そのリンチだが、何時、何処に呼び出される?」

 

程度ということを知らない連中である。下手をすれば、本当に哲夫は殺されかねない。

しかし哲夫は首をフルフルと横に振って、

 

「駄目だよ、先生が来ちゃ。俺、先生には感謝しているんだ。いっぱい世話してくれたし、いっぱい迷惑かけた。だから、これ以上迷惑かけられないよ」

 

哲夫は俯いて黙った。傍目にも怖がっていることが伺える。

それは分かった。そしてそれを、克服しようともしている。

北斗は震える哲夫の肩をしかっりと掴んだ。

 

 

 

 

 

 

浜辺に8人の男が集まってきた。いかつい装飾やペインティングされた車が2台に、バイクが3台。

8人は哲夫を取り囲むと、口々に何か言った。哲夫はいきなり砂の上に土下座して頭を下げた。

その頭に、8人のひとりが足をかけ、哲夫の顔を砂に押し込んだ。まるで少年達に捕まった昆虫のように手足をバタつかせる。男が足を話して何か怒鳴った。

哲夫は顔の砂を払ってまた土下座を始めた。仰向けに、蹴り倒された。

跳ね起きた哲夫がまた土下座をする。頭を押さえて、砂に顔を突っ込ませる。

やっているのはひとりだけだった。

北斗は浜辺の傍にひっそりと茂る雑木林の中から、その様子を覗いていた。

ぐっと出て行きたい衝動を抑え、北斗は踏み止まった。

哲夫が無理矢理に引き起こされ、道路の方へと連れて行かれた。1台のバイクにエンジンがかけられ、跨った男と背中合わせに、哲夫は金属製のチェーンで縛り付けられた。

バイクが発進する。

この手のリンチは聞いたことがあった。暴走族がよくやるやつだったと、北斗は記憶している。

後ろ向きで跨らされ、カーブごとに左右に振られると、大抵は失禁して気を失うという。

派手にカーブを切り込みながら、バイクの姿が消えていった。海沿いの道はほとんどカーブばかりだった。

しばらくして、バイクが戻ってきた。

しかし哲夫は気を失ってはおらず、両足で車体を挟み込んで、自分の体を支えていた。

 

「もっとだ! スピードを上げろ。こいつはまだ死んでねぇぞ!」

 

喋っているのはひとり。他は全員黙って見ているだけだった。

遠くから聞こえてくるアイドリングの音が、やけに響いていた。バイクが発進する。

 

「死ぬまで、帰ってくんなよ」

 

男が唾を吐いて叫んだ。バイクの姿が視界から消え、反対車線から戻ってきた。

哲夫は両手両足をダラリとさせ、完全に気を失っていた。

 

「海に放り込め」

 

ひとりで喋り、命令をしているのが西郷という男なのだろう。

哲夫の体が海に放り込まれた。月光が注がれる中、哲夫の体が人形のように波に揺られ、漂っていた

水に落ちた哲夫は、しばらくして意識を覚醒させ、驚いたように経ちあがり、波打際まで駆け上がってくると、また土下座した。

 

「……よく、頑張ったな」

 

北斗が、雑木林の中から動いた。気配を悟られぬよう闇に紛れて近付く。

これで終わりだろうと、北斗は思った。

しかし、西郷は哲夫の体を蹴りはじめた。猫が鼠をいたぶっているような感じだ。

しかも、急所を狙っている。土下座したままの哲夫の体から、一発蹴られるごとに力が抜けていくのが見てとれた。

 

「やめろ」

 

男達が、ビクリと震えて北斗の声に振り向いた。

 

「これ以上やれば、そいつ、死ぬぞ」

 

闇を透かすようにして、西郷が北斗を見た。

月光に照らされた北斗の顔を見て、うっと西郷が後ろに退く。

月の光に照らされて、不気味に、そして鋭い光り放つ北斗の瞳は、西郷以外の少年達をその場に縫い付けた。

幾千もの生命を背負った男の、殺人者としての顔。

吃りながら西郷が吠えた。

 

「か、関係ねえ奴は、消えな」

「そうはいかない。やられているのは高校生だろう? ヤクザのリンチまがいな行為は止めておけ」

「なんだよ。邪魔しようってのか!?」

「いや、ただ、止めに来ただけだ」

 

この手の連中は人間の顔を覚える記憶力だけは素晴らしい。

特に、自分達に危害を加えようとするものならば尚更だ。

『助けにきた』という恰好はとらない方がいいだろうと、北斗は瞬時に計算した。ただ通り掛かりで、止めに入った。その方が後々尾を引かなくて済む。

その意図を察したのか、哲夫は何も言わなかった。哲夫は頭のいい少年だった。

 

「貴様らのために止めている。悪いことは言わない。人殺しになんか、なりたくはないだろう?」

「いま、みんなで殺そうとしてんのさ」

「お前だけ、いい大人だな。他の連中がガキだ。ガキを殺人の共犯にして、一生縛る気か?」

 

自分の発言、行動に自分で責任がとれる人間。それが本当の大人というものだ。

 

「いい大人が、考えたらどうだ」

「おまえな」

 

西郷が、北斗の方に2・3歩踏み出してきた。他の連中は遠巻きに見ており、ただ北斗だけが、西郷の足捌きに注意していた。

 

(―――喧嘩殺法。だが……少し空手が入っているな)

 

「俺達がおっかなくはねぇのかよ?」

「別に。貴様程度の人間を恐れていては、人生やっていけんさ」

 

心の中で、『俺達は世界を相手にしているんだからな』と付け加える。

 

「へえ。余計なことをするんならお前を先に殺し立っていいんだぜ」

「よせ。警察に捕まるぞ」

「死んじまえば、警察にゃ駆け込めないの」

 

西郷がさらに北斗の方へと近付いてきた。先刻までの震えはどこにいったのか、やけに威勢がいい。

しかし、すでに西郷は北斗の術中に嵌まっていた。

言葉巧みな話術によって先導され、西郷は恐怖心を戦闘意欲に代えていた。相手を逆撫でするように挑発し、かつ相手が図に乗るように仕向けさせる。人間心理に関しては専門外の北斗も、それぐらいのことは出来た。

 

「やめろ。やめてくれ」

「ここで怖がるんなら、はじめから余計なことを言わなきゃいいんだよ」

「止めただけだ。でなければ、そいつ、死んでしまうぞ」

「それが余計なことなの」

 

西郷の手が、北斗の胸ぐらに伸びてきた。2・3発は殴ろうというのだろう。

それで哲夫へのリンチが終わるのならば、北斗は黙って殴られるのもよいと思っていた。しかし、そんな保証はない。

西郷の拳が飛んできた。

拳を避け、腰を捻りながら肘を西郷の顎に打ち込んだ。同時に膝も軽く蹴っておく。

西郷の膝が、折れた。

 

「てめえ! この野郎!!」

「偶然だ、偶然」

 

北斗が、ニヤリと微笑んだ。

西郷の足がふら付いているのを、北斗は見逃さなかった。

 

「てめえを、先に殺してやらあ!」

「よせ。殴り合いをやってどうなる」

 

西郷が掴みかかってきた。そう見せながら、飛んできたのは足だった。

さすがに喧嘩には馴れている。が、馴れているだけで、威力もなければ速度もない。

それでも北斗はわざとそれを脇腹に受け、前屈みになって、西郷が追撃の拳を後頭部に落とそうとした瞬間に、軽く拳で鳩尾を殴ってやった。

前屈みになったのは、拳を隠すためとフェイントだ。

手加減しすぎたのだろうか。腹は押さえているが、うずくまりはしない。

北斗は、それでいいと思った。

 

「仕方ないな。殺すと言われては、俺も殺す気で自分を守るしかない」

 

北斗は構えた。取り巻きの連中は怯えて2人の攻防を見詰めるだけだ。なんとか、西郷との一対一に持ち込めたらしい。

西郷が何か言おうとした時、北斗は踏み込んだ。遅れて西郷も踏み込み、攻撃してくる。

拳。そして蹴り。

なかなかの威力ではあったが、踏み込みが浅く、威力が乗り切れていない。

北斗は余裕でそれを躱し、ボクシングのフリッカージャブの要領で右腕をしならせ、西郷の鎖骨を砕いた。同時に左手で西郷の鳩尾を殴り、インパクトの瞬間回転を加える。

―――コークスクリューパンチ。

かつて最強のパンチとして名をはせた拳を喰らい、西郷は盛大に吐瀉物を噴出した。

高校生達は、立ち竦んだままその光景を見詰めている。

鎖骨を砕かれ、両腕が使い物にならなくなった西郷に、北斗はさらに追い討ちをかけた。頭や顔は蹴らず、腰の辺りだけを狙って、軽く蹴る。

北斗には軽くでも、一般人からすればたまったものではない。

15・6発も蹴っていると、胃の中のものを全て吐き出して、ついには血まで吐き出しはじめたところで、北斗は西郷の体を引き摺って、顔を海水に浸らせた。

動かない手足をバタつかせようとして、北斗が押え込む。

ブクブクと水泡が上がり、10秒浸らせて、顔を離してやる。

 

「土下座できるか?」

「ど、土下座します。も、もうやらないで下さい」

「駄目だな。貴様はさっきそれをやったばかりだろう? 俺は、生き返ったお前に殺されたくはない」

「ま、待ってくださ―――」

 

再び顔を海に押し付ける。今度は5秒を長い15秒浸からせて、3秒休ませまた押し付ける。今度は20秒。回を重ねるごとに、5秒増やしていった。

1分になったところで、北斗は西郷を砂浜に仰向けにして倒した。

トドメと言わんばかりに股間を蹴って、北斗は口を開いた。

 

「君達はみんな帰るんだ」

 

北斗が、高校生達に言った。幸いにも、如月学園の生徒は哲夫だけで、北斗の足がつく心配はなさそうだった。

 

「彼は車か?」

 

ひとりが、怯えながら頷いた。

 

「なら、車を残していけ。いくらかでも根性が残っていれば、彼はひとりで帰るだろう。やられていた高校生は、俺が連れて行く」

 

手で追い払う仕草をすると、高校生達は一目散に雑木林の方へと駆け込んでいった。

しばらくして、エンジン音が交錯した。

哲夫が、まだ月光の中に立ち尽くしている。

北斗はスーツが濡れるのにも関わらず、バシャバシャと水を撥ねながら哲夫の元に歩いて、抱き締めた。

 

「よく、頑張ったな」

「先生…俺……」

「何も言うな。何も」

 

北斗は傷だらけの哲夫を背負うと、知り会いの病院へと向った。

哲夫は、

 

「俺、我慢したよ。最後まで、我慢しようとした」

 

泣きじゃくりながら、しきりに呟いた。

北斗は、スーツが濡れる感触を感じながら、何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

「―――それで、柴崎くんは大丈夫なの?」

 

心配そうな留美の言葉に曖昧な表情で答えてやる。

留美は、胸をほっと撫で下ろして俺が飲んだ湯呑みを片付けはじめる。

 

「それぐらい俺がやる」

「いいよ。ただでさえ兄さんは教職に裏の仕事って、疲れてるんだから。北京から帰ってきて、まだ1週間も経ってないじゃない」

「その分、給与はよくなったし優良待遇だ。あまり文句は言えんさ」

 

夕刊を1枚めくって答える。

留美は複雑な表情を浮かべて、「あんまり無茶しないでね」などと、有難い台詞を言ってくれた。

去年の春、〈参番〉……否、スレイブ・ガーランドの裏切りの際、死んでいったSIDE〈イレイザー〉のメンバー……すなわち、〈壱番〉、〈参番〉、〈十番〉、そして〈十二番〉の4人分、〈イレイザー〉内では変動が起きた。

まず俺が〈壱番〉……事実上、SIDE〈イレイザー〉の隊長になり、隊内のメンバーの身元の再調査が行なわれた。

当然のことである。

組織内で反乱分子が、それも一般戦闘員や技術者ならともかく、俺達〈ショッカー〉最強のSIDE〈イレイザー〉内から出たのだ。

それもただの反乱分子ではない。米軍と内通している、スパイだったのだ。

俺のように当初から身寄りがない者はともかくとして、怪しいと思わしき連中はみな締め上げられた。

結果は全員シロ。

しかし、あの一件が首領のSIDE〈イレイザー〉に対する信用を著しく損ねたのは確かで、俺達はそれこそ必死になって失われた信用を取り戻すべく職務をまっとうしてきた。

そうして1年が経ち、俺達SIDE〈イレイザー〉はようやく元の状態まで、否、それ以上に首領の信頼を勝ち取ることに成功していた。

先日、北京の中小マフィアが連合を組んだ時、俺ひとりで戦い、勝利したのもそういった一因になってくれれば助かるのだが。

 

「―――それで、例のパーティーはどうするの?」

 

不意に、留美が言った。

それまでの話を聞いていなかったため、話の概要が掴めない。

とりあえず、頭の中でパーティーという単語を検索してみる。

 

「……パーティーって、夏目先生が言っていたアレか?」

「うん。そう」

 

夏休みに入る前のことだったか。

夏目先生が突然、親族主催のパーティーを開くので、俺達にも来てほしいというのだ。曰く「身内だけのささやかなものですけど」だそうだ。

夏目先生の一族はとある事業に従事しており、その手の業界では夏目の名を知らぬ者はいないと言われているらしい。

夏目先生の父親もその事業に携わっており、一度面識はあるのだが、なぜか俺のことを高く評価してくれていた。俺が、どんな人間かも知らずに……。

 

「やっぱりパーティーなんだから正装で行かないとね」

「……行くというのはすでに決まっているのか?」

「勿論。あ、でも今からで間に合うかな?8月の初めって話しだし……」

「それは、必然俺も含まれるということなのか?」

「当然でしょ。他の人達はどうか知らないけど、光さんが来てほしいのは兄さんなんですからね」

 

年甲斐もなく浮ついている留美の姿を見ながら、俺は別のことを考えていた。

正直、パーティーなどガラではないし、気が進まない。

もっともそれは、夏目一族は〈ショッカー〉と繋がりがあるということからもきているのだが。

 

「兄さんは仕事着以外のスーツ、あったよね?」

「ああ。〈ショッカー〉御用達の、礼服にも簡易戦闘服にも使える奴がな。――となると、Assassinはどうやって携行しようか」

「……兄さん、あなたは何を持っていくつもりなんです」

「別段おかしなことではない思うが」

 

おそらく、警備員も〈ショッカー〉の息のかかった者達だろうが、万が一という可能性もある。

そう考えると、ここで個人的に株を上げておくのも悪くはない。

 

「バトルナイフを2本にツールナイフを大・中・小……スタン・グレネードと、液体爆薬も持っていくか? 予備の弾薬とワイヤーは……」

「兄さん? まさかとは思うけどそれって学校では……」

「安心しろ。学校ではポケット・ピストルにしている」

「…………」

 

絶句する留美を放置して、俺は新しいスーツを出しためクローゼットを開けた。

 

 

 

 

 

 

――1972年8月1日。

 

 

 

 

 

 

「……場違いだな」

 

ホテルのラウンジから夜景を背に、ひとり呟いてみる。

自分のような人間がこのように華やかな場に入ること自体異質だというのに、参加している面子を見るとさらに頭が痛くなってくる。

政財界の大物から様々な企業のトップ……よく見れば、〈ショッカー〉の幹部と警視庁の幹部が楽しそうに談笑しているではないか。

夏目先生曰く『身内だけのささやかなものですけど』とは到底かけ離れている。彼女の言う身内とは、知り会い全てのことを指していたのだろうか?

 

Which will you take, beer, wine or whisky ?

 

不意に、金髪の女性が声をかけてきた。

ホテルの係員と思わしき彼女は、いささか派手な衣裳でアルコールを勧めてくる。

しばし逡巡した末に、ワインを頼んだ。

グラスに琥珀色の液体が注がれ、口に含む。

遠巻きに酒の置かれたテーブルを見ると、テキーラやブランデーもある。

 

「……メスカルにすればよかったか」

「……虫入りのお酒なんてよく飲めるね」

 

上流階級の人々の波に揉まれ、ドレスを着た留美がふらふらとおぼつかない足取りで迫ってくる。

その少し後ろから、知った顔も一緒に歩いていた。頬が赤いのは、アルコールのせいだろうか?

 

「闇舞先生はテキーラがお好きなんですか?」

 

好意的な微笑みを浮かべながら、夏目先生がワイングラスを片手にやってくる。

 

「以前メキシコに行って偽物をつかまされまして。昆虫によく似た、小動物の赤ん坊でした。その腹いせですかね」

 

苦笑しながら答える。

あの時はメキシコに逃げ込んだ裏切り者の粛清のために行ったのだが、途中寄った街で、酒とは思えないようなものの洗礼を受けたのだ。

 

「アルコールはなんでも好きなので。ウォッカにスコッチ、あとコニャックなんかも飲みますね。夏目先生はどうなんですか?」

「わたしはお酒はダメなんですよ。体質的に弱いようで」

「それは……残念ですね」

 

酒が飲めないなど、人生の半分を棒に振るようなものではないだろうか?

 

「兄さん、なに世界が終末を迎える瞬間みたいな表情をしているの?」

「……そんな顔、していたか?」

「してました」

 

溜め息をつく留美。

――と、俺の視界にひとりの男性が留まった。男性は俺と視線を絡ませるとにっこりと笑顔を浮かべ、近付いてくる。

最初は夏目先生が目当てかと思ったが、違ったらしい。

 

「あなたが、闇舞北斗先生ですか?」

 

紳士的な物腰の男性はやはり俺が目当てだったのか、見ているこちらが爽やかな気分になる笑顔で尋ねてきた。

一応、俺の身長は187センチはあるため、俺が見上げるかたちになるということは、必然、この男性が2メートル近い長身であることを示していた。

 

「そうですが……あなたは?」

「申し遅れましたが私、光の父の夏目源三郎です」

「あなたが源三郎氏でしたか……いつも娘さんにはお世話になっております」

「いやいや、それはこちらの台詞です。いつも娘から聞いておりますよ、闇舞先生は素敵な男性だと」

「お、お父さん!」

 

赤面する夏目先生に穏かな視線を向け、源三郎氏は微笑を浮かべた。

 

「娘はフルートが得意でしてね。今度発表会があるのですが」

「是非、聞かせていただきたいものです」

「それはよかった」

 

その後も他愛のない会話を続け、源三郎氏はまた別の人々の方へと挨拶回りをしにいった。

 

「父がご迷惑を」

「いえいえ。そんなことは。それより、夏目先生は御一緒しなくてよかったんですか?」

「はい。仕事関係ではわたしより兄の方が詳しいので」

「お兄さんがいらっしゃる?」

「どんな人なんですか?」

「そうですね……身内の贔屓目を抜きにしても、誠実で勤勉な人だと思いますよ。わたしとは大違いです。歳は闇舞先生よりも2つ下なんですけど」

 

するとギリギリ戦中の生まれか。

などと冷静に分析していると、視界に見知った顔があって、驚愕した。

無論、表情には出さなかったが、内心はかなり動揺している。“彼女”は俺の存在に気付くと、ニコッと笑って近付いてくる。

正直、逃げたい気分だった。

 

「意外ですね。まさかホクトがこんな場所に来るなんて」

 

見ているこちらが憎らしくなるぐらいの笑顔を浮かべ、彼女……バネッサ・キースリングは母国語のフランス語で喋った。

夏目先生の手前、『好きで来たわけじゃない』という言葉をぐっと堪え、俺はグラスの中のワインを飲み干して、言ってやった。

 

「レディの誘いを断るわけにもいくまい。バネッサこそ、あまりこういった社交場は苦手だったんじゃないか?」

「苦手ですよ。でも、仕事ですから」

 

バネッサは表の世界ではフリーのSPをやっている。フリーとは、特に決まった警護対象がいないということである。

幼い容姿と女性ということもあって、大抵の敵は彼女を前にして油断し、トップスナイパーである彼女の射撃と、格闘術によって倒されてしまうため、業界ではちょっとした有名人だ。

こちらの業界において、見た目での判断は禁物ということを地で現わしている。

 

「本日はどちらの護衛なんだ?」

「夏目一族の夏目翔一市会議員の護衛です。わたし、最近じゃ夏目議員の専属なんですよ」

「……夏目市会議員はロリコンか?」

「失礼ですね」

 

年甲斐もなくぷっと頬を膨らませ、癇癪するバネッサ。

西洋人にしてはかなり低い身長で、さらに童顔ということもあって違和感はない。

あるとすれば、関係ないところで、その体型にスーツ姿はミスマッチすぎるといったところだろうか。

 

「いや失礼。……柄にもなくこんな場所に来てしまったせいか、どうやら、無意識下ではしゃいでしまっているようだ」

 

仕事以外でこういったパーティーに参加したのは何年ぶりだろうか?

成人式の翌日に行なった、高校の同窓会以来だったと記憶している。

 

「あの……」

 

不意に、おずおずと夏目先生が声をかけてきた。

 

「えっと、お知り会いなんですか?」

 

夏目先生は大学はドイツ語を専攻していたようだから、フランス語は分からないのだろう。顔いっぱいに疑問符を浮かべ、俯き加減に聞いてくる。

留美にいたっては日本語以外の言語に対してアレルギー症状にも似た拒絶反応をもっているためか、これが漫画ならば頭から黒煙を吹き出すほどにヨレている。

 

「ええ、まぁ……」

 

言葉を濁して曖昧に答える。

まさか、『同業の殺し屋です』などと言えるはずがない。

逡巡していると、バネッサが2人はフランス語が分からないと察し、ひとつ咳をして、少し発音の変わった、とはいえスラスラと日本語で話し始める。

 

「バネッサ・キースリングです。ホクトとは古くからの知人で、彼がフランスに滞在していた時に知り合ったんですよ。本日は、夏目翔一さんに呼ばれてこのパーティーに参加させてもらっています」

「ああ……そうなんですか」

 

何故かほっと胸を撫で下ろし、安堵の息を夏目先生はつく。

すると今度は控えていた留美と夏目先生が、それぞれ自己紹介を始めた。

 

「夏目光です。闇舞先生とは同僚で、同じ社会科を担当しています」

「闇舞留美。北斗兄さんの妹で、夏目先生や兄さんと同じ学校で数学の教師をやってます」

 

それぞれ握手を求め、バネッサもそれに応じる。

3人が3人とも年下のせいだろうか。俺はどこか保護者の気分でその様子を覗っていた。

留美はバネッサが〈ショッカー〉の人間であることを察したらしく、チラリと俺を一瞥して、再び視線をバネッサに戻した。

 

「―――それにしても闇舞先生。先生は色々な所に行ってるんですね」

「ええ、まぁ…」

「よくよく考えてみれば博識だし、いろんな言葉知ってるよね」

「そうですね。わたしの知る限りだと英、日、露、仏、伊、独、中、朝、ポルトガルにポーランド。あとは……」

「チェコとベトナム、モンゴル語と……あとアラビア語も話せたよね?」

「――と言っても、大部分は使わない知識だがな」

「いえ、14ヶ国語話せる時点で充分だと思います」

「東京外国語大学が何ヶ国語だっけ?」

「26ヶ国語だったと記憶しているが……」

「……どこにそれだけの知識が入るんですか?」

「脳の容量はみなと大差ないと思うが」

「じゃあ、どれだけ生きたらそんなに憶えられるんです?」

「どれだけ生きたら…………って、バネッサは俺と5つしか変わらんだろう」

『えっ!!』

 

突然、夏目先生と留美が素っ頓狂な声を上げた。

何事かと振り向く何人かに愛想笑いで何でもないと答えてやる。

どういうわけか絶句している2人を見て、バネッサが首を傾げた。

やがて、いち早く立ち直った留美が、

 

「……ば、バネッサちゃんって、今、24?」

「はい、そうですよ」

「て、てっきり中学生ぐらいかと思ってました……」

 

今度は夏目先生だ。

しかし、復活した2人とは対照的に、バネッサは夏目先生の容赦なき一言を食らって、2歩3歩とあとずさった。

相当なショックを受けているらしい。まぁ、無理もないことだろう。

自身の童顔、そして幼児体型は、バネッサにとってコンプレックス以外のなにものでもない。それを今日初対面の相手に、かつストレートにその一言を浴びせられたのである。

まるで鳩尾に強烈なブローを食らったボクサーのように、よろめいている。

やがて、隅の方まで行って、

 

「ど、どうせわたしなんて……」

 

……ヘコんだ。

教員としては見過ごせない光景。

見た目中学生な少女が、高級そうな絨毯でのの字書きを始めてしまった。

〈ショッカー〉最強のトップスナイパーも、こうなってしまってはどうしようもない。

 

「お酒…美味しい……」

 

ついには自棄酒まで始めてしまった。

バツの悪そうな留美と、オロオロとする夏目先生を苦笑しながら宥めて、俺はバネッサの元へと歩み寄った。

 

 

 

 

 

――1972年8月2日。

 

 

 

 

 

 

「…………あれからどうなったんですか?」

 

生まれたままの姿で毛布に包まりながら、バネッサが頭を抱えて言った。

隣りでこれまた上半身裸の俺は、昨日の後遺症がないか確かめながら答える。

 

「べつにどうも。泥酔したお前に代わって俺が翔一氏の護衛をやって、お前の借りているホテルまで担いでいったらお前に泊まっていくことを勧められた。ただ、それだけだ」

「いえ、わたしが言いたいのはそうでなくて、なんでわたし達は、その…裸なんですか?」

「言ってやろうか?」

「……いいです」

 

『意地悪ですよ』なんて頬を膨らませるバネッサに苦笑しつつ、俺はのろのろとベッドから立ち上がり、冷蔵庫の中からミネラルウォーターをグラスに注いで、バネッサに渡す。

バネッサは未だ紅い頬に触れながら受け取った。

必然両手が塞がってしまい、巻いていた毛布がずれてしまう。

 

「……っ!」

 

さすがは〈イレイザー〉のトップスナイパー。

機敏に動いたかと思えば、もうミネラルウォーターを飲み干し、毛布を支えている。

 

「見ました……?」

「昨夜さんざん見せておいて何を言うか……」

「それとこれとは話が別ですっ!」

「安心しろ。20代でもまだまだ成長する人はいる」

「大きなお世話っ!」

 

実戦でもそうそう感じないほどの殺気を放って、バネッサは怒鳴った。

さすがに朝は声が頭に響く。

少しばかりの頭痛に悩ませられながら、俺は着替え中のバネッサに変わってフロントにルームサービスを頼んだ。

係員が朝食を持ってきて、皿を並べる。当然ながら、バネッサの分しかない。

俺というイレギュラーを不信げに係員は見ていたが、チップを払うと一転してニコニコと去っていった。

バネッサの宿泊しているホテルは外人向けの高級ホテルで、昨日のパーティー会場とは別の場所だ。当然、相手が外人だということを知っているので、チップの支払はエチケットのひとつとなっている。

 

「ホクトはご飯、どうするんですか?」

「外で適当にな。……というより、まだ留美に連絡していなかった。電話、借りていいか?」

「どうぞ」

 

まだ世間ではあまり流通していないプッシュホンを押して、自宅へと電話をかける。

聞き慣れたベル音ではなく、明らかな電子音がして、突如、プツッとそれが途切れた。

 

『はい、闇舞です』

「留美、俺だ」

「兄さん!? ちょ、ちょっと昨日は何処行ってたのよ!!」

『すまん。あれからバネッサの部屋で世話になっていた』

 

俺は手短にバネッサが〈ショッカー〉の同僚で、同じ部隊に属しており、昨夜のパーティーの護衛をしていたことを話した。

最初こそ喚くばかりだった留美だが、徐々に落ち着きを取り戻し、一通りの話をした時にはずいぶんと余裕が生まれていた。

 

『じゃあ、今日はちゃんと帰ってくるのね?』

「ああ。仕事さえなければ……な。だから朝は適当に食べてくる」

『うん、分かった』

「すまんな」

『ううん。いいよ。あ、それよりもバネッサさんと何かなかったでしょうね?』

「……………………なかったぞ」

『なにっ!?今の2.67秒の間は!!』

「じゃあな」

『あ!ちょ、ちょっと兄さん!少しはわた―――』

 

言い終える前に電話を切る。

見ると、バネッサはもう朝食を食べ終えていた。

 

「ありがとう」

「どういたしまして。それで、これからどうするんですか?」

「とりあえず、立ち食い蕎麦か何か食べてくるさ」

 

言って、部屋を出ようとした瞬間、右手にチクリと痛みが走った。

 

「……っ」

 

それはバネッサも同じだったようで、左手首を押さえながら顔を顰めている。

俺は右手首に巻かれた腕時計に視線をやった。

見た目は盤面にいくつもの仕掛けが備えられたスピードマスターだが、それは偽装である。

この腕時計こそが、俺達と〈ショッカー〉を繋ぐ小型通信機なのだ。先刻のチクリという痛みは、通信を受信したサインである。

左利きの俺は右手に、逆に右利きのバネッサは左手に巻いた腕時計は、形状こそ違うものの、内部構造はどちらも同じ物だった。

バネッサと視線を交差させ、頷き会う。

通信回線用の極小スイッチを操作して、受信した通信を再生する。

 

『SIDE〈イレイザー〉〈壱番〉から〈十三番〉の全員、ただちに日本支部に集結せよ。繰り返す。SIDE〈イレイザー〉メンバーは全員、ただちに日本支部に集結せよ』

 

バネッサも俺も、互いに驚愕の表情を浮かべていたに違いない。

俺とバネッサは互いに顔を見合わせ、それを確認すると、同時に動き出していた。

 

 

 

 

 

 

――1972年8月4日。

 

 

 

 

 

 

いつものように招集がかかってから2日経ってやってきた〈弐番〉と合流したSIDE〈イレイザー〉は、〈ショッカー〉日本支部の司令室に集結していた。

みな一様にして額に汗を浮かべ、緊張を露わにしている。

鷲のレリーフの前で跪く彼らを代表して、〈壱番〉がおそるおそる立ち上がった。

 

「SIDE〈イレイザー〉、〈壱番〉以下13名、集結しました」

 

すると〈壱番〉の声に反応してか、彼らが跪き、崇めるように控えていた鷲のレリーフの心臓部にあるランプが紅く点滅し、どこからか声が聞こえてきた。

 

「うむ、全員居るようだな」

 

背骨に麻酔無しで針金をぶち込んだかのような痛みと恐怖感。

知らず、みなの背筋が伸びていた。

〈ショッカー〉の支配……それはすなわち、恐怖で相手を拘束するということである。

恐怖とは、人間の持つもっとも原始的な感情のひとつだ。否、本能と呼ぶべきかもしれない。ゆえに“それ”が有する力は莫大で、利用すればそれはとてつもない拘束力を有する、支配の象徴とも使える。

SIDE〈イレイザー〉は優秀な兵士ばかりが揃った部隊だった。

ゆえに、彼らは知っているのだ。

人間の持つ、恐怖という“ソレ”が有する力の強大さを。

だからこそ、それを自在に操る〈ショッカー〉の存在に恐怖すると同時に、彼らは畏敬の念を抱いているのだ。

〈ショッカー〉内でたびたび見られる反乱分子とは、そういった拘束力に抗おうとした者達だった。

 

「諸君に集まってもらったのは他でもない。私、諸君らの言う偉大なる支配者〈ショッカー〉が、この日本の地で、直々に任務を与える」

 

その言葉の意味する事の重大さに、〈イレイザー〉は表には出さなかったが、全員が動揺していた。

〈イレイザー〉は、言わば〈ショッカー〉最強の戦闘員から構成される特殊部隊、つまり、〈ショッカー〉最強の戦力である。

個人によって専門分野は別れるも、基本的な戦闘能力は高く、例え怪人相手でも後れを取る事はない。特に現在の〈壱番〉は、『スレイブの乱』にて得た、先代〈壱番〉の遺産もあり、たったひとりで数百人規模の組織を壊滅させたりと、数々の偉業を成しているほどだ。

ゆえにそれだけの実力を持つSIDE〈イレイザー〉の全員が、一同に会すということは、通常では起こりえない。

強すぎる力ゆえに常になんらかの役目を与えられ、それに従事している者がほとんどなのである。

過去の前例ですら、10人の集結が最高なのだ。

そして、その過去に前例すらない出来事が起きている。それはつまり―――

 

「我々〈ショッカー〉存続の危機が迫っている。諸君らも知ってのとおり、“あの男達”の仕業でな」

「―――では、“あの者達”の討伐に、我々を投入なさるおつもりで……」

「うむ。しかしそれもあるが、諸君らには同時にやってもらいたいことがある」

「やってもらいたいこと?」

「そうだ。昨夜、その準備は済ませておいた。あとは組み立てるだけなのだ」

 

組み立てる……ということは、何かの装置なのだろう。

〈壱番〉は推理した。そして、自分達に与えられるであろう任務の内容、そして事の重大さを理解した。

 

「首領は“アレ”を“あの者達”に投入するおつもりなのですか!?」

 

〈イレイザー〉13人をして、それに気付いたのは〈壱番〉だけだった。

突然大声を上げた〈壱番〉に、他の12人が驚く。

 

「察しがいいな〈壱番〉。そうだ。我々〈ショッカー〉の科学陣が開発した、核兵器をも上回る戦略兵器……プラズマ破壊砲を。我ら〈ショッカー〉に仇なす怨敵、仮面ライダーに行使する!!」

 

物質には大きく3つの状態が存在する。

言うまでもなく、エネルギーの低い順に、固体、液体、気体の3種類である。

酸化水素で例えれば、氷、水、水蒸気だ。

これをミクロ・レベルで見れば、水分子がきっちりと並んだ状態から、徐々に流動的になり、最後には飛び散っていく段階を示している。

だが、水蒸気の状態からさらにエネルギーを高めると、当然、水分子が破壊され、水素と酸素の原子に別れ、さらに原子を構成する原子核とその周りを公転する電子までもがバラバラになってしまう。

物理学において、この状態はプラズマと呼ばれる。当然、エネルギーは気体の状態よりもはるかに強力で、一般には蛍光灯などで使われている。

プラズマ破壊砲とは、電子レンジと同じ原理でマイクロウェーブを照射。人間の体内を、プラズマにさせる超兵器なのだ。

当然ながら構成物質上、人体は内側から崩れ、また、人間の繊細な体がこのプラズマ異常とでも呼ぶべき現象に耐えられるはずもなく、絶命してしまう。

例え機械の塊である改造人間でも、長時間照射すれば機械部分が崩壊するし、また短時間の照射でも、改造人間の体内を駆け巡る血液などがプラズマ化し、結局は死亡する。

この超兵器の威力から逃れる術は……ない。

 

「いかに仮面ライダーとて、このプラズマ破壊砲の前では無力に過ぎん。仮面ライダーも改造人間……血液で動いている。血液が消滅すれば、体は動かず、いずれ脳も死に至る。すでにプラズマ破壊砲の部品は〈ショッカー〉秘密工場に運び込んである。SIDE〈イレイザー〉はこの工場の護衛。装置完成後、協力者、立花藤兵衛もろとも塵と化させるのだ!」

「誰だっ!!」

 

不意に背後より気配を感じ、〈壱番〉が唸った。

振り向き様にスライドを引いたAssassinの銃口を向け、その気配の正体に告げる。

 

「出てこい。FBIの犬がっ!」

 

“バッバッバッバッ”

 

新たに改良された消音器具で消された銃声が鳴って、白い壁を貫く。

一瞬で白いカンパスは朱色に染まり、すぐそばの死角から、先刻の射撃で負傷したと思わしき右手を押さえた、深緑の戦闘服を着た男が出てきた。

北斗は、5メートルはあろうかという高さを跳躍し、男の元まで近寄った。

すでに他の〈イレイザー〉も陣形を組み、男を取り囲んでいる。

破れた男の胸ポケットから、『FBI』と記された手帳が落ちた。

 

「くそっ!俺を殺しても無駄だぞっ!通信が途絶えれば、すぐに“滝さん”達が気付いてくれる……。仮面ライダーは、すでに〈ショッカー〉秘密工場の場所を知っているんだ!!」

「よく吠える犬だこと」

 

バチバチッと、高圧電流が流れているであろう奇妙なメリケンサックを嵌めた〈伍番〉が妖艶な笑みを浮かべた。

〈壱番〉はゆっくりとした動作でブレードを抜き、男の喉元に刃を触れさせる。

 

「……貴様がどれだけ喚いたところで、状況が代わるわけでもあるまい」

「うぅっ!!」

「死ね」

 

つつっと、〈壱番〉がブレードを滑らせた。

頚動脈を切断された男は、ビクビクッと体を跳ねさせ、絶命した。

ブレードの血を拭い、男の服を脱がせる。用心深く男の服を剥いでいくと、案の定、盗聴機があった。

〈壱番〉はそっと手に取ると、見せ付けるように潰してやる。

〈壱番〉は向き直り、鷲のレリーフに向って叫んだ。

 

「事態は一刻を争うようです。首領、SIDE〈イレイザー〉はただちに任務を開始します」

 

 

 

 

 

 

深夜。

草木も眠る丑三つ時ではないが、世界が暗転して闇に染まったそんな時間。

〈壱番〉は、組立作業の行なわれるプラズマ破壊砲を眺めながら、様々なことを考えていた。

 

(……留美は怒っているだろうな)

 

考えただけで、陰鬱な気分になってくる。

非常収集のことは留美には話していない。ただ、急に仕事が入ったと伝えただけで、もしかしたら今夜、死ぬかもしれないなどとは告げられなかった。

〈イレイザー〉の全員が集まるということは、つまり、そういうことなのだ。

――と、不意に右手にチクリと痛みが走った。

漆黒の戦闘服に合わせて、光の反射を考慮した特殊金属で作られたスピードマスターである。

端末を操作し、回線を繋げる。

 

『こちらDブロック、異常ありません』

「了解。プラズマ破壊砲の作業終了までもうしばらくかかる。気は抜くなよ」

 

十重二十重と張られた防衛ラインの最終段階に〈イレイザー〉は配置されていた。

最後の砦という意味もあるのだろう。

屋上で監視を続けている〈四番〉以外のメンバーは、直接工場の守りに就いている。

〈壱番〉は、敵の襲撃に備え、警備室で監視カメラを見ていた。

工場の内部は勿論、周辺の半径1キロ内に、20m間隔で設置された1000基近い数の映像が送られてくる。

〈壱番〉は、驚異的な動体視力を用いてそれをひとつひとつ点検していった。

単純な作業ではあるが、1000基分の映像を1分内にチェックするというのは、もはや人間の領域ではない。単純に計算して、1基につきコンマ06秒しか見ることが出来ないのだ。

その短い時間の間に映像の全体を把握し、細かい箇所をチェックする。

肉体的疲労と精神的疲労の両方がかさむ、過酷な作業であった。

しかし、決して〈壱番〉の集中力は途切れなかった。敵はこちらが気を抜いた時にくる……!〈壱番〉は、戦いの中でそのことを知っていた。

――と、その時!

 

「――――っ!?」

 

脳内に鮮明なビジョンが流れ始める。

〈壱番〉の、予知能力が発動したのだ。

 

(ポイントB-4……バイクの排気音……紅いマフラー……!)

 

〈壱番〉の行動は迅速だった。

通常、〈壱番〉は予知能力を自在に操る事が出来る。

どんなに優れた武器も使いこなせなければ意味がないのと一緒で、当然のことなのだが、先刻の予知は咄嗟の発動だった。

予知能力は……一般に虫の知らせと言われる、人間の第六感能力の延長線上にあると言われている。ゆえに、無意識下で突然、予知能力が発動した場合、それは意識外での危険が迫っていることを示している。

 

「チィッ!」

 

ポイントB-4を警備していた戦闘員達に通信を試みるも、上手く繋がらない。

監視カメラモニターを一旦見て、すぐに付近の部隊の要請をした。

 

(もし相手が仮面ライダーなら……Oシグナルで監視カメラの位置など把握しているはずだ!)

 

漆黒の戦闘服をしっかりと着直し、武装のチェックをする。

しながら、〈壱番〉は特殊性のスピードマスターに向って言う。

 

「〈十一番〉、〈十三番〉……ポイントB-4との通信が途切れた。付近の連中に向わせたが、相手が相手の可能性もある。頼むぞ」

 

〈十一番〉は潜入偵察に長け、〈十三番〉は先代〈十二番〉同様感覚能力に優れている。

秘密工場の周辺は平原なので、ある意味適任とも言える人選だった。

〈十三番〉が敵の気配を探り、草に隠れて〈十一番〉が接近し、攻撃する。

このコンビネーションに敵う相手など、そうそうは居ない。〈壱番〉はそう踏んでいた。

だが同時に、彼は不安にも苛まれていた。

 

(だが……相手は仮面ライダーだ)

 

――自分が行かねばならない。

そう決意して、〈壱番〉は警備室のパイプ椅子から立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

「これは……」

 

〈十一番〉達に遅れてやってきた〈壱番〉は、2人の死体を見て息を呑んだ。

両手を合わせ、祈ってから2人の死体に触れる。早くしなければ、証拠隠滅用のプログラムが働いて死体が溶けてしまう。

死因は2人とも数十トンクラスの打撃系攻撃による内臓破壊。

また、死体に激しい損傷がないため一撃の下に倒されたと考えるべきであろう。

込み上げてくる怒りを必死で抑え、〈壱番〉はなおも死体を検証する。

やがて、〈壱番〉の考えは確信に変わった。

踵を返し、全速力で工場へと向う。

感覚能力の優れた〈十三番〉が敵の接近に気付かなかったとは考えにくい。おそらく、気配を探っている最中に奇襲されたのだろう。しかし、死因は2人とも打撃系攻撃。接近されて始めて成立する攻撃だ。

考えられるのはひとつである。敵は〈十三番〉以上の感覚能力を以って、自分の居場所を巧妙に隠していたのだろう。

夏の深夜、虫達の囀り声が大きいため、襲撃者の体内活動の音など分かるはずもない。

敵は先代〈十二番〉を上回る感覚能力と繊巧能力、そして〈弐番〉を上回る攻撃力を持った改造人間と考えられる。

そして、〈壱番〉の知る中でその条件をすべて満たしている改造人間は、2人しかいない。そのどちらかだという可能性は高った。

証拠隠滅プログラムで液化していく2人の死体を背中で感じながら、〈壱番〉は最悪の事態を恐れた。

SIDE〈イレイザー〉の全員が揃うという事は……つまり、そういうことなのだ。

 

 

 

 

 

 

目の前に映るは紅蓮の炎。建物全体を巻き込んで燃え盛る炎は、まるで世界の終末を予感させる。いや、もしかしたら、この炎は俺にとってのラグナロクを告げているのかもしれない。

かつて魔神スルトによって焼き尽くされた、地上世界。

この分ではプラズマ破壊砲はもう壊されてしまっただろう。

炎の中では懸命な消火作業が行なわれているようだが、それすらももう無意味だ。

気配を探る。

建物の中と外に、〈イレイザー〉の5人分の気配を感じられた。他は全滅したらしい。

俺は歯茎から血が滴るほどに噛み締めた。

 

“サンッ”

 

炭化した草木を踏み締める音。〈イレイザー〉のものではない。

〈イレイザー〉はこんなヘマはしない。

 

「プラズマ破壊砲は壊させてもらったぞ」

 

仮面を着けたそいつは言った。

体の中で、とても言い表せぬようなどす黒い感情がふつふつと込み上げてくる。

灼熱のようなそれは、熱波となって襲う炎よりも熱く感じられ、俺を芯から焦がすような気すらした。

俺は無言のうちにブレードを抜く。

仮面の男は足を開き、姿勢を低く構えた。

 

「あきらめて降伏しろ」

 

全身の神経を研ぎ澄まし、あらゆる情報を収集し、プランを立てる。

周辺の地形。

大気の流れ。

装備。

敵戦力。

 

「……嫌だと言ったら?」

「残念だが、これ以上〈ショッカー〉の被害者を増やすわけにはいかない。悪いが、死んでもらう」

「そうか……」

 

小細工は通用しない。

その場しのぎのトラップや作戦も同様だ。

かといって綿密かつ緻密な作戦を考える余裕などない。

答えは単純明解。シンプルすぎて、自分でも笑えてくる。

 

「なにが可笑しい?」

「さて……な」

 

ヂリヂリと縮まる距離。

他の武器も、いつでも即座に取り出せる状態だ。

 

(あと一歩……)

 

あと一歩分の距離で、間合いは完璧となる。

その一歩を、奴は踏み出してくれた。

 

「うおおおおおおおおっ!!」

「トォッ!!」

 

気合と共に地を蹴り、互いに跳躍する。

俺はブレード。

奴は白銀の拳。

それぞれ使うものは違えど、考えは同じだったらしい。

 

「我が牙、喰らうがいいっ!」

「ライダァアアアパァ―――ンチ!」

 

そして俺達の攻撃はそれぞれ交差して、互いの身を引き裂いた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ついにこっちまで進出した対談形式あとがき~

タハ乱暴「(見ているこっちが不快になる笑顔を浮かべて)あやうく北斗を犯罪者にしてしまうところだった」

真一郎「うわっ、話の雰囲気ぶち壊し」

タハ乱暴「まぁ、いいじゃないか。実際犯罪者だし(ボソッ)」

真一郎「え?」

タハ乱暴「まぁ、いいじゃないか!」

タハ・ランボー「そうだそうだ」

真一郎「…………どなたですか?」

タハ・ランボー「俺はタハ・ランボー! タハ乱暴の軍事オタク的知識の集大成だ!」

タハ乱暴「ちなみにタハ乱暴は特撮系知識の集大成」

真一郎「もうどうにでもなれっ!!」

タハ・ランボー「次の戦争では勝っていいのか?」

真一郎「そっちの『ランボー』かよ。……っていうか次の戦争って?」

タハ乱暴「外伝第四話♪」

真一郎「そう言えば、今回外伝で初めての引きだな」

タハ乱暴「ですねぇ。〈ショッカー〉の話なのに、やっと仮面ライダーが出てきて……」

真一郎「次回、戦闘か?」

タハ・ランボー「ガンホー! ガンホー!」

タハ乱暴「彼のことはほっといて、次回は全編に渡って戦闘です!中休みもありますが、戦闘ばっかです! そして、驚愕の事態が!!」

真一郎「自分で驚愕って言うなよ」

タハ乱暴「外伝第三話、お読みいただきありがとうございました!」

真一郎「次回もまた!」

タハ・ランボー「ガンホー!ガンホー!」

タハ乱暴「…………(カチャカチャとベレッタにマガジンを篭めている)」

真一郎「…………(カチャカチャとパイソンを組み立てている)」

ラハ・ランボー「ガンホー! ガン! ぐはあッ!! …………は、計ったなシ○ア!!」

真一郎「お前の父上が悪いのだよ」

タハ乱暴(お父さん)「では、また次回」






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