『真一郎、御神の剣士となる』

第二十五話 「真一郎、パーティーをする」

 

「ありガとウ。しんいチロう、いヅみ、そして……小鳥サン」

弓華は火影と共に、海鳴を去っていった。

真一郎たちは、空港の奥へと入っていく弓華の姿が見えなくなるまで見送っていた。

 

 ★☆★

 

弓華との対決の翌日。

真一郎は八束神社に皆を集めた。

弓華が、皆に謝りたいと言ったからだ。

事情聴取が終わり、とりあえず戻ってきた弓華は真一郎に頼んできたのだ。

自分の正体。

自分の罪。

自分のこれから。

弓華は皆に、説明するつもりのようであった。

 

 

弓華から語られた彼女の素性を聞き、皆、呆然としていた。

特に、親しくなっていた小鳥はショックを隠しきれなかった。

そして、罪を償うため、保護観察の身分になり海鳴を離れることを知らされると、小鳥は涙ながらにその場を後にした。

「小鳥!?」

「唯子。小鳥は俺に任せておけ」

小鳥を追いかけようとした唯子を真一郎が止めた。

「いづみ。後を頼む」

真一郎は、いづみに後を任せ、小鳥を追いかけた。

 

 

小鳥の居場所は直ぐに分かった。

もともと小鳥の足はそれほど速くないし、気配を絶つなどという芸当など小鳥には逆立ちしても出来ない。

「……小鳥…」

「……真くん……。弓華……いなくなっちゃうの?」

「ああ…」

「どうして……別に此処でいいんじゃないの?わざわざ他の場所じゃなくても……弓華は……逃げないよ」

「それは俺も同感だ。……しかし、誠意を見せなくちゃならないんだ」

「誠意?」

「弓華が所属していた組織は、末端とはいえそれほど危険な組織なんだ。弓華を知っている俺達ならともかく、上層部の連中に信用させるには、もっと厳重で、もっと信頼の置ける場所で観察されなくちゃならないんだ。そうしなければ……弓華はいつまで経っても疑われたままなんだ」

弓華は美沙斗とは違う。

美沙斗は、フリーだったのでそれほど問題ではなかった。

しかし、弓華は末端とはいえ、あの『龍』の構成員。

『龍』は、それほどまで危険視される組織なのである。

「弓華が一刻も早く自由の身になるために……大手を振って日の当たる人生を歩めるように……俺たちが少し我慢しなけりゃならないんじゃないのか?」

「でも、寂しいよ……。もう弓華に逢えなくなるのは……」

小鳥の台詞にきょとんとなる真一郎。

「………どうしたの、真くん?」

「なあ、小鳥……別に今生の別れになるわけじゃないぞ……。早ければ来年にも弓華はここに戻ってこれるぞ…」

「……え!?」

「御剣家が後見になるんだからな。上手くいけば年明けにも戻ってこれるさ……遅くても俺たちが三年になる頃には戻ってこれるよ」

「そ……そうなの?」

どうやら、小鳥は二度と弓華に逢えないと思い込んでいたようであった。

 

 ★☆★

 

「師匠ぉ〜〜〜!」

元気を取り戻した小鳥を伴い、皆の所に帰ろうとした真一郎を少年?が呼び止めた。

「……何だ……晶か」

城島晶。

高町家に居候している少女である。

外見は殆ど格好いい男の子である。

口調も完全に男言葉であり、殆どの人間が彼女を女とは思わないであろう。

真一郎とは逆である。

彼女は、真一郎を師と仰いでいた。

と、いっても別に真一郎が彼女に何かを教えているわけではない。

彼女は真一郎から御神流を教わりたかったようではあるが……。

本来の歴史なら、彼女は『高町恭也』に対して師匠と呼んでいたのだが、この次元では真一郎のことをそう呼んでいた。

恭也と美由希の為に、命がけで美沙斗を説得した姿を見て、彼女は真一郎に尊敬の念を抱いた。

それまでは、両親の不仲ゆえに荒れていたのだが、今ではすっかり素直になり、高町家の料理番をしている。

彼女は真一郎に御神流を教えて欲しいと頼んだのだが、真一郎はそれを断っていた。

『高町恭也』とは違い、真一郎は御神流の暗部をきっちりと説明した。

御神流は決して、憧れるような存在ではないことを……。

基本的に真っ直ぐな性格である晶とは対極の流派であることを……。

真一郎は、彼女に明心館空手を勧めた。

館長である巻島十蔵に晶を紹介し、巻島も晶の素質を気に入り、本部道場で稽古をつけていた。

真一郎と美沙斗の説得により、すっぱりと御神流を諦めた晶であるが、それでも真一郎のことを師匠と呼び、慕っていた。

ちなみに、この次元の恭也に対しては『恭也君』である。

本来の歴史の『高町恭也』と違い、きちんとした大人である美沙斗と、『高町恭也』の気持ちをきっちりと理解している真一郎は、晶の御神流に対する幻想を捨てさせることが出来たのだ。

 

「丁度良かった。晶、お前明後日の日曜日……暇か?」

「……道場の稽古は午前中ですから、午後からは暇ですけど……」

「実はな、今度の日曜日にパーティーをしようと思ってな……お前も料理を作るの手伝ってくれないか?」

「パーティーですか?」

「ああ。友人の壮行会をな……」

新たな人生を歩む弓華の為に、パーティーを開こう考えていた。

前回の試験明けの打ち上げのように翠屋で行おうかとも考えてもいた。まだまだ真一郎の預金には余裕もあることだし……。

しかし、小鳥のことを考え、今度は手料理によるパーティーにすることにしたのだ。

会場は、一番広い忍の家で行うことにしていた。

既に、忍には了承を得ている。

小鳥の性格から、今の弓華に何かしてやりたいと思うだろうから……。

「後、美沙斗さんと恭也君と美由希ちゃんも呼んどいてくれ」

美沙斗には既に火影から詳細は説明されている。

何とか、弓華を受け入れてもらいたいが……真一郎自身も説得するつもりである。

恭也と美由希に関しては、忍と対面させるつもりであった。

本来の歴史よりも早い出会い。

友達以上恋人未満の関係だった恭也と忍がこの時代に出会えばどうなるのか……真一郎自身も分からなかったが、悪いことにはならないだろう。

 

 ★☆★

 

そんな訳で壮行会当日。

料理担当の真一郎、小鳥、いづみ、ななか、晶は一足先に月村邸に集合となった。

晶は恭也たちと共に美沙斗の車でやってきた。

「じゃあ、ノエルさんが厨房まで案内するから」

「はい。分かりました。師匠」

「この間も会ったよな。この子は野々村小鳥。俺の幼馴染みで料理の先生だ」

小鳥を晶に紹介する。

「へぇ〜〜〜。師匠の先生……」

「はうぅ〜〜〜」

晶は改めて小鳥を見た。

高町家の料理番である晶であるが、まだ今の段階では真一郎の方が料理が上手かった。

偶に高町家に厄介になるときには、真一郎が作るときがあったからだ。

その真一郎の先生だということで、晶は小鳥に興味を持ったようである。

「それじゃあ、ご指導よろしくお願いします」

「こ……こちらこそ…よ…よろしく…」

すっかり緊張している小鳥であった。

「小鳥……小学生相手に緊張するなよ…」

ノエルに案内されながら自己紹介する二人を見て苦笑する。

「真一郎君」

そのとき、美沙斗が声を掛けてきた。

「……美沙斗さん。すいません……弓華のこと…勝手に決めてしまって…」

『龍』にかかわる弓華のことを美沙斗に何も話さなかったことを詫びる。

「そのことはいいよ。確かにその子は『龍』の末端組織の人間のようだが……全ての『龍』の人間が復讐の対象じゃないよ……今はね…。それに……真一郎君のやることに文句をつけるつもりはないよ。そんなことしたら……罰が当たってしまうからね」

今の美沙斗は復讐に凝り固まってはいなかった。

『龍』自体は憎い。

しかし、その構成員全てを憎むつもりはもはやなかった。

まして、『龍』から抜けようとしている者に対してまでは……。

「ありがとうございます。美沙斗さん」

真一郎は深々と頭を下げた。

 

 ★☆★

 

パーティーは順調に進んでいた。

弓華は火影に伴われ月村邸に現れ、小鳥たちが作った料理を楽しんでいた。

場所の提供をした忍は、真一郎に紹介された高町兄妹と気が合い、笑顔を見せていた。

そんな忍を見て、真一郎は微笑んでいた。

『高町恭也』の記憶にある忍は、幼少時は友達がおらず、寂しく過ごしていたが、この次元ではそうはならないだろう。

パーティーが終わり、弓華は小鳥に挨拶していた。

「小鳥サン。帰っテ来たラ、マた料理を教えテクだサイ」

「うん。弓華。待っているよ」

二人は微笑みあった。

二人の友情はこれからも続くだろう。

真一郎と唯子は自分達以外の親友を作った小鳥を見て、とても喜んでいた。

 

〈第二十五話 了〉

 


後書き

 

恭也「何故、今になって晶が出てくるんだ?」

いや、それは……その…

恭也「忘れていたな……今の今まで…」

ギクッ!

そ……そんなことは……ない……よ…

恭也「何故ドモる…それに今回の話……これが野々村さんメインの話か?」

…………

恭也「………」

では、これからも私の作品にお付き合いください

恭也「お願いします……って、逃げるな!!」




晶が出てきて、恭也と忍が知り合って。
美姫 「弓華の説明とか色々あったわね、今回は」
でも、やっぱり恭也と忍の出会いが大きいかもな。歴史が一番変わったんじゃないかと。
美姫 「そうよね。これによってどんな変化が起こるのかしらね」
次はどんな話になるのか。
美姫 「楽しみにしてますね」



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