『真一郎、御神の剣士となる』
プロローグ 「恭也、死す」
「……ついに、ここまできた」
御神美沙斗は、過去に思いを馳せていた。
「母さん。これで、『龍』を倒せるね……」
高町美由希は、武者震いしながら母に話しかけた。
「……これで、私の過去を清算する」
兎弓華は、かつての所属した忌まわしい組織を討てることを喜んでいた。
「……では、行きましょう!!」
高町恭也は、嫌な予感を感じながらも突入した。
香港国際警防隊は、犯罪組織『龍』の殲滅の機会を得た。今まで、末端の組織を蜥蜴の尻尾のように切り捨て、けっして、隙を見せなかった組織だったが、とうとう追い詰めることができたのだ。蜥蜴の尻尾を切るということで、見捨てられた末端の組織の生き残りの中には様々な人が居たのだ。『龍』に脅され、やむなく組織に入っていた者。産まれて直ぐに誘拐され、組織の人間として育てられた者。薬物によって洗脳されていた者……など、『龍』に恨みを持つ者は多く存在していた。その人達の執念から、遂に組織の本拠地を見つけ出したのだ。警防隊は『龍』と因縁がある御神美沙斗と兎弓華の部隊に殲滅を命じた。美沙斗は娘の美由希、甥の恭也を部隊に参加させ、本拠地に突入した。敵も必死に抵抗してきた為、部隊には多くの犠牲者が出たが、それ以上に敵に損害を与えた。
小太刀二刀御神流 裏、奥義之参 『射抜』
小太刀二刀御神流、奥義之六 『薙旋』
美由希と恭也の技が『龍』の首領の腹心達を屠る。その隙に美沙斗と弓華が首領に迫った。
弓華の暗器が首領の動きを止める。
小太刀二刀御神流、正統奥義 『鳴神』
美沙斗の奥義か首領に致命傷を与えた。
「……終わった……」
ようやく、美沙斗の復讐は終わった。
「静馬さん、琴絵さん、母さん………そして兄さん。ようやく終わりました…」
死者を想っていた美沙斗に息も絶え絶えな首領が語りかけた。
「……フフフ、確か……に『龍』は本……日を持って……終わりを告……げる。しかし、『龍』……だけが滅……ぶのではな……い。『龍』を……終わらせ……た者も……共に滅ぶ。貴様…らも………此処で死ぬのだ……」
その言葉に反応した恭也が美沙斗たちを突き飛ばした。
「危ない!!」
恭也と美沙斗達の間に鋼鉄の壁が降りてきた。
「…恭ちゃん!!」
美由希が壁に縋りつき拳で叩きながら、恭也を呼ぶ。
「チッ……残った…のは貴様…だけか。まあい…い。貴様だ…けでも道…連れだ……私が……死ねば……私の…脳波の……停止…と共に…この……部屋にある20個の……時限爆……弾のスイッチが……起動…する。フフフ……短時間で……20個の爆弾……全てを…解体……す……ることは………!!!!!」
最後まで喋ることはできず、『龍』の首領は息絶えた。
「逃げろ!!爆弾が爆発する!!20個の爆弾を解体することはできない!!急いでこの建物から脱出するんだ!!!」
恭也が壁の向こうの3人に叫ぶ。
「でもそれだったら、恭ちゃんが……」
美由希が泣きながら反論する。
「ここで、全員が死ぬよりはいい!美沙斗さん、弓華さん!!美由希を連れてここから早く脱出して下さい!!」
「恭也!!」
「恭也君!!」
涙を流し、歯を食い縛りながら美沙斗は美由希を担ぎ、弓華と共にそこから脱出した。
「離して母さん!!まだ恭ちゃんが…!!」
美沙斗の上で暴れる美由希を押さえながら二人は建物からの脱出に成功した。
「……行ったか……」
恭也はホッと息を付いた。
試してみたがこの壁は手持ちの装備では破壊することができなかった。窓にも同じような壁が降りている為、そこからも脱出できない。
「かーさん、なのは、フィアッセ、晶、レン、月村、ノエル、那美さん、久遠、フィリス先生、赤星……そして、さざなみ寮の皆さん。帰れなくてすまない。美由希、美沙斗さん……後のことは……頼む……」
恭也の身体は閃光に包まれた。
「恭ちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!」
爆発と同時に美由希の絶叫が辺りに響いた。
「……恭也……君まで……君まで爆弾で死ぬなんて……ううっ……うぅぅぅぅぅぅぅ!!」
美沙斗はその場で蹲り、嗚咽を洩らしていた。
犯罪組織『龍』は壊滅した。彼女達にとって、かけがえのない存在と共に………。
★☆★
少年は目を覚ました。
「……あれ、俺は……」
夢だったのだろうか。自分が剣士として犯罪組織の壊滅に参加するなんて……。
それに、俺は高町恭也じゃない……相川真一郎だ……。
目覚まし時計を見る。
「ゲッ…朝4時!?こんなにも早くに目が覚めるなんて……」
いつもと違う朝。
真一郎はジョギングをしていた。
「……おかしいな…空手を辞めてから朝のジョギングなんてしていなかったのに?それに…なんだかいつもよりも体が軽い……」
不思議と昨日より体力があるように感じる。それに、今でもなんか頭が混乱している。
八束神社に到着し、真一郎は落ちていた木の棒二本を手に持った。
そして、記憶にある御神流の技を使ってみた。
『斬』
『徹』
『貫』
……記憶にあるとおりの技を放つことができた……。
更に……
小太刀二刀御神流、奥義之六『薙旋』
抜刀からの四連撃を見事に放てた……。
何故か、握力も昨日より強い…。
「……俺は……どうなってしまったんだ……この『高町恭也』としての記憶は一体……」
★☆★
ここは、超越者の存在せし場所。
「あっ、間違えた」
「間違えたって」
「高町恭也の魂を過去に逆行させたが、座標がずれて相川真一郎に宿ってしまった……」
「…おい」
「…まあ、やってしまったものはしょうがない。成るように成れ……」
「無責任だな…おい」
「いいじゃないか。多少、性格に影響するだろうが……彼が高町恭也に変化してしまう訳じゃない。高町恭也の記憶と力を持った相川真一郎になるだけだ……これはこれで、面白いじゃないか」
「それもそうだな」
彼ら超越者にとって、所詮暇つぶしに過ぎなかった。
さて、真一郎君のこれからはどうなってしまうのだろうか。
〈プロローグ 了〉
後書き
恭也「何だ、この話は……」
いや、かなりのご都合話を書いてみたくなって
恭也「俺を殺して……そして、俺の魂が相川さんに宿るって、己はどういう頭をしとる」
まあまあ、『リトル恭也シリーズ』の前に、こんな話も書いてみたくなったんだから
恭也「『リトル恭也シリーズ』って、『小学生恭也シリーズ』じゃなかったのか」
いや、考えてみたらお前が膝壊して、とりあえず歩けるように成るのに一年は掛かったはず。そしたら、お前は中学生になってる筈だから。こっちに変えた
恭也「そういうことは、最初のうちに気付け」
とりあえず、この私の新しい駄文に…馬鹿馬鹿しいですけど……お付き合いください
恭也「よろしくお願いします」
いやいやいや、超越者!
美姫 「思わず突っ込む気持ちも分かるけれど、面白そうだから良いじゃない」
うわー、こっちも同じような性格だ!
美姫 「失礼ね!」
ぶべらっ!
美姫 「それにしても、過去へと遡った魂ね」
うーん、一体どんな影響を与えるんだろう。
真一郎は勿論の事、彼の周りにも影響が出るような気もするし。
美姫 「どうなるのか、次回を待っていますね」
ではでは。