『真一郎、御神の剣士となる』

第十七話 「真一郎、退魔の苦しみを知る」

 

真一郎は、久しぶりに家族と夕食を食べていた。

もちろん、唯子も一緒にだ。

「う〜ん。やっぱり唯子ちゃんはいい娘だな。どうだね、家に嫁に来ないか?馬鹿息子には勿体無いが」

相川父の冗談に唯子は、頬を染めた。

「……あれ!?新鮮な反応だな……」

能天気に言う父を睨みつける真一郎。

もちろん、殺気は込めていないが………。

今の唯子に、そんなことを言ったら恥ずかしがるに決まっている。

ついこの間までなら、冗談で済んでいたが、今の唯子は真一郎に告白済みである。

最も、真一郎に思いを寄せている女性が、全員一度に告白してきたため、保留されているが……。

「あなた……それくらいにしてあげなさい!」

相川母が、父を嗜めた。

母は、唯子が真一郎に想いを寄せていることは当然気付いていた。

と、同時にもう1人の幼馴染みである小鳥の想いにも、気付いている。

しかし母は、真一郎の恋人になるのは唯子の可能性が高いと考えていたが……。

 

 

「じゃあ、ご馳走様でした!」

久しぶりの家族の団欒を邪魔するのは悪いと思ったのか、夕食の後、唯子は直ぐに帰っていった。

最も、ちゃっかり夕食だけは食べていったのが唯子らしいといえば、唯子らしい。

唯子が帰った後、真一郎は風呂に入ることにした。

そして、湯船につかりながら、先ほどのことを思い出していた。

 

 ★☆★

 

「来るんなら、来るとなんで連絡しないんだよ!!」

先ほどまで、不審者が侵入したのではないかと警戒していたのが、馬鹿らしくなっていた。

真一郎が、何故両親の気配がわからなかったのには理由がある。

それは、真一郎が両親の気配を知らなかったからである。

『高町恭也』の魂と一つになった後に、真一郎は一度も両親と顔を合わせていなかったから、両親の気配がどんなものかわからないのだ。

春休みは、美沙斗のことで手一杯だったので、実家には帰省しなかったから……。

「今日の朝9時には連絡したぞ!しかし、お前が出なかったのが悪い!!」

そう父が反論してきた。

「今日は、登校日だったんだから朝9時に電話を掛けてきても出られるか!と、いうか当日にかけるな!!」

「しかたあるまい。今日、思いついたんだから……」

「それに、オヤジと母さんには俺の携帯の番号を、ちゃんと教えた筈だが……」

「「あっ!」」

両親は、今気付いたという表情になった。

どうやら、忘れていたようだ。

 

 ★☆★

 

「……まったく…。」

思い出していたら、再び呆れが込み上げてきた。

風呂から出て、脱衣所で体を拭いていると、いきなり父が入ってきた。

「馬鹿息子、もう出たか、じゃあ次は、俺が……!?」

父は言葉を失った。

息子の体に付いているのは、どう見ても……刀傷であった。

「……もう、風呂は空いたから、ごゆっくり……」

そう言いながら、真一郎は父に何も訊くなという視線を送った。

殺気こそ纏っていなかったが、有無を言わさぬ迫力に一般人の父では対抗できるものではなかった。

 

 

「母さん……真一郎の奴……どうしたんだろうな…」

真一郎の体に無数に付いている刀傷、そして先ほどの自分が気圧された視線。

「……そうね……更にこんなに遅くにまた出掛けていったのにも気になるわ……」

真一郎は深夜の鍛錬に出かけていったので、父と母は2人でどこか変わってしまった息子のことを相談していた。

「明日、鷹城さんの家にお邪魔するときにさりげなく聞いてみましょう…」

「……そうだな…」

2人は、そう締めくくると出掛けた真一郎を待つことにした。

真一郎が帰宅してきたのは深夜1時を回っていた。

「なんだよ、まだ起きていたのか?」

もうとっくに寝たものと思っていた真一郎は、両親がまだ起きていたことに驚いていた。

「こんな時間まで、何処に行っていたんだ?」

「……寝る前の運動だよ……じゃあ、俺は汗を流してくるから、オヤジたちはもう寝ろよ…」

『高町恭也』スキル、真顔で嘘を吐くを発動。

しかも、今回はあながち嘘ではない。

剣の鍛錬も運動と言えば、運動であることに変わりはないからである。

 

早朝、朝4時。

物音がしたので、目を覚ました相川夫妻は真一郎が既に起きていて、着替えているのを見て驚いていた。

「こんな朝早くに、何処にいくんだ?」

「朝の運動……」

「お前って……そこまで運動好きだったっけ……」

「人は変わっていくものなのだよ……」

疑問に思ったが、睡魔には勝つことができず、二人は再び眠った。

 

 ★☆★

 

翌日、相川夫妻は鷹城家にお邪魔していた。

「いらっしゃい、相川さん。お久しぶりです」

唯子ママが、2人を出迎えた。

リビングで談笑していたら、唯子が部活から帰ってきた。

「ただいま〜。あれ、おじさんとおばさん……うちに来ていたんですか」

「よう、唯子ちゃん。お邪魔してるよ……」

「いえいえ、どうぞごゆっくり……じゃあ、唯子は着替えてきますのでまた後で……」

着替えて戻ってきたので、相川母が唯子に真一郎のことを訊ねた。

「ねえ、唯子ちゃん……真の体の傷について何か知ってる?」

相川母の質問に、唯子の唯子の表情が変わった。

「……真ちゃんの体に傷があるの?」

事情を知らない唯子ママも、唯子に訊ねた。

「………」

「……知っているようだね……教えてくれないか……。俺たちはあいつの親だ。知る権利くらいあると思うが……」

唯子はどう答えていいかわからなかった。

真一郎が達人レベルの剣術の使い手である……くらいは言っても大丈夫かも知れないが、体の傷については……まさか、真剣で斬り合いをしてついた傷だ等と、言えるはずもない。

「……唯子からは何も言えません……。真一郎に直接、訊いて下さい」

そう言うと唯子は、再び自室に戻っていった。

 

 

一方その頃。

八束神社では、いづみが真一郎から3日間、一緒に鍛錬できないことを告げられていた。

「……と、いうわけでな…今日の夕方からオヤジたちと一緒に実家に帰ることになったんだよ……」

両親が鷹城家から戻ってきたら、実家に戻るので真一郎も帰省することになったのだ。

「そういう理由じゃ仕方ないな……で、神咲先輩には伝えたのか?」

「ああ、昼過ぎに電話したよ……」

薫は、今日は退魔師としての仕事に出ていたので、八束神社には来ていなかった。

 

今日の鍛錬は、一度だけ手合わせをしてお開きとなった。

 

 ★☆★

 

相川父の運転する車で、神奈川の実家に向かっている途中、ある峠道で大渋滞に巻き込まれてしまった。

どうやら、警察か緊急で通行止めをかけているようであった。

「……さっき聞いてきたら、後一時間は通行止めをかけるらしい……」

戻ろうにも、後続の車がずらりと並んでいるため、Uターンすら出来ない状態なので、身動きがとれなかった。

「それにしても、いくら警察でも何の通達もなしに通行止めをかけるなんて……」

相川母が、少し憤慨していた。

「……ちょっと用足しに行ってくるよ…」

真一郎は、車から降りて用を足せそうなところを探しに行った。

 

《……痛いよ……》

「…えっ?」

真一郎の耳に、苦痛を訴える声が届いてきた。

いや、耳にではない。

真一郎の頭に直接響いてきているようだ。

どうやら、通行止めの現場の方からから聞こえてくるようだ……。

真一郎は、警察の目を盗みバリケードを越えて中に入っていった。

少し登っていった先に、見知った気配を感じた。

「この気配は……神咲先輩の気配!?」

カーブを曲がった先で、真一郎の目に入ってきたのは……たくさんの幼子の霊を『十六夜』で斬っている薫の姿であった。

「!?」

怯え、泣き叫ぶ幼子の霊を無表情で斬る薫。

真一郎の目には、薫が慟哭しながら剣を振るっているように見えていた。

「………神咲…先輩…」

全ての霊を斬り終えた薫は、しばらく身動ぎもせず立ち尽くしてていた。

「……薫!」

十六夜が実体化し、薫を気遣う。

「……大丈夫じゃよ……十六夜……」

「………大丈夫には見えませんよ……神咲先輩!」

突然声を掛けられハッとした薫は、声のする方に振り向いた。

そこには真一郎が立っていた。

「……あ……相川……くん……」

薫は怯えた表情になり、後ずさった。

「気配を絶たずに近づいたのに……声を掛けられるまで俺に気付かなかった。いつもの先輩じゃない…」

薫は恐怖を感じていた。

先ほどの幼子の霊を斬っている所を、よりにもよって真一郎に見られたのだ。

真一郎には霊力がある。

あの幼子の霊をはっきりと見えている筈……。

傍から見れば、子供を虐殺している様に見えるだろう。

「……こ……来ないで……」

真一郎に嫌われる。

薫はそう思い、恐怖に駆られているのだ。

足がもつれ尻餅をつく。

真一郎が傍に寄ってきたので、目を瞑り、耳を塞いだ。

そんな怯えきった薫を、真一郎は強く抱き締めた。

「!?」

「……神咲先輩…大丈夫ですか?」

真一郎の胸のぬくもりに包まれた薫は、真っ赤になっていた。

「……相川君…」

真一郎のぬくもりの暖かさを感じ取り、涙が溢れそうになったが、それを必死で堪える薫。

「……十六夜さん……何があったんですか?」

薫から事情を聞くのは、酷だと感じたので、十六夜に事情を訊ねた。

 

今回の依頼は、幼子の霊が事故を起こさせるとかで、幾人かの祓い師が除霊に失敗していたので、神咲の当主たる薫に依頼が回ってきた。

遠足に向かう車が転落し、約二十人の子供が亡くなったのだ。

その子達が、寂しさからか事故を起こしていた。

子供達は、震えながら固まっていた。

薫の姿を見て、泣いていたのだ。

あたりの石を掴んで、薫に向かって投げて……『来ないで』と泣きながら訴えていた。

自分が死んだことに気付いていない霊は、鎮魂に応じてくれない。

だから、薫は……全員を斬ったのだ……。

それしか、方法がなかったのだ。

 

「……神咲先輩…」

真一郎は、薫を抱く力を強めた。

「…うちの仕事は……痛くて、悲しい思いをして死んだ人を…もう一度、殺している……うちは、うちの仕事は…人殺しと同じ…」

真一郎は旅行のときに行った除霊の時の薫の辛そうな顔の理由を知った。

真一郎の脳裏に、『高町恭也』の記憶が浮かび上がってきた。

 

『……哀しいことが、少しでも無くなるように働くのが…うちらの仕事だ……」

 

この人は……いつも、こんな思いをしながら、仕事をこなしていたのか……。

自分の心の痛みに耐えながら……。

「……神咲先輩…とにかく休んで下さい……俺の実家でよければ……とりあえず此処を離れましょう……」

真一郎は薫の手を引き、警察の責任者のところに向かった。

そこで、薫は依頼完了の旨を伝え、パトカーの中で式服から、普段着に着替えた。

真一郎は、薫を連れて両親が待つ車に戻った。

相川父、相川母は、真一郎が女性を連れてきたことに驚いたが、薫の表情を見て何も言わず、薫を乗せ帰路についた。

 

〈第十七話 了〉

 


後書き

 

恭也「幼霊峠の話か……」

ゲームでの話と前作の恭也バージョンでは、後から説明を受けて慰めるというパターンだけど……

恭也「相川さんバージョンは、その場に居合わせたという話にしたわけか…」

次回は、真一郎の実家に薫が厄介になる話です。

恭也「また薫さんメインの話か……」

うん。

恭也「お前の薫さん贔屓も、度が過ぎないか?」

いいじゃない。私はやっぱり薫が一番好きなんだから……では、これからも私の作品にお付き合いください。

恭也「お願いします」




唯子メインで続くかと思ったけれど。
美姫 「唯子は結構すんなり帰っちゃったな」
で、まさか実家への帰郷と幽霊峠の事件が重なっているとは。
思わずおおう、と唸ってしまいましたよ。
美姫 「これで次回は薫メインのお話になりそうね」
だな。としても、真一郎の体の傷。両親はどうするんだろう。
美姫 「やっぱり尋ねるのかしら」
次回が気になります。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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