『真一郎、御神の剣士となる』
第六話 「真一郎、初任務に従事する」
「だぁ〜〜〜!また負けた!!」
「ふふ〜ん!真一郎君、ゲーム弱いね……」
忍の家に招かれた真一郎は、格闘ゲームで15戦全敗していた。
最初はぶっきらぼうだった忍も、真一郎の前では歳相応の態度になっていた。
「忍お嬢様、真一郎様。お茶が入りました」
ノエルが2人に声を掛けた。
「じゃあ、ゲームはこれまでにしようか?忍ちゃん」
「うん!」
お茶を飲み終え、寛いでいた真一郎の携帯が鳴った。
着信を見ると、『陣内啓吾』と表示されていた。
「はい、相川です!」
「もしもし、陣内だ。真一郎君。G・Wの予定は決まっているかい?」
「いえ、まだ決まっていませんが……」
「じゃあ、民間協力隊員として協力を要請したい」
「仕事内容は?」
「要人護衛だ」
「護衛のターゲットは?」
「詳細は美沙斗さんに伝えてある。その後で受けてくれるか決めてくれ」
「わかりました」
電話を終えた真一郎は、忍に帰ることを伝える。
「お仕事なんだ?」
「うん、仕事の打ち合わせをね……」
「また来てね、真一郎君」
「うん!」
★☆★
美沙斗を訪ね、高町家に来た真一郎をなのはを抱いている恭也が出迎えた。
「いらっしゃい、真一郎さん」
「お邪魔するよ、恭也君。美沙斗さんはいるかい?」
「ええ、美沙斗さんも真一郎さんが来るかもしれないと言っていましたので」
「あ〜…しんにぃ〜」
「なのはちゃん、お邪魔するよ〜」
「あ〜……」
なのはに手を差し出して挨拶すると、なのはは差し出された真一郎の手の人差し指を握った。
なのはをかまっていると美沙斗が姿を現した。
「やあ真一郎君、いらっしゃい…と、居候の私が言う台詞じゃないな……」
「何言っているんですか……美沙斗さんはもうこの高町家の人間ですよ」
真一郎がそう言うと、恭也も同調した。
「真一郎さんの言うとおりです。美沙斗さんは美由希の母親で、俺の師匠ですから」
「……そうだね……本当に穏やかな毎日を送っているよ……」
美沙斗も笑顔で答えた。
「じゃあ、真一郎君。啓吾さんからの仕事依頼の説明するから、私の部屋に行こう」
「はい。じゃ、なのはちゃん…またね!」
真一郎はなのはから手を離した。
「しんにぃ〜……まぁた〜……」
なのはが手を振っていた。
「護衛の対象は、イギリスの上院議員、アルバート・クリステラ氏だ…」
「その人は!?」
「そう、兄さん……高町士郎が護衛していた人だ……」
アルバート・クリステラ氏はG・W中日本に滞在し、日本の政治家と会談する予定になっていた。
しかし、現在のクリステラ氏は危険な状況である。護衛が必要不可欠であった。
しかし、かつて日本において護衛していた士郎は、クリステラ氏の一人娘、フィアッセを庇いその短い生涯を終えていた。
クリステラ氏の秘書は、世界最強にして非合法ギリギリの『法の守護者』、香港国際警防隊の副隊長『樺一号』、陣内啓吾に警護を依頼した。
生前、士郎が『自分に何かあったときは、香港警防隊の陣内啓吾を頼れ』と、秘書に言い残していたのだ。
クリステラ氏の秘書達は、クリステラ氏と同様、士郎に絶大の信頼を置いていたので彼の遺言どおりにした。信頼の置ける人物にクリステラ議員の護衛を頼みたい……と。
啓吾は、士郎の妹の美沙斗と、同じ御神の剣士である真一郎に任せる事にしたのだ。
「相手がクリステラ議員なら引き受けます。尊敬に値する人物だと聞いていますから」
『高町恭也』の記憶で知っている真一郎に否やはなかった。
真一郎、初任務である。
★☆★
真一郎と美沙斗は、海鳴駅から新香住駅で乗り換え、更にバスに乗って空港に行き、アルバート・クリステラ氏を待っていた。
「どうやら、お見えになられたようだ……」
SPに護られた外国人の紳士が現れた。美沙斗はクリステラ氏に近付いた。
「Mr,クリステラですね?」
「君が?」
「はい。今回、クリステラ議員の護衛を勤めることになりました御神美沙斗と相川真一郎です」
香港警防隊の身分証を提示して挨拶する。
「御神?」
かつての親友兼ボディガードの剣の流派と同じ苗字の美沙斗を見つめるクリステラ氏。
「……はい。高町士郎は私の兄です……Mr,クリステラ……」
「……そうか…士郎の……妹さん…という事は、美由希のお母さんか…それは心強い……そして、申し訳ない!」
クリステラ氏は突然、美沙斗に頭を下げる。
「クリステラ議員!?」
流石に美沙斗は慌てていた。
「私の娘の為に、君の兄を死なせてしまった……」
フィアッセを護り死んだ士郎のことは、クリステラ氏の心に深い傷となって存在していた。
「……お気になさらずに……士郎さんは…己の生き様を全うしたのです……士郎さんのことを想うなら…クリステラ議員は、議員の生き様を全うしてください。……それが、彼に報いることだと思います…」
「……彼女は?」
「…『彼』が、相川真一郎です…Mr,クリステラ…」
流石に、クリステラ議員が相手だったのでむきにならなかったが……心の中で落ち込む真一郎だった。
「これは失礼した……しかし、こんなに若い方とは思いもよらなかったな……」
「彼も、私と同じ御神の剣士です。Mr,クリステラ」
美沙斗は真一郎について話した。
事故に遭いそうだった恭也を救ったこと。
無茶な鍛錬をする恭也を諭したこと。
家族の復讐のため、修羅に堕ちそうになった自分を命がけで止めてくれたこと。
「……そうか…士郎の死は、恭也をそこまで追い詰めていたのか…そして、君が救ってくれたのか……ありがとう、Mr,相川」
「いえ、クリステラ議員。頭を上げてください」
深々と頭を下げるクリステラ氏に恐縮する真一郎だった。
「真一郎君は、私を負かす程の腕ですので、心配は無用です」
美沙斗の言葉に、真一郎は更に恐縮した。
「そうか、Ms,御神、Mr,相川。よろしく頼むよ」
クリステラ氏は、真一郎と美沙斗のことを信頼したようだ。
今回は真一郎も最初から【実力を把握させない】能力を解除していた。まあ、この場の達人は美沙斗のみの為、気配で真一郎の強さに気づく者は皆無だが……なんとなく頼りになる雰囲気を感じ取るクリステラ氏であった。
そして、士郎と同じ御神の剣士の実力をかけらも疑わない。それは士郎を信頼していた証でもあった。
★☆★
気さくなクリステラ氏に、すっかり真一郎と美沙斗は親しくなり、クリステラ氏は、2人をそれぞれ、『真一郎』、『美沙斗』と呼び、美沙斗はクリステラ氏のことを『アルバートさん』、真一郎は『アルさん』と呼ぶようになっていた。
アルバートはホテルにチェックインする前に、最初の予定……翠屋を訪ねることにした。
「久しぶりだね、桃子」
「お久しぶりです、アルバートさん……まさか、美沙斗さんと真一郎君の護衛の相手がアルバートさんだったとは……」
「日本に着いたら、最初に桃子のシュー・ア・ラ・クレムを食べたくてね」
「たくさん食べていってくださいね」
翠屋を後にしたアルバートは、海鳴ベイサイドホテルにチェックインした。
アルバートの側近達は、真一郎の若さに少々不安を感じていたが、『高町恭也』の経験を受け継いでいる真一郎の手際は、側近達に士郎の仕事ぶりを彷彿させた。美沙斗も真一郎の仕事ぶりに舌を巻いていた。
側近達は、真一郎の評価を改めた。
★☆★
襲撃は、政治家との会談直後に起こった。
無事、終了した…後の一瞬の気の緩みを狙った襲撃。
しかし、気を緩めなかった3人が動いた。
真一郎と美沙斗と会談相手の護衛のリーダーである。
「アルさん、車の中に!ワグナーさんは周りの警戒を!!」
「真一郎君!敵は3人だ……私達とそちらの方でそれぞれ1人ずつ、いいですね?」
「了解した。御二人は私の配下の者たちに任せよう」
3人はそれぞれの相手と対峙した。
小太刀二刀御神流 裏、奥義之参 『射抜』
先手必勝の『射抜』を食らい、男は倒れ付した。
「貴様は、『人喰い鴉』!?……香港警防に降ったという噂は真実だったのか…」
あっさり敗北した男はそう呟いた後、意識を失った。
護衛のリーダーはトリッキーな動きで敵を翻弄していた。
「くそ!チョロチョロしやがって……何!!」
四方八方から飛来する飛苦無と手裏剣が襲撃者を襲った。
蔡雅御剣流、『乱翔陣』
致命傷は避けられたが、襲撃者はもはや動く事はできなくなった。
「ふん!俺の相手はこんな餓鬼か……?」
襲撃者は、軽口を叩いていたが、内心では油断無く真一郎を見ていた。
どう見ても、ただの少女……もとい、少年にしか見えない真一郎だったが、【実力を把握させない】能力を解除している為、襲撃者は真一郎の実力を感じ取っていた。
どうやら、この男がリーダーの様だ。
彼は、真一郎に向かって銃を発砲した。
銃声は一発だが…六発の銃弾が真一郎を襲う。
シックス・オン・ワンという銃技で、引き金をひくのが余りにも早いため、一瞬で六発の弾丸を撃つ早撃ちの極致である。
しかし、御神の剣士は並みの剣士ではない。
その六発の弾丸は真一郎の小太刀によってはじき返されてしまった。
「な……ば、馬鹿な……」
驚愕する男は真一郎の接近を許してしまった。
小太刀二刀御神流、奥義之六 『薙旋』
相手の間合いに入った真一郎は、もっとも得意とする『薙旋』を放ち、襲撃者を叩きのめした。
公安警察が襲撃者を連行していった後、会談相手の護衛のリーダーが真一郎と美沙斗に話しかけてきた。
「お見事でした」
「いや、そちらこそ…中々の腕で…」
「申し遅れました、私、今回、塚本議員の護衛の責任者を務めております、蔡雅御剣流、御剣火影と申します」
「あの蔡雅の……私は香港国際警防隊、予備隊員の小太刀二刀御神流、御神美沙斗です」
「同じく、民間協力隊員の相川真一郎です……と、同時に妹さんの同級生でもありますけど……」
真一郎はいづみに兄のことを聞いていたので、彼がいづみの兄だと確信した。
「……そうか、君が一角(いづみ)の話していた相川君か。今年の正月に一角が帰省してきたときに、話を聞いていたよ…最も君があの『御神』とは聞いていなかったがね…」
「その事は、教えていませんので……どうか妹さんには内密に…」
「……わかりました」
蔡雅御剣流、御剣火影。その後、真一郎とよく仕事で組む仲となる。
★☆★
捕まった襲撃者からの情報で、依頼者はアルバートに不正を暴かれ、政界から追放された元上院議員オリベイラ氏と判明し、彼はイギリスで逮捕された。
G・Wもあとわずか、アルバートが帰国する日。
「ありがとう、美沙斗、真一郎……これからも日本に来るときは、君達に護衛を頼みたい」
「ええ、喜んで」
アルバートと美沙斗は握手していた。
「ただし、死なないでくれ……あんな哀しい思いをするのは士郎のときだけで十分だからね…」
「………」
アルバートの頼みに、素直に頷けない美沙斗であった。
「アルさん、お元気で…」
「恭也と美由希、桃子によろしくな」
アルバートは帰国していった。
「……とりあえず、真一郎君の初任務は成功したね」
「…ホッとしましたよ…」
真一郎と美沙斗は海鳴に戻っていった。
後日、警防隊から報酬として真一郎の通帳に500万円が振り込まれ、余りの金額に真一郎は呆然とした。
〈第六話 了〉
後書き
第六話いかがだったですか
恭也「相川さんの初任務がアルバートさんの護衛か」
それに、いづみの兄、火影が登場した。
恭也「彼もこれから相川さんとよく出会うことになるのか……」
どうだろうね、まだ決めて無いよ。再登場は絶対あるけどね
恭也「何故だ」
弓華は絶対登場するから、弓華に深く係わる火影を登場させないわけにはいかないからな。
恭也「成程」
ちなみに、作中の蔡雅御剣流の技は、私が勝手に作った技なのであしからず
恭也「いや、言われなくてもみんなわかるだろう」
では、これからもわたしの駄文にお付き合いください
恭也「お願いします」
いやー、護衛の相手がアルバートさんとは。
美姫 「しかも、火影とも顔を合わせる結果に」
弓華事件が起こったとしたら、この辺りも変化が見れるかな。
美姫 「そうね。何はともあれ、無事に護衛も済んで良かったわね」
だな。次回はどんな話になるんだろうか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。