『真一郎、御神の剣士となる』
第四話 「真一郎、夜の一族と邂逅する」
臨海公園に散歩に出た真一郎は、途中、指輪の露店で少女と出会った。
「はーい、いらっしゃい。一個千円、名前入れ500円ですよー」
真一郎は、彼女を何処かで見た気がしていた。自分自身と……『高町恭也』両方の記憶からである。
「女の子用、男の子用…。どれでも一個千円でーすっ」
気になった真一郎は、ちょっと寄ることにした。
「あ、いらっしゃい」
「どんなのがあるの?」
「そうですね、お客さんだと……これなんかどうですか?」
少女が真一郎に進めたのは、かなり可愛らしいリングであった。
「これは今、女の子に大人気のリングなんです。お客様はとっても可愛いのできっとお似合いですよ!」
真一郎の額に青筋が浮かんでいた……。
「………俺は……男なんだけど………」
し〜〜〜〜〜〜〜〜ん………。
その場は沈黙した。
「すすすすいません!!男の方でしたら、こちらなどいかがでしょうか?」
とりあえず1つ指輪を買って、思いついたことを言った。
「ところで……君って風芽丘だよね?」
「はい、そうですけど……貴方もそうなんですか」
「ああ、俺は2年だけど……」
「私は1年ですので、先輩ですね……」
そのとき、ようやく真一郎は思い出した。
「ああ、何処かで見た事あると思ったら、唯子の部活の後輩だな」
「ああ、鷹城先輩のお友達ですか」
「幼馴染だよ」
「初めまして、自分、『井上ななか』と言います。よろしくお願いします」
真一郎は、『高町恭也』の方の記憶にも思い当たった。
井上ななか。
未来においてはテレビ関東のディレクターで半ばアイドル化して、『海鳴横断ハイパークイズ』や『対決!爆食大王』の実況などをしていた女性である。
「じゃあ、唯子の後輩ということで、売り上げに協力してあげよう。とりあえず、これ頂戴」
「ありがとうございます。千円になります」
サービスでもう一個買って、露店を後にした真一郎だった。
★☆★
「……未来…か……」
真一郎は、未来での有名人に出会い改めて、『高町恭也』の記憶を思い起こしていた。
「確か、唯子は中学の体育教師になるんだよな……確かにあいつは教えるのが上手いから、教師には向いているかも知れないけど……体育教師じゃあんまり、意味無いな……」
しかし、真一郎は思う……恭也と美沙斗の未来を変えてしまったのだから……全て『高町恭也』の記憶どおりになるとは限りない……。
「まあ、超越者は未来を変えるなとは言わなかった。好きにやれって言ったんだから気にする事はないよな……」
実際、超越者が『高町恭也』の魂を逆行させた時点で、この世界は分岐してしまっている。故に、ななかとの出会い方も変化しているが……今の真一郎は知る由もなかった。
「あっ!!」
なにか、女の子の声が上から聴こえてきたので、見上げてみると女の子が落ちてきていた。
「なに!?」
あのままだと、地面に叩きつけられ大怪我をする……そう判断した真一郎は『神速』の領域に入った。
周囲がモノクロの世界に変わる。
真一郎は、少女の落下地点に辿り着き、女の子を抱き留めた。
「……大丈夫かい、お嬢ちゃん」
「……大丈夫……ありがとうございます……」
少女は、ぶっきらぼうにそう返事をした。
真一郎は、少女の顔を見たとき、彼女が何者なのか直ぐに理解した。
月村忍。
『高町恭也』の親友……というか悪友になる女性。
人間ではなく、『夜の一族』と呼ばれる種族で、早い話が『吸血鬼』である。
そして、彼女の転落理由もだいたい把握した。
恐らく……遺産目的……。
忍の両親の残した多額の財産。それを目当てにしているもの達の仕業だろう。
『夜の一族』である忍はあの程度の高さから転落しても、怪我はしてもが死ぬ事はないだろうから……脅しだろう。
しかし、まだこの頃は遺産目当ての者達はたくさんいたため、『高町恭也』が知っている、月村安次郎とは限らないだろう。
「とりあえず、痛いところはないかい?」
「……特にありません」
この頃の忍は、未来と違い、愛想がいいとはとてもいえない少女である。
「…………まあ、とにかくちょっと待っててね」
真一郎は、臨海公園で人気のホットドック屋『レッドスパイン』でホットドックを買い、それを忍に渡した。
「とりあえず、これでも食べて落ち着いてね…」
「……ありがとうございます……」
忍は、相変わらずぶっきらぼうにホットドックをかじる……すると、忍の表情が変わった。
「……お……美味しい……」
月村家は、『夜の一族』の中でも氷村家、綺堂家と並ぶ名家である。まあ、ドイツ料理は食べているので、ヴルスト(ドイツ語でソーセージの意)くらいは食べた事があるが……ホットドックのようなジャンクフード系は食べた事が無く、しかも、レッドスパインのホットドックはかなり美味なので、すっかり気に入ったようだ。
真一郎は、忍がホットドックを食べている間に携帯でタクシーを呼んでいた。
迎えに来たタクシーに忍を乗せ、お金を渡し忍を家まで送ってもらうことにした。
「……ありがとうございます……そして、ご馳走様でした……私の名前は…月村忍です」
忍は一応、礼儀はわきまえていたので、よくしてくれた真一郎に挨拶し、タクシーで帰って行った。
★☆★
冷蔵庫が空になったので、下校の途中で買出しに出た真一郎は途中で、昨日会った忍と出会った。
「あっ、昨日はありがとうございました……え〜っと……」
真一郎は自分の名前を教えていなかった事に気付き自己紹介する。
「ああ、相川真一郎だよ…忍ちゃん」
「昨日は、忍お嬢様が大変お世話になったそうで、ありがとうございます。私は、ノエル=綺堂=エーアリヒカイトと申します。これは、昨日お借りしたタクシー代です」
忍と一緒にいた美人が挨拶して、昨日のタクシー代を返してもらう。
「あ、ご丁寧にどうも。忍ちゃんの保護者の方ですか……苗字が違うようですけど……」
当然、彼女の事も知っている真一郎だが、知らないふりをする。
「いえ私は、忍お嬢様にお仕えするメイドです」
ノエル=綺堂=エーアリヒカイト。
月村家のメイドであるが……その正体は『夜の一族』に伝わっていた『自動人形』……わかりやすく言えばアンドロイドである。
今では、失われた技術によって造られた為、新たな自動人形を造り出す事はできない。
形式名『エーディリヒ式 最後期型』で、シリアルナンバーは1224.
親戚の家で壊れて置いてあったのだが、その親戚が機械好きの忍にクリスマスプレゼントとして贈ったのだ。その後、2年掛けて修理し動くようにした。それから、ノエルは忍に忠誠を誓うようになった。
「……忍ちゃんの家は、もう夕飯の支度は済んでいるのかな?」
「……いえ、これから買出しをする予定です」
真一郎の問いにノエルが答えた。
「なら、ウチで食べていくかい?実は、カレーを作ろうと思っているんだけど……美味しく作るには大量に作らないといけないから…一人では多すぎるんだよね…」
一晩寝かせて、明日にみんなに振舞おうと考えていたが…それでも多い。まあ、唯子とみなみを誘えば無くなるだろうが………。
「カレーって……食べた事ない…」
忍はそう呟いた。
「……へぇ、そうなんだ……今は一般の家庭では珍しくないけど……昭和初期なんかは洋食の高級料理だったんだよね」
西暦1877年(明治10年)に東京のある洋食食堂が初めてライスカレーとしてメニューに出して以来、日本人には好まれて食されてきた。
西暦1908年(明治41年)に帝国海軍の料理の参考書にカレーライスのレシピが載り、その2年後、陸軍の料理法でもレシピが載ったのだ。
西暦1924年(大正13年)に東京・神田のある簡易食堂が、初めて廉価でカレーをメニューに載せた。
西暦1927年(昭和2年)にある食品メーカーが喫茶部を開業し、『純インド式カリ・ライス』を当時の大衆食堂のカレーの10倍の値段で出した。本格的なインド・カリーで、高値にもかかわらず1日300食売り上げたという話である。
「……って、いつからカレーの歴史の話になったのだろう」
と、いうか真一郎君。詳しいね……。
「……ノエル……食べてみたい…」
「わかりましたお嬢様。では、お言葉に甘えてご馳走になります」
こうして、忍とノエルは相川宅に招待されることとなった。
★☆★
忍はすっかりカレーが気に入ったようで、3杯お代わりした。
「真一郎様、申し訳ありませんが、このカレーのレシピを教えてもらえないでしょうか」
「うん、いいですよ。じゃあ書いておくから持っていって」
忍とノエルは真一郎の家を出て、帰宅していった。
「……真一郎君って、いい人だよね…」
忍は年不相応に冷めていた。
両親の死にも涙を見せず……一族内でも煙たがられていた。
忍と付き合いがあるのは、叔母のエリザ、さくらと祖父のヴィクターくらいである。
幼い忍を騙して、金を巻き上げようとした親戚をノエルを使って軽くあしらったりしているうちに、『お金に汚い子』などの陰口を叩かれ、ますます冷めていった。
自分の事情を知らないとはいえ(真一郎は知っているが)、優しく接してくれる真一郎に最初は戸惑っていたが……気を許し始めている忍であった。
先程の食事も美味しく……真一郎の笑顔を見ているとドキドキした。
これが、忍の初恋だった。
「忍お嬢様は真一郎様がお気に入りになったのですね」
「うん、きっと……さくらと同じくらい好きになったかも…」
叔母のさくらも、昔は比較の対象にされ嫌いだったが、さくらは一族の誰よりも忍のこと気にかけてくれていることを知り、心を許していた。
真一郎の家から、まだそれほど離れていない場所で、突然、強風が吹き、忍が被っていた帽子が飛ばされてしまった。
昼間、それほど日差しがきつかったわけでもないが、さくらが買ってくれた帽子だったので、出かけるときはいつも被っていた。
「あっ帽子が……」
「私が取ってまいります」
ノエルが帽子を拾って戻ろうとしたとき……。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「忍お嬢様!」
ノエルが見たのは、車に押し込まれ攫われる忍の姿であった。
「忍お嬢様!!」
「ああ、しまった辞書を学校に忘れてしまった……」
忍とノエルを見送った真一郎は、その後、宿題をしようとしたら、必要な辞書を学校に忘れたので、小鳥から借りるために家を出た。
しばらく、歩いていると突然、悲鳴が聴こえた。
「この声は……忍ちゃん!?」
忍の悲鳴が聴こえたほうに走っていくと怪しげな車が通り過ぎていった。
「ノエルさん!?一体……」
「真一郎様!!忍お嬢様が攫われました……」
「……やっぱり、さっきの悲鳴は忍ちゃん!?」
「とりあえず、犯人に心当たりがあります。私は忍お嬢様を追いかけますので……」
「……いや、俺も行く……それに車も調達する」
真一郎は携帯を取り出した。
「……とりあえず、こっちでいいんですね?」
真一郎とノエルが忍の攫われた場所に向かう途中、電話で事情を訊いた美沙斗が車で迎えに来た。美沙斗の運転する車に乗り込み、目的地に向かっていた。
「はい、忍お嬢様を攫ったのは恐らく……月村安次郎という男です」
月村安次郎。
前述したが、忍の親戚で忍の両親が残した莫大な遺産とノエルを狙っている男である。
(どうやら、かなりズレが起きているようだな……)
『高町恭也』の記憶では、安次郎が強硬手段を使ったのは、忍が高校3年のときだった。
やはり、未来はかなり変わっているようだ……人物自体はそう変わらないだろうが……。
「しかし、親戚が何故誘拐などを……」
美沙斗は不思議に思っていた。
「多分、遺産がらみじゃないかな。忍ちゃんは両親を亡くしているという話ただし、かなり莫大な財産が忍ちゃんに相続されたはずですから……」
「真一郎様の仰るとおりです。安次郎はそのために忍お嬢様をどうにかするつもりなのでしょう」
「……親戚とはいえ……親がその子のために残したものを横取りしようとするとは…」
「よくある話だけど……やはり、訊いていてむかつくな」
「忍お嬢様が心配です!急いでください」
美沙斗はスピードを上げた。
「ほら、忍。ええ子やからお前の財産をワシに任せんかい。さもないと怖い思いするで……」
縛られた忍に中年男が脅迫していた。
月村安次郎である。その周りには『夜の一族』の血を引くものたちがいた。
忍ほど血は濃くはないが……それでも、常人より高い身体能力を有している故、幼い忍では対抗できなかった。
「……なんで、そんなにお金がいるの?あんただって、それほど貧乏ってわけじゃないのに……?」
「……お前には……理解できんやろな……ワシは、それほど『夜の一族』の能力があるわけやない。お前のような才能も美貌も持ち合わせておらん。ここにおる者たちもな、ワシよりは血が濃いけど一族の本流からは離れとる。ワシらの様な奴はな、金が無いと幸せにはなれんのや…」
持っている者はそれほど執着しなくても、持たない者はそれを渇望する。
忍にとっては『夜の一族』の能力は、それほど重要ではない……むしろ、自分達が人間ではないという負い目を背負う。たが、『夜の一族』でありながらその能力を持たない者は、その能力のない自らを呪う。
運命を司るものは、よほど皮肉で冷笑的な存在によって司られてるのかも知れなかった。
「安次郎!表が騒がしくなっているぞ!!」
屋敷の周りを固めているのは金で雇われた、普通の人間達であった。
美沙斗が1人でここを担当し、次々と打ち倒していた。
「……今まで、人を殺す側だった私が、人を助ける側に回る……か。しかし、心地いい。『人喰い鴉』と呼ばれていた頃より充実している……真一郎君のお蔭……か」
もともと、優しい気質だった美沙斗にとって、暗殺稼業は心にかなりの負担を強いる稼業だった。それから、解放された美沙斗は清々しい気分で小太刀を振るっていた。
外を美沙斗に任せた真一郎とノエルは、安次郎の屋敷内に侵入した。
すぐさま襲ってくる雇われた者たちを、真一郎が殲滅する。
『花菱』
連続の斬撃で、次々と屠っていく。
真一郎の実力に内心、驚愕しているノエルであった。全く戦闘力を測れなかったからだ。
「……まさか、真一郎様がここまでの使い手とは思いませんでした」
「そういうノエルさんこそ、お強いですよ」
ノエルも拳と蹴りで次々と屠っていた。
そのとき、2人の真上に巨大な檻が降りてきた。誰かがレバーを操作し『自動人形』でも壊せない頑丈な檻に閉じ込めようとしたのだ。
安次郎はノエルに対抗する策を用意していたようだが……真一郎の存在がイレギュラーであった。
真一郎は『神速』の領域に入り、檻をかわした。その後、レバーを操作した人に一撃を食らわせ沈黙させ、レバーを操作しノエルを救出する。
「ありがとうございます」
2人は先を急いだ。
忍が囚われている部屋に辿り着いた2人は、そこで刃物を突きつけられる忍を見た。
「忍お嬢様!」
「忍ちゃん!!」
「ノエル!真一郎君!!」
真一郎は、周りを見渡しホッとしていた。
それは、その場に『自動人形』の最終機体・『イレイン』の姿がなかったからだ。
イレインが相手では、今のノエルには100%勝ち目がない。
まだ、『ロケットパンチ』もないし………。
安次郎が2人に声を掛けた。
「忍を死なせとうなかったら、ノエル、お前がワシのものになり、忍の財産をワシに管理させるんや!」
その台詞に真一郎が反応した。
「なんだよ、財産だけじゃなくノエルさんまで欲しいのか。メイドくらい自分で雇えよ」
「ふん、なにも知らん小娘がなにぬかしとるんや!」
その言葉に真一郎が反応する。
「俺は男だ!!」
「「「「「えっ!?」」」」」
忍とノエル以外の者たちが驚愕した。
「……いや、さっき忍ちゃんが俺の名前呼んだだろう?なんでそれで気付かないんだ……」
緊張していた現場はいつの間にか笑劇に変わっていた……。
「……気を取り直して……小僧…ノエルにはな、それ以外にも十分価値があるんや……こいつはな人間と違う……こいつは今は失われた技術で造られた『自動人形』ちゅう、一言でいったらアンドロイドなんや……こいつを研究して、再び『自動人形』を造れたら莫大な金になるんや」
「……ふざけるな!!」
真一郎の激昂に、安次郎が怯んだ。
「そんなものが、大量に量産されたら……それを使った様々な犯罪……いや、下手したら戦争の道具に利用されるだけだ!ノエルさんは……忍ちゃんのメイドをしていてもらったほうがいいし、ノエルさん自身それを望んでいるはずだ!!」
「フン、『自動人形』の価値はお前にはわからんか……」
「わかるさ。ノエルさんが忍ちゃんにとって『夜の一族』が伝えてきた『自動人形』ではなく、自分の大切な家族として捉えている事くらい…な」
その台詞に、その場にいたもの全てが絶句した。
「……お前、ワシら『夜の一族』のことを知っとたんか?」
つい言ってしまって、真一郎も焦ったが…表情には出さなかった。そして咄嗟に『高町恭也』スキル【真顔で嘘を吐く】を発動する。
「……『月村』は珍しくない姓だからそれだけじゃ、わからなかったけど…『綺堂』は珍しいからな。『月村』と『綺堂』、この二つは『氷村』と並ぶ『夜の一族』の由緒正しい名家だと、俺の剣の師匠から聞いたことがあった。師匠は裏の世界にも精通していたから……ある程度のことは教えてもらっていた。まあ、もしかしたらとしか思っていなかったが……お前が『自動人形』と言ったから確信しただけだ…」
ここからは、自分の本音を叫ぶ。
「…それに、彼女達が人間じゃ無くても…もう、俺にとっては大切な『友達』だ!!」
真一郎の台詞に、忍とノエルは嬉しさを感じていた。
たとえ、『高町恭也』の記憶が無くても、きっと真一郎なら今と同じような想いを抱くだろう。記憶うんぬん関係なしに……。
真一郎の想いを忍とノエルはしっかりと感じ取っていた。
「真一郎様…」
「真一郎君……ありがとう」
そんな2人に優しく微笑んでいたが、突然、厳しい顔に変わった。
「だから……俺の大切な『友達』を傷付けるつもりなら…お前達を…潰す!!」
真一郎から凄まじい殺気が放たれた。
その殺気に中てられた安次郎が隙を見せた瞬間、真一郎が動く。
安次郎に詰め寄り、一撃を食らわせ忍を解放した。周りの者達は反応できなかった。『夜の一族』とはいえ、所詮、素人の集まり……『高町恭也』の経験を宿している真一郎に対応できるはずがなかった。
「ノエルさん!忍ちゃんを!!」
真一郎から忍を受け取ったノエルは忍を抱き上げた。
「……ノエル…」
「お嬢様……無事でよかった…」
それを微笑ましく眺める真一郎に、彼らが襲いかかってきた。
小太刀二刀御神流、奥義之六 『薙旋』
抜刀からの四連撃をそれぞれに食らわせ沈黙させた。
血が薄いとはいえ『夜の一族』の能力を持っている者たちだが、それを理解していれば真一郎にとって、それほど怖い相手ではなかった。
彼らは、その能力を過信するあまり、それに頼り切る。
もともと『高町恭也』は、『自動人形』の最終機体『イレイン』のオプションの同系機にさえ対応できたのである。
《恭也様の戦闘能力は、『夜の一族』のそれに匹敵します》
かつて、未来において、『高町恭也』と訓練したノエルが、そう評価していたので、その力を持つ真一郎は易々と彼らを撃退した。
「安次郎様……このことはヴィクター様に報告させて頂きます。このような強硬手段を執られたのですから、相応の処罰を覚悟された方がよろしいかと…」
安次郎はがっくりきた。
『夜の一族』には、『夜の一族』の掟がある。
恐らく、彼に対するの処罰は、財産没収に一族からの追放であろう。
自業自得であった。
★☆★
美沙斗の車で月村邸に戻った忍とノエルは、2人に礼を言うと屋敷の中に戻っていった。
とりあえず、一族に自分達のことを詳しく報告しないようノエルに頼んだが、ノエルは最初から承知していたので、かなり曖昧に報告されたようだ。
「あっ、小鳥から辞書を借りれなかった……」
現在、深夜0時過ぎ……流石に今の時間に小鳥の家を訪ねるわけにはいかなかった。
「……宿題かい……明日…いや、既に今日か…学校に登校したあとに急いでやるしかないね」
高校を中退して、家庭に入った美沙斗は、人事のように言った。
翌日、5時間目の授業が終わり、友達と廊下を歩いていると人にぶつかった。
「痛っ!」
ぶつかった拍子に重そうな本がどさっと落ちた。
小鳥と同タイプの制服を着た女の子だった、
「あっごめん。俺、拾うよ…」
「いえ」
女の子は、1人で本を拾うと、じろりと真一郎を睨んで、すたすたと歩いていった。
「今の娘は……『綺堂さくら』さん……忍ちゃんの叔母さんか…」
『高町恭也』の記憶で誰かはわかったが、結構可愛く、真一郎の好みのタイプだったのでちょっとドキドキした。
〈第四話 了〉
後書き
ふっふっふっ。何人ひっかかったかな?
恭也「何に?」
タイトルに
恭也「なるほど、相川さんが係わる夜の一族といえばさくらさんだ。しかし、メインは月村との話だから…か」
そう、多分皆さん、今回は真一郎とさくらの話と思ったはずだ!
恭也「いや、皆さん気にせず読んでいたんじゃないのか…所詮、己如きの駄文だし……」
シクシク
恭也「いじけるなよ…ところで、何故、さくらさんではなく、月村だったんだ?」
いや、この話の真一郎は、さくらの事はお前の記憶を通してを知っているし…それにさくらはヒロイン候補上位だから、かなり真一郎と親しくなる予定だから…
恭也「意味わからん。それでどうして、月村が先に出会うんだ」
これは、ネタバレだから話せません
恭也「じゃあ、井上さんに関しては?」
ああ、真一郎とななかの出会いに大輔がいないのは、それもななかがヒロイン候補の1人だから…つまり、この話では大輔とななかは恋人関係には成らないんです……というわけで、これからも私の駄文にお付き合いください
恭也「お願いします」
タイトルを見て第一候補はさくら、第二候補に氷村、第三候補に忍でした。
美姫 「見事にはずれ〜」
ななかが出てきた事で、思わず設定変更してななかが夜の一族なのか、それとも忍辺りが恭也みたく魂だけ、
なんて考えてしまいました。
美姫 「流石にそれは捻って見すぎよ」
ですよね。いや、まさかここで忍の事件が起こるとは。
美姫 「これも真一郎が歴史を変えている影響なのかしらね」
まあ、恭也の未来での記憶がある時点で色々と影響が出ているみたいだしな。
美姫 「今回は忍のお話だったけれど、最後でさくらも出てきたわね」
ああ。次はどんな話になるんだろう。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。