――聖ヨト暦三三〇年、アソクの月、青、いつつの日。
桜坂柳也の一日は早朝五時半に起きて、六時からのランニングから始まる。
その老人のような生活スタイルは、異世界にやってきてからも変わらなかった。
アセリアとの再会を果たした翌日から、柳也は元の世界で日課としていた早朝ランニングを再開していた。
武術家にとってやはり最も大切なのは足腰の力。また、柳也の世界の軍隊でもよく言われることだが、「歩兵は走れなくなったら最期」である。正式な訓練の辞令が下る以前は、洋館の中とその周辺以外の立ち入りを厳しく禁じられていたため、思うように走り込みができなかったが、辞令が下ってからはある程度の自由行動が許されるようになったこともあり、柳也は日々の日課を再開して、ここ数日の間に衰えた下肢の力を取り戻そうと努めていた。
あえて平坦な道ではなく、足場の悪い森の中を突き抜け、丘陵の著しい山道を二十キロも走ると、館に帰る頃には朝食がこの上ないご馳走に感じられるようになっている。
以前の柳也は一人暮らしで、規定の時間には学校が控えていたから、早朝ランニングは七時までと決めていたが、今は館に帰ればエスペリアが温かい朝食を作ってくれるので、思う存分に走ることができた。
「ば〜んだの桜か、襟の色〜♪ は〜なは吉野に、嵐吹く〜♪」
今、彼が走っているのは野外訓練所へと続く山道。ここのところ毎日のように柳也達が世話になっている野外訓練所は、山岳戦闘訓練、密林での戦闘訓練にも対応できるよう、自然の山々と一体になって設けられていた。広い平野は後から人の手によって開拓したもので、柳也が走っている山道は自然に生まれた獣道だった。
早朝とあって近くに人影はなく、いつもははた迷惑な彼の軍歌にも、抗議の訴えを申請する者はいない。
「やまと〜おぉのこと生まれてはぁ〜♪ 散兵戦の華と散れ〜♪」
気持ちよさそうに歌い、走る柳也の表情は輝き、訓練所の広大な平野へと急ぐ足運びは軽やかだった。
スピリットの館を発って最短ルートを選ばず、わざと大きく迂回して訓練所に入る頃には、足の筋肉は程よい苦痛を訴え始める。それから訓練所の平野を大きく何周か走って、洋館への帰路に就けば、帰る頃にはご飯が美味しい頃合だ。
全身から噴き出る心地の良い汗に充実感を得つつ、柳也は山道を抜けて、訓練所の平野へと出た。
天然自然のままの姿で残されている山中と違い、さすがに訓練所の平野には早朝といえど人影は少なくない。
朝の透明な日差しが清々しい、整備された大地の上に、柳也は見知った顔をいくつか見つけた。
『とうとう見つけたぞ!』
『我ら苦節八年の歳月…師匠の仇、ここで討つ!』
まだ穏やかな朝の訓練所に、怒声が轟いた。
柳也が振り向くと、広大な平野の一画で、一人の男が七人もの男達に取り囲まれている。
遠目にもはっきりと見て取れる七人の旅支度と持ち物からして、彼らが全員、一角の武芸者であることはほぼ間違いない。しかも取り囲まれていたのは、柳也が見知った顔のひとつだった。
――ヨゴウ殿……?
ラキオス王国剣術指南役にして、ラキオス王国軍スピリット部隊の訓練士……リリアナ・ヨゴウ。
毎日の訓練の中で幾度となく刃を交え、お互いに実力を認め合った騎士だった。
『このリリアナ・ヨゴウ、貴様らに追い回されるいわれはない』
七人に囲まれながら、リリアナはいたって落ち着き払っていた。
四方八方から取り囲まれながらも、正面の男達のみを見ているようで、常に背後の男達にも気を配っているのが分かる。腰に佩いたファルシオンまでの手の距離は遠いが、柳也はコンマ秒とかからぬリリアナの抜刀術の素早さ、そして鋭さを、身をもって知っていた。
柳也は気配を殺しながら七人の輪へと近付いていった。
走るのをやめ、足音を立てずにじりじりと距離を詰める。
七人の男達はみな包囲網の中心にいるリリアナに集中しているためか、柳也の接近に気付いていない様子だ。
『我ら、マロリガン共和国ガルガリン領のガストン・シュピーゲイル先生の門弟七名。イースペリアでの武者修行の折、そなたがラキオスの剣術指南役に納まったとの噂を耳にした時は、我ら天の声と思うたものよ』
『爾来、六年の歳月を修練に費やし、今日この日を待った。そなたが最近、毎日のようにこの訓練所に通っている事実を突き止め、ここまで来た』
『我らガストン先生の門弟七人、先生の無念を晴らす』
七人の武芸者達の中で、三十を過ぎていると思わしき三人が口々に言い放つ。洗練された言葉遣いは、彼らがただの旅の武芸者などではなく、どこかの領主に仕えていた騎士である証だった。
決闘の趣旨を理解した柳也は、ここが異世界だということも忘れて慄然となった。これまで柳也の人生の中で、仇討ちなんて言葉はテレビの中か、時代小説の中にしか登場しない、現実感に乏しい単語だったからだ。柳也の大好きな軍事の世界では、仇討ち、報復は通常、ご法度だ。それが今、唐突に生の迫力を抱いて、柳也の心の中を出たり入ったりしていた。
柳也が唖然となっている間に、七人の武芸者達は全員が腰の鞘から得物を抜き放っていた。
全員、同じ丈、同じくらいの身幅のロングソード。柳也達の世界において、粗悪な鉄で作られた十六世紀以前の幅広で重い刀身を持った西洋剣ではなく、良質の鋼によって細身ながら高い強度を保証された、刺突にも使える軽い片手両刃の直剣だ。
統率された動きと構えは、彼ら全員が件のガストン先生なる人物の下で薫陶を捧げた、同門派の武芸者であることが容易に想像できる。加えて、隙のないその構えからは、最年長格の三十代半ばほどの男から最年少の十代の少年まで、その腕前はみな一定のレベルに達していることが窺えた。
周囲を見回すと、リリアナと七人の間に漂う剣呑な空気を恐れてか、このやり取りに積極的な介入を示そうとする輩は見当たらない。
リリアナも、七人の男達も、そのことが分かっている上で、叫ぶ声は巨大だった。
リリアナはたっぷりと髭をたくわえた口を開くと、声高に宣言した。
『確かにガルガリン領城下にてガストン先生と手合わせいたし、私が勝ちを得た。だが、それは尋常の立ち会い。貴様らも承知のはずだが……』
『黙れ!』
リリアナの言葉を、血気盛んな二十代後半の若者が遮った。
『師匠を討たれ、おめおめと貴様を見逃してしまった後、我らがいかに苦労を重ねたか、貴様に分かるか!? 道場は立ち退かされ、かつての門下生も散り散りになった。今や、ガストン先生門下の弟子は、我ら七人のみになった。この現状、ガストン先生もハイペリアで嘆いているに違いない。そなたを討ち果たして師匠の無念を雪ぐ!』
若者の宣告に、包囲の輪が一段と狭まった。
みなロングソードを必殺の刺突の構えに持ち、猫の子一匹逃がさぬ心でじりじりと仇敵を追いつめる。
『…仕方あるまい。相手をしよう』
リリアナの手が、すっと音もなくファルシオンの柄頭に伸びる。
溜め息をついたのも束の間、瞬きほどの一瞬の間に、リリアナはもうファルシオンを抜刀していた。睨みつけるは真正面に立つ二十代半ばの男。ファルシオンは片手正眼の構え。
『待て、待て、待てぃ!』
柳也は闘争の輪にさらに近付いて声をかけた。
七人の男達はようやく自分達に接近する若者の存在に気付いたようだが、リリアナはすでにその気配を察知していたらしく、特に驚いた様子もない。
『あんた方の言い分は聞き及んだ。けど、ヨゴウ殿の申される通り、師匠のガストン・シュピーゲイル様とヨゴウ殿との立ち会いが尋常のものであれば、勝負は時の運だ。もはやそれ以上の戦いは無益というものだろう?』
『ラキオスの兵士か何か知らんが、関係のない奴は引っ込んでいろ!』
まだ若い二十代前半の男がうそぶいた。
『関係ない奴は引っ込んでいろ……か。だが俺も、この一件に関係がないわけではない』
『なに?』
『俺は、ここにおられるリリアナ・ヨゴウ殿の一番弟子だ!』
柳也が胸を叩き、七人の男達の間に動揺が走った。終始冷静であったリリアナですら、何を言うのかと目を丸くしている。
『どうしてもとあれば多勢に無勢。俺もヨゴウ殿の門弟として、師の窮地に黙って見ているわけにはいかん。……先生、私も加勢いたします!』
『余計なことをしおって…』
そう言いながらも、ヨゴウの口元はどこか楽しげだ。
『では、師弟揃って戦といくか』
『はい』
柳也は頷くと、年のために腰に佩いてきた肥後の豪剣二尺四寸七分を抜刀し、八双に構えた。
包囲の外に突如として現れた敵に、寸分の狂いなく統率されていた男達の気息が僅かずつ乱れ始める。
動揺が、決定的となったのは、柳也の次の一言が炸裂した時だった。
『リリアナ・ヨゴウ直伝、必殺のリープアタックの、最初の餌食になりたいのはどいつからだ!?』
『おのれ!』
『カイル、待て。包囲の輪を崩すな!』
柳也に対して背後を向けていた若い戦士の一人が、振り返った。
包囲の輪に乱れが生じ、その場に集った九人の男達が一斉に動いた。
カイルと呼ばれた戦士が下段から伸び上げるような突きを放ちつつ突進し、またリリアナの右手からも三十過ぎの男が果敢に仇敵を突こうとする。
突進の勢いを上乗せした迷いのない片手突きが、柳也とリリアナ、二人の師弟を鋭く襲った。
リリアナは正眼のファルシオンで払うと、肩と肩とをぶつけ合うようにしてすれ違い、輪の外に出た。が、その一瞬、右足を軸に反転すると剣を峰に返し、最年長と思わしき男の脇腹を鋭く薙いだ。
『ぐっ!』
肺の中の空気を、すべて失ったか。
空気が漏れるような鈍い絶叫を発し、横倒しに倒れる。
リリアナの太刀捌きは素早かった。加えて、ラキオス剣術指南役の剣には力みが感じられなかった。
両者の力の差は、歴然としていた。
一方で、輪の外の柳也も、リリアナに負けず劣らずの体捌きで攻撃を回避するや、すかさず放った豪剣の峰打ちで、力の差を見せつけていた。素早く小手を打ち、ロングソードを取り落としたカイルを、間断なく突進した体当たりで吹っ飛ばす。
『ぬぅ!』
『こうなれば五人でも構わん。押し包め!』
予想だにしなかった強敵の出現とリリアナの反撃に、輪を崩された五人の戦士達が、最前、師の仇を討たんと輪の外に逃れたリリアナを再び取り囲もうとする。
しかし、リリアナの動きは俊敏だった。
背後に回ろうと移動する五人の間を雷電の如く駆け抜け、峰に返したファルシオンで脇腹を、肩口を、太腿を叩いて、三人を瞬く間に転がしてしまう。どれも戦闘能力を殺ぐだけの、軽い打撃だ。ここまでの手加減は、柳也にもまだできない。
残る敵は、あと二人。
最初に突きの攻撃を仕掛けた戦士が、決死の形相で突きの構えを再び取った。
それは己が倒されるか、相手を倒すかの必殺の構えだった。
『これまでのようだな』
残るもう一人の戦士の動きに気を割きつつ、柳也がリリアナの隣に並んだ。
『すでに勝敗は決した』
『おのれ…まさかリリアナに貴様のような弟子がおったとは……』
『早くお仲間の手当てをしてやらないと、大変なことになるんじゃないか? 先生の峰打ちを受けた連中はともかく、俺はまだ下手っぴだからな。医者に診てもらわないと、下手をしたら武芸者として再起できないかもしれないぜ?』
柳也は少しばかり大仰に言ってガルガリンからやってきた武芸者達を牽制した。
突きの構えを取っていた武芸者が、しぶしぶ剣を鞘に納めた。
『弟子の方…貴様の顔も覚えておくぞ』
剣を納めた二人の剣士が、倒れた仲間達のもとへと駆け寄った。うち二人は峰打ちを受けながらもまだ立ち上がるだけの余力を残しており、完全に意識を失って倒れているのは三人だった。その中には、柳也が倒したカイルも含まれている。
『先生、行きましょう…』
柳也が、休憩所とは反対の方角……スピリットの館へと続く道の方を顎でしゃくった。
リリアナが頷き、足早にその場から立ち去っていく。柳也もその後ろ姿を足早に追いながら、ふと、一度だけ背後を振り返った。
傷ついた仲間達を担いで、七人の男達が休憩所へと向かう様子が見えた。
休憩所には訓練中の事故や怪我に備えて医師が常駐している。肉体がマナで構成されているスピリットやエトランジェは、多少の傷を負っても神剣魔法で回復できるが、人間の訓練士はそうはいかない。
柳也は七人全員が休憩所の中へと入ったのを見届けると、向き直って、リリアナの背中を追った。
スピリットの館まで、あと二キロメートルというところで、リリアナが立ち止まる。
『造作をかけたな』
頭を下げて礼を言うリリアナに、柳也はわざとらしい表情で恐縮した。
『先生、師匠が弟子にそのように頭を下げてはなりませぬ。顔をお上げくだされ』
『…芝居はもういいだろう』
リリアナは困ったような表情で顔を上げた。
これまで正式な弟子というものを取ったことがないのか、柳也から「先生」と呼ばれるその度に、面映そうな顔をしている。
『はて、芝居とは何のことですか? 私が先生の弟子というのは、事実ですが』
柳也が唇の端を歪め、ニヤリと笑う。
たしかに、形式上、柳也はリリアナの下で訓練を受けているのであり、そう考えると二人の間柄は師弟関係といえなくもない。
『……分かっていてやっているのだろう?』
『意外だな。ヨゴウ殿ほどの実力者であれば、弟子の一人や二人、普通はいてもおかしくないはずだが』
『私はこれまで正式な弟子を取ったことはない。ラキオスの剣術指南役を務めるようになってからも、私は兵達に剣術を教えているだけで、弟子とは見なしていない』
『それじゃ、俺は?』
『ともに深遠なる剣の道を追求する同志……と、いったところか』
リリアナは顎鬚で隠れた口元に僅かな笑みをたたえつつ、柳也を見た。
だが、すぐに表情を引き締めると彼は言った。
『八年前、武者修行時代にガルガリンの街でガストン殿とは立ち会った。ちょっとした路銀稼ぎのつもりで挑んだのだが、凄まじく強い男で、加減ができなかった』
『……殺したのか?』
『私のリープアタックを初見で破った数少ない男の一人だ。当然、路銀をせしめ取るわけにもいかず、逆に香典として有り金をすべて置いてきたが…』
『相当な苦労を重ねてきたようだな。…連中、またくるぜ』
『だろうな。その時はその時で、相手をするしかないだろう』
『よく、そんな風に落ち着いてられるな』
柳也は信じられないといった表情でリリアナを見た。
リリアナは、特に感慨もない様子で頷いた。
長く武者修行を続け、果てしない研鑽の道中に今の役職に就いたこの男にとって、仇討ちの標的となるのは慣れたものらしい。
『これも剣士の定め、剣士の通る道だ』
『俺も通ることになるんだろうか……』
『不安か?』
『…………』
柳也は答えなかった。
答えがないことが、答えを示していた。
『そういえばサムライは、まだ人を殺したことがなかったのだったな…』
リリアナの呟きに、柳也は何も答えなかった。
永遠のアセリア
-The Spirit of Eternity Sword Another-
第一章「有限世界の妖精たち」
Episode09「騎士」
――同日、昼。
「……ってなことがあったんだ」
「……」
訓練の合間の休憩時間。
今朝、スピリットの館に帰ってきた柳也の様子がおかしかったことに気付いた悠人は、友人から今朝あった一騒動について聞かされて絶句していた。
柳也以上に命を張っての果し合いから縁遠いこの少年も、仇討ちという穏やかならぬ言葉に関する事の顛末を信じられない思いで聴いていた。
「いやぁ、相変わらずヨゴウ殿の太刀筋は鋭かった。思わぬところで勉強させてもらったよ」
「それで、柳也は、大丈夫だったのか?」
「…でなきゃ、今頃、こんなこと話していないって」
苦笑しながら、止め処なく湧き出てくる額からの汗を拭った。
すでに件のヨゴウ殿と、相当な時間立ち会い稽古をしたのか、その顔には玉のような輝く汗と心地の良い疲労感、晴れ晴れとした満足感が漂っている。
「…まぁ、ヨゴウ殿が仇討ちって言葉を、あんなにもさらりと受け流してくれたのには、正直、ショックだったけどな。戦後六十年を経た現代日本で育った俺達と、いまだ戦争っていう一大イベントが身近な世界で育ったヨゴウ殿達との、精神構造の違いだろうな」
「仇討ちに来たその連中はどうなったんだよ?」
「分からん。休憩所からはすぐに立ち去ったみたいで、大方、ラキオスの城下に宿を借りているんだろうが、俺もまだ街中には行ったことがないし、この国の法律もよく知らない。赤穂の四七士を演目でやれば、この世界の人々にも受けるだろうが、あの王様が、仇討ちを奨励しているかどうかなんて、知ったことじゃないしな。警察組織が動いてくれるかどうかは、ま、五分五分ってところだな」
「それにしても、仇討ちか……」
悠人は疲れた溜め息をついた。訓練による肉体的疲労のみならず、柳也から話しを聞いて、精神的にも疲弊してしまった彼は、吐き捨てるように言葉を続けた。
「柳也から話しを聞いても、まだ信じられないな。……特に恨んでもいない相手を傷つけるだけでも嫌なのに、それをやって別な恨みまで買うんじゃ、悲しすぎる」
「……悠人は、優しい男だな」
柳也は隣で寝転がる友人に穏やかな眼差しを注いだ。
戦闘訓練の合間の少しの休憩だ。僅かでも体力を回復させるべく、二人は休憩所に戻らずに、そのまま地面に倒れ込んでいた。
「なんで…なんでリリアナは、そんな風に他人から恨みを買うことを承知してまで、剣の道を選んだんだろう?」
「さぁな。それは俺にも分からない。俺が、俺にしかない理由や事情があって剣の道を進んでいるように、ヨゴウ殿にも、ヨゴウ殿の理由や事情があって剣の道を歩いているはずだ。その質問に対して正確な回答を導き出せるのは、ヨゴウ殿本人だけだろうよ」
「柳也は……」
「ん?」
それまで、仰臥するはるか蒼空ばかりを見つめていた悠人の視線が、地上の柳也へと降りてきた。
「柳也は、なんで剣術をやっているんだ?」
「……それは難しい質問だな」
柳也は少し考えてから苦笑した。
自分が剣術を始めたそもそものきっかけは、亡き父が剣術をやっていたからだが、その父が死んでから、自分にとって剣術に打ち込むことへの意味合いは一変した。ただ強さの意味も考えず、ただ我武者羅に力だけを求めていた幼き頃の自分。柊園長と出会い、多くの兄弟達と出会い、たくさんとの友人達と出会った。いくつもの出会いと別れの中で、自分なりに剣術というものに対する見方を考えるようになった。剣術を学びながら生きていくうちに、いつの間にか自分の中でたくさんの大切なものができていた。その大切なものを守るために、己の剣は存在するのだと思った。
なにより、剣を振るうことは楽しかった。自分の腕前が確実に上達していくのは気持ちの良いことだったし、立ち会いに勝った時の満足感と達成感は言葉では言い表せない程のものがあった。相手の斬撃や刺突を受けるか受けないかの、ギリギリの攻防、ギリギリの駆け引きのスリルは何事にも替え難く、新しい技を研究する楽しみは、それが達成されようが、されまいが、常に充足感を与えてくれた。剣術を通して出会った多くの人達との会話が、立ち会いが、たまらなく楽しかった。
自分にとって剣術は、今やなくてはならない生き甲斐、相棒のような存在だ。
それに没頭することを一言で説明するなんて、例え自分が歴史上名を連ねた詩人達全員の才能を引き継いだ天才だったとしても、おそらくは不可能だろう。
「……理由は色々ある。色々ありすぎて、自分でも把握しきれないくらいにな」
「剣術をやっていて、やっぱり楽しい?」
「そりゃ、勿論」
「…それが人を殺すための技でも?」
「……ああ」
柳也はゆっくりと、迷いなく頷いた。
空を見上げるその瞳は、重い内容の話をしているというのに、澄みきった色をしていた。
「…俺にはまだ、人を殺せるほどの覚悟はない。それでも、俺は剣に命をかけているって、胸、張って言えるよ」
「覚悟、かぁ……」
悠人はゆっくりと上体を起こした。
背中や上腕の裏側に、汗に濡れた細かい砂がびっしりと付着している。
悠人はそれを軽く払うと、おもむろに隣の柳也の顔を見下ろした。真昼の日差しが悠人の横顔を照らし、柳也からはその表情を見えなくさせる。
「俺は、佳織のために剣を振るう。佳織のために、スピリットを斬る。……本当に、そんな理由で戦っていいのかな?」
柳也から悠人の表情は見えなかったが、なぜか彼には、見上げる友人の暗い顔が、泣いているように見えた。
柳也は、自らもまた上体を起こすと、友人と同じ目線で、答えた。
「…いいんじゃないか。悠人が、それでいいんなら」
左手の腕時計に視線を落とす。
腰の刀と同様に、父の形見の品は今日も異世界の時を正確に刻みつけている。
短針と長針の位置関係から、柳也は自分達に残された束の間の休息が、残り僅かなことを知った。
彼は完全に立ち上がると、太陽の光を背に、悠人に言った。
「これは俺の持論なんだが、“力”っていうのはさ、己の我(が)を通すための、武器なんだと思う。国を守ろうっていう我。大切な人を守りたいっていう我。金をたくさん儲けたいっていう我。美味い物が食べたいっていう我。そういう自分の我を通すために、力っていう武器はあるんだと思う。そしてそういう自分の我を、みんながみんな、無理に押し通そうとするから、戦いってものが起こるんだと思う。戦いの本質は、どんなに掲げられた理由が素晴らしく見えても、根っこの部分はみんな同じ、エゴとエゴのぶつけ合いに過ぎない……っていうのが、俺の持論だ。
大切な人を守りたい。この世界で、誰よりも大切な人達を…。けどそれは、守ろうとする大切な人達の都合なんて考えちゃいない。大切な人達を守ろうとして、傷ついていく他の人達のことなんか考えちゃいない…」
「……」
「戦いっていうのは、いつだって勝者と敗者を生む。その中でも戦争っていう規模の大きな戦いは、勝者と敗者以外にも、多くのものを生む。戦いに巻き込まれた何の罪もない人達。荒廃した大地。崩れ去った文明の営み…。そういった悲劇を生まないように努力することはたしかに必要だけど、そういったものが生まれるのもまた必然だ。被害ゼロの戦いなんてありえない。……そういう事を全部承知の上で、自分の我を通すために力を振るう…戦う覚悟が決まっているのなら、その理由がどんなものであったとしても、悠人は胸を張っていろよ」
重要なのは戦う理由ではない。戦う理由がサインのない契約書よりも薄っぺらい価値しか持ち得ないことは、多くの歴史が証明している。
大東亜共栄圏はアジアの自由と解放のためにあるのではなかったか。
イラクの自由作戦は悪魔を討つための戦いではなかったか。
戦争のための大義名分など、いくらでも取り繕うことができる。美辞麗句にあふれた大義のために、歴史上、どれほどの血が流されたことか。
重要なのは戦う理由ではない。
重要なのは戦いに対する、己の覚悟だ。
己の我を通すための覚悟……それができていない自分が、言えた義理ではないが。
「お互い、目下の課題は覚悟を決めること…だな」
「ああ。悠人も、俺も、戦う理由なんざ最初から決まっている。佳織ちゃんのため。悠人のため。なにより、俺自身のため。…自分の我を、通すために、戦う。重要なのは戦う理由なんかじゃない。重要なのは、そのための覚悟さ」
◇
――同日、夜。
ラキオス王城からさほど遠くない安い古宿を、仇討ちを果たすまでの仮住まいと七人連れの男達が定めたのは、今日から数えて四日前の、青ひとつの日のことだった。
宿の店主に無理を言って四人部屋に七人を泊めてもらっているために、全員が胡坐をかいて一同に介すと、決して狭くはないはずの一室も実際の尺より小さく見えてしまう。
膳を前にして、鍛えられた胃袋に大盛りの料理をかきこむ男達は、しかし夕餉の安らぎとは無縁の時間を過ごしていた。
彼らは膳を囲みながら、明日以降の行動に関する議論に余念がなかった。
箸の運びとともに侃侃諤諤の会議が進み、いくつもの意見が膳の上を飛び交う。
無論、議題の中心が打倒リリアナ・ヨゴウを目指すものであることは言うまでもない。
七人のリーダー格であり、彼らの中で最も力のあるロバート・セニコフは、忌々しげに口を開いた。
『やはり、搦め手でいくしかないか…』
セニコフにとってその結論は、決して認めたくはない苦渋の選択を意味していた。セニコフを始めとして、ここにいる七名のうち三十過ぎの三人は、かつてはガルガリン領の元貴族ウェイガン卿に仕える騎士であり、彼らの師であるガストン・シュピーゲイルもまたそうであった。騎士にとって謀略に染まった搦め手を使うことは恥辱を意味する。できることならばセニコフは、真っ向からの戦いで師の仇を討ちたいと思っていた。
しかし悔しいことに、苦節八年の歳月を修練に費やして、なお自分達の腕はリリアナ・ヨゴウには遠く及ばない。
そのことは今朝の一件で実証済みだった。こちらは数で勝っていたにも拘わらず、一瞬にして五人までもが倒されてしまうという完敗ぶりだった。圧倒的な実力の差を、認めざるをえない結果だ。
『クソッ! あそこであの弟子さえやってこなければ……!』
その弟子によって打ちのめされたカイルが、悔しげに唇を噛む。
だが誰も彼に同情の言葉をかけようとはしない。弟子の存在がいようがいまいが、自分達とリリアナとの実力差が歴然であることは、全員が分かっていることだった。
『しかし、搦め手で攻めるといってもどうするつもりだ?』
七人の最年長グレイヴ・ルーガーが重々しい口調で問うてくる。
セニコフと同じく彼もまた元騎士。策略を用いて仇討ちを果たすことには抵抗を隠せないでいるが、かといって真っ向から挑んでも勝ち目のないことを承知している。
感情を押し殺しての質問に、セニコフは申し訳ない気持ちで一杯になった。自分もまた、言葉にできない胸の内で思うところはルーガーと一緒だったからだ。
セニコフは努めて冷静な声を吐き出すと、難しい顔をした。
『…問題はそこだな。リリアナ・ヨゴウは歴戦の猛者。生半可な兵法では通用しないだろう』
『奇襲を仕掛けるにしても、剣術指南役という奴の立場を考えると、それも難しそうですしね』
二十五歳のモーリーン・ゴフも眉根を寄せた難しい表情で腕を組む。
八年前はガストンの下で将来を有望視されていた彼も、リリアナに師を殺されてからは完全に人生が狂ってしまった。若く、剣の才能のみならず、才筆にも恵まれた彼は首都マロリガンでの奉公が内定済みだった。セニコフ達のようなウェイガン卿なんて田舎貴族の下ではない。三百年もの昔に家柄を遡ることができる、由緒正しい名門貴族への騎士奉公だ。しかしそんな薔薇色の未来も、あの一件によって一気に真逆の方向へと叩き落されてしまった。
この、若く将来有望であった青年の身に起こった不幸を思う度に、セニコフは涙腺が緩むのを禁じえない。
才に恵まれていた彼はそれに驕ることもなく、ガストン師匠の下で純朴な笑顔を振り撒いていた。兄弟弟子の誰からも愛された彼は、今や純朴な笑顔をなくし、悲しいほどに復讐の鬼に徹している。
――おのれ…リリアナ・ヨゴウ……!
貴様にとってはただの路銀稼ぎだったかもしれない。
しかし、貴様の取った行為によって、少なからぬ人々の人生が狂わされた。
貴様が力をもって押し通した、“我”のために……。
ふつふつと湧き上がる怒り。セニコフはどうにかしてその怒りを飲み込もうとしたが、抑えきることができなかった。いつしかセニコフの語調は、冷徹な響きから荒々しい怒気を孕み始めていた。
『奇襲が無理であれば、せめて奴の武器を使えなくすること。あのファルシオンを、取り上げることだが…』
『その前に、あの弟子の存在についても考えねばなりません。あの弟子の存在は、事前の情報にはまったくないものでした』
モーリーンが冷静に指摘した。
目の前の若者もまたリリアナに対して腹に据えかねる並々ならぬ思いがあるはずだが、そんな様子は微塵も表に出さず、落ち着き払った態度にセニコフは今日まで何度となく救われている。
セニコフは、うむ、と重々しく頷いた。
『たしかに、モーリーンの指摘はもっともだ。リリアナ・ヨゴウを姦計にかけるとしても、あの弟子の存在をまずはどうにかせねばなるまい』
『できれば、こちらが万全の体勢を整えた陣中に誘い込みたいところですが……それをするにしても、あの弟子の存在が邪魔です。今朝も、我々は完璧な包囲陣を敷いたにも拘わらず、あの男の登場によって、それは崩されてしまった』
『仮にリリアナを陣中におびき寄せたとしても、あの弟子によってその陣を破壊されては元も子もない、か』
ルーガーもまずは弟子から排除するという考えに異論はないらしい。
すると問題はいかにして弟子の動きを拘束し、リリアナの動きをも束縛するかだが……。
『…いっそのこと、弟子もリリアナも身動きが取れない状態で、陣におびき寄せたらどうですか?』
口を開いたのは最も若いシン・クルセイドだった。今年で十七歳になる彼は八年前の時点でまだ九歳。ガストンの道場に通ってようやく二ヶ月が経ったばかりの頃、師に先立たれた彼は、ほとんどガストンのことを知らぬまま、今日までの道程に付き合ってくれている。若いだけに飲み込みも速く、もしガストンが健在であれば将来の有望株として注目を集めていたであろうことは想像にかたくない。
『ほぅ…それができれば確かに最善だが……』
セニコフはじろりとシンを睨んだ。
この少年は他の六人よりの誰よりも若いがゆえに、時に奇抜な発想で自分達を驚かせることがある。
『いったい如何にしてそのような事を可能にするというのだ?』
『奴のラキオス王国剣術指南役という肩書きを利用するんですよ』
シンはニヤリと笑った。
年上のセニコフにも遠慮のない、不敵な冷笑だった。
『町の人間を適当に何人か拘引しましょう。人質を取った上で名指しすれば、いくらリリアナでも手は出せませんよ。その時、ついでに弟子も一緒に呼び出してしまえばいい』
『馬鹿なことを言うな!』
声を荒げたのはルーガーだった。
しかしそれはルーガーが最初に口火を切ったからで、声を荒げたのはセニコフも、モーリーンも、クルバン、デイルといった他の面々も同様だった。
『シン…! 貴様は、無辜の民に手を出すつもりか!?』
『そうだシン。今の発言を取り消せ。それは騎士として、絶対にやってはらないことだ』
『ルーガー、モーリーンの言う通りだ。私も、真っ向から攻めても駄目ならば、策謀を練って搦め手で攻めることも辞さん覚悟だ。しかし、騎士として、私怨で罪なき民を巻き込むことだけはやってはならん!』
『騎士として、ですか……』
だが、シンは五人の騎士から怒りの眼差しを受けても、動じることなく、不敵な笑みを崩さなかった。
『残念ながら、僕は騎士ではありません。ガストン先生が身罷られた時、僕はまだ子どもでしたから』
『…たしかに、騎士の矜持が許せないというのなら、俺も当時はまだ騎士じゃなかったな』
シンの言葉に、師の仇討ち以上に自分の復讐に燃えるカイルがぽつりと呟いた。
たしかにガストンが亡くなった当時、まだ九歳のシンと十四歳のカイルは、騎士という役職に就ける年齢に達していなかった。
――しかし…しかし、騎士とは……騎士の魂とは、そういった役職に就いたから宿るものではないはずだ!
今は亡き師は、剣の技以外にも騎士たる者はどうあるべきかについて、とうとうと語ってくれた。
常に誇り高くあれ。己を見失うことなく、強く生きよ。民のために身を粉にすることを至上の喜びとせよ。民の模範たる態度を取れ。義のために生きよ……そうした師の教えは、騎士という役職ではなく、師の薫陶を受けたこの場にいる全員の魂に宿るものではなかったか。
その証拠にモーリーンを見よ。ゲイルを見よ。この二人もまた、当時、正式な騎士ではなかったが、ガストン先生の教えを忠実に守り、民の模範たる騎士の態度を崩したことは、片時もない。
『……たしかに、ガストン先生が身罷った当時、お前達はまだ騎士ではなかった。しかしそれはモーリーンも、ゲイルも一緒だ。騎士の魂は騎士という役職に宿る者ではない。ガストン先生の教えを受けた、我々一人ひとりの身に宿るもの。そのような考えは恥と知れ』
『では、どうするというのです? 失礼ながら今の我々の戦力では、リリアナ・ヨゴウにはどんな姦計を用いても勝率は五割を切りますよ? それとも、傭兵でも雇いますか? …ああ、スピリットを使うという手もありますね』
『黙れぇいッ!!』
セニコフが一喝した。無辜の民の拘引。傭兵の雇用。スピリットの使役。どれも騎士が私怨を晴らすのに使う手段としては、絶対にやってはいけない禁じ手だった。
『シン! 貴様、言うに事欠いてスピリットを使うだと!? ならん! それだけは絶対にならん!』
『シン、今の前言を撤回しろ』
『……分かりました。ですが、今、僕が言ったことは、一考に値する策だと自負しています。ほんの少しでも良いので、心の片隅にでも留めておいてください』
『そうだな。この際、手段を選んでいる余裕はなくなってきたみたいだし』
カイルが薄ら笑いとともに頷く。この若い戦士も、心の中の天秤はシンの意見に傾いているのは火を見るより明らかだった。
その後も侃侃諤諤の会議は深夜まで続いたが、日付が変わっても、結局、妙案は生まれなかった。
いやこの険悪な空気の中、騎士の魂を持つ五人が怒りで冷静さを忘れた状況で、妙案が生まれるはずがなかった。
ただひとり、クルバン・グリゼフだけが、決意の表情で会議の進行を見守っていた。
◇
――聖ヨト暦三三〇年、アソクの月、赤、ひとつの日、夜。
柳也は野外訓練所からスピリットの館へと続く帰路をひとり歩いていた。
なぜ、一人きりなのかというと、朝昼の戦闘訓練に続いて、昨夜から新たに訓練メニューに取り入れた夜間戦闘の訓練が、予想以上に長引いてしまったためだ。
訓練にはアセリアやエスペリアも参加したが、途中、何度か柳也が迷子になってしまい、それで時間を食ってしまった彼は、アセリア達が訓練メニューを全部消化する頃にようやくスケジュールの四分の三を終えたという状況だった。
アセリアは柳也のメニューが消化し終えるのを待たずにさっさと帰ってしまい、エスペリアはいまだ神剣の声を聞けぬ悠人の元へアドバイスをしに行ってしまった。
結果として柳也の訓練メニューがすべて終わった時、すでに他の三人は館へと帰ってしまった後だった。
――くそぅ。食事を作らないといけないエスペリアや、アセリアはともかくとして、悠人は待ってくれたっていいだろうに…。
柳也は寂しげに奥歯を噛み締めながら、胸の内で呟いた。
最近、心なしか友人の自分に対する扱いが酷いような気がしてならない。以前はもっと配慮があったはずだが、お互い名前で呼び合うようになって以来、優しくされた記憶がさっぱりない。
【あの男にとって、主は大切な義妹に気安く話しかけてくる、要注意人物であるからな】
「……そういうことか!」
何気ない〈決意〉の一言に、真相を知ってしまった柳也は驚きと同時に大きく肩を落とす。
どうやら高嶺悠人にとって桜坂柳也という男は、友人である以上に敵としての要素の方が強いらしい。
「ぬぅぅ…こうなれば悠人お兄さんには、俺と佳織ちゃんとの仲を認めてもらうためにも、身を粉にして接せねばならないようだな」
【……そのような戯言を口にするから、要注意人物と見なされると思うのだが】
〈決意〉のもっともな指摘を受け、柳也は、むむむ…、と眉根を寄せる。
いったいどうすれば悠人に自分と佳織ちゃんの仲を認めてもらうか、本気で考えを講じているようだ。
〈決意〉から、【やれやれ…】というような、呆れたような気配が伝わってきた。
野外訓練所の道を下ること十分余り、もうすぐスピリットの館が視界に入ってくるという距離で、唐突に柳也の剣士としての本能が目を覚ました。
【主よ……】
――ああ、分かっている。
足を止めた彼に、〈決意〉からも油断をするなと声がかかる。
柳也の行く先を、一つの影が待ち受けていた。
両腕を組んだ背中には砂漠柄の迷彩が施されたマントがかけられ、その下はチェイン・メイルで武装しているようだ。足拵えは軽装で、ラウンド・シールドを左手にしたその姿は、中世暗黒時代のアングロ・サクソンの戦士“セイン”に見えなくもない。ただ、柳也達の世界のセインと違っていたのは、男がアングロ・サクソンの語源となったサクスと呼ばれる短剣ではなく、刃渡り七十センチはあろうロングソードを佩いていることにあった。
歳の頃は三十四、五歳か。
顎髭をたくわえた彫りの深い造作に、柳也は見覚えがあった。
『…ヨゴウ殿がスピリット隊の訓練士だってことも、知っているみたいだな』
『ゆえにここで待っていた。スピリット隊の訓練士であれば、訓練所からの帰りにこの道を通るのは必然だからな』
『ヨゴウ殿は今日は訓練には出ていないぞ』
『そのようだな。だが、代わりにお前がやって来た』
『おめでとう。大物を釣り上げたぜ』
『はばかりのない口だな。自分のことを大物と称するか』
顎髭の男は僅かに苦笑した。
だがすぐに表情を引き締めると、剣を抜いた。
『……名前は?』
『クルバン・グリゼフ』
『柳也、桜坂』
『変わった名前だな』
『生まれがラキオスじゃないんでね』
ぢゃりっ、と鎖の鳴き声が耳膜を打った。
グリゼフが踏み込むと同時に脇構えにつけたロングソードで円弧を描き、胴に伸ばした。
柳也はかろうじて跳び下がり、それを避ける。
しかし連続して襲ってきた上段からの振り下ろしが、身をよじる柳也の左肩に触れた。
切っ先が肩口を掠め、スピリットの丈夫な服を簡単に切り裂いた。燃えるような痛み。だが幸いにして左肩の傷は致命的ではない。柳也は素早く左手を鞘に添えつつ後方へと跳び下がると、着地と同時に同田貫を抜いた。
『…今日はお仲間はいないみたいだな』
柳也は周囲に監視の目がないことを知り、小さく呟いた。
もとより返答を期待した言葉ではない。
だが実直な性格なのか、柳也の問いとすら言えぬ呟きに、グリゼフは応じた。
『今宵は我ひとりのみよ』
言葉と同時に、躊躇いのない正眼からの斬り込みが柳也を襲った。
柳也は打ち込みを同田貫で右斜め上へと払い退けると、返す刀でグリゼフの左肩を襲った。
グリゼフが剣士の本能で右斜めに飛び、二人の体が入れ替わる。
反転し、二人の剣士は一間半の距離で睨み合った。
柳也は同田貫の豪剣を正眼に構えた。
グリゼフは両刃の剣を必殺の突きに構えた。
数呼吸の間、互いに無言、無音の、完全なる静止した時の中に、二人は身を置いていた。
『今宵は何故ひとりでやってきた?』
柳也が、沈黙を破った。
『騎士として、策を弄する前に尋常の立ち会いをしたかった』
グリゼフの舌が、沈黙の時を崩す不協和音を奏でた。
その直後、グリゼフが腹の底から絶叫し、突進した。
仮借のない必殺の刺突が、柳也の心臓を目掛けて突き出された。
対する柳也も踏み込んだ。
振り下ろす剣と突き出す剣とが切り結び、両刃の直剣が宙を舞った。
柳也が、踏み込みの勢いそのままに突進し、内懐に擦り寄る。
柳也は肥後の豪剣二尺四寸七分を軽く振った。
豪剣の柄頭が、鎧に覆われていない額を打って、グルゼフの口から低い呻きが漏れた。
◇
玄関の戸を開けると、エスペリアは初めて会った時と同じような表情で出迎えてくれた。
『……リュウヤさま、こちらの方はいったい?』
『…………拾った』
柳也は、少しだけ考えてから、かつてのアセリアと同じ台詞を吐いた。
少年の大きな背中には、顎髭を生やした騎士の、意識を失った姿があった。
◇
――聖ヨト暦三三〇年、アソクの月、赤、ふたつの日、朝。
朝になってもグリゼフは帰ってこなかった。
日の出を迎えてすでに二時間が過ぎ、宿の朝餉の時間を迎えてなお帰ってこない朋輩が、どのような運命を辿ったか、セニコフには容易に察しがついた。
『みんな、集まってくれ』
セニコフが四人部屋にたむろする男達に声をかけたときには、すでに全員、朝食を摂り終えていた。
カイルとシン以外の三人は、元騎士と騎士見習いとあって行動も素早く、ひとつひとつの動作には気品めいたものすら感じられる。見ていて気持ちの良い背筋の張った三人の様子に満足しつつ、しかしセニコフはこれから告げねばならない悲しい現実を思って、苦渋に満ちた表情を浮かべた。
『…昨夜からクルバンが戻らぬことに、みなも気付いていると思う』
昨晩、「騎士として…姦計を弄す前に一人の男として奴らとは一度、戦っておきたい」と言って、宿を発った戦友は、その際に自分に口止めを願い出ていた。
騎士にとっての約定は、それがどんなに些細なものであろうと重い意味を抱えることになる。
その約定を破ってしまうことも含めていればこそ、セニコフの表情がいっそうの険しさを帯びるのも無理はなかった。
『昨晩、私はクルバンから口止めを願われ、それを承知した上で、奴に一夜の自由を与えた。あれは、姦計を弄する前に騎士として、リリアナと尋常の立ち会いがしたい、と言って出ていったのだ』
『要するに抜け駆けしやがったのかよ』
カイルが、憮然と言い切ったのを聞いて、セニコフが睨んだ。
話の腰を折るな。そしてクルバンのことを侮辱するな、と無言の叫びを投げかけると、視線に宿る殺気に気付いたか、カイルは不服そうに押し黙った。
カイルが黙したのを確認して、セニコフは言葉を続けた。
『そのクルバンが、昨夜から戻ってこない。それはつまり……』
そこでセニコフは言い辛そうに沈痛な表情を浮かべた。
騎士が己の誇りをかけて勝負に発ち、帰ってこないということはつまり、そういうことなのだろう。
『死して散ったか、敵の手に落ちたか…』
『もしくは、恐くなって逃げ出したか、ですね』
強烈な殺気が、四つ、一人の男に注がれた。
誇り高く、勇敢な騎士の存在を侮辱する言葉を投げかけた朋輩に、男達の眼差しは鋭かった。
『シン、言が過ぎるぞ!』
モーリーンの凛とした張りのある叱責が、年下の少年の耳朶を打つ。
しかしシンは特に気にした風もなく、居並ぶ五人の顔を舐めるように見回した。少年の顔には、自分の発言に対する後悔の気持ちなど微塵もなかった。
『でも、これでますます手が打ち辛くなってしまいましたね。クルバンさんは僕らの中でもかなりの腕前を誇っていました。そのクルバンさんがいなくなったんですから、作戦の幅はかなり狭まってしまいました』
『シン……』
クルバンの死を悼むことなく、もう次の戦いのために冷たい計算を始めている。
セニコフは後輩の少年に、怒りよりもむしろ薄ら寒いものを覚えた。
続けるべき言葉を失ったセニコフに、侮蔑も露わな視線を向け、シンはとうとうと語り続ける。
『正攻法を用いたところでリリアナには敵わない。かといって姦計を弄するにしても、クルバンさんがいなくなっては僕らにできることなんて高が知れている。…ここはやっぱり、少々汚い手段であっても、人質を取って陣に誘き寄せるか、助力を願い出ますか』
『な、ならん! それだけは絶対にならん』
『じゃあ、人質を取る変わりに辻斬りでもしましょうか? ラキオスの剣術指南役を狙って辻斬りが横行……なんて事になれば、リリアナも立場上出てこなければならなくなりますよ。なんとなれば、放置して危うくなるのはリリアナの雇い主のラキオス王の立場なんですから。
…もしくは、無辜の民を傷つけるのが嫌なら、ラキオスの兵士を襲えばいい。無関係の人を襲うのが嫌なら、ラキオス軍のスピリットを襲えばいい。どうせあいつらは、人ですらないんだから』
『…なるほど。そいつはいいな。スピリットなら俺たちの良心が痛むこともないし、どうせあいつらは、人間様には逆らえないんだしなぁ』
カイルがシニカルな笑みを浮かべて同意した。
『そういうことです。それに、上手くいけばラキオスの戦力を削ることもできる。ラキオス剣術指南役を仇討ちの名目で倒し、その上でスピリットまで倒したとあったら、僕らは英雄ですよ。ラキオスに敵対するバーンライト、ダーツィ、サーギオスのどの国にだって、仕官することができるようになる。マロリガンに戻って、もう一度人生をやり直すことだってできますよ』
シンの言っていることは、あながち間違いとも言い切れない。
ラキオス出身の剣士リリアナ・ヨゴウの剣名は、大陸中とは言わないまでも、かなりの人々に、その勇猛なエピソードとともに知られている。そのリリアナを討ち果たしたとあれば、剣名は一気に上がり、シンの言うようにどこの国であっても仕官は容易くなるだろう。
たしかに、リリアナを討つことによって得られるそれらの恩恵は魅力的だ。
しかし、自分達は亡きガストン先生の無念を晴らすために戦っているのであって、そういった私利私欲のために戦っているわけではないはずだ。
『シン! 先刻から黙って聞いていれば……貴様はそれでもガストン先生の弟子か!? 今の発言はこの場にいる我らのみならず、大陸中の騎士全員を侮辱する台詞だぞ!』
デイルの右手がロングソードの柄にかかる。
ガストン先生の教えは常在戦場。常に気を抜くことなく、どこにあっても戦場に居るつもりでいよ。例え気の知れた仲間達だけの空間とはいえ、最低限、武具の携帯を怠ってはならない。
『デイル、抑えろ!』
今にも剣を抜き放ちかねない勢いのデイルの腕を、セニコフは慌てて掴んだ。
デイル・レイガンは七人の中でも最も血の気が多く、何事にも熱しやすい情熱家だ。国許では冗談のつもりで言った何気ない一言によって、デイルの剣の下にひれ伏した人間が少なからずいることを、知らぬセニコフではない。
騎士にとって最大の屈辱は恥をかかされること、そして侮辱されることだ。何も知らない民ならばいざ知らず、騎士の矜持の何たるかを知る者から侮辱の言葉を浴びせられるということは、挑発行為以外の何物でもない。
大抵の騎士であれば、そこであからさまな挑発に気付き、自分を怒らせようとする相手の目的は何なのかと思索にふけるところだが、デイルは違う。熱しやすい性格の彼は、考えるというプロセスをスキップして、すぐに行動へと移ってしまう。
生意気な少年に対して取ろうとする彼の行動に、内心では喝采を叫んでいても、ここは異国の宿の中だ。こんなところで刃傷沙汰など起こしては、今後の行動どころか今後の人生すら危うくなりかねない。
まだ若いデイルの、軽はずみな行動を許すわけにはいかなかった。たとえその胸中は、血気盛んな青年同様に、腸が煮えくり返るような思いを抱えていたとしても。
セニコフに押さえられ、デイルの右手が柄から離れた。
しかし殺気だった眼差しは変わらずに後輩の少年を怒りの形相で睨みつけていた。
シンがおもむろに立ち上がった。
自分に注がれる殺気の篭もった視線と、怒気の充満する部屋の空気に耐えられなくなったか……いや、違う。炯々と怪しい輝きを放つ大振りの双眸からは、少年が何か企み事を腹に抱え込んでいるように思えた。
『待て、シン。まだ話は終わっていないぞ。どこに行くつもりだ?』
騎士の魂を受け継ぎながら、無頼漢同然の立ち振る舞いの少年に向けるセニコフの言葉尻が険しくなるも仕方のないことだ。
シンは特に悪びれた様子もなく、
『嫌われ者はさっさと別な場所に行った方が良いと思いましてね。情報収集に行ってきますよ』
『俺も行くぜ』
カイルが立ち上がった。
その腰は使い込まれた愛用のロングソードの姿がある。
『俺も、誰かさんのせいでこの場にあっては嫌われ者にされちまったからな。ほとぼりが冷めるまで、付き合うぜ』
『分かりました。…それではカイルさん、行きましょう』
シンとカイルは、小汚い旅支度に砂漠柄のマントを一枚羽織ると外へと出た。さすがに他国の城下町の往来を、鎧甲冑をフル装備した状態で出歩くほど二人とも愚かではない。身を守るための武具は愛用の剣と、狙いをつけにくくするためのマントだけで十分だ。
『……なんてやつらだ!』
二人が出て行った後、ドアを見つめたまま、デイルが吐き捨てるように言った。
セニコフは心の中でそれに同意するが、自らの感情をありのまま表に出そうとはしなかった。
リーダー格の自分が本音を口に出せば最後、『打倒リリアナ・ヨゴウ』の一念で集ったこの組織は、一瞬にして瓦解してしまうであろうことは、容易に想像ができたからだ。
◇
情報収集に出たはずのシンとカイルは、特に聞き込みをするでもなく、繁華街とは逆の方向へと足を向けていた。
かつてこの国がまだ偉大なる聖ヨト王国であった時代、首都ラキオスはエーテル技術を手に入れた以降に開発された新市街と、それ以前からの旧市街が隣接する巨大都市となった。
エーテル技術の恩恵を存分に受けている新市街と違い、それ以前の原始的な木を燃やしてエネルギーを得る方法しか持ち得ない旧市街は、繁華街といっても人の往来は閑散としている。世の中に富を得る者があれば、その影で飢餓に苦しむ者がいるのはどこの世界も同じだ。それでなくとも、人々は輝かしい未来への展望を新市街に求め、旧市街の人口は年々減少している。
それでもなお、旧市街にいまだ少なからぬ人々が居残り続けるのは、先祖代々の土地に固執し続けているからか、もしくは人気のなくなったその場所に身を置く方が、かえって好都合なためだ。
有限世界に生きる住人達も、地球人に似た精神構造を持っている以上、その心の闇に潜む悪意を持て余し、犯罪に走る者も少なからずいる。そしてまた、悪意なくして犯罪に手を染める者も、この世界にはいた。
シンとカイルが足を運んだのはすでに店主も客寄せの店員も、肝心の商品も姿を消した娼館だった。椅子やテーブル、ベッドや看板といった金になるものは根こそぎ売り払われ、それでも売れ残った粗雑な作りのベッドや、四本足で立っていたはずが今や三本足で立っている状態のテーブルだけが、店の永久閉店を知らぬ二人の客をもてなす唯一の家具だ。
かつては娼館のカウンターだったのだろう広間に足を踏み入れた二人は、ふと背中に視線を感じ、肩越しに背後を窺った。
足音はまったくの無音。気配もまた空気も同然。しかし二人の若者は、いつの間にか背後を数人の男達に取られていた。
揃って統一された黒装束と黒頭巾。相貌を隠す面当てから、僅かに漏れている眼の輝きは猛禽を思わせて鋭い。ただの犯罪者や、近所の無宿人などではないことは明らかだ。確たる目的を遂行するために必要な高度な訓練を受け、統率された手合いである。
不安はなかった。背後に立つ男達に殺気はない。互いに相手がどのような人間で、今どのような立場にあるかをわきまえているからだ。
『朝の目覚めとともに普通、人は活動を開始するが、我々は朝の目覚めとともに眠りに就く。……その我々と、このような時間に接触を図るとは、どういう了見だ? それも、余計な鼠を一匹も連れて』
開口一番、男の一人が冷笑混じりに言った。
面当てで顔を覆った男達のうち、誰かが話したことは確実だが、誰が口を開いたかは分からない。特殊な発声法を会得しているらしく、部屋の中全体に充満するような響きからは、音だけを頼りに件の人物を特定するのもまた難しい。
『…そう、責めないでくださいよ。これでも気は小さい方なんですから……。あんまり強い言葉をぶつけてくると、泣いちゃいますよ、僕』
『そうなった時は二度と貴様が口から音を奏でられないよう処理するまでだ。貴様の甲高い声で咽び泣かれては、こちらが敵わん。ただでさえ我々は、寝不足なのだから』
『悪いとは、思っていますよ。……でも、こういう段取りは、早いうちに決めておかないと』
シンは振り返ると片目をつむって闇の住人達にウィンクを投げた。
少年は隣に並ぶ先輩に手を差し伸べると、
『紹介しますよ。僕らの新しい同志……カイル・ロートマイルさんです』
『よ、よろしく』
いつもの軽薄な態度はどこに消えたのか、カイルは緊張も露わに暗闇へと手を差し出した。
するとその手が、気配もなく握られる。
目の前で実際に手を握っているのは一人。しかしこの場にいる全員に手を握られているかのような奇妙な感触に、思わず上げかけた驚きの声を彼は寸前のところで飲み込んだ。
この朽ち果てた娼館はすでに彼らのテリトリーなのだ。迂闊に物音を立てることを嫌う彼らの前で、下手な大声は上げられない。目の前の彼らは、スピリットや自分達とは別の意味で、尋常な手合いではないのだから。
『よろしく、同志カイル。今度からはこちらの都合も承知してもらいたいものだな。我々とて昼の間くらいはゆっくり休みたいのだ』
『まぁまぁ…。そう僕の先輩をいじめないでください』
シンは、薄い笑みとともに唇を尖らせた。
『それに、今回の仕事が成功すれば、カイルさんは僕らにとってなくてはならない、大切な人になるんですよ。僕らの明るい未来のためにも、もう少し大事に扱ってください。……マロリガンのスパイ網が今、どんな状態なのかは皆さんの方がよく知っているでしょう?』
『無論だ。クェド・ギンが大統領に就任して以来、あの国に潜伏している各国のスパイ網は壊滅状態だ。大陸最強の帝国の情報部とて例外ではない。それを顧みれば、たしかにマロリガン出身の同志カイルが我々に協力してくれれば、それは強い武器となるがね』
上手くいくかどうかは実際に賽を振ってみなければ分からない。黒装束の男たちの口振りからは、そんな隠されたニュアンスが感じられた。
カイルは思わず、ごくり、と喉を鳴らした。水に飢えていたからではない。緊張から口の中に溜まった唾を飲み込むためだ。
カイルは緊張していた。
今、カイルの頭の中を支配しているのは、目の前の男達に対する奇妙な“恐れ”だった。強い剣士と戦う時に感ずるそれとはまた別種の恐怖だ。
彼は金縛りにあったように動けなかった。
腰に佩いたロングソードが、ひどく頼りない物に見えてならなかった。
『策はもう練ってあります。あの男を誘き出すための陣地も、もう構築済みです。あとは、作戦を実行に移すだけ…お願いしておいた戦力は、揃えてくれましたか?』
『……ああ。すべて首尾よく、整っている』
『ありがとうございます。これで僕らは国に戻ったら英雄ですね』
『ラースの同志から、この作戦を聞かされた時は、こんな夢物語同然の計画を、本当に本気で実行しようなんて奴がいるのか、疑ったものだが……』
『僕は本気ですよ。セニコフ師範たちと八年も一緒に過ごして、あの人たち……騎士っていう人種の行動パターンや精神構造は、もう完璧に知り尽くしたつもりです。…リリアナ・ヨゴウも騎士です。たとえそれが自分とは無関係な人間であっても、無辜の民であれば必ず駆けつけます』
『だが、その貴様でもエトランジェの行動や思考までは読めまい?』
『……どういう意味です?』
シンが、ここにきて初めて表情を強張らせた。
いやシンだけではない。シンの隣に立つカイルまでもが、“エトランジェ”というその単語に対して、強い驚きの反応を示していた。
『え、エトランジェだって…!?』
『シンから調べるよう頼まれた例のリリアナの弟子だ。あの男は先頃この国に召還されたエトランジェの一人だ』
黒装束が重なる声で淡々と告げた。
無表情な声には、しかし隠しようのない不安と畏敬の念が混ざっていた。
『それも、今回、召還されたのはただのエトランジェじゃない。…聞くところによると、今回、召還されたエトランジェは三人いるが、そのうちの一人は、伝説の四神剣のエトランジェという話だ』
『…なるほど。通りでお強いわけだ』
シンの口調はおどけていたが、表情は真剣だった。
『もっとも、シンから調査を依頼されたこのエトランジェ……リュウヤが四神剣の使い手かどうかまでは分からなかった。神剣の使い手であることだけは、確かなようだが…』
『……とはいえ、だとすれば尚更に今回の作戦は成功させなければなりませんね。そのエトランジェが、僕らの祖国の脅威となる前に、早めに潰しておかないと』
大した知恵もないくせに、プライドだけは尊大なルーグゥ・ダィ・ラキオス王が、自分達の祖国との間にある長年の領土問題を一気に解決するべく、以前から本格的な侵攻作戦の計画を胸中に抱いていることは、ラキオスや祖国の国民の誰もが知っていることだ。ただでさえここ数年の間、ラキオスではかなりの数のスピリットの誕生が確認されている。この上、伝説の四神剣を持つエトランジェが現れたとしたら……あの男の野望に、歯止めが効かなくなることは確実だ。
『潰す……って、そんなことができるのかよ!?』
カイルが驚いた表情でシンを見た。
この年上の剣士が、自分と比べて勝っているのは僅かに歳の数と、身長だけだ。剣の腕前も、知略においても、カイル・ロートマイルはシン・クルセイドに遠く及ばない。
シンは、愚かな先輩に対して侮蔑も露わな視線を返した。
カイルはそんなシンの眼差しに気が付く余裕もなくしているのか、動揺した顔でこの先の未来を不安げに窺っている。
『エトランジェといったって、無敵でもないし、不死身でもありませんよ。ただ最強なだけ。倒せないことはありません』
シンはカイルから一転して黒装束の男達……この年上の先輩よりははるかに頼れる同志達に視線を向けた。
『戦力は首尾良く整っていると言っていましたが……?』
『言われた通り、赤と緑のスピリットを一体ずつ、この国に潜入させた。今はこことは別の場所で待機中だ。……感謝しろ。ただでさえ最近は哨戒任務に“ラキオスの蒼い牙”が参加している。たった二体といえど、入国させるのには骨が折れた。“外人部隊”の連中が指導している中から回してもらった貴重な戦力だ』
『感謝します。念のためと思って呼び寄せた戦力ですが、その二体は、どうやら今回の作戦の主力になりそうですよ。戦闘でエトランジェを倒せるのは、同じエトランジェか、スピリットだけですから』
『作戦の決行は?』
『できれば今日中にでも』
シンが不敵に笑い、黒装束が素顔を見せることなく頷いた。
『すべては我らが祖国のために…』
『すべては我らが王妃様のために…』
暗闇の世界で、いくつもの声が重なり合い、溶け合っていく。
『驕り高ぶった聖ヨトの血筋に、弱小国の意地を見せてくれよう』
『すべては僕らの主……ラフォス・ギィ・バーンライト様のために……』
◇
――時間は遡って前日、夜。
クルバン・グリゼフが目を覚ました時、彼はベッドの上で服を剥ぎ取られている最中だった。
『……』
『……んお? 気が付いたか?』
グリゼフの服を剥ぎ取っている張本人……桜坂柳也は意識を取り戻した彼の様子にほっと安堵の表情を浮かべる。
しかし、向けられた安らかな表情とは真逆に、グリゼフの心中は穏やかではなった。
『き、貴様、何をやっている!?』
『何をやっているって……服を脱がしている?』
なぜか疑問系で訊ねてくる柳也。
安堵の表情は徐々に怪訝な顔色へと変わりゆき、最終的に……青ざめた。
『ま、待て! これは……そ、そういうのじゃないぞぅ。服を脱がしているのはだな、鎖帷子のままじゃ身体がしっかり休まらないだろうと思ってだな……!』
『貴様…そういう趣味の手合いだったのか! 貴様は俺を犯すつもりだな!?』
『待て、待て、待てぃ!! そんなつもりは一切合切ない! 俺はいたってノーマルな人間だ……!』
柳也の釈明にも聞く耳を持たず、グリゼフは一瞬の間に視線を走らせ、自分を取り巻く環境について把握する。
見知らぬ木造建築の部屋。自分はベッドに寝かされている状態で、目の前の同性愛者と思わしき男からまさに衣服を剥ぎ取られている最中にある。
――このままではかまを掘られてしまう!
騎士としてそれだけは絶対に受け入れてはならない屈辱だった。彼は咄嗟に自決のためにいつも懐に忍ばせている短剣に手を伸ばした。しかし彼の指先が触れたのは自分自身の素肌だった。視界の端に愛用のロングソードと鎖の鎧、盾が見える。
グリゼフは喉を鳴らして必死に抵抗した。
ほとんどマウントポジションを取られたような体勢だったが、相手もまたなぜか動揺しているようでもあり、なんとか引き剥がすことができた。
『この変態野郎が!』
『だ、だから違うって言っているだろう!』
グリゼフが怒鳴り、柳也もまたそれに負けじと怒鳴った。
柳也は自分の頭の神経が十本ほど過熱しつつあることを自覚していた。自分は夜道を待ち伏せされ、いきなり襲われた被害者だ。自分に非はなく、応戦したのとて正当防衛に過ぎない。しかも襲ってきた相手を自分は意識を奪うだけに留め、その上館に運んで介抱までしてやっている。それなのに、なんで己はこんなにも変態呼ばわりされなければならないのか。
『ああ、もう! 怒ったぞ…。珍しく怒ったぞぉ……!!』
ストレスが溜まっていた。
こちらの世界に来てからというもの、いきなり飛ばされた異世界という環境に、柳也は少なからず憤りを感じていた。それを無闇に発露させなかったのは、悠人の存在が大きい。同じ学び舎でともに学んだこの友人が、もっとしっかりした人間で、頼りがいのある男だったら、柳也は間違いなく悠人に八つ当たりしていただろう。しかし現実はその逆で、ストレスをぶつけられたのは柳也の方だった。
佳織の事となると周りが見えなくなってしまう悠人の前で、自分が取り乱すわけにはいかない。そんな責任感が、溜まりに溜まっていた鬱憤の暴発を防いでいた。
しかし、今、この場に悠人はいない。
溜まりに溜まっていたストレスの溶岩が、噴火の時を今や遅しと待ち侘びていた。
理性の防波堤が決壊するのは、早かった。
取っ組み合いの争いが始まった。
床の上を転がり、壁に身体を打ちつけ、倒れては立ち上がり、殴り合って、寝技を掛け合った。
剣の腕前では柳也の方が上だったが、素手の戦いとなるとグリゼフもなかなかに強かった。あるいは、このままでは大切なものを失ってしまうという必死さが、彼に偉大な力を与えていたのかもしれない。
しかし、最終的にはエトランジェの怒りが勝利した。
『こんにゃろうッ!!』
祖国日本が誇る神の御業。
相撲の足取りが炸裂し、グリゼフの身体が再びベッドの上へと沈没する。
勝機を得た柳也は、すかさず相手の上に圧し掛かり――――――
『リュウヤさま? 先ほどから何か大きな物音がしますが、大丈夫ですか!?』
――――――二回のノックの後、エスペリアの、焦ったような声が柳也の耳膜を打った。
おそらくは自分とグリゼフの争いの物音が、一階の食堂にも伝わってしまったのだろう。迂闊にもグリゼフとの戦いに熱中し、彼女の接近に気付かなかった。
エスペリアの声を耳にして、柳也は急速に頭の回路が冷えていくのを自覚した。
同時に、自分と、組み敷いている中年男の構図を客観的に見た場合、どのような眼差しで見られるかも、自覚する。
「あ、いや、待て。エスペリア、入ってくるな――――――っ」
思わず口をつい出た母国の言語。
それを了承の合図と思ったらしく、ドアノブがくるりと回転した。
ドアを振り返る柳也。
新たな人物の出現に歯噛みするグリゼフ。
止まらぬドアの動き。
この窮地を脱する手段は…………ない。
『失礼します、リュウヤさ、ま…………』
エスペリアの表情が、硬化した。
じっと見つめあう二人。
この場に裸のグリゼフという存在さえなければロマンチックな瞬間も、その存在あってはあまりにも残酷な空間を形成するばかりだ。
エスペリアは、まず柳也を見て、次に組み敷かれているグリゼフを見て……もう一度、柳也の顔を見た途端、ぼっ、と一瞬にして顔が真っ赤になった。
『し、しししし失礼しましたっ!』
バタン! ガチャ! タタタタタッッ……シ〜ン。
端的に擬音の説明をすれば、エスペリアがドアを閉め、外から鍵をかけ、走り去る足音が遠ざかっていき、最後に静寂が訪れた。
その間、弁解する暇すらなかった。
「……」
『……』
男達は無言になってしまった。
柳也がおもむろにグリゼフの上から降り、ベッドから数歩離れ、膝を抱えて、蹲った。
その背中からは、哀愁めいたものすら漂っている。
一方のグリゼフはおもむろにベッドから起き上がると、柳也の側へと近付いていき、そっとその肩を叩いた。
その表情は、途方もない優しさに満ちていた。
◇
――時間は戻って、赤、ふたつの日、朝。
『……繰り返し言うようだが、俺はあんたを捕虜として扱うつもりはない』
一夜が明け、エスペリアが運んできてくれた朝食を摂り終えた柳也は、同じく朝食を食べ終えたグリゼフに、開口一番そう言った。
『だからこちらとしては無理にあんたを尋問するつもりもないし、人質として利用するつもりもない』
『貴様が本当に私をそのように扱うか……その保証があるのか?』
グリゼフは懐疑的な眼差しを柳也に向ける。まだ三十代半ばと若いグリゼフだったが、八年に及ぶ武者修行とそれ以上に長かった騎士勤めの中で、彼は人の心が容易く移ろうものだということを知っていた。
柳也はじっとグリゼフの視線を真正面から受け止めながら、口を開いた。
『保証は……ない。俺の言葉を信じてくれとしか、今は言えない。仮にも騎士リリアナ・ヨゴウの教えを受けている、俺の言葉を』
『騎士の称号を持ち出されると、こちらも信じざるを得んな』
グリゼフは苦々しく告げた。
師匠を討った憎い仇敵とはいえ、リリアナ・ヨゴウはまごうことなき騎士だ。騎士が嘘を吐くことなどありえない。その偉大な騎士の弟子であるこの少年もまた、嘘を吐くことなどありえないだろう(そもそも、リリアナの弟子という事自体嘘なのだが)。
『だが、捕虜として扱わぬと言うならば、どうするつもりだ? 事と次第によっては、私は自ら命を絶つ覚悟ぞ』
『本館の客人として扱うか、あんたが望むのなら仲間のもとに返してやってもいい』
柳也は淡々と言った。提案したそのどちらもが、グリゼフにとっては耐え難い屈辱を与えることになると理解してはいたが、それでも言わなければならなかった。
グリゼフが、柳也の予想通り、フン、と口元に嘲笑を浮かべる。
豊かな口髭の奥から吐き出された言葉には、明らかな蔑みと皮肉が篭められていた。
『客だと? スピリットの館の客人か……それはこの上なく喜ばしい申し出だな』
『それが嫌だったら仲間のもとに送り返すが?』
『そして生き恥を晒せと? 冗談ではない。敵に情けをかけられ、おめおめと生き残った私の帰還を、朋輩達は許しはしまい』
『騎士社会っていうのは、難儀なものだな…』
柳也は浅い嘆息を漏らした。
柳也とて生まれた時代、世界は違えど剣の道を志す剣士だ。剣の道は武士道にも直接通ずるところがある。グリゼフが紡ぐ言葉一つ一つの重み、彼らの生きる世界に粛然と横たわる呪いのようなしがらみは、我がことのように理解できる。侍と騎士は本質的に似た存在だ。そこに宗教的な事情が絡んでいるか、絡んでいないかの違い以外に、相違点は驚くほど少ない。
柳也の言葉に、グリゼフも嘆くような吐息を口から漏らした。
『ああ。騎士の世界は普通の人が住む世界ではない。その意味では騎士もまたスピリットと同じなのかも知れぬ』
『だが、その騎士社会にあんたは望んで入ったんだろう?』
『ああ…。今はその堅苦しい世界が、私の生きる世界。私が愛する世界よ』
グリゼフが口元に微笑をたたえながら言った。それは彼の本心からの言葉だった。
『しかし、するとどうするつもりだ? ここに留まるも屈辱。仲間のもとに戻るのも屈辱。残された手段は自決しかないがね』
『それも致し方あるまい』
グリゼフは大きく口を開けると舌を突き出した。舌を噛み切って自害するつもりだ。たしかに、ロングソードも短剣も取り上げられている現状では、自決の手段はそれ以外にない。
柳也の知る西洋騎士社会には、キリスト教という宗教的概念がその社会思想の根底にあった。キリスト教において自決は大罪だ。だから柳也の世界における騎士達は、どんなに無様であっても、どんなに生き恥をさらすことになっても、自害という逃げ道はなく、死に物狂いで生き延びねばならなかった。
だがこの有限世界にはキリスト教がない。だから騎士の世界にも、柳也達の世界における武士のように、自決を認める寛容なところがある。
『介錯を頼む』
自分が舌を噛み切ったら、ひと思いに首を両断してほしい……真摯な眼差しで頼むグリゼフに、柳也は静かに首を横に振った。
その直後、それまで自分の信ずる騎士社会を侮辱されてなお、眦を釣り上げすらしなかったグリゼフが、怒りの形相で柳也を睨んだ。
『そんな顔で睨んだって、俺の考えは変わらないよ』
『騎士の最期の願いも汲み取ってはくれぬのか……っ!』
『弟子…っていっても、俺は不肖の弟子でね。できることなら誰一人、俺の目の前で死んでほしくはないと考えている、大の甘ちゃんなんだよ』
口調こそ軽薄だったが、柳也の眼差しは真剣だった。
その視線を真っ向から正視して、グリゼフもまたこの少年の言葉が本心からくるものなのだと悟る。だがそれゆえに、グリゼフには騎士の弟子とは思えぬ柳也の発言が、許せなかった。
柳也が始めに宣言したように、グリゼフは捕虜として拘束を受けていなかった。
四肢の自由を奪われるどころか、細いロープすら使われず、ほとんど自由の身といって良い彼が、怒りの感情とともに柳也に拳を叩き込むのは造作もないことだった。
不意にやってきた怒りの攻撃。だが柳也の反応速度と身体能力をもってすれば、突然の攻撃も回避は困難なことではない。
しかし柳也は飛んできた鉄拳を避けることはおろか防ごうとすらせず、無抵抗のまま、受け止めた。
少年の顔面に鍛えられた騎士の一撃が炸裂し、もんどり打ったその身体が床を転がる。
ベッドから起き上がったグリゼフは、一気に部屋の端まで駆け寄ると、愛用のロングソードを掴み、鞘から引き抜いた。
振り返りざまに必殺の刺突を繰り出した時、柳也はもう立ち上がっていた。
『ちぇえいッ!』
裂帛の気合が唇から漏れ、柳也の喉元を狙う。
だが柳也は、腰に佩いた同田貫にも手を伸ばすことなく、周囲無抵抗のままであり続けた。
『ッ……!』
迫るグリゼフの表情が、驚愕に強張る。
突き出された両刃の直剣の切っ先は、柳也の喉元から数センチ手前で、静止していた。
しばしの沈黙。
見つめあう二人の剣士。
やがて沈黙を破り、柳也の言葉が口火を切った。
『…信じていたぜ』
『……』
『あんた、虜囚の身でも誇り高い騎士だからな。無抵抗の相手を殺すような真似はしないって、信じていたよ』
『クソッ……』
グリゼフは吐き捨てるように憤りを口にした後、剣の切っ先を床に向けた。
すると柳也が崩れるようにへなへなと床にへたり込む。その足腰は僅かに震えていた。
目ざとく柳也の震えを見出したグリゼフが、唖然とした表情を浮かべる。
柳也は、泣き笑いのような表情をグリゼフに向けた。
『お前……』
『は、はは…いくら信じていたっていっても、目の先まで切っ先を向けられて、恐くない奴なんていねぇよ。……はああぁぁ…恐かったぁ……』
『……奇妙な男だな、お前は』
グリゼフは奇妙なものをみるような眼差しを柳也に向けた。
『師のために命を張るほど肝が据わっているかと思えば、とんでもない甘えごとを口にする。そうかと思えば突然の夜襲に対しても冷静に対処し、今は恐怖に震え、怯えている』
『いやはや、リリアナ・ヨゴウの弟子とあろう者が面目ない次第』
柳也は自嘲気味に笑いながら言った。
『情けない弟子を抱えることになって、師もいつも嘆息していたよ。……ついでにもう一つ、情けないことを言っていいか?』
『ん?』
『俺はあんたの命を奪うことなく、気を失ったあんたを介抱してやった。つまり俺は、あんたの命の恩人ってわけだ』
『……私が頼んだわけではないが、確かにその通りだ』
『俺はその恩を、あんたに着せようと思う』
『どうするつもりだ?』
グリゼフの問いかけに、柳也は快活に笑って答えた。
『とりあえず、空腹も収まったことだし……食後の散歩にでも行こうか。あんた達の宿場辺りまで』
◇
――同日、昼。
首都ラキオスに暖簾を掲げる安宿の四人部屋は、いちばん値の張る部屋であっても、現代世界のスイートルームのようにいくつもの部屋に分かれてはいない。
まして旅の武芸者を装う七人が泊まる部屋が高級であるはずもなく、一部屋しかない四人部屋では、セニコフらがそれぞれ思い思いに時間を潰していた。ある者は次の戦いに備えて頼みの武具の手入れをし、ある者は床に就きながら剣の柄を握って手の内を練る。
そしてセニコフは座禅を組み、瞑想に浸ることで次なる戦に備えていた。三十歳で剣士として最も充実した時期にあるセニコフだが、いまだ禅を組んだだけで無念無想の境地に辿り着けるようになってはいない。セニコフが半眼に見える世界から離れて考えるのは、次にリリアナと対決する時にどのような攻めを繰り出すか、ただその一念のみだった。
奇策を用いるといっても最終的にトドメを刺すのは、ガストン先生の教えを受けた自分達の剣でなければならない。その時、おそらくリリアナは手負いの身であろうが、なんといっても相手はラキオスの剣術指南役に取り上げられるほどの達人だ。油断できる相手ではない。
それに死の直前にあってはかの剣豪も、恥も外聞も忘れて、死に物狂いで挑みかかってくるやもしれない。生死の境から繰り出される攻撃、死線を超えての一撃は、侮ってかかれるものではないだろう。
――慎重を期し、かつ万全の体勢を整えた上で挑むのは当然として、死を目前にした剣豪の抵抗をどう退けるか…。
また、例のリリアナの弟子を名乗る男のこともある。先回の襲撃の際も、あの男の登場によって包囲の輪が乱れ、結果的に千載一遇の好機を逃がしてしまった。あの少年剣士への対策も忘れてはならないだろう。リリアナが手負いの身であったとしても、あの小僧が健在ではその苦労も水泡と帰してしまうのだから。
思索にふけるセニコフだったが、禅を組むその感覚は研ぎ澄まされていた。
彼は背後で動いた気配の一つに気が付いて、振り向いた。
『モーリーン、どこに行くのだ?』
立ち上がった五つ年下の剣士に、セニコフは怪訝な顔で問うた。
投げかけた言葉の語気が強くなるのもやむをえまい。すでに彼らは、昨夜、グリゼフという同志を失っている。一団のリーダー格を務めているセニコフの立場としては、もうこれ以上、仲間の勝手な外出を許すわけにはいかなかった。
『大した用ではありません。ちょっと厠へ』
モーリーンは部屋のドアを指差して言った。
安宿の四人部屋に個室のトイレは備え付けられていない。用を足す場合には宿の共用トイレを使うことになる。
モーリーンはロングソードを腰に佩いたまま部屋を出て行った。
剣術においては常在戦場を第一の教えとしていたガストン・シュピーゲイルの門下生は、たとえ行き先が宿泊している部屋から十メートルと離れていない場所にあるトイレといえど、気を抜いて剣を手放すような真似はしない。
自分の家の中だから、大勢の人がいる場所だからと安心しきって、丸腰のまま凶刃に倒れた騎士の数は、現代世界も有限世界もそう大差はない。
仲間の用足す度に、いちいち気を回していては身が保たないと思う者も多いだろうが、セニコフ達にとってはそうした日常の行動すら、戦場の中での動作と思わねばならなかった。
モーリーンがちゃんと武器を携帯したまま出て行ったのを確認すると、セニコフは再び瞑想に戻った。
思索の世界へと浸ること十数秒、不意に、鋭敏に研ぎ澄まされた感覚が、また背後での気配の変化を捉える。
歩いただけで軋む安宿の廊下を、最小の音で踏み締めるその足取りがひとつ。宿の店員ではない。店員の足音は、うるさすぎるほどではないにしろ、もっとどたどたとしている。廊下を歩く足音の主は、明らかに兵法者だった。
――はて、モーリーンにしては早すぎるが……?
足音は、運びも軽く、セニコフ達のいる部屋へと近付いてくる。
足音の主の目的地がこの部屋であることは間違いない。
セニコフは半眼から瞠目すると座禅を解き、側らに置いたロングソードの柄頭に手をかけた。
体ごと振り返ってドアの方を見ると、すでに他の二人も臨戦態勢を整えている。
ルーガーなどは、いつドアが開いて不逞の輩が入室してきても、先制の一撃を見舞える位置に移動していた。
――この場所がリリアナの手の者に感づかれたか…?
最初にセニコフの頭をよぎったのはそんな疑念だった。
優れた兵法者は同時に優れた戦術家としての側面を持っている場合が少なくない。
もし、自分がリリアナの立場だったとして、先にこちらの居場所を知ったとしたら、相手が万全の態勢を整える前に少人数による急襲、奇襲作戦を立案・実行しているだろう。
上兵は謀を伐つ。この世界に孫子の「兵法」はないが、敵の策謀を事前に察知し、敵が行動を起こす前に未然に防ぐ手立てを講ずるのは、どんな戦においても有効な一打となりうる。
緊張の一瞬が訪れ、過ぎ去っていった。
『……なんだ、シンか』
ドアが開き、姿を見せたのは、シンだった。
デイルがほっと胸を撫で下ろし、構えを解く。
それを合図にセニコフとルーガーもロングソードの柄頭から指を離す。
すでにこうした剣呑なやり取りも慣れたものなのか、部屋に帰るなりいきなり向けられた殺気にも動じる様子なく、シンは平然と部屋の框を踏んだ。
『ただいま帰りました。遅くなってしまい、申し訳ありません』
『…カイルはどうした?』
数時間前、情報収集に出かけてくると言って二つ年上の先輩を連れ出した少年は、当の先輩を連れ立っていなかった。
怪訝な顔をするルーガーに、シンは淡々とした口調で――まるであらかじめ用意しておいた台詞を読み上げるかのような口調で、言葉を紡いだ。
『カイル先輩は仕事に行きましたよ』
『仕事?』
『はい』
シンは小さく頷くと、にっこりと笑みを浮かべた。
その笑顔は歳相応な爽やかさと可愛げを宿した邪気のない……いや、かえってそれが作られた笑顔の向こうに隠された邪悪な企みの存在を示唆する、不気味な笑みだった。
シンは言った。彼の声は狭い四人部屋の隅々にまで届き、不気味な、そして凶悪な響きを抱いて、三人の耳膜を震えさせた。
『人攫いの、お仕事です』
『誰だ――――――ッ!?』
突如として背後に出現した、強烈な殺気と圧倒的な人の気配。狭い四人部屋に一気に何十人もの人間が押しかけたかのような圧迫感が襲い、それを振り払うようにセニコフはロングソードを背後に向かって横薙ぎに振るった。刃長七十センチの直剣が石の壁を傷つけるも、壁以外の手応えはない。だが背後から感じる殺気、そして圧迫感は、消えることなくセニコフの身体を拘束し続けた。
『こ、これは……』
同様の奇妙な感覚を、デイルやルーガーも味わっているらしい。
狼狽しながら彼らもロングソードを背後に向けて振るい続けているが、気配は一向に消失する兆しを見せぬようだ。
セニコフはシンを睨んだ。
この少年が部屋に入室した途端、この奇妙な感覚に襲われたのだ。ということは、自分達の身に降りかかるこの奇妙な感覚の原因が、シンにあると考えるのは当然の流れだった。
『シン、貴様、何をした? それにカイルが人攫いをしていうというのは、どういう意味だ!?』
怒鳴るセニコフの形相は阿修羅のように凄まじい。
だがシンは余裕の表情で注がれた怒りの眼差しを受け止め、平然と答えた。
『何をした……と、言われましても、別に僕は何もしていませんよ。……少なくとも、僕は、ね』
言い終えたシンが、パチン、と指を鳴らす。
すると部屋の中に充満していた人の気配が一瞬にして掻き消え、気が付くと三人の騎士達は、それぞれ背後を取られていた。
『貴様らは……!』
背後を取られた己の不覚を恥じるよりも、胸に湧き上がったのは純粋な驚きだった。
いつの間にその位置に就いたのか、突如として背後に出現したのは、黒装束の男達。隠密行動と軽敏な動きを優先したデザインの鎖帷子に身を包み、防御のためというよりは顔を隠すためだろう、薄い金属の仮面を嵌めている。仮面の奥底から覗く凶悪な眼の輝きは、これまでセニコフが見てきたどの人間とも違った種類の光を宿している。冷徹なその眼差しは狡猾な野生動物を思わせた。
黒装束の男達にはそれぞれ手にひと振の剣を手にしていた。統一されたデザインの片刃の直剣。刀身自体は脅威というほどの長さではないが、一見しただけでそうと分かる頑丈な造り込みは、切れ味よりも耐久性を重視した製作者の哲学が窺える。
刃を持った武器にとって、切れ味は所詮、二の次にすぎない。どんな鈍刀であろうと、達人が扱えばそれは一流の業物と化す。それならば、むしろ武器に必要なのは達人の過酷な使用に耐えうる頑健さだ。
余計な装飾や強度を下げる軽量化は必要ない。
切れ味を増すための反りもなく、ただ鈍い鉛色の光沢をたたえる直剣が、セニコフ達の延髄に、ぴったりと切っ先を当てていた。
『シン! お前…この者達はいったい……!?』
延髄にぴたりと冷たい刃の感触を覚えながら、眦を釣り上げたデイルが朋輩であるはずの少年を糾弾する。
しかし若き騎士の耳が、後輩の少年の唇から紡がれる言葉を、次に聞き取ることはなかった。
デイルの叫びが部屋に響くと同時に、彼の首元で一条の閃光が走り、直後、白い床を赤く汚しながら、ゴトリ、と平均サイズをやや下回るメロン大の“もの”が転がり落ちた。
セニコフの視線と、デイルの視線が絡み合う。
かっ、と見開かれた双眸は決定的瞬間の直前に浮かべていた怒りと困惑の入り乱れた形相そのままで、その無惨な最期は、武者修行中にセニコフが遭遇したどの死よりも、迅速に、かつ残酷に下された。
デイルは、自分を殺したのがいったい何者なのか、知る暇すら与えられずに、胴体と首を、切断された。
『デイル――――――ッ!』
ルーガーの判断は素早く、その行動は的確だった。
彼は狭い部屋ではむしろ扱いにくいロングソードを捨て、自決用の短剣を手に取った。
彼は一歩前に出、その場に屈んで、延髄への刺突を回避する。
立ち上がると同時に反転した彼は、背後から迫る黒装束に立ち向かおうとして…………だが、彼が適切な行動を取れたのは、そこまでだった。
ルーガーが背後から迫る別な気配に気付いた時、彼はすでにシンのロングソードによって背中を深々と斬りつけられていた。
背後への警戒は戦いの最中にあっては特に怠ってはならない事のひとつだが、逆上のあまりルーガーはそんな初歩の原則を忘れてしまっていた。
『ぐっ…シン……お、のれぇ……』
『グレイヴさん、あなたにはずいぶんお世話になりました。お礼に、僕自身の手で葬って差し上げます』
振り向きざまに放った力なき一撃を余裕で避けると、シンはルーガーに何度も斬りかかった。
鎖骨を砕き、肩の骨を砕き、頭蓋を砕いてなお、シンは剣を振り続けた。
やがてルーガーの身体からは一気に力が抜け落ち、まるで壊れた人形のように、彼は床に倒れ込んだ。
『ぐ、グレイヴ……』
『……』
物言わぬ骸を茫然と見下ろすセニコフの表情に、怒りの色はない。
怒りの感情はとうに失せ、今、彼の胸中にあるのは驚愕と困惑だけだった。
『なぜだ、シン? なぜ、グレイヴとデイルを手にかけた? この者達はいったい何者だ?』
『…まだ、分からないんですか、セニコフさん』
シンは侮蔑も露わに言った。
『当時わずか九歳の、それもまだ道場の門弟に下って三ヶ月でしかない子どもが、八年もの間、あなた達と行動を供にした理由が、まさか本当にたった三ヶ月しか師事していない師匠の仇討ちのためだと思っていたんですか?』
『シン…お前は……』
『僕の生まれがガルガリンというのは、嘘です』
『なに?』
『僕の本当の故郷はサモドア……バーンライト王国の首都です』
『バーンライトだと…まさかお前達は……!』
何か思い当たるところがあったのか、セニコフは驚愕に両目を見開いた。
『ええ。お察しの通りです』
シンは口元に酷薄な笑みを浮かべると、セニコフを包囲する黒装束を紹介するように、舞台役者のような仕草で朗々と語った。
『僕らはバーンライト王国の情報部……中でも、とりわけ優秀な人材が揃っている、スパイ・セクションの人間です』
『聞いたことがあるぞ。大陸各国の中でも、弱小の部類に入るバーンライトが、今までラキオスに攻め落とされなかった理由……帝国の軍事支援と、ダーツィ大公国からの外人部隊の派遣。そして、小国ながら帝国で訓練を受けた優秀な諜報機関の存在』
『僕と、僕の家族は、代々バーンライト王に仕える密偵の家系でした。僕も幼い頃からスパイ工作員として特別な訓練を受けさせられ、七歳の時には簡単な任務に就くようになっていました。
……八年前、まだクェド・ギン大統領が就任する以前のマロリガンの対スパイ網は脆弱でした。当時のマロリガンでは僕らの祖国を始め、ラキオスやサルドバルトといった様々な国のスパイが、国内を自由に出歩いていました。僕と、僕の家族はそんな時代のマロリガン・ガルガリンでスパイ工作を行っていました。身分を偽って、父と母はガルガリン領主……ウェイガン卿の下で働きながら、本国へ情報を送り続けていたんです。僕はいずれ首都マロリガンでのスパイ任務が与えられるはずで、その際の隠れ蓑として“騎士”の称号を得るべく、八年前、僕はガストン先生の下に弟子入りしたんです。……ですが、騎士になるどころか三ヶ月もしないうちに、ガストン先生は亡くなりました。あのリリアナ・ヨゴウの手によってね』
シンは、それがすべての始まりでしたと語った。
『当時、リリアナはすでに諸国回遊の武者修行を終えた後はラキオスの剣術指南役になることが、秘密裏にではありましたけど決定していました。八年前の時点でリリアナの剣名はバーンライトの諜報部の間でもかなり有名な話で、そのリリアナがラキオスの剣術指南役に迎え入れられれば、祖国にとって大きな脅威になることは明白でした。僕らとしては、この祖国の脅威を、なんとしても排除しなければならなかった』
『だから…だから我々とともに着いてきたというのか? ガストン先生の仇討ちに燃える我らに…』
『いくら強いとはいっても、リリアナ一人を暗殺するなんて僕らの組織の規模を考えれば簡単なことです。ですが、ただ暗殺するのでは、犯人として真っ先に疑われるのは僕らです。リリアナという脅威を排除しても、ラキオスとの関係をこれ以上悪化させては意味がない。リリアナを殺してもおかしくはない、格好の犯人役が必要だったんですよ。……ただ、最初の計算と違って、セニコフさん達があまりにも貧弱なものだから、結局、組織を動かすことになってしまいましたけどね』
『貴様……!』
『そう怒らないでくださいよ。僕を含め、セニコフさん達が弱いのは事実じゃないですか。
安心してください。ガストン先生の仇は、ちゃんと僕らが取ってみせますよ。僕はともかくとして、僕の仲間はそれはもう強いですから。……師の仇討ちに燃えてやってきた武芸者七人のうち五人は討ち死に、生き延びた若い二人が師と仲間達の無念を晴らす……綺麗なシナリオでしょう?』
『……こんな所で我らを斬れば、大変な事になるぞ』
『安心してください。騒ぎになるのは、ずっと後のことです』
『なぜ、そう言い切れる?』
『宿の店員っていうのは、客の言うことを素直に聞いてくれるほど良い店員だと思いません? その点、この宿の皆さんは優秀ですよ。静かにしてくださいって言って剣を振るったら、すぐに静かになってくれました』
『き、貴様、民を……何の罪もない民を斬ったというのか!?』
怒りの形相で剣を振るおうとするセニコフ。
だが背後を取られ、四対一というこの状況下で、彼にどれほどの抵抗ができただろう。
振り回す剣は背後の暗殺者に髪の毛ほどの傷もつけられず、虚しく空を切るばかり。
延髄に刃を突き刺され、また二方向からそれぞれ片刃の直剣で斬りつけられ、そして同胞の血と脂で鈍く光る剣を眉間に受けたセニコフは、壮絶な絶叫を上げることしかできなかった。
『も、モーリーン! 逃げろーーッ!!』
ドアの向こう側から聞こえる、ドタドタという足音。
厠に行って難を逃れた若き騎士は、今の話を余すところなく耳にしたはずだ。
遠ざかる足音を耳にしながら、セニコフは最後の気力を奮って踏み止まる。
部屋の外で聞こえた足音を追おうとする四人の動きを、セニコフは果敢に斬りかかって制す。
獣のように咆哮をあげながら振るうその太刀筋は、到底、洗練されているとは言い難い。
しかし、必死の気迫に満ちたその斬撃を前に、シン達は思うように動けなかった。
ロバート・セニコフ、最期の攻撃である。
『囲め、囲め!』
黒装束の一人が吠えた。
その声を合図に別な二人の黒装束がさっとセニコフの背後に回る。
眉間を叩き割られたセニコフは、もはや双眸に流れ込む血流に視力を失って、背後の二人に気付けない。
セニコフの背中に、二条の冷たい刃が突き込まれた。
セニコフの手から、ぽろり、とロングソードが落ちる。
『しゃいいっ!!』
裂帛の気合とともに正面から振り下ろした黒装束の一撃が、容赦なく彼の右足を斬割した。
『とどめは僕が!』
その叫びとともにロングソードを浴びせたのは、シンだ。
もはや動かぬセニコフに、袈裟懸けの一刀を浴びせ、返す刃で胴を薙ぐその連環は、騎士のなしえる攻撃ではなかった。
<あとがき>
ラキオス王「…ふっ、やはりここまでやってこられたのは貴様だけだったか?」
柳也「父の仇、いまここで討たせてもらうぜ!」
タハ乱暴「ないない。そんな設定ないから」
柳也「…はい! 永遠のアセリアAnother Episode09、お読みいただきありがとうございました!」
北斗「今回の話は赤穂浪士か…タハ乱暴にしてはなかなか良いチョイスをしたな。すると次回は炭火小屋が登場するのか……」
タハ乱暴「ちゃうちゃう。そんな話でもないから」
北斗「まぁ、冗談はさておいて、今回は原作にない完全オリジナルのストーリーか。タハ乱暴(自称)お得意の復讐ネタだな」
柳也「師の仇討ちのために集った七人の硬骨漢達。しかしその中には裏切り者が……!」
タハ乱暴「煽ってる、煽ってる」
北斗「しかしタハ乱暴の書いた話にしては、今回はコンパクトにまとめられたな。以前、同じ復讐ネタで俺と獅狼の戦いを書いた時は凄まじい文量になっていたが」
タハ乱暴「俺も日々成長しているんだよ…。それにHeroes of Heart外伝の戦闘は、基本スタンスが少年漫画だから。フ○ーザ戦、すっごく長かっただろ?」
柳也「まぁなぁ…噛ませ犬にしか見えなかったベジ○タ王子や、超進化を遂げたピッ○ロ、二十倍の界○拳に元○玉、んで超サ○ヤ人化と…イベント盛りだくさんだった」
北斗「今回の話ではそうした大量のイベントをワード文書三八ページに詰め込んだわけだが?」
タハ乱暴「いや、もう、ホント大変だったんだよ? Heroes of Heartはページ数をあまり気にせず書いているんだけど、アセリアは三十ページ±二十パーセント誤差をルールに書いているから。…今回二ページオーバーしたわけだけど。これについては要反省」
柳也「た、タハ乱暴にしては珍しくまともなことを……」
北斗「認めたくないがこの男は基本、真面目な人間だぞ? ただ、その真面目さを向ける方向が間違っているだけだ」
タハ乱暴「これこれ子ども達よ、たまにはお父さんのことを褒めてくれないかな?」
北斗「褒める? 貴様に褒めるべき箇所があるのか?」
タハ乱暴「ひ、ひどいなぁ……(泣)」
オリジナルストーリー。
美姫 「七人のサムラ……ではなくて騎士ね」
だな。しかし、一人と言うか二人の裏切り者が。
美姫 「ああ、一体どうなるの!?」
非常に気になる所で次回へと。
美姫 「次回が待ち遠しいわね」
うんうん。次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」