『真一郎、御神の剣士となる』
第二十話 「真一郎、バスケの助っ人をする」
昼休み。
Ｆ組で唯子、小鳥の幼馴染みコンビと一緒に昼食を摂っていたら、みなみが真一郎に話しかけてきた。
「相川君」
「ん……何、岡本？」
「ちょっと話があるの。放課後、時間取れる？」
「……別に構わないけど……」
放課後。
「……男子バスケ部の助っ人？」
「……相川君にお願いしたいの」
みなみからの依頼は、真一郎の意表を突いた。
「……ウチのバスケ部……男女共にレベル高いと思っていたけど……何ゆえ素人同然の俺を助っ人に……？」
「男子の対戦相手は私達女子バスケ部だよ」
「……はい！？」
さっぱり意味が分からなかった。
風芽丘バスケ部は全国でも有名な強豪だが、成績で言えば女子の方が上である。
女子バスケ部は全国ベスト８。
それに引き換え、男子は県内ベスト４という成績である。
しかし、実力面で言えばそれほどの違いはなかった……。
何故なら、男子バスケは他の学校のチームも十分レベルが高いので、全国出場の難易度は男子の方が高いのだ。
別に男子が上手く、女子が下手……と、言っているわけではない。
近年、バスケットボールは、野球やサッカーに匹敵する人気スポーツになってきているのだ。
日本人の球技と言えば野球……というのはもはや過去の話である。
’９０年代からサッカーが野球に並ぶ人気スポーツとなりＪリーグというリーグ戦が誕生したのは周知の事実である。
それまでの日本はサッカー三流国と呼ばれ、プロのリーグ戦は無く、自力でのワールドカップ出場など不可能と言われていたくらいである。
しかし、今は違う。
日本のサッカーレベルは年々上がっていて、既に何度もワールドカップに出場を果たしている……優勝はまだだけど……。
その日本サッカーの活性化の要因の一つに、作者の偏見と言われるかも知れないが、集○社の週刊少年ジャ○プで連載された人気サッカー漫画『キャプ○ン翼』によるものであろう。
少年時代、この漫画を読んでサッカーの楽しさを知り、サッカーを始めた者が数多くいるだろう。
それと同じ様に、バスケットボールもまた、同雑誌人気バスケ漫画『スラム○ンク』の影響で、スポーツが得意な少年がたくさんバスケ部に入部したので、自然とレベルが上がったのだ。
話が脱線してきたので戻そう。
今回、男子と女子で試合をして、女子が勝てば、体育館の使用権利が女子優先になるとのことであった。
しかし、女子はそんなことを望んではいなかった。
バスケ部は、男子と女子が対立している……ということは全然なく、むしろ仲がいいのである。
にもかかわらず、何故、こんな話になってるか……原因は、それぞれの顧問の教師の仲たがいが原因であった。
先日、酒の席で大喧嘩をして、売り言葉、買い言葉でこうなってしまったのだ。
それで、今度の日曜日に男子と女子で試合をすることになったのだが……問題は男子のレギュラーはその日は別の学校との練習試合が組まれていたのだ。
そこで、二軍が試合をすることになってしまったのだ。
いくら、男女にそれほど実力差がないとはいえ、一軍と二軍では話が別である。
「だったら、試合の日をずらすか、女子も二軍を試合に出せばいいんじゃあ……」
「相川君の言うとおりなんだけど……」
酒の勢いで男子部の顧問が「二軍とはいえ、女子の一軍には負けん！」とほざいたらしい。
と、いうわけで男子は二軍、女子は一軍で勝負することになってしまったのだ。
「でも、岡本たちは別に体育館の使用の優先権なんか欲しくないんだろ……だったらわざと負けてやれば…」
「それも無理。確かにウチの部員を指導しているのはバスケ素人の顧問の先生じゃなく、コーチと主将だけど……いくら素人とはいえ、一応、体育教師だから、手抜きの試合をすれば一発でばれちゃう……」
そこで、みなみと互角に渡り合った真一郎に男子の助っ人をしてもらおうと考えたのだ。
「相川君には、その日だけバスケ部員になってもらって試合に出て欲しいんだ」
「おいおい、いくらなんでもそれは無茶だろう……第一、あれは遊びだろう。いくら岡本を俺が抑えても、他のメンバーが……」
「大丈夫。私と里香子さん……女子の主将を外して二軍のメンバーが入ることになってるから……」
女子バスケ部主将、高木里香子がなんとか説得して、譲歩させたのだ。
つまり、男子は全員、二軍。女子は、一軍三人に、後は二軍の構成になる。
「私が見た限り、相川君の身体能力は、十分ウチの一軍三人のテクニックに匹敵するから……」
みなみに懇願され、真一郎もしぶしぶだが、協力することにした。
★☆★
男子バスケ部の二軍メンバーは、己の実力を弁えているのか、真一郎の助っ人をあっさりと認めたようである。
『１５０㎝の１５番』として、全国でも有名なみなみが推薦したのだから、異を唱える気はないようであった。
ぶっつけ本番は、流石にきついので、簡単な練習をしたことで、真一郎の身体能力をその目で確認したことも要因であろう。
日曜日。
真一郎を加えた男子バスケ部二軍チーム対、女子バスケ部一、二軍混成チームの試合が開始された。
ジャンプボールは、真一郎と、身長１９０㎝を誇る女子バスケ部のセンター。
「あらあら、相川みたいな身長の低いのを使うなんて……ハンデのつもりかしら」
女子顧問があざ笑っていた。
男子顧問も、「何であいつを…」と呟いていた。
チーム編成には一切口出ししない……というのも、里香子の提案で承認されていたので、顧問は口出しできないのだ。
試合開始直後……顧問二人は驚愕した。
ジャンプボールは真一郎が取ったからである。
しかも、ジャンプした真一郎の足は同じくジャンプした女子センターの頭を越えていたのだ。
間違いなく２m以上ジャンプしていた。
女子メンバーもまた、唖然としてその動きが止まっていた。
そこに、既にそのことを承知していた男子メンバーが隙を突き、ゴールを決める。
皆、我に返りゲームが再開される。
みなみの予想したとおり、女子の一軍メンバーでさえ、真一郎の動きにはついていくのがやっとであった。
前半が終了したとき、点数は女子の方が６点リードしていたが……メンバー全員が既にへとへとになっていたのだ。
対する男子たちは、それほど息を切らせていない。
女子達は、真一郎の動きに翻弄され、前半で体力を使いきらされていたのだ。
『高町恭也』は、休みなしで八時間戦闘訓練が出来るほどの体力を持っている。
そして、その体力を真一郎は受け継いでいるので、まったく疲労していなかった。
「メンバーチェンジを……」
女子顧問が、主張したが、里香子が口を挟んだ。
「それでしたら、女子も全員二軍になりますよ…」
「なんでよ！！」
「参加する一軍メンバーは三人のみ……そう言った筈です。つまりそれ以外は交代要員も含めて全員二軍なんですよ……」
試合に出るのは一軍三人で後は二軍。つまり一軍は三人ぽっきりなのであった。
結局、メンバーはそのままで試合が再開された。
一軍とはいえ、疲れきった彼女達の動きはもはや見る影もなくなっていた。
試合は、男子の勝利に終わった。
★☆★
「納得いかないわ！」
女子顧問が抗議してきた。
「相川！あんた……バスケ部員じゃないでしょ……部外者を参加させて、勝ちを誇るというの……男子は！！」
顧問の屁理屈に真一郎は苦笑しながら、反論した。
「今日一日はバスケ部員ですよ先生。それに……自分達の私的なことで生徒を使ったあんたらに言われたくないな」
「何ですって！」
真一郎の台詞にかっとなった顧問は、真一郎に平手を放った。
真一郎は、その手を掴み後ろに捻り回した。
「…い…痛たたた……は……放しなさい！！」
真一郎はあっさりと解放した。
「教師に手を出すとはいい度胸ね！相川。アンタは停学よ！！」
その言葉に息を呑むみなみたち。
しかし……。
「取り消しなさい！」
瞳と薫に伴われた風芽丘学園の学園長が口を挟んできた。
「が……学園長…」
「両先生方……自分達の喧嘩に生徒達を使うとは何事ですか！恥を知りなさい！！」
学園長に叱責された顧問二人はうなだれた。
真一郎は、薫と瞳に相談し、二度とこんなことがないように手を打ったのだ。
それなりに人望のある瞳と薫が学園長に直訴して、バスケ部両顧問の横暴を訴えさせたのだ。
結局、両顧問は一週間の謹慎処分を受け、バスケ部顧問も辞めさせられた。
前記したとおり、選手の指導は専属のコーチと主将が行っていたので、顧問が代わることで悪影響になることはなかった。
「なあ、相川……バスケ部に正式に入部する気はないのか？」
真一郎の身体能力を知った男子バスケ部員は、真一郎を勧誘したが、当然真一郎は断固として断った。
「……ありがとう、相川君…」
みなみの礼を受け、にっこりと微笑むと真一郎は体育館を後にした。
★☆★
氷村遊は、不愉快だった。
転校してきて二週間。
今、自分の隷従する家畜たちはそれなりに集まった。
しかし、目をつけた女子数人を手に入れられていない。
三年の千堂瞳。
最も人気のある女子でクラスメートなのだが、この二週間、まともに口を利くことも出来なかった。
神咲薫。
容姿は及第点なのだが、あの神咲の退魔師なので除外している。
二年の鷹城唯子。
容姿もスタイルも抜群であり、ぜひコレクションに入れたかった。
野々村小鳥。
幼児体型だが、そこがまたそそられる。
御剣いづみ。
男みたいな女だが、磨けば光るダイヤモンドの原石のような女。
この三人も、自分が近づけば、目をあわせようともせず、無視して行ってしまう。
こいつらを加えられないのでは画竜点睛を欠く。
原因は恐らく、最近付きまとってくる、発育の遅れた異母妹のさくらが原因……いや、そのさくらの家畜のあの相川とか言う女みたいな顔の男。
自分の目をつけた極上の獲物である４人を手に入れるには、さくらとこの男が邪魔者なのだ。
遊は、自分の傀儡になった護身道部の女を利用し、邪魔者を排除し、あの４人を自分の傀儡にすべく動き出した。
〈第二十話 了〉
後書き。
恭也「何故、バスケ？」
とくに意味はない。なんとなく思いついたからなったから書いた。別にみなみがヒロインの話じゃないけどね。と…いうかみなみはヒロイン候補最下位だから、まず間違いなく出番は少ない。
恭也「岡本さん……気の毒に…」
まあ、次回はとうとうあの大ボケ吸血鬼と対立することになります。
恭也「いきなり最後に、妙な複線を張りやがったからな」
では、これからも私の作品にお付き合いください。
恭也「お願いします」
今回はみなみ絡みでバスケの話か～。
美姫 「流石に体力に物を言わせると、真一郎の方が有利になるわね」
それにしても、あんな顧問が居たら嫌どころじゃないよな。
美姫 「まあね。まあ、そこは無事に解決したみたいだし」
次回はどうも氷村が動き出すようだな。
美姫 「一体、どうなるかしらね」
次回も待ってます。