この話は、『桜舞う日の邂逅』や『桜散りし日の決闘』を参考にして創作した話です。
すべてにおいて初挑戦の二次創作SSです。
文法などおかしな点が多々あると思いますが、海より深く、山より高く、大目に見てください。
『少年恭也と女子高生薫の恋物語』
第九話 「母」
夏休みの翠屋は忙しい。学生達が休みのため、毎日が日曜日状態。
「薫さん。これを三番テーブルにお願い。」
「はい。」
人手が足りないため、薫は夏休みの間翠屋でバイトすることにした。元々学校の成績は悪くないし、全国大会の成績が良かったため、海鳴大の推薦が決まっていた。だから、一般の受験生より余裕がある。一番の理由は恭也の傍に居たいためであるが。
「しかし、接客というのは鍛錬とは違う意味で疲れるね。」
ピークが過ぎ少し余裕ができたため、恭也と休憩に入った薫はそう呟いた。
「ええ。しかし、経営者側としては、繁盛しているのはありがたいです。」
生活が懸かっているため忙しいと不満はいえない。
「そうだね。」
こういう時間を過ごして一週間がたったある日。
「いらっしゃいま……って、母さんと婆ちゃん。」
「………薫。貴女、ここでバイトしていたの。」
翠屋に入ってきたのは、鹿児島に居るはずの薫の母、神咲雪乃と祖母、神咲和音であった。
「母さん。来るなんて聞いておらんよ。」
「言ってないもの。」
しれっと言う雪乃。
「お前のおる下宿屋に行く前に休憩をかねて、以前お前が言っていたおいしい洋食喫茶とやらに入ってみようと思ったんじゃ。」
翠屋に来た理由を話す和音。
「まあまあ。薫さんのお母様とお婆様ですか。始めまして。店長の高町桃子です。」
桃子がきて、それぞれの自己紹介から談笑が始まった。そして、薫と恭也の交際の話になると雪乃が唖然とした。
「この子と付き合っているの。」
その一言で薫が真っ赤になる。雪乃は自分の娘が少年趣味に走ったのかと心配になる。しかし、恭也と会話をして歳に似合わぬ落ち着きぶりを見るにつれ納得した。
(一樹さんを連れてこなくて良かったわ。)
薫に厳しく接しているが、内心では娘が可愛くて可愛くて仕方がない子煩悩な父、神咲一樹である。娘の彼氏など見たら暴れだす可能性大であった。
「明日には、葉弓ちゃんと楓ちゃんも来ると思うわ。」
「葉弓さんと楓まで。」
神咲葉弓、神咲楓。それぞれ神咲の分家、青森の真鳴流、京都の楓月流の伝承者である。葉弓と楓がそれぞれ来ただけならばただ、薫に会いにきただけだろう。しかし、和音や雪乃まで来たとなると何か重大なことが起こったということだろう。薫は緊張した。
「詳しいことは明日二人が来てからね。」
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夜。八束神社。
恭也と薫の夜の鍛錬を雪乃と和音が見学していた。雪乃は歳に見合わぬ恭也の強さに舌を巻きながら見ていただけだったが、恭也をずっと凝視していた和音が驚愕し、声を上げた。
「御神流か。」
その一言に雪乃が息を呑んだ。
「婆ちゃん。恭也君の流派を知っとるの。」
一息入れていた薫が疑問を挿んだ。薫は恭也の父親のことは聞いていたが、御神流のことは聞いていなかったのだ。
永全不動八門一派、御神真刀流小太刀二刀術。要人の護衛と暗殺を生業にしている流派。確実に効率よく相手を倒す、それのみを追求した剣術。そのためなら手段を選ばない。伝承では一人で百人を倒したという話もある。それは真実だが。暗殺剣でありながらその真髄は護ること。誰かを護る時こそ、最も力を発揮するという矛盾を孕んだ、しかし最強の名を冠する流派である。
「じゃが何年か前に爆弾テロで壊滅したと聞いておった。」
「はい。御神宗家の娘、琴絵さんの結婚式の当日にほぼ全滅しました。」
恭也の台詞に薫が眼を見開いた。
「生き残ったのは、武者修行の旅に出ていて間に合わず祝電で済ませた俺と父。当日、熱を出して病院にいっていた美由希と付き添っていた美由希の母だけです。」
「美由希ちゃんのお母さんって桃子さん。」
「いえ、かーさんはその後でとーさんと結婚しましたので、俺と美由希とは血の繋がりはありませんし、美由希の母親はとーさんの妹です。」
「じゃあ、恭也君と美由希ちゃんは。」
「はい、本来なら従兄妹。つまり義理の兄妹です。」
「美由希ちゃんのお母さんは。」
薫の疑問に恭也の表情が曇った。
「美沙斗さん……美由希の母親は美由希をとーさんに預けて行方を眩ませました。多分、復讐を……。」
恭也の答えに皆が静まった。
御神美沙斗。恭也にとって幼心での初恋の女性であり、あまりにも優しく、家族を深く愛した女性。それ故にそれを奪った犯罪組織『龍』をどうしても許すことができなかった。復讐の為に愛した家族の一人、最も愛する娘の母親であることを放棄してしまった哀しい女性である。
恭也の憂いの表情を見た薫は後ろから恭也を抱きしめていた。この子は、この歳であまりにも不幸な目に遭いすぎている。大切な家族を失ったにも拘らず、それほどの目に遭いながらもその瞳は強さを秘め、そして真っ直ぐだった。この少年を愛することを誇らしく想う薫であった。
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翌日、葉弓と楓か到着した。薫は再会を喜び、恭也を紹介する。やはり、恭也の年齢に驚く二人であったが、真剣な薫を見て茶化さなかった。もっとも楓は薫への対抗心からか、自分も恋人を作ると息巻いたり、薫より強いという恭也に勝負を挑もうとしたが……。
「さて、本日皆に集まってもらったのは日宮家の後始末じゃ」
最近わかったことだが、と和音は皆に説明した。日宮とは神咲と並ぶ退魔を生業にする一族である。約十年前、驕りからか油断からか大昔に封じた鬼を解き放ってしまった。その時、神咲にそれを知らせてくれれば協力し解決できたのに、一族の名誉の為かそれを隠し、再封印するため人の魂を使う外法を使用したという。人の魂を寄り代にして縛りつけるのである。当然、その人は犠牲になる。禁じられ使用すれば退魔の世界では白眼視され、鬼畜にも劣る扱いを受ける。その当時の当主はばれなければいいと考えたのだろうが、何時かは明るみに出るものである、日宮家は制裁を受けた。
「葉弓がその魂を開放し、楓が鬼の動きを封じ、薫と耕介が鬼を斬れ。」
「「「「はい。」」」」
行動方針が決まった。
「恭也君。君も来るといい。いずれ薫の婿となるつもりなら、この世界のことを知っておくのも良いじゃろう。」
「婆ちゃん。」
最後までシリアスは続かなかった。
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静岡県。
その鬼の封印がある所である。偶然にも御神宗家のあった場所でもあった。
計画通り、葉弓が寄り代にされた魂を開放し、自由になった鬼を楓が抑えた。
「「神気発勝。」」
薫と耕介が霊力を高める。それをサポートする『十六夜』と『御架月』。
神咲一灯流奥義 封神 楓華疾光断
奥義が鬼を屠った。封印から逃げようと十年以上も暴れていたため、弱体化していたため思ったよりスムーズに済んだようだ。そして、封印に使われていた魂が人の形をとった。
「感謝します。私は日宮夏織。」
霊……夏織はこの場にいる者を見渡していた。その目が恭也で止まり驚愕した。
「貴方は、まさか恭也。」
この霊は恭也の知り合いなのか。しかし、恭也は不思議そうに問いただした。
「貴女は誰ですか。俺には覚えがないのですが。」
霊は、懐かしそうに、そして哀しそうに呟いた。
「恭也。愛しい子。もう二度と会うこともないと思っていた。私の可愛い息子。士郎に……お父さんによく似ている。」
その言葉に皆、息を呑む。この霊は恭也の母親だというのか。
「俺の母は事故死したと、とーさんが。」
霊はゆっくりと語った。
恭也は不破士郎と日宮夏織との間に産まれた。その数週間後、鬼の封印が解封されてしまった。外法を使ってこれを隠そうと画策した日宮家当主は寄り代に、まだ出生届も出していない恭也を使おうとした。乳飲み子の魂でも問題がなく、戸籍が無い故、最初から居なかったとすることができるためである。それを防ぐため夏織は恭也を連れて逃げ、士郎の下に向かった。士郎に恭也を託し、士郎の個人資産を盗んだ。士郎に愛想を尽かさせようとしたのだ。そうすることで恭也を護ろうとした。士郎は日宮家と夏織の生業は知らなかったから。そして本家に戻り、自分が寄り代になると志願した。日宮家も最強の御神を敵に回すことを恐れ、これを承諾した。霊力はあっても武力でも、政治力でも御神流には歯が立たないからである。盗んだ資産は士郎の母、不破美影に渡すように頼んだという。夏織は知らないことだが頼まれた者は、それを着服していた。よってそれが士郎の元に還る事はなかった。真実と共に。
夏織は知った。士郎が結婚したこと。そして、もうこの世にいないことを。
「恭也。愛しい子。最後に大きくなった貴方に会えて嬉しかった。あの世で士郎に会えたら、真実を話して許してもらうわ。」
嘘である。あの世などないのだから。そのことを知らない恭也に対する優しさである。
「待ってくれ夏織さ……母さん……。まだ話したいことが。」
「ありがとう恭也。母と呼んでくれて。凄く幸せよ。もう思い残すことはない。薫さん。恭也のことよろしくお願いします。さようなら。」
夏織の姿がゆっくりと消えていった。
「……う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
恭也の絶叫がその場に響き渡った。
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「連れてくるべきでなかったかも知れん。」
一泊するため取っていたホテルで、和音が呟いた。
皆、沈黙していた。薫は恭也をその胸に抱きしめていた。自分の乳房の柔らかさが恭也を少しでも癒せればと願って。
「何故じゃ。何故恭也君にはこんなにも辛いことが続くんじゃ。」
一族の壊滅。父親の死。膝の故障。そして実母との邂逅と永遠の別れ。
「恭也君が何をした。何故、恭也君は……。」
薫は会ったこともない神を呪った。まだ十代前半の恭也には辛すぎる。何故、こんな幼いときにここまで立て続けに起こるのだろう。
「……薫さん。俺はもう大丈夫です。」
「恭也君。」
薫の胸から離れた。
「和音さん。俺は連れてきてもらってよかったと思っています。顔も知らなかった母に逢うことができたのだから。」
自分にはかーさんが居る。そう自分に言い聞かせてきた。しかし、心の奥底では実母を求めていたのだ。自分自身でも気付かないくらい小さな望み。そして、母は自分を護ってくれたということが、恭也の心を暖かくしていた。苦しさと共に。
「薫さん、耕介さん、葉弓さん、楓さん。母を助けてくれて、ありがとうございました。」
恭也は、静かに頭を下げた。
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その夜。恭也は薫と同じベットで眠った。皆、何も言わなかった。
ふと、夜中に目が覚めた薫は自分の胸の中で眠る恭也を見た。恭也の瞼から涙が流れていた。
薫は恭也を優しく抱きしめ、再び眠りについた。
〈第九話 了〉
後書き
この話は、たまたま思いついた話です。自分でも何を書いているのだろうと思ってしまった。今までとはタイプの違う話になってしまった。
さて、次回は……何も考えていない。
成長した息子と魂だけとなった母親の再会か。
美姫 「ちょっと驚きの真実まで飛び出したわね」
だな。さてさて、次回はどんな話が待っているのかな。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。