この話は、『桜舞う日の邂逅』や『桜散りし日の決闘』を参考にして創作した話です。
すべてにおいて初挑戦の二次創作SSです。
文法などおかしな点が多々あると思いますが、海より深く、山より高く、大目に見てください。
『少年恭也と女子高生薫の恋物語』
最終話 「時、流れて」
早朝、八束神社で二本の短い木刀を振る少女とそれを見守る青年がいた。
「九百九十三、九百九十四………九百……九十五……六……七……九百九十八……九……。」
「ラスト…。」
「……千。」
少女の名前は高町美由希、私立風ヶ丘学園2年生。
青年の名前は高町恭也、国立海鳴大学の一回生である。
この二人が使う剣術の名は『永全不動八門一派、御神真刀流。小太刀二刀術』。略して御神流。
「恭ちゃん。そういえば今日、薫さんが海鳴に帰ってくるんだよね。」
「……ああ。」
美由希の言葉に恭也が応える。他人が見れば何気なく返事をした風に見えるが、彼を知る人間が見れば充分、喜んでいるのである。
『神咲薫』。
彼、高町恭也が7年前から交際している五歳年長の女性である。
大学を卒業した後、一時実家に帰り、その後、全国を飛び回る忙しい毎日を過ごしていた。
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日宮晴彦が引き起こした事件の後、恭也と薫の生活は穏やかに過ぎていった。
恭也が中学を卒業したとき、二人は初めて肌を重ね、お互いを求め合った。
薫が大学を卒業したとき、恭也と薫は鹿児島の神咲家に挨拶に行った。薫の父、神咲一樹はムキになって反対したが、恭也と試合をして、ポロ負けし(怒りで冷静さを失い簡単に……)その後、雪乃からキツイ折檻を受け、しぶしぶ二人の仲を認めた。
和音は最初から反対していなかったが、1つ条件を付けた。恭也が二十歳になるまで神咲の当主として退魔の仕事に専念するという条件である。恭也が成人したら、海鳴で恭也と共に生活しても良いと。そのため、先程記述したように、薫は全国を飛び回っていたのである。
そして、薫は今日から高町家で下宿することになっていた。さざなみ寮の薫が使っていた部屋は、現在、薫の妹、神咲那美が使用しているからである。
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高町家の朝の食卓。
現在、高町家は家長の高町桃子、長男の恭也、長女の美由希、次女的存在の城島晶、三女的存在の鳳蓮飛、末っ子のなのは、そして、近くで親友と同居しているフィアッセ・クリステラで構成されている。
鳳蓮飛は桃子の親友の娘で、両親が海外に行っているため桃子が預かっている。彼女も晶と同じく、恭也を「お師匠」と呼んでいる。彼女との仲は最悪であるが……ケンカするほど仲がいいとも言う……。
フィアッセは、士郎の死から立ち直り、再び笑顔が戻った。現在は『光の歌姫』の異名を持つ歌手である。
「恭也、この間、薫さんと電話で話して決めた事だけど……増築分が完成するまで、薫さんはあんたの部屋で生活してもらうからね。」
「……はぁっ。」
現在、高町家は増築中である。いずれ、薫と結婚する予定の恭也の為に二世帯住宅にするつもりなのだ。
「「はぁっ。」じゃ、ないわよ。余分な部屋が無いんだからあんた達の家が完成するまでは、そうするのが当然でしょ。大丈夫よ、一階にいるのは恭也達の他は、桃子さんだけだから、夜、少しぐらい激しくしてもノープロブレムよ。」
桃子の突然の爆弾発言に呆れる恭也。
なのは以外、桃子の言っていることを理解した面々は皆、赤面しながら沈黙した。
「高町母よ。家族団らん時にする話題ではないと思うが………。」
「お姉ちゃん。夜、激しくって、お兄ちゃんと薫さん、何をするの。」
無邪気に問うなのはの質問に答えられない美由希であった。
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大学の準備を終え、くつろいでいた恭也の耳に、車のクラクションの音が聞こえる。高校三年生の時から親友になり、現在、同じ大学に在籍している月村忍が迎えに来た。
彼女は昔、知り合った綺堂さくらの姪であり、そのことを知ったとき恭也は「世間は狭い」…と、思った。
「今日は、高町君の恋人の那美のお姉さんが来るんだよね。忍ちゃんは会うのが初めてだから楽しみだよ。」
那美は時々、忍の屋敷でメイドをしている。その関係もあって、忍と那美はかなり親しかった。薫が大学を卒業した後は、恭也と薫は逢える機会が激減した為、薫と忍は面識がなかったが……。
「一応、那美さんから忍が『夜の一族』であることと、さくらさんの姪だという話は薫に伝わっているから、お前が余計な悪戯をしない限り、トラブルは起こらないだろう。」
暗に悪戯するなと警告する恭也だった。
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「う〜ん。やはり海鳴は良かところじゃ。」
海鳴駅に到着した薫は久々の海鳴市の空気を満喫していた。
「さて、恭也の家に行かんとな……。しかし、今日は随分と人がおるな。」
駅から出て周りを見回すと、かなりの混雑していた。とりあえず人の波を掻き分け高町家に向かおうとしたとき、横から人とぶつかってしまった。
「……あっ……すいません。」
「……いえ、うちこそ……あ…貴女はまさか、美沙斗さん……。」
薫は驚いた。かつて出会った愛しい恋人の叔母。しかも、依然とは違い黒い気配は成りを潜め、優しい雰囲気を醸し出していた。
「……君は、恭也君の……確か…神咲薫…さん。」
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「そうですか。恭也と逢ったんですか。」
「ああ、去年のことだ。私の暗殺のターゲットが恭也君の知人だった。」
ティオレ・クリステラ。フィアッセの母で『世紀の歌姫』の異名を持つ国際的な歌手である。
去年、彼女と彼女の娘、教え子達と世界中を回るチャリティ・コンサートが行われた。そのコンサートは莫大な金が動く。しかし、彼女はその金をすべとチャリティに回すつもりだった。そのことで不利益を被る組織が、美沙斗にティオレを脅迫し、受け入れなければ殺すよう依頼した。
恭也は、大切な人達を護る為、美沙斗と敵対した。叔母と甥が死闘を繰り広げたのだ。
その時、恭也は父、士郎ですら到達できなかった御神流奥義の極、『閃』を放ち、美沙斗に勝利した。
『御神』の真髄、護る為に戦った恭也に軍配が上がったのだ。
その後、自分に依頼していたのが、自分が敵と狙った犯罪組織『龍』のメンバーであることを知った美沙斗は今までの自分の過ちを悟り、やり方を変えた。裏家業ではなく、法側でまっとうに『龍』と戦う道を選んだのだ。
「自分の生き方に誇りを持てるようになったから、美由希に花を貰いに来た。私はあの娘の母親の資格はない……。でも、あの娘と向き合おうと思う。それが、恭也君の願いでもあるから……。」
美由希はまだ、母親の真実を知らない。恭也はまだ話していないからだ。
「うちもこれから恭也の家に行くんです。これから、彼と一緒に暮らすことになっています。一緒に行きましょう。」
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母娘の溝は埋まった。
母の真実を知った美由希は、美沙斗と和解した。
そんな、二人を回りにいる者はみな暖かな目で見守っていた。
「しかし、薫が美沙斗さんと知り合いだったとはな……。」
「ごめん。彼女に口止めされていたんだ。」
「……あのとき泣いていたのは、彼女の為だったんだな。」
恭也はあの時のことを思い浮かべていた。7年前、夜の鍛錬のときに泣いていた薫のことを……。
「……彼女と恭也と美由希ちゃんの為…じゃよ…。」
そして、高町家でパーティーが開かれた。薫の歓迎会兼美沙斗と美由希への祝福である。
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「で……結局、二人が結婚したら苗字はどうするんですか。恭也が『神咲恭也』になるのかな。」
桃子の問いに薫が答えた。
「いえ、うちが『高町薫』になります……。」
その台詞に那美が驚いた。
「薫ちゃん、いいの。神咲一灯流当代の薫ちゃんが嫁入りして……。」
「ああ、かまわんよ。恭也が護衛の仕事をしているとき『不破恭也』を名乗るように、うちも退魔師としては『神咲薫』を名乗るつもりじゃから。」
恭也はもう要人護衛の仕事をしていた。その時は御神不破流の継承者として不破姓を名乗っていた。薫もそれに倣うつもりのようだ。
「これから『神咲』は神咲一灯流としての名前とすることは婆ちゃんの承諾も得た。なにも『神咲家』として退魔師の家を続ける必要はないと思うんじゃ。」
名誉を守る為、道を踏み外した日宮家のようにならない為。名に拘らずとも退魔の道は歩めるから……。
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宴が終わり恭也と薫は部屋に戻った。薫の荷物は後日、届くことになっている。2人は同じ布団の中に入っていた。
「薫、本当に『神咲』ではなく『高町』になるつもりか。」
薫を抱きながら、恭也が聞いた。
「……うん。士郎さんだって、御神不破流最後……の一人になったのにあっさり……『高町士郎』になったんじゃろう。それでも士郎さんは……御神の剣士じゃった。だったらうちだって『高町薫』に……なっても、神咲一灯流退魔道の……退魔師……で…『霊剣、十六夜』の……伝承者じゃよ。」
恭也を受け入れながら、薫が答えた。
「明日……父さんと夏織母さんの墓参りに行こう。」
「……うん。」
「薫、愛している。これからは……本当に……ずっと、一緒にいよう。」
「うん。うちも恭也を愛している。……今、うちは最高に幸せじゃ。」
〈少年恭也と女子高生薫の恋物語 完〉
後書き
恭也と美沙斗の戦いはフィアッセルートバージョンです。
私の駄文にお付き合い下さり、誠にありがとうございます。次回作もよろしくお願いします。
前回から時は流れ。
美姫 「とらハ3のメンバーとも知り合い、二人の仲も順調に進展したみたいね」
だな、ハッピーエンドだ。
美姫 「良かったわね」
うんうん。完結おめでとうございます。
美姫 「投稿ありがとうございました」
ありがとうございました〜。