『真一郎、御神の剣士となる』

第二十九話 「真一郎、襲撃を受ける」

 

薫たちとの鍛錬を終え、真一郎は帰路についていた。

いづみは、今日はバイトがあるので先に帰っていた。

本日は、真一郎が好きな時代小説の大家、池奈巳正三の人気シリーズでTVドラマにもなった『鬼狩り重三』の新刊の発売日だったので、本屋に寄り道していた。

その時、妙な気配を感じ、真一郎は咄嗟に戦闘態勢に入った。

いつの間にか囲まれていたようである。

『高町恭也』の感知能力を持つ真一郎に、ここまで気付かれずに囲める集団……。

よほどのプロの組織なのかと思えば、囲んでいる者たちの目の焦点が合っていなかった。

どうやら催眠状態のようである。

「……ヤク中か!?」

集団のうちの一人が襲い掛かってきたので、咄嗟に取り出した木刀を使って投げ飛ばした。

 

小太刀二刀御神流 萌木割り

 

肘を極めつつ投げる際に相手の肘を自分の武器を挟み込み、捻りを加える事で一気に肘の関節を破壊する技である。

今回は、木刀をしようしたので『萌木割り』になったが、これを刃のついている武器で行うと相手の腕を切断する『枝葉落とし』となる。

しかし、その男は何事もなかったかの様に立ち上がった。

肘の関節を砕いたのだ…。間違いなく悶絶するほどの苦痛を味わうはずなのに……。

「痛覚がないのか……いや、そもそも自意識がないんだ……。ここまで強力な催眠状態にするなんて……」

次々と襲い掛かってくる者たちに迎撃を続ける。

彼らの動きは、自意識がないのに連携が取れている。

どうやら、何者かに完全にコントロールされている様である。

「チッ……何が起こっているんだ……?」

 

 ★☆★

 

「それは本当、ノエル!?」

月村邸に来ていたさくらは、ノエルから齎された情報を聞き、危機感を覚えた。

「はい。今頃、真一郎様が襲撃されているとのことです……」

「……さくら…。真一郎君を助けないと…」

「ええ。急ぎましょう…。忍…神咲先輩にも連絡を取ってくれる!」

「うん。ノエルもお願いね!」

「畏まりました。忍お嬢様!」

さくらとノエルは月村邸を飛び出した。

「先輩……。無事でいてください…」

 

 ★☆★

 

「ハアッハアッハアッ……くそ…これじゃキリがない…」

普通の人間なら、昏倒するような一撃を食らわせているが、元より自意識がなく、眠っている状態の相手には通用せず、倒しても倒しても起き上がってくる……。

もはや、殺すしか相手を無力化することは出来ないようである。

だが……いくら、いつかは人を殺す覚悟をしているとはいえ、ただ操られているだけの何の罪も無い人々を殺すことは流石に出来ない。

真一郎は、完全に追い詰められていた。

「真一郎君!」

そこに、忍から連絡を貰った薫が駆けつけてきた。

「薫さん!?…どうしてここに?」

「忍ちゃんから連絡があった……。この人たちは、『夜の一族』に操られているようじゃ!」

そう、真一郎を刺客を差し向けてきたのは、一部の『夜の一族』であった。

「先輩!」

「真一郎様」

そこに、さくらとノエルが駆けつけた。

 

 

 

氷村遊の事件の後、『夜の一族』の一部の者が、真一郎を危険視し始めたのだ。

真一郎は、身体能力が『夜の一族』と互角であり、更に、超越者に与えられた「あらゆる洗脳を無効化する」能力により、『夜の一族』の切り札ともいえる『血の洗礼』が通用しない。

人間との共存を望んでいるとはいえ、氷村遊同様、人間を見下し、信用していない一族の者はそれなりに存在する。

彼のように、己を過大評価するような馬鹿者ではないが、それ故に、真一郎を危険視しているのだ。

『血の洗礼』が通用しないということは、真一郎を縛れないので、彼の口から『夜の一族』の存在が世間に公表される危険性があると考えたのだ。

如何に自分達が人間を越える力を持っていても、所詮、数の暴力や近代兵器には敵わない。

災いの目は早めに摘むに限る。

そんな手前勝手な理論で、独断で真一郎を処断しようと企んだのだ。

 

 

 

薫やさくら達が駆けたことで状況が一変した。

操られ人たちが、その場で倒れたのである。

流石に、政府機関とも密接な繋がりがある『神咲家』の当主や、一族でも発言力の強い『綺堂』を敵に回す事の愚は避けたのであろう。

「……助かりました…薫さん…」

「礼なら忍ちゃんに言ってくれ。あの子がウチの携帯に連絡してくれたから、直ぐに駆けつけられたんじゃから……」

「……先輩には、一族の者が何度もご迷惑をお掛けして……」

さくらは、恥じ入りながら謝罪した。

忍の誘拐、フレーゲルの襲撃、そして氷村の事件。

更に今回の襲撃……。

大切な存在である真一郎に迷惑ばかり掛ける一族に、申し訳ない気持ちで一杯になる。

そんなさくらの頭を真一郎は優しく撫でた。

「さくらが気にすることじゃないよ……。それに、こうして駆けつけてくれたんだから……」

「……先輩…」

見詰め合う真一郎とさくら……。

「こほん!」

いい雰囲気になり掛けた時、薫の咳払いがそれを吹き飛ばした。

嫉妬の混じったジト目で2人を睨んでいる薫に、少々、バツが悪くなったようである。

「とりあえず…一族の誰が、先輩を狙っているのか特定できていませんでしたが……今回の事で予測が付きます」

今回の操身術が、さくらに犯人を絞ることが出来たのだ。

いかに『血の洗礼』で縛っても、その本能までは支配できない。

氷村の事件のとき、氷村に操られた者たちは、真一郎の放つ殺気で萎縮されたのに対し、今回の操られた人たちには通用しなかった。

つまり、これは『血の洗礼』とは違う方法で操ったのだ。

これは、『夜の一族』の能力ではなく、本格的な呪術によるものである。

ならば……犯人は限られる。

「とりあえず…エリザ姉さんなら……犯人を突き止められると思いますので……」

さくらの実姉であると共に叔母でもあるエリザベート・ドロワーテ・フォン・エッシェンシュタイン……。

彼女は、さくらと忍が一族の長老であるヴィクターと同じくらい頼りにする同族である。

さっそく真一郎の携帯を借り、エリザと連絡を取るさくら。

「はい…はい…。それじゃあ、お願いします……。とりあえず姉さんの方で犯人を捕らえるとの事ですので…安心して下さい」

電話を切り、真一郎に返しながらさくらは言った。

「そっか……。じゃあ何れそのエリザさんにお礼をしなくちゃな…」

「いえ、今回先輩にご迷惑をお掛けしたのはこちら側ですから……」

「まあ、こういうのは気持ちの問題……ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

真一郎が突然叫び、走り出した。

その先には……買ったばかりの『鬼狩り重三』の新刊が…踏みつけられ無惨にもボロボロになって落ちていた。

「……まだ読んでなかったのに……」

真一郎が買った時には既に在庫は無くなっており……再注文には数日かかる。

「……せ…先輩…!?」

「…其処まで落ち込まんでも…」

真一郎はガックリと肩を落とし……その背中には哀愁が漂っており、そんな真一郎に何とも言えなくなる2人だった。

 

〈第二十九話 了〉

 


後書き

久しぶりに、こちらを更新します。

恭也「最近、ご無沙汰だったな……」

まあ、『時空を越えた黄金の闘士』の他にも、別サイトで結構投稿しているからな……。

恭也「色々と手を広げすぎだ!」

さて今回、再び『夜の一族』の問題が起こりました。

恭也「最近、いづみさんや薫さんがメインで、さくらさんの影が薄かったが……」

次回は、久しぶりにさくらがメインになります。

では、これからも私の作品にお付き合い下さい。

恭也「お願いします。君は小宇宙を…」

そのネタは此方では駄目!

恭也「チッ!」




夜の一族の襲撃、か。
美姫 「どうにか退けたけれど、これで終わりって感じでもなさそうね」
夜の一族が絡んでくるからか、さくらがメインになるみたいだし。
美姫 「どんな形で進んでいくのか楽しみです」
次回も待ってます。



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