『真一郎、御神の剣士となる』

第三話 「真一郎、二年生になる」

 

始業式。

真一郎は高校二年生になった。

 

 

風芽丘学園の制服は数多くのタイプがある。

女子は28種類のタイプがあり、それぞれコーディネイトできる。

それに比べて男子は学生服2タイプ、ブレザー3タイプと少ないが……。

女性とよく間違われる真一郎は、昨年中ごろから舐められないようブレザーから学ランに替え、不良っぽい格好をしていたが、今日からは再びブレザーに替えた。

武器を隠し持つには学ランよりブレザーの方が都合がいいからだ。

なんだかんた言いつつ、真一郎はすっかり御神の剣士になっていた。

 

 ★☆★

 

「お早う、真く………」

「おっはよ〜、しんい……どうしたの真一郎、その怪我?」

小鳥と唯子は真一郎が頭に巻いている包帯を見て、笑顔が曇っていった。

先日の美沙斗の『虎乱』によって受けたダメージが2,3日で治る筈もなく、実は頭部だけでなく制服の下は包帯だらけである。

もっとも、頭部は剣撃ではなく倒れたときに負った傷だが……。

「ああ、京都でちょっと頭ぶつけて怪我してしまってな」

「大丈夫なの?真くん……」

小鳥が心配そうに問いかけてきた。

「大丈夫、小鳥は心配性だなぁ」

そう言って、小鳥の頭を撫でる。

「さあ、とりあえず学校に行こうぜ」

 

 

「唯子は、A組だよ。小鳥は?」

校舎口に張り出されたクラス表で自分のクラスを確認する幼馴染3人。

「……私は……F組だね。真くんは?」

「俺は……C組だな…みんなばらばらになったな……」

「……そうだね……それに私、真くんと一緒のクラスになったことないし……」

そう、小学3年の頃に出会ってから、真一郎と小鳥は一度も同じクラスになったことがなかった。唯子とは何度か同じクラスになっていたが……。

「よぉ〜真一郎。元気か…って、どうしたんだよその頭の包帯……」

「おー大輔、お早う……ちょっとぶつけてしまってね」

真一郎の悪友、端島大輔である。

趣味も性格もまるで違うが、何故か真一郎とは気が合う。

一言で言えば「いい奴」である。

「大輔はどのクラス?}

「お前と同じC組だよ。これで二年連続で同じクラスだな…別に野郎と一緒のクラスになっても嬉しくね〜けどよ」

「それは、こっちの台詞だ!」

「まぁまぁ、相川君、端島君」

小鳥が2人を宥める。

ちなみに人見知りの激しい小鳥は、真一郎と唯子以外の人が居るとき、真一郎の呼び名が『真くん』ではなく、『相川君』となるときがある。同性である唯子の呼び名は変わらないが……。

「お早う、唯子、野々村、端島、それに……どうした相川!?」

挨拶してきたいづみも、真一郎の怪我に驚いていた。

「お早う、御剣。大した事無いよ」

「いづみちゃんお早う、いづみちゃんは唯子と同じクラスだよ」

「みたいだな、一年間よろしくな唯子」

「小鳥は誰かと一緒のクラスになれたか?」

「うん、どうやらみなちゃんが一緒のクラスになってるみたい」

「岡本とか」

岡本みなみ。バスケの特待生である。

身長は150センチ弱とバスケ選手としては背が低いが、スピードとジャンプ力があり、一年生で15番をもらいレギュラーになった実力者である。

真一郎と唯子、いづみとは去年のクラスメートである。

「ところで、今日は皆用事あるの」

唯子が皆に聞いてきた。

「ああ、俺は今日バイト休みだから……暇だな」

「私も、バイト休みだから、久しぶりにゆっくりできる」

「私はいつも通りだから」

「俺も暇だけど……唯子、どうしたんだ」

「うん、唯子は部活の勧誘があるけど……主将と模擬試合するだけだからお昼までに終わるんだ。しんいちろが春休み、ちっとも付き合ってくんなかったから、お昼に皆で遊ぼうよ」

唯子は春休みの間、真一郎が京都に行っていたため、遊ぶ事が出来なかったので実は拗ねていた。

「いいけど……何処に行くんだ?」

「今日開店する新しいデパートに皆で行こうよ」

「う〜ん悪くないね」

「じゃあ、皆で行こうか」

放課後に出掛けることが決まった。

 

 ★☆★

 

未来の『高町恭也』の魂が相川真一郎に宿り、真一郎は『高町恭也』の技量、記憶、経験を得た。更に身体能力も未来の『高町恭也』のそのままである。何故かというと、元々、超越者は未来で死した『高町恭也』の魂を逆行させ、こちらの恭也に上書きしようとした。そのついでに当時の身体能力ではその力を使いこなせない故、未来の身体能力も同化させようとした。しかし、座標が狂い相川真一郎に宿った。当然、その身体能力も真一郎に同化したのだ。

真一郎は理解していた。これは、借物の力に過ぎないと………。

そして、真一郎は理解していなかった。これは、もう真一郎の力である……という事を。

 

 ★☆★

 

唯子の部活が終了してから出かけることになり全員一度帰宅し、翠屋に集まることになった。

「いらっしゃいませ〜!あら、真一郎君…いらっしゃい」

真一郎が翠屋に入ったら、桃子が気さくに声をかけてきた。

桃子は、真一郎のことを『相川さん』から『真一郎君』へと呼び方を変えていた。

「今日は、お昼を食べていくのかしら?」

「はい、連れと待ち合わせをしていて、皆がそろったら戴きます」

「でも、真一郎君だとウチの軽食じゃ足らないんじゃないかしら。」

翠屋の軽食は女の子向けに量が少なめなのだった。

「……そうなんですよね……でも、ここの食事は美味しいので、量より質ということで」

真一郎は苦笑しながら答えた。

「まあ、いいわ。他ならぬ真一郎君の為だし、大盛を作ってあげるわ」

「…ありがとうございます。でも、それなら俺の連れの1人にもお願いできますか。そいつは女の子なんですけど……俺以上に喰らう奴でして」

真一郎は唯子の食事量を思い出し、桃子に頼んだ。

「ええいいわよ……その女の子は真一郎君の彼女かしら?」

「いいえ、腐れ縁の幼馴染ですよ。まあ、昔は意識したことがありますけど……もう1人、幼馴染がいまして……今の状態が心地よくて……」

 

 

真一郎は『高町恭也』ほど恋愛に疎くはなかった。

唯子のことを好きになったことがあった。小鳥のことを好きになった事があった。

だけど…『ともだち』でいたかった。

真一郎は、寂しがり屋である。好きな人にはずっと傍にいて欲しい……特に、唯子と小鳥の2人には……。

2人のどちらも失いたくなかった。

だから…ずっと仲のいい『ともだち』のまま。

3人でずっと、ずっと……。

大切に思うのは二人とも同じ……どちらか1人を選べず……ずっと傍にいて欲しい……だから選べない……どちらが大切なのかを……。

真一郎は感じていた。自分達が互いに好きあっているんじゃないか……と。

でも、『2人』になって『3人』でいられなくなることが怖いのだ。

だから、それ以上踏み込めなかった……。

もしかしたら……2人を傷付けているかもしれない……。

だけど……優しい2人にずっと傍にいて欲しかった。

 

 

「あっいらっしゃいませ〜!」

真一郎と桃子が話していたら、小鳥と……岡本みなみが入ってきた。

「よぉ、岡本。終業式以来だな」

真一郎は気さくにみなみに挨拶した。

「うん、久しぶりだね相川君……ののちゃんに聞いたけど、怪我しているんだね」

「ああ、これはね………」

本日、何回目かの説明に入る真一郎だった。

「ところで、相川君。みなちゃんも買い物に付き合いたいって…いいかな?」

みなみや桃子が近くにいるため、真一郎の呼び名が『相川君』になっている小鳥。

「うん、別にいいだろう。人数が増えて困るわけでもないし……って……あー桃子さん。すいませんが大盛……あともう1人お願いできますか?俺以上に喰う奴が1人増えましたので……」

みなみの食事量は唯子と同等か、それ以上だった。

「ええ、いいわよ。たくさん食べてもらったほうが嬉しいしね」

桃子はあっさり了解した。

「あれ、相川君。翠屋の店長さんと親しいの?」

フレンドリーに話す2人を見て、小鳥が不思議に思ったのか聞いてきた。

「ええ、実は真一郎君はウチの息子の命の恩人でして………」

桃子は真一郎が車に轢かれそうになった恭也を助けてくれたことを話した。

「へぇ〜〜、いいことしたね、真くん……でも、危ないよ。無茶はしないでね……」

流石に心配になったのか、真一郎の呼び名が『真くん』になっていた。

「ハハハ……」

真一郎は笑うしかなかった。

実はそれ以上に危険な事をやらかしたからだ。

そして、香港国際警防隊、民間協力隊員になってしまったため、更に危険な目に遭う可能性大であった。

 

 

昼のピークに入り、店内は昼食のお客で一杯になってきた頃、いづみと大輔が姿を現し、最後に部活を終えた唯子が到着した。

結局、唯子、みなみだけでなく、いづみと大輔も大盛にしてもらっていた。

「いや〜、真一郎が翠屋の店長と親しくなってくれて儲けたぜ」

大輔がスパゲッティを食いながら、呟いた。

「確かに……食費を切り詰めていたから久しぶりにたくさん食べられるよ」

ほぼ、自活しているいづみにとってかなり有難かったようだ。

唯子とみなみも満足していた。

 

 ★☆★

 

デパートに行った一行は、それぞれ買い物を楽しんだ。

唯子と小鳥は、新しい洋服……小鳥は子供服……を買って満足していた。

いづみは、開店セールを利用して様々な実用品を安く手に入れていた。

みなみは、有名NBA選手愛用のバッシュと同じモデルを手に入れて上機嫌になっていた。

大輔は、新作ゲームを買っていた。

真一郎は、新しい釣竿を買っていた。『高町恭也』の釣り技術も受け継いでいたため、次回に行く釣りが非常に楽しみな真一郎だった。

 

 

帰り道、真一郎の携帯が鳴った。

「はい、相川です……ああ、管理人さん…はい、届きましたか。はい、じゃあ、よろしくお願いします」

通話を終えた真一郎が携帯をポケットにしまうと唯子が、話しかけてきた。

「しんいちろ、携帯買ったの?」

「ああ、そんなところだ」

真一郎は小鳥と同じく、携帯を持っていなかった。あまり、使わないからである。

しかし、香港警防隊の関係上必要になり、警防隊から地球上何処でも通話できる特殊携帯を支給してもらったのだ。

「じゃあ、唯子と番号交換しよ!」

「……いいけど、あんまり掛けてくるなよ。それに、電源を切っているときもあるからな」

任務中は、余計な電話を受け付けないよう特定の番号しか繋がらないようにしなければならないらしいので、真一郎は唯子にその旨を伝えた。

「ところで、真一郎。お前のマンションの管理人さんは、どんな用で掛けてきたんだ?」

大輔の問いに真一郎は答えた。

「俺宛の荷物が届いたので、準備してくれるとのことだ」

なんの準備なのか……全員が首を傾げた。

「まあ、俺の新しい趣味だよ」

 

 

真一郎が住んでいるマンションには家庭菜園のスペースがあった。管理人が世話をしている花壇や畑の横にまだ、スペースがあったので管理人の許可を得て、真一郎の荷物が運びこまれていた。

それは『盆栽』だった。

真一郎の実家の近所のお爺ちゃんが寝たきりになり、盆栽の世話ができなくなってしまったのでどうしようか困っていたのだが、『高町恭也』の影響で盆栽に興味を持った真一郎が手入れの道具ごと譲り受けることになったのだ。

流石に、マンションのベランダに盆栽なんかを飾って、それが下に落ちたりしたら危ないので、花壇の横のスペースを借りることにしたのだ。

真一郎の新しい趣味が盆栽であることを知った一同は、絶句していた。

美少女と間違えるほどの美少年が、盆栽の手入れをする………想像してみたが、違和感ありまくりであった。

「……しんいちろが……盆栽……」

「……真くんが……盆栽……」

「……相川が……若年寄に…」

「相川君……幾らなんでも、それはちょっと……」

「……真一郎が……枯れてしまった……」

「ほっとけ!!」

唯子達の意見に憮然となる真一郎だった。

 

ちなみに、こちらの恭也は美沙斗という指導者を得たため、独学で鍛錬する必要が無くなったので、盆栽に興味を持つ事はないようだ……今のところ……。

 

〈第三話 了〉

 


後書き

 

第三話いかがだったでしょうか

恭也「今回はバトル無しだな」

まあな。バトルばっかりってのもな

ところで真一郎の唯子と小鳥に対する気持ちについては、DVD EDITONのとらハ1外伝「マナツノユメ」を参照しています

恭也「つまり、この話のヒロインは鷹城先生と野々村さんのどちらかなのか?」

いや、まだ決めていない

とりあえずヒロイン候補は、唯子、小鳥、いづみ、瞳、さくら、ななか、薫、みなみの誰かだな…もしくは複数

恭也「多いな……つまり、当時、風芽丘に在学していたとらハ1,2のヒロイン全てに可能性があるわけか」

いや、弓華は除外している。あと、七瀬も……

恭也「そういえばリストアップされてないな。何故だ……」

七瀬は、真一郎達を見守る立場になる予定だし、弓華は火影とがお似合いだと思うので

恭也「そういうことか」

あと盆栽の件は……ノーコメント…

恭也「人の趣味にケチをつける気じゃないだろうな……馬鹿弟子のように…」

いえ、滅相もない…では、これからも私の駄文にお付き合いください

恭也「お願いします」




身体能力や技術以外にも恭也の影響が。
美姫 「この話では今の所、恭也よりも真一郎の方が枯れている形ね」
あははは。他にも影響を受けそうだな。
美姫 「どうかしらね。まあ、無事に新学期も始まって、今の所は何も問題なしって感じね」
だな。これからどんな展開があるのか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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