『真一郎、御神の剣士となる』

第二十二話 「真一郎、○○○と再会!?する」

 

真一郎は、海を見渡せる位置にある墓……士郎の墓を参っていた。

「……士郎さん……俺は……貴方の息子さんの力を…上手く使えていますか?」

真一郎は、士郎が恭也の為に用意して、今は自分の愛刀となっている小太刀、『夢景』を手に、士郎に語りかけていた。

「桃子さんのシュークリームとは、比べものになりませんが……俺が作ったシュークリームです…」

自分の作ったシュークリームを墓前に捧げ、真一郎はその場を後にした。

 

墓地の隣にある草原で、鍛錬を始めた。

八束神社は、最近、いづみや薫と共に鍛錬する場になりつつあり、一人で……御神の秘伝に位置する鍛錬が出来なくなったので、場所をここに変えたのだ。

素振りを終え、体が温まってきたとき、真一郎は違和感を覚えた。

「何だ……この雰囲気……そして、この気配は!?」

真一郎が違和感を感じた方角に目を向けると……空間が歪んでいた。

「なっ!?」

歪んだ空間から、異形の獣が姿を現した。

どう見ても、この世界には存在しない……いや、SFで出てくる怪物のような生き物であった。

生き物は、どこか怯えているのか、真一郎を見て、直ぐに襲い掛かってきた。

真一郎は、紙一重でそれを躱わす。

その爪が、その牙が、真一郎に襲い掛かるが、真一郎はそれをやすやすと躱わしていた。

どうやら、それほど大した強さではないようであった……が、その生物の目が光ったと思ったら、閃光が真一郎に向かって発射された。

間一髪、それを躱わす。

光線は、真一郎の後ろにあった岩に当たる。

岩は、木っ端微塵になって砕けた。

「当たれば命はないな…」

そのとき、再び空間に歪みが生じた。

新手が来たかと思い、身構えた真一郎が見たものは……黒い服……ファンタジーで見る魔法使いなどが着るローブのような……を着て、長い黒髪を後ろに束ねた少年と、学校の制服……仁村知佳と同じ、私立聖祥女子の制服……を着て、栗色の髪をサイドテールに纏めていた少女が現れた。

その肩には、一匹の子狐が乗っていた。

「大丈夫ですか?」

少女が、真一郎に声を掛ける。

「どうやら、この次元の人を巻き込んでしましましたね…」

少年も、申し訳なさそうな顔で頭を下げる。

「君達は……!?」

真一郎には彼らの顔に見覚えがありすぎた。

否、『高町恭也』には……である。

高町なのはと、その恋人、クロノ・ハーヴェイ。そして、なのはの友達の久遠であった。

 

 ★☆★

 

高町家は、いつもの明るさがなりを潜めていた。

今日は、葬儀を行っていたからである。

高町家長男。高町恭也の葬儀である。

喪主を務める桃子は、泣くのを必死に堪え、葬儀に参列した客に挨拶していた。

様々な人が参列していた。

高町家にかつて居候していた城島晶、鳳蓮飛とその母、鳳小梅。

翠屋のチーフウェイトレスで、恭也と友達以上恋人未満の関係だった月村忍とメイドのノエル・K・エーアリヒカイト、忍の叔母である綺堂さくら。

中学からの親友、赤星勇吾。

高町家のホームドクターであるフィリス・矢沢とその姉、リスティ・槙原。

さざなみ寮のオーナー夫妻。槙原耕介と槙原愛。

明心館空手館長、巻島十蔵。

鹿児島から、神咲那美とその姉である神咲薫。

遠くイギリスから、亡き父、士郎の友人であるアルバート・クリステラ。

クリステラ・ソング・スクールの若き校長、フィアッセ・クリステラと教頭のイリア・ライソン、非常勤講師のアイリーン・ノア。

オペラ歌手SEENAこと、椎名ゆうひ。

恭也の幼馴染である、エリス・マクガーレン。

皆、泣いていた。

恭也の早すぎる死を悲しんでいた……。

 

恭也の葬儀から一月が過ぎた。

その悲しみが薄れたわけではないが、高町家にもようやく明るさが戻りつつあった。

桃子も美由希も美沙斗も、恭也の為にも……明るさを取り戻そうと決意したからである。

きっと恭也は、皆が笑っていることを望んでいるから……。

美沙斗は香港警防隊を辞め、翠屋を手伝っていた。

復讐が終わり、その復讐と引き換えに甥を失った。

美沙斗は戦いを捨て、美由希と共に生きていくことを選んだ。

忍も、翠屋で元気に働いていた。

告白することなく終わってしまった恋。

帰ってきたら、話がある……恭也はそう言って戦いの場に赴いた。

しかし、帰ってこなかった。

恭也が何を言いたかったのか、忍には分かっていた。

それだけで十分である。

自分は、これからの普通の人よりも遥かに永い一生を恭也への想いと共に生きる決心をした。

 

なのはは、クロノの部屋に入り浸っていた。

父・士郎が死んだときは、なのははまだ桃子のお腹の中にいた。

だから、知らなかった。

大切な家族が死がこれほど悲しいことだとは……。

親友、アリサ・ローウェルとの別離とはまた違う……この悲しみを……。

クロノはなのはを何度も何度も抱き締めた。

なのはが泣けば、その悲しみを癒そうと……。

学校が終わって、自宅に帰らず真っ直ぐクロノの家に来たなのはを今も抱き締めていた。

ミッドチルダから、この世界に来て一年。

なのはとの仲も順調に進み、幸せであった。

しかし……自分にも良くしてくれた恭也の死は、クロノにとってもショックであった。

自分となのはのことを複雑な顔をしながらも、認めてくれていた恭也。

いつか、あの人を『義兄』と呼ぶ日が来ると思っていたのに……。

「クロノ……」

なのはを抱き締めていたクロノに突然、話しかけてきたこの女性は……。

「母さん!?」

異世界『ミッドチルダ』の最高行政官であるクロノの母、リンディ・ハラオウンであった。

 

リンディの話はこうであった。

ミッドチルダにおいて、禁止されている生体魔法生物の造っていた男を捕らえたが、その彼が造った生物が別の次元の世界に放たれてしまったのだ。

「つまり、僕にその生物を殺せ……と?」

「違うわ。捕獲して欲しいの……」

「何故?そんな危険な生物を……」

「まだ、元に戻すことが可能だから……殺さずに捕らえて欲しいの…」

無理やり改造された生物であるが、再手術をすれぱ元に戻すことが出来る。

出来れば、殺さずにいてやりたい。

そんな優しさから、リンディは処分ではなく、捕獲を選んだのだ。

最高行政官としては甘すぎる判断だと、クロノは思ったが、それこそが母らしい……と思った。

かつて、ミッドの為にその命を捨てようとしたクロノを、記憶を封印されながらも、止めようとした母であるから……。

「クロノ君。私も行く…」

「なのは……」

「お願い。手伝わせて……。今は、何かをしていたいから…」

「なのはさんにもお願いします。時の災害『ヒドゥン』すら止めることが出来た貴方達二人なら…」

リンディからもそう言われ、クロノも了承した。

 

父・士郎、兄・恭也、親友・アリサの眠る墓地の隣の草原。

かつて、クロノと別れ、そして再会した場所。

そこで、未だにさざなみ寮に滞在している那美に付いてきた久遠と出会い、彼女も同行することになった。

「魔法生物が放たれた世界は、この世界の過去から分岐した世界……つまり、この世界の過去のパラレルワールドです」

リンディからこれから行く世界の説明を受け、クロノは『S2U』を、なのはは力が蘇った『レイジングハート』をかまえた。

「レイデン・イリカル・クロルフル……我、誓約を持って命ずるものなり…」

来ている服が法術着へと換装される。

平行世界への門が開かれる。

「行くよ、なのは。久遠」

「うん!」

「くぅん!!」

二人と一匹は、門に飛び込んだ。

 

 ★☆★

 

魔法生物は、クロノたちに攻撃を開始した。

目から発せられるビームをシールドで防ぐクロノ。

久遠が狐から人型、大人の姿に変化する。

 

『雷』!!

 

久遠が雷を放つが、それは魔法生物のシールドで防がれる。

「もう少し、強く出来ないか?」

「これ以上力を強めれば、あの生物を殺してしまうよ」

クロノの要請に、久遠は首を振る。

「厄介だな……あのシールドは物理攻撃以外は弾いてしまう。久遠の雷も霊力が宿っているから完全な物理攻撃じゃないから弾かれてしまう」

接近戦を挑むわけにはいかない。

久遠は接近戦も出来るが、それこそ力の加減が利かない。

間違いなく相手を殺してしまう。

「僕たちの拘束封印魔法は、弱らせてからじゃないと効果がないから……久遠の雷で弱らせようしたんだけど……」

「あの生物には物理攻撃は可能なんだな」

「えっ!?」

クロノはその場にいた真一郎に視線を向けた。

「まだいたんですか?早く此処から離れて下さい。危険です!」

「しかし、君達には対処が出来ないんだろう……ここは協力させてもらう」

真一郎の視線にひるむクロノ。

「で、何処を狙えばあのシールドって言う奴を消せるの?」

「……あっはい。あの額の飾りを攻撃すれば、しばらく力が仕えなくなる筈です…」

「わかった。俺があの飾りを攻撃して、シールドが消えたら、久遠は雷を打ってあの生物を弱らせる。その後、クロノとなのはちゃんはその拘束封印魔法とやらで、あの生物を抑えてくれ」

真一郎はそう言うと、『夢景』を抜き魔法生物と対峙した。

「……大丈夫かな、あの人……。……クロノ君…どうしたの?」

驚愕しているクロノになのはが訊ねる。

「あの人……なんで僕となのはの名前を知っているんだ…」

「あっ!?」

久遠のことは名前で呼んでいたので、知っていてもおかしくない。

しかし、クロノとなのはは真一郎の前で、お互いの名前を呼び合ってはいなかった。

なのに、何故真一郎が、二人の名前を知っているのか。

違う次元の……しかも過去の世界で……何故?

その間に真一郎は、魔法生物の額の飾りに攻撃を加えていた。

 

『虎切』

 

超射程の抜刀術で魔法生物の飾りにダメージを与えた。

シールドが消える。

「今だ久遠!!」

 

『雷』!!

 

真一郎の合図と共に久遠が雷を放つ。

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」

魔法生物が悲鳴を上げ、動きを止めた。

「いまだよ、クロノ君!」

「よし、行くよなのは!!」

クロノとなのはは呪文を唱え始めた。

「リリカル・マジカル……」

「レイデン・イリカル・クロルフル……我、誓約を持って命ずる者なり……封印!!

 

ピキンッ!!

 

魔法生物は、小さな宝石に封印された。

 

 ★☆★

 

「貴方は一体何者なんですか?何故、僕となのはの名を知っていたんですか?」

事が終わり、クロノが真一郎に問い詰めていた。

なのはも、不思議そうに真一郎を見ていた。

なのはは、真一郎の顔に見覚えがあった。

海鳴中央の体育教師、鷹城唯子と一緒によく翠屋に来るお客さんであることは思い出していた。

しかし、何故、この時代の彼が自分達の名前を知っているのか。

それに、彼が放った技は、間違いなく姉と亡き兄が使う剣術の技である。

それを何故、彼が使ったのか……。

久遠はじっと真一郎を見つめていた。

そして、驚いた顔になって叫んだ。

「きょうや!?」

クロノとなのはも驚いて久遠の方を見た。

「……きょうやの魂の匂いがする」

真一郎の能力。【『高町恭也』の事を誰にも知られない】によって、そのことは誰にも悟られない筈であった。

しかし、世界が違う久遠には効果がなかった。

この世界の久遠は、気付かないであろう。

しかし、『高町恭也』のことを知っているこの久遠は、能力の対象外であった。

真一郎の脳裏に超越者の声が届き、その事が説明された。

真一郎はため息を吐き、なのは達に自分の事を話し始めた。

「……お兄ちゃんの魂が……」

なのはは驚きながら真一郎の顔を見つめていた。

クロノも何故、真一郎が自分達のことを知っていたのか理解した。

『高町恭也』の記憶を持っているのなら、知っていて当然だろう。

「なのはちゃん……高町恭也さんの最後の言葉を君に伝えよう。『かーさん、なのは、フィアッセ、晶、月村、ノエル、那美さん、久遠、フィリス先生、赤星……そして、さざなみ寮の皆さん。帰れなくてすまない。美由希、美沙斗さん……後のことは頼む……』…これが、彼の最後の言葉だよ」

なのはの瞳から涙がこぼれた。

「お兄ちゃんの魂は……お兄ちゃんの心は……相川さんの中で……生きているんですね…」

例え、肉体が死滅しても……その魂と心が生きている。

なのはは、それだけでも嬉しかった。

確かに感じ取れる。

真一郎から、兄と同じ暖かさが。

真一郎も感じていた。

自らと一つになった『高町恭也』の魂が、妹との再会に高ぶっていることを……。

「お兄ちゃん!!」

「きょうや〜〜〜!!」

なのはと久遠は真一郎の胸に飛び込んだ。

真一郎は優しく二人を抱き締めた。

なのはと久遠は真一郎の中に居る恭也の魂のぬくもりを感じるかの様に、真一郎の胸に顔を埋めた。

クロノは、複雑そうにそれを見ていたが……。

 

 ★☆★

 

クロノとなのはは再び平行世界の門を開けた。

「じゃあ、相川さん……僕達は帰ります。協力ありがとうございました」

クロノが少し不機嫌な声で、そう挨拶した。

「お兄ちゃんの魂を……よろしくお願いします」

「くぅん!」

「さよなら、なのはちゃん、クロノ、久遠……そちらの皆によろしく」

三人は門に飛び込み、門が閉じた。

「………皆を…頼むよ…なのはちゃん…」

真一郎は、『高町恭也』の心を代弁しそう呟いた。

本来有り得ない筈の再会に、『高町恭也』の魂は一瞬、幸福だった。

 

〈第二十二話 了〉

 


後書き

 

恭也「………」

と、言うわけで未来から来たなのは…が、答えでした。何人予想出来たかな?

恭也「誰も予想出来るかボケェ〜〜〜!!」

ひでぶ!

恭也「まったく……」

何も『徹』を込めた一撃を放たなくても……

恭也「やかましい!奥義出さなかっただけましだと思え!!」

と……とにかく、皆さんわかってらっしゃると思いますが、今回登場したなのはは、あくまでも原作のなのはとクロノです。アニメの『リリカルなのは』のなのはとクロノとは違いますのであしからず……では、これからも私の作品にお付き合いください

恭也「お願いします」




予想できませんでした。
美姫 「いやー、流石に難しいわね、これ」
だよな。しかも、ただの未来じゃなくて本来辿るはずだった未来から来客とは。
美姫 「未来の恭也の想いが伝えられたのは良い事だったかもね」
確かにな。にしても、本当に予想外でした。
美姫 「本当よね〜」
さて、次回はどうなるんだろう。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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