この話は、『桜舞う日の邂逅』や『桜散りし日の決闘』を参考にして創作した話です。
すべてにおいて初挑戦の二次創作SSです。
文法などおかしな点が多々あると思いますが、海より深く、山より高く、大目に見てください。
『少年恭也と女子高生薫の恋物語』
第十一話 「復讐者」
高台にある墓地の1つの墓。その墓には「Shiro・Takamachi」と刻んであった。
「……兄さん。会いに来るのが遅くなってすいません。」
一人の女性がその墓前に立っていた。どこと無く暗い気配が漂う人であった。
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今日は部活に出るため学園に登校していた。奥村君と会ったが、彼は私の顔を見ると青ざめ避けるようになった。以前の恭也君の殺気がかなり堪えたようだ。
部活からの帰宅途中、線香と仏花を持って高台の墓地に足を運んだ。今まで恭也君と接してきて、彼のいろいろなことを知った。そしてその中で恭也君が目標にしている彼の亡き父の話がよく出てくる。一度、その方の墓前に花を手向けようと思い、ここにやって来た。すると、そこには先客がいた。女性のようだが、桃子さんじゃない。
「失礼。高町家の関係者の方ですか。」
うちは、つい気安く声を掛けた。そして、絶句した。その人の気配はとても暗く、全うな仕事をしている風にはとても見えなかった。
「貴女は誰ですか。恭也君達とどういう関係があるんですか。」
うちはきつい言葉に変わる。しかし、内心では震えていた。戦えば必ず殺される。そんな予感に恐怖しているのがよくわかった。
「君こそ誰だ。先に名乗るのが礼儀ではないか。」
彼女の冷たい声に威圧されながらも、正論であるためうちのほうから名乗ることにした。
「うちの名は、神咲薫。……恭也君の恋人です。」
普段ならこんなこと、恥ずかしくてとても言えないが、恐怖に震えている今、偽りを言うことができず馬鹿正直に言ってしまった。
「そうか、あの子の………。ならば、私も名乗ろう。私は御神美沙斗。恭也君の叔母にあたる。」
その言葉に戦慄した。かつて恭也君から聞いた、虐殺された一族の復讐に走ったという美由希ちゃんの母親の名前が美沙斗という名だったのを思い出したからだ。
美沙斗さんはうちが恭也君の恋人だということもあっさりと信じたようだ。
「うちが恭也君の恋人だということを信じるんですか。年齢差があるのはわかるでしょうに。」
「君は、そんな嘘をつくような人間ではない。そんな雰囲気がする。それに今の君にそんな余裕はあるまい。」
彼女はうちが、彼女に恐れを抱いて緊張しているのがわかっているようだ。
「そんなにも怯えないで欲しい。確かに私は君の想像通り、裏家業の人間だ。しかし、甥の恋人に刃を向けたりはしない。君が私の敵にならない限りは……な。」
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士郎さんの墓前に線香と仏花を供えたうちは、美沙斗さんと共に展望台のほうに移った。
「私のことは、聞いているのか。」
美沙斗さんはうちに質問した。
「……はい。御神の家を襲った凶事のことも……。」
「神咲というのは、鹿児島の神咲一刀流の一族か。」
さすが、古流剣術宗家に嫁いだ人だけあって、剣道道場のことは詳しいようだ。
「はい。うちはその本家の長女です。」
「そうか…。………恭也君とは何時から。」
「今年の春ごろに出会い、夏の前から交際を始めました。」
照れることなく淡々と答えていく。なぜか素直に口にでるのはまだ恐怖を感じているからか。
「兄さん……父親を失って、あの子は強く生きているのだろうか。」
その言葉に、恭也君の恋人であるという誇りがうちの心を支配した。
「恭也君は、あの若さで辛いことをたくさん味わいました。一度自棄になったこともありましたが直ぐに立ち直り、強く生きています。大切な家族を護れるよう強くなることを求めて。」
そう。そんな恭也君とこれから共に生きる。それがうちの選んだ道。母さんと婆ちゃんは認めてくれた。しかし、他の神咲の一族が彼をどう思うかわからない。しかし、うちは恭也君と一緒にいる。そのためなら、神咲一灯流伝承者の座を返上してもかまわない。恭也君が傍にいてくれるなら、うちは何も怖くないから。ずっと、笑顔でいられるから。
恭也君を強く想うことで、この人への恐怖も乗り越えることができた。
「なのに、貴女は何をしているのですか。」
いきなりのうちの言葉に美沙斗さんは面食らったようだ。
「貴女は、美由希ちゃんのお母さんなのでしょう。貴女の悲しみと苦しみと憎しみ。うちには理解できません。そんな目に遭ったことは無いから。でも、恭也君は理解できていると思います。恭也君もお父さんをテロで失いました。でも、恭也君は復讐に走ったりしていません。そんなことを出来る実力を持っていないからなのかもしれません。しかし、恭也君はお父さんとの約束を護る為、美由希ちゃんを強い御神の剣士にするため、なによりこれ以上大切な家族を失わない為、前を向いて歩いています。何故、貴女はそんな恭也君や美由希ちゃんを支えてやれないのですか。」
「…黙れ。」
轟!!!!!!!!!!!。
いきなり、彼女から凄い殺気が放たれた。かつて感じた恭也君の殺気よりも更に濃い。うちは圧倒されかかった。しかし、恭也君の為にという想いがそれを跳ね除け、彼女を睨み返した。
「すまない。少し興奮した。」
彼女からの殺気が消え、うちも睨むのを止めた。
「私は、どうしても許せないんだ。確かに御神の家は色々とやって来たよ。……でも、身体が弱かった琴絵さんがやっと掴んだ幸せを踏みにじって、私の大事な人たちのほとんどの命を奪ったあの組織をどうしても許せない。今、止めてしまったらこれまで奪った命も報われないだろう。もう私は止まれないんだ。」
「じゃあ。美由希ちゃんはどうなるんです。」
「あの娘は、私のことを嫌っているさ。」
その言葉にうちは驚いた。あの大人しく優しい美由希ちゃんが母親を憎むだなんて。
「兄さんに頼んで、『あの娘の親はあの娘を捨てた』と教えるように頼んだからだ。」
「そんな。」
「あの娘の母親は桃子さんでいい。こんな、血にまみれた私はあの娘の母にふさわしくない。」
……恭也君が言っていた。
『愛した家族の復讐の為にもっとも愛した大切な娘の母であることを放棄した哀しい女性』。
うちは何も言えなくなった。涙が溢れてきた。恭也君と出会ってから、うちの涙腺は緩みっぱなしだ。うちはもう昔みたいな泣き虫じゃないのに……。
それでも、涙が止まらなかった。この哀しい女性と、恭也君と美由希ちゃんの為に、うちは涙を流し続けた。
「君は、優しい娘だな。私たちのことを自分のことのように、哀しんでくれる。」
始めて見た美沙斗さんの優しい笑顔だった。そして、これがこの人の本当の貌だというのがよくわかった。
「私と今日会ったことは、美由希たちには知らせないでくれ。私は、あの子達に会うことはもう許されないのだから。」
美沙斗さんはその場から消えていた。
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夜の鍛錬に来た恭也君は、うちの真っ赤な目を見て心配そうな顔になった。美沙斗さんのことを言うわけにもいかず、うちはただ恭也君を抱き締めた。恭也君は驚いた顔になったが直ぐに優しく抱き返してくれた。うちは、恭也君に唇を合わせた。彼は何も聞かず応えてくれた。本当ならうちが恭也君を支えなくてはならないのに………。
今晩は鍛錬にならず、ずっと二人で抱き合っていた。
〈第十一話 了〉
後書き
久しぶりに薫の一人称でお贈りしました第十一話、いかがだったでしょう。なんか最近、暗く切ない話ばかりだな。
さて、次回から新学期が始まります。いままでの暗い話を払拭し日常の話を書こうと思う……書けたらいいな。
美沙斗と薫の邂逅。
美姫 「けれど、美沙斗の行為を止める事はできず、ね」
話せないからこそ、薫もまた辛いだろうな。
美姫 「本当よね」
と、思わずしみじみとしてしまったが、次回は新学期の予定みたいだな。
美姫 「どんなお話になるのかしら」
次回も待ってます。