この話は、『桜舞う日の邂逅』や『桜散りし日の決闘』を参考にして創作した話です。
すべてにおいて初挑戦の二次創作SSです。
文法などおかしな点が多々あると思いますが、海より深く、山より高く、大目に見てください。
『少年恭也と女子高生薫の恋物語』
第十話 「歌姫」
静岡県で和音、雪乃、葉弓、楓と別れた三人は、そのまま直ぐに海鳴に帰らなかった。恭也を元気付ける目的で様々なところに寄り道した。翠屋のこともあったが、雪乃が事情を桃子に連絡してくれていたため二つ返事でOKが出た。
「耕介さん。恭也をお願いします。」
桃子は神妙な声で耕介に頼んだ。夏織のことを聞かされ内心複雑なのだろう。
数日後、さざなみ寮に帰った三人は、表に止まっているリムジンに戸惑った。
「お客さんか。」
管理人として、本来、自分が出迎えなくてはならない相手にちょっと恐縮した。まあ、自分の代わりに知佳が得意のお菓子などを振舞っているだろうが。等と考えていたとき、玄関か開いた。出てきたのは外人の二人だった。一人は、年配の女性と若い女性である。その二人を見て恭也が驚いていた。
「ティオレさん。イリアさん。」
「「恭也(くん)。」」
寮から出てきたのは、世紀の歌姫、ティオレ・クリステラ、そのマネージャー兼クリステラ・ソング・スクール教頭、イリア・ライソンであった。クリステラ家と恭也の縁は深い。恭也の父、士郎がまだ不破姓の頃から彼女の夫であるイギリス上院議員アルパート・クリステラのボディカードだったからだ。親日家である彼らはよく日本に来て高町家と共に過ごしていたのだ。しかし、士郎の葬儀以降、高町家を訪れることは無くなっていた。娘のフィアッセの心の傷がまだ癒えていないのだ。士郎の死を自分の所為だと思い込んでいるからである。
「久しぶりね。恭也はここの人たちと親しいの。」
「はい。」
答えた後、耕介と薫に彼女と自分達の関係を説明した。二人も話を聞き納得したようだ。耕介は彼女がゆうひの尊敬する歌手であることを思い出していた。そして、彼女達がゆうひを自分達のスクールに来るよう話をしに来たと聞いて驚いていた。ティオレは薫が恭也の恋人だということに驚いたようだが。
「恭也にこんな素敵な彼女ができたなんてね。」
その言葉に薫が真っ赤になる。元々、様々な国々で生活してきたティオレ達にとって恭也と薫の年齢差など気にもならない。女性が年上で二十歳以上の差があるカップルもいるのだから。
「でも、フィアッセが悲しむわね。あの娘は恭也一筋だったし。」
悪戯っぽい顔で、恭也をからかいだすティオレ。薫が少し妬いたようだ。
「そういえば、フィアッセは。」
「まだ、駄目ね。あの娘の笑顔をしばらく見ていないわ。」
士郎は、フィアッセを庇い命を落とした。その事がフィアッセの笑顔を奪ってしまったのだ。
「私達は、これから桃子の喫茶店にいく予定だけど、恭也はどうするの。」
「少し用事ができたので、夕方までに帰るとかーさんに伝えてもらえますか。」
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「ゆうひ。で、イギリスに行くのか。」
リビングで、恭也、薫、耕介、愛、ゆうひ、知佳、リスティが集まっていた。
「そやな。C・S・Sで学ばせてもらえるなんて夢のようやし。しばらくにゃんこと遊べへんのと、耕介君のご飯が食べれへんようなんのが残念やけど。」
「しばらく。」
「ああ、大学を中退するわけやないから、こっちとあっちを行ったり来たりになるようになるそうやから。」
その言葉に愛がほっとしていた。彼女はかなりの寂しがり屋だ。お別れが辛いのだ。特にゆうひとは親友といっていいほど仲がいい。
「椎名さん。」
恭也が突然話し出した。
「あちらに行くのなら、フィアッセという娘のことを気にかけていただけないでしょうか。」
「フィアッセ。」
「はい。俺の父が彼女を庇って死んでから元気をなくしてしまったんです。」
恭也は語った。父の葬儀の時のフィアッセの様子を。
「彼女は、知佳さんとクロフォードさんと同じ病気を持っています。」
皆がはっとした。そして納得もした。恭也が知佳とリスティの病気を知ったのは偶然だった。知佳とリスティの能力を使った喧嘩を目撃したのだ。しかし恭也は恐れもせず、それどころかそんな喧嘩をしていた二人に説教したのだ。自分達のことを恐れず、しかも説教までした恭也に度肝を抜いた二人だったが、知り合いにHGS患者がいたのなら慣れていて当たり前だった。
「その翼を広げる度に誰かが不幸になると思い込んでいる。先ほど、ティオレさんも言っていました。あれから、あの娘の笑顔を見ていないと。フィアッセには笑っていてほしい。そして、また歌って欲しいんです。椎名さんなら、フィアッセの心を開けると思うんです。」
「わかった。まかしときぃ。歌とお笑いに関しては大阪人に任せとけば大丈夫や。」
「いや、お笑いはともかく、歌は大阪人関係ないだろ。」
ビシっ。
耕介の突っ込みが決まった。
「うん。えー突っ込みや。しばらく耕介君の突っ込みももらえなくなるなぁ。」
リビングが笑いに包まれた。
「………。」
その中で、薫だけが少し、ぎこちなかった。
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恭也が帰ったあと、薫は自分の部屋で宿題をしていた。しかし、一向に進んでいなかった。
「薫。どうしたのですか。」
十六夜が怪訝な表情をする。
「なんでもなか。」
「なんでもない人が、そんな不機嫌な声を出しませんよ。」
十六夜の指摘に薫が言葉が詰まる。
「ただ、自分に腹が立っただけじゃ。」
十六夜は不思議そうな顔をした。
「恭也君が、フィアッセという人を気にかけている事に嫌な気持ちになったんじゃ。自分でも嫉妬していることがわかっている。恭也君はうちを一番想ってくれている。理解しているのに、なのに他の人を気遣われて嫌な気分に。あんなことがあったばかりの恭也君に。そんな自分に腹が立ったんじゃ。」
実の母との哀しい出会い。その後だというのに人のことを気にかける恭也。誇らしいはずなのに、嫉妬に駆られる。そんな自分が悲しくなった薫であった。
十六夜は、そんな薫を微笑ましく見守っていた。
〈第十話 了〉
後書き
今回は短いですね。まあ、今回は繋ぎとして。
次回は、御神に関する話です。裏に係わる人が登場します。
CSS絡みでティオレたちも登場。
美姫 「流石にフィアッセは無理みたいね」
まあ、この時期は丁度落ち込んでいる時期だしな。
美姫 「ゆうひのCSS行きも決まったみたいだし」
今回は薫の嫉妬が。それを知るのは十六夜だけだけれど、まあ少々の嫉妬は仕方ないと思うが。
美姫 「十六夜同様、ちょっと微笑ましく見てしまうわね」
だな。で、次回は御神に関する話みたいだけれど。
美姫 「一体、どんな話なのかしらね」
次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」