高町家の食卓　その１「超機神大戦編」

このＳＳは二次創作書きにやさしい（都合の良い）ＡｌｌＥｎｄルートを使用しています。
それでも構わないという寛容な方々は、どうかごゆるりとお楽しみください。

穏やかな日差しの降り注ぐ休日の昼下がり。

高町家のその庭で１人の――海鳴の対女性最終兵器やら、異性吸引磁石などの異名（主の母命名）
を持つ青年・高町恭也は真剣な眼差しで『得物』を構え〝それ〟と対峙していた。

「むぅ……」

双眸を細め、注意深くその〝相手〟を見つめうめく。

些細な予兆も見逃すことのないように全神経を絞り、けれど一部分に気をとられ過ぎないように
再び全体像へと視線を戻す。

かつて父・士郎から教わった『観の目』──相手を１つの塊として捉え次の動きを予測する技法――や
美沙斗との決戦で会得した極限の集中力を駆使し、隙を探る。

（まだだ……まだどこかに……）

『闘えば勝つ』
御神の剣の基本にして究極の理念。恭也は今一度その言葉を噛み締める。
研ぎ澄まされていた緊張はやがて彼の疲労を呼び起こし、額に浮かぶ一筋の汗が頬をつたって、
大地へと流れ落ちる。

と――。

（！　見えたっ！！）

一瞬の閃き。

神の啓示にも似た唐突さで突出した感覚が彼を急かす。その感覚に培ってきた技量のすべてを委ね――

――２年物の盆栽『藤乃』の小枝をハサミで切り落としたのだった……。

高町家の食卓

その1　「超機神大戦編」

Written byダイ

「ふう……」

緊張していた身体の節々を鳴らし、汗を袖で拭いながら中腰になっていた体勢を起こし伸びをする。

「『藤乃』はこれで良し。『松風』も剪定は終わっているし、『美咲』と『三笠』はと……ふむ。上出来だな」

庭の棚に並べられている他の盆栽たちにも目を配り、恭也はその出来栄えに満足気に頷く。

「ふむ……今日のところはこんなものか。早く仕上がったし、前に買ってきた本でも読むとしよう」

いつもの無表情をわずかに緩ませ、盆栽たちに踵を返し家の中へと入って行った。
手入れ中、ずっと自分を見つめている視線があったことに一抹の不安を感じながら……。
・
・
・
夕食時。

「──と、言うワケで恭也。アンタ何か新しい趣味見つけなさい」

美沙斗の加わったいつも以上に賑やかな高町家の風景。
その１コマが始まって数分後。
昼に恭也が感じていた視線の主である母・高町桃子の第一声がそれであった。

一方、その指名された恭也のほうといえば―─。

「…………ふむ、たしか今夜の当番はレンだったな。やはり中華料理はレンが上手だな。美味いぞ」

野生動物もびっくりな危険予知と神速状態並みの判断力でスルーした──。

「お、お師匠、そんな急に改まって……それにこんな簡単な料理で褒めんでください。照れるやないですか～」

「謙遜するな。俺も均一に細切りはできるが、あまり火の扱いが得意ではないのでな。
レンのように手際も良くはない」

「うんうん。火力って結構調節するの大変だもんね～」

恭也の言に便乗したのは妹兼愚弟子の美由希である。すると恭也は絶対零度の視線を妹に向け──

「………美由希。貴様の場合は火力とか技術とか以前の問題だ。
先月もどうすれば市販のカレールーと普通の材料を使って『紫』色のカレーが出来るのか……
この兄に教えてもらいたいな？　無論『死食』などは断固として拒否するが」

ばっさりと一刀両断した。

「うう……うちの兄は今日も私をいぢめる……っていうかみんな否定してよ～！」

「黙れ。このバイオハザード・シェフ。
お前の作ったあの限りなく毒に近いカレー……いや、あれをカレーと呼ぶのもインド人と
イギリス人に対するひどい冒涜だ。料理と呼ぶのもおこがましい。世の料理人に対する挑戦状としか
思えん。おまけにあの日ご近所中で異臭騒ぎにまでなったぞ。心優しい兄は証拠隠滅のために裏庭に
埋めておいたからな。今頃お前が育てていた花も枯れているのではないか？」

「うわ～ん！！　恭ちゃんの外道～～～！！」

完膚なきまでに叩き伏せられ、目の幅涙を滝のごとく流す美由希を一瞥し、再び箸を動かす。

と、ついでに今夜の鍛錬について美沙斗と少し打ち合わせをしようと思い視線を向けると。

「ううっ……所詮私なんて養母なんですよ……ぐすっ……こんなに愛してるのに恭也にとっては
赤の他人に過ぎないんですよ……美沙斗さんの言うことは聞くのに私はムシなんてさ～れ～る～！
……やっぱり血が繋がってないとダメなんですよ～る～る～！」

「い、いえ。桃子さん、あの、恭也はやさしい子ですから、そんなことは……」

明らかに嘘泣きのそれと分かる桃子に泣きつかれた美沙斗が困った笑みを浮かべ、あやしていた。
そんな母の姿に恭也は心底疲れたようなため息をつく。

「何よ、その態度。これでも桃子さんは真面目に心配してるんですからね！！」

あっさりと美沙斗から離れ、恭也をにらむ。

といっても童顔な彼女がいくら怒ってても可愛らしいだけでカケラも恐くは無い。
──無論、そんなことを言えば調子に乗るのは目に見えていたので胸の内にとどめておく。

「……何の脈絡も無く話を振られても訳が解らんぞ。
それに高町母よ。箸で人を指すのはマナー違反ではないのか？」

「おかーさん、ぎょうぎ悪いです……」

高町家末っ子なのはすらも突っ込む。

わざとらしく視線を逸らしそそくさと箸を降ろす桃子。「ごほん、ごほん」と咳払いしつつ。

「そ、それはともかく。
成人間近の男盛りだって言うのに、ほんっっっとにあんたって子は枯れてばかりで……よよよよよ……」

何やら演技に熱がこもったようだ。

無視して食事を続ける恭也。

「そんなに男前でお店に来る女性客を次々撃墜してるっていうのに……休日の予定は浮いた話も無く
一日中鍛錬か盆栽の世話だなんて、あんたどこのジイ様よ？　あんたぐらいの歳なら彼女の１人や
２人作ってむしろ毎日取っ替え引っ換えしてて、そりゃもう毎晩お盛んでしょうに……」

「どこで育て方を間違えたのかしら？」と大仰に溜息をつく。

「待てい。高町母」

下世話な、特に食事中に言うべきではない発言に思わず突っ込む。
ましてや自分は美形などではないとしっかり訂正しておいた。

そしてまた高町家全員（恭也以外）がため息をつく──かといって引き下がる桃子ではなく。

「甘い、甘いのよ恭也！」

「……人を指差すのもマナー違反だと思うぞ。高町母よ」

その後、ますますヒート・アップする桃子と、マイペースに食事を続ける恭也の何とも言えない
珍妙な母子の食事風景が続いたのは言うまでも無かった。

ただ、何度か桃子の攻撃（口撃？）をのらりくらりとかわし続けていた恭也も
「桃子さんが赤の他人の養母だから、言うことを聞いてくれないのね～！」と泣いて訴えられ、

「おかーさんをいじめちゃダメです！！」
とそれを真にウケ、頬を膨らませたなのはとのコンボの前に白旗を挙げたのであった。

桃子の右手に液体の入った小さな容器が見えたのは気のせいではないだろう。

──高町桃子３●歳・未亡人。今なお女の武器を磨き、最大限に利用している強者であった。

翌日の昼下がり。

翠屋から少し離れた所に店を構える品質が良いことで人気なゲームショップは週末ということも手伝って
子供から大人まで大いに人で賑わっていた。

そんな店内の一角で、大量のソフトと睨めっこしてる恭也の姿があった。

「どれにすればいいのかさっぱり分からん」

いつも以上の無表情で情けないせりふを吐きつつ、そして自分がここにいる経緯を思い出していた。
・
・
・
『なにか良い案は無いだろうか？』

小一時間前の教室で恭也は数少ない同性の親友にそう問いかけた。

「新しい趣味？　格闘技系とかはダメなんだろ。

うーん…………ならゲームはどうだ？　あれならいつでも出来るし、鍛錬にも差し支えないだろ？」

「なるほど、それもそうだな……だが、肝心のソフトをどこで買えばいいものか……」

「商店街に確かあったぞ。帰りに寄ってみたらどうだ？」

「恩に着る、赤星」

「気にするな」

的確なアドバイスを貰い、男の友情にやや感謝しつつ来てみればそこにあるのは大量のソフト。
無論ゲームをあまりしない恭也にとってどれを選べばいいのか分かるはずも無い。
趣味を見つける、と言うだけなのに多大な苦労と脱力感を感じ、思わずため息をつく。

と。

「どうだい恭也くん。何か良いものはあったかい？」

「──加藤さん」

気さくに話しかけてきたのは若い男性──店長の加藤である。
以前、なのはの誕生日プレゼントを買いに来たとき色々とお世話になった人でもある。

「いえ、その、なんというか……」

「その様子じゃまだ決められないみたいだね。ま、じっくり考えて買ってってよ。
急いで買って損した、じゃ後味悪いよ～」

「ありがとうございます……」

「いいのいいの。じゃ、ごゆっくり～♪」

そういって踵を返す加藤の後姿にそっと苦笑を漏らし、再びソフト群へと向き直る。

（とはいっても流石にこのままでは営業の邪魔だな。何も買わずに突っ立ってるだけなのだから……）

投げ遣りになりそうな気分を奮い立たせ、並べられているソフトを再び眺める恭也。

唐突だが、本人は十人並みかそれ以下と主張する恭也の容貌は──ハッキリ言ってかなり美形である。

そんな彼がこの上なく真剣な表情で品物を見ている場合、どうなるか？

答えはいたって簡単である。

『ねえねえ！　あのヒト、すっごくカッコよくない？！』

『ホントだ！　あの服って風校のヤツだよね？　あんな人いたんだ～♪』

『確か翠屋でウェイターやってるの見たことあるよ。店長の息子さんなんだって！』

『な、なんで高町先輩がこんなところにいるの～？！　うわ～ん！　カッコよすぎだよ～！！』

『ぽ～…………』

反応は人それぞれだが店内にいた女性客と女性店員の大半がソフトを手に取り悩む姿や、
首をかしげる子供っぽい仕草などその一挙一動に目を奪われ、上気した表情で見つめていた。

が、当の本人と言えば。

（さっきから妙に視線を感じるような……何故だ。格好が変なのか？　いや制服で買いに来てる人も
ちゃんと居る。別段変わったところは無いはずだ。この無表情か？　威圧してしまってるのか？）

大変、唐変木な答えを導き出していた。

殺意や憎悪などの念に恐ろしく鋭敏な彼のセンサーも、こと好意となるとこれっぽっちも反応を示さない。
ちなみに彼が家族とデパートやスーパー等に買い物を行ってもこの光景はよく見られる。人の視線には
非常に敏感な恭也だが、そのすべてがフィアッセや桃子または美沙斗などに向いているものだと信じて疑わない。

──それじゃ道行く女性の視線は誰に向いとるんでしょか？　おししょ？

妹的存在兼台所番にこう質問された彼は、その後一日中その答えに悩んだと言う……。

恭也に想いを寄せる女性陣の苦労が分かる大変微笑ましいエピソードである。

これは余談だが、その時『このままだと海鳴中の女の子がライバルになるかもね……』と姉的存在である
歌姫が冗談めかして漏らした台詞に、高町家の女性陣たちは以前家族で見たテレビの内容を思い出し、
そろって乾いた笑いをあげたという。

ウェディングドレスを着た女性が、大挙して１人の新郎を追い掛け回すという内容の映画を……。

（……いやいや今はソフトだ。とは言ってもこのままではとても決められないな……
何か取っ掛かりというか、御神の剣に負けは無いが何か光明の一つでも──）

追い詰められたというか、煮詰まったというか。
ともかく堂々巡りになりつつある思考を何とかしようとして──。

「…………恭也？」

自分の名を呼ばれ、我に返った恭也が振り向くと。

「忍……？」

ショップの袋を小脇に抱え、どこか不思議そうにこちらを見ているクラスメイトの姿があった。
・
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・
「……ははぁ、なるほどね～。だからココに来たんだ？」

「ああ……といってもここまで多いとは、な。正直どれに手をつけていいものか決めかねている状態だ」

互いにココに居る理由を話し終え──ちなみに忍は常連さんらしい──再び、恭也は視線を巡らせた。

先程までの苦労を思い出し、そっと苦笑する。実にさまざまなソフトが並ぶ頑丈そうな棚は
どこか屈強なレスラーを想わせた。多少の好みがある者なら手のつけようもあるだろうが……。

そんな恭也の姿を見ていた忍が、ふと何かを思いついたかのように笑顔を見せる。

某女子寮のセクハラ大魔王と銀髪の覇王を髣髴とさせる小悪魔な笑みを……。

奇しくも注意がソフトに向いてる恭也は気付かない。

「あ。じゃあこれなんてどうかな？　わたしもハマってるかなりおススメなヤツだよ♪」

そういって彼女は棚からとあるゲームを引き抜き、差し出す。

それを受け取り、裏の紹介文に目を通す恭也。

「ほう…………む？
忍。これはどうやら続編の話のようだが……前回のヤツをやらなくても大丈夫なのか？」

「大丈夫、大丈夫♪　話を深く楽しみたいならやったほうがいいけれど、これから始めてもちゃんと楽しめるよ。
だから気にしなくてもへーき。それとね……」

何やらぼそぼそと恭也に耳打ちする。
その内容に少し不思議そうな表情を恭也は浮かべたが、特に問題は無いと判断し了承する。

「分かった……ならばこれにするとしよう。忍、恩に着る。加藤さん、これをお願いします」

レジで代金を支払い、袋に入った商品を受け取った恭也は「それでは」と２人に声をかけ店を後にした。

「感想聞かせてねー♪」

「毎度ー……って、あれをすすめるとは中々通だね。月村の嬢ちゃん」

「えへへ。絶対『あれ』気に入ると思いますよ～♪」

心底楽しそうに加藤と談笑する忍であった。

その夜。

「ふむ……寝るまでもう少し時間があることだし、早速だがやってみるとしよう」

日課である夜の鍛錬を早めに切り上げ風呂も済ましあとは寝るだけとやることもなくなった時、
今日買って来たばかりのゲームソフトの存在を恭也は思い出し、準備を始める。

漆黒色のハードを自室のテレビに繋ぎ、電源を入れる。
ふと、このハード『借りたい』と頼んだときの晶の表情を思い出す。

「何というか……『何言ってるんだろう。この人？』って感じの表情だったな。あれは……」

色々と複雑なものはあるが、ともあれ今はショップの袋からソフトを取り出した。
ゲームＣＤをハードにセットし、何故かその前に正座して待つこと数秒……。

「ほう」

メーカーのロゴマークが現れ音楽と共にキャラクターたちが所狭しと大暴れしている映像に感嘆の声を漏らす。

「よし、やるとしよう……たしか、『一番上』の『男』から始めてと言っていたな」

コントローラを握り締め、昼間忍に言われた通りに主人公を選びゲームをスタートさせた。

＜続く＞

ダイ（以下ダ）『投稿の後書きという形では皆さん始めまして。ダイと申します』
カズナ（以下カ）「皆さん始めまして。ダイ・オリジナルキャラＮｏ．０１【羽森カズナ】（男）と申します」

ダ『と言うわけで初投稿が前後編という、ちょっとやってしまった感のあるこの作品。
お楽しみ頂ければ幸いです。今回はテーマでいうなら【鈍感な恭也】と【桃子との掛け合い】を
目指して書きましたが、いかがだったでしょう？　ただ前後編となってしまったのは──』

カ「スマートな文章が書けない作者の力不足が原因ですね」
ダ『うあ。ズバっと言ったよこの子は……かわいい顔（誰がどー見ても美少女顔な容貌と名前）
してる癖に……といっても真実ですから仕方ありません。反省です』

カ「あと恭也くんが買ったソフト……これって丸解りだしさ、もーちょっと謎のバラ撒き
も工夫したほうが良いんじゃないかな？（ごそごそ……ちゃきん♪）」
ダ『まあそれはおいおい……ってなわけで前編を読んでくれた皆様♪
必ず近い内に後編も出しますのでお楽しみにして下さい。感想などもお願いします
…………ってさっきからなにやってんの、カズナ？』

カ「ん？『後書きの締め括りといえばコレよ、少年』って金色の王様と他のＳＳ書きさんの人たちが」
ダ『え゛？！　ま、まさか！？』

カ「神夜真月流薙式！　大天魔っ！　伏・滅・ざああああああんっ！！
ダ『あんぎゃゃゃゃゃゃゃっっ！！』
カ「というわけで皆さん。広い心であの人を見守ってあげてください（ぺこり）」

……えっと、こういった後書きは既に決定事項なのか？
美姫　「さあ～、どうなのかしらね～」
やけに楽しそうだな。
美姫　「えっ！？　そんな事ないない」
さて、恭也が買ったソフトだが、一体、何だろう？
美姫　「格ゲーのパワードハーツとかかしら？」
うーん、全く分からない……。
美姫　「つまり、大人しく次回を待てって事ね」
なる程！
美姫　「それでは、次回を心待ちにしてます」
お待ちしております～。

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