――聖ヨト暦三三〇年、エクの月、赤、いつつの日、朝。

 

柳也にとってひとつの転機となる日がやって来た。

スピリット・タスク・フォース(STF)設立のための予算が承認されてから、すでに二日が経っている。

部隊の新設に伴い、柳也はそれまでの第一詰め所から異動し、第二詰め所の管理人になるよう国王からの指令を受けていた。そしてその指令を実行する日が、今日だった。

柳也はエスペリアの先導に従い、件の第二詰め所へと続く道を歩いていた。

背中から中身の膨らんだ軍用鞄を提げ、腰にはいつもの通り閂に差した大小。スピリット用の戦闘服に士官用の陣羽織、一般兵士用のトラウザーズといったいでたちだ。

第二詰め所の建物について、柳也はまだ何も知らなかった。旅行の際の宿泊施設と同じで、下見をするのは勿体ないと、当日になるまで必要最低限の情報以外をあえて遮断したからだ。

実際に詰め所までの道を歩くのも、今日が初めてのことだった。

第二詰め所は第一詰め所以上に深い林に囲まれていた。

青々と茂る若葉が目を惹くが、ちょっと道からはずれるとすぐに迷ってしまいそうな雰囲気だ。目を惹かれるのはともかく、足を惹かれるのは危険だと直感した。

しかし同時に、未知の世界への入り口に対する好奇心から、少しだけ足を運んでみたいという欲求を捨てきれないのも事実だった。

『第二詰め所ではいま何人のスピリットが暮らしているんだ?』

柳也は男心をくすぐる深い林の奥のほうに目線をやりつつ、エスペリアの背中に声をかけた。

エスペリアは前を向いたまま、

『五人です。青が二名、赤が一名、緑が一名で、黒が一名の総員五名です』

と、静かに答えた。

『人数はいままでの第一詰め所と変わらないな』

『はい。リュウヤさまは、黒スピリットについては?』

『エルスサーオに手紙を届けに行った時に会ったから、大体の特徴はわかっている。……ついでに聞いておくが、その赤スピリットの一人っていうのは、ヒミカ・レッドスピリットのことか?』

『はい、そうです。……すでにお会いになられたのですか?』

『戦術講義の学生だ。優秀という冠頭句が付く』

『そうですか』

柳也の方を振り返らぬまま、エスペリアが呟いた。

しかしその背中は嬉しそうに揺れている。

聞くところによれば第二詰め所の赤と緑の二人はエスペリアと同期のスピリットらしい。育った場所は違えど、同期の桜が褒められて嬉しいようだ。

『五名のスピリットのうち、赤と緑はすでにいくつかの実戦を経験していますので即戦力として使えます。青の二人もそこそこの訓練は積んでいるということですが、実戦は未経験ですし、まだまだ未熟でしょう』

『黒スピリットについては?』

『黒の娘は……残念ながら、半人前としか言いようがありません。まだ基礎の初等戦闘訓練すら終わっていない段階です』

『精鋭からはえらく縁遠い面子だな』

呟きながらも、柳也はスピリット達の練度そのものについては楽観視していた。未熟者や半人前なら、これから鍛えていけばよいだけの話だ。

それに実際の戦闘では個々の戦闘力などあまり問題にならない。実際の戦闘で必要なのはチームワークであり、それを醸成するための協調性だ。そして、隊のメンバーの実力を一二〇パーセント発揮させられる指揮官の存在だ。

柳也はそこに住んでいる者よりも、建物自体のほうが気になった。

なんといってもこれから自分の住む場所だ。当日のワクワクのために情報を遮断してきたとはいえ、入居してから後悔した、というような事態は避けたい。最悪、コーポ扶桑レベルの部屋は欲しい。四畳半一間、窓は西側に一つのみのあの部屋未満だとしたら、野宿のほうがマシという可能性すらある。

少なくとも、野天なら四方から朝の到来を実感することができる。

その旨をエスペリアに告げると、彼女は苦笑しながら『大丈夫です』と、保証をくれた。

『第一、二詰め所の設計を担当したのはラキオスでも指折りの建築士の方です。予算の制約のため第一詰め所よりは小ぶりですが、不便はさせないはずです』

『そりゃあ、よかった』

両翼を囲む林から目線をはずし、柳也は、ほっ、と胸を撫で下ろした。

どうやら野宿だけは免れられそうだ。

さらに柳也は突っ込んだ内容に触れていく。

『風呂はどんな感じだ?』

風呂の有無は日本人の柳也としては重要な点だ。毎日利用できる風呂があるかどうか、またそれが大きいか、小さいかによって士気がだいぶ変わってくる。

エスペリアは、その点についても『大丈夫ですよ』と、保証してくれた。

『スピリットとエーテル技術発祥の地であるラキオスのスピリットには、過去三〇〇年以上のデータの蓄積から、他国と比べても良好な居住環境が整えられています』

エスペリアの説明によれば、ラキオスでは詰め所に最低五人以上が一度に入れる大浴場を設置することが義務付けられているという。さらに集団で食事を摂れる食堂施設、自前の井戸がある庭の存在も必須らしい。

その機能と形態は、兵舎というよりは貴族の別荘に近い。たしかに、昨日まで暮らしていた第一詰め所も、兵舎という印象はほとんどなかった。

『聖ヨト王国黎明期のスピリット隊の環境は劣悪だったと聞いておりますが、現在のラキオスに限っていえば住居についてあまり心配することはないかと』

『そうか』

『そもそもラキオスの詰め所は……』

エスペリアの説明にいちいち頷きながら、柳也はエルスサーオの第二大隊の詰め所を思い出す。あそこも柳也達の世界でいうところの兵舎とは程遠い造りをしていた。

その時、森を見つめる柳也の眉が、ピクリ、と動いた。

茂みの向こうに、人影を見つけたのだ。曲線的な身体の輪郭は、おそらく女性のものだろう。顔は見えなかったが、エメラルド色の長髪が艶やかな森の妖精だった。

柳也は前を歩くエスペリアを見た。

ラキオスが誇る守りの要にして説明大好き緑のメイドは、王国軍スピリット隊の詰め所の発展の歴史について語り続けている。エスペリアには凝り性に加えて少し頑固なところがある。家事についてもそうだが、一度説明を始めると自分の知っている知識をすべて伝えきるまで、なかなか口を閉ざそうとしない。

エスペリアの視線は、依然として前方を向いたままだ。

柳也は自分の思い付きを実行に移すべく、エスペリアに訊ねた。

『ところで、第二詰め所まではあとどれくらいかかるんだ?』

『そうですね……あと十分くらいでしょうか』

あと十分くらいというと、自由に動ける時間は二、三分か。

エスペリアの説明は、あと二十分は続きそうな勢いだ。

柳也はひとつ頷くと、エスペリアの背中に向かって無言で謝罪のジェスチャーを送った。

――すまんエスペリア。だが、俺が悪いわけじゃないんだ。悪いのは俺を林へと誘う妖精さんなんだ!

柳也は心の中で謝罪しながら、道をはずれ、無音で林の中へと入っていった。

神剣の力ではなく、直心影流の鍛錬の中で身に付けた技術だけに、エスペリアにばれた気配はない。

柳也は安全を確認してから、林の奥へと静かにひた走った。

 

 

……そして、それがいけなかった。

「ま、迷っちまっとぅぁぁぁああああッ!!」

【主よ…】

【ご主人様ぁ…】

柳也の心からの叫びに呼応するように、林の木々がさめざめとざわついた。

すぎた好奇心は身を滅ぼす。

 

 

 

 

 

永遠のアセリア

-The Spirit of Eternity Sword Another Story “Twin Edge of Protection”-

第一章「有限世界の妖精たち」

Episode28「ドリームのようなハウス」

 

 

 

 

 

――聖ヨト暦三三〇年、エクの月、赤、いつつの日、朝。

 

「ま、迷っちまっとぅぁぁぁああああッ!!」

『あら?』

突如として林の中から聞こえてきた奇声に、エスペリアは第二詰め所へと向けられた足を止めた。

『いったい何でしょう、いまの声は?』

問いかけながら後ろを振り返る。

自分の後ろを付いてきているはずの柳也は、いったいどんな反応を示しているのか。

しかし、振り返ったその先に、柳也の姿はなかった。

『あ、あら?』

エスペリアは慌てて周囲を見回す。

しかし、柳也の姿はおろか気配すら、近くからは感じることはできなかった。

 

 

森の妖精に誘われて道に迷った柳也だったが、動揺したのは最初だけで、次の瞬間にはもう冷静な思考を取り戻していた。

柳也が詰め所近辺の森林の中で迷ったのはこれで二回目のことだ。一回目の時ならばいざしらず、二度目ともなるとさすがに取り乱すことはない。

前回は森の中で〈決意〉の神剣レーダーを発現させ、エスペリアの神剣の気配をたどって無事に生還を果たした。

今回も同じ手段でエスペリアの気配を見つけ出し、その方向に向かって歩き出そうとした柳也だったが、できなかった。

今回は前回の時にはなかった問題が発生したためだ。

前回の時と違って現在の自分は、二振りの永遠神剣と契約を結んでいる。

【主よ、レーダーを使うなら我のものを使うがよい。有効範囲は小娘のものより我の方が上だ】

【ご主人様、こんな駄剣なんかよりも、わたしのレーダーのほうがずっと役に立ちます!】

〈決意〉と〈戦友〉は、先ほどから柳也の頭の中で同じような台詞ばかりを叫んでいた。

神剣レーダーを使用するにあたって、どちらのレーダーのほうが柳也の役に立つか、当人の頭の中で言い争いが始まってすでに十分が経っている。その間、柳也は迷ったと気付いた場所から一歩も動けないでいた。

己の血肉と一体化した相棒二人の仲はラキオスに帰還してからも相変わらずで、事あるごとに諍いを繰り返していた。そしてその度に、柳也は両者の間で板ばさみとなり、全身の苦痛に耐えねばならなかった。直接的な戦いとなれば、いちばんに被害を受けるのは柳也自身の肉体だからだ。

現にいま、柳也は頭痛に悩まされている。頭の中で言い争う〈決意〉と〈戦友〉の憤りが、無自覚に彼の脳を傷つけているためだ。

かといって、いま、二人の言い争いに口出しするわけにはいかなかった。

〈決意〉を立てようとすれば〈戦友〉が拗ね、〈戦友〉を立てようとすれば〈決意〉が腹を立てる。

なにより自分自身のために両者に対して中立的な立場を守らねばならない柳也としては、喧嘩両成敗になるような状況でないと口を挟むことができない。

一方だけを立てるとなれば、それこそ差別だと言われて、もう一方からの恩恵を受けられなくなる可能性すらある。戦闘中にそんなことになったら、致命的だ。

〈決意〉と〈戦友〉のやりとりは、言葉の応酬を重ねるほどに熱く、そして激しくなっていった。

性格的な違いもそうだが、両者の神剣レーダーには機能的な特徴の違いがあり、さらに話をややこしくさせていた。

【ふっ。たかだか八キロメートルしか有効範囲を持てない小娘が、いまの主の役に立てるとは到底思えんな】

【ふん。有効範囲の広さは認めてあげるけど、精度のほうはどうかしら? 駄剣なんかに六キロ先のスピリットの位置を正確に特定できて?】

二人は剣呑な感情を向け合いながら睨み合う。

彼ら自身が口にした通り、〈決意〉のレーダーは有効範囲に優れ、〈戦友〉のレーダーは精度に優れている。この性能の違いも、柳也の悩みのタネの一つだった。

どちらか一方のレーダーが有効範囲・精度の両方において絶対的に優秀であれば、まだしも理詰めで片方を説得できたかもしれない。

まるで事前に申し合わせたかのような二人の機能的特徴の差が、いまの柳也を精神的にも、肉体的にも苦しめていた。

――エスペリア、心配しているだろうな……。

頭痛に頭を抱えながら、ふとエスペリアのことを思い偲ぶ。

すでに彼女が口にした十分間はとうに過ぎてしまっていた。

心配性の彼女のためにも、そろそろ本腰を入れて現状を打破しなくてはならないだろう。

――〈決意〉、〈戦友〉……。

柳也は自身の肉体と一体化している二人に対して、重々しい口調のイメージで呼びかけた。

反論を許さず、用件を一気にまくし立てる。

――多角的な分析を行った結果、今回にのみ限ってはお前達のレーダーはどちらも役に立たないことと結論付けた。よって、今回のみ、俺の肉体に備え付けられた、自前のセンサーを使うことにする。

【自前のセンサー?】

【ご、ご主人様にそんな秘密が!?】

めいめいの反応を見せる永遠神剣二人。一方は柳也の言葉に対して懐疑的な態度を取り、もう一方は柳也の言葉を真に受け、驚愕に身を震わせる。

〈戦友〉の驚愕は、柳也の肝臓辺りを刺激した。

柳也は腹回りをのたうつ激痛を、ぐっ、と堪え、真顔で呟いた。

「その名もズバリ“美人さんいらっさ〜いレーダー”だ!」

【【……は?】】

珍しく、〈決意〉と〈戦友〉の呟きが重なった。

柳也の突拍子もない発言を受けてか、二人は唖然とした様子で争うことをやめ、その結果休息に頭と肝臓の痛みが消えていく。

一つの肉体を共有する三人の間に数秒の沈黙が訪れ、やがて最初に口を開いたのはいちばんの新参者だった。

【ご、ご主人様、それはいったい……?】

――うむ。簡単にいうとこれは俺にとっての美人を感知するためのセンサーで、桜坂柳也四大特技の一つだ!

柳也はやけに力強い語調のイメージで二人に悠然と語った。ちなみにあとの三つはそれぞれ剣術、似顔絵、記憶力だ。歌については別に神技として、柳也の中ではカテゴライズされている。

――原理や詳しい仕組みについてはこの際省略しよう。ともかく、俺はこのレーダーを起動することによって美人であれば老若男女問わず、その位置を特定することができる。

最大有効美人半径は約五〇〇メートル。最大探知美人数は二五二。内同時追跡可能美人数は最大二六。特定位置の誤差範囲は±五センチ!

【そんな馬鹿な話が……】

――あるんだ!

ますます懐疑的な感情イメージをぶつけてくる〈決意〉に、柳也は毅然とした態度で言い放った。

――実際、出来るんだから仕方がない。エスペリアも十分ではそう遠くまで行っていないはずだ。いまならば、五〇〇メートル圏内にいる可能性は高い!

柳也は、ぐっ、と握り締めた拳を突き上げた。

「というわけで“新○さん、いらっさ〜いレーダー”起動!」

【主よ、名前が変わっている! 伏せ字をせねば各所から文句の言われる名前になっている!】

「細かいことは気にするなぁッ!」

柳也は早速“○婚さん、いらっさ〜いレーダー”を起動させた。

直後、変化は彼の頭の上で起こった。

異世界にやって来てからというもの、戦闘の邪魔にならない程度に切り揃えるだけで、あとは基本的に伸ばし放題にしている柳也の黒髪が、突如として波打ち始めた。絶叫する黒い波間から比較的長めの一房が、ニョッキリ、と頭をもたげ、つむじの部分で全長一五センチはあろう搭を築く。身長一八二センチの体躯は、一九七センチへと急成長を遂げた。

しかし次の瞬間、柳也の身長は一九五センチへと下がった。塔の先端二センチが直角に折れ曲がり、なんと本物のレーダー端末のように回転を始めたのだ。おそらく美人を捜し求めて特殊な電波を送っているのだろう。

時折、何かの電波を受信してか、塔全体が、ビビビッ、と音を立てて振動する。

それは到底ありえるはずのない光景だった。

常識的な感覚の持ち主であれば、心の病に陥ったとしても不思議ではない。

それほどに、人間離れした柳也の特技だった。

【あ、主よ、おぬしは本当に人間か!?】

――失礼な。れっきとした人間だぞ?

〈決意〉の放った当然の質問に、柳也は憤然と答えた。

するとその直後、美人を探して回転を続ける塔が、ある方向を示すように止まった。どうやら本当に美人の反応をキャッチしたらしい。

「ようしッ! こっちだ!」

柳也は太陽のように燦然と輝く笑顔で走り出した。

前方のみを見つめる瞳にも、大地を踏みしめる足にも、まったく迷いがない。

茂みを掻き分け、林の中でサボっていた兵士を蹴散らし、途中の門でパンを口に咥えながら走る少女とぶつかったりしながらも、柳也は美人の反応を目指してひた走った。

【……兵士や娘御に道を訊けばよかったではないか?】

「うるさい! そんな安易な展開はドリームじゃない。読者もそんなのは望んでいない!」

勝手な台詞を呟きながら、柳也は走り続ける。

と、不意にその足が急激に速度を落としていった。

水の流れる音に混じって、明るいテンポの鼻歌が柳也の耳朶を打った。

――……誰か、いるのか?

柳也は全力疾走から一転してゆったりとした歩調に改めつつ、周囲を見回した。

姿は見えないが、風の調べに乗ってたしかに聞こえてくる、川のせせらぎと女の声。

音のする方向へと歩きながら、柳也は小首を傾げた。

北のリクディウス山脈から流れてくる川の本数は、現地の人間でも正確な数を把握できないほど多い。だから川の存在自体は不思議でないが、こんな森の中に女の声とは……。

――もしかして、さっきの妖精さんか?

柳也は淡い期待を胸に慎重に歩を進めた。

乱立する木々に遮られて、途切れがちになるメロディラインを聞き逃すまいとしながら、自身の発する音は出来うる限り一切殺し、忍び歩く。獲物を見つけた狩人のように慎重な接近は、以前、時深の禊を覗いてしまった反省からくるものだ。あの時も、水の音に引き寄せられて、たいへんな目に遭った。

はたして、今回はどうなるか。

【ご主人様……】

――ああ、わかっている。

進行方向から感じられるマナの気配は、神剣の使い手に特有のものだった。誰かまではわからないが、おそらく緑のスピリット。それも第六位以上の神剣の契約者が放てる、強い反応だ。この森に入る前に見た、彼女にほぼ間違いないだろう。

――神剣の力だけで判断すればファーレーンクラス……だが、なんだ? この、妙に捉えどころのない気配は……。

神剣レーダーを使うまでもなく感じられる気配の感触に、柳也は首をひねる。

いままで出会ってきたスピリット達は、TPOや個人差はあれど、“そこにいるのだ”という確かな手応えのような感触が気配にあった。しかしこのスピリットからはそれが感じられない。なんというか、マナの気配が不安定で、存在感が希薄なのだ。

――意図して気配を絶っているという風じゃない。むしろ、感じられる気配は自然体だ。

いったいこの気配の持ち主はどんなスピリットなのか。

より強い人間との出会いを求める剣士として、またひとりの男として、柳也は自身の胸の鼓動が高鳴るのを実感した。心の昂揚は、戦場に立った時のそれに近い。

柳也は発する足音は静謐に、歩調だけを速めていった。抱いた好奇心の程を表すように、ぐんぐん加速していく。

柳也は口元に不敵な冷笑をたたえた。

先ほどはチラリと垣間見えた緑の髪の艶やかさに惹かれ、森の中に足を踏み入れた。

しかし今度は、彼女自身に興味を抱き、森の奥へと進んでいく。

同じ女を追うでも、理由が違えばこうも変わるものなのか。

いまや柳也の頭の中から、エスペリアへの心配はすっぽりと抜け落ちていた。

 

 

目的の場所と人物は、二〇メートルも歩かぬうちに見つかった。

もともと広大というほど広くなく、土地鑑のある者なら迷いようのない森だ。

冷静になって探し回れば、スピリット一人の気配を見つけることなど造作もない。

掻き分けるというよりはすり抜けるように茂みを避けて足を踏み入れたその場所では、小川の清流が耳に優しい風情ある景観が広がっていた。

かつては日本のそこかしこにあったであろう、日本人という民族の血に刻まれた心の原風景とでもいうべき光景だ。ただ漫然と眺めているだけで、心穏やかに、安らかになっていく自分を実感できる。

続いて柳也が目にしたのは、濡れた下穿きだった。といっても、いかがわしい意味ではない。下穿きは小川の穏やかな流れに浸されて、純白に輝いていた。

小川では一人の緑スピリットが洗濯にいそしんでいた。柳也が森に入る直前に見つけた、森の妖精だ。小川の岸辺にしゃがみこみ、清流に両手を浸けている。

エスペリアの話にも出てきた、例の第二詰め所で暮らしているという緑スピリットだろうか。

年齢は自分より少し年上で、エスペリアやヒミカと同じくらいだろう。

水面に向けられた顔の輪郭は優しいラインを描いており、腰まで届く長髪は顔の両側と真後ろの三箇所で束ねている。エスペリアのものとデザイン違いのメイド・ファッションから覗く腕は細く、しかし筋はしっかりとしているようだった。重ね着したエプロンドレスの上からでもそうとわかる圧倒的なボリュームの乳房が、柳也の目線を捉えて離さない。

――息を呑む美しさとは、こういうものか。

思わずそう考えてしまうほど、その緑スピリットは美しかった。

美人揃いのスピリットの中にあって、彼女の目鼻立ちは特別優れているというほどではない。しかし一つ一つの所作には他の娘達にはない艶があり、柳也の男としての本能を刺激した。

意識していなくても、動作の一つ一つを目で追ってしまう。

鼻歌混じりに洗濯にいそしむその姿は、何の変哲もない光景にも拘らず、華があった。

緑スピリットは茂みをすり抜けてやって来た自分の存在に気付いていない。

柳也は奇妙な居心地の悪さを感じながらも、洗濯の様子を覗った。

折しも有限世界の時節は夏。

緑スピリットが洗濯物を浸す水は透明で、ひんやりとした涼気が少し離れた柳也のところまで漂ってくる。

柳也は急速に喉の渇きを覚えた。

思わず喉が、ゴクリ、と鳴った。

そんなささやかな音でも、スピリットの優秀な聴覚は鋭敏に捉えた。

両手に洗濯物の戦闘服を手にしたまま、音のした方……柳也の立っている方向を振り向く。

僅かに垂れ下がった眉と、その下で同じように端の垂れた双眸が、驚いたように見開かれた。

『あらぁ〜?』

間延びした、おっとりとした口調が静かな森の中に響いた。

悪意の欠片も感じさせない透明な眼差しが、柳也の頬をむず痒くする。

柳也は反射的に何か言いかけて、すぐに口を閉じた。まさか発見されるとは思ってもいなかったから、一瞬、何と声をかけてよいか判断に窮してしまう。

しばし無言のまま立ち尽くしていると、最初に行動を起こしたのは妖精さんの方だった。

『ええと……どちら様でしょう〜?』

突如現れた見知らぬ男。腰には剣呑な大小を閂に差し、気配を殺して立っている。現代日本であれば怪しさのあまり通報されてもおかしくないようなたたずまいの柳也を前にして、彼女の口から飛び出したのは緊張感に欠けた声だった。

明らかに不審者全とした柳也に対して、まるで警戒心を抱いていない様子だ。

人間慣れしていないのか、不審そうな素振りすら見せず、しげしげと自分のことを見つめている。

柳也が何と答えるべきか迷っていると、何か思いついたか、森の妖精は、パンッ、と両手を叩いた。

『あぁ、わかりました。森の妖精さんですね〜?』

それは自分の台詞だ、と反射的に言おうとした柳也だったが、その言葉が紡がれることはなかった。

口を開くよりも素早い別な反射行動が、柳也の身体を突き動かしていた。

緑スピリットの少女が手を叩くと、必然、それまで洗っていた戦闘服は彼女の手を離れることになる。

件の彼女がその事に気付き、『あらあら〜』と、困ったように呟いた時には、もう戦闘服は下流へと向かって流れ始めていた。

軍鞄を放り出した柳也はほとんど無心で駆け出していた。

トラウザーズの裾が濡れるのも構わず、川の中へと入っていく。自分のせいで手放してしまったようなものだ。小川の中に飛び込むのに、迷いはなかった。

小川の底は深いところでも三十センチといったところで、長身の柳也が足を取られるようなことはなかった。

柳也が一歩足を踏み出すたびに数センチのさざなみが生じ、水飛沫が跳躍する。

脛の四分の三辺りまでを濡らしながら、柳也はなんとか戦闘服の裾を掴んだ。

拍子に、予想以上に跳ね上がった飛沫が頬を濡らす。

水をたっぷり含んだ重い生地を持ち上げて、柳也は川の中から緑スピリットを振り返った。

うっかり洗濯物を手放してしまった彼女は、なぜか嬉しそうに笑っていた。

拾った洗濯物を片手に歩み寄ると、百万本の花束を献上してでも眺めていたいと思わせるにこやかな笑顔が出迎えてくれた。

『わざわざ拾っていただいて、どうもありがとうございます』

『ああ、いや……』

洗濯物を手放させてしまったそもそもの原因は自分にある。責められこそすれ、礼を言われる理由はない。

そう言いかけた柳也は、声が喉元まで出かかった寸前で口を閉ざした。

見れば、一点の曇りもない晴れやかな笑顔が、自分に向けられている。

まだ名前も知らない彼女だったが、この笑顔を壊したくないと、柳也は強く思った。彼女の顔から笑みを吹き飛ばしてしまうような言葉を口にすることは、はばかられた。

洗い直しとなった戦闘服を差し出しながら、柳也は自身もまた柔和な笑みを浮かべると、

『どういたしまして』

と、言葉短く言った。

さらにいまだ互いに自己紹介をしていないことに気付き、口を開く。

『最初の質問に答えておこうか。俺の名前はリュウヤ・サクラザカ。今度、スピリット隊第二詰め所に着任することになった……』

と、そこまで言いかけたところで柳也はかぶりを振った。

この場でSTFの副隊長だと紹介するよりも、もっと適切な言葉を思いついた。

『……森の妖精だ』

 

 

かくして、森の妖精同士の楽しい時間が始まるかと思いきや、そうはならなかった。

柳也の自己紹介を受けた緑スピリットが早々に自らの正体を明かし、彼女は森の妖精ではなくなってしまった。

『わたしの名前はハリオン・グリーンスピリットです〜』

そう自己紹介した彼女は、その際にまた洗濯物の入った桶を川に流してしまった。

それを回収するべくまた川の中へと身を投じた柳也が再びハリオンの前に現れた時、その容姿は森の妖精というよりは水の妖怪と形容した方がしっくりくるいでたちをしていた。

「……って、ちょっと待て。なんで妖精じゃなくて妖怪やねん!」

……ナレーションに対する柳也の突っ込みはさておいて、ひとまず岸辺に上がった柳也はそこでハリオンと五分ほど談笑をし、その過程で彼女がやはり第二詰め所のスピリットであるということを知った。そしてその果てに、柳也はハリオンの洗濯を手伝うことになった。

「いや、だから待てって! なんで俺まで洗濯をやる羽目に!?」

【……わからぬ。いったいどういう経緯でこのような結果に落ち着いたのか、一部始終を見ていた我にもまったくわからぬ】

胸の内から湧き上がる激しい動揺を隠そうともせずに言った柳也の言葉に、〈決意〉もまた動揺を露わにして答えた。

まったくもって相棒の言う通りだった。

ハリオンと会話をした五分間の記憶は、柳也もちゃんと保持している。初めて顔を合わせる相手だから、それこそ一字一句にまで気を遣って彼女の言葉を把握するよう努めた。それなのに、どこをどうしてこうなってしまったのか、まるで理解ができない。

気が付いた時にはもう自分は川の中に足を踏み入れ、気が付いた時にはもうハリオンとのお喋りに夢中になっていた。

そして、気が付いた時には、もう、自分は彼女の洗濯の手伝いのため、女物の衣服を握っていた。

――この間、洗濯に関連する単語はハリオンの口からも、俺の口からも出ていない。それなのに、なんでこんな展開になっているんだ!?

いまこの瞬間にいたるまでの自分の行動を思い返した柳也は、そうすることが当然とばかりに洗濯作業に没頭している己の両腕を見下ろして愕然とした。

どうしてこうなってしまったのか、何度思い返してもやはり原因がわからなかった。

ただ、そうしなければならない、という義務感が、いまの柳也を突き動かしていた。その義務感が、いったいどこから湧き出てくるのか、まったく不明なまま。

「……まぁ、いちばん不思議なのは、なんでこうなったのかわからないということよりも、こんな状況にも拘らず洗濯を続けている自分の存在だが」

柳也は可動範囲の限界まで首をひねりながら呟いた。

奇妙を通り越して不気味でさえある現状にあって、何のかんのと言いながらもせっせと手を動かしている自分こそが、いまこの場において最も不可解な存在なのは否定しようのない事実だった。

【主は変人であるからな】

「うるせェ! 変人言うな!」

頭の中で痛切に響いた〈決意〉の発言に、柳也は憤然と答えた。

耳膜が音を受け取ってから反応するまでに要した時間はわずか〇・〇五秒。某宇宙刑事が戦闘強化服を装着するのに要する時間とほぼ同じタイムだ。何も思い当たる節がない人間に出せるレスポンス・タイムではない。

どうやら柳也自身、自分のことを変人と思っている部分があるようだ。

〈決意〉のもっともな指摘に対して怒鳴り声をあげた柳也の手元では、誰の物とも知れない下穿きに皺が刻まれていた。どうやら叫んだ拍子に力が入りすぎてしまったらしい。

すかさず、隣から柳也を叱る声が飛ぶ。

『もう〜、駄目ですよぉ、妖精さん。女の子の下着はもっと優しく扱ってあげないと』

怒っているのか困っているのかいまいち判然としない表情でハリオンが言った。

もともと両端が垂れ下がる形で整っていた細い眉が、さらに鋭角に垂れている。

ハリオンは柳也のことを妖精さんと呼んでいた。どうやら彼女は、自分の最初の自己紹介をすっかり鵜呑みにしてしまったらしい。装いからして軍関係者だということは明らかなのに、自分が森の妖精だと信じて疑わない。柳也も、自分からそう名乗りを上げた手前、訂正するのは気が引けた。

『あ、はい。申し訳ありません』

柳也は思わず謝っていた。

そう言うのならば自分に女物の下着を洗わせないでほしい、という旨の発言は、思いついてもなぜか口に出せない。

柳也は、今日会ったばかりのハリオンが放つ独特の雰囲気に呑まれ始めている自分を自覚した。

――い、いかん。この俺が、今日初めて会ったばかりの彼女にペースを乱されるなんて!

柳也は慄然とした眼差しで隣のハリオンを見つめる。

女好きの柳也をして息を呑むほどの美しさをたたえた緑スピリットの少女は、のんびりとした手つきでブラジャーを洗っていた。

彼女の言う優しい手つきとやらを身に付けるべく、参考とばかりに眺めていると、またお叱りが飛んだ。

『あ〜、手が止まっていますよ?』

『あ、はい。申し訳ありません』

ハリオンにたしなめられ、素直に謝罪する柳也。

奇妙なことに、ハリオンに対しては謝る以外の方策がまるで思いつかなかった。なぜかはわからないが、彼女に逆らうとたいへんな目に遭うような気がしてならないのだ。これも彼女の放つ独特の空気によるものなのか。

――ううむ……不思議だ。

柳也は怪訝に眉をひそめながら、彼なりの優しい力加減で手早く下穿きを洗った。女の肌は繊細だ。その肌を覆う衣服もまた繊細に出来ている。丁寧に洗うのは良いが、時間をかけすぎるのはむしろ生地を傷めることになる。

下穿きを洗い終えた柳也は、続いて二つある桶のうち未洗濯の衣類が収められた方の桶に手を伸ばした。

ほとんど何も考えぬまま指先に触れた生地を掴み、桶から引っ張り出す。

取り出したのはFカップはゆうにあろうデミカップブラだった。

柳也は適当に掴み取ったブラジャーを見るなり深い溜め息をついた。この有限世界にやって来てから、もう何度目になるかわからない、文明レベルの支離滅裂さ加減に対する嘆息だった。中世時代のヨーロッパをそのままコピーしたかのようなファンタズマゴリアだが、なぜか下着に使われている技術は現代日本のそれとほとんど変わりがないように思える(エロゲーのお約束です)。

――しかし、でかいブラだなぁ。

デミカップブラを眺めながら、柳也はもう一度、今度は先ほどとは趣の異なる溜め息を漏らした。

実は柳也は女性の下着を見ることには慣れている。しらかば学園時代、洗濯などの家事は当番制だったから、柳也は男の身ながらごく頻繁に女性用下着と接してきた。もっとも、ほとんどは女児用のショーツだったが。それでも、ブラジャーの種類くらいは分かる。

いま手の中にあるブラジャーは、その柳也をして溜め息をつかせるほどの迫力があった。なんというか、日本人離れしたサイズだ。

『あらぁ? それはわたしのですねぇ〜』

『…………』

にこにこと表情を崩さずに言うハリオン。

柳也は無言でブラジャーを水中へと投じると、いまだかつて戦闘の最中でも見せなかったほどの高速の動きで汚れを落とし、洗濯済みの桶へと放った。

なぜかハリオンのブラには、無駄な時間はかけてはいけないような気がした。

下手に時間をかけて生地を傷めた暁には、自分の身に何かたいへんなことが起きる。そんな強迫観念が、柳也の心と体を支配していた。正体不明の、不気味な不安だ。

――理由はわからないが、なぜだかハリオンに抵抗した若者の哀れな末路が見える……ロティ・エイブリス、君のことは忘れないぞ!

【ご主人様、ロティって、どなたですか?】

柳也は眦の端をキラリと光らせながら明後日の方を見た。

〈戦友〉からの突っ込みは、あくまで無視だ。

柳也はその後もせっせと洗濯物をすすぎ、もみ、時につまんでいった。日頃、振棒や漆塚ばかりを握っているヤスデの葉のような大きな手が、次々と汚れを落としていく。

その隣で、ハリオンは相変わらずののんびりとした手つきで洗濯物をすすぎ、もみ、時につまんでいった。たおやかな指先が白い布地の表面を滑る光景はなんとも優雅だが、作業の進捗は柳也と比べるまでもない。

全自動洗濯機も、化学洗剤も発明されていない有限世界の洗濯は基本的に洗濯板を用いた手洗いだ。となると、より腕力に勝る男の方が有利に進めることができる。

性格的なものもあるだろう、ハリオンが一枚を洗う間に柳也が三枚を洗い終えるという状況が続き、片方の桶の中はたちまち空っぽになった。

『……終わりました』

柳也は額に浮かんだ汗を拭いながら隣のハリオンに声をかけた。いくら水辺にいるといっても時節は夏、一箇所にとどまっての作業はもともと汗腺の多い柳也から汗という形で水分を奪っていく。

最後の一枚をちょうど洗い終えたハリオンは、いっぱいになった方の桶を見てにっこりと笑った。

『ありがとうございます〜。妖精さんのおかげで、いつもより早く済みました』

『いや……』

嬉しそうに笑いながら礼を言うハリオンに、柳也もまた満面の笑みで応じた。

実質的にほとんどの洗濯物を自分が片付けることになってしまったが、労働の代価としては十分すぎる笑顔だ。

――そうか……。

と、そこで柳也は得心した様子で頷いた。

自分がなぜ、いままでハリオンの手伝いをしていたのか、その原因が、ようやくわかったような気がした。すべては、この笑顔に原因があったのではないか。

ハリオンの笑顔を見ていると、不思議と彼女のために何かをしてあげたいという気持ちになってしまう。そしてそのことに対して、何ら疑問を抱くことなく行動してしまう。

おそらく自分は、このハリオンの笑顔の持つ魔法にかかってしまったのだ。

人を疑うことを知らない彼女の、屈託のない笑顔に魅せられて、初対面にも拘らず自分はすすんでハリオンの手伝いをしてしまったのだ。

――まるで本当の妖精みたいだな。

ギリシアの神話に伝えられる森の妖精は、恋多き種族だったという。

交わした言葉は千にも満たず、しかし自分はその所作の一つ一つに、なによりその笑顔に魅了されてしまった。

これを恋といわずに何と形容するべきか。もしかしたら自分は、ハリオンが無意識に放つ恋の魔法にかかってしまったのかもしれない。

――まぁ、もともと俺は恋多き男だけどねん。

いまだ初恋を知らぬ少年剣士は、朝日のように穏やかで、安らぎに満ちた彼女の笑顔を眺めながら苦笑した。

ハリオンがスピリットでなかったら、彼女は絶対男泣かせのイイ女になっていたことだろう。笑顔の魔法に魅せられた男達の涙が、目に浮かぶようだった。

苦笑を浮かべる柳也の表情に、複雑な感情が入り乱れた。照れと困惑が同居し、たちまち精悍な相好が崩れる。

いつの間にかハリオンの手が自分の頭に伸び、クシャクシャ、と撫でていた。

『……ところでハリオンさんや』

『はい?』

『どうして俺の頭を撫でているんでしょうかね?』

『いっぱい手伝ってもらったお礼です〜』

『……左様ですか』

柳也は照れ笑いに乾いた唇を歪めて呟いた。

どちらかといえば頭を撫でられる年齢はとうに卒業し、最近では撫でる側に回ることのほうが多かったから、こうして年上の女性に頭を撫でられるのはかえって新鮮だ。

不快感はなく、繊細な指使いが奇妙に心地良い。

まるで幼いことに死別した母親に撫でられているかのような錯覚すら覚えた。

ハリオンの手が不意に頭から離れていった。

立ち上がったハリオンはメイド・ファッションの裾を軽く払いながら、

『それじゃあ、わたしはそろそろ行きますね〜』

と、柳也に優しく微笑みかけた。

『どこに?』と、柳也が問う。

『第二詰め所ですよ』

と、答えた彼女に、柳也は、ああ、そうだった、と得心した様子で頷いた。

洗濯に専念して忘れかけていただが、ハリオンは第二詰め所のスピリットで、自分はその第二詰め所に向かっている最中に迷子になってしまった身だった。今更ながら、エスペリアのことも思い出す。

柳也は自分も立ち上がると、傍らに鎮座している桶を重ねて抱え込んだ。持参してきた軍用鞄も拾い上げる。

きょとん、としているハリオンに、軽く微笑んで言う。

『一緒に行ってもいいかな?』

ハリオンは、一瞬だけわずかに眉をひそめた。

彼女が考え込んだのは本当にその一瞬だけで、柳也が瞬きをした次の刹那には、ハリオンはもうにっこりと笑っていた。満面の笑顔が、彼女の意思を示していた。

『勿論、構いませんよ〜』

『妖精さんを連れてきたらみんなきっとびっくりしますねぇ』と、はずんだ声で呟きながら、ハリオンは柳也を先導した。

柳也は『たしかにみんな驚くだろうな』と、小さく呟きつつ、とりあえずエスペリアへの言い訳をどうするか考えながら歩を進めた。

 

 

第二詰め所へと向かう最中、柳也はふと思いついた。

エスペリアの話によれば、ラキオスの詰め所には自前の井戸の設置が義務付けられているはずだ。自然の流れがない分、洗濯をするには不便かもしれないが、それでも遠出をするほどではないはずだが。

『なんでわざわざ詰め所から離れて洗濯をしていたんだ?』

『だってその方が楽しいじゃないですか〜?』

『……なるほど』

にっこり笑って言うハリオンの言葉に、妙に納得してしまう自分がいた。

無理やりにでも納得しなければ、たいへんな目に遭うような気がしてならなかった。

――納得しろ、桜坂柳也。たとえどんなに不合理に思えても、ハリオンの前では納得力を全開に発動させるんだ! ハリオンに逆らったら、大変な目に遭う。アネたん、ロティの悲劇を忘れるな!

【だから、ロティって誰なんですか?】

 

 

――同日、昼。

 

結局、エスペリアへの言い訳は思いつかぬまま、柳也は第二詰め所に到着した。

――ここが俺の新しい寝床か。

柳也は初めて目にした、今日から自分の城となる建物をしげしげと眺める。

基本的な外観は昨日まで暮らしていた洋館とほとんど変わりのない木造二階建てで、エスペリアの言っていた通り第一詰め所よりやや小ぶりな印象だった。石造りの井戸が置いてある庭もまた、見慣れた第一詰め所の庭と比べて少し狭い。すべてにおいて、エスペリア達の暮らす館をスケールダウンした風景がそこにあった。

――もともと第一詰め所は没落した貴族の別荘だったと聞く。自由に使える個人の資産と、制約のある国家予算の違いか。

とはいえ、国が管理しているだけあって建物の基礎建築は素人目にもしっかりしている。窓の間隔から見て部屋もそこそこの広さはある様子だ。少なくとも、コーポ扶桑の居住環境よりは断然良さそうだ。

柳也は第二詰め所に近付きつつ〈戦友〉に感覚器官の強化を命じた。

〈決意〉よりも防御的な能力に特化している〈戦友〉は、五感の能力を飛躍的に高めることができる。神剣レーダーと同じで、知覚範囲こそ〈決意〉に劣るものの、精度の向上はこちらの方が得意としていた。対象物が近くにあるとはっきり分かっている場合は、〈戦友〉の力を借りた方が良い。

柳也は特に聴覚の機能を高めて、中の様子を窺った。

コーポ扶桑のそれとは比べ物にならない厚みを抱えた壁越しに、聞き覚えのある声を二つ知覚した。

エスペリアと、ヒミカの声だ。

道中で行方をくらました自分のことで悩んでいるエスペリアを、ヒミカがなだめている。

自分の責任だと真剣に悩むエスペリアの声を聞くにつれ、柳也の表情に深い懊悩が浮かんだ。ついで、暗い後悔と罪悪感、自分自身に対する憤りが、彼の表情を歪める。

自分のことをこれほど心配してくれている彼女を放って、己はいったいいままで何をやっていたのか。

最終的には怒り以外の一切の感情が欠落した表情で、柳也は歯噛みした。

――……とにかく、謝っておかないとな。

この先の未来を切り抜けるための言い訳はいまだ思い浮かばない。

しかし、兎にも角にもまずは謝らねば。自分はエスペリアに、それだけの心配をさせてしまったのだから。

いてもたってもいられなくなった柳也は早速、第二詰め所の玄関へと回り込もうとした。

しかし、柳也のその行動は、ハリオンの次の言葉によって阻止されてしまう。

『さあ、あとは洗濯物を干すだけですね〜』

駆け出そうとした柳也の足が、はたっ、と止まった。

ギギギ、と、まるで潤滑油の切れた機械のようにぎこちない動きで首を動かし、背後のハリオンを見る。

ハリオンはこれ以上ないというくらい満面の笑みを浮かべていた。

どうやら彼女は、自分が第二詰め所まで着いてきたのはこの後も天日干しを手伝ってくれるからと、すっかり思い込んでいたらしい。キラキラ、と輝く期待の眼差しが、柳也の心を鷲掴みにする。

柳也はハリオンの足下に置いてやった桶を見た。第二詰め所の現在の住人は五人と聞く。洗濯から天日干しまで一連の作業をひとりで行うには、かなり辛そうな量だった。

そして柳也に、ハリオンの期待の眼差しを裏切る勇気はなかった。

――も、申し訳ないエスペリア!

心の中でエスペリアに土下座した時にはもう、柳也はハリオンのために洗濯物を干すためのスペースを構築する作業に従事していた。

有限世界に竿竹屋はないが、物干し竿はある。付け加えれば太めのロープもあるから、洗濯後の乾燥の様式について現代世界との大差はない。

柳也は要領よく洗濯物を干していったが、いかんせん五人分は多かった。

ハリオンとの作業分担率は四対一といったところで、四人分もの衣類を干すというのは意外な重労働だった。なんといっても、ファンタズマゴリアにはアイロンがない。型崩れが起きないよう、変な皺が起きないよういちいち注意して干さなければならないから、神経の負担は大きかった。

これが自分の服であればもっとぞんざいに扱えるが、目の前にあるのはすべて他人の衣服で、しかも女物だ。手抜きはできない。

予想以上に手間取りながら作業をしていると、不意に背後で戸の開く気配を感じた。

あとで柳也も知ることになるが、第二詰め所の台所に設けられた勝手口は、庭と繋がっている。

その台所の勝手口が開いて、柳也もハリオンも、自然と目線をそちらに向けた。

出てきたのは炭のような黒髪を両側で縛ったツインテールが特徴的な黒スピリットだった。顔立ちから推測される年齢はニムントールと同じか、あるいはそれよりやや年上。身長も体格も小柄な、小動物を連想させる娘だった。

さすがに恋心を抱くには幼すぎる印象が拭いきれないが、ニムントール同様将来の成長が楽しみな娘だ。

それが第二詰め所の制服なのか、ハリオンと同じデザインのメイド・ファッションに身を包んでいる。

黒スピリットの少女はまずハリオンの姿を見つけてわずかにはにかんでみせた。その明るい表情からは一目見ただけで、彼女とハリオンが親密な間柄にあることを窺わせてくれる。

続いて、自分の姿を見つけて、少女はたいそう慌てた様子で表情を硬化させた。

無理もない反応だ。スピリット用の戦闘服や一般兵士用のトラウザーズはともかく、いま身に付けている陣羽織は否応なく己の身分と立場を示している。

この陣羽織を着ている姿を見て、それでも「森の妖精だ」という自分の言葉を信じてしまうハリオンの反応の方が、この場合は普通ではないのだ。

黒スピリットの少女は柳也のことをしきりに気にしながら、ハリオンのもとへと駆け寄ってきた。

『ハリオンさん、お帰りなさい』

『はい、ただいま帰りました〜』

黒スピリットの少女はハリオンの前に立つと礼儀正しく一礼した。

ちらちらとこちらに目線を向けながら、

『今日はどこまで行ってきたんですか?』

と、ハリオンに問いかけた。

「今日は」ということは、ハリオンが詰め所に備え付けられた井戸を使わずにわざわざ小川にまで出向いて洗濯をするのは、今日に始まったことではないらしい。しかも、少女の話し方から察するに、日によって洗濯の場所は変わるようだ。

『森の奥にある小川までですよ』

『……あのう、森の奥の小川って、何本もあると思うんですけど』

少女が少し困ったように呟いた。

柳也も、まったくの正論だ、と、頷く。

するとその声に反応してか、少女がこちらを振り向いた。人間と対峙している緊張のためか、頬が紅潮している。

表情も硬い。どうやら感情が顔に出るタイプらしく、せっかくの美人顔が残念なことになっていた。

少女は、自分とハリオンとを交互に見比べてから、やがておどおどとした口調で口を開いた。

『あ、あのぅ……こちらの方は?』

少女はハリオンの方に向き直って訊ねた。直接自分に問いかけないところから察するに、人見知りするタイプのようだ。そうでなければ極度の恥ずかしがり屋か。

少女の問いはハリオンに向けられたものだったが、柳也は彼女が答えるよりもいち早く口を開いた。

少女が本当に第二詰め所の住人だとしたら、これから長い付き合いになる相手だ。自己紹介くらいは、自分からやっておくのが筋というものだろう。

『桜坂柳也だ。今度、この第二詰め所の管理人をすることになった……』

『森の妖精さんです〜』

柳也の言葉が終わるのを待たずして、ハリオンの、ぽわぽわ、とした声が響いた。

柳也は一瞬、鼻白んだ顔で天を仰ぐと、溜め息とともに肩を落とし、苦笑を浮かべる。

『……だ、そうだ』

柳也は疲れた吐息とともに言葉を吐き出した。

ハリオンの口にした「妖精さん」という肩書きが、何度も頭の中をリフレインする。本をただせば自分で蒔いてしまった種とはいえ、その場で思いついたにすぎない「妖精さん」というレッテルと、こうも長い付き合いになるとは柳也自身思いもよらなかった。

――人間、迂闊なことは口にしないほうがいいな。

柳也はもう一度盛大な溜め息をついてから、黒スピリットの少女を見た。

さぞ呆れていることだろうと思って視線を送ると、意外なことに、少女は驚きに両目を見開き、己の顔を覗きこんでいた。

身長差があるため、顔と顔との距離は約四十センチと近いとは言えないが、遠いとも言えない。

『ほ、本当に妖精さんなんですか!?』

『…………』

予想していなかった少女の態度に、柳也は返すべき言葉を失ってしまった。有限世界のスピリット達は、人の言葉を疑うという事を知らないのか。

柳也は驚きよりも悲しみを感じている己を自覚した。

目の前の二人にしろ、アセリアにしろ、素直なのは良いことだが。度が過ぎるとそれも問題だ。絶対的に人間経験が不足しているから仕方がないといえばそれまでだが、せめて初対面の相手の言葉をなんでも鵜呑みにしないくらいの思慮深さは持っていてほしい。

『……君達がそれでいいなら、そう思ってくれて構わない』

柳也は乾いた笑みを浮かべながら呟いた。口調に、諦めの疲れが滲んでいる。こんなに神経を磨耗させるのは、バトル・オブ・ラキオス以来ではないか。

その時、じっと覗き込んでいた黒スピリットの表情に、はっ、と急激な変化が訪れた。

どうやら「桜坂柳也」という己の名前に、何か思い当たるものがあったらしい。自分の顔を見つめる眼差しに、驚愕と困惑の色が宿る。

少女は驚愕にわななく視線をまじまじと注ぎながら、『もしかして……』と、切り出した。STFの副隊長に就任することになるエトランジェ・リュウヤの名前は、エスペリアを通じてすでに先方に伝わっているはずだった。

『リュウヤさま……って、もしかして今度新設される部隊の……』

『ああ。副隊長だ』

少女の言わんとすることを悟った柳也は、彼女が言い終えるよりも先に口を開いた。

ようやく“森の妖精さん”から、“副隊長のエトランジェ”に戻ることができた。

『……それに伴って、今日から第二詰め所の管理人を任されることになった者だ』

『し、失礼しました!』

柳也が言い終えた途端、少女はばね仕掛けのように距離を取るや、姿勢を正し、深々と腰を折った。腰を支点にほとんど四五度の角度、ツインテールの先端が地面に着かんばかりの勢いだ。

『そうとは知らずに、たいへんな失礼を……』

『失礼って、何が……?』

『その……顔を近付けてしまって』

『ああ……』

柳也は得心した様子で頷いた。

妖精差別の思想があまねく蔓延している有限世界では、場合によってはスピリットと同じ空間にいることすら忌避される。

一見したところ目の前の少女はかなり真面目そうな性格の持ち主だ。顔を近付け、あまつさえ息を吹きかけることなどもってのほか、と思い込んでいるのだろう。

――ここにも、この世界の被害者がいた。

柳也は少女の黒い頭部に暗い視線を落とした。

まるでグリム童話の白雪姫を連想させるこの黒髪も、この世界においてはスピリットというだけで唾棄すべき対象と見なされる。こんなにもやわらかく、艶やかな黒髪が。

――誰も、なりたくてスピリットに生まれてきたわけじゃない。

子が生みの親を選べないように、彼女達は自ら進んでスピリットとして生まれてきたわけではない。彼女達の“生”に、罪はない。

にも拘らず、差別を受けねばならない彼女達の気持ちとはいかなものか。

自身不当な差別を受けた経験を持つ柳也は、妖精差別の現実を目の当たりにする度に他人事とは思えない怒りと悲しみを抱く。

そして差別の苦しみを知っているがゆえに、同じ立場の者に対し、優しさを注ぐことができる。

『……君、名前は?』

柳也は、ずっと頭を下げ続けている少女に声をかけた。

『……ヘリオン・ブラックスピリットです』

少女は顔を上げると、おずおず、と躊躇いがちに答えた。ハリオンとよく似た名前だ。もしかしたら二人の名付け親は、同じ人間なのかもしれない。

柳也はヘリオンに小さく微笑みかけた。いまや彼の顔から疲弊の色は消え去っていた。

『ヘリオン、俺は何だ?』

『え?』

『おっと、質問が漠然としすぎていたな。失敬、失敬』

柳也は苦笑しながら、もう一度へリオンに問いかける。

『ヘリオンがスピリットであるように、俺はいったい何なんだ?』

『え? え、ええと……エトランジェさま、じゃないんですか?』

不安げに答えたヘリオンに、柳也は首肯した。

『いや、合っている。そうだな。俺は、エトランジェだ。異世界からの来訪者。……言葉を飾らずにいえば、異世界からやって来た得体の知れない怪物だ』

柳也はあえてきつい言い回しで自身の存在を形容した。

ヘリオンの表情が、困惑に歪む。

柳也は穏やかな語調で続けた。

『怪物に顔を近付けたからといって、気に病む必要はない。そしてそのことで、君が謝る必要もない』

『…………』

ヘリオンが、はっ、とした様子で柳也を見つめた。彼はこれを言うためだけに、自らを怪物と称したのか。

怪物と、称せたのか。

これまで人間の口からそうした言葉を投げかけられたことがなかったのか、ヘリオンは予想外の回答に茫然と言葉を失ってしまった。

そんな彼女に、柳也は穏やかな表情から一転、悪戯を悪抱くむ子どものように嬉々とした笑みを向けた。

『それに、俺としてはむしろ、可愛い顔が接近してきてラッキーだったと思っている。……お兄ちゃん、ちょっとだけドキドキしちゃったよ』

柳也はニヤリと唇の端を吊り上げてそう言った。むっふぅー、と三次元の世界に生きる人間には不自然な擬音とともに鼻息をつく。真面目な話の後は、ふざけた態度で緊張を解くのは彼の常套手段だ。

『えッ!? あ、あのッ……』

女所帯のスピリット隊にあって、異性の口から「可愛い」と言われるのは初めての経験だろう。

茶化すような柳也の口調に、ヘリオンの顔は見る見る赤くなっていった。

やはり感情がまず表情に出るタイプらしく、顔の赤みが増すにつれて、表情もころころと変わっていく。恥じらいから困惑へ、困惑から照れ笑いへと七色の変化を見せる彼女の百面相は、眺めていて飽きなかった。

『と、ところで……』

緊張によるものか、羞恥心からくるものか、ヘリオンはやや震えた口調で話題を変えようとした。まるで子どものように強引な手法だが、絶対的に人間経験が不足している以上、仕方がない。

『ところでリュウヤさま、エスペリアさんがリュウヤさまのことを探していましたけど……?』

『うん。知ってる』

ヘリオンの言葉に、柳也はあっけからんと頷いた。

『もともと俺もエスペリアを探していた。……探していたんだが、別にやることが出来ちまったから』

柳也はそう言って風にはためく洗濯物の群れを眺めた。

『少なくとも、これ、全部干しておかないと』

『洗濯の方を優先しなくちゃいけないんですか?』

ヘリオンが目を丸くして訊ねてきた。

たしかに、客観的にみて優先するべきはどう考えても自分のことで心配しているエスペリアに無事な顔を見せてやることだろう。

しかし、と柳也はかぶりを振って言う。

『ヘリオン、君にあの笑顔を崩すようなまねができるかい?』

柳也はすぐ側で二人のやり取りを眺めているハリオンを顎でしゃくった。

ハリオンは相変わらず眺めているだけで幸せな気分にさせてくれる笑みをにこにこと浮かべながら、こちらを見ていた。子どものように無邪気な笑顔だ。

ヘリオンは少し考えた後、苦笑とともに首を横に振った。凄まじい勢いだった。

『む、無理です。わたしには出来ません!』

『だろう?』

柳也は難しい顔を作って呟いた。

『というわけで、少なくとも洗濯が終わるまでは詰め所の中には入れない。……まぁ、向こうから会いに来てくれるなら話は別だが……』

と、そこまで口にしたその時、詰め所の正面玄関が開いた。

〈戦友〉の力の作用で強化された聴覚が捉えた足音は二人分。どうやらエスペリアとヒミカが、自分を探すべく外に出たらしい。

目線を玄関へと向けると、見慣れたメイド服を着こなしたたおやかな娘と、ハリオンらと同デザインのメイド・ファッションに身を包んだ赤髪の女性が並んで立っていた。

『私はもう一度、来た道を探してきます』

『じゃあ、わたしは森の方を探してみるわね』

二人は二、三言葉を交わし、揃って頷くと、各々の探索場所へ出発しようとして、庭で立っている柳也と、目が合った。

その場の空気を凍りつかせるように、沈黙が訪れた。

ある者は洗濯を終えたばかりの衣類を握り締めながら立ち尽くし、またある者は顔の筋肉を凍りつかせたまま異世界からやってきたエトランジェをじっと見つめていた。ある者は安堵と困惑、そして怒りといった諸々の感情の狭間でどう表情を作るべきか苦悩し、ある者は硬直してしまった三人の顔を激しく見回し続けている。そしてある者は、相変わらずにこにこと笑っていた。

沈黙を最初に破ったのは柳也だった。

彼はエスペリアとヒミカに交互に視線を飛ばし、自分のいでたちを見下ろし、最後にハリオンの笑顔を見て心を和ませてから、爽やかな笑みを浮かべた。たまたま近くを散歩していたら会ってしまったとでもいうように、立てた二本指でチャオと挨拶する。

『やあやあ、お嬢さん方、こんなところで奇遇ですねぇ。どちらへお出かけですか?』

こころなしか口調も爽やかなスポーツマンを思わせるそれに変わっている。

爽やかな笑顔に爽やかな語調。背筋はピンと伸び、物腰は柔らかい。小学校の学芸会で羊Bの役を任された己の演技力のすべてを結集して、紳士的な態度でその場を乗り切る腹積もりだった。

だが、紳士的な物腰で言った柳也の手には、残念なことに誰のものとも知れぬ下穿きが握られていた。せっかくのジェントルマンな態度が、台無しの光景だった。

『あ、あの……それ、わたしのです』

顔を真っ赤にしたヘリオンの声が響いた。

 

 

色々と問題はあったものの、様々な紆余曲折を経て、柳也はようやく第二詰め所の床を踏むことに成功した。

「ぐ、ぐふぅ……」

正面玄関から入館した柳也は、記念すべき第一歩を踏み出した直後、苦しげな呻きを漏らした。極度の疲労からか、両の頬が極端にやつれ、こけている。普段の明るい顔色はそこになく、柳也は同田貫の鞘を杖代わりにのろのろ歩を進めた。

庭でエスペリアとヒミカに発見された後、柳也は天日干しの作業が終わるや否や二人のから一時間ほど説教を受けさせられた。

ただでさえハリオンとの慣れないやり取りに神経をすり減らしていた柳也は、その上でさらにエスペリアから『心配しました』という言葉とともに小言を言われ、ヒミカから恨み言をぶつけられて、かつてないほど精神を疲弊させていた。

――胃が痛いぜ……。

肉体は精神の影響を受ける。

自業自得とはいえ、エスペリアに対する罪悪感を暴き出された柳也は、お叱りを受け始めてから三十分も経つ頃には、胃に穴を開けてしまった。柳也はもともとナイーブな人間だ。ストレス性の胃潰瘍であることは疑いなく、現在、その穴は〈決意〉と〈戦友〉が全力で修復中だ。

「麻酔なしでな!」

柳也は某都知事選に出馬した悪の組織の幹部を真似た口調で呟いた。ところであの回は結局どっちのウンチクの方が正しかったのか。

そんな柳也の背後では、こころなしか晴れやかな表情を浮かべるエスペリアとヒミカ、相変わらずにこにこと笑っているハリオン、そして柳也の身を気遣うヘリオンが立っていた。

エスペリアとヒミカは説教を終えて溜飲を下げたか、やけに艶々とした顔色をしている。この二人とハリオンは同期らしく、背後から聞こえてくる親密な会話は、三人の間にある絆の深さを窺わせた。

柳也はひとり疎外感を感じながら、「大丈夫ですか?」と、問うてくるヘリオンの優しさに溺れそうになっていた。

初めて足を踏み入れた第二詰め所は、館の中央に廊下が走り、その両側に部屋あるシンプルな構造をしていた。

玄関から入ってすぐの左側には二階へと続く階段があり、エスペリアの説明によれば、二階の各部屋がスピリット達の個室になっているという。

柳也達は階段をすり抜けて一階の廊下へと出た。

一階の廊下は道幅が約二・七メートル、全長にいたっては約二十メートルになんなんとする長大なものだった。その気になれば二十メートル・シャトル・ランで、ちょっとした体力作りが可能な距離だ。

廊下の両側には右側に四つ、左側に五つドアがあり、道と壁は天井のエーテル灯が照らしている。

背後からエスペリアの説明が飛んだ。

『向かって左側の部屋は、奥のほうから納屋、管理人用の士官室、空き部屋が三つとなっております。右側は奥のほうから大浴場、キッチン、食堂となっており、食堂への出入り口は二つ設けられております』

第二詰め所の食堂は第一詰め所の食堂と同様、多目的ルームとしての性質を併せ持っているという。ドアの向こう側から神剣の気配を二つ感じた柳也は、自分の紹介は食堂で行うものと察した。

その旨をエスペリアらに問うと、やはり顔合わせは食堂で行うという。

『……他のみんなと顔を合わせる前に、俺の部屋に案内してくれないか? 荷物を置きたい』

柳也は軍用鞄を見せながらエスペリアに言った。

エスペリアは頷くと、まるで足腰の弱い老人を介護するかのように、杖を突きながら進む柳也の隣に回った。柳也のことをいたわるようにゆっくりとした歩調で付き添いながらも、その一挙一動にはまったくといっていいほど隙が感じられない。

『みんなは先に食堂に入って』

エスペリアの言葉に従って、ヒミカらは玄関に近い方のドアから食堂へと入室した。

廊下に残ったのは柳也とエスペリアの二人だけとなり、なんとなく、気まずい空気が流れた。

『……今日は、申し訳ないことをしたな』

エスペリアに支えながら、柳也が、ぽつり、と呟いた。

先の一時間で何度も口にした謝罪の言葉が、長い廊下に響いた。

『今日のことは全面的に俺が悪かった。謝る』

『もういいですよ』

杖代わりの同田貫の柄に握った柳也の両手に自分の手を添えながら、エスペリアが微笑んだ。

すでに一度戦場で死線を潜り抜けてきた間柄の二人だ。互いの気持ちは、たったそれだけの仕草で通じ合った。

『リュウヤさまのお気持ちは、よくわかりましたから。どうしても謝りたいとおっしゃるなら、今度、美味しいハイペリアの料理を教えてください』

『ありがとう。今度、たこ焼きの作り方を教えてやるよ』

柳也は笑って応じて、八メートルほどを歩いて辿り着いた士官室に通じるドアを開けた。

士官室は一二畳ほどのスペースに必要最低限の家具のみが置かれた簡素なものだった。押入れはない。しかしこれからコーディネートしていくことを考えると一級品の素材だ。コーポ扶桑の四畳半では物理的に不可能だったインテリアを置くことが出来る。

コーポ扶桑での生活と比べたら、むしろ贅沢すぎるくらいの部屋だった。

『……ん。気に入った』

そう声に出して呟くと、エスペリアは安心したように息をついた。

柳也は軍用鞄をベッド脇に放った。悠人と違ってファンタズマゴリアに召還されたその日に学生服を失った柳也の私物は少ない。文字通り鞄一つの引越しだ。

鞄を部屋に置いた柳也は、エスペリアの支えを断って己の足で食堂へと向かった。

その足取りは決して軽いとはいえないが、おぼつかないというほどでもない。肉体と一体化している相棒二人の尽力のおかげだろう、ようやく胃の痛みが消えつつあった。

より正面玄関に近い方のドアの前まで来ると、エスペリアから『少し待っていてください』と、声をかけられた。どうやら自分が入室する前に、ドアの向こう側にいる五人に話しておくことがあるらしい。几帳面な性格のエスペリアのことだ。おそらくエトランジェの自分に対して失礼のないようにと、五人に注意しようというのだろう。

――まぁ、当の本人がすでに、かなりの失礼をしているわけだが。

自分が寄り道をした分だけ、すでに当初の予定の時間をだいぶ過ぎてしまっていた。失礼どころか迷惑千万な自分の行為を、はたして、みなは許してくれるだろうか。

柳也が頷いてみせると、エスペリアだけが先に食堂に入室した。

バタン、とドアが閉まり、廊下には柳也だけが取り残された。

不意に、どういうわけか、中途半端に不快なむず痒さが背筋を伝った。

奇妙に思って背中に手を回すと、伸ばした手がうっすら湿り気を帯びていることに気付く。

特別暑くもなく、また寒くもないのに、掌も甲が汗で濡れていた。

自分は緊張しているのだ、と気付いた時、柳也は、「転校生の気分ってのはこういうものか」と、小さく呟いた。

逃げ出したくなるほどではないが、奇妙な居心地の悪さを感じた。

エスペリアの言葉に従って待つこと約一分、壁にもたれていた柳也の耳膜を、『どうぞ入ってきてください』という声が震わせた。

途端、背中のむず痒さが消え、手の汗が引いていった。待っていました、とばかりに口元が緩むのを自分でも抑えられない。

本番を前にした時はあれほど緊張していたのに、いざ本番が始まると、感情の昂ぶりを制御しきれない。

自分はやはり戦場向きの人間だな、と苦笑しながら、柳也はドアを押し開けた。

 

 

エスペリアに促されて入室すると、柳也はいきなり一斉に視線の集中砲火を浴びせられた。

――おおう!

あまりの熱烈さに、柳也は思わずその場でたじろいでしまう。

視線の数はたった五人分、しかしそのどれもが好奇に満ちており、かすかな質量すら伴って顔の皮膚をじりじりと焼いてきた。頬の火照りを覚えた柳也は、自然と微笑を口元にたたえる。

おそらくは最新鋭イージス艦の防空スクリーンでも迎撃不能だろう視線の嵐を掻い潜りながら、柳也はエスペリアのもとに歩み寄った。

エスペリアが立っている位置はちょうど食堂の全体像を見渡せる展望ポイントで、そこに移動した柳也は、早速、部屋の全景を、そしてそこにいる面々の顔を見回した。

――おっ、新顔発見!

食堂は十六畳ほどの広大な部屋で、六人掛けのテーブルが二つ並べられていた。

テーブルには今日一日ですっかり見慣れてしまったヒミカ達三人のほかに、初対面の青スピリットが二人、並んで席に着いていた。

ともにヘリオンと同じか、少し年上といったところだろう。背格好も同じくらいで、顔立ちも似ている。スピリットに血縁関係はないはずだから、顔が似ているというのは珍しい。

似ていない部分もあった。まず目に付いたのは二人の髪型の違いで、片方は腰まで届くサファイアの長髪をポニーテールに結っているのに対し、もう片方は何の変哲もないおかっぱ頭に切り揃えていた。胸の発育具合は、おかっぱ頭の少女の方が良さそうだ。年齢のわりに豊かな双丘が、柳也の視線を釘付けにした。

外見的な特徴以外にも、ポニーテールの少女からは溌溂とした雰囲気を感じるが、おかっぱ頭の少女からは大人しそうな雰囲気というべきか、そも雰囲気というもの自体感じにくい。存在感が希薄というよりは、あまり自己主張しないタイプのようだ。

違うところといえばもう一つ、柳也に向ける目の輝きも異なっていた。

ポニーテールの少女は好奇心に満ちた眼差しを送ってくる。

他方、おかっぱ頭の娘は自分と目線を合わせないようにしながらやや不安に翳った眼差しを向けてくる。

――自己主張が少ない上に、人見知りするタイプとみた!

【主よ、胸の発育具合から判断するに、我はあのポニーテールの娘が好みだ。良い具合のつるぺたオーラを感じる】

【誰も駄剣の好みなんて聞いてないでしょ!】

――……残念だな、〈決意〉。俺はボインちゃんの方が好きだ。

【ご主人様もなに答えてるんですかッ?】

――何って……女の好みについて。

外見的特徴に限っていえば、柳也は尻よりは脚、脚よりは胸を女性に求める傾向がある。内面的特徴においては、より活発な方が好みだから、ポニーテールの少女とおかっぱ頭の少女とでは悩むところだ。

――とはいえ、まだ本当にポニーの娘のほうが明るい娘と決まったわけじゃない。

性格を始めとする個人のパーソナリティは、実際に話してみるまでわからない。

そしてその会話がはずんだものになるか否かは、これから始める自己紹介の第一印象に左右されるところが大きいだろう。

柳也は目線をおかっぱ頭の少女の胸元からはずし、全員の顔を眺めた。

全員、とてもではないが軍人とは思えない顔つきだ。もっとも、そういう自分自身、正規の軍人ではないが。

――まさに、ドリームのようなハウスだぜ。

美人に囲まれながら、柳也は歓喜と嘆きの相反する感情を持て余していた。

歓喜はいうまでもなく美人ばかりのこの状況に対する喜びからくるものだった。そして嘆きは、こんな繊細な顔立ちをした彼女らを率いて戦場に向かわねばならない未来に対する、悲しみからくるものだった。

『こちらが、この度スピリット隊副隊長兼第二詰め所管理人に任命されたリュウヤさまです』

エスペリアに紹介され、柳也は一歩前に踏み出した。

背筋をただし、胸を張り、柔和な笑みを浮かべながら、みなを見回す。

『桜坂柳也だ。すでに何人かとは顔合わせを済ませているが、改めて、これからよろしく頼む』

柳也はそう言って軽く頭を下げた。あまり深々と腰を折りすぎると、また人間から頭を下げられたということで動揺を与えかねない。

柳也の声が食堂に響いて若干一秒、彼の耳朶を、パチパチ、と拍手の音が打った。

最初にヒミカが手を叩き、それに釣られて他の四人も手を叩く。ついにはエスペリアまで手を叩き始め、柳也は照れたようにはにかんだ。

先陣を切って拍手を送ってくれたヒミカは、またその手を止めるのもいちばん早かった。

拍手の手を止めたヒミカは立ち上がると、きびきびとした動きで頭を下げた。

『改めてわたしも自己紹介させていただきます。第六位〈赤光〉のヒミカ・レッドスピリットです』

『次はわたしですね〜。第六位〈大樹〉のハリオン・グリーンスピリットです〜』

ヒミカが着席するのとほぼ同時にハリオンが立ち上がり、にこやかな笑みとともに頭を下げた。着席と起立のタイミングから察するに、どうやら彼女達の間で自己紹介をする順番はすでに決まっていたらしい。ちなみに、ヒミカとハリオンの神剣の名前と位階については、いま初めて知った。

『次はネリーの番だね!』

続いて立ち上がったのはポニーテールの少女だった。聞いているだけで気持ちを晴れやかにさせてくれる明るい声が耳朶を打ち、柳也は思わず頬を緩める。最初に感じた雰囲気通りの、元気そうな女の子だ。

『ネリーはネリーだよ! 第八位〈静寂〉のネリー・ブルースピリット。それでこっちが……』

『ね、ネリー…自分で立てるってば』

自分から立ち上がるのを待たずして、ネリーと名乗った少女は隣に座るおかっぱ頭の少女を強引に立たせた。

『だ、第八位〈孤独〉のシアー・ブルースピリットです』

シアーと名乗った少女の声は、ネリーとは反対に酷くか細いものだった。緊張のためか、それとも人間が恐いのか、怯えた眼差しと口調だ。

『彼女は人見知りする上、人間慣れしていないのです』

『だから怒らないでくださいね』と、エスペリアはそう耳打ちした。

『そうか…』と、頷いた柳也は、シアーの自己紹介が終わった後、彼女のもとへと歩み寄った。

柳也が目の前まで近付いてきて、シアーの身体が小さく震える。怯えを孕んだ眼差しが、よりいっそう強いものになった。やはり人間とは恐いものという認識があるらしい。

みなが何事かと見守る中、柳也は穏やかな語調で口を開いた。

『……俺が恐いか?』

なんのひねりもない、ストレートな質問。

だがそれだけに、その返答には相手の本心が如実に表れてくる。

はたして、当然のように首を横に振ったシアーの反応は、柳也の思った通りのアクションだった。

『……そうか』

シアーの反応から彼女の本心をどう察したのか、柳也はまた呟いた。

呟いてから、彼は明るい笑顔とともに右手を差し出した。

握手を求められたシアーは、きょとん、とした表情を浮かべた。数秒間、柳也の顔と差し伸べられた右手を見比べた後、恐る恐る、といった手つきで、右手を伸ばした。

おずおずと伸びてきた少女の小さな手を、柳也はヤスデの葉のように大きな手で優しく包み込んでやった。己の手とは比べようのない、やわらかな肌の抵抗を掌に感じた。

一秒、二秒と沈黙が続いた。

柳也はただただ小さな手を握り続け、シアーはただただそれに応え続けた。

やがてシアーの手を握ってやってからしばらくして、彼女の震えが次第に止まっていった。おどおど、としていた雰囲気も消えていき、静謐な湖底の瞳に安堵の波紋が広がっていった。

『……まだ、俺のことが恐いか?』

柳也の口から、先ほどと同じ質問が滑り落ちた。

シアーも、また同じように無言で首を横に振った。

今度は柳也の顔に、穏やかな笑みがはじけた。

『それはよかった。シアーみたいな可愛い娘に嫌われたまんまじゃ、おちおち夜も眠れやしない』

『あっ、早速出ましたね、女好きが』

すでに既知のヒミカがニヤニヤ笑いながら言った。

エスペリアも口元を隠しながら微笑んでいる。

ハリオンは、相変わらずの天真爛漫な笑顔だ。

他方、年少組の三人は、柳也の言っている意味が理解できないようで、きょとん、としていた。彼女達には、いままで「可愛い」なんて言葉をかけられた経験すらないようだ。

特に言葉を投げられた張本人たるシアーは、生まれたばかりの赤ん坊のように無垢な眼差しを自分に向けてくる。

『可愛い……って、シアーが?』

『勿論、シアーが』

シアーはどう返事をしてよいやらわからないようで、すがるべき神を探すように目線を彷徨わせて、最終的にヒミカを見た。当のヒミカは、『そういう人だから』と、目が笑っていた。

シアーは数秒間、唖然としたまま何回か瞬きをした後、

『そっかぁ、シアーのこと、可愛いって思ってくれるんだぁ……』

と、嬉しそうに呟いた。

 

 

――同日、夕方。

 

食堂での自己紹介の後、柳也は早速新しい私室に篭もるや、エスペリアとヒミカから詰め所管理者の仕事についてレクチャーを受けた。

『戦術談義ではリュウヤさまが教える側ですけど、今日はわたしが先生ですね』

『……お手柔らかに』

魅力的な笑顔を浮かべながらそう言ったヒミカに、柳也は本心からの言葉とともに苦笑いした。

丸い眼鏡越しに見える笑った瞳は、『スパルタでいきますよ』と、語っている。どうやらヒミカには体育会系の血が流れているらしい。いやスピリットのことだから、体育会系のマナで構成されていると表現するべきか。

エスペリアとヒミカの授業はまず管理者の仕事の内容について簡単な説明から始まった。

それによると、詰め所の管理者の仕事は、柳也達の世界にあった学生寮の管理人とほとんど変わりないという。要するに、雑用事務が主な仕事ということだ。

『炊事・洗濯・掃除・詰め所の予算と備品の管理、それから各員のスケジュール管理が管理者の主な仕事です』

スケジュール管理といっても、そう細かいものではないらしい。誰がいまは寮にいて、誰が出かけているか。出かけているとしたらそれは公用か、私用か。訓練の日程はどうなっているか。その程度だという。

『事務の方は確約出来ないが、雑用の方は大体わかった。一人暮らしが長かったし、共同生活には慣れている』

そう言って笑った柳也の返答は、エスペリアとヒミカの心を勇気づけた。

その他いくつかの注意事項を聞かされて、なんとか赴任初日の業務日報の作成の目処が経った頃、時刻はすでに午後六時半を回っていた。

『そろそろ戻ります』と、言ったエスペリアが部屋を出ようとドアノブに手をかけた直後、士官室のドアがノックされた。

柳也が返事をし、エスペリアがドアを開けると、そこにはヘリオンが立っていた。

『あ、あの、リュウヤさまの歓迎会の準備が整ったので呼びに…』

『歓迎会?』

ヘリオンからの突然の申し出に、柳也は目を丸くした。

隣に立つヒミカに目線を投げかける。

ヒミカは、わけ知り顔で微笑んでいた。

『……もしかして、俺の驚く顔が見たかったから、黙っていたとか?』

『さあ、どうでしょう?』

ヒミカはとぼけた返事をこぼす。しかし、その視線は『驚きましたか?』と、笑っていた。

柳也は苦笑しながら両腕を挙げてホールド・アップの姿勢を取った。

『降参。驚いたよ。もう、心臓バクバクBeatin Heartだ』

前回に引き続き、仮面戦士のネタを口にした柳也は、またも呆然とした反応を目の当たりにして肩をすくめた。

帰ろうとするエスペリアを『もう少しいいじゃないか』と半ば強引に引き止めて、柳也達は会場の食堂へと向かった。

会場ではかつてエルスサーオの第二大隊詰め所で催された送別会に匹敵する食事が並べられていた。おそらくエルスサーオ出身のヒミカが、その時の様子を聞いていたのだろう。大食漢の柳也が、満足できる量と質だった。

さすがに翌日からすぐに訓練が控えているため、酒は一滴もない。

しかしその分、料理の味を楽しむことが出来る。

――酒は酒で美味いが、時に料理の味を殺すからな。

今夜の歓迎会の料理はハリオンが作ってくれたという。彼女の料理を口にするのは当然初めてだから、最初くらいは色眼鏡なしで味を楽しみたい。

そう思いながら口にした料理の数々は、エスペリアと遜色のない出来栄えだった。その証拠に、柳也ばかりか当のエスペリア本人も舌鼓を打っている。

料理が美味ければ、会話もはずむ。

柳也は心から楽しめる時間を過ごした。

歓迎会の開始から三十分が経ち、『そろそろおいとまさせていただきます』と、エスペリアが席を立った。あらかじめ今日は少し遅くなるかもしれないとオルファに言って、料理のことは彼女に任せていたが、第一詰め所にはエスペリアでなければ出来ない仕事が他にもある。

『送っていこうか』と、同じく席を立とうとした柳也を、エスペリアは『主賓が席をはずすのは駄目ですよ』と、たしなめた。代わりに、ヒミカとハリオンの二人を連れて、食堂から出て行く。どうやら二人だけに話しておきたいことがあるようだ。

エスペリアが二人にいったい何を話そうというのか、興味がないわけではなかったが、柳也は〈決意〉と〈戦友〉の力を使って盗聴をする気にはなれなかった。

女性のプライベートを覗くのはセクハラというものだ。

なにより、いまの柳也には〈決意〉と〈戦友〉に意識を集中する余裕がなかった。

年長組の三人がいなくなった途端、好奇心を剥き出しにして質問を浴びせかけてくるネリーらの相手に、いっぱいいっぱいだった。

 

 

食堂を出たエスペリアは、念のために詰め所の外に出てから、背後に続くヒミカとハリオンを振り返った。

『今日は色々とすみませんでした』

『いいわよ、べつに』

深々と腰を折っての同僚の言葉に、ヒミカは笑って首を横に振った。

『それに今日のことはエスペリアだけが悪いってわけじゃないでしょ? 歓迎会のことで言えば、わたしも引き止めちゃったんだし』

『そうですよ〜、エスペリアさんが気にすることはありません』

『……ハリオンは、ちょっとは責任を感じた方がよいと思うけど?』

柳也の到着が遅れてしまった原因の一つはハリオンの存在にもある。

にこやかな笑みを浮かべたハリオンの発言に、ヒミカは呆れたように呟いた。

エスペリアも隣で苦笑を浮かべる。だがその乾いた笑い声は、短い間だけ響いて、止まった。

どうしたのかとヒミカが振り向くと、エプロンの裾を握ったエスペリアの顔に、笑い、という感情は一切欠落していた。代わりにヒミカの視線を受け止めたのは、決然とした意志の輝きを宿した瞳だった。

これからが本題だ。同僚の態度の変化を敏感に感じ取ったヒミカとハリオンは、即座に背筋をただし、聞く姿勢を取った。

エスペリアは一瞬、どう言葉を発するべきか迷うようなそぶりを見せてから、ゆっくりと口を開いた。

『二人は……二人は、リュウヤさまと会って、どう思いました?』

耳に優しい、しかしどこか硬質感を感じさせる声が、ヒミカとハリオンの耳朶を打った。

『どうって……そうね、ちょっと言動に軽いところがある印象だけど、信頼できる方だとは思ったわ』

『とっても真面目で、優しい方に見えましたけど』

真剣な眼差しとともに問うてきたエスペリアに、ヒミカもまた真剣な面持ちで答えた。

ハリオンも笑顔を崩さないではいるが、その口調からは柳也の感じた艶めかしさが一切消えている。形の良い細い眉の角度も、歓迎会会場にいた時とは明らかに変わっていた。

『少なくとも、前にエスペリアが言っていたみたいな危険な人には思えなかったけど』

『……そうですか』

何の変哲もないはずのヒミカの言葉を噛み締めるように、エスペリアはゆっくりと頷いた。

実はヒミカに柳也の戦術談義を受けるよう勧めたのはエスペリアだった。いずれはSTFの副隊長として第二詰め所の管理者を任されることになるだろう柳也を、あらかじめ品定めできるのはこの機会しかない。そう言って、ヒミカを炊きつけたのだった。

『私も、今日のリュウヤさまだけを見るだけなら、そう判断してもよいかと思います』

好意的な言葉で柳也を評価したヒミカらの意見に、エスペリアは心からの賛意を示した。

しかし……と、エスペリアは心の中で呟く。

――私とヒミカたちとでは、決定的に違うところがある。私は戦場に立った時のリュウヤさまを知っているけど、ヒミカたちは実際に戦っているリュウヤさまの姿を知らない。

ハリオンの言うように、桜坂柳也という男は基本的に優しい人物だ。自分達スピリットにも分け隔てなく接し、常に悠人や佳織のことを気にかけている。それだけを見るならば、桜坂柳也はとても優しい、信頼の置ける男性といえるだろう。

しかし、自分は知ってしまった。

ドラゴン・アタック作戦、ゲットバック作戦の二つの戦いを経て、いざ戦いに臨んだ時の彼の顔を、見てしまった。

戦いに挑む時、柳也の顔は活き活きと輝いていた。生と死の狭間にあって浮かべた嬉しそうな笑顔は、彼が心から戦いを楽しんでいるように見えた。

――戦場でのあの方は、とても攻撃的すぎる…。

あの少年の好戦的な性格は、敵だけでなく自身すらも滅ぼしかねない。いやひょっとすると、この世界そのものさえも……。

我ながら馬鹿げた想像だと思う。たった一人の人間の存在が、世界の明暗さえ分けてしまうなんて、通常、ありえないことだ。

しかしそのありえないことを、桜坂柳也という男はいままで何度もやってきた。

最近でいえばバトル・オブ・ラキオスの戦闘がそうだ。自分達がリクディウス山脈の過酷な環境と戦っていた時、エルスサーオで行われた極秘の特殊作戦の結果は、レスティーナを通してエスペリアの耳にも届いている。

それだけに、エスペリアは柳也への不安を拭い去ることができなかった。ゲットバック作戦で実際に肩を並べて戦ったあの日から、エスペリアの中で桜坂柳也という男の危険度は増していくばかりだった。

『……とにかく、今後ともリュウヤさまからは目を離さないようにしてください』

『エスペリアの言うことだから信用するけど、仲間に疑いの目を向けるっていうのは良い気分じゃないわね』

ヒミカは気乗りしない様子で呟いた。

同期のエスペリアだからこそその言葉を信じ、柳也に接触したヒミカだったが、本音を言えば一時たりとも仲間を疑いたくはない。それはハリオンも同様だった。まして柳也が信頼に足る人物だと知った今では、尚更だ。

しかしそんな二人の気持ちを知った上で、エスペリアは冷静な一言を紡いだ。

『よろしくお願いします。桜坂柳也というエトランジェをどう使うかによって、次の戦争の勝敗が決まるかもしれないと、国王陛下やレスティーナさまは本気でお考えなのですから』

エスペリアの冷たい声が、夜の森へと吸い込まれた。

……その直後、三人の表情が硬化した。

正体不明の悪寒が一斉にスピリット達の背筋を突き抜け、彼女たちは思わずその場に膝を着いた。

『な、なに!?』

『マナが……大気に宿るマナが、怯えている……?』

『なんでしょう? 食堂の方から、すごく嫌な予感がしますぅ』

全員、額に脂汗を浮かべ、肺を動かすのも一苦労といった様子で浅い呼吸を繰り返す。あのハリオンさえもが苦しげな顔をしていた。

三人の視線は、必然、ついたった今しがた玄関を出たばかりの第二詰め所に向けられる。

より正確にいえば第二詰め所の食堂のほう。今まさに柳也の歓迎会が行われているその方向から、凄まじいマナの絶叫が……そうとしか形容のしようがない不穏な波動を、三人は感じていた。

『い、急いで戻りましょう!』

エスペリアがヒミカとハリオンを振り向いた次の瞬間、

「ばぁんだあの桜か襟の色〜〜〜♪♪♪」

圧倒的な超音波が、三人の聴覚を襲った。

 

 

――同日、夜。

 

ラキオス王城。

軟禁状態にある佳織は、今夜もレスティーナから異世界の言語と文化について教えを受けていた。

黙々と与えられた課題をこなしていく佳織。と、不意にその表情が、はっ、とし、課題の本に注がれていた視線が、窓の外へと向いた。

『どうしました?』

『いえ…なんだか、桜坂先輩の歌声が聞こえたような気がしたので……』

そんなはずありませんよね、と苦笑して、佳織は再び課題に目線を落とす。

外の世界と室内を隔てる窓ガラスが、カタカタ、と揺れていた。

 

 

場面は戻って第二詰め所の食堂。

食堂でひとり立ち尽くす柳也は、両耳を押さえて倒れてしまったスピリット達の屍を見て、愕然と口を開いた。

「な、なんということだ……全員、失神してしまうなんて。……やっぱ、俺には歌の才能があるんだな!」

そう呟いた柳也の顔は、本日一番の笑顔で輝いていたという。

 

 

龍のマナを得て、ラキオスは軍備の充実を図る。

同時に、各国も軍備強化に走り出した。

戦争は始まる。

間違いなく、多くの命が消える。

異世界ファンタズマゴリア。

悠人は、そして柳也は、佳織を助け、瞬を見つけ出し、生き残ることができるのか……

そうして、三ヶ月の時が流れていった。






<あとがき>

 

タハ乱暴「……なぜだろう、本編よりも最近おまけを書く方が楽しいぞ?」

 

北斗「まぁ、全編ギャグタッチだしな。お前もギャグの方がキータッチが早いだろう?」

 

タハ乱暴「うぐっ……シリアス作家を公言して憚らない俺としては痛い評価だぜ」

 

北斗「……しりあす?」

 

柳也「『美紗斗さん、勉強する!』とか、『幸せの音色』とか書いている奴がぁ?」

 

北斗&柳也「「しりあすぅ?」」

 

タハ乱暴「お前らそんなに親を苛めて楽しいか……ハイ! 永遠のアセリアAnotherEPISODE:28、お読みいただきありがとうございました! 今回の話はいかがだったでしょうか?」

 

柳也「今回の話でようやくスピリット・タスク・フォースの初期メンバーが揃い踏み。そして相変わらずの美声を誇る俺様」

 

北斗「……いや、あえて突っ込むまい」

 

柳也「えぇ〜、突っ込んでくれよ。今回俺、がんばってネタに走ったじゃんよぉ〜」

 

タハ乱暴「Break the Chain とかな」

 

柳也「二話連続でライダーネタ。ここのサイトの常連で、何人がこのネタ分かるんだろうな?」

 

北斗「百人に一人分かれば十分な気がするがな……。そういえば今回、久しぶりにエスペリアの出番が多めにあったが」

 

タハ乱暴「エスペリアはレスティーナと特に結び付きの強いスピリットだからな。今回、ラキオス王やダグラスとの結び付きを強めつつある柳也の対抗馬としての演出を狙ってみた。彼女にはこれからも苦労してもらおうと思っている」

 

柳也「佳織ちゃんについては? 今回のオチ担当」

 

タハ乱暴「彼女にはこれからもオチを担当して……もらうと、悠人に怒られるから止めよう。うん」

 

 

タハ乱暴「さて、ここで皆さんに重要なお知らせがあります」

 

北斗「今回のEPISODE:28をもって、永遠のアセリアAnotherは、原作でいうところの第一章のスケジュールを終えることとなった」

 

柳也「普通なら次回、EPISDOE:29からは第二章突入となるんだが、本作アセリアAnotherでは、次回からしばらく、原作にはなかった第一・五章なるものを展開しようと思っている」

 

北斗「要するにラキオス・バーンライト間が開戦するまでの、空白の三ヶ月間を舞台にしたシナリオだ。第二詰め所のスピリット達をメインに、原作とはまた違った展開で話を進めていく……らしい」

 

タハ乱暴「まぁ、期待せずにお待ちください。永遠のアセリアAnotherEPISODE:28、お読みいただきありがとうございました!」

 

柳也「次回もお付き合いいただければ幸いです!」

 

北斗「この下のおまけも読んでくれると嬉しい」

 

タハ乱暴「ではでは〜」

 

 

 

 

 

<おまけ>

 

盗賊団撃退の指揮を執ったことをきっかけに幽州琢県の県令に就任した我らが主人公、桜坂柳也。

村の復興と発展、軍備の拡充、黄巾党の皆さんの再就職先の斡旋と、仕事に忙殺されながらも、彼は仲間達と楽しい毎日を過ごしていた。

そんなある日、柳也達は、幽州中の黄巾党が集まって大兵団を編成し、琢県の県境に攻め込んできたという報告を受ける。そしてその黄巾党の大軍団と、他県の黄巾党討伐に出ていた白馬将軍公孫賛の軍とが接触、戦闘状態に陥ったことを知った柳也達は、ただちに出兵の準備を進めるのだった。

その数、総勢約二〇〇〇。大軍といえば大軍だが、敵対せねばならない黄巾党の軍団はその十倍以上の兵力を保有しているという。天の御遣いというネームバリューのないジョニー・サクラザカ軍では、それだけの兵を集めるので精一杯だった。

「とはいえ、寡兵を嘆く必要はない。我が方には有史以来五千年をかけて熟成された現代戦術がある!」

柳也達は士気高く黄巾党の迎撃へと出立した。

そして行軍の最中、柳也達は本隊とは別に行動していた黄巾軍一万人が、他県からの難民を襲っているのを目撃する。

「あぁ、こいつはいけねぇ!」

なぜかべらんめぇ口調のアニキの声をきっかけに、一行は難民救出のため進軍速度を上げる。戦力差は五対一。

「黄巾党の諸君! 君らの多くが職を失い、その果てに略奪行為に及んだことを、わがジョニー・サクラザカ軍は知っている。いま我らの下に降れば再就職先の斡旋をするがどうだろう!?」

「うるせぇ。そんな口約束、信用出来るか!」

「わかった。なら、いま我々に降れば、琢県でのみ発行されているジョニーカードに最初から一〇〇ポイント付けてやろう!」

「犬と呼んでくだせぇ、ジョニーの兄貴!」

謎のジョニーカード一〇〇ポイントサービスの魔力によって次々と離反が相次ぐ黄巾党。

そんな中、柳也達は難民とともに黄巾党から逃げる志高き少女と出会う。

【おお! これはまた見事な幼女よ】

「黙れ、〈決意〉」

「はわわっ、あ、あのっ! 私、姓は諸葛、名は亮、字は孔明と言います。どうか、あなた様の配下にお加えくださいぃっ!」

「ん〜〜〜……やだ」

「はわわ! なんでですか!?」

思ってもみなかった柳也の返事に戸惑う諸葛亮。

「だって、三顧の礼のイベント終わってないし。孔明仲間にしようと思ったら、やっぱこのイベントをこなさないとな!」

白い歯を輝かせて笑う柳也。とはいえ黄巾軍が迫る中三顧の礼をする時間もなく、結局柳也は、間を取って“三本の矢”のイベントで手を打つことにする。

「はわわ……なんか納得いきません(ボキッ)」

「にゃはは、お兄ちゃんは時たま変に強情なのだ(ボキッ)」

「こらそこ! 変とか言うな! あと、三本束ねた矢を簡単に折るな!(ボキッ)」

「あ、あの、なぜわたしだけ仲間はずれなんでしょう?」

愛紗の寂しげな呟きもなんのその、新たなる仲間と、黄巾党離反組を得たジョニー・サクラザカ軍は、その兵力を四〇〇〇にまで増強し、進軍を再開するのだった。

 

 

 

<桜坂柳也 某三国志戦略SLG風スペック>

 

統率:84 武力:78 知力:77 政治:65 魅力:62

槍兵:A 戟兵:A 弩兵:A 騎兵:S 兵器:B 水軍:B

 

まぁ、決して弱くはない我らが主人公です。

比較対象としてはこの方を。

 

曹操孟徳

統率:96 武力:72 知力:91 政治:94 魅力:96

槍兵:S 戟兵:S 弩兵:A 騎兵:A 兵器:B 水軍:C

 

つまり柳也の武は、一対一ならば華淋様にギリ勝てるくらいなんですねぇ〜。

それ以外は全部華淋様に負けてます。

ついでに現時点で参入している武将達は……

 

関羽雲長

統率:95 武力:97 知力:75 政治:62 魅力:93

槍兵:S 戟兵:S 弩兵:B 騎兵:A 兵器:C 水軍:A

 

張飛翼徳

統率:85 武力:98 知力:30 政治:22 魅力:45

槍兵:S 戟兵:S 弩兵:C 騎兵:A 兵器:C 水軍:C

 

諸葛亮孔明

統率:92 武力:38 知力:100 政治:95 魅力:92

槍兵:B 戟兵:B 弩兵:S 騎兵:C 兵器:S 水軍:A

 

アニキ(簡雍憲和!?)

統率:20 武力:32 知力:74 政治:71 魅力:74

槍兵:C 戟兵:C 弩兵:C 騎兵:C 兵器:B 水軍:C

 

 

……やばい。柳也が役立たずに見えてきた。

さあ、ここまでのデータを見て、バージョンいくつか当ててみよう!(笑)




前回は結構シリアスというか、真面目さんだったのに。
美姫 「今回は完全にお遊びモードね」
いや、でも仕方ない、うん。相手はハリオンだしな。
美姫 「柳也もノリノリだったしね」
まあ、今回はギャグっぽかったけれど。
美姫 「ちゃんと軍備強化などもされていたみたいね」
いよいよ、本格的な戦争が始まってしまうのか、それともまだ先になるのか。
美姫 「一体どうなるのかしら」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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