注)このSSは独自の設定に基づいて構成されています。原作とはまったく違う設定で書かれておりますので、そういったものが嫌いなお方はプラウザの『戻る』を押して下さい。それでも読んで下さる奇特な方は、どうぞ下へとお進み下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テレビを見る時は部屋を明るくして離れて見てね(笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これで、終わりだ」

 

ヤマアラシが槍を作り、レッドの喉元に突き立てる。

 

「あ、ああ……」

 

――恐怖。

生まれながらにして生物の本能に叩き込まれた、原始的な、それゆえに強力な感情。

圧倒的な実力差を前にして、レッド――那美の足は竦みあがっていた。

指一本、動かすことも出来ない。

 

「死ね……」

 

ヤマアラシが槍を振り上げる!

 

「恭也さんっ!」

 

死の直前、那美は自身の想い人の名を叫んだ。

 

 

 

 

 

……その時、一陣の赤い風が流れた。

 

 

 

 

 

「グアァッ!」

 

苦悶の声を上げるヤマアラシ。

 

“グシャアッ”

 

誰もが、信じられぬ思いだった。

助けられた那美すらもが、その音を絵空事のように聞いている。

 

 

 

 

 

そこに立っていたのは1人の青年だった。

赤い、紅蓮の如きカラーのバイクに跨る、全身黒尽くめの青年。

ヤマアラシの手首を握り潰し、怒りの形相を露わにしている。

サングラスに隠されたその顔に、那美は見覚えがあった。

 

「恭也……さん?」

 

そんなはずはない。

目の前の青年は、たしかに彼に似ているが、雰囲気がまるで違う。

 

「な、何者だ! 貴様ァッ!?」

 

ヤマアラシの問いに、青年は答えない。

そして一言、殺意と憎悪を篭めて、

 

「『龍』……貴様らだけは……許さん!」

 

ヤマアラシの胸を殴り飛ばした!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Heroes of Heart

〜ハートの英雄達〜

第二話「漆黒」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信じられない気分だった。

目の前の男は、生身で、鋼鉄すらも貫く針を弾き飛ばしたかと思うと、あまつさえ自身の手首を握り潰し、殴り飛ばしてくれたのだ。

ヤマアラシの中で、得体の知れない存在に対する恐怖と、憎悪の感情が芽生える。

ベルトの龍の彫刻が、さらに黒く染まっていく。

 

「シャァッ」

 

跳躍。

距離を取ってから、全身の毛を逆立たせ、針へと変貌させる。

 

「あれはっ!」

 

遠巻きに見ていたブラックが叫ぶ。

自分達をここまで追い詰めた、最悪の技。

その威力を、彼女達は身をもって知っている。

 

「“血殺針雨”!」

 

万有の法則に従って、数百もの針が降り注ぐ。

針の数も、密集度も、先刻のおよそ数倍はあろうかという、針の嵐だ。

 

「……失礼します」

「え?」

 

青年はレッドの小柄な体を抱き上げると、あろうことか豪雨の中に身を投じていった。

 

「嘘、だろ……」

 

降り注ぐ針の雨。

その中を、青年は疾走していく。それも無傷で。

鈍い光沢を放つ無数の水滴を、なんと青年はすべて躱していった。まるで針の方が青年を避けているかのように、まるで青年には予め針の軌道が読めているかのように。その動きは流麗で、無駄がない。

 

「グッ……ならばっ!」

 

二度目の跳躍。

瞬間、ヤマアラシの体が弾丸と化した!

 

「これが……躱せるかっ!!」

 

 

――“疾風針貫”!

 

万有の法則に従うだけの“血殺針雨”とは違い、自在に速度を変化できる技。

速度は……先刻の倍の、時速400キロ!

 

「……レッドスター!」

 

“ギュゥゥゥゥゥンンンッ…………ガガガガガッ!!!”

 

「ガァハッ!」

 

背後からの物凄い衝撃! 赤いオフロード・バイクが大地を蹴って宙へと跳び上がり、ヤマアラシが必殺の突進攻撃を繰り出すために必要な回転数を得る前に、背後から突撃したのだ。

たまらず血反吐を吐き、回転を止めるヤマアラシ。

そして生じたその隙を、青年は逃さない。

 

「来いっ、レッドスター!」

 

主の命を受けた赤き流星は、そのまま背後からヤマアラシを襲撃し、その身体を主の元へと運ぶ。

祭壇に捧げられた生贄は、渾身の一撃を腰溜めに構える神の元へと連れ去られた。

 

「ぬぉぉぉぉぉおおお!!」

「はぁっ」

 

青年の拳が、ヤマアラシの鳩尾に極まった!

打点をわざとずらす事により、衝撃を外側ではなく内側へと浸透させる拳撃。

外からの拳と、背後からの猛進。そして、内部で対流する衝撃。

それら3つのエネルギーが、強烈なダメージとなってヤマアラシを襲う。獣の口から人間のものと同じ赤い血が噴出し、鋭い歯と、突き出した顎を汚す。

 

「ぐふっ…………」

 

すかさずバックステップで距離を取る青年。

ダメージに身悶えしながらヤマアラシが放った手刀は、虚しく空を切っていった。

 

「き・さ・まぁ!」

 

毛の1本を針へと変え、青年を睨み付ける。

ベルトの龍は……爛れた黒。

ヤマアラシの体から、今までにはないほどの殺気が放出される。

 

「死ネェェェェェエエエッ!!!」

 

ヤマアラシが針を振り上げ、そのまま投擲した。

究極の域にまで洗練された鋭い針が、空気を切り裂いて飛んでいく。

 

“ガシッ”

 

――――だが、その針が青年へと飛ぶ事はなかった。

青年とヤマアラシの中間あたりで、針は動きを止め、そのまま地面に叩き付けられる。

そして、そこには1人の男がいた。

 

「落ち着け、“針龍”」

「が、“牙龍”……」

 

“牙龍”と呼ばれた男の登場に、デルタハーツの面々が凍りつく。

青年を除き、ヤマアラシ……“針龍”さえも含めた全員が、彼の接近に気が付かなかったのだ。

 

「冷静になれ、針龍。泉を邪悪で染めたところで、何も実りはせん。我らの目的……よもや忘れたか?」

 

急速に、針龍の体から、そして心から熱が引いていくのが感じられた。

ベルトの龍が、黒から灰色へ、灰色から青へと変色していく。

 

「……すまん」

「謝罪はよい。…それよりも、今の貴様は消耗が激しい。一旦、退くぞ」

「ああ」

 

頷いて、跳躍する2体の龍。

そして牙龍は、振り向き様に一言。

 

「…縁があれば、また会おう」

 

そう言い残して、2体の龍は去っていった。

残された戦士達は、ただ呆然とするだけ……。

 

“ブォオンッ!!”

 

戦士達の意識を現世へと呼び戻したのは、轟くバイクのエンジン音と、アイドリングの音。

デルタハーツの5人は、即座に音のした方へと視線を向ける。

 

「……」

 

戦闘が終わって愛車に跨り、その場を去ろうとする青年。

 

「ま、待って下さい!」

 

デルタレッド――那美の声が、青年の後ろ姿を引き留める。

 

「あ、あなたは…………」

 

言葉を選ぶようにして言いよどむ那美。

やがて、意を決したように、

 

「あなたは……高町恭也という人を知っていますか?」

「…………」

 

デルタハーツの全員が、ゴクリと唾を飲んだ。

青年はしばしの逡巡の後、

 

「知りませんね。そんな男は……」

 

と、絶望の一言を告げた。

 

 

 

 

 

――海鳴市・さざなみ女子寮――

 

 

 

 

 

“カタカタカタッ”

 

暗く、狭い密室。

その室内に、軽快にキーボードを打つ音が鳴り響く。

そこはさざなみ寮地下のコンピュータールーム。

国際空軍U.A.のマザーコンピューターに直接アクセス出来る、高性能コンピューターが設置されている場所である。

その部屋で、1人、光介はひたすらキーボードを叩き続けていた。

耕介が調べているのは、国際空軍本部にある、マザーコンピューターにインプットされた過去の資料だ。

数百万というファイルの羅列の中、ひたすらに目的のファイルを探し続ける。

――と、ディスプレイにとあるコードが映ったところで、彼の指が止まった。

 

“ファイルナンバー4008823”……情報公開レベル・クラスXXX。

 

クラスXXX――一般への公開禁止。

長官としての、自身のパスワード。それが、資料回覧のための鍵となる。

耕介は慎重に12桁のコードを入力して、プロテクトを解いた。

画面上に、ファイルのタイトルと思わしき文章が表示される。

 

 

 

―――――ファイルナンバー4008823―――――

 

未確認生命体『龍』に関する調査報告書

 

2000.3−2002.2

 

 

 

耕介は、額に汗が浮かぶのを感じながらファイルの閲覧を開始した。

 

 

 

 

 

――海鳴市・海鳴商店街

 

 

 

 

 

よく利いた空調と、人の熱気に包まれる店内。

洋菓子専門店『翠屋』では、店長の高町桃子が嬉しい悲鳴を上げていた。

休日のランチタイム、店内には『翠屋』特製の洋菓子目当て、昼食目当てに、多くの人々が詰め寄せている。

その翠屋の一画で、那美は親友の高町美由希と向かい合っていた。

 

「すいません、突然お邪魔して。…それもこんな忙しい時に」

「べつにいいですよ。それより、話って?」

「はい、実は――」

 

那美は昨日の針龍との出来事を話した。

『龍』という強大な敵の復活。

自分達の攻撃がまるで利かなかった事。

自分達を助けてくれた青年の事。

そして、その青年が高町恭也に似ていた事。

美由希は、予め那美がデルタハーツのデルタレッドであることを彼女自身の口から聞かされていたので、話は滞りなく進んだ。

 

「サングラスを掛けていたので、はっきりとは分からなかったんですけど…」

 

申し訳なさそうに言う那美。

美由希は、慌てた様子で那美を慰める。

 

「そ、そんな! 那美さんが悪いわけじゃありませんよ!」

「でも……」

「ああっ、さ、これでも飲んで元気出して下さい!」

 

そう言って、自分の紅茶を薦める。

まだ煎れたての、熱〜いレモンティーだ。

どういうわけか、那美はそれに気付かない。

 

「ありがとうございます」

 

そう言ってぐぐっと一気に飲み干そうとして……爆発した。

 

「※●×△※■×★☆▲◯っ!?」

 

まさか吐き出すわけにもいかず、那美は声にならない悲鳴を上げる。

舌がヒリヒリするのを感じながら、ゆっくりと、少しずつ飲んでいく。

頭上に?マークを浮かべている美由希。

やがて、全てを飲み干した那美に、

 

「信じてますから…………」

「…え?」

「信じてますから。みんな、恭ちゃんの事……」

「…美由希さん」

「だから、晶もレンも、なのはも。みんな、恭ちゃんが死んだなんて信じてません」

 

かすかに寂しさを孕んだ微笑で、

 

「それに、たとえ那美さんが会ったその男の人が恭ちゃんだったとして、その人がそれを否定したとしても、わたしは信じません。なにせ――――」

 

にこやかに、美由希は言った。

 

「うちの兄は意外とうそつきですから」

 

舌先に残るかすかな痺れを感じながら、那美は心が暖かくなるのを感じた。

 

 

 

 

 

――????――

 

 

 

 

 

……海鳴市からそう遠くないその場所に、その洞窟は突如として出現した。

兆候らしい兆候は何ひとつなく、文字通りそれは突然出現した。一般的に世間を支配している物理を超越して、長く、広い洞窟がひとつ、まるごと瞬間移動したのだ。

自然現象ではない。明らかに人智の理を超越した技術によって引き起こされた現象だ。

しかも、出現した洞窟は尋常のそれではなかった。

カッパドキアの地下都市を彷彿とさせる、蟻の巣のような深い洞窟だった。最深部にいたっては、外部からはそれがどれほど深い位置にあるのかすら分からない。地上と洞窟の中とを結ぶ唯一の入口は、まるで東洋の龍の顎を連想させる造りをしており、奥の方から吹き出す生温かい風は、さながら龍の息吹といった風だった。

光源らしい光源など何一つないその場所で、しかし純白のキトンを着た仮面の男を、薄っすらと青い光が照らしていた。

仮面の大男は、蟻の巣の一室で、ひとり呟いた。

 

「揃ったか……」

 

男が地下の空気を自らの吐息で攪拌させると同時に、周囲に、突如として複数の気配が出現した。

傍らに集うは9人の男女。

その中には、あの牙龍の姿もあった。

 

「我らが神の目覚めは近い。贄を、もっと良質の魂を集めよ」

「お言葉ですが『大祭司』。我らが神の魂が目覚めたところで、神の宿りし器がなければ本来の力を出す事は難しいかと」

 

牙龍の声。

祭の時に使うような神々しい衣裳を纏ったその姿は、古代中国の皇帝の如き風格すら漂っている。

 

「案ずるな。そちらの件はすでに兄御らに任せてある。我らは、ただ贄を差し出すだけでよい」

「……出すぎた言葉だったようで」

「よい。…それよりも、針龍の姿が見えぬが?」

 

大祭司の言葉に、牙龍と同じような服を着た女性が答える。

 

「針龍でしたら“断魂”に行きました」

「そうか。ところで牙龍。ネズミが……否、“人形”が一匹、我らの周辺を嗅ぎ回っているようだな」

「人形……で、ありますか?」

「うむ。闇の科学より出でし人形よ」

「分かりました。早速、調査に入ります」

「うむ。……他の者達は通常の任に就くがよい」

『承知!』

 

大祭司は強いた。

9つの影は、有無の言葉もなく散っていった。

 

 

 

 

 

――海鳴市・オフィス街――

 

 

 

 

 

壊滅したオフィス街の復興に勤しむ、国際空軍U.A.の職員達。

その瞳が、まるで幽霊でも見たかのように見開かれる。

その、視線の先には――――

 

「さぁ、その魂を神の御許へ送ってくれよう」

 

自身の毛を針へと変えた、人の形をしたヤマアラシがいた。

 

 

 

 

 

 

――海鳴市・さざなみ女子寮――

 

 

 

 

 

さざなみ寮地下の秘密基地で、荒々しい警報の音が鳴り響く。

司令室に入るなり、招集されたリスティは声を荒げた。

 

「愛! 敵が現われたってっ!?」

「ええ。……海鳴市オフィス街。昨日と同じ場所です」

 

言って、モニターに敵の情報を映し出す。

そこには――――

 

「針龍……!」

「あいつ、なんでまた……」

「と、とにかく行きましょう!」

 

那美の言葉に真雪を除いた全員が頷き、一斉に動き出す。

真雪は、怪訝な表情で周囲を見回しながら、

 

「耕介はどうした?」

 

と、言った。

 

「耕介さんは……調べ物があるからってコンピュータ室に」

「奴らの事について……か」

「ええ」

「真雪さん! 早く行きましょう!」

「ああ! 今行く!」

 

那美に急かされ、しぶしぶ顔で退出しようとする真雪。

部屋を出る寸前、彼女は言った。

 

「愛」

「はい。なんですか?」

「耕介の事……いざとなったら頼むぞ。あいつは……何かあったら1人で溜め込むタイプだからな」

「はい。分かっていますよ」

 

そう言って、にっこりと笑う愛。

真雪は、ぷいっと振り返り、那美達のあとを追う。

 

(…やっぱ、勝てねぇわ)

 

愛の笑顔を見ていると、なんとなく自分が敗北した理由が分かってくる。

真雪もまた、かつて槙原耕介という青年を愛していた。

しかし、耕介が選んだのは愛だった。

当時はその事に、自分でも驚くほど荒れたものだが、今にしてみれば分かるような気がする。

愛にあって、自分に無いもの。耕介は、それを求めたのだ。

それは――――

 

 

 

 

 

――国守山――

 

 

 

 

 

国守山山中に敷かれた一軒のテント。

愛車のホンダXR250を傍らに、黒尽くめの青年は河原で釣りをしていた。

本日の夕飯なのだろうか?

バケツの中には数匹の小魚が窮屈そうに泳いでいる。

 

「…………『龍』が動いたぞ」

 

不意に、そんな声がした。

青年の背後に、187センチはあろうかと思われる長身の男が立っている。

サングラスと帽子によって隠されたその表情は見て取れない。

かろうじて、闇色のライダースーツを着ているところから、彼もまたバイク乗り……ライダーであることが分かった。

背を向けたまま釣りに興じる青年。

やがて、その釣り針が一匹の魚を吸い寄せたかと思うと、青年はおもむろに立ち上がった。

 

「…惜しいことを。今夜の晩飯なのだろう?」

「今日の分は確保できましたから。無闇な殺生は、なるべくしたくありません」

 

バケツを手に取り、男に渡す。

テントの中に置いておいてくれ、という意味だろう。

青年は愛車に跨ると、何気無しに言った。

 

「俺はあと……どれぐらい生きられるんでしょう?」

「……」

 

一瞬言葉に窮する男だったが、彼は一拍おいて、静かに答える。

 

「……分からん。お前の“改造”は未熟な設備と技術によって行なわれたものだ。スペックはともかく、一回の“変身”で、多くの細胞エネルギーを消耗することになる。なにより――」

「『玄武の呪い』ですか?」

「……すまんな。お前をこんな事に巻き込んで」

「いえ、気にしていませんよ」

 

言って、黒尽くめの青年はバイクのエンジンをキックする。

 

「……………………」

 

エンジン音に掻き消される青年の言葉。

それ以上、青年は語ることなく去っていった。

己の、戦地へと……。

残された男は思う。

 

 

 

 

 

『どうせ一度は死んだ身ですから』

 

 

 

 

 

「……そんな自虐的な考えではいずれ身を滅ぼすぞ。不破……」

 

男の呟きは、エンジンに掻き消されるでもなく、空へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

――海鳴市・オフィス街――

 

 

 

 

 

“ギシャァッ!”

 

ただ一度、肉を引き裂き、捻じ切るような音。

たったそれだけの行為で、また1人、この世の者ではなくなっていく。

 

「…これで、最後か」

 

辺りに転がる死体の山。

一思いに心臓を一突きされた死体は、それでもなお生きようとしたのだろう。様々な形相を浮かべていた。

恐怖。

絶望。

怒り。

憎悪。

悲哀。

至福。

あるいは、無表情の死体すらある。

 

「昇れ、魂よ。東の空へと天高く、我らが神の御許へ逝くがよい」

 

ベルトの龍は透き通った蒼。

その瞳に映るは慈愛の色。

昨日とは明らかに雰囲気が違う。

 

「……来たか」

 

ふと、背後より5つの気配を感じて振り返る。

やがて針龍は言った。

 

「さぁ、仕切り直しといこうか」

「いくよ、みんな!」

 

リスティの声に、全員が右手を掲げ、叫ぶ。

 

『三心覚醒!』

 

瞬間、彼女達の姿が光に呑み込まれる!

光の消えた時、そこに彼女達の姿はない。

あったのは――――

 

「デルタレッド……ナミ!」

 

「デルタブルー……マイ!」

 

「デルタイエロー……マユキ!」

 

「デルタホワイト……リスティ!」

 

「デルタブラック……ミオ!」

 

 

 

 

 

人を慈しむ優しき想い。

 

 

 

 

 

何の変哲もない日常をともに暮らしたいという願い。

 

 

 

 

 

そして、何かを守りたいという、強い意志。

 

 

 

 

 

「三心戦隊デルタハーツ!」

 

 

 

 

 

三つの想いを背負って戦う、5人の戦士達が誕生した!

 

「まずは……これを食らうがいい」

 

そう言って、針龍は懐より、なにやら種のようなものを取り出し、辺りにバラ蒔く。

 

「?」

 

デルタハーツの面々が不思議そうにそれを見た。

瞬間、種が急速に成長を始め、その姿が、植物の姿とは似ても似つかない異形の怪物へと変貌していく。

その数、およそ20体。

 

「……“龍魔”。龍の民の中でも、もっとも下級の兵士達だ」

「雑魚に用はないんだよっ!」

 

デルタイエロー――真雪が、イエローブレードとメタルブレードの二刀流で敵を薙ぎ倒していく。

それに続く他の戦士達。

……龍魔は、針龍の言うように彼ら『龍』が保有する戦力の中ではもっとも弱い戦闘員である。

しかし、その戦闘力は常人のそれとは比較にならないほど強く、なによりしぶとい。

その溢れんばかりの生命力は、デルタハーツの、通常兵器を遥かに逸脱した武器ですら、一発では倒せないほどだ。

人間相手ならば1分足らずで終了するはずの戦闘も、結局10分もの時間が経っていた。

 

「……ふぅ」

 

戦闘技術ではともかく、体力面では若い他の4人に劣るイエローが息をつく。

 

「見事だ」

「あはははは。それはどうも」

 

針龍の言葉に軽口で答えるブルー。

その様子を見て、イエローとホワイトが首をかしげる。

 

(こいつ…昨日とは明らかに違う)

(強くなってる?…そう言えば、今日はずっと青だ)

 

正確には蒼だ。

藍は青よりも青く、蒼は藍よりも青い。

ベルトの龍が、針龍の感情を示すメーターだとすれば、彼はそれだけ冷静だという証明である。

 

(……勝てるか?)

 

冷静さを欠いていた昨日の戦いですらこちらはかなりのダメージを被っていたのだ。

得体の知れない不安が、イエローの中でよぎった。

 

「参る!」

 

瞬間、針龍の体が弾丸と化した。

“疾風針貫”。

自らを弾丸と変え、針で突き刺す技。

その威力は、厚さ30センチの鋼鉄すら突き破る!

 

「速いっ!」

 

昨日の数倍。否、数十倍ともとれる速さ。

身軽なブラックですら、迂闊には動けないほどのスピード。

 

「たぁっ」

「やぁっ」

 

デルタハーツの共通装備……デルタブラスターと、ブルーアローの同時攻撃が針龍を狙う。

だが、破壊の閃光は空を裂くばかりで、肝心の針龍には当たらない。

 

「まずはお前だっ」

 

背後のコンクリートを突き抜けず、そのまま足場にして、突進する。

一瞬、反応が遅れてしまったホワイトは、回避することなく針龍の攻撃を受けた。

 

“ズシャァァァァァアアアッ!”

 

「うあっ!!」

「リスティさんっ!」

「だ、大丈夫だ……」

 

そう言う彼女だが、まったく大丈夫そうには見えない。

咄嗟にバリアーを張って防御したとはいえ、障壁を突き破られたダメージは大きい。

ズタズタに引き裂かれたスーツの下から、リスティの血に染まった白い肌が覗いていた。

 

「このやろうっ!」

「とりゃぁっ!」

 

イエローとブラックの同時攻撃。 

ホワイトのバリアーの作用か、針龍の移動速度は著しく低下していた。

その隙を、彼女達は逃さない。

だが、その刃が届くことはなかった。

 

「な、なに……!?」

「そ、そんな……」

 

イエローとブラックのメタルブレードを、2本の針が止めていた。

秒間3万5千回という超高速振動で高周波を発生させ、いかなる物体をも斬り裂くメタルブレード。

理論上はあらゆる物質を破断する刃を止めるとは、いったいその針にはいかなる神秘が篭められているのか。

 

「ふんっ」

 

針龍のハイキックが、2人の鳩尾に炸裂する。

体勢が崩れたところでさらに針による刺突。

イエローは足を、ブラックは肩を切られた。

10メートルほど吹っ飛ばされ、苦悶の声を上げる2人。

 

「美緒ちゃんっ!」

「仁村さんっ!」

 

他人を気遣う余裕すらない。

すぐさま針龍は動き出し、2人に接近。鳩尾に一発拳を叩き込む。

2人は同時に体勢を崩し、針龍に捕えられた。

 

「う、ううう、うう」

 

首への圧迫感。

いかに強化スーツで防御力を高めようと、いかに肉体を鋼の鍛えようと、首という急所は容易に防御出来る箇所ではない。

しかも、首を絞める針龍の握力は絶大だった。2人の細腕で、はずせるものでもない。

 

「このまま握り潰してやろうか?」

 

あくまで淡々とした声。

昨日の激昂の片鱗も見せない冷徹な態度。

彼女達からしてみれば、それは死刑宣告にも近かった。

針龍の太い腕に、力が篭もる。

 

“グシャアッ!”

 

そして、絶望の音が鳴り響いた……。

 

 

 

 

 

「グァァァァァアアア!」

 

……砕けたのは、針龍の腕だ!

 

「…っ……はぁ…………はぁ………はぁ……はぁ…はぁ…」

 

解放され、必死に横隔膜を上下させるレッドとブルー。

窮地を救ってくれた青年……不破に見向きもせず、ただそれだけを繰り返すのは、自らを生かそうとする生命の本能か。

 

「ククッ……ようやく来てくれたか。会いたかったぞ」

「俺は会いたくなかったがな……」

 

辺りに広がる凄惨な光景。

不破は、自分の中でふつふつとある感情が湧き立つのを感じた。

その感情の名は……『怒り』。

 

「…………」

 

ふと、倒れている死体の1人と目が合った。国際空軍の建設部隊の隊員に支給される、作業服を着ている。

既婚者なのだろうか? まだ真新しい銀色の指輪が左手の薬指にはめられている。

 

「……もういい」

 

どう足掻こうと、人間はいつか死ぬ。それは仕方の無いことだ。

死者には悲しみも何もない。ただ、生きていたという事実が残るだけ。

だが、残された者は違う。

遺族らは彼らの死に悲しみ、涙するだろう。

その悲しみを、彼は実体験として知っている。

 

「もう…たくさんだ」

 

“これ以上、人が悲しむのは”

 

それは青年の、心からの願い。

死者達の魂を背負って、彼は……叫ぶ。

 

「……変身!」

 

それは追憶の言葉でもなく、鎮魂の歌でもない、彼が、戦うための姿へと変わる呪文……。

 

 

 

 

 

胸の紋章は紅蓮の赤。大きな複眼は悲哀の青。全身を覆う装甲は、絶望の黒。

表情を覆い、彼の本心を隠すための仮面には、白い2本のラインが走り、2本の角が生えている。

そして、腰に携えた2振りの小太刀!

その姿はまさに――――

 

「……鬼?」

 

真雪の言葉。

誰もが、その表現に頷き、次には思う。

その全身から放たれる殺気の中に混じった、優しい気配。

その感覚はまるで――――

 

「……恭也…さん」

 

那美は安心し、気絶した。

ああ、もう大丈夫だ。恭也さんが来てくれたのだから……。

 

「それが……貴様の力か?」

「……そうだ」

「…………名を」

「?」

「名を、聞かせてもらおう」

「……俺の名は――」

 

 

 

 

 

「俺の名は、仮面ライダーネメシス!」

 

 

 

 

 

海神オケアノスの娘にして復讐の女神……ネメシス。

漆黒の復讐鬼は、針龍に向かって咆哮する。

 

「グォォォォォォォォォォオオオオオオッッ!!」

「いくぞっ!」

 

大地を震撼させるかの如き咆哮。

針龍は、手にした針をネメシスの喉元目掛けて攻撃する。

ネメシスは二刀のうちの一振りの小太刀を手にし、それを捌く。

すかさず距離をとろうとする2体。しかし、離れる際に放ったネメシスの蹴りが、針龍の鳩尾へとヒットした。

 

「ぬぅっ」

 

本日初めての痛みと言える衝撃。

辺りに倒れている5人の娘達とは段違いのパワーに、針龍は己の闘争本能が昂ぶっていくのを感じていた。

……もっと戦いたい。

ただ、それだけを胸に、針龍の体が宙へと躍る。

ベルトの青が……少しだけ揺らいだ。

 

「ガァッ」

 

針龍の体が弾丸と化す。

“疾風針貫”。

針龍の、最強にして最速、最長の技。

しかしネメシスは別段慌てることもなく、もう一振りの鯉口を切る。

……高まる緊張感。

先に動いたのは針龍だった。

時速400キロをゆうに超えるスピードからの、体当たり。

ネメシスはその攻撃を――躱さない!

 

“ズガガガガガガガガッ!”

 

時速400キロ超のスピードで突撃する敵を受け止める日本刀とは、いったいいかなる硬度と強度を有しているのか。

一刀の小太刀でそれを防御し、もう一刀で足を狙う。

こういった超スピード戦法を使う相手には、最強の武器である足を崩すのがいちばんだ。

しかし、それに気付かぬ針龍ではない。

すぐさま技を解き、防御に入ろうとする――が。

 

「グゥッ」

 

不意にガードに使おうとした右手に痛みを感じた。

見ると、右腕に数本の、金属製のニードルが突き刺さっている。

その一連の動きは、まさに一瞬。

だが、その一瞬さえあればネメシスには充分だ。

 

「バロゥッ!」

 

小太刀の一刀が、針龍の防御の隙をかいくぐって滑るように流れた。

刹那、針龍の体が切り裂かれ、大量の鮮血が吹き出す。

 

「グォォォォォオオオッ!」

 

針龍の絶叫。

ネメシスは大きくステップし、後退すると、小太刀を鞘に納める。

針龍と気絶しているレッド以外、誰もが頭上に疑問符を浮かべた。

戦いの最中に武器を収めるなど……こいつは何を考えているのだ?

しかし、ネメシスの真意は別のところにあった!

 

「え?」

 

不意に、誰かが声を出した。

ネメシスが……ネメシスの右足が、光り出したのだ。

膝から全身に広がるように、その光はネメシスを包み込む。

やがて、全身に光りが行き渡ると、彼はおもむろに跳躍し、飛翔する。

そのままくるりと空中で一回転。

瞬間、ネメシスの発光現象がぴたりと止まり、光が、右足へ集中していく!

 

「――カーズド・ライトキック!!!」

 

力の名は水。

季節は冬。

その色は黒。

“呪われた右足”が、総てを眠らせる!

 

「ヌォォォォォオオオッ!!」

 

 

胸部……人間で言えば、心臓の位置。

そこに、ネメシスの右足が極まった!

龍のベルトに、亀裂が走る…………!

 

「…………………………ぐふっ」

 

それが、最後の言葉だった……。

 

“ドゴォン!!!”

 

爆発。

炎上。

総ての存在を眠らせ、安息へと導く炎。

デルタハーツの面々がマスクの下で驚愕の表情を浮かべる中、ネメシスは愛機レッドスターに乗って去っていった。

 

 

 

 

 

――海鳴市・さざなみ女子寮――

 

 

 

 

 

キーボードを叩く耕介の指が、不意に止まった。

約2年分の資料に一気に目を通したせいか、その表情には疲労の色がありあり浮かんでいる。

否、疲労だけではない。

耕介の瞳には、明確な恐怖が宿っていた。

 

「…なんだよ……これは」

 

電源が落ち、起動を停止したディプレイを前に耕介は苛立つ。

 

「なんなんだよこれはっ!?」

 

ついに、耕介はキーボードを叩き壊した。

やるせない怒りと恐怖。

今の耕介を支配していたのは、そういった負の感情だった。

 

「これじゃあ、あの戦いは……俺達の戦いは、いったい何だったんだ!?」

「畜生! 畜生!」

 

二度、三度と机に拳を殴り付ける。

そのたびに皮は捲れ、ついには出血まで起こした。

耕介の慟哭は、いつまでも続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

男の考えを知った彼女は絶望した。

自分を頼ってほしいという想い。

そして、彼女は決意する。

舞い散る薔薇の中、彼女は何を思うのか……?

 

「絶対に、負けるわけにはいかねぇんだよ!」

 

次回

Heroes of Heart

第三話「陥落」

 

 

 

 

 

 

設定説明

 

“メタルブレード”

 

デルタハーツの共通武器。

秒間3万5千回という超振動を起こすことで超高周波を発生。敵を切り裂く。

理論上は秒間5万回の振動が可能だが、ブレード自体の強度に問題があるため、セフティがかけられている。

刃渡り、2.20尺(小太刀より少し大きい程度で、少年用居合刀と同じぐらい)。

 

 

“デルタブラスター”

 

デルタハーツの共通武器。

基本は“鳥人戦隊”の使っていたバードブラスターと同じだが、威力は少しだけ劣る。

デルタハーツの武装は、基本的にそれ以前のスーパー戦隊の武器を改良、量産化したもので、オリジナルの武装はそれほどない(今のところ)。

 

 

“針龍”

 

身長:220cm体重:132kg

第一話、第二話に登場。

龍と人間とヤマアラシを掛け合わせたような姿をしている。

体毛を針に変化させる能力を持ち、デルタハーツを苦しめた。

実力はあるのだが信仰の強さから、ちょっとの事でも自分達の神をけなされたと思ってしまう。

“血殺針雨”、“疾風針貫”という2つの必殺技を持つ。

 

 

“仮面ライダーネメシス”

 

身長:189cm 体重:85kg

謎の青年・不破が変身した『仮面ライダー』を名乗る鬼。

その詳細なスペック、戦力は不明な点が多く、とはいえ、デルタハーツを圧倒した針龍と互角以上の戦闘を展開したことから、その戦闘力はかなり高いと推測される。

『仮面ライダー』と名乗っているからには、彼もまた改造人間なのだろうが……詳細は不明。

 

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

 

どうも、タハ乱暴でございます。

Heroes of Heart第二話、お読みいただきまことにありがとうございました。

やっと1人目の主人公が出せました。彼は仮面ライダーです。

この先の展開は……正直、あんま考えてません(オイッ)。

さて、ここで少し補足をば。

前回のあとがきでこの世界は今までの特撮は実際にあった出来事……と説明していましたが、いくつかの特撮は入っていませんし、シリーズ物(スーパー戦隊とか、仮面ライダーとか)でも、起きていない作品があります。

具体的にはスーパー戦隊は「超力戦隊オーレンジャー」までで、仮面ライダーは「仮面ライダーJ」、ウルトラマンは「ウルトラマンパワード」までという事になっています(ゼアスとネオス、あとナイスをどうするかすごく悩んでいます。ちなみにジョーニアスとUSAは出ません。あれはアニメだから)。

まぁ、それらの作品を知らなくても読めるように努力しますが、所詮自分は駆け出しの作家なので力量は鷹が知れています。あまり過度の期待はしないでくださいね。






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