注)このSSは独自の設定に基づいて構成されています。原作とはまったく違う設定で書かれておりますので、そういったものが嫌いなお方はプラウザの『戻る』を押して下さい。それでも読んで下さる奇特な方は、どうぞ下へとお進み下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テレビを見る時は部屋を明るくして離れて見てね(笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――2月下旬香港・啓徳空港――

 

 

 

 

 

世界でも屈指の離着陸困難な啓徳空港は、繁忙期以外は時間帯によって入国地のチェックが素通り同然になってしまう。

無論、その際に起きるハイジャックなどのテロリズムを考慮して、世界中の対テロ組織が多用するドイツ製サブマシンガン……H&KMP5Kで武装した兵士が、2人一組となって構内を巡回している。

しかし、犯罪とは不思議なもので、警備体制を万全にすればするほど、何故か起きてしまうものだ。

ならば、先日完成した新空港を利用して、啓徳空港は廃港にすればいいのでは?――という考えもあるのだが、そう簡単にいかないのが世の中だ。

新空港建設にかかった費用で経営は赤字。新空港が四苦八苦している状況下、金のかかる空港取り壊しなどは出来ない! ……というのが、経営者側、ひいては政府の言い分だった。

その日、案の定というか、啓徳空港にて事件が起こった。

件そのものの規模はさして大きいものではなかったのだが、それがテロであったのがまずかった。

その連絡は中国政府が誇る超法規的組織『香港警防隊』にまで渡ってしまい、本部で待機していた第一部隊の面々……陣内啓吾、御神美沙斗、そして第六部隊の副隊長である御剣弓華が調査にあたるはめになってしまったわけである。

もっとも、事件の規模が規模だっただけに、調査といってもさして大々的には行なわず、立った数時間ばかりで終わるようなものだったのだが……。

帰り道、もはやタクシーもバスも通らないような時間、3人は都市部まで歩くこととなった。

 

「まったく! 人騒がせな人達です」

 

宿舎に入り、今にも寝ようとしていたところを叩き出されて不機嫌な弓華が愚痴をこぼす。

前回の仕事が終わればしばらく有給を取って、日本にいる夫に会えると思っていただけに、その怒りは深そうである。

 

「まあまあ、事件もたいしたことはなかったし、それでいいじゃないか」

「でも! せっかく気分良く日本に帰れるかと思ったのに……」

「火影さん……だっけ?旦那さんの名前は……」

「ハイ」

「国際空軍極東支部の特殊機関シノビ、航空部隊『蔡雅』。火影君はそこのファイター・パイロット兼諜報員だよ」

「パイロット兼諜報員?」

「火影君は蔡雅御剣流の忍者でもあるんだ」

 

啓吾の言葉に弓華が頷き、美沙斗が『ほう…』と相槌を打つ。

厳密に言えば、香港警防隊は国際空軍の下部組織ではない。

元々、地球防衛軍から脈々と続く国際空軍とは、国際連合の多国籍軍が、正式に軍隊として形をなした組織なのである。

国連という組織に中国政府は加盟しているものの、あくまで香港警防隊とは中国政府の下部組織なのである。美沙斗が有名な極東支部の特殊機関を知らなくても、無理はない。

 

「腕は確かだよ」

「それは……是非、美由希に戦わせてやりたいものです」

「美由希……?」

「ああ、美沙斗の娘さんだよ。美沙斗と同じ流派の剣術遣いらしい」

「ええ…親の贔屓目かもしれませんが、なかなかの腕前です。けど……絶対的に経験が足りない」

 

この時点では美沙斗も知らなかったが、今、とうの美由希はデルタハーツのデルタイエローとして、確実に経験を積んでいた。

 

「どんなに才能があって、どんなに実力があっても、経験は大事です」

「だね…。僕も若い頃は色々やったよ」

「陣内さんの……若い頃?」

 

美沙斗と弓華は同時に怪訝な顔をする。

そう言えば、自分達は目の前の男の過去について、あまり詳しい事はほとんど知らない。

 

「あれは次元戦団バイラムが攻めてきた時だったから……もう、17年も前のことか。当時、僕は20代半ばで、まだまだ未熟だった。バイラムなんて強敵相手に、とてもじゃないが最前線では戦わせてもらえなかったね」

「戦ってたらこんなところいませんよ」

 

17年前といえば、美沙斗はまだ美由希を生んで間もない頃だ。

子供を産んでいくらか浮かれていたとはいえ、バイラムの脅威はよく憶えている。

 

「その時にね、世話になった人がいるんだ」

「世話になった人?」

「ああ…その人はこと戦闘に関しては天才と言っても差し支えない人だった。世界中の100近い格闘技を修めていて、そこから独自の戦闘術を編み出すほどだったんだ」

「まるでブルース・リーみたいです」

「その再来か?……とも思ってしまったぐらいだよ。でも、それほどまでに彼は強かった」

「彼……男の人なんですか?」

「ああ。確か名前は―――」

 

ふと、啓吾が歩みを止めた。

美沙斗、弓華も周囲の気配を探りつつ、動きを止める。

 

「……弓華」

「ひとり……ですね。でも、この気配は―――」

「人間のものじゃ……ない?」

 

頷く弓華に、美沙斗は腰に携えた小太刀に手をかけ、啓吾は懐のベレッタのスライドを引く。

辺りに静寂が訪れる。

――と、風が流れた。

それがただの風であったのならば3人とも気にも留めなかったであろう。

だが、それはただの風ではなかった。

 

「美沙斗! 陣内隊長! 散開して!!」

 

瞬間、大地が抉れ、空が裂かれた。

草木がバリバリと音を立てて刈られ、カマイタチが唸る。

いち早く機敏に反応した3人は無傷だったが、その事実は3人を驚愕させるに充分なものだった。

大地を抉り、空を裂くほどのカマイタチの中に……人がいる。

否、それは人ではなかった。

人間の姿をしてはいるが、もっと異質な……“何か”。

 

「“雷鳥”……」

 

弓華が低く呟いた。

憎悪の篭められた視線を受けるも、気にせずに“雷鳥”と呼ばれた男は嘲笑を浮かべる。

 

「久しいな、“泊龍”」

「何故、今になってあなたが!?」

「弓華、落ち着いて」

「弓華、こいつは一体……?」

「ほう……我を知らぬか。日、いずる国の民よ」

 

“雷鳥”の言葉に、啓吾と美沙斗がびくりと肩を震わせる。

たしかに美沙斗も啓吾も、弓華と同じ黄色人種ではあるが、日本人だと一目で見抜かれたのは初めてだった。

 

「“雷鳥”……聞いたことぐらい、ありませんか?」

「“雷鳥”…………たしか、陰陽五行において、“青龍”の従神にあたる、青い鳥……っ!!」

「そうです。そして―――」

「かつては貴様の上司であったな」

 

言葉とともに、“雷鳥”の背後の空間が割れ、いくつもの雷鳴が轟く。

空間の裂け目より生じた稲妻は、正確に3人を襲った。

 

「くっ」

 

啓吾がベレッタのトリガーを絞り、放たれた弾丸に稲妻が落ちる。

美沙斗、弓華も持っていた拳銃で弾丸を撃ち出し、避雷針代わりにした。

 

「はあっ!」

 

稲妻を避け、接近した美沙斗の小太刀が、唸った。

 

 

――小太刀二刀御神流・裏・奥義の参『射抜』!!

 

 

最速にして最長の刺突が放たれた!

――が、

 

「フンッ」

 

鼻を鳴らして、雷鳥は何処から取り出したのか、鉄扇を抜き、最速の一撃を捌く。

 

「“風裂”!? そんな、人間相手に……!」

「たかが人間だと……侮りはせんよ」

 

百八十度まで展開し、直径が1メートル近くまでになった“風裂”を構え、雷鳥が唸る。

刃風が鳴った。

ピンと張り詰めた空気を裂き、“風裂”の一閃がカマイタチとなって啓吾を襲う。

夜。視界は最悪である。

しかし、それでいてなおはっきりと見えるほど、空気は歪んでいた。

一度の斬撃で無数に生じたカマイタチが、3人だけでなく、辺りの草木すらも刈り取る。

 

「雷鳥! 何故!?」

「時間はくれてやった。そろそろ、回答を聞こうかと思ってな」

「回答……?」

「とぼけるな……針龍から聞いたであろう」

「針龍から?」

「…………待て」

 

低く呟いて、雷鳥は鉄扇を畳む。

いささか困惑した表情を浮かべ、

 

「……聞いていないのか?」

「なにをです?」

「針龍の身に何かあったというのか? 最初の『断魂』を行なってすぐに来いといっておいたのだが……」

 

3人は、否、雷鳥さえも含めた全員は知らなかった。

雷鳥の言う針龍が、すでに仮面ライダーネメシスによって打倒されているという事実を。

 

「そうか。聞いていないのか……ならば改めて問うとしよう。泊龍」

 

弓華がビクッと肩を震わせる。

鉄扇を畳んだとはいえ、未だ雷鳥の生み出したカマイタチは健在だ。

どういう原理なのか、雷鳥の周りを回転して、壁を作っている。

 

「泊龍よ、我らの元に来るがよい……。これが、最後のチャンスだ」

「っ!」

「お前……まさかっ!」

「察しがいいな……そう、『龍』だ。陣内啓吾」

 

やや芝居のかかった仕草で、雷鳥は啓吾に言う。

 

「我が名は“雷鳥”。我らが神、“青龍”の腹心にして、最強の“龍神”……」

 

神託じみたその言葉に、美沙斗と啓吾は金縛りにあったように動けなくなってしまう。

ただ、“同じ『龍』の者”である弓華だけが身動きを可能としていた。

 

「針龍には猶予をやれと言ったのだが……な。まぁ、貴様とて突然の事だ。考える時間をやろう」

「その必要はありません」

「……なに?」

 

盛大なる威圧感が弓華を襲う。

しかし、弓華はそれを意にも介さず、

 

「その必要はないと言ったのです。私の答えは、決まってます」

「ほう…」

 

雷鳥の瞳が、ギラギラと輝き、弓華を見据える。

まるで弓華の真意を計りかねているかのように……。

だが、弓華は一言、はっきりと告げた。

 

「これが私の答えです。……戦闘体、移行!」

 

直後、風が嘶き、刃風が鳴った――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Heroes of Heart

~ハートの英雄達~

第拾参話「宣告」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――海鳴市・フィアッセのマンション――

 

 

 

 

 

素直に、“美しいな…”と、恭也は思った。

闇に生き、黒ばかりを見詰めてきた男の奏でるフルートの音色と、その旋律に想いを乗せて歌う、偉大なる歌姫の魂を受け継ぎし光の歌姫。

2人の音楽家が紡ぎ出すその歌は、モーツアルトやベートヴェンに比べれば決して有名ではないものの、同じように偉大なる歌姫の魂を継いだ、“若き天才”が作曲した音楽。

そこにはスポットライトも立派な舞台も、そして美しい衣裳もなかったが、やはり恭也にとってそれは最高の舞台だった。

やがて曲が終わりに近付き、クライマックスへと流れる。

北斗のフルートが聞く者すべてを戦慄させる旋律を紡ぎ、フィアッセが聞く者すべてを至福へと導く歌を紡ぐ。

恭也は控えめながらもテンポをとって、メロディを口ずさんだ。

曲が――――終わる。

観客はたったひとりしかいなかったけれど、それで充分だった。

2人の音楽家は満足そうに頷き会うと、ぺこりとお辞儀する。

恭也が、拍手を送った。

照れくさそうにフィアッセが笑う。

 

「その…まあ……なんだ。よかった」

「ふふっ、ありがと、恭也。闇舞さんもありがとうございました」

「いや、こちらこそ。“光の歌姫”の伴奏を任される機会など、滅多にないだろうからね。俺も楽しませてもらったよ」

 

ひとりの演奏者として、やはりフィアッセ・クリステラという“うたうたい”の伴奏をするということは名誉なのだろう。

北斗は至福の笑みを浮かべてフルートの掃除掃除を始める。

 

「……しかし本当によかったのかい?不破だけならばまだしも…俺まで世話になってしまって」

「いいですよー。どうせアイリーンもしばらく帰ってこないだろうし」

 

渋る北斗に、フィアッセは笑顔で答えた。

爪龍との戦いの後、色々と一悶着あって、恭也と北斗はフィアッセのマンションで世話になることとなった。

早い話が、居候である。

当然、これに対して2人――特に恭也――は全面的に抗議したのだが、彼らの反論はすべて一蹴され、結論として、こうして衣食住を共にしているわけである。

とはいえ、常識的に考えても、何の条件もなく若い男女(恭也とフィアッセを指し、北斗は含まれない)が一緒の部屋に住むのはどうかという北斗の意見もあり、妥協案は提示された。

その妥協案というのは、住居を提供してくれる代わりに炊事洗濯といった家事を自分達にもやらせてもらうという事。

恭也と北斗、そしてフィアッセの部屋は別々にする事。

最後に、これは北斗だけが該当するのだが、タダで住まわせてもらうというのはあまりにもなんなので、家賃の納入をさせてもらう―――という、計3つである。

この条件をフィアッセが呑んでくれたおかげで、恭也と北斗は『若い娘と一緒の部屋に住む』という、ある種の罪悪感から逃れる事に成功したわけである。

もっとも、それは北斗のみであり、人間を捨てたとは言え、男までも捨てたわけではない恭也からすれば別の理由が障害となっているのだが……。

 

「……若いな」

「ほっといてください」

「若いって……闇舞さんだって若いじゃないですか」

 

就職情報誌を片手に北斗の表情は曖昧だ。

恭也が仮面ライダーネメシスであることは話したが、北斗がハカイダー02であることはまだ話してはいない。いつかそれも話すことになるのであろうが、少なくとも今はその時ではない。

 

「む、まあ、そうなのだが……」

「結婚とかしないんですか?」

「……キミはたまに痛いところをついてくるな」

 

北斗とて今まで浮ついた話が決してなかったわけではない。

ただ、『この人だ!』という相手が、見付からなかったのだ。

ただひとりを除いて……。

 

「闇舞さん?」

「ん? いや……なんでもないよ」

 

そう言う北斗の表情は、全然なんでもなさそうには見えない。

見えなかったが、フィアッセは何も言えなかった。

北斗の瞳の中には、フィアッセをして計り知れぬ闇があった。

 

 

 

 

 

――海鳴市・翠屋――

 

 

 

 

 

春休みに入って初めての休日にも関わらず、ランチタイムの翠屋は閉散としていた。

ここ二ヶ月近くで多発している、謎の集団による虐殺行為の影響が、ここまで及んだ結果である。

一応、店の看板は出したし、定員も揃ったのだが客の出入りは最悪と言え、桃子は頭を悩ませていた。

 

「せっかくフィアッセも復帰するっていうのに……」

 

思わず愚痴がこぼれてしまった。

つい先日まで意気消沈していた翠屋チーフは、何があったのか、電話越しに話す声はいきいきとしており、来週の頭から復帰を約束してくれた。

だというのに、今、翠屋にいる客は2組の家族連れと、3組の若いカップル。忙しなく働く何人かのサラリーマン、そしてひとりだけあぶれたような若者だけだ。

 

「これじゃチーフに会わせる顔ないですね」

「うーん、まあ、仕方ないんだけどねー」

 

明るく振る舞ってみせるが元気がないのは明らかだった。

真一郎は自身の無力さを知りつつも、何も出来ない自分に歯がゆさを感じていた。

ふと、客席でケーキを食べていた若者が立ち上がる。

バイトの娘が慌てて勘定書きを取りにいくのを確認し、桃子がレジに立つ。

『喧嘩上等!』と大きくロゴの入ったTシャツを着た青年は店内を見回して、

 

「大変ですねぇ」

 

と、言った。

聞き慣れないアクセントに戸惑いつつも、青年の口調に邪気がないのを悟ると、桃子は苦笑いを浮かべる。

 

「ええ。まあ、最近物騒ですから」

「まったくだぎゃあねぇ。あ、そんシュークリーム1ダース、箱詰めにしてくれやすか?」

「あ、わかりました……えっと、お会計は一緒で?」

「はい」

「名古屋の方なんですか?」

「いえいえ、これはポーズですぎゃあ。べつに名古屋人ってわけじゃないんですよ。ほら、ちょいとばかし、発音とか喋り方とか、微妙でしょお?」

「ええ…まぁ……って、し、失礼しました!」

「ああ、構わないです」

 

ブースから1ダースシュークリームを箱に詰め、ドライアイスを入れる。

やはり最近は物騒だからということもあり、テイクアウトの客は多い。

店頭で買って、家で食べよう……というわけだ。あっという間にブースはなくなり、真一郎が補充分を持ってくる。

 

「はい、どうぞ。……お会計、3000円になります」

「3000円……ですね。はい丁度」

「ありがとうございましたー」

 

ぺこりとお辞儀をし、見送る。

――と、入れ違い様に入ってきたお客を見て、桃子はもう一度笑みを浮かべてお辞儀した。

ブースにシュークリームを並べていた真一郎もそれに続く。

 

「リスティさん、いらっしゃいませー」

「ハイ、桃子、それに真一郎。今日は客として来させてもらったよ」

 

片手をひらひらとさせながら、いつもと変わらぬ服装でやってきたリスティに、ウェイトレスの少女が案内をする。

カウンター席に案内されたリスティは少女に軽く礼を言うと、ポケットから煙草を取り出そうとして―――止めた。

灰皿の準備をしていた桃子がバツの悪そうな顔をしている。

してやったりといった笑みを浮かべ、リスティは黒い手袋を脱いで、差し出されたおしぼりを取った。

桃子に了解を取って、真一郎がカウンターへと入る。

 

「珍しいね、リスティが客として来るなんて」

「ウチの専属コックが席を外しててね」

「耕介さんが?他のみんなは?」

「真雪はいつも通り寝てる。那美は美由希とデート。愛は耕介と一緒に出かけた。舞はなんか箱根に行くって言ってたね」

「は、箱根?」

「そ、箱根。走り屋達の聖地。あっと、なんか美緒も同行してたね。自分の愛車で」

 

『舞はデルタアクセルで出陣したんだけどね』と付け加えて、リスティは近くにいたウェイトレスの娘に注文を頼む。

リスティの回答に、真一郎は苦笑を浮かべて返す。

薄々真一郎も気付いてはいたが、まさか生っ粋の走り屋だったとは、思いもしなかったのだ。

しかし、ふと、ある疑問が頭にちらついて、怪訝な顔をする。

 

「……舞ちゃんって免許持ってたっけ?」

「…………無免、だね」

「ほっといていいの?」

「まあ……職権濫用ということで」

 

冷静に考えてみればデルタハーツと言う組織そのものが超法規、職権濫用の塊みたいなものなのだが、そこは言わないのがお約束というものであろう。

なにより、真一郎もリスティもデルタハーツ及び国際空軍には大きな借りがある。

当時独り暮らしであった真一郎は親の仕送りと私的な貯え、そして気紛れに行なってきたバイトの給料のみで生活していた。そのため、国際空軍から支給された給料でピンチをやり過ごしたことも少なくない。

特にあの時期、真一郎はなにかと物入りだったのだから……。

 

「……まあ、文句は言えない」

「だね。実際警察って言っても結構安月給だし、ボクは一年中物入りだし」

「何の話だよ?」

「ふふっ、ボクにも色々あるってことさ、相川先輩」

「……懐かしいな、その呼び方」

「まあ……たまには、ね」

 

何か言いようのない郷愁にかられ、真一郎は意味もなく沈黙した。

目を瞑れば、今でも鮮明にあの激動の時の出来事が思い出せる。

そしてふと振り返ってみると、今の自分がいる。

あの戦いの結果、良くも悪くも自分達は変わった。あの頃は思いもしなかった道を進んで、今を生きている。

真一郎はフランスに渡ってパティシエの勉強をする傍ら、兵士として訓練を受けた。

リスティは生と同時に与えられた忌まわしき運命に抗うかのように勉強し、邪悪を取り締まる仕事に就いた。

かつて風ヶ丘で先輩後輩の関係であった相川真一郎と、リスティ・槙原はもういない。

にも拘わらず、リスティがそんな風に真一郎を呼んだのは何か理由があってのことなのだろうか?

それとも、本当に単なる気紛れだったのだろうか……。

 

「まあ……ともかく…………ちょっと、愚痴に付き合ってよ」

 

一旦言葉を区切って、リスティが話題を変える。

これ以上触れられたくないというリスティの意図を察したのだろう。真一郎はべつにHGSでもなんでもないが、人の心を読む術には長けていた。

桃子や他の定員、客の目がないことを確認して、自身もカウンター席へと座る。

 

「―――状況が状況だからかな? 昔の事を思い出しちゃって。今更ながら、後悔してるんだ」

 

6年前、当時さざなみ女子寮にいた寮生達はみな耕介に好意を寄せていた。

それはリスティも例外ではなく、ある意味では、彼女は愛よりも耕介のことを愛していただろう。

しかし、当時リスティは幼すぎた。

年齢や肉体的にではない。精神的に、である。

愛という概念を知らなかった彼女は、耕介に対するその気持ちがlikeなのかloveか判断しかねていた。

結果、気付いた時にはもう遅かった。

耕介は愛を選び、またリスティは彼らの娘となっていたのだ。

その時のリスティの荒れようといったらもう……一時期、寮内の空気が重くなったほどである。

もっとも、リスティひとりならばそれほどの現象が起きるはずもなく、実際にはもう2・3人、耕介に寄せていた想いがlikeではなくloveだったと後から気付いたのも原因ではあるのだが。

真一郎は、そういった諸事情を知っているだけに、余計に口出しできない。

ただただ、彼女の話を聞くことで、少しでも彼女の気が紛れるのならばと、身を犠牲にするだけだ。

 

「――だいたい、耕介は鈍感すぎるんだよ! あの当時だってボク達以外に、知り会いだけでも10人近くはいたっていうのに、ひとりも気付かないで愛なんかとくっついて……ああっ! もうっ!!」

「愛なんかって…一応愛さん、お前の母親だよな」

 

――あの天然に向ってそんなことを言っても、あまり効果はないだろう。

真一郎は内心で溜め息をつきながら、リスティの愚痴を聞き続けた。

というより、心なしか酔っているような気がするのは気のせいだろうか?

 

「…………リスティ、もしかしてここに来る前に酒飲んだ?」

「…っく……飲んじゃ悪い? ボクはとっくに20過ぎてるし、今日は車じゃないから大丈夫だよ」

 

リスティは決して酒に弱い体質ではない。

ここまで泥酔しているということは、相当飲んでいた事を示している。

真一郎は、桃子にアイコンタクトを送った。

桃子は苦笑を浮かべながら頷く。

 

「ちょっと…ごめんよ」

 

むんずとリスティを脇から持って、引き摺って従業員用の出入口へと向う。

裏口と直接繋がっている駐車場まで来て、真一郎はリスティにフルフェイスのヘルメットを被せた。

 

「まったく、昼間っからあんまり飲むなよな!」

 

先日デルタアクセルと本気で競い合ったがためにかなりボディに傷が付いてしまったマジェスティの後部にリスティを乗せ、真一郎はさざなみ寮へと向った。

 

 

 

 

 

――富士山麓・国際空軍極東支部――

 

 

 

 

 

旧防衛組織スカイフォースよりもずっと昔に存在した、世界初の地球規模防衛組織、『TDF』。

そのTDF極東支部の施設をそのまま継承したものが、現在の国際空軍極東支部である。

富士山麓の地下に建設された施設は、動力炉などのメインシステムこそ40年近く昔のものながら、他の設備は新たに改良された最新の物で埋め尽くされている。

耕介と愛が案内された執務室も、その肩書きは名のみで、そういったハイテク設備で固められた、一種のシェルターとでも言うべき部屋だった。たとえバラノイア規模の戦力が襲い掛かったとしても、一ヶ月は篭城できるだろう。

耕介は、空調の利いた執務室でなお、汗を流していた。

耕介と愛が腰掛けたソファと対称的に備えられたソファには、5人の軍服を纏った男女があった。

うちひとりの男性の階級は中佐で、あとの4人は少佐である。

一応、『さざなみ』という一機関の長官である耕介や、副官である愛よりは格下であるとはいえ、耕介は彼らに命令などもってのほかという態度だった。

知らず、背筋がピンと張り詰める。

耕介の心の中には、かつてない地球占領という最悪の事態まで引き起こしてしまった侵略を前にして、地球防衛の最前線となり、体を張って戦い抜いた戦士達への尊敬の念が、否定しようもなく潜んでいた。

 

「まあ、そう固くならないでください」

 

男のひとりがそう言うが、耕介は首を横に振った。

 

「落ち着けるわけ……ありませんよ」

「耕介さん、この人達は?」

 

愛のいつものオトボケぶりも、今回ばかりは通用しない。

一瞬だけ言葉に詰まる耕介だが、ゴホンとひとつ咳をして、

 

「超力戦隊……オーレンジャー…………」

 

かつて、地球を守った伝説の戦士達の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

――海鳴市・さざなみ女子寮――

 

 

 

 

 

「お、久遠。今日はひとりなのか?」

「くぅん」

「那美ちゃんは……ああ、美由希ちゃんとデートだったね」

「くぅぅ」

「お腹、空いたのか……待ってろよ、今、何か探してくるから」

「くぅん♪」

 

リスティを自室まで運んで、おもむろに庭に出た真一郎は久遠を見つけ、耕介には悪いと思いつつも台所を借りることにした。

冷蔵庫で適当なものを探し、軽くご飯を作ってやる。

無論、狐が食べてもいいように消化のよいものだ。

いつも耕介や愛、美緒が猫達のために用意してやる皿に盛りつけ、ぱたぱたと尻尾を振る久遠に差し出す。

 

「くぅん♪…………」

 

人見知りの激しい久遠だが、真一郎の優しい気配を感じ取ったのか、近くにいても平気だった。

初めて久遠に触れた時の那美の驚いた顔が思い浮かんで、思わず苦笑してしまった。

 

「くぅぅ……?」

「ああ、なんでもないよ」

 

頭を撫でる手が止まってしまったためか、久遠が顔を上げる。

真一郎はふっと微笑んで立ち上がると、パンパンとズボンをはたいて寮内へと足を運んだ。

――と、

 

「ただいまー」

「おじゃまします」

「ああ、お帰り」

 

聞き慣れた声がして、真一郎はそっと首を覗かせる。

意外な人物の登場に那美と美由希は一瞬だけキョトンとして、すぐに笑みを浮かべる。

 

「相川さん」

「真一郎さん、こんにちは」

「ああ、こんにちは。あと、那美ちゃん、お帰りなさい」

「あ、ただいまです」

 

上品に靴を脱ぎつつ、3人は軽く挨拶を交わす。

久遠にやった料理が残っていたのだろうか。

鼻にツンとくる、食欲を誘う臭いに敏感に反応し、美由希が首を傾げる。

結果として可愛らしく見えてしまったその仕草に苦笑しつつ、真一郎は、

 

「ああ、久遠が、お腹空かせてたからさ。よかったら、美由希ちゃん達も食べる? あ、勝手にキッチン使わせてもらったこと、耕介さんには内緒だよ」

 

人差し指を唇に当てて言う真一郎はずいぶんと大人びていて、かつては風ヶ丘学園でもナンバー1の人気を誇った美少女ぶりは、かなり薄れていた。可愛らしいのではない。綺麗なのだ。美しく、妖艶なのだ。

その、どこか気品めいたものまで漂う仕草は、同性の那美達をして見惚れてしまうほど、洗練されていた。

 

「じゃ、じゃあ……いただきますね」

「ああ、どうぞ。お姫様にお嬢様」

 

一瞬キョトンとしてしまう2人。

先に覚醒したのは美由希だった。

相川真一郎という、噛み砕いた言い方をすれば美形に言われたのか、はてまた『お嬢様』という単語に反応したのか、驚愕の表情を浮かべ、見る見るうちに顔を赤くしていく。

那美が『お姫様』と呼ばれるのはなんとなく理解出来る。

男性はたまに、女性のことをそう形容すると聞いたことがある。

しかし、お嬢様とは……

 

「お、お嬢様って」

「翠屋で働いている俺はコックという名の使用人だよ? じゃあ、翠屋の、ひいては店長の娘さんである美由希ちゃんはお嬢様じゃない」

「あ、あう……」

 

妙な擬音で照れる美由希。

以前、小鳥から『真くんは昔っから意地悪なんだよ~』とは聞かされていたが、真一郎の顔で言われるとある意味凶器である。

美由希、本日それを実感。

 

「……さて、からかうのはこれぐらいにして、どう?」

「あう……いただきます」

 

やはり真一郎も料理人。自分の料理を食べてくれる人を見ると、ついつい笑みが浮かんでしまう。

 

(相川さん……コックだけじゃなくウェイターもすればいいのに)

 

これは那美である。

たしかに、そうすれば翠屋の売上げは二割ぐらい増すかもしれない。それこそウェイトレスの恰好をさせれば、女性客のみならず、男性客も増えて完璧ではないだろうか。

 

「もったいない」

「ん、何か言った?」

「あ、いえ……なんでもないです」

「ま、いいけどね」

 

見ると、久遠はもうすでに皿の上にあった物を食べ終えていた。

器用に皿を咥えて持ってくる。『いい子、いい子』と撫でて、真一郎は皿を受け取る。

やはりプロの料理人として他人の厨房を荒らすような真似はしたくないのだろう。

台所に入る直前、苦笑いを浮かべるが、やはりそこもプロの料理人。いざ料理となれば表情を引き締め、厨房に立つ。

 

(……あとで耕介さんに謝っとこ)

 

美由希と那美のメニューを考えながら、真一郎は別にそんな事も考えていた。

 

 

 

 

 

――生田市・繁華街――

 

 

 

 

 

海鳴市のものに比べればいくらか質は落ちるとはいえ、隣り街である生田市の繁華街はそれなりの賑わいを見せていた。

街は活気に満ち溢れ、人が波のように……とまではいかぬものの、コンクリートで固められた路上を行き交う。

その中を、片や複雑そうな表情で、片や嬉々とした表情で牙龍と翼龍は歩いていた。

 

「繁華街ってのは、今も昔も変わらないものなのね~」

「そう……だな。かつては大陸でも僅かしかみられなかったものだが……活気溢れ、人が溢れているという点では変わりない」

 

どこか懐かしむように呟く牙龍に、翼龍は苦笑を浮かべる。

事の発端は今から数時間前のこと。

爪龍の死亡が確認されて、なお、大祭司が帰ってこないため、迂闊に身動きのとれない状況下におかれていた牙龍達は暇を持て余していた。

蟲龍や毒龍などは人間界の調査という名目で出歩き、暇を潰せるが、牙龍と翼龍はそうはいかない。仮に人間社会に出て行ったとして、勝手が分からぬ状況では行ったとしてもかえってストレスが溜まる。

そんな時に蟲龍が、『じゃあ、デートでもしてくればいい』と言ったのだ。

 

「―――そもそも“で~と”とは一体何なのだ?」

 

「う~ん……蟲龍の説明だと、判りやすく言えば“逢引”だって」

 

(別に俺は翼龍の“つがい”になった覚えはないのだがな)

 

などと思っていると、翼龍がスルリと腕を絡めてくる。

 

「翼龍?」

「えへへー」

「どうした?」

「あ、いや、蟲龍がさ、デートの時はこうした方がいいって」

「…………そうか」

 

べつに牙龍に羞恥心などがあるわけではないのだが、思わずそっぽを向いてしまう。

その仕草が可笑しかったのか、翼龍は微笑を浮かべた。

――が、次の瞬間、その表情が凍りついた。

翼龍だけではない。少しでも武道のたしなみのある人物ならば容易に気付くであろうほどの、あからさまに放出された、巨大な殺気。

当然、牙龍も気付いていた。それどころか、すでに殺気の出所を探っている。

 

「貴様なのか?」

 

人間には聞き取れない超音波で発声された声。

その声に頷くものがひとり……広場のベンチで足を組んでいる。

ふと、牙龍が足元にある小石を拾った。

 

「ムン」

 

気合とともに念を篭め、たちまち小石は硬度を増した。

掌でそれを弄んで、“ピンッ”と、指で跳ねてやる。

人間態とはいえ牙龍の握力で放たれた小石は、弾丸のように加速し、増した硬度との相乗効果でそれこそ銃弾の威力と寸分も差はない。

ベンチの男が、ニヤリと笑った。

右手の人差し指と中指を動かして、飛んでくる弾丸をキャッチする。

亜音速とはいえ、弾丸の飛ぶスピードはかなりのものである。ましてやそれを掴むなど……もはや、人間のなせる技ではない。

男はパンパンとズボンをはたき、殺気を潜めて2人に近付く。

人込みはまずいと思ったのか、牙龍と翼龍も動き、路地裏へと向った。

やがて、繁華街の喧燥も聞こえなくなって、牙龍が口を開いた。

 

「貴様……人間ではないな?」

「ふひ~…おみゃあさん、おっとろしいやつだぎゃあねぇ。一目で看破されたんの、おみゃあさんが初めてよ?」

 

あっさりと肯定する男。

しげしげと眺めてみると、たしかにカジュアルな格好や、身につけたアクセサリからはどこにでもいるような若者の印象を受ける。

しかし、その瞳の奥にある人外の気配までは隠せていない。

その瞳の奥底に潜む……闇の存在だけは―――

 

「普通の人間ならばとうに精神を壊しているであろうほどの負の感情、お前の中に、それを感じるからな」

「さすが『龍』最強の龍臣……牙龍さんだ。おそぎゃあ人だねぇ……まぁ」

「そのふざけた喋り方を止めろ」

 

牙龍の言葉に、青年から放たれる気配が変わる。

先刻まで薄っすらと浮かべていた微笑が消え、その表情は悪鬼羅刹の如く険しいものとなった。

 

「これはそれなりに誇り高い言語なのだがな。まぁ、いいだろう。お初にお目にかかる……『ヘルショッカー』四天王・北の“多聞天”」

「龍臣、牙龍」

「同じく龍臣、翼龍」

「これはこれは……ご丁寧にどうも。さて、さっそく本題に入ろうか」

「本題?」

「そうだ」

 

多聞天と呼ばれた青年の言葉に、牙龍が怪訝な表情をする。

同盟和睦にしては穏かな雰囲気ではないし、宣戦布告にしては自分のような“兵隊”に話してくるのはおかしい。

 

「――警告する。『AA-07』と『AA-08』……すなわち、仮面ライダーネメシスとそのマシン・レッドスターに関する戦闘行為を一切中止しろ」

「……なに?」

「聞こえなかったのか? こんな至近距離にいて……なら、もう一度言う。仮面ライダーネメシスとレッドスターに関するすべての戦闘行為を――」

「あれはあっちが勝手に戦闘を!」

 

止めろと言おうとしたところに割り込んで、翼龍が怒鳴る。

 

「たしかにな。奴らの狙いはお前達『龍』だ。連中が戦闘を仕掛けぬわけがない。……そこでだ、ネメシス出現の際には我々『ヘルショッカー』を呼んでもらいたい。無論、タダとは言わん」

「何か見返りがあるのか?」

「貴様らの断魂を阻む者達……三心戦隊デルタハーツなる烏合の衆とホッパーキングなる邪魔者の始末を請け負おう」

「ふむ……」

 

牙龍はしばし逡巡して、

 

「よかろう。大祭司に掛け合ってみる」

「牙龍っ!!」

「黙っていろ翼龍…これはまだ決定事項ではない。大祭司が却下すれば済むことだ」

「でも―――」

「では」

 

なおも反論しようとする翼龍を遮って、多聞天が口を開く。

“バサッ”と、そんな音がして、多聞天の背中に漆黒の翼が開かれる。

まるで“鴉”のように黒い……その、翼。

 

「―――お近付きの印に、我らの誠意を見せよう。牙龍殿、我々についてこられるか?」

「無論」

「すでにわたし達が行くのは決定事項なのね……」

 

多聞天のものとは違い、栗色の鮮やかな翼を広げる翼龍。

160センチにいくかいかないか程度の身長にはあまりにも大きすぎる感があるが、その姿はさながら天使のようである。

 

「ついてくるがいい」

 

音もなく跳躍し、翼を羽ばたかせる多聞天。

翼龍もそれにならって羽ばたき、牙龍は壁を駆け上った。

 

 

 

 

 

――海鳴市・聖祥女学園校門前――

 

 

 

 

 

「……よし」

 

どこからそんなものを調達してきたのか、スーツを着込み、30数年前、現役の頃の雰囲気を醸し出しつつ、北斗はフィアッセから借りたセルビアを降りて校門の前に立った。

春休みに入ってばかりの聖祥女学園の校門は、時刻が午後3時ということもあり、人の出入りは少ない。北斗のことを不信がる人はいなかった。

 

「……よもやこんな機会が巡ってくるとはな」

 

北斗がその事を知ったのは、本当に偶然であった。

就職情報誌を穴が空くほどに読んだものの、あまりパッとした職業が見付からなかったので、フィアッセの了承を得て、パソコンに向って色々とネット検索してみたところ、幸運にも、ここ聖祥女学園の初等部で、緊急に教員を募集しているとの旨のを見つけたのだ。

まだ〈ショッカー〉に所属していた頃、北斗は高校の社会科教師の他にも、いくつかの免許を取得しており、その仲には小学生の教員免許もあった。小学生の教員といえば国語算数理科社会に始まり、体育や音楽などの特別な教科にも精通していなければならない、教員免許の中でも取得難易度が中学生・高校生とは比較にならないほど難しいものである。

いくら緊急の募集とはいえ、相手は名門の女学校。採用されるかどうかは別として、とりあえずものは試しにと、司法関係の知り合いに頼んで緊急に用意してもらった偽造の教員免許証(30年前からまったく更新していなかったので)、履歴書、必要な書類を持参し、北斗は数時間前にアポイトメントを取った。

はたして、結果は『すぐに来れるのなら来てください』というもの。どうやら状況は、かなり切迫しているらしい。

自分が現役の学生だった頃には考えられないような大きな校舎を見上げていると、北斗の脳裏に、不意に出掛けに恭也達と交わした会話が思い出された。

 

「じゃあ、行ってくる」

「頑張ってください!」

「俺には、応援しか出来ませんが」

「とりあえず、やるだけやってくるさ」

 

正直なところ、気持ちは半々であった。

たしかに再び教壇に立ちたいという欲求はある。だが、“今の自分”が子供達に何を教えられるのだろうという不安があるのも事実だ。

 

「……まぁ、なるようになれ……だな」

 

目を瞑り、深呼吸して、歩き出す。

北斗は30数年ぶりに味わう教育の場の空気を感じながら、校門を潜った。

 

 

 

 

 

――海鳴市・さざなみ女子寮――

 

 

 

 

 

“ビーッ! ビーッ! ビーッ!”

 

緊急出動を告げる警報アラーム。

ブレスレットから発せられたその音を聞いて、美由希、那美、真一郎が立ち上がる。

 

「相川さんっ!」

「美由希ちゃん、那美ちゃん、場所はっ!」

「生田市の……市民病院です! 勢力は不明ですが、襲撃を受けている模様」

「病院っ!?」

 

病院といえば患者だけでなく面会人、医師や看護師などで人が大勢いるはずである。

男女問わず魅了するほどの美貌が焦りに歪み、次の瞬間、怒りで引き締まる。

真一郎は『M.R.ユニット』の入ったスポーツバッグを片手にすぐさま駆け出す。

 

「那美さん、わたし達も!」

「は、はい! でも、デルタアクセルは舞ちゃんが…………」

「ボクのプリメーラを使うといい」

『リスティさん!?』

 

警報アラームで目を覚ましたのであろう。

多少の酔いは残っているものの、リスティはいたって正常な足取りで、庭で遊んでいる久遠を呼ぶ。

 

「久遠、ちょっと、キミの力を借りるよ」

「ちょちょ、リスティさん!?」

 

那美の声には耳も貸さず、久遠を抱きかかえてリスティは車庫へと向う。

慌ててそれを追う美由希と那美。

リスティは、玄関を出て電波状況を確認すると、ブレスレットの通信回線を開いた。

 

「舞っ」

『リスティの姉御! こっちでも聞きやしたぜっ!!』

「どれぐらいで来れる?」

『20分もあれば』

「よし」

 

箱根から生田まで20分?

疑問が首をもたげたが、構っている余裕はない。

ダッシュでプリメーラに駆け込み、キーを差し込む。

 

「り、リスティさん! なんで久遠が!?」

「少し黙っていて、那美。…ちょっと、急ぐよ」

 

 “キュインキュイン…………ズドォオン!!!”

 

盛大な爆音が轟き、シングルスロットが唸りを上げる。

美由希と那美の感覚がそれに追い着こうとするが、それよりも早く、加速とともにプリメーラは流星と化した。

 

 

 

 

 

――生田市・市民病院病棟前広場――

 

 

 

 

 

白い巨棟は紅に染まった。

それぞれ20体はいるかと思われる蠍男とコブラ男が同時に撒き散らす毒液は人体を溶かし、10体のカニバブラーはその鋭い鋏と怪力で血飛沫を上げさせる。

地獄絵図。阿鼻叫喚。

その戦場に最初に辿り着いたのは真一郎だった。

血の臭いが、ツンと鼻にくる。

 

「チクショウ!」

 

怒りの咆哮とともに、真一郎は『M.R.ユニット』を起動させた。

 

M.R.unit start up…… Please set changing memories card.

 

取り出したるは飛蝗の絵柄が刻まれたメモリーカード。装置の挿入口にカードをインサートする!

 

Now lording……Type grasshopper system standing by.

 

ベルト状に変形し、たちまち真一郎の腰に巻かれる『M.R.ユニット』。

 

Please say metamorphosis code……』

 

必要なのはたった一言。

真一郎は精神を統一させ、その言葉を叫んだ!

 

「変、身――!」

 

刹那、真一郎の全身を激痛が襲った。

『M.R.ユニット』から眩い光が放射され、真一郎の体を包み込み、見えなくさせる。

その肉体は、徐々に変貌を遂げていった!

鋭い爪。太い手足。まるで昆虫のように、真一郎の肉体は緑色に変色していく。

そしてその変化は、ついに頭部まで及んだ。

顔の輪郭そのものに変化はない。

しかし、両目は複眼状に拡大され、裂けた口からは鋸のような歯が覗いている。額の中央から伸びた2本の触角は、何かを求めるように小刻みに震えていた。

……あえて言うならば、その姿は“飛蝗”。

 

「我、風の王者にして深緑を操る者……ホッパァァァァァキィィング!!」

 

飛蝗を統べし深緑の王者は、凄惨たる戦場へと駆け出した!

 

 

 

 

 

そして数分後、若干のタイムラグをおいて、リスティ、那美、美由希が到着する。

 

「遅れた分は取り戻させてもらうよ」

「リスティさん、あとで事情聞きますからね」

「はうう……まだ頭がクラクラする」

 

車酔い……ではなく、激しい運転にあちこちに頭をぶつけて戦う前からダメージを負った美由希が唸っているが、それに構っている余裕もない。

 

「美由希さん、いきますよ」

「は、はい」

 

かぶりを振って、美由希も目の前で繰り広げられる戦闘を見据える。

ホッパーキングは善戦しており、すでに蠍男を2体、コブラ男を3体、カニバブラーを1体倒している。

だが、数によるアドバンテージの差は否めない。

一瞬で戦況を分析して、美由希は天高く右手を掲げた!

それに習って、リスティと那美も右手を掲げる。

 

『三心覚醒!』

 

瞬間、3人の姿が閃光に呑み込まれる!

光の消えた時、そこに3人の姿はない。

あったのは――――

 

「デルタレッド……ナミ!」

 

「デルタイエロー……ミユキ!」

 

「デルタホワイト……リスティ!」

 

デルタスーツを身に纏い、彼女達も戦場へと向った!

 

 

 

 

 

「ヴヴヴヴヴ……グュッグュッグュッ」

 

奇声を発しながら手の代わりに生えた蛇の頭部を模したような腕を振り回しながら、コブラ男がホッパーキングに襲いかかる。

それを器用に躱しながら、果敢に拳を繰り出すホッパーキング。

デルタハーツの参戦によって、数十体余りいた敵は戦力を均等に分けていた。

改造人間達に知性があるかは疑問であったが、敵は新たに加わったデルタハーツのメンバー3人とホッパーキングを足した4人に、バランス良くに戦力を割いてくれている。

そして改造人間達は、数種の怪人から成る混成部隊とはいえ、10数体程度ならばホッパーキングが後れを取るような相手ではなかった。

 

「絶・吼破ぁっ!」

 

“ガッ! メシャアッ!”

 

コブラ男の攻撃を受け止め、ホッパーキングが奥儀を放つ。

沖縄に端を発する日本の空手は、現在、『松涛館』を中心に『松涛会』、『糸東会』、『修交会』、『三空会』、『和道会』、『極真会』、『剛柔流』、『剛柔会』と、様々な流派が小さな列島の中でひしめき合っている。

その中で、真一郎が修めている『明心館』空手は、フルコンタクトでは『極真館』にも迫る勢いの流派で、国内でもトップクラスの規模を持つ団体だ。

吼破とは、その『明心館』空手に伝わる奥義のことだ。

使い手によって様々にアレンジされ、バリエーションを増やしてきたこの技は、真一郎もまた独自のアレンジを加えて使用している。

真一郎が『絶・吼破』と呼ぶ吼破は、世界中の特殊部隊が最も指示する合気道の、『敵の攻撃を受け流し、反撃』というコンセプトを取り入れた、カウンター専門の打撃技だ。

コブラ男の攻撃を受け流し、その反動を利用して拳を放つ。

衝撃は普通に殴った時のおよそ3倍!

他の改造人間を巻き込んで、コブラ男が吹っ飛ばされる。

――と、攻撃の直後を蠍男の毒液が狙った!

体を捻らせ、器用にそれを躱す。

毒液がかかったカニバブラーが、恐ろしい奇声を発して溶け出した。

ホッパーキングは、その隙を見逃さない。

2・3発、拳を叩き込み、蹴り飛ばす。

デルタイエローが戦っている傍まで飛ばされたカニバブラーは、溶けた装甲の合間を縫っての攻撃に、まもなく絶命した。

イエローブレードを二振り構えたデルタイエローは、毒液の猛襲を躱しながら、飛針、鋼糸を巧みに使い、少しずつ敵にダメージを蓄積させていく。

要人警護に暗殺を旨としてきた御神の剣は、どの技もが基本的に一撃必殺の強烈な攻撃である。

しかし、それはあくまで人間が相手になって、初めて成立する。

改造人間のような人外の存在に対して、一撃必殺とはなりえない。特にカニバブラーの甲羅による防御力は侮れないものがある。

非効率的でも、こうして確実にダメージを与えていった方が、かえって効率的なのだ。

 

「はあっ!」

 

一閃。

蠍男やカニバブラーと比べると、著しく防御力の低いコブラ男が血飛沫を上げて絶命する。

だが後ろからすぐそれよりも遥かに防御力の高いカニバブラーの鋏が、ハンマーのように振り下ろされる!

 

「ふっ」

 

バックステップで体ごとぶつかり、カニバブラーの攻撃を躱す。

のけぞり、カニバブラーの攻撃は空を切った。

彼女の名誉のためにも言っておくが、美由希はけっしてウエイトが重いわけではない。

ただ咄嗟の攻撃であったことと、カニバブラーにその場に踏み止まるほどの判断力、反応力が欠けていたため、カニバブラーは体勢を崩したのだ。

振り向き様にデルタブレードに徹を篭め、一閃する。

 

“キキキキキキキ……ズシャアッ!”

 

黒板を引っ掻いたような音がして、数瞬の後にカニバブラーから血飛沫が上がる!

かつて甲龍との戦いで、美由希は強靭な装甲を持つ相手との戦闘方法を知っていた。

 

(相手が蟹っぽかったからもしかしてって思ったけど……)

 

その考えは見事的中していたわけである。

一方、ホッパーキングのような圧倒的な戦力も、イエローのような技ももたないホワイトは意外にも苦戦しているかと思いきや……

 

「シュート! アンド、ブーメラン!」

 

HGSであるホワイトは念動力で加速させたデルタブラスターの攻撃と、思念波で自由自在に空を舞い踊るホワイトブーメランの連携で意外にも善戦していた。

コブラ男はともかく、強靭な装甲をもつ蠍男とカニバブラーに対しては絶対的な威力を発揮しているとは言い難かったが、それでも、なんども重複しているうちに、次第に戦力を低下させていく。

 

「サンダー!」

 

雷鳴が轟き、突如として雷がカニバブラー、蠍男の体を打った!

本調子の時ならばともかく、それまでの攻撃で消耗していたカニバブラーと蠍男に、これを防ぐ術はない。

分厚い装甲を通り越して、2種の改造人間は内から炭化していった。

そして那美……デルタレッドは、

 

「やあっ!」

 

レッドダガーが唸りを上げて、空を切り裂く。

 

「あ、あれれ?」

 

鈍重なはずのカニバブラーだったが、何故か斬撃を躱されてしまい、思わず呆然と声を上げてしまう。

気を取り直してもう1度斬りかかるが、何度やっても何故か躱されてしまう。

 

「な、なんで~?」

 

原因は簡単なことだった。

 

レッドはカニバブラーを間合いに捉え切れていないのだ。もっとも、これはコブラ男や蠍男の毒液を恐れての所業であるため、なんとも言えない。

それを見かねたわけではあるまいが、プリメーラの中でひとつ欠伸をして、久遠が毛を逆立たせながら飛び出した。

小さな狐の身ながら、飛び跳ねて閃光が走る。

 

“シュパァン!”

 

瞬間、電球が破裂するような光とともに、久遠が幼いながら人の姿へと変化する。

巫女服のような袖を振りかざし、掌を掲げて牙を剥いた!

 

“バシィッ!”

 

電光が走った!

久遠の掌底から放たれた電撃がコブラ男、蠍男を次々と襲う。

連続して放つ小さな雷撃は、リスティのものほど強力なものではなかったが、それでも、コブラ男、蠍男の毒液を封じるにあたって、充分な効果を発揮している。

それを止めようと別の改造人間が襲ってきても―――

 

“シュパァン!”

 

この通り、再び狐の姿へと戻り、小さな体で難なく躱していく。

久遠の活躍によって毒液の封じられた今、那美が恐れるものはない!

レッドダガーを構え、獅子奮迅の活躍を、微妙に見せていた。

 

「てやあっ!」

 

掛け声はいささかなさけないがそれでも確実にカニバブラーはダメージを受けている。

レッドはイエローのように徹のような技はもっていなかったが、斬撃の一太刀一太刀に若干ながら霊力が篭めていた。

その霊力が作用して、カニバブラーの防御力を徐々に奪っていく。

装甲が役にたたなくなった瞬間、レッドの斬撃、そして久遠の雷撃がぶつかり合う。

 

「まずは1体っ」

「久遠、強い」

 

敵を1体1体倒すたびに、久遠は得意げな顔をする。

頼もしい限りであったが、敵を一体倒すその都度、に那美は久遠の頭を撫でねばならない。

 気が気でなかったが、先刻よりもいくらか余裕は出来ていた。

デルタレッドこと神咲一灯流神咲那美と、祟り狐こと久遠が組んだ時、彼女達はほぼ最強となる!

 

 

 

 

 

そしてさらに数分後、

 

「出遅れた分はキッチリ取り戻すのだ!」

 

もはや開き直りか、バリバリに地を出しまくる美緒。

 

「リスティの姉御! ただいま到着しやしたぜっ!」

 

走り屋モードの当社比8割増しで“漢”な舞。

それぞれの愛車(もはやデルタアクセルは舞の愛車)から降りて、2人は右手を掲げる。

 

『三心覚醒!』

 

「デルタブルー……マイ!」

 

「デルタブラック……ミオ!」

 

デルタスーツを装着し、参戦する舞と美緒。

荒れ狂う改造人間達の運命は、もはや風前の灯火であった……。

 

 

 

 

 

「…………これが貴様達の誠意とやらか?」

 

病院の屋上。

給水タンクの真上に禅を組み、牙龍は言った。

尋ねられた多聞天はふるふると首を横に振って、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「仮にも“神”と契約を結ぼうとしているのだ。あのような知性無き者達を誠意の証にするなど失礼な真似はせんよ。あれは余興だ。本日のメインディッシュが来るまでのな」

「めいんでぃっしゅ?」

 

聞き慣れない発音を聞いて、翼龍が首を傾げる。

多聞天は少し迷った後、舌で言葉を探すように言う。

 

「――――つまり、主賓ということだ」

 

なるほどと、頷く翼龍。

牙龍もまた頷いて、視線を戦闘へと移す。

 

「――――しかし困ったな」

「どうかしたの?」

「いや、このままでは主賓が来る前にやられてしまいそうだ。……しかたがない。少し兵隊を使わせてもらおう」

 

指を“パチン”と鳴らす。

その音が人間には聞こえない特殊な周波を発していることを、牙龍は聞き逃さなかった。

瞬時に感覚を研ぎ澄まし、半径1キロ内の気配の変化を探る。

 

「これは……」

 

それは意外にもすぐ傍にいた。

多聞天がつまらなげに口を開く。

 

「素晴らしいだろう? すでに我々の手は社会の深くにまで伸び切っている。……チィッ、余計な兵力を使ってしまった。これでまた減俸だ」

 

頭を抱えながら、多聞天は己の身に降りかかるであろう悲劇を嘆いた。

 

 

 

 

 

「トドメッ」

 

その一撃で甲羅には亀裂が入り、その内に秘められた生身が血飛沫を上げる。

最後のカニバブラーを殴って、ホッパーキングがほっと息をつく。

ホワイトが『お疲れー』などとねぎらいの言葉をかけてくれるが、とてもではないがそんな気にはなれなかった。

戦闘時間はおおよそ15分。タイムリミットまで、あと半分を切った。

変身を解こうと『M.R.ユニット』に手をかけて、ホッパーキングの動きが止まった。

その視線が、病院の入り口に釘付けになる。

不信に思い、デルタハーツの面々もそちらを向いた。

そこには―――

 

「多聞天様の合図で出てきてみれば……」

「初期・中期改造人間の混合部隊50体。全滅ですか」

「一応、オペを抜け出してきた身だ。さっさと終わらせるぞ」

 

血で赤く染まった服とゴム手袋。白衣を身につけ、クリップボードや注射器などを携行している。

マスクを着用した医師が3人と、普通に白衣を着た医師が4人。

シュールな光景ではあるがここが病院である以上、不思議なことではない。

しかし、強化されたホッパーキングの超感覚は、医師達がただの人間ではないことを教えていた。

またホッパーキングのような超感覚をもたないデルタハーツも、スーツに搭載された各種センサーを駆使することで、ホッパーキング同様医師達の肉体から不信な点をいくつか見出していた。

そしてその不信は、次の瞬間、確信へと変わった。

 

「……え?」

 

それは誰の発した言葉か。

あるいは全員の思いを代表した言葉だったのかもしれない。

医師達の姿が――――

医師達の姿が、変わった――――?

院内の窓から外を見る人々も含め、その場にいた全員がその現実を信じようとしなかった。

しかし、現実に、医師達は変わったのだ。

ただ戦うための姿……梟男へと。

 

「さて、いくとしましょうか」

 

今までの敵とは違う、明らかに知性をもった怪人の登場に、デルタハーツメンバーが何人かどよめく。

さすがにフランス外人部隊でイレギュラーな事態には慣れているホッパーキングは驚いた様子はない。それ以上に、真一郎はこれから繰り広げられるであろう、知性をもった相手との戦闘に恐怖していた。

 

「散っ」

 

梟男達が散開し、腕と一体となった翼を広げて、デルタハーツとホッパーキングを襲撃した。

デルタハーツの5人にはやはり5体、1人ながら総合スペックはデルタハーツを上回るホッパーキングにはそれぞれ2体が襲い掛かる。

 

「各個撃破だ」

 

リスティの言葉に6人もまた散開する。

給水タンクの上で、多聞天がつまらなげにその様子を覗っていた。

 

 

 

 

 

市民病院のメインである東棟より離れた西棟屋上。

驚異的跳躍力でそこまで跳んだホッパーキングは、2体の梟男に苦戦していた。

武器は持っていなかったが、2体の梟男は地上と空中からの巧みな連携でホッパーキングを追い詰める。

 

「くそっ」

 

『M.R.ユニット』のサイドボックスに手を伸ばし、中からメモリーカードを取り出そうとする。

しかし――

 

「させんっ」

 

空中にいる梟男の爪がホッパーキングを襲った。

まるで『M.R.ユニット』の特性を知っているかのように、梟男はメモリーカードの挿入を阻む。

 

「クッ」

 

なんとか反撃を徒手で試みるも、俊敏な梟男には当たらない。

 

「くらえっ! 殺人レントゲン!!」

 

梟男の両目から怪光線が放たれる。

間一髪でそれを躱すも、怪光線を浴びたコンクリートは鉄の骨格を残して焼失してしまった。

その威力に、ホッパーキングの肩が震える。

 

「これじゃわざわざフランスに行った意味がないな」

 

少なくとも、自分の所属していた部隊にこんな兵器はなかった。

呟く間も振り下ろされる鋭い爪。

 

「とりあえずどっちかの戦力を低下させないと……」

 

ホッパーキングが跳躍して殺人レントゲンを躱す。

給水タンクを背にしたところで構えて、反撃に転じた。

 

「はあっ!」

「当たりませんよ!」

 

地上の梟男にストレートを繰り出すも、翼を広げて空へと舞った梟男に躱されてしまう。

しかし、そのまま背後へと回った梟男に上段の回し蹴りをヒットさせる!

 

 “メシャアッ!”

 

「!?」

 

空中を飛んでいたため威力は半減だが、それで充分。

空中で仰け反るというのも変な言い方ではあるが、その若干の隙を狙ってホッパーキングが拳を繰り出す!

 

“バキィッ! メコォッ! ズシャアッ!”

 

間髪入れずの3連撃。

空中の梟男が殺人レントゲンを放つ。

跳んで躱し、給水タンクを踏み台にしてさらに跳躍!

梟男よりも高い高度を得たホッパーキングは、そのまま梟男を蹴りつける。

 

「が……っ!」

 

地面に叩き付けられる梟男。

2体の梟男を一箇所に集めて、ホッパーキングはようやくサイドボックスへと手を伸ばした。

中からシャイニングソードのメモリーカードを取り出し、『M.R.ユニット』へとインサートする!

 

Now lording……Weapon call……Shining sword !

 

召喚されたシャイニングソードを逆手に持ち、ホッパーキングが跳躍する。

2体の梟男も飛び立ち、鋭い爪、そして殺人レントゲンの牙を剥いた。

空中で交差する3体の獣。

勝負を制したのは―――ホッパーキングだ!

まるで鏡面のような輝きを秘めたシャイニングソードの刀身に反射した殺人レントゲンの光を浴びて、2体の梟男を呻き声を上げる。

ホッパーキングはシャイニングソードを足元に刺して、跳躍した!

空中で一回転し、左足を突き出す!

 

「レジェンド・オブ・ウインドキック―――!!」

 

風が嘶き、王者が牙を剥く。

深緑の弾丸が空を裂き、2体の梟男へと命中した!

 

「ぐぅ……ガアアアァァァーッ!」

 

 “ドゴオオオォォォォォンンッ!!!”

 

叫び声を上げて爆発四散する梟男。

辛うじて衝撃に耐えたもう1体の梟男も瀕死の状態だ。

梟男の視線が宙を泳ぎ、東棟の屋上までいって、止まった。

 

「た…多聞天様ぁ……グアッ!」

 

“ドゴオオオォォォォォンンッ!!!”

 

断末魔の声を残し、もう1体の梟男も爆発する。

ホッパーキングは踵を返し、いまだ戦闘を繰り広げているであろうデルタハーツの元へと向った。

 

 

 

 

 

「グアッ!」

 

イエローの放ったブレードの一閃に、梟男が苦悶の声を上げる。

すかさずその背後を別の1体が襲うも、ブルーの援護射撃によって阻まれ、撃ち落とされる。

さらにそこをブラックの攻撃が襲った。

当初こそ散開して梟男の相手をしていたデルタハーツだったが、単体での戦闘では分が悪いと出て、チーム戦に望んでいた。

結果としてこの作戦は功をそうし、5対5のこの戦いはデルタハーツの優勢であった。

 

「はあっ!」

 

ホワイトブーメランが空中へと飛び立つ梟男を叩き落とす。

その落ちる瞬間を狙って、ブルーのブルーアローが光子を放つ。

地上へと叩き落とされた梟男達はたちまちイエローとブラックの餌食となっていった。

また、レッドと久遠のコンビは梟男達の削り役として頑張っている。

 

「美由希! 美緒! 梟男達を一箇所に集めるんだ!!」

 

リスティの声に2人は頷き、それぞれの必殺技を放つ!

 

「りゃぁああッ!」

 

 

――小太刀二刀御神流、『雷徹』!

 

 

2重にして放たれた徹の威力が3体の梟男を10メートルも吹き飛ばす!!

 

「ブラックブレイク!!」

 

ブラックの両手にはいささか大きなブラッククローで2体の梟男を串刺し、地面に叩き付け、引き摺り飛ばす。

同じように10メートル跳んで、梟男達はイエローの吹き飛ばした梟男と空中でぶつかった。

 

「さ~て……」

 

ホワイトが梟男達を舐めるように見回して、

 

「ボク達の最終兵器……見せてあげるよ!」

 

指を“パチン”と鳴らした。

 

“ゴオオオオオオオオォォォォォォンンッ!!!”

 

爆音とともに現れるデルタアクセル。

 

「久遠、頼むよ」

「まかせて」

「じゃ、フォーメーション……デルタカノン!」

「……カノン」

 

久遠の声とともに、デルタアクセルが空に浮き、変形を始める!

4つのタイヤが折りたたまれ、フロントから巨大な砲身が出現する。

巨大なトリガー付きのグリップがひとつと、4本のグリップが出現し、デルタアクセルは究極兵器……デルタカノンへの変形を完了した。

 

「わ、わたしのアクセルが……」

「これがボク達が6年前の戦いで使っていた最終兵器……デルタカノンだ!」

 

リスティが念を篭め、デルタカノンを動かし、手元へと寄せる。

念能力は移動よりも攻撃の方に優れているリスティに、これほどの物を動かすのはいささか苦痛ではあったが、久遠によって念を増幅された今の状態ならば楽に動かすことが出来る。

以前の久遠にそんな能力はなかったのだが、これも一重に忍の改造……ゴホンゲフンッ!……もとい、修行の賜物であろう。

ブルー、イエロー、ホワイト、ブラックの4人はデルタカノンのサイドトリガーを握り、レッドがメイントリガーをしっかりと握る。

瞬間、5人の体からエネルギーが流れ込み、デルタカノンが光り輝いた。

ロックオンマーカーが放たれ、梟男達の体を貫き、その場に縫い付ける。

 

「標準セット!」

 

ブルーがモニターで目標を補足し、

 

「エネルギー出力74%なのだ」

 

ブラックがエネルギー値を確認する。

 

「各部機動チェック異常はありません」

 

イエローが動作の確認をして、

 

「よ~し那美! 頼んだよ」

 

最後にホワイトがレッドを促がした。

 

「はい! デルタカノン……シュート!!」

 

レッドがトリガーを絞って、閃光が放たれた!

 

『ウ、ウアアアァァァーーーーッ!!』

 

8万気圧、120万度の純粋エネルギーの光弾は梟男達を貫いて……

 

“ズドシャアアアアアアァァァァァァァァァァンンンッッ!!!!!”

 

異常なまでの大爆発をして、消滅した。

 

 

 

 

 

「……おい」

「む?」

「やられてしまったではないか!」

 

牙龍の言う通り、7体の梟男は善戦したものの倒されてしまった。

シニカルに顔を歪め、牙龍は踵を返す。

 

「もういい! 主賓とやらが来ようが来まいが、この話はなかったことにさせてもらう」

「……待て」

 

多聞天の制止も振り切って、牙龍は歩き出した。

 

「が、牙龍! 見て!!」

 

翼龍が声を上げ、牙龍を引き留める。さすがの彼も、仲間の焦ったような声を背中にかけられては、無視するわけにもいかない。

何事かと牙龍は翼龍の傍まで駆け寄って、地上を見下ろした。

 

「……ふむ。やっと来たか」

 

いたって冷静に視線を送りつつ、多聞天はやや芝居のかかった口調で、

 

「さあ、本日のメインイベントだ」

 

下界を見下ろす3人の、視線の先……

そこには――――

 

 

 

 

 

“ザ……ッ”

 

デルタカノンによって土だけとなった広場の一画……。

ホッパーキングとデルタハーツはそこに動く人影を見た。

直接の爆発はおさまったとはいえ、まだ周辺の気温は高く、とても人が立っていられる環境ではない。

6人は自分達の目を疑った。

しかし、仮面やヘルメットに取り付けられたゴーグルやバイザーのセンサーはそこに人間がいることを示している。

 

「嘘……だろ」

 

最初に反応したのはホッパーキングだった。

そして次にホワイトが……

 

「伊波田……なんで…………」

「久しぶりね、LC-20」

「遊、お前っ!」

「ああ…たしかキミは相川君……だったね」

 

巻き上がる砂塵と黒煙の中から出てきたのは忘れることすら憚られる憎き敵。

白衣を着た女性……伊波田と、日本人離れした美貌の青年……氷村遊はシニカルに顔を歪ませ、ホッパーキング、そしてデルタホワイトを嘲笑った。

そしてもうひとり―――

 

「相川先輩、お久しぶりです」

「キミは……たしか、稲森さんだったっけ?」

「あはは。違いますよー。稲原真琴です」

 

彼女は出会った時と寸分変わらぬ笑顔で、ホッパーキングに笑いかけた。

その笑みに、背筋が凍りつく。

思わぬ相手との再会に、真一郎とリスティは混乱し、1歩2歩とあとずさった。

 

「あ、相川さん!?」

「り、リスティさん!?」

 

とても平静とは言えない2人に、4人も心配そうな表情を浮かべる。

しかし次の瞬間、その表情は凍りつき、驚愕の色に染まった。

視線は3人の手に注がれ、片時も動かない。

3人が片手にした……“ソレ”は、6人にとって、誰もが見慣れたものだった。

 

「こんなに早く復讐の機会が巡ってくるなんて思わなかったよ」

 

遊がその瞳を紅に染め、“ソレ”を腰の辺りへと持っていく。

 

「LC-20、今ならまだ許してあげるわよ?」

 

伊波田が“ソレ”に備えられたスイッチを押す。

すると、“ソレ”からは機械で編集された女の声が流れ出す。

 

M.R.unit start up…… Please set changing memories card.

 

その声は酷く冷徹に、無情を孕んでいた。

少なくとも、真一郎達にはそう聞こえた。

 

「では、さようなら。相川先輩」

 

物腰も丁寧に、真琴はサイドボックスからメモリーカードを取り出した。

まるで機械のように寸分の狂いもなく、3人は同様にメモリーカードをインサートする。

 

Now lording……Type bat system standing by.

Now lording……Type spider system standing by.

Now lording……Type vixen system standing by.

 

たちまちベルト状に展開して、『M.R.ユニット』は3人の腰へと巻かれる。

ベルト状に変貌して初めて判ったことだが、その中央には赤く輝く宝石が嵌められていた。

 

Please say metamorphosis code……』

 

アナウンスに促がされ、彼女達はその言葉を口にする。

戦うための姿へと“変身”するための、その一言を……。

 

『変身―――!』

 

刹那、閃光が放たれると同時に彼女達の身を激痛が苛んだ。

その姿が人間のそれから、異形の“ソレ”へと変身していくのを見て、ホッパーキングが目を背ける。

デルタスーツを装着して初めて視認出来たその光景に、デルタハーツの面々は思わず口を覆った。

骨格がバキバキに砕け、肉が融解し、内蔵が形状と機能を変化させる。

麻酔無しで行なわれるその“儀式”は、想像を絶する痛みを伴うであろう。

イエローは思わずホッパーキングを見た。

ホッパーキングは……否、真一郎は、そんな痛みにまで耐えて、変身しているというのだろうか?

ヘルメットの中で、薄っすらと涙が浮かんだ。

やがて発光もおさまり、6人の前に、変身を完了した3人が現れる。

 

「……待たせたね」

「じゃあ、初めましょ」

「いきますよ、先輩♪」

 

遊は蝙蝠に。

伊波田は蜘蛛に。

真琴は狐に。

それぞれ“変身”して、彼女達は笑みを浮かべる。

 

「う……」

 

コブラ男達との戦闘時間は約15分。

梟男達との戦闘時間が約10分。

合計して約25分。

タイムリミットまで5分を切って、ホッパーキングは危機に立たされていた。

また、デルタハーツもこの3人を相手にどれだけ戦えるか分からない。

彼らの戦いは、最悪の事態を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

――富士山麓・国際空軍極東支部――

 

 

 

 

 

「―――はあ、それじゃこの皆さんがバラノイアから地球を守ってくれたんですね」

「愛さん…。仮にも同じ時期に戦っていた、それもほとんど英雄扱いの、同じ空軍の同僚なんだから。……すいません、本当に」

「いえ、お気になさらず」

 

妻に代わって頭を下げる耕介に、超力戦隊の面々は苦笑いを浮かべる。

その傍らで耕介から一通りの説明を受けた愛は、一応は納得したらしく、感心したように頷いていた。

どうやら愛は、素で『バラノイア戦争』の英雄のことを知らなかったらしい。

 

「―――そろそろいいかね?」

「あ、は、はい!」

 

すでに控えていた三浦参謀長官の言葉に思わず直立になる。

大船団ゴズマ以来の地球規模の大侵略に立ち向かい、超力戦隊オーレンジャーを導き、戦った彼の存在はもはや伝説に近い。

参謀長官という階級にも関わらず、実質的な極東支部の長官である事実も、その伝説に拍車をかけている。

真偽の程は定かではないが、『三浦参謀長官はかつて“電撃隊”なる組織の隊長をやっていた』とか、『かつて三浦参謀長官は“宇宙刑事”として全宇宙のために戦っていた』という噂まであるほどだ。

半民間組織とはいえ、一応、国際空軍の人間である耕介もまたそういった伝説の信望者であった。

 

「そ、それで三浦参謀長官、自分に何の用でありましょうか?」

「ああ…それなんだがね……」

 

耕介は三浦参謀長官の一挙一動を見逃すまいと、耳目に集中する。

 

「大変言いにくいことなんだが……」

「なんでもおっしゃってください。自分は三浦参謀長官のためならば何だっていたします。ここで裸になって踊れと言われればやりましょう」

 

誰もそんなことは望んでいない。

耕介の場を和ませる言動に三浦参謀長官もふっと表情を緩めて、再びすぐに引き締めると、耕介に向って衝撃の言葉を放った。

 

「―――槙原耕介君。きみを、特殊機関さざなみの長官職から解任する!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~設定説明~

 

“デルタカノン”

 

デルタアクセルが変形することで完成する強力プラズマバズーカ砲。

かつての鳥人戦隊のジェットストライカーを元に忍がデルタアクセルに改造を施した。

変形の際はリスティ、もしくは那美の念を久遠が増幅して送り込み、変形。

大気中から吸収したイオンと、5人のエネルギーを融合してプラズマ化、8万気圧、120万度のプラズマブレッドを発射する。

 

 

“コブラ男”

 

身長:210~230cm 体重:117~137kg

 

中期改造人間。

伸縮自在の右腕と、毒液、牙が武器。

オリジナルのような溶解ガスや、火炎は吐けない。

 

 

“蠍男”

 

身長:175~195cm 体重:84~104kg

 

中期改造人間。

その形状からさそり男というよりは配下の人食い蠍のデータを元に改造されたと思われる。

尾から人間を溶かす毒液を放つ。

また、カニバブラーほどではないが強靭な装甲をもつ。

 

 

“カニバブラー”

 

身長:170~190cm 体重:70~90kg

 

初期改造人間。

強靭な甲羅と怪力が武器で、鋏をハンマーのように扱う。

オリジナルと違い、泡を吐く能力はない。

 

 

“梟男”

 

身長:160~180cm 体重:50~70kg

 

後期改造人間。

俊敏な動きで敵を翻弄し、鋭い爪、もしくは殺人レントゲンによる攻撃を得意とする。

翼は腕と一体になっており、腕の筋肉で空を飛ぶため、意外にも怪力。

人間としての知性を保ち、改造された人間によっては武器の使用も可能。

 

 

 

 

 

 

~あとがき~

 

Heroes of Heart第13話、お読みいただきありがとうございました!

やっと1クール終わりました。結構長かったですねぇ~。

1クール最後の話ということで、今後の展開のために、様々な布石をあちこちにちりばめております。

また、ついに『ヘルショッカー』四天王が動き出しました。つまるところそれは、必然的に“あの男”が動き出すことを示しています。

そしてついに出てきた超力戦隊オーレンジャー!

今回、会話はありませんがついに特撮のキャラクターが出てきました。

これもまた第2クール以降への布石であります。

では、今回もやたら長ったらしい駄文をお読みいただきありがとうございました!!

この作品を読んでくださったすべての皆様に感謝ぁっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが動き出そうとしていた……。

何かが動こうとしていた……。

張り巡らされた陰謀と謀略。

閃光とともに揺らめき、散り逝く者達。

再来せし地獄の軍団と龍の民、そして立ち向かうは三心の戦士達。

歪められた命と、宿命に怯える復讐鬼。

大地を揺るがし出現する異形達と、ただひたすらに拳を振るう巨人。

怨念に突き動かされし者と、復讐に燃える飛蝗。

古より目覚めし青き龍と、神すらも殺す破壊王。

海鳴の地に集結せし歴戦の勇者。

迫りくる災厄に、戦士達は打ち勝つことができるのだろうか……?

 

 

 

 

 

Heroes of Heart

 

 

 

~ハートの英雄達~

 

 

 

第二部

 

 

 

――甦る伝説――

 

 

 

第拾四話「それぞれの戦場」

 

 

 

三心に導かれし者達よ、今こそ語ろう。

 

 

 

三心の下に集いし、英雄達の物語を……。






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