※本話から聖ヨト語表記は通常の「 」に戻します。
――聖ヨト暦三三〇年、エクの月、緑、ひとつの日、朝。
週始めの定例会が開催される二時間前、柳也とラキオス王、ダグラス、そしてリリィを交えた四人は、例によってダグラスの執務室で秘密の談合を執り行っていた。
「スピリット・タスク・フォースの首尾はどうなっておる?」
いつものようにダグラスの淹れたコーヒーをひと舐めして、ラキオス王は開口一番そう言った。
聞く者すべてに威圧感を与える尊大な語調だったが、柳也は物怖じすることなく初老の国王に自信に満ちた笑みを向けた。
「大体のデザインは決まりました」
柳也は対面に座るラキオス王とダグラスの顔を交互に見て、きっぱりと言い切った。
それから、「リリィ」と、例によって左隣に座る彼女の名前を呼んでやる。
以心伝心。初めてリリィを抱いたあの夜以来、最近ではプライベートでも一緒にいることが多くなった助手は、名前を呼んだだけで柳也の求めることを理解してくれた。
持参してきた軍用鞄の中から用意しておいた資料を取り出し、柳也に手渡す。レスポンス・タイムはコンマ数秒。まさに痒いところに手が届くアシストだ。
リリィから受け取った資料は冊子の形式を取っていた。総頁数五七。STFの将来像について、昨夜一晩を費やして作った汗の結晶だ。表紙には聖ヨト語と日本語の両方で、“秘”と大きく書かれている。
「戦場を選ばない機動力重視の部隊という基本方針で、青写真を引いてみました」
「うむ。拝見しよう」
資料を受け取ったラキオス王は冊子をテーブルの上で広げると、ダグラスとともに読み進めていった。
資料にはSTFの運用が想定される様々な状況下で任務を完遂するために、必要とする要求が詳細に記されていた。ハイペリアの戦史だけでなく、柳也自身経験したゲットバック作戦のデータとともに語られている内容は、資料として一級の説得力を有していた。
「特に重視していただきたいのは、STFの隊長と副隊長に与えられる権限です」
ページをめくるラキオス王とダグラスの進行ペースを見計らいながら、柳也は口を開いた。
「バトル・オブ・ラキオスで何がいちばん苦労したかといえば陣地作りの作業でした。現地のヤンレー司令が非協力的な態度だったこともあり、資材も人手も不足したまま作業に従事せねばならなかったためです。資材も人手も当初の要求の半分以下。穴掘りとは関係ありませんが、戦闘要員のスピリットでさえ、訓練中の新兵を二人しか貸してくれなかった始末です」
バトル・オブ・ラキオスの戦闘の結果とそこにいたるまでの経緯については、すでにセラスとリリアナの手によって詳細な資料が提出されている。すでに二人とも、そちらの方には目を通しているはずだ。
「……たしかに、エルスサーオでは相当に苦労したようだな」
ラキオス王が腹立たしげに呟いた。
柳也とセラスに渡した指令書には、二人の言う事を聞くよう、現地司令官に向けて国王直筆の符丁が記載しておいた。しかし、二人の要求を汲んでやらなかったヤンレー司令の態度は、自分の書いた符丁にほとんど効力がなかったことを示している。
それは現地司令官の自分に対する反感の表れとも取れたし、国王の権力失墜とも解釈できた。
柳也は「残念ながらその通りです」と、首肯する。
「今後も同じようなことがあっては困ります。バトル・オブ・ラキオスでは何とかなりましたが、いざ戦闘という時に、現地司令官の出し惜しみで資材が足りないという事態が起これば、戦闘の帰趨に関係してきます」
柳也は言いながらも、二人の返答に実際にはそれほど期待していなかった。
自分はいま、この国の国家元首にエトランジェに権力を与えろ、と露骨に要求している。
スピリット、エトランジェというだけで不当な差別を受けるこの異世界で、自分達に権限を与えろ、などという要求することは、風車に挑むドンキホーテにも等しい愚行だ。
到底、受け入れられるはずのない意見だろう。
「そうだな。では早速、二時間後の定例会の議題にしましょう」
しかし、意外なことに、柳也の言葉にダグラス通産大臣は頷いた。
ラキオスのより良い繁栄のためならばどんな手段も厭わないこのマキャベリストは、エトランジェに権力を持たせることについてさえなんら抵抗がない様子だ。
「エトランジェに権限を与えれば周囲からの反感は必至でしょう。その際には、私が盾になります」
「うむ。頼んだぞ」
ダグラスの頼もしい言葉に、ラキオス王は尊大に頷いた。
独善的という意味ではこの男もダグラスと同じだ。自分の理想とする目的のためならば、どんな手段も厭わない。それがたとえ、スピリットやエトランジェの社会的地位を向上させることになっても、自分さえよければそれでよい。
彼らのような乱世型の独裁者にとって、自分の信じる価値観以外のすべての事象は一切意味をなくす。
その意味では、差別だらけの異世界にあって、この二人だけが唯一すべてのものに対して平等なのかもしれなかった。
「……ところで陛下、対バーンライト戦略の方はどうです?」
冊子をめくる指の動きが三十ページほどまできたのを見て、柳也は話題を変えようと声をかけた。冷徹なダグラスはともかく、根が短気なこの老王にはそろそろ飽きがくる頃合いだ。
特に三十から三六ページまでの内容は複雑で細かく、なにより難解だった。新しい話題を提供してやらねばなるまい。
それに戦略研究室で練られているという対バーンライト戦略については、柳也も常々興味があった。なんとなれば、どこの馬の骨が書いたともわからない作戦計画に沿って、戦わされかねないのだから。
他国情報機関への漏洩を防ぐためか、戦略研究室で行われている秘め事についての情報は柳也達末端の戦闘員のところまでは回されてこない。
自分の身を守るという意味でも、現時点で作業がどの程度まで進んでいるのかは知っておきたかった。
話題をふられたラキオス王は、途端、不快そうに皺だらけの顔を歪めた。どうやらまたしても自分の言葉は、この初老の国王の機嫌を損ねるような発言だったらしい。
「正直に言えば、リュウヤの進める青写真ほど上手くいっていない」
不機嫌になってしまったラキオス王に代わって、ダグラスが言った。
その目線は資料の冊子に落とされたままだ。
「過去数十年間のバーンライトとの戦闘記録を基に戦略を練っているが、どれも決定打に欠ける。そもそも、開戦理由すら決まっておらん状況だ」
「開戦理由?」
「戦争にはそれを行う上で、民を納得させるための大義が必要だろう?」
「そんなもの、国家としての自存自衛の権利を守るため、でいいじゃないか?」
戦略研究室に勤める幾人もの男達が連日頭を悩ませている問題について、柳也はきっぱりと言い切った。例によって言葉から敬語が消え、不敵な笑みが口元に浮かんでいる。
ダグラスが目線を冊子から柳也の顔へと向ける。
「……何か案があるのか?」
「特殊作戦だったバトル・オブ・ラキオスの内容を公開してしまえばいい。報告書には記載しなかったが、俺は、あの戦闘で交戦した敵スピリットの名前を知っている」
「本当か?」
「こんな事で嘘つかないって」
柳也はバトル・オブ・ラキオスの戦闘の最中、デートの約束をとりつけたオディール・グリーンスピリットについてダグラスに話した。情報の伝達がすべて終わる頃には、それまで不機嫌そうにしていたラキオス王も、柳也の口元に注目していた。
「……というわけで、俺とオディールは将来、戦場で再び会い見えることを約束して、別れましたとさ」
「なるほど。……どうでしょう陛下? この戦闘の話を盾に、下手人の引渡しをバーンライトに迫ってみては?」
「むぅ……」
「オディール・グリーンスピリットといえばダーツィ大公国の戦技大会で常に五位以上の成績を収めている隠れた実力者です。それがバーンライト方に与しているということは、おそらく外人部隊に籍を置いているのでしょう。外人部隊のスピリットを引き渡せ、と要求すれば、事はバーンライト一国の判断で解決できる問題ではなくなります」
ダグラスはまるで台詞があらかじめ用意されていたかのように、すらすらと言葉を口にしていった。
さすがは風見鶏の異名を持つ政治家だ。早くも問題の要点をつかみ、柳也の言わんとすることを察知してしまった。
異世界の政治機構の枠組み内のこととはいえ、仮にも大臣クラスの政治家に自分の意見が認められたとあって、柳也は自然と口調をはずませる。
「勝手な判断で対応すれば、ダーツィの不興を買いかねない。公国の反感を買えば、帝国とのつながりも絶たれてしまいます。バーンライトは、問題解決のため兎にも角にもダーツィと連絡を取ろうとするでしょう」
「あとはバーンライトとダーツィが到底連絡を取れないような期限を設けて宣言を突きつけてやればいい。たとえば、『いまから十二時間以内に下手人のスピリットを差し出さねばラキオスは報復措置として貴国に宣戦を布告する。これはわが国の領土の安全を保障するための当然の措置である』と。当然、バーンライトからは期限引き伸ばしのための交渉の申し出があるでしょうが、それは全部無視してしまう。
……ダグラス殿、ダーツィの方に密偵は?」
「潜り込ませてある。バーンライトに十一人、ダーツィには六人が潜伏している。彼らに連絡を妨害させれば、十二時間などあっという間だろうな」
「刻限が過ぎたらわが国はただちにバーンライトに宣戦を布告する。そこから先を考えるのは、戦略研究室と、実際に戦う我々の仕事だ」
「ふむ……」
いまやラキオス王の目線は資料の冊子から離れ、自分の顔に釘付けになっている。
自分とダグラスの即席プランに、かなり乗り気のようだ。
「……だが、リュウヤよ」
ラキオス王が、不意に柳也の名前を呼んだ。
「そなたの案を採用すれば、そなたは戦端を開いた張本人として、後々までわが国の記録に残ってしまうぞ?」
「それでもよいのか?」と、ラキオス王は視線で問うた。
バトル・オブ・ラキオスで実質的な指揮を執ったのは他ならぬ自分だ。もしいま言ったプランを実行に移すとしたら、なるほど、自分は戦争を起こした張本人ということになるだろう。
そして戦争の引き金を引いた男として正式な記録に名前が残れば、当然その肩書きとともに様々な責任が付随することになる。戦争を起こした人間は、それを終わらせる責任がある。
ラキオス王の言葉は、まだ二十歳にも満たない青年にそんな重荷を背負わせることに対する懸念が見え隠れしていた。
その重責のあまり、柳也が潰れてしまわないか、と危惧しているようだ。
柳也の身を心配しているというよりは、自分が使い物ならなくなってしまうことで生じる己の野望への悪影響を心配しているようだった。
ラキオス王の言葉に、柳也は「何を今更……」と、苦笑した。
それから、ふと真顔になって、言葉を紡ぐ。
「……青スピリット八名、赤スピリット九名、緑スピリット五名、人間一名、計二三名」
「何の数字だ?」
「この世界にやって来てから、俺が切り捨てた相手の数さ」
絶句したラキオス王とダグラスに、柳也はむしろ明るい口調で言った。
「俺はもうこの世界にどっぷり浸かってしまっているんだ。責任問題でいえば、俺はすでにこの二三人分の命の責任を負っている。責任問題云々で嫌といえる時期は、とっくの昔に終わっちまったんだよ」
「それに……」と、柳也は続ける。屈託のない笑みが、浮かんでいた。
「それに、俺はいま、この世界での戦いを非常に楽しんでいる。その戦いの戦端を開くのが俺となれば、そこにあるのは、責任の苦痛ではなく、歓喜だよ」
「……ふっ」
ラキオス王の口元が緩んだ。
その表情には、柳也同様不敵な笑みが浮かんでいた。
「そなたがラキオスのエトランジェで本当によかったと思うぞ?」
かくして、開戦への方針は固まった。
永遠のアセリア
-The Spirit of Eternity Sword Another Story “Twin Edge of Protection”-
第一・五章「開戦前夜」
Episode29「訓練」
――聖ヨト暦三三〇年、エクの月、緑、ひとつの日、昼。
定例会を終えて詰め所に戻った柳也は、早速スピリット用戦闘服に一般兵士用のトラウザーズという服装に着替えて野外訓練場に向かった。
野外訓練場では午前の訓練から引き続きその場に残っていた第二詰め所のメンバー全員が、柳也のことを待っていた。以前、秘密会談の場において、しばらくの間は自分も訓練士として働く、とラキオス王に向けて言った言葉は、すでに全員に伝わっているらしい。
第一詰め所の面々の顔は見当たらなかった。今日は屋内での訓練のようだ。
「それじゃあ、訓練を始めようか」
すでに十分身体のあったまっていた五人の顔を見回し、柳也は言った。
すると、それぞれからめいめいの返事が返ってくる。
その声を聞いて、柳也は口元に微笑が浮かんだ。大人数での稽古は久しぶりだ。まるでしらかば学園の兄弟達と一緒にいるような気分になれる。
しらかば学園でも、自分が師範代の役を務め、稽古を見ることが多かった。
「さて、それじゃあ最初は、みんなの実力を見せてもらおうか」
唯一しらかば学園での稽古と違うところは、第二詰め所の彼女達とは今日が初めての合同訓練だということだ。五人の練度についてはエスペリアから簡単な説明を受けているが、実際にそれぞれの実力がどの程度のレベルにあるかは、自分の目で確かめなければ詳しいことは分からない。
これが柊園長クラスの実力者ならば、ただ立っている姿を見ただけで詳細にいたるまで理解できるのだろうが、あいにく、自分にはまだそれほどの力はない。
「二人一組で模擬戦闘を十五分間やってくれ。ルールは好きにしてくれて構わない。十五分経ったら、五分休憩してから同じことをもう十五分、今度は相手を変えてやってもらう。これを計四回、全員を相手にするまでやってもらう。所要時間は七五分。二人一組だから常に一人余ることになるが、その娘は一人でいつも訓練しているようにやってほしい。
なお、これはあくまで各人の現在の実力を見るためのものだ。べつにみんなを競わせるためにやるわけじゃない。体力のペース配分を考えないと、最後の方、息切れするから注意するように。……何か質問は?」
柳也はそう言ってから全員の顔を見回した。
誰からも質問が上がらないことを確認すると、柳也はその場に胡坐をかいて座った。
これから目の前で行われるショーを、一部始終を見逃すまいとした構えだ。
「ようし、各員、散って始めてくれ!」
直心影流二段剣士の腹の底からの号令が空気をビリビリと震わし、スピリット達が一斉に散った。
特等席から見るその光景は、柳也にとって一度の富士総合火力演習にも匹敵する迫力に満ちていた。
訓練といっても、特にルールを定めなかったために模擬戦闘はおのずと斬撃の緊迫と神剣魔法が飛び交う実戦さながらのものとなる。見応えは十分だ。
特に、オルファの放つそれよりも精度と威力の面で優れているヒミカの神剣魔法が炸裂した時などは、柳也は手放しで歓声を送った。
その様子は、何も事情を知らない第三者が見れば、純粋にアトラクションショーを楽しんでいるようですらある。いや実際、柳也は子どものようにはしゃぎ、目の前の光景を楽しんでいた。
しかし同時に、柳也は迫力満点の五人の動きを冷静に観察してもいた。
戦闘中の動きだけでなく、休憩中の過ごし方もじっくりと見ることで、長所と短所、技の冴え、基礎体力、経験の程度、戦い方の特徴に至るまでを推察する。のみならず、これまで自分が戦ってきた相手とも頭の中で比較検討をして、五人の実力がいまどの程度にあるのかを順位付けていく。
「……そろそろ、一人々々頭の中を整理しようか」
訓練開始の号令をかけてから時計の分針がちょうど一周し終えた頃、柳也は自分自身に向けて呟いた。
彼の視線はまず、誰よりもヒミカに向く。最後の戦闘相手にネリーを選んだヒミカは、青スピリットの彼女を果敢に攻め立てていた。
――エスペリアの同期だけあって、神剣魔法の扱いはオルファよりも上手い。性能も精度・威力の両面でオルファを超えている。
また、ヒミカは神剣同士の接近戦においても目覚しい活躍を柳也に見せていた。
ヒミカは赤スピリットで、たしかにパワー・スピードの両面でアセリアやファーレーンら本家の青スピリット、黒スピリットに劣る。扱う〈赤光〉も赤スピリットの持つ神剣としてはスタンダードな双剣型で、格闘戦に向いているとは言いがたい。
しかしヒミカは、そんな赤スピリットゆえの短所を高い技術で補っていた。
いや補うばかりか、模擬戦闘ではネリーを圧倒している。青スピリットのように一撃必殺とはなかなかいかないが、その攻撃は一秒としてネリーに反撃の暇を与えさせなかった。その攻勢からは、異様な必死すら感じられる。
――攻撃は最大の防御というわけか。
ヒミカ自身、赤スピリット特有の弱点たる防御面の不利を自覚しているのだろう。敵からの反撃を許さない、怒涛の攻勢、突撃戦法がヒミカの得意技のようだ。
――だが、あの戦法には弱点が三つある
第一に、攻撃一辺倒の戦い方だと極度にスタミナを消耗しやすいということ。実際、十五分の模擬戦闘が終わる度に、ヒミカは五分間の休憩を体力回復のみに使っていた。長丁場の戦闘では、ヒミカの戦い方は彼女自身の命取りになりかねない。
第二に、ヒミカの戦い方ではバックアップが難しいということ。スピリット同士の戦いは実際には集団で行われる。ヒミカの怒涛の攻勢から生み出される打撃力は、敵陣を乱すのにこの上ない武器となるだろう。しかし、彼女の突撃は諸刃の剣だ。止まり所を間違えれば、敵集団の中で孤立しかねない。
――そして第三の弱点……
柳也は目線をヒミカから対戦相手のネリーへと移した。
ヒミカの猛攻を受け、防戦一方でありながら、決して反撃の意志を諦めない強い眼差しに、柳也の視線は自然と吸い込まれる。
――粗削りな技だ。基礎の力も身についていないし、特に何かが傑出しているというわけでもない。剣技だけでなく、アイスバニッシャーも詠唱が遅いし、精度が低い。何もかもが、アセリアとは比べるまでもなく未熟だ。
「しかし……」と、柳也は内心で呟いた。
ネリーはヒミカの天敵となりうる可能性を秘めている。同時に、ヒミカもまたネリーの天敵となりうる可能性がある。
二人の戦い方にはある共通点があった。
いまはネリーが守勢に立たされているが、他の模擬戦闘を見る限り、彼女もまたヒミカと同じ攻撃一辺倒・突撃戦法を得意としているようだ。その共通した戦闘スタイルが、ヒミカの、そしてネリーの最大の弱点となりうることを、二人は理解しているのか。
柳也の唇から、「おっ」と、感嘆の吐息が漏れた。
反撃を試みたネリーの手の中で、ナックルガードと一体化した鍔が特徴的な片刃の〈静寂〉が、踊るように舞った。ネリー自身、ヒミカの側面に回りこむべく激しい動きで跳ねる。
しかし次の瞬間、袈裟に殺到した斬撃は、円に回した双剣の一翼に阻まれてしまう。
反撃に移ろうとした初手が失敗に終わり、ネリーは慌ててヒミカの間合いの外へと飛び退いた。
柳也はその離脱の様子をじっと眺めていた。
ネリーの戦い方にはヒミカと違う部分もあった。
同じ突撃戦法でも、ネリーの場合は常に後方にいる“誰か”の存在を意識しながら突っ込んでいくということだ。
先述したように、スピリットの戦闘は実際には小規模な集団で行われる。その際に重要なのはなによりもまず互いの連携だ。隊員同士のコンビネーションが優れていれば、一〇〇の戦力が二〇〇にも、三〇〇にもなりうる。
一対一の模擬戦ながら、ネリーの動きは常にそのコンビネーション、すなわちバックアップ要員の存在を意識したものだった。というより、普段から一緒に訓練している相手との連携を、無意識のうちにトレースしてしまっているのだろう。
件の彼女との連携がいかに強力なものであるか、ネリーの動きからはその片鱗を随所に散見できた。
――本人は意識していないだろうが、相手との間合いの取り方はネリーの方が上手い。
後方からの支援を受けやすい距離を保ちながら戦えば、必然、相手の懐に飛び込みすぎる心配はなくなる。そして適切なバックアップを受けることができれば、ネリーの突撃戦法はその真価を発揮する。いまは防戦一方のネリーだが、実際の戦闘で集団戦となれば、ヒミカを圧倒するかもしれない。
――さて、その相方は……っと。
柳也はネリーと仲の良いシアーの姿を探した。
直接本人達を問いただしたわけではないが、昨晩の仲の良さそうな様子からも、シアーがネリーとコンビを組んでいる片翼なのはほぼ間違いないだろう。
全員との対戦を終えたシアーは、それぞれの戦闘から少し離れたところで、ひとり剣の素振りを重ねていた。
ネリーの〈静寂〉と同じデザインのナックルガードを備えた両刃の〈孤独〉の切っ先が綺麗な三日月を描く度に、幼いながらも柔らかなふくらみに恵まれた胸元が上下する。と同時に飛び散る汗の輝きが、柳也の剣士としての恋心をくすぐった。
シアーが素振りをする姿を見ること三往復、その頃にはもう、柳也の目線は彼女の胸元に、剣を振るう彼女の顔に、そして彼女の手の延長にある剣に釘付けとなっていた。
「性格、だろうな」
シアーの剣技に惚れ惚れとした眼差しを送りながら、柳也は小さく呟いた。
剣の扱いに関しては、ネリーよりもシアーの方がはるかに丁寧だった。
柄を握る十指の動きひとつ取っても、ネリーとは比べようもなく上手だ。緩急強弱の手の内を、ごく自然に身につけている。必然、そこから放たれる技の数々はネリーよりも洗練されたものになる。
時折見られる鋭い斬撃の軌跡は、ひょっとするとアセリアに匹敵するやもしれなかった。
それだけに、シアーには惜しいと思える部分があった。
「……性格、だろうな」
再び柳也が呟いた。
しかし、吐き出すように紡がれたその言葉には、シアーの剣技を残念がる複雑な響きを孕んでいた。
いまはひとりで黙々と素振りを繰り返し、時にアセリアにさえ匹敵する剣の冴えを披露しているシアーだったが、先ほどまでの三回の模擬戦闘でそれが活かされることはついぞなかった。
万事が積極的なネリーとは対照的に、シアーの戦い方はすべてにおいて消極的だった。
自分から先手を取ろうとは一度もせず、時折見られた反撃も控えめ。十五分間のすべてを守勢のまま過ごして終わっていた。
おかげで巧みな防御の技術や消滅魔法の正確さなどを見ることはできたが、肝心の攻撃力については不満を残したまま終わってしまった。
――ヒミカやアセリアとは言わない。せめて、エスペリアくらいの積極性が欲しいんだが……。
積極性が欲しいといえばもう一人、ハリオンもそうだった。
緑スピリットの彼女だから戦闘スタイルが防御を基本としたものになるのはある意味、仕方のないことといえる。実際、ハリオンの防御は鉄壁で、防御壁の強度・ディフェンスの技術ともに文句の付け所がなかった。連戦による消耗の度合いも、彼女がいちばん低い。
とはいえ、ハリオンの戦い方にはあまりにも守勢に徹しすぎているきらいがあった。
防御とは、こちらが反撃に移るための戦術手段の一つだ。
それなのにハリオンは、攻撃のチャンスが巡ってきても牽制一つしようとしなかった。
攻撃のタイミングを見誤ったネリーが、リープアタックの予備動作で無防備な背中を向けた時でさえ、「あらあら〜」と、にこやかに笑っているだけだった。
――ハリオンらしいといえばらしいが……どうも彼女には勝利への執着心が薄いような……。
「むぅ…」と、うなり声を上げながら、柳也は眉間に縦皺を刻んだ。
そもそもハリオンが戦闘向きの性格をしていないことは誰の目にも明らかだ。
しかしそれにしたって……という思いを、柳也は拭い去ることが出来なかった。
――こう考えてしまうのは、やっぱり俺が攻撃的すぎるからなんだろうなぁ。
ひとたび防御に回れば傑出した実力を見せてくれるハリオン。そんな彼女に、攻撃まで求めるのは、己の身勝手な欲だろうか。
――……欲、だな。
巨大で鈍足の爆撃機に戦闘機並みの運動性を求めるのはあまりにも酷だ。あれもこれもと助平根性を出しすぎて失敗した例は、旧海軍の爆撃機“銀河”だけではない。
それにハリオンは何も防御しか出来ないというわけではない。回復魔法を始めとした支援・補助は他の追随を許さない優れたものがあるし、攻撃もどうしても出来ないというわけではないだろう。
ハリオンはこのまま伸びていけばいい、と柳也は思い直すことにした。
そのハリオンは現在、ヘリオンと戦っていた。
基本に忠実なヘリオンの剣戟をハリオンが巧みに防御し、受け流しているという状況がすでに五分以上続いている。その間、やはりハリオンが攻撃に打って出ようとする場面はなかったが、特にダメージを負った様子もみられなかった。むしろ、攻め立てているヘリオンの息が上がっているぐらいだ。
柳也はヘリオンに対し、ハリオンの時とは対照的な、もう少しどうになかならないものか、という視線を向けた。
――ヘリオンかぁ……。
ハリオンの分厚い防御壁をなんとか突破しようと苦心しているヘリオンを眺めながら、柳也は難しい表情を浮かべた。
ヘリオンの場合は戦い方がどうという問題以前に、基礎の力がまだ身についていない。
確かに居合の技術や黒スピリット特有の瞬発力の高さには目を見張るものがあるものの、悪くいうとそれだけだ。その他の技術・能力は並以下の水準でしかない。それこそ、神剣の加護がなければ、しらかば学園の兄弟にも劣るのではないか。
とてもではないが、命のやり取りが許されてよいレベルではなかった。
――潜在能力は高いと思うんだけどなぁ。
ヘリオンには剣術の基礎から叩き込まねばならないだろう。地力も欲しい。長時間の激しい運動にも耐えられるような体力がなければ、剣士は務まらない。
幸いにして、ヘリオンの戦闘スタイルは居合。〈失望〉も日本刀型の神剣だ。
直心影流に居合の技はないが、自分でも教えられることがあるだろう。
◇
規定の七五分が過ぎ、柳也が「やめッ!」の号令をかけた。
やかましいくらいに賑やかだった剣戟の音が、ぴたり、と止み、柳也は息遣いも荒い少女達の顔を順繰りに見回していった。
「お疲れさん。みんなの戦いぶりはしかと見せてもらった。いまの君達の実力がどの程度のレベルにあるのかも、大体わかった」
柳也はねぎらいの言葉とともにそう言った。
もっとも、いまの模擬戦闘で見られたのはあくまで個人の実力だ。
スピリットの戦いは実際には集団同士の戦闘となる。いざ集団となった際に、いま見た力量がどの程度変動するかはいまのところ未知数の世界でのことだった。
また、実力がわかった、といっても、柳也自身いまだ剣の道を極めきれていない身だ。
そんな自分が第三者の立場から観察しただけでは、見えなかった部分もあるだろう。実際に当事者となって、直接剣を交えねばわからないこともある。
主観の意見と客観の意見は、互いに補完しあう関係にある。
「大体の理解を、完璧な理解にしたい。…十五分、休憩時間を設ける。その後、ひとりずつ、順番に俺と対戦だ」
「リュウヤさまとですか?」
浅い呼吸を繰り返しながらヒミカが聞き返した。
柳也は念押すように大きなアクションで頷き返す。
「おう。時間は、戦うのは俺一人だけだし、さっきより長めの二〇分でいいだろう。一人二〇分が五人だから、一〇〇分。一時間と三分の二だな」
「あれ、休憩は?」
柳也の言葉に機敏に反応したのはネリーだった。
先ほどの模擬戦闘の合間には五分間の休憩があったから、柳也の場合、所要時間は一二〇分、二時間になるのではないか。
「休憩はいらん」
しかし柳也は、ネリーの言葉に首を横に振った。
「ですが……」と、自分の身を気遣うよう眼差しを向けてくるヒミカに、彼は磊落な笑みを浮かべながら言う。
「直心影流の剣士にとって、二時間足らずの運動は運動のうちに入らん。下手に休憩なんぞ取ったら、かえって調子が悪くなる」
「そ、そういうものなんですか?」
「そういうものなんですよ」
ヘリオンの言葉におどけた調子で頷くと、柳也は表情を引き締めた。
女好きの三枚目・桜坂柳也ではなく、なによりも戦いをこよなく愛している剣士・桜坂柳也としての面魂で、改めて五人の顔を見回す。
「俺は身体温めているから、休憩が終わったら一人ずつ前に出てくれ。順番はそっちに任せる」
柳也は一方的に告げると、足早に休憩所へと向かった。
野外訓練場の休憩小屋には彼専用の木刀と素振り用の振棒がキープしてある。振棒は木刀と同様にファンタズマゴリアに召還されてから柳也が手作りしたもので、身体能力の飛躍的な向上にあわせて以前よりも重量を増していた。
実のところ模擬戦闘を観察していた途中から、柳也は自分も戦いたくてうずうずしていたところだった。
目の前でああも迫力ある立ち回りを見せつけられては、本能的欲求を自制するのも一苦労というものだ。
――さあ、思いっきり暴れるぞー!!
柳也は休憩所に保管しておいた振棒を引っつかむと、来た時の倍以上の速さで五人のもとへ戻った。
振棒を担いで戻ってきた柳也を出迎えたのは、ヒミカとヘリオンの唖然とした眼差しだった。
「リュウヤさま、あの、それは……?」
ヘリオンが肩に担いだ振棒を指差して言った。
どうやら有限世界には振棒に相当する武具はないらしく、何のための道具か分からないようだ。
「俺の世界で振棒と呼ばれる稽古具だ。直心影流では大人も子どもも、まずこの振棒を素振りするところから鍛錬を始める」
柳也が少し誇らしげに答えると、ヘリオンはますます驚いた様子で彼の顔と、彼が持つ振棒を交互に見比べた。
ヘリオンが驚くのも無理からぬことだった。
直心影流の振棒稽古は剣道・剣術の経験者でも度肝を抜かれる練習方法だ。二キロとか三キログラムの素振り用の木刀ならまだしも、重量一六キロもある木の棒を千本、二千本と素振りする練習など、他のどの剣術流派でも見られない。
まして柳也の振棒は手作りの特別製だ。大木の幹をほとんどそのまま利用した振棒は少なく見積もっても二五キログラムはあるだろう。加えて、職人ではない柳也の手作りだから重心のバランスは滅茶苦茶だ。柳也は相変わらずこれを一日に千本、二千本と振り続けていた。
五人が絶句して見守る中(ハリオンはにこにこと笑っていたが)、柳也は早速振棒稽古を開始した。
手の内を定め、呼吸を整え、腰を据えて、下肢に力を篭める。腕の力ではなく、全身の運動で振棒を真っ向に振るう。
阿吽の呼吸が自然に練られていき、一〇〇本を数えた辺りから、不思議と振棒の重さが苦にならなくなっていった。
普通の木刀を振るうのと同じ要領で、素早く、正確に、一振り一振り刻んでいく。
一つ一つの動作を重ねる度に、大粒の汗が大量に飛び散っていたが、呼吸が乱れることは一度としてなかった。
“あ”の口で息を吸い、“う”の口で止めて下腹の気海丹田まで深く沈めて、“ん”の口で爆発させる。常に阿吽の呼吸を忘れず、全身の力で振るい続けることを心がければ、千本でも二千本でも振るうことが出来る。
十五分が経った。身体の各所に心地良い熱が生じ始め、柳也は五人を振り返った。
「そろそろ始めようか?」
「あ、は、はい」
見る者の度肝を抜く練習風景を茫然と眺めていたヒミカが、はっ、とした様子で前に出た。どうやら一番手は彼女らしい。
振棒をすでに数百本素振りして一度も呼吸を乱さなかった柳也の実力の一端を垣間見て、ヒミカは少し緊張しているようだった。肩に力が入りすぎている。良くない傾向だった。
「ヒミカ」
柳也は明るい口調で声をかけた。
「ま、気楽にやろうや」
柳也はそう言ったが、ヒミカは無言で頷くだけで、緊張はいささかもほぐれなかった。
二人は四人から十分な距離を取ったところで二間ほどの間合いを隔てて対峙した。
すでに柳也の手に振棒の姿はなく、あるのは振棒と一緒に休憩所から持ってきた手作りの木刀だ。その木刀に〈決意〉の一部を寄生させ、柳也は正眼に構えた。
他方、ヒミカは双剣の〈赤光〉を中段に構えている。緊張のせいで五体に無駄な力が入りすぎているが、姿勢は安定していた。
柳也は、いま己は至福の時を過ごしている、と、実感した。
アセリアやエスペリアと立ち会うときもそうだが、自分と同じかそれよりやや年上で、ここまで剣に慣れた女性を相手にするのはファンタズマゴリアにやって来るまで知らなかった経験だった。
【主よ……】
凛然とした空気が漂い始める中で、〈決意〉が声をかけてきた。
――ん?
【この赤い妖精の神剣の位は我よりも高い。不本意だが、ここはあの小娘の力も使ってはどうか?】
――いや、〈決意〉一人で大丈夫だ。
〈決意〉の申し出に、柳也は、いいや、と首を横に振った。
肝臓の辺りで〈戦友〉が、「わたしも使ってくださいよー」と、わめいているが、今回は無視だ。
――ちょっと俺に考えがあってな。それに〈戦友〉には昨夜活躍してもらったし、今度は〈決意〉の番だ。
柳也は胸の内で呟くと、ひとつ頷いてから〈決意〉に続けた。
――〈決意〉、防御はこの際全部無視しろ。攻撃面の強化にのみ、全力を集中してくれ。
【……よいのか、主よ? それでは守勢に立たされた時に不利では?】
――大丈夫だ。俺を信じてくれ。
【領解した。主よ】
〈決意〉の声が胸を中心にして全身に広がっていき、心地良い解放感が五体を包み込んでいった。体中の細胞の一片々々にまで、原始生命力の圧倒的なエネルギーが満ちていく、お馴染みの感覚。
柳也は、頭の中だけに留まらぬ昂揚感に身を任せながら、相対するヒミカに言った。
「いくぞ、ヒミカ!」
柳也の声が大気を裂くように前方へと滑った。
柳也の言葉に頷くや否や、ヒミカは得意の突撃戦法の網に彼を引きずり込もうと、懐めがけて双剣の一翼を袈裟に振り下ろしていった。
「きぇーい!!!」
「っ!」
普段から阿吽の呼吸法で呼吸器系を鍛えている直心影流の剣士が、殺気とともに腹の底から威嚇の声を吐き出した。
と同時に、正眼に構えた木刀の切っ先が羽根のように軽やかに舞う。
声と剣の動きに怯んだヒミカの太刀筋がわずかに鈍った。
直心影流の形稽古……法定は、同流派の基本の形にして奥義極意の数々が詰まっている。その四本の組太刀はそれぞれの特性から、春夏秋冬に例えられた。
――秋の太刀筋で攻撃を受け流し、夏の太刀筋で責め続ける!
柳也の身体がわずかに動いて、ヒミカの〈赤光〉を下から打ち払った。
と同時に、身体を入れ替えた柳也の稲妻の面打ちが、ヒミカの眉間に吸い込まれていく。
迷いのない一撃。
ヒミカは痺れる両手を意識しながらも素早く反転し、〈赤光〉の刀身で受けた。
しかし衝撃を支えきれず、赤いニーソックスに包まれた膝が、ガクガク、と折れてしまう。
そのまま力押しすれば確実に倒せたところを、しかし柳也は木刀を引いた。
右手を離し、左腕を真っ直ぐ伸ばしたまま腰の捻りを深く、遠心力の利いた切り上げを放つ。
上段からの面打ちに耐えていたところに下から急に突き上げられ、ヒミカの手の中で〈赤光〉の柄が暴れ出す。
どうにか手放すという最悪の事態は免れたものの、がら空きになった胴に、柳也は両手に持ち直した木刀を二度三度と寸止めで叩き込んでいった。
「これでいま君は三度死んだ。ついでに言うと、俺にはあのまま力押しでねじ伏せるという選択肢があったことも忘れるな?」
「くっ!」
悔しげに唇を噛んだヒミカが、仕切り直しとばかりに間合いを取って後ろに飛び退く。
だが柳也は、相手が構え直す暇すら与えぬまま、執拗に、そして激しく攻め立てた。
すでに三度の実戦の場をくぐってきた己の経験と技のすべてを駆使して猛攻を展開しながら、柳也は斬撃と同時に言葉を振りまいた。
「ヒミカ、さっきまで見ていて気付いたんだが、君の戦い方にはいくつか弱点がある。君の戦闘スタイルは圧倒的な攻撃力で相手の反撃を許さぬまま押し負かすという突撃戦法が主体となっている。防御面で他のスピリットに劣る赤だからかもしれないが、攻撃を最大の防御とするその考え方は悪くはない。俺自身、攻めか守りかと問われると、攻めの戦闘スタイルが基本だから好感も持てる。
しかし、いまみたいに相手も君と同じように攻撃一辺倒の戦法で攻め立ててきたとしたらどうだ? 攻撃と攻撃が激突する時、勝つのはどちらになる?」
「そ、それは……」
「簡単なことだよな? より力量に優る方が、攻撃の主導権を握るに決まっている」
言い放つと同時に、柳也は下肢にこれまでにない力を篭めた。
猛牛の突進を連想させる爆発的な加速とともに、八双から振り下ろす。
木刀の剣尖を絡め取ろうとヒミカの〈赤光〉がしなやかに唸った。
しかし〈赤光〉と木刀が触れ合った次の刹那にはもう、踏み込みの勢いを殺さぬまま突き進んでいった柳也の体当たりが、スレンダーなその身に炸裂していた。
六尺豊かな大男の全力の体当たりを受けて、ヒミカの両脚が一瞬、地面から離れた。
僅かな遅滞もなく上段に振り上げた木刀の剣尖が、眉間をめがけて滝のように流れ落ちた。言わずもがな、柳也が最も得意とする連続攻撃だ。
体当たりを受けて怯むばかりか、寄るべき地面から見捨てられてしまったヒミカに、これを避ける術はなかった。
尻餅を着いてしまったヒミカの眼前で、木刀が、ぴたり、と止まった。
「ひゅうっ」と、木刀を目前にした唇から吐息が漏れ出た。
柳也は静かに木刀を引いた。
「……ひとつ昔話をしよう。昔々、ある所に剣術を学ぶ少年がいました。少年は攻撃の技術しか磨かず、防御の技をおろそかにしていました。そんな少年が、同じように攻撃しか知らない相手を敵とした時、戦いの主導権を握られてしまった彼はなす術もなくやられてしまいました。当時六歳の桜坂柳也少年は、野犬の攻撃をどう防げばいいかわからなかったのです」
佳織と瞬の二人と出会ったあの日、攻撃しか知らなかった自分は野犬の群れに対してただ我武者羅に突っ込んでいくことしか出来なかった。その結果狡猾な野犬達に包囲され、その爪と牙に翻弄されることとなってしまった。もしもあの時、柊園長が助けに来てくれなかったら、自分は冗談抜きで死んでいたかもしれない。いま、こうしてヒミカと戦うことも出来なかったかもしれない。
あの一件の後、柳也は自分の戦い方について少しだけ見直すことにした。
といっても、当時はまだ六歳の子どものこと、高度な防御の技術の習得は望むべくもない。攻撃に次ぐ攻撃を基本とした戦闘スタイルは変わらず、それは今日にいたるまで続いていた。
しかしあの一件以来、柳也は、少なくとも無茶な突撃だけはほとんどしなくなった。
実際に戦闘を行う以前から戦力差は明らかだったバトル・オブ・ラキオスなど一部の例外的状況を除いては、無謀な突撃は二度としないと、幼い日の自分に誓ったのだ。
そんな柳也にとって、ヒミカの行過ぎた突撃戦法は、過去の自分を見ているも同然で、危なっかしくてたまらなかった。
しかもヒミカが戦うのは野犬よりもはるかに強大な攻撃力と、高度な知性を持ったスピリット達だ。敵陣で孤立した際に待っているのは、死という結果以外に考えられない。
だからこそ、ヒミカには早いうちに注意をしておきたかった。
「べつに、攻撃を重視した戦い方が悪いとは言わん。しかし、攻撃一辺倒の戦い方しか磨いてこないと、一度守勢に立たされた瞬間、どうすればよいかわからなくなってしまうのも事実だ。もしもの時に備えて、より技量に優れる相手との戦い方や、守りの技術を学んでおくのも大切だと俺は思う」
武術の世界においては、一般に攻撃よりも防御の技術の方が高度とされている。
空手でも剣道でも、最初に教わるのは正拳突きや面打ちといった基本の攻撃であり、続いて他の攻撃方法、防御のテクニックはさらにその次の段階でようやく、しかも段階的に教わることになる。その意味で防御の技を使いこなすことは、より上級な戦い方といえた。
ただ我武者羅に突き進むだけならば、子どもの自分でも出来たことだ。
あの頃の自分よりもはるかに洗練された技術を持つヒミカには、より高度な戦い方を身につけてほしかった。なにより、彼女自身のために。
ヒミカはいつもの毅然とした態度はどこに消えたのか、茫然とした眼差しで柳也の顔を見つめていた。これまで自分の積み重ねてきた戦いの技術を全否定されたようなものだから無理もない。
柳也はそんな彼女に、「もっとも……」と、言葉を続けた。
「これはあくまで一人で戦う時の考え方だ。スピリットの戦いは実際には集団戦になる。仲間のバックアップがしっかりしている時は、この限りじゃない。それでも、あんまり一人で突き進みすぎるのは厳禁だけどな」
柳也はそう言ってクスリと微笑んだ。
相手の欠点を指摘するばかりが稽古ではない。欠点の中にある長所を発見し、それを認めるのも訓練士として、指導者としてあるべき姿のはずだ。
――柊園長、見ていますか?
野犬事件の直後、意識を回復した自分は柊園長からいまのヒミカのように無謀すぎる戦い方を諌められたことがあった。絶対に勝ち目のない相手に対し、なぜ突っ込んでいったのか。せっかく父さんと母さんが助けてくれた命をなぜ粗末にするような真似をしたのか、と。
普段が温厚な柊園長だけに、剥き出しの怒りとともにぶつけられた言葉は厳しく、そしてはてしなく重かった。自分がどれだけ愚かな行為に手を染めたのか、後悔とともに実感させられたものだ。
しかし厳しい叱責と同時に、柊園長は臆することなく立ち向かっていった攻撃への意欲を認めてもくれた。
恐怖を感じなかったはずがないだろう、そんな状況でよくぞ危険を顧みずに立ち向かっていった、と。
病院の一室で手当てを受けながらかけられたその言葉に、不覚にも涙を流してしまったことはいまとなっては懐かしい思い出のひとつだ。
かつて柊園長の言葉を受けた自分は涙したが、現在、柳也の言葉を受けたヒミカは地面に座り込んだまま難しい表情を浮かべていた。
行過ぎた突撃戦法を戒めるような自分の言葉と、攻撃を重視した戦い方を悪くはないと言った自分の言葉。その間にある適度な戦い方がどんなものか、彼女なりに考えているようだ。
柳也はそんなヒミカに好意的な視線を落とした。かつては柳也自身も悩んだ道、そしていまも探している道を、ヒミカはいま歩み出そうとしている。
「……さぁ、もう少し続けようか?」
いまだ地面に座り込んだままのヒミカに、柳也は右手を差し伸べた。
太陽の光を浴びて、透明なスピネルの輝きを放つ赤い瞳が彼の顔を見つめ返す。
「俺自身まだまだ未熟な剣士だ。だから一緒に考えてみようぜ? 適度な戦い方ってやつをさ」
柳也はそう言って口元に微笑をたたえた。
最初に取り決めた時間は、まだ十五分も残っている。
柳也の顔を見つめ続けるヒミカは、二・三度瞬きをして差し出された右手を取った。
「はい!」
力強く頷いた表情には、「次こそは」という攻撃への執念が滲んでいる。
すでに一度、徹底的な攻撃を浴びせられた上で敗北を喫したにも拘らず、諦めが感じられないその顔つきには、剣士の本能を刺激する魅力があふれていた。
柳也の顔に、自然と嬉しそうな笑みがはじけた。
――〈決意〉、次からは向こうも当ててくるぞ。防御にもエネルギーを割いてくれ。
【領解した、主よ】
「この剣術馬鹿はどうにもならんな」と、呆れの入り混じった感情イメージとともに声が聞こえてきた。
〈決意〉の力によって五体に新たな力が満ちたのを感じた時、中段に構えたヒミカが突撃した。
◇
規定の二十分が過ぎ、柳也が戦闘の終わりを宣言すると、最後の相手を務めていたヘリオンは途端、ペタン、とその場にしゃがみこんでしまった。
ぜぃぜぃ、と肩で息をしながら、口数も少なく俯いている。額からは大粒の汗が噴出し、外気に晒された途端、金色のマナの霧となって大気に還っていった。
たった二十分間の運動とはいえ、柳也との対戦はまだ体力が身についていないヘリオンに相当な負担を強いたようだ。
顔を真っ赤にして膝を着くヘリオンの口は、より多くの酸素を求めて金魚のように、ぱくぱく、と開閉していた。血液中の酸素が不足している証拠だ。
他方、五人のスピリット達との連戦を終えた柳也には「これは今晩の飯が美味くなるな」と、考えるだけの余裕があった。
普段からの運動量が常人と比較してはるかに多い柳也のこと、発汗の量はヘリオン以上だったが激しい息切れはなく、肉体の疲労はまだ心地の良いものだった。いまはやや硬直しつつある大腿部や肩の筋肉も少し揉んでやればまだまだ動けそうだ。
その一方で、柳也の得物はもうじき限界を迎えようとしていた。〈決意〉を寄生させることで鋼鉄並みに強度を上げていた木刀だったが、なんといってもベースがベースだ。職人が作った至極の一品ならともかく、素人が作った木刀は、五人ものスピリットと連戦を経てひび割れ、数回の素振りにも耐えられないほど痩せ細っていた。
もはや杖代わりにするのも危なげな木刀を腰元に佩き、柳也はヘリオンの背中をさすりながら他の四人の顔を見回した。
最初に相手をしたヒミカは、さすがにもう戦いの疲れを忘れ去っていたが、二番手のネリー、三番手のシアーはそれなりの時間が経過しているにも拘らず、つい先ほど戦ったばかりのヘリオンと同じように地面に腰を据え、へばっていた。
四番手のハリオンは不思議なくらい元気だったが、それでも、額に薄っすらとした汗のヴェールが出来ている。
――全員、走り込みから始めるか。
自分達がこれから行おうとしているのは、戦いは戦いでもあらかじめ制限時間が決められた競技ではない。何時間、下手をすれば何十時間と行軍せねばならない戦場で活動する兵士に持久力は必要不可欠だ。
柳也は頭の中で徐々に形になりつつある訓練計画に思いを馳せながら口を開いた。
「みんなご苦労だった。まだ午後の訓練時間が終了するまで一時間近くあるが、とりあえず今日の訓練はこれで終了としよう」
やんわりと告げられた柳也の言葉に、ネリーとシアー、そしてすぐ近くに座っているヘリオンがほっと安堵の息をついた。
柳也は苦笑いしながら続ける。
「今日の模擬戦闘でみんなの実力はとくと見せてもらった。今日のデータは、これから部隊編成や訓練計画を考える上で大いに参考にさせてもらう。
……ついでに、明日の訓練について少し説明しておこう。明日は第一詰め所の面々と合同で訓練を行う予定だ。すでに何人かは向こうの連中と知り合いのようだが、形式上は初の合同訓練ということになっている。リリアナ・ヨゴウ剣術指南役始め、首都直轄軍の訓練士が総出で最初の訓練風景を見る予定だ。くれぐれも失礼のないように頼むぞ」
「第一詰め所ってことは、もう一人のエトランジェさまもご一緒に参加なさるんですか?」
いまだしゃがみこんだままのヘリオンが柳也を仰ぎ言った。
柳也は背中をさする手を止めると、全員に聞こえるようはっきりとした口調で「ああ」と、首肯した。
「第二詰め所のみんなにとっては明日が初の顔合わせになる。俺達のボスだ」
「その人って、リュウヤさまより強いの?」
ネリーが遠慮のない質問をぶつけてきた。
その隣に立つヒミカが強めの語調で、
「こらネリー、リュウヤさまに失礼でしょ」
と、ネリーをたしなめる。
続いて紡がれようとした叱責の言葉を、柳也は片手を挙げて制した。
「それ以上はいいよ、ヒミカ。指揮官の実力が気になるのは当然の疑問だ」
柳也は呟いてから、困ったように苦笑いを作った。
「とはいえ、あいつとはまだ本気でやり合った試しがないからなぁ……。どっちが強いかって訊かれると、ちょっと返答に困る」
たしかに、いまだ剣術の腕では自分に及ばない悠人だが、なんといっても彼の神剣は伝説にまで謡われた第四位の〈求め〉だ。第七位の〈決意〉を、第二次世界大戦当時米軍の主力戦車だったM4シャーマン中戦車とすれば、〈求め〉は現用のM1エイブラムズ主力戦車も同然である。
M4シャーマンの75mm砲はM1エイブラムズの装甲を貫通出来ず、逆にM1戦車の120mm砲はシャーマンの装甲を薄紙の如く貫いてしまうだろう。機動性においても対戦中のシャーマンと、戦後第三世代のエイブラムズでは性能が違いすぎる。シャーマンは四五〇馬力のエンジンで時速四二キロが限界だが、エイブラムズは一五〇〇馬力のエンジンにより六七キロメートル毎時をマークする。
これだけ性能に開きがあると、もはや搭乗員の腕前だけではカバーしきれなくなる。大げさではなく、第七位と第四位とではこれくらいの差がある。
いまの悠人は三流の搭乗員にすらなれていない学生だ。機体性能云々以前の問題として、戦車の前進後進の仕方も知らないような素人だから、75mm砲の〈決意〉と自分でもなんとか戦うことが出来る。
その一方で、ビキナーズ・ラックという言葉もある。何かの拍子に押してしまったボタンが、たまたま120mm砲のトリガーだという可能性もある。
たとえまぐれでも、悠人がひとたび〈求め〉の力を引き出せば、自分に勝ち目はない。
そういった運の要素も含めて、ネリーの質問に対して柳也は、「実際にやってみないとわからない」と、答えることしか出来なかった。
もっとも、いまの自分には〈決意〉の他に〈戦友〉という相棒もいるから、それほど極端な神剣の性能差はないだろうが。
「あいつの話はこれぐらいにしておこう」
柳也は真顔に戻るとネリーだけでなく、全員の顔を見回して言った。
「いま全部話してしまうと明日の楽しみがなくなってしまう」と、そんなニュアンスを含んだ、明るい口調が空に吸い込まれていく。
当人のいない中で勝手なことを喋ってしまうと、勝手なイメージを作られかねない。噂話や陰口というものが苦手な柳也には、そんな懸念もあった。
「それじゃあ訓練終了だ。あとは各自好きなように過ごしてくれ。ただし、一応、規定の訓練時間が終わるまでは、ここにいてくれな?」
「リュウヤさまはどうするの〜?」
解散宣言を言い終えるや否や、ネリーが嬉々とした様子で歩み寄ってきた。
戦いの疲れはいったいどこに消えたのか、昨夜の歓迎会でも積極的に質問をぶつけてきた彼女は、この機会にもっと自分と話しをしたい誘惑にかられたらしい。
自分を見上げる深いサファイアの瞳にはこの上ない好奇の輝きが宿っていた。
ファンタズマゴリアにおいてエトランジェは人気のない珍獣のようなものだ。
圧倒的大多数の人からは見向きもされないが、一部の熱狂的なマニアからは熱烈な眼差しを注がれる。ネリーは桜坂柳也という男に、そして彼の住むハイペリアという異世界の風景に興味を抱いているらしかった。
柳也としても、ネリーとの会話には心惹かれるものがあった。
ネリーは美人な上に自分好みの性格をしていたし、なにより話していて楽しかった。
まだあどけなさの残るネリーとの会話は、しらかば学園の兄弟と話している時にも似た感動を柳也にもたらしてくれた。と同時に、いつまで見ていても飽きない彼女の明るい笑顔は、眺めているだけで自分に安らぎを与えてくれた。
天真爛漫なネリーの舌から滑り落ちた言葉の数々は、まるで幼い活力を分け与えてくれるかのようだった。
ネリーに声をかけられた柳也は、思わず一瞬相好を崩した。
しかしすぐに表情を引き締めると、
「俺はもう少し体を動かしていくよ」
と、言って、柳也は五人との連戦のため脇に置いていた振棒を担ぎ直した。
午前中に秘密会談と定例会のあった本日は、当然ながら朝の稽古をしていない。毎朝の早朝ランニングこそ欠かしてはいなかったものの、体を動かしたという実感はいまだ薄かった。五人との連戦も、日々厳しい稽古を己に課している柳也には満足出来たとは言いがたい。
振棒の素振りも、たった十五分では一日のノルマを終えることは出来ていなかった。
最低でも三十キロの振棒を一日二千本は素振りしないと、強化された柳也の体は満足してくれない。
「ま、まだやるんですか?」
ヘリオンが思わずといった様子で訊ねてきた。
いまだ体力作りからして不十分な彼女の目には、なおも稽古を続けようとする柳也の体力が底なしと映ったらしい。
驚きと呆れが同居した表情を浮かべ、自分を見上げてくる。
驚きの眼差しを向けてくるのは、なにもヘリオンだけではなかった。
ネリーとシアー、そして最年長のヒミカさえもが、柳也の驚異的なスタミナに驚きを隠せないでいる。ハリオンだけは相変わらずニコニコと笑っていたが。
「すごいですね」
ヒミカがすっかり感心した様子で呟いた。
「べつに普通のことだと思うけどなぁ」と、言い返そうとした柳也は、しかし言葉が口から出かかった寸前のところで飲み込んだ。
柳也自身にとっては普通のことでも、彼女達の目にはそうは映じていないことは明白だった。
「……まぁ、それなりに鍛えているからな」
柳也は面映そうに顔を背けながら少しだけ胸を張った。
するとネリーが、キラキラとした眼差しとともに質問を浴びせかけてくる。
「何か特別な訓練とかしてるの?」
ネリーが特別という部分をやけに強調しながら言った。
並外れた柳也の体力には、何か特別な秘密があるに違いない、そんな確信めいた感情が、口調から滲み出ている。
柳也は腕を組むと困ったように顔をしかめた。
「特にそういうのはないんだけどなぁ」
毎朝の早朝ランニングに振棒稽古、筋力トレーニングにイメージトレーニングと、地力を鍛える作業というものは往々にして地味なものばかりだ。
ネリーの言うような特別な訓練法など柳也は知らないし、もしそんなものがあるのなら、こっちが教えてもらいたいぐらいだった。
「それに……」
と、柳也は難しい表情でネリーを見下ろした。
「特別」という言葉に憧れるネリーの気持ちはよく分かるが、言われた柳也としては複雑な気持ちだ。
自分と彼女達との間に開きがあるのは、日々の鍛錬で積み重ねてきた地力に差があるからに他ならない。いわば努力の違いが生んだ差だ。それを「特別」の一言で片付けられるのは心外だった。
「じゃあさ、じゃあさ、必殺技とかないの?」
しかし当のネリーは柳也の内心など知らぬ存ぜずの様子で、またも遠慮のない質問を浴びせかけてきた。
どうも彼女は、エトランジェである自分のことを「特別」扱いしたいらしい。
柳也は今度も「ないぞ」と、答えようとして、「まてよ……」と、思い直した。
「本当にそうか?」と、自分自身に問いかける。先日、自分はネリーの求める必殺技とやらをエルスサーオで完成させたばかりではなかったか。
【ご主人様、ご主人様、スパイラル大回転斬りがあります!】
――そうだな。あれは確かに必殺技だ。
なにせ自分で必殺技として名前を付けたぐらいだ。
こと剣術の腕前について特別扱いをされるのは複雑な気分だったが、嘘をつくわけにはいかない。
柳也はゆっくりと口を開いた。
「……あるぞ。スパイラルで大回転な必殺技が」
柳也が呟くと、ネリーの口から「おぉ〜!」と、感嘆の声が漏れた。
「ね、ね? それってどんな技?」
「いやだから、“スパイラル”で“大回転”な技だ」
相手の内懐に肉薄するや、しゃがんだ態勢から回転を加えた跳躍とともに両手の二刀で斬撃を浴びせかける。あの必殺技を表現するのに、これ以上適切な単語はあるまい。
柳也はきっぱりと言い切った。
ただし、最も肝心な“スパイラル”と“大回転”の部分は日本語だ。
聖ヨト語でこれら二つの単語に該当する言葉を、柳也は知らなかった。
しかしネリーは、それでも柳也の持つ必殺技に興味を抱いたらしかった。
あるいは、異世界ハイペリアにあってなお特異な日本語の“大回転”という発音に、ミステリアスな魅力を感じたのかもしれない。
ネリーは突然、
「ねぇ、リュウヤさま。その技、ネリーにも教えてくれない?」
と、そんなことを言い出した。
「なんだって?」
柳也は思わず聞き返した。
ネリーの言葉は、それほど突拍子もない発言に聞こえた。
「だからぁ、リュウヤさまの必殺技をネリーにも教えてほしいの」
ネリーは焦れたような口調でもう一度同じ内容の発言をした。
ネリーの言葉を受けた柳也は少しだけ考えた。
スパイラル大回転斬りは必殺技だが、門外不出というほどたいそうなものでもない。
とはいえ、自分のスパイラル大回転斬りは二刀流が不可欠な上、〈決意〉と〈戦友〉の特殊性があって初めて可能になった技だ。教えを請われたところで、そう簡単に教えられるような代物ではない。
それに教えるにしても本人の意思確認は必要だ。ネリーが未熟なことは本人が誰よりもよく理解しているはず。必殺技などよりも基礎の技を覚える方が先決なのは誰の目にも明らかだ。そんな現状でネリーが必殺技を求めるのはなぜなのか。
「教えるのはべつに構わないが、ネリーはなんで必殺技を覚えたいんだ?」
柳也の問いに対するネリーの答えは実にあっけからんとしていた。
「だって、必殺技とかあった方がクールじゃん」
ネリーはにっこり笑ってそう言った。
次の瞬間、柳也の表情から一切の感情が剥がれ落ちた。
他の面々がネリーの迷いのない返答に苦笑を浮かべる中、ただひとり、柳也だけが顔の筋肉を硬直させ、ポニーテールの少女に酷薄な視線を向けていた。
「……そうか、クールか」
深い地の底から響いてくるような、重い呟きが柳也の唇から漏れた。
ついで、柳也の瞳に激しい憤りの感情が渦を巻き始めた。
ネリーの言うクールの定義はよくわからなかったが、そんなことはどうでもよかった。
ネリーのその言葉は、柳也にとって笑って見過ごしてよいものではなかった。
柳也は静かに瞑目した。
傍目にはその様子はネリーの申し出を熟考しているように見えたことだろう。
しかし柳也の言葉は、最初から決まっていた。
ネリーが、「クールだ」と、口にしたその時点で、彼の答えは決まっていた。
柳也は瞼を下ろした時と同様、静かに瞠目した。
ネリーを見下ろすその眼には、憤怒の感情はなく、穏やかな感情が色をなしていた。
それは作られた感情だった。
「……わかった」
柳也はゆっくりと頷いた。
「ネリーには必殺技を教えてやる。けどな、これは並大抵の努力で習得できるものじゃない。だからネリーには、明日から俺が特別に稽古を付けてやる」
そう言ってネリーを見下ろす柳也の瞳には、決意の炎が燃え滾っていた。
◇
――同日、夜。
左手のModel603.EZM3が午後十一時を示そうとしていた。
ラキオス王城から第二詰め所への帰り道を、柳也はひとり歩いていた。
そのいでたちは午後の訓練に励んでいた時と寸分違わず、訓練を終えたその足で王城に向かったことが窺える。秘密会談と定例会のために朝早くから詰め所を発った柳也だったが、どこで調達したのか、その手には携帯エーテル灯が握られていた。
「頼みたいことがあるから部屋の方に来てくれ」と、セラスからの伝言を携えたリリィが柳也のところにやって来たのは、あと数分で規定の訓練時間が終わろうかという時間帯のことだった。他ならぬセラスからの呼び出しを受けた柳也は、訓練が終わると他の五人を先に帰して、自らは早速彼の待つ王城へと向かった。
エトランジェやスピリット、そして一般の兵士などと違い、騎士であるセラスは城内で暮らすことを許されている。そのセラスの私室で、依頼の内容を教えられた彼は、直後、 呆れから一瞬言葉を失ってしまった。
セラスが柳也をわざわざ王城にまで呼び出して依頼した内容……それは、簡単にいえば自分の代わりに手紙を書いてほしい、という旨の依頼だった。
「今朝、通信兵が手紙を投函していったのだ」
セラス・セッカは端整な顔立ちを困惑に歪めながら切り出した。
「封を切って読んでみると、エルスサーオのアイシャからだった。早速、返事を書こうと筆を執ったのだが……結局、この時間になるまで書けなかった。いや、より正確に言えば、書き方が分からなかったのだ。恥ずかしながら私は生まれてこの方、女性に手紙を書いて送ったことがないのだ。いやそもそも、女性とまともに会話した経験すら両手で数えるほどしかない。だから女性に宛てた手紙の書き方・作法というものが分からないのだ。
スピリットとはいえ女であることには変わりはない。こんな私が筆を執れば、先方に不快な思いをさせかねない。そこで柳也、恥を忍んでお前に頼みたい。私の代わりにアイシャへの返事を書いてくれないか?」
セラスは、ほとほと困った、という様子で柳也にそう言って頭を下げた。
セラス・セッカは誇り高き騎士だ。騎士にとって他人に頭を下げるのは屈辱的な行為に他ならない。
まして自分は犬畜生にも満たないエトランジェだ。他の人間と比べるとスピリットへの差別意識の低いセラスだが、それでも感じる屈辱は一般兵に頭を下げる時の数倍に匹敵するだろう。
「恥を忍んで頼む」という、セラスの言葉も、決して大袈裟な発言ではない。
騎士としてプライドの高い彼が、そこまでの行為に踏み切っての依頼に、柳也は快く快諾の返事を……
「お前はアホくぅぁあわわぁぁあああッッッ!!?」
……するわけがなかった。
「まったく! ゴフ殿にも困ったもんだ」
借り物の携帯エーテル灯で夜道を照らしながら、柳也はふと溜め息とともに愚痴をこぼした。
セラス・セッカの本名を呼ぶ彼の顔には、憤りと呆れの入り混じった複雑な表情が浮かんでいる。暗い夜道に向けられた視線には、いまは遠いアイシャへの同情も見え隠れしていた。
エルスサーオのアイシャ・赤スピリットがセラス・セッカという男に対して特別な感情を抱いていることは、彼女のセラスへの接し方を見れば誰の目にも明らかだった。
少なくとも、手紙を書こうなんて決意を固められるほどに強い想いを抱いているのは間違いない。
有限世界ではスピリットが人間に手紙を送ることは、一般に無礼千万な行為と認識されている。そんな禁忌の常識がまかり通っているこの世界で、スピリットであるアイシャが、人間であるセラスに手紙を書いて送るなど、生半可な気持ちでは出来ないことだ。
手紙を送ってきたという事実ひとつとっても、彼女の想いの強さが窺える。
にも拘わらず、あの鈍感朴念仁騎士は―――――
「アイシャが欲しいのはセラス・セッカからの手紙だ」
柳也は年上のセラスにも遠慮のない言葉を浴びた。
「多少、字が汚かったり、手紙の原則に反する書き方だとしても、アイシャは気にしないさ。彼女にとって重要なのは、セラス・セッカが自分のために知恵を絞って手紙を書いた、っていう事実なんだから」
「そういうものなのか?」
「そういうものなの!」
第一、手紙の書き方云々について自分に教えを請うのは筋違いというものだ。
最近、自分でもつい忘れがちだが、桜坂柳也という男はまごうことなき異世界の人間だ。
当然ながら有限世界における手紙の礼儀作法など知るわけがない。手紙の代筆を頼むなら、他に適役がいるだろう。
「いやなに、サムライは普段から女性と接することに慣れているようだからな。手紙くらい簡単にこなしてくれるかと思ったのだ」
「まぁ、否定はしないけどさ……」
柳也は眉間に深い縦皺を刻んで深い溜め息をついた。
それから、柳也の必死の説得が始まった。
時に条件を突き付け、時に相手の言い分に譲歩し、桜坂柳也という男が持つ交渉術のすべてを総動員して、彼はセラス・セッカの説得に尽力した。
その甲斐あって、セラスも最終的には自分で手紙を書くことに納得してくれた。ただし、柳也も手伝うという条件付きで。
かくして、柳也とセラスの共同作業による手紙の作成が始まった。
しかし、二人いるからといって作業効率は決して二倍にはならない。
達筆だが本当に生まれてこの方女性に手紙を送ったことのないセラスとの作業は難航し、二人が無事に手紙を書き終えたのは、十時半を過ぎた頃のことだった。計四時間に及ぶ、長き死闘だった。
「つ、疲れたぁ……」
普段の訓練稽古とは別次元の消耗をその身に感じた柳也は、第二詰め所まであと二十メートルほどのところで思わず呟いていた。
腹の虫も、ぐぅぐぅ、鳴っている。午後の訓練終了と同時に王城に向かってそこで四時間以上を過ごしてしまった身だ。軽いつまみ程度には口にしていたが、本格的な夕食はまだ食べていない。自他ともに認める大食漢の柳也にとって、空腹は何よりの苦痛だった。
――今日は飯食ってはよぅ寝よう。
すでに詰め所へは伝言を預けたリリィを差し向けている。
「夕食の残りを取っておいてプリーズ!」という、自分の魂の叫びが、先方にちゃんと伝わっていれば、夕飯抜きという最悪の事態は免れることが出来るはずだ。もし用意されていなかったら、この物語は本話で終了ということになる。
【主よ、いくらなんでも飢え死には主人公として不味いぞ?】
――そう思うのなら祈ってくれ。俺のために夕飯が残っている、って。
柳也は自分と一心同体の相棒に切なる願いを吐露しながら、残りの道のりを消化していった。
程なくして、優しいエーテル灯の輝きが前方に見えた。
昨日と今日の二日間ですっかり見慣れた第二詰め所の姿が視界に映じた。
ほぼ同時に、柳也は視界の中に動くものを発見した。
身長も体格も小柄なシルエットが、詰め所の庭で柳也にとって非常に魅力的な官能の動作を繰り返していた。
ヘリオンは無人の庭に立っていた。
左手に鞘ぐるみのままで提げているのは第九位の〈失望〉だ。
日本刀型の永遠神剣を佩く黒スピリットにのみ支給されている角帯の前にこじりから差し込み、鍔がちょうどへその前に来るまで持ってきている。
身長に対して長大な太刀を佩いた腰は重さを感じさせず、かといって軽そうにも見えない。神剣を帯びた腰元は見事に決まっていた。
「……」
半眼になったヘリオンは静かに二度、呼吸を繰り返した。
黒炭色の戦闘服に覆われた小さな双丘が、静謐に上下する。
息を吸い込む鼻腔も、吐き出す口元も、決して大仰には動かさない。
両肩の力はきれいに抜けており、腰を正面に向けた姿勢は見事な自然体だった。
三度目に息を吸ったとき、
「……!」
体側に下げていた右手が、静かに、それでいて俊敏に動き出した。
遅れることなく、左手が鍔元に伸びていく。
鯉口を切った次の瞬間、右足が一歩、前に出た。
刹那。
腰を正対させたまま鞘を引き絞り、ヘリオンは〈失望〉を横一文字に鞘走らせた。
かと思うと、抜きつけた刀身をすかさず振りかぶり、真っ向を斬った。
手応えを感じたか。ヘリオンは柄から左手を離すと〈失望〉を握ったままの右拳を米神へ持っていった。
日本刀のかます切っ先が血振りの円弧を描き、ヘリオンはようやく刀を鞘に納めた。
再び、最初の自然体の姿勢に戻る。
そして何呼吸か間を置いて、また刀身を抜き付けた。
ヘリオンは居合の基本とされる一連の連環を、幾十度となく繰り返していた。
無論、規定の訓練時間はとうに終了している。
自身の実力不足を自覚してか、ヘリオンは自主的に訓練にいそしんでいるようだった。
稽古に熱中するあまり、ヘリオンは柳也の存在に気付いていない。
柳也は眼光鋭く、ヘリオンの練習風景を眺めた。
ヘリオンの居合の技からは自分の学ぶ直心影流にはない動きを学ぶことが出来る。
文字通りの見取り稽古を己に課した柳也の体から、空腹からくる苦痛はとうに消えていた。
――なんて丁寧な手の内なんだ。
柳也は思わず感嘆の吐息を漏らした。
左手を主、右手を従とする剣術の要訣は居合においても変わらない。むしろ定寸(二尺三寸=約七〇センチメートル)より長尺の刀を扱うことが前提の居合では、尚のこと意識して行う必要が求められる。
その点、ヘリオンの手の内は洗練されていた。
右手一本で抜き付けた柄を振りかぶり、左手を添えた時にはもう、主軸は右から左に移っている。
十指の動きにしても、初心者がよくやるような鷲掴みではない。
真剣であれ竹刀であれ、左右ともに小指を要として常に握りこみ、打ち込むときには薬指から順に閉めていくのが剣術の原則だ。とはいえ、終始均一な力加減というのはありえない。当然ながら対敵動作の各過程において、柄を握る手の内は常に変化する。
振り下ろした刃が対手の肉体を捉えた瞬間に遅滞なく十指を握り込めればこそ、刃先に遠心力が加わって確実に骨まで斬割することが出来る。しかし、再び振りかぶる時には小指を締めておくだけで、残りの八指は軽く添えただけの状態に戻っていなくてはならない。
すべては日本刀という武器の機能を十全に引き出すための要領だ。
緩急強弱の手の内を、ヘリオンはごく自然に使い分けていた。
こと居合の技術に関してヘリオンの手の内は、柳也のそれをはるかに圧倒していた。
――居合は凄いんだ。居合は…。
柳也は胸の内で呟くと溜め息をついた。
午後の訓練時間の時もそうだったが、ヘリオンの腕前で褒められるのは居合の技くらいのものだ。それ以外の技術や能力は、並以下の水準といえよう。
たとえば折角の居合の業前も、それを活かす基礎体力がなければどうしようもない。
事実、幾十度と続いていた居合の稽古は、回を重ねるにつれて徐々に精彩さを欠き始めていた。腕前に、体力が追いついていない。
――やっぱ走り込みからだな。
柳也は改めてヘリオンの訓練計画を練りながら難しい顔で頷いた。
ところで、柳也は夜間ひとり自主訓練に励むヘリオンのことを感心した態度では見なかった。
いまのところ第二詰め所のメンバーで最も下位の実力者がヘリオンなのはまぎれもない事実だ。
そして人数の少ない小部隊では一人の力量不足が部隊全体の実力に大きく影響する。仲間の足を引っ張らないためにも自主的な訓練をするのは当然と考えていたし、むしろやらない方がおかしい、とすら柳也は思っていた。
その一方で、柳也はひとりの剣士として稽古に励むヘリオンのために何かしてやりたいとは思っていた。
「……よし」
何か良い案が思いついたのか、柳也は小さく呟くと、ヘリオンに気付かれぬようそっと第二詰め所の玄関を開けた。
◇
――聖ヨト暦三三〇年、エクの月、緑、ふたつの日、深夜。
居合の基本動作の反復が千本を数えた時、時刻はちょうど午前零時を迎えようとしていた。
時計を持っていないヘリオンはそのことを知る由もなかったが、己に課したノルマを終了させたことで、ようやく剣を抜き差しする手を止めた。
今日も一日自分の稽古に付き合ってくれた〈失望〉に礼を言いつつ、鞘に納める。
自主稽古を始めてかれこれ二時間、額には大粒の汗が浮き上がり、世界は激しく息継ぎする自分の呼吸音で満たされていた。
夕食後の自主稽古はヘリオンがSTFに配属される以前から日課としている行為のひとつだった。
STFへの編入以前、ヘリオンはラキオスで訓練中のスピリットだったが、その実力は同期の誰よりも低かった。そればかりか、自分より下の期の訓練兵にも劣るほどだった。
特別、ヘリオンが鍛錬の蓄積を怠ってきたというわけではない。むしろヘリオンは人一倍の努力をし、訓練量だけなら正規の兵にも負けぬものがあった。しかし、ヘリオンがどんなに努力して訓練を積み重ねても、他の者との差はなかなか埋まらなかった。
ヘリオンの努力が実らぬ最大の理由……それは彼女の持つ神剣にあった。
ヘリオンの〈失望〉の位階は第九位で、これはスピリットが持ちうる神剣中最弱の位だった。言い換えると、他の第八位や第七位の神剣と比べて、神剣の基本性能が違うのだ。
午後の訓練中、柳也は第七位の〈決意〉の力を第二次世界大戦当時米軍の主力だったM4シャーマン中戦車に例えた。
これに習って第九位の〈失望〉を戦車に例えるなら、やはり第二次世界大戦の米国M2中戦車といったところだろう。シャーマンと比較してエンジン出力が一〇〇馬力劣り、それでいてM4と同クラスの時速四〇キロを確保出来ているのは、火力と装甲を犠牲にしたからに他ならない。主力の37mm砲はM4の75mm砲に決して及ぶことなく、最大25mmの装甲板は盾にならないことの方が多かった。
神剣の位の差は絶対だ。
たった二つ位階が違うだけで、これほどの性能差が出てしまう。
ヘリオンが上位の神剣を持つ他のスピリットを超える力を得ようと思ったら、人一倍の努力でも足りない。彼女の場合は、人の三倍、四倍と努力して、やっと他の者と同水準の力を得られる。規定の訓練時間内のメニューをこなしているだけでは、とてもではないが他の者に追い着かないのだ。
〈失望〉の第九位という位階は、ヘリオンが持って生まれてしまった、自力ではどうすることも出来ない不幸だった。
しかしヘリオンは、自分の弱さを神剣の位のせいにしてくさることはなかった。
根が真面目な彼女は、人の三倍、四倍と努力することで、同期のみなとの差を埋めようとした。その努力の一つが、夕食後の自主訓練だった。
頬を伝って地面に滴り落ちた汗が、ぽつぽつ、と灰色の土に吸い込まれて染みを作っていく。
分厚い戦闘服の生地がべっとりと肌にまとわり付いていた。これだけ汗を流していると、単に拭っただけでは不快感は取り払えない。
ヘリオンは毎夜訓練の後そうしているように湯浴みをすることにした。
ハイペリアのそれと比べて規模の小さいファンタズマゴリアの軍隊では、入浴時間に厳密な規定はない。湯を張りさえすれば、誰でも、いつでも大浴場を利用することが出来る。
あらかじめ用意しておいたタオルと着替えを小脇に抱え、ヘリオンは大浴場へと向かった。大浴場の湯で稽古の汗を流し、身も心もさっぱりしてから自室に戻る。髪と肌の手入れ。そして最後に、今日も一日鍛練に付き合ってくれた〈失望〉の手入れをしてやる。そうして最後にようやく床に就くのが、ヘリオンの毎日の生活サイクルだった。
大浴場のある一階には、同時に柳也の暮らす士官室がある。
今夜は帰るのが遅くなるから、と伝言を見知らぬ女性に託していった彼がすでに帰宅しているかどうか、ヘリオンは把握していなかったが、念のため足音を殺して部屋の前を通る。
大浴場で湯浴みを済ませたヘリオンは、そのまま自室へと向かった。
時間が時間だけに、大きな物音は立てられない。
階段を上って奥から二番目の自分の個室の前まで来たところで、ヘリオンは足を止めた。
自分の部屋へと続くドアの前に、小さなテントが置かれていた。
ハリオンの趣味で購入されたフリルの可愛いキッチン・パラソルを持ち上げると、一枚の皿に、ヘリオンが見たことのない食べ物が載っていた。
こんがりと狐色が優しいそのふんわりとした食べ物は丸い円盤状で、中央に穴が開いていた。パンの生地を油で揚げると、こんな感じになるだろうか。砂糖をふんだんに使っているらしく、鼻を近づけると、ほのかに甘い匂いが漂ってくる。
皿の側には一通の手紙があった。
三つ折りにされた便箋を手にとって開くと、ヘリオンの口から、思わず「あっ……」と、声が漏れ出た。
手紙にはヘリオンの宛名で、彼女をねぎらう文章が書かれていた。
『自主練お疲れさん。運動の後の疲れた身体には甘いものが効くぞ。俺の手料理だ。心して食べるように』
ヘリオンの口元に、クスリ、と微笑が浮かんだ。
差出人の名前はない。しかし、誰が書いたのかはすぐにわかった。
『追伸。自主的に稽古を積むのは良いことだが、あんま無理すんなよ』
たったそれだけの文章の、ごくごく短い手紙。
しかしその短い文章からは、かえって、会って間もない彼の優しさが伝わってきた。
同時にこの短い文章の手紙は、彼女に小さな誇りをくれた。
実際にはそんな内容は一言も書かれていなかったが、手紙を貰ったことで、エトランジェである柳也に自分の努力を認めてもらえた、そんな気がした。
ヘリオンは皿の上から一つ、不思議な食べ物を手に取った。
ハイペリアではドーナツと呼ばれるそれを、そっと口に運ぶ。
甘くて、柔らかくて、優しい……そんな味と歯ごたえ、そして感情がヘリオンの口の中に広がった。
<あとがき>
注)今回のあとがきでは他作品の批評のような文章が多々登場しますが、それら批評はすべてタハ乱暴の個人的主観に基ずく評価であり、必ずしも世間一般の評価とは合致いたしません。
タハ乱暴「永遠のアセリアAnotherも今回のEPISODE:29で新章に突入しました。そこで今回はこのあとがきの場を使って、EPISODE:20の時にもやった『アセリアAnotherができるまで』を、やりたいと思います。題して……」
「永遠のアセリアAnotherが出来るまで〜A〈決意〉と〈戦友〉の誕生〜」
タハ乱暴「です!」
北斗「つまり今回の製作裏話トークでは主人公の相棒二振について語るわけだな?」
タハ乱暴「その通りだ北斗。……さて、まずはなぜ主人公の永遠神剣が二振に決まったか、続いてなぜ体内寄生型という極めて特殊な形態を選んだのかについて喋っていきたいと思います。
我らが主人公・桜坂柳也が初期案の戦部零人だった時代、主人公の神剣はナイフ型で、第五位の〈隔絶〉というものでした。この設定を作ったのが2004年1月のことです。この後三年の凍結期間を経てアセリアAnotherの製作プロジェクトが始動した時、〈隔絶〉君の設定は大きく変わりました」
北斗「戦部零人が現在の桜坂柳也に名を変えた時点で、第五位、ナイフ型という設定は一度リセットされることとなった。位階についてはEPISODE:20のあとがきでも述べたので今更多くは語らないが、要するに、タハ乱暴が今回の主人公にはあまり強すぎる神剣をもたせたくないと考えたためだ」
タハ乱暴「柳也は主人公だけどポジション的にはガンダムでいうところのスレッガーなんだよ。エースだけどガンダムには乗れない。逆に素人のアムロ……つまり悠人だけがガンダムに乗れるわけ。コアブースターにしか乗れない柳也は、リック・ドムやビグザムを相手にする時、頭を使わないといけないわけね」
柳也「ナイフ型という設定が却下となったのは、先に主人公の設定を決めてしまっていたせいだ。つまり、直心影流の剣士っていう部分だな。素肌剣術の遣い手がナイフってどうよ? って流れ。
ただ、この時点で俺の神剣は第七位の〈隔絶〉で、日本刀タイプの神剣だった。〈決意〉の名前や、体内寄生型っていう設定はまだ存在しなかった」
タハ乱暴「ナイフ型から日本刀型になった〈隔絶〉君は、しかしすぐに変わりました。
要するに主人公で、剣士だから日本刀型という発想は、あまりにも安直すぎる、と。ついでに日本刀型の永遠神剣は、他の二次創作作家の皆様に書きつくされた感があったので。
そこでAnotherの主人公には、これまでにない形態の神剣を持たせようと考えました。それが体内寄生型で、これは原作アセリアや、続編の『スピたん』にも同タイプの神剣が登場していますが、主人公がこの手の特殊な神剣を手にするケースはなかったので、採用しました。あえて正統派スタンダードの神剣の逆をいってみたわけです。あと、色々と話を作りやすそうだったので(笑)。
また、主人公の神剣が体内寄生型と決まった時点で、二振と契約することは決まっていました。これも他の二次創作作家の皆さんと同じことやっても面白くない、という発想からの設定でした。かくして、ここにダブルライダーならぬダブルゴッドソードズが誕生したのです(笑)」
柳也「ちなみにここまでの段階で〈隔絶〉の名前は消えた。代わりに、〈決意〉と〈戦友〉の二つの名前が、神剣名の候補に挙がっていた」
タハ乱暴「実はこの二人の名前は適当なんです。〈決意〉と〈戦友〉の名に篭められた意味というのは後付けで、なんとなく柳也の大切にしている価値観のイメージがそんな感じかな、とそんな程度の意識で考えました」
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北斗「さて、続いて〈決意〉と〈戦友〉のキャラ作りについてだが……」
タハ乱暴「〈決意〉にせよ、〈戦友〉にせよ、主人公・柳也のパートナーとなる永遠神剣の人格設定をどうするかについてはかなり悩みました。もしかしたら、柳也より悩んだかもしれない(笑)。
タハ乱暴はこの二人のキャラを作る際、常に二つのことを留意して挑みました。一つは、主人公との関係をはっきりさせること、です。要するにタハ乱暴は、〈決意〉達を『リリカルなのは』のレイジングハートにはしたくなかったんです。
なのはファンには怒られてしまうかもしれないんですが、タハ乱暴はレイジングハートが嫌いです。いや、なのはは好きなんですが、どうもレイジングハートが好きになれないんです。ご存知の方も多いかと思いますが、レイジングハートはある程度の自我意識を持ったデバイスで、マスター・なのはの窮地に際しては、自らの判断で確保していたジュエルシードを手放すなど、ガンダムでは到底出来そうにないことをやってのけました。劇中のフェイトの台詞によれば「主想いの良い子」らしいです。
しかし、『リリカルなのは』では、どうもこの意思を持つデバイスの設定が活かしきれていなかったようにタハ乱暴は思います。つまり、レイジングハートとなのはの関係があまりにも曖昧すぎる。あるいは、描写が足りていない。レイジングハートはなのはに忠誠を誓っているんですが、その忠誠の所在が分からない。主となったのがなのはだから従っているのか、なのはが主だから従っているのか、が分からない。なのはのことが好きなのか、嫌いなのか。好きだとしたらそれはどんな形の好きなのか。姉が妹を愛でる、あるいは妹が姉を慕う感覚なのか、そういった描写がされた気配がない。なのはとレイジングハートの関係というのは、非常に曖昧で、極端に言うと、得体の知れない関係なんです。
本作Anotherでは、〈決意〉、〈戦友〉、そして柳也の三人の関係を出来るだけ明確にしようと心掛けて書いています。神剣たちは柳也のことをどう思っているのか。その感情はどんな人格を下地にしたものなのか。神剣たちはなぜ柳也と契約を交わしたのか。そういうのを常に明確にしていたい。
もう一つの留意点は、永遠神剣という武器としてではなく、一個の人格を持った人間として描写すること、です。
永遠神剣は武器であり、一個の人格を有した人間です。位にもよりますが、その自我は時に悩み、喜び、野心を抱き、計画を練り、本能のままに行動しようとし、契約者の身を気遣うなどします。人間ではないのですが、非常に人間臭い存在なんです。
存在としては石ノ森章太郎の『人造人間キカイダー』が近いでしょうか。キカイダーは秘密結社ダークを壊滅させるための兵器として生まれましたが、良心回路によって自我を持ち、やがては人間のような意思を持つようになります。彼はロボットでありながら自らの存在意義に悩みますし、恋もします。敵であるハカイダーに友情を感じたりもしています。最終的には兄弟愛に目覚め、家族愛に目覚めました。非常に人間臭い、いや人間そのものといっても過言ではないでしょう。キカイダーはロボットであると同時に、人造“人間”でした。
タハ乱暴は永遠神剣を、神剣“人間”にしたいと考えました。神剣で、武器なんだけど人間でもある。だから時に悩むし、時には契約者の意向に反するような言葉も口にする。〈決意〉なんかは突然現われた余所者の〈戦友〉に、あからさまな敵愾心を抱きますからね。もう、子どもの喧嘩レベル(笑)。しかも戦場で喧嘩をするからたまったもんじゃない。でも、そういうのが微笑ましい。
実はタハ乱暴は、戦闘でばりばり活躍する〈決意〉よりも、幼女の尻を追っかけている〈決意〉の方が好きなんです。戦闘時の〈決意〉は所詮“武器”で、でも、詰め所でオルファの裸を盗み見ようとする〈決意〉は“人間”ですから。キャラクターを作る上でも、彼らは武器ではなく人間なんだと常に心掛けて作りました」
北斗「なるほど。それではまず〈決意〉についてだが……」
タハ乱暴「主人公の柳也がアレだからね。〈決意〉は最初常識人にしようと思いました。『戦国BASARA』でいうところの片倉景綱小十郎。あんな感じの人。ただ、あまりにも堅物だとかえって親しみにくいと思いまして。それで生まれたのがあのロリコン設定(笑)」
北斗「あの風呂場での発言か。あれで読者の柳也と〈決意〉のイメージがずいぶん変わったというが」
タハ乱暴「うん。〈決意〉ってロリコンだったのか、って悲しんでくれた人もいた。けど、これは非常にありがいことだと思っている。悲しむ、って感情を抱いてくれたってことは、その人はそれだけ〈決意〉のことを……武器ではない人間としての〈決意〉を好きなってくれたってことだから。
ついでに言うと、逆に嫌ってくれても構わないんだよ。いちばん恐いのは、何の感情も抱けないキャラ」
柳也「あと、〈決意〉についてはちょっと頑固なところがあるよな? 〈戦友〉との口喧嘩もそうだけど」
タハ乱暴「あの方が可愛げがあるでしょう? 常識人で、口では何だかんだと言いながらもいつも柳也の身を案じていて、それでいて頑固な親父。しかも女性の趣味は偏っている(笑)。こういう人、実際にいそうじゃない?」
北斗「たしかにな……さて、次は〈戦友〉だが」
タハ乱暴「〈戦友〉は後から登場する神剣ということで、〈決意〉との差別化を図る必要があった。その際たるものが基本の人格を若い女性にしたこと。なんで若くしたかというと、これは柳也と神剣の関係を家族みたいにしたかったからで、お父さんの柳也と、お母さんの〈決意〉、娘の〈戦友〉みたい家庭が理想だった。……ちょっと失敗した感が否めないけど」
柳也「お母さんと娘はいつも喧嘩しているしな」
タハ乱暴「きっと娘はすっごいファザコンで、隙あらばお母さんからお父さんを奪ってやろうと思ってるんだよ。でも、お母さんもお父さんのことが好きだから、お父さんを巡って壮絶な喧嘩になってしまうの(笑)。んで、いよいよ収拾がつかなくなった段階でお父さんがちゃぶ台を返すっていう……。
ただ、〈戦友〉と〈決意〉を差別化したいというのはあるけど、根っこの部分は同じにしようと思った。なにせ、同じ男を契約者とする神剣同士だから。本質的な部分は似るようにした」
北斗「ちなみに〈戦友〉には〈決意〉と同様、嗜好の点でいまだ隠されている部分があるらしい。読者の皆さんはその辺りも楽しみにしていただければ幸いだ」
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タハ乱暴「いやぁ〜、しかし結構書いたねぇ」
柳也「そうだな。俺も今回のEPISODE:29は色々と働き尽くめで疲れたし……」
北斗「過労死寸前の主人公! アセリアAnotherの未来はどうなるのか!?」
タハ乱暴「煽ってる、煽ってる」
柳也「いやタハ乱暴、俺、最近マジで働きすぎだって。そろそろぶっ倒れるって」
タハ乱暴「安心しろ柳也! 次回のEPISODE:30では、もう倒れる予定が決まっている!」
柳也「……え?」
北斗「……というわけで締めに入るとしよう。永遠のアセリアAnother、EPISODE:29、お読みいただきありがとうございました!」
タハ乱暴「次回、EPISODE:30もお読みいただければ幸いです」
北斗「ではまた次回のあとがきでお会いしましょう!」
タハ乱暴「ではでは〜」
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柳也「……おで、次回、本当に過労死?」
<おまけ>
幽州琢県の地を目指して進軍を続ける黄巾党二万の軍勢。
それを迎え撃つ白馬将軍公孫賛六〇〇〇の孤軍奮闘に加勢するべく軍を差し向けた桜坂柳也ことジョニー・サクラザカは、謎のジョニーカードのポイントサービス勧誘によりその兵力を四〇〇〇へと増やし、公孫軍との合流を果たしたのだった。
「お〜、お前が最近噂のジョニー・サクラザカか。……って、どうしたんだ? 何をそんなに震えて……」
「け……け、結婚を前提にお付き合いしてください!」
公式の会見の場にいていきなり頭を垂れて結婚の申し込みをする我らが主人公。どうやら一目惚れをしてしまったらしい。
勢いのみのプロポーズを受けた公孫賛は、
「な、な、なななな何を言っているんだ!? わ、わたしとお前は今日会ったばかりだろ? そ、それなのに結婚なんて……」
と、柳也の申し出を断った。どうやらこの手の愛の囁きというものに免疫がないらしく、顔を真っ赤にしながらの呟きにはなかなか萌えるものがある(注、作者妄想)。
他方、公孫賛にプロポーズを断られた柳也は、
「チックショー! ルビコン川に身投げしてやるぅぅぅぅぅ!」
と、自暴自棄になってしまった。
そこにやって来る我らが趙子龍、全身これ肝なり。
「白珪殿、援軍が来たようですな……」
「うわぁぁぁぁぁんん!!」
「……なんですか、いまの御仁は?」
自棄になった柳也は趙雲の隣を通り過ぎ、憂さを晴らすべく独り黄巾党の群れへと突撃していく。
「待て! これはわたしのイベントのはず――――――」
「うわぁぁぁぁぁんん!! なんで俺はモテないんだぁぁぁぁぁぁああ!!?」
趙雲の突っ込みもなんのその、六尺豊かな大男は、涙で顔をくしゃくしゃにしながら二尺四寸七分の得物を振り回す。それを見て、我らがアニキを助けなければと勇躍するジョニー・サクラザカの勇士達。
「ジョニーのアニキがたいへんだ!」
「俺達もいくぞ!」
「よーし、みんな! お兄ちゃんを助けるために突撃するのだ――――――!!!」
「こら待て鈴々! ……ええいっ、仕方がない。関羽隊も突撃するぞ!」
「はわわ! 愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、勝手に突っ込んじゃ駄目です!!」
てんやわんやの大騒ぎ。戦術も何もない、ただの力押しの戦い。さしものジョニー・サクラザカ軍も、黄巾二万の軍勢に真正面立ち向かっては分が悪すぎる。
朱里の制止の声にも聞く耳持たず、我らがアニキを助けるべく進撃するジョニー・サクラザカ軍は、櫛の歯が欠けるかのように徐々に兵力をすり減らしていく。
この窮地を救うべく諸葛孔明朱里は、会心の奇策を発動させた。
「ご主人様っ、白珪さんがご主人様からの求愛を断ったのは照れていたからだけです! ご主人様はモテなくなんかありませんっ」
「……本当に?」
「はいっ。ご主人様はご自分が思っている以上に、“いい男”ですぅ」
「よっしゃぁぁぁ――――――!!!」
朱里の言葉に自信を取り戻し、同時に冷静さを取り戻した我らが柳也。早速朱里の献策を基に、現代戦術を取り入れた作戦で二万の大軍を翻弄する。
「職なき、そして今日を生きるための糧すら満足に得られない黄巾党の鬼ども、いま我らジョニー・サクラザカの軍に下れば貴公らは人間としての誇りを取り戻すことが出来る! そして、いまならばジョニーカードに一〇〇ポイントのサービスをつけることが出来る!」
そしてここでも効果を発揮する謎のジョニーカード。これによって大軍の二万のうち三〇〇〇の吸収に成功したジョニー・サクラザカ軍は、公孫軍六〇〇〇と合わせて一万三〇〇〇の戦力を以って敵の撃退に成功したのだった。
ヘリオンたちの個人戦力の分析か。
美姫 「これらを踏まえて、どう成長させるか、よね」
まあ、戦術や戦略には真面目な柳也だから変な特訓とかはないだろう……多分。
美姫 「多分が付いちゃうんだ」
あははは。あと、あとがきで言われていた神剣である決意だが。
確かに戦闘時よりも普段の方が人間味があるし、面白いよな。
美姫 「確かにね。柳也と神剣とのやり取りは楽しいわね」
うんうん。その辺りもこれから更に楽しみにしてます。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。