『真一郎、御神の剣士となる』

第二話 「真一郎、鴉と戦う」

 

明心館本部道場で二人の男が闘っていた。

真一郎と、明心館館長、巻島十蔵である。

「……強いな、相川。お前を御神流に取られたのが惜しいな」

巻島は、少し悔しそうに真一郎を賞賛していた。

 

 ★☆★

 

恭也と試合をした真一郎は、体の感覚に違和感を感じていた。そして、直ぐにその理由に気付いた。要するに『高町恭也』と自分の体格の違いである。

真一郎は、高校生にしては小柄である。身長はおそらく同学年男子の中で一番低い。

つまり、リーチが短い。

その為、間合いに多少の誤差が生じていたのだ。

真一郎は、その誤差の調整の為、小学校のときに通っていた、明心館空手の本部道場に向かった。

『高町恭也』の本気を出して、闘えるのは明心館館長、巻島十蔵しか考えられなかった。己の限界で調整しなければ、これから戦おうとする相手に遅れをとるからだ。

真一郎はアポイントメントを取り、巻島十蔵と面会した。

「確か、うちの元門下生の相川真一郎君だったな。茅場町道場から確認をとった」

「お忙しい中申し訳ありません、館長」

「いや、今日はすることがなくて暇だったんでな、気にするな」

そう言うと十蔵は豪快に笑った。

「それで、用件とは……」

「はい、俺と試合をして頂きたいと思いまして……」

真一郎は超越者に与えられた能力、【実力を感じさせない】を解除した。

先程まで感じられなかった真一郎の実力を感じ取り、十蔵の雰囲気が変わった。

「……俺の実力に疑問を感じるなら、試してみましょうか」

「……いや、その必要はない。恐らくうちの門下生では、お前には勝てまい……しかし何故……」

流石にすべての真実を話すわけにはいかなかったので、前もって考えていた理由を話す。

「……俺自身、まったく実戦経験がありません。技量はそれなりに自信があるのですが……つまり、自分の全てを出して戦った事が無い為、自分の間合いが測れない。これから、俺が戦おうとする相手は俺と同格以上なのは間違いないんです。だから、確実に自分より格上である館長と闘い全力を出すことで自分を磨きたいんです」

「……お前が戦おうとする相手は、どんな奴だ。正直、お前ほどの奴と同格以上の奴などそうはいないと思うが……」

十蔵は先程感じた真一郎の実力を正確に把握していた。正直その若さでこれほどの実力を身に付けた男が明心館から離れたことを惜しいと思っていたのだ。

「……『人喰い鴉』御神美沙斗……。」

「!!」

その名を訊き十蔵は驚愕した。

「館長の亡き友人、高町士郎の妹。恐らく今現在、唯一完成された御神の剣士……そして、復讐の為に娘を捨て修羅になった女性」

十蔵自身は面識が無いが、友人である士郎から訊いた事があった。

「士郎の妹と何故、戦う必要がある」

御神流の恐ろしさをよく知っている十蔵は、真一郎の真意を計りかねていた。

「……恭也君と、美由希ちゃんの為です」

「!!」

またしても十蔵は驚愕した。

真一郎は語った。恭也が余りにも無謀な鍛錬をしていたことを、その為交通事故に遭いそうになったことを……。

「……恭也が…」

亡き友人の息子である恭也を十蔵も気にかけていた。しかし、まさかそこまで恭也が自分を追い詰めていたとは思いもしなかったのだ。

「とりあえず、彼には己の過ちを理解してもらい、取り返しがつかなくなるのは避けれました。しかし、やはり独学では限界があります」

真一郎は知っている……『高町恭也』が独学でもかなりの高みに達したのを……しかし、その代償は余りにも大きかったのだ。

「それに、美沙斗さんは間違っている……。娘を捨ててまで果たす復讐を……御神と不破の人達が望むはずがないんです……」

「何故……それが解る…」

「……俺も……御神の剣士だからです…」

「!!」

本日4度目の驚愕であった。

「復讐を辞めろとは言えません。御神の剣士とはいえ、俺は御神と不破の血族ではありませんから……でも、裏社会で修羅に墜ちてまでする必要はない。まっとうな方法があると思うんです」

そう、未来において、香港国際警防隊に所属したように、まっとうな手段で復讐すればいいのだ。

「美由希ちゃんも、真実を知らずに実の母親を憎み続けるのは……余りにも、哀しすぎます……だから、俺が彼女を止めるんです…この命を賭けてでも……」

『高町恭也』からこの力を受け継いだ者として……。

彼の記憶を知り、真一郎は『高町恭也』を心から尊敬していた。自分なら、決して耐えられない運命を駆け抜けた強い男を。

超越者は真一郎の好きなようにしろと言った。何かを成せとは言わないと言った。

だが……この時代の恭也を見て、あの子を助けたい……真一郎はそう思ったのだ。

人の為に命を賭けられる男……それが、相川真一郎。

そして今、彼は『高町恭也』の強さも受け継いだのだ。

「……それが、彼女以外の御神の剣士である自分がするべきことだと……思うんです。そして、恭也君と美由希ちゃんを彼女に任せたいと思うんです……俺は人に物を教えるのは不向きですので……」

真一郎の決意を聞き、十蔵は頷いた。

「……わかった……ワシも士郎の残した家族の為に人肌脱ごう」

 

 

真一郎の調整は終了した。

予想に反して、3回に1回は十蔵から一本取ることが出来た。

『高町恭也』は己を過少評価する癖がある。まだまだ実力は十蔵の方が上だが、その差は縮まっていたのだ。

「……真一郎!これを持っていけ」

十蔵は、真一郎に二刀一対の小太刀を渡した。

「……これは?」

「士郎の奴に、恭也が一人前になるまで預かってくれと頼まれていた小太刀だ……銘は『夢景(むかげ)』…『八景』の共打ち刀だ」

「でも、それならばそれは恭也君に……」

「いや、あいつには士郎の形見の『八景』がある。だから、これはお前が持っていけ……そんなナマクラで士郎の妹と戦うのは無謀だろう…」

真一郎が持っているのは、恭也から譲ってもらった恭也が幼い頃に持っていた小太刀であった。

子供が持つには充分だが、実戦で使用できる物ではなかった。

「ありがとうございます。『夢景』、確かにお借りします」

 

 ★☆★

 

三学期終業式。

真一郎は、来月から二年生に進級する。

その前に、春休みである。

「しんいちろ。春休みはどうするの?」

幼馴染の鷹城唯子が訊いて来た。

「…唯子は、どうするんだ?」

「む〜、唯子が先に訊いたのに……ま、いっか。唯子はね、とりあえず部活に出て、時々小鳥の家に泊まったりして、いづみちゃんと遊んだりもしたいし、しんいちろとも遊びたいし……」

「ようするに、その日の気分ということか…」

「…うん!!」

「小鳥は?」

もう1人の幼馴染、野々村小鳥にも尋ねる

「え〜と……私は、お父さんのお世話をして、真くんや唯子と遊んだり……」

「……ようするにいつもと一緒ということか…」

「そうだね」

「御剣は?」

高校に入って最初に出来た友人、御剣いづみ。彼女は蔡賀御剣流という忍者の家元の娘である。

「私は、バイトと鍛錬だな…まあ、たまには唯子たちと遊ぶかな」

「む〜、しんいちろ。最初に唯子が訊いたんだから、しんいちろも答えてよ!」

「……俺は、これから家に帰って、京都に行く予定なんだ」

その台詞に、唯子と小鳥が驚く。

「真くん。京都に行くの……」

「じゃあ、唯子と遊べないの……」

「まあ、もしかしたら春休みはずっとあっちにいるかも知れんからな……じゃあ、俺は準備があるから先に帰るわ…」

真一郎はそう言って唯子たちと別れた。

「しかし、あいつ京都に何しに行くんだ…?」

いづみは、疑問に思った。

 

 

真一郎が京都に行くのは、ちょうど美沙斗がこの時期に京都に居たからである。

今までの美沙斗は、裏社会にいて、香港警防隊に睨まれ始めていたとはいえ基本的に、悪徳政治家や、その筋の関係者を相手に対して暗殺などをしていたが、この時期にあの『龍』の情報提供者……正体は『龍』のエージェント……と出会い、まっとうな人物の暗殺をし始めたのである。

美沙斗は『高町恭也』にそのことを話していた為、真一郎は美沙斗の現在の居場所を知ることができたのだ。

今なら、まだ間に合う。

知らず知らずのうちに『龍』の策に嵌り、利用されるのを防ぐことができる。

真一郎は、関西方面行きの新幹線に乗り込んだ。

 

 ★☆★

 

「……では、行くか……」

御神美沙斗は、隠れ家を処分し出かけようとしていた。

数日前、彼女は『龍』の情報と引き換えに暗殺を依頼された。

ターゲットは『伊集院勇作』、災害援助団体を設立しようとしている富豪である。

幼い頃、伊勢湾台風で家族を失い孤児となり赤貧の思いをしたが、一代でのし上がった苦労人。運よく一山当てることに成功したが、自分と同じ境遇の者達を救いたい一心で、災害援助活動をしている今時珍しい奇特な人物である。

何故、彼が暗殺の対象なのかというと……彼は知らず知らずのうちに、『龍』に多大な損害を与えているからである。

『龍』に……とは訊いていない美沙斗は、多少心を痛めながらも彼を暗殺する依頼を引き受けた。

「済まないな。だが、貴方の死は決して無駄にはしない……。私は必ず『龍』を……討つ!」

改めて誓いを立て、仕事に向かおうとしたとき、不意に声をかけられた。

「そんな誓いを立てても……殺される人は…納得できないはずです!!」

美沙斗の目の前に1人の少女……もとい少年が立っていた。

「……誰だ?君は……」

美沙斗は問うが少年は答えなかった。

「……邪魔をするのなら……殺す!!」

美沙斗から殺気を放出されると同時に、少年からも殺気が放出された。

「!!」

美沙斗は相手がかなりの使い手であることを悟り、身を引き締めた。

「……もう一度、訊く……君は誰だ?」

少年は今度は答えた。

「…相川真一郎……貴女の凶行を止めに来ました……御神…美沙斗さん…」

「……何?…」

「……貴女が修羅に墜ちてまで果たす復讐を……貴女の愛した家族が……望んでいると思いますか?…貴女の最愛の夫は、娘を捨てさせてまで復讐を望む人だったんですか……御神宗家当主、御神静馬という人は……そんな男なのですか!!」

その台詞に、美沙斗の殺気が増した。

「……関係のない部外者に、そんなことを言われる筋合いは……ない!!」

 

『徹』

 

言い終わると同時に、『徹』を放つ美沙斗。

 

『貫』

 

しかし真一郎も、『貫』で対抗した。

「……な!?」

『徹』をかわされ、『貫』が眼前に迫ってくるのに驚愕し、慌てて避ける。まるで、先日の恭也の様に……。

「……君は!?」

美沙斗は真一郎が御神流を使ったことに対し、信じられない…という表情をしていた。

「……これで、俺が只の部外者じゃないことは理解してもらえましたか……」

「君に、御神流を教えたのは誰だ?」

「…不破の人間というだけで……名前は知りません…」

真実を話しても信じてもらえないだろうから、また、適当な嘘を吐いた。

「……そうか!!」

美沙斗は答えると同時に鋼糸を放つ。鋼糸は真一郎の小太刀に巻きついたが、すかさずまだ抜いてない方の小太刀で切り、飛針を三本美沙斗に放つ。向かってくる飛針を薙ぎ払い、美沙斗が真一郎に迫る。真一郎は突進してくる美沙斗に対し突きを放った。

 

『虎切』

 

美沙斗は真一郎の突きを『虎切』で払い、蹴りを放つ。真一郎は後方に跳び、その蹴りの衝撃を和らげる。後方に跳んだ真一郎は納刀し、抜刀術のかまえを取る。

 

『薙旋』

 

真一郎は抜刀からの四連撃を放つ、美沙斗は兄・士郎並みに鋭い真一郎の『薙旋』に驚愕したが、『神速』の領域に入りそれをかわす。美沙斗はそのまま、真一郎に迫るが、真一郎も『神速』の領域に入り、2人はぶつかり合った。

「驚いた……その若さで『薙旋』はおろか、『神速』も使えるのか……」

真一郎は『高町恭也』のように膝に故障を抱えていない。しかも、『高町恭也』の身体能力を受け継いだので、その肉体はかなり強靭になっていた。すなわち『神速』を自在に使いこなせるのだ。

しかし、やはり『高町恭也』の経験を持っているとはいえ、真一郎自身は始めての実戦である。僅かな隙が出来てしまい、そして美沙斗はそれを見逃さなかった。

 

『虎乱』

 

「ぐあッ!!!」

二刀で放つ連続技を受け、真一郎はかなりのダメージを受けた。

「君が何者なのか…正直、私は理解できない。しかし……私の邪魔をする敵であることに変わりはない。だから、私は君を殺す!!」

美沙斗は己の最も得意とする奥義の構えを取る。

「いくぞ、相川真一郎!!」

 

小太刀二刀御神流 裏、奥義之参 『射抜』

 

超高速の突き技。かつ、突いた先から様々に派生する、御神流最長の射程距離を誇る奥義である。特にこの『射抜』に関しては、美沙斗のそれは夫・静馬や兄・士郎すら上回る。

美沙斗は必殺を確信していた。

だが、『高町恭也』の記憶を持つ真一郎にとって、彼女の『射抜』は想定内である。しかし、いかに『高町恭也』の能力を受け継いでいるとはいえ、かなりのダメージを受けている今、実戦で使いこなせるかは余りにも分の悪い賭けだった。

「でも、俺は……あの子達の為に……絶対、負けられないんだ!!!

 

小太刀二刀御神流、奥義之極 『閃』

 

「!!な……馬鹿な!?」

美沙斗の『射抜』が真一郎の胸を貫く一歩手前で、真一郎の『閃』が美沙斗を完全に捉えた。防御不能、力と技を超越した一撃が美沙斗を屠った。

まさに紙一重の差で、真一郎が勝利したのだ。

 

 

「……まさか、私が……敗北するとは……」

「はぁ…はぁ…み……美沙斗さん。御神の剣の真髄は護ることです。御神流も御神不破流も殺人術に変わりはありませんが……護るときこそが、最も実力を発揮する。復讐の剣と護りの剣では……どちらが…勝るかは、自明の理でしょう……」

「……御神の真髄…か。私はいつの間にかそれを見失っていたのか……」

美沙斗は自嘲の笑いを浮かべた。

「……貴女に……今回の依頼をした男は……『龍』のエージェントです…」

「……何!!」

「奴らは、美沙斗さんの復讐心を逆手に取り、美沙斗さんの力を利用しようとしたんです」

「……それは事実なのか……?」

美沙斗は、真一郎を睨みながら確認する。

「…今度、奴の左手の甲を確かめてください。『龍』のタトゥーがあるはずです」

「……それが本当なら…私は相当の笑いものだな。…近道をしようとした結果がこれか……」

美沙斗は己の不明に更なる自嘲の笑みを浮かべた。

 

 

「……遅いな、『人喰い鴉』は……まさか、怖気づいたか?」

美沙斗に伊集院勇作の暗殺を依頼した男は、いまだに現れない美沙斗を不審に思った。

その時、彼の背後から鋼糸が彼の手首に巻きついた。

「……な!!」

「ふむ、その手の甲のタトゥー……どうやら間違いない。貴様は…『龍』…だな!!随分と舐めた真似をしてくれる……」

目の前に現れた美沙斗に恐れをなす男。

「ひっ……まっ…待ってくれ!!」

 

小太刀二刀御神流、正統奥義 『鳴神』

 

美沙斗は男を斬り捨て、その場から離れていった。

『伊集院勇作』は、生命の危機から脱した。

 

 

「君のお蔭で間違いを犯さなくて済んだ。ありがとう、真一郎君…」

美沙斗は真一郎に礼を言った。

「……しかし、私の他に御神の剣士が生き残っていたとは思わなかったな………で、君は私に何を望んでいるんだい…?」

「……俺が貴女に望むのは……貴女が美由希ちゃんのところに戻ることです。そして、恭也君と美由希ちゃんに御神流を教え、導いてもらうことです」

真一郎は語った。恭也が父親を失い、無茶を繰り返したこと、それが原因で事故に遭いそうだったことを話した。

「だから貴女が、恭也君に御神流を教えてもらえれば……彼は、歴史上最強の御神になれるかも知れません」

『高町恭也』は人に教えながら、自らもあれ程の高みに達した。もし、きちんと師事していれば…彼は、高町士郎、御神静馬を上回るかも知れないのだ。

「そして、美由希ちゃんは…高町桃子さんのお蔭で真っ直ぐに育っています。でも……やはり、心の奥底に闇を抱えています。実の母親を憎んでいるという、誤解から生まれた闇を……」

「どの面下げて、美由希に逢えばいい……。それに私も桃子さんとは一度逢ったことがある…。私なんかより、美由希の母に相応しいあの人から、今更、美由希を取り上げるなんて……」

「…別に取り上げろなんて言いませんよ。いいじゃないですか、母親が2人いても……彼女が高町美由希のままでも……貴女はあの子の母親なんですから……。最初は美由希ちゃんも貴女を受け入れないかも知れない……でも、優しいあの子ならいつかきっと受け入れてくれます」

美沙斗は……沈黙した……。

「私は…『龍』への復讐を止めたわけじゃない…やはり、私は母親の資格は……」

「その結果が、これでしょう。まっとうな方法で『龍』を潰す……それも、出来るはずです……一応、それに関しても手は打ってあるんです…」

その時、美沙斗は人の気配を感じ、身構えた。真一郎は誰かわかっているのでそのままだ。

「御神美沙斗さん…だな。私は香港国際警防隊副隊長樺一号、まあ、こっちでの名前は『陣内啓吾』だけどね。君の兄の高町士郎とはある程度の付き合いがあったんだ」

その男のことは美沙斗も知っていた。兄・士郎と互角の腕を持つ男…。

「御神美沙斗さん。貴女をスカウトしたいのだが……司法取引の形になるが……そうすれば、今までの貴女の罪を不問にすることができる」

美沙斗は、驚いた顔で真一郎を見た。

「……美沙斗さん。香港警防隊は完全な実力主義の組織です。たとえ追われる側だったとしても、受け入れてもらえます。恭也君と美由希ちゃんの事が済めば……まっとうに『龍』を追うのに最適な職場だと思います」

「…しかし、突然『士郎の妹のことで話しがある』という、電話が掛かってきたときは驚いたよ、真一郎君」

「陣内さんは、高町士郎さんの友人とお聞きしていたので、必ず力になってくれると思っていました」

「まあね、それに御神の剣士が警防隊に所属してくれればかなりの戦力になるし…ね」

真一郎は京都に向かう前に、香港警防隊に連絡していたのだ。その方法は当然『高町恭也』の記憶から知っていた。

「しかし、私としては君もスカウトしたいな…真一郎君」

啓吾は真一郎にも興味を持っていた。

「どうだろう…暫定的ではあるが、香港警防隊の民間協力隊員になる気はないかい?」

真一郎を口説きだす啓吾。

「正隊員じゃないけど、日本で何が起こったら協力して欲しい。特例で帯刀許可を出すし……」

真一郎は当然、銃砲刀剣類所持取締法(銃刀法)に違反している。しかし、香港警防隊に係わればそれが免除されるのだ。

「こちらの都合を優先してくれれば……それに、俺もまだ将来の進路を決めているわけではないので……」

「…それでいいよ。まあいずれは正隊員になって欲しいけどね……で、御神さんはどうします」

啓吾は美沙斗の方に顔を向け、美沙斗の答えを促した。

「……よろしくお願いします。そして、真一郎君、君の言うとおり美由希達に御神流を伝授しよう」

 

 ★☆★

 

美沙斗を伴い海鳴に戻った真一郎は、そのまま高町家を訪れた。

「あっ、いらっしゃい相川さ……!!み……美沙斗……さん!?」

出迎えた恭也は美沙斗の顔を見て、驚いた。

「恭也君、君に相応しい師匠を連れてきたよ」

「久しぶりだね、恭也君」

 

 

予想通り、真相を知らされても美由希は直ぐに美沙斗を受け入れることは出来ず、家を飛び出した。

「……美由希ちゃん…」

「相川さん……わたし……」

「やっぱり、お母さんを許せないかい?」

「……ううん。でも、何を話せばいいかわかんないの……」

別に母親は自分が憎くて自分を捨てたわけではなかった。それが、解って美由希も嬉しいのだ。でも、もともと人見知りする性格の美由希は美沙斗との接し方がわからないのだ。

それに……桃子のことも。

「別に、美沙斗さんが帰ってきても、桃子さんは美由希ちゃんのお母さんだよ。それは、美沙斗さんも認めている…だから、美由希ちゃんにはお母さんが2人いるんだよ」

「いいの?桃子かーさんをこれからもかーさんって呼んで……」

「うん、もちろん。そして、美沙斗さんにも今までの分、たっぷりと甘えればいいんだから」

そう言うと、陰で見ていた美沙斗を促した。

「………おかーさん…」

「ごめんね、ごめんね……美由希……」

数年ぶりに再会した母子はきつい抱擁を交わした。

真一郎と恭也は、そんな2人を暖かく見守っていた。

 

 

桃子が帰宅し、これからしばらく美沙斗が美由希の傍にいることを知り、自分のことのように喜んだ。

「本当に…相川さんには……色々してもらって…」

桃子は、真一郎に何度目かの感謝の言葉を口にしていた。

 

「とりあえず、望んだ形にはなったな……さて、これからどうしようか…」

真一郎は、この結果に満足した。

 

〈第二話 了〉

 


後書き

 

第二話いかがだったでしょうか

恭也「今回は、シリアスばっかりだったな」

そうだね

恭也「それに、本当にかなりのご都合展開になってる」

最初からそう言っている

恭也「まあ、この話の美由希が美沙斗さんと和解出来てよかったよ…」

では、次回からは『とらいあんぐるハート1』のキャラが中心になります

恭也「しばらく、この時代の俺達は出番なしになるんだな」

いや、ところどころでは登場するよ

恭也「そうか、ならばいい」

では、これからも私の駄文にお付き合いください

恭也「お願いします」




恭也の師匠、美沙斗に関しては無事に解決できたかな。
美姫 「うんうん。これだけでもかなり過去を変えたわね」
けれど、これにより恭也も美由希も更なる高みへと行けるだろうな。
美姫 「問題は真一郎の方よね」
民間協力とは言え、あの警防隊の協力者だもんな。
厄介な問題ばっかりだと思うが。
美姫 「まあ、そうそう協力要請は来ないでしょう。多分」
次回は1のメンバー中心みたいだし、日常に戻るのかな。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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