この話は、『桜舞う日の邂逅』や『桜散りし日の決闘』を参考にして創作した話です。
すべてにおいて初挑戦の二次創作SSです。
文法などおかしな点が多々あると思いますが、海より深く、山より高く、大目に見てください。
『少年恭也と女子高生薫の恋物語』
第八話 「殺気」
薫のインターハイは終わった。初めて全国大会に出場し、ベスト16まで上がった。昨年までは県大会で敗退し全国大会には出場できなかった。今年は団体試合では県大会三位で終わったが個人試合で全国に出場した。
「神咲さん、お疲れ。」
「千堂。」
親友の護身道部主将が声をかけた。
千堂瞳。
槙原耕介の幼馴染にして、薫の親友。『秒殺の女王』の異名を持つ。彼女は護身道の個人で全国大会優勝を果たした。純粋な武の腕では薫も『あの子にはちょっと勝てない』と言わしめる女性である。
「残念だったわね。」
「いや、十分じゃよ。全国大会に行けたんだから。」
確かに優勝したいという気持ちはあったが、悔しいわけではなかった。
「そう。でも神咲さん、すごく強くなったわね。」
瞳は薫の上達に舌を巻いていた。確かに薫は風ヶ丘学園で自分に次ぐ実力者である。しかし、女子の人気では柔道に次ぐ護身道とはいえ、剣道とは規模が違う。競技人口の桁が違うのだ。護身道でのベスト16より、剣道でのベスト16のほうが難しいのだ。去年まで県大会で敗退していた薫が今年でいきなりベスト16に上がったのは、快挙といえた。
「そうか。」
薫も自覚していた。恭也との鍛練が薫を強くしていたのである。まだまだ、真雪、瞳には勝てないが。
「神咲。」
薫に声をかけてきた女性。護身道部副将尾崎である。
「なんじゃ、尾崎」
「奥村君が呼んでいるよ。」
「奥村君が。」
奥村とは風ヶ丘学園男子剣道部主将である。今回は男子も全国大会に出場していた。女子とは違い団体試合で全国出場を決めていたのだ。結果は一回戦敗退であったが、彼は相手に一本勝ちしている。初の出場で先鋒、次鋒、中堅が緊張のあまり立て続けに一本を取られあっさり敗北してしまっていたのだ。
奥村の待っているところを聞き、何の用かとそちらに向かう。
「クス。さあ、神咲はどうするかな。」
「どうするかって。」
「あれ、千堂知らなかったの。奥村君が神咲にホの字だって事。」
「ええーーー。」
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「奥村君、どうかしたの。」
薫は奥村に問いただした。剣道部関連のことかと思っているのだ。それぞれ主将同士であるから。
「神咲さん。全国大会も終わったし、俺達ももう直ぐ卒業だ。」
「そうだね。」
主将同士とはいえそれほど親しくないため、薫は標準語で喋っている。
「か……神咲さん。お……俺、君のことが好きだ。」
「え……。」
「俺と付き合ってくれ。」
この奥村という男。容姿はそれほど悪くない。風ヶ丘学園の男子の中で五指に入る人気である。ちなみに風ヶ丘学園人気男子No,1は相川真一郎という並の美少女より遥かに可愛らしい美少年である。三年女子中心の「相川真一郎君後援会」なる本人非公認のファンクラブまであり、学園女子の間では一年女子中心の「千堂瞳様ファンクラブ」という同じく本人非公認のファンクラブを持つ瞳と人気を二分している。本人達はまだ、面識がないが姉弟のようによく似ている。まぁこの二人と比べると一枚や二枚どころか十枚は落ちるがそれでも、彼は人気がある。しかし、薫は彼をそんな目で見たことは一度もなかったし、これからもないだろう。薫にとって彼はアウト・オブ・眼中であったのだ。しかし、根が真面目であるため、彼の真剣な告白に真摯に返答した。
「ごめん。」
「………。」
あまりの即答に、言葉を失う奥村。女子にそれなりに人気があることを自覚していたため、ここまであっさり振られるとは思いもよらなかったのだ。そして続けて告げられた言葉に気が遠くなりそうになった。
「うち、付き合っている男性がいるんだ。」
真面目で朴訥。浮いた話など聞いたことがない神咲薫という少女。その少女からいきなり突きつけられた交際関係。
『付き合っている男性』。なんでそんなものがいるんだ。いや、照れているだけだ。彼女は真面目なのだ。いきなり付き合ってくれといわれてちょっと警戒しているだけなんだ。
と、奥村は思いたかった。
「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。」」
いきなり、第三者の叫びに我に返る奥村。
「せ……千堂、尾崎。なんでここに。」
ちゃっかり出歯亀していた二人であった。
「そんなことより、神咲。あんた彼氏いたの。」
「神咲さんいつの間に。わたし、耕ちゃんからそんな話聞いていなかったし。」
いや、幾らなんでも耕介はそこまで口が軽くないと思うぞ。管理人として寮生のプライベートをいくら薫の親友にとはいえ、そう簡単に漏らすはずかない。どこぞのセクハラ魔人じゃあるまいし。
「今度紹介してよ、神咲。」
「私もちょっと、興味があるかな。朴念仁の神咲さんの心を射止めた男性に。」
と、少し失礼な物言いをする。薫に彼氏かできたことに瞳は少し複雑だったのだろう。もともと瞳は耕介の彼女であった。しかし現在と違い、当時の耕介は人の気持ちなど考えない男であり、瞳に己の欲望をぶつけようとして投げ飛ばされた。好きな相手を拒絶してしまい、そのまま気まずくなり、千堂家の引越しによって自然消滅した。それ以来、瞳は軽い男性恐怖症になっていたのだ。昨年再会したのだが、既に耕介は雰囲気がまるで変わっていて好青年となり、従姉弟にしてさざなみ寮オーナー槙原愛と付き合っていてヨリがもどることはなかった。
「俺は納得しない。その彼氏に会わせてくれ。神咲さんにふさわしいか、見定めてやる。」
吠える奥村。さすがに薫もカチンときた。
「別に奥村君に見定めてもらう筋合いはない。うちが彼と付き合うことに納得しているんだ。」
「まあまあ。神咲、奥村君、落ち着いて。神咲、奥村君だって振られた原因を確かめたい気持ちもあるでしょ。だから、後腐れなくするためきちんと紹介してやったほうがいいんじゃない。」
言っていることは真面目な尾崎だったが、顔は面白がっていた。文句を言ってやりたかったが、言っている事は間違っていないため反論できなかった。それに内心焦っていたのだ。恭也にぞっこん惚れている薫だが、年齢差を気にしていない訳でもない。自分は納得済みだが、他人の目にはどういう風に映るかは自覚していた。しかし、真面目さゆえ、そして多少腹が立っているとはいえ真摯に告白してきた男性に対する礼儀として、紹介することを約束した。
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さざなみ寮に帰宅した薫は、恭也に連絡した。自分が告白されたこと。その相手とオマケ二人に恭也を紹介することを。
「よろしいのですか。」
「何が。」
「いえ、俺みたいな子供を紹介して相手が納得するでしょうか。」
「確かに。でも、だからといって嘘を吐くわけにもいかん。」
「わかりました。明日の鍛錬のときですね。」
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「彼が、高町恭也君だ。」
その場に沈黙が降りた。どう見ても自分達より歳下。しかも、中学生くらいである。
「ふざけているのか。神咲さん。」
奥村は激昂した。薫にからかわれたと思ったのだ。
「ふざけていない。薫と恭也君は本気で付き合っている。」
冗談だと思われないため、同行していた耕介が真面目に説明した。そして、耕介の雰囲気に彼を良く知る瞳が肯定した。
「間違いないようね。耕ちゃんがここまで真剣に話すんだから事実なのでしょう。」
瞳の言葉に奥村の嫉妬心が膨れ上がった。
(……こんなガキに。こんなガキに。こんなガキに。こんなガキに。こんなガキに。こんなガキに。こんなガキに。こんなガキに。こんなガキに……。)
いきなり、奥村の態度が変わった。
「おい糞ガキ。俺と勝負しろ。てめぇみたいなガキに神咲さんは相応しくない。身の程って奴を教えてやる。そして、さっさと神咲さんと別れろ。」
この態度に薫、耕介はおろか、瞳、尾崎さえも顔をしかめる。本性見たりといった感がある。恭也も少し腹が立ち、勝負を受けることにした。
「ルールはどうします。」
「あん。なめてんのか。てめぇみたいなガキに負ける俺だと思ったのか。ルールなんていらねぇ。全力で来な。叩きのめしてやるからよ。」
完全に恭也を見下している奥村。薫、瞳、尾崎の三人はもはや奥村を完全に軽蔑していた。特に尾崎は最初は奥村と薫の仲を取り持つつもりだったのだが、その気もなくなっていた。
「それでは、始め。」
耕介の合図で試合(とは名ばかりの喧嘩)が始まった。奥村が速攻で恭也を叩きのめそうと間合いも関係なしに突っ込む。しかし、いきなり体勢が崩れた。恭也が放った蹴りで足を払われたのだ。バランスを崩し膝をついた奥村の首筋に小太刀を突きつけた。
瞳は目を見張った。かなりの実力差がなければこうまで簡単にはいかない。最初に会ったときから、その身のこなしから只者ではないことはわかっていたが、今の足払いのタイミングを見て、自分でもこの少年に勝てるかどうか自信がなかった。そして、悪い癖が出た。自分も彼と闘いたいという負けず嫌いの面が。
「てめぇ。蹴りを出すなんて卑怯だぞ。こんなの剣道じゃねぇ。」
「奥村君。君がルール無用と言ったんだろ。」
奥村の理不尽な物言いに薫が冷ややかに言った。
「それに、恭也君は君やうちの様なスポーツ剣道をする剣道選手とはまったく違う、実戦本意の剣術遣いだ。だから最初にルールを決めようとしたんだ。恭也君の実力を感じ取れれば、それがわかるはず。」
恭也を侮辱する奥村を薫は許せなかった。恭也を見下し、なめてかかったくせに自分が負ければ相手を卑怯呼ばわりする。最初にルールを決めればそんなことにはならなかったはず。ルール無用と言った以上、奥村が恭也を責める道理はない。
「奥村君。彼を甘く見た貴方の負けよ。恭也君は私でも勝てるかどうかわからない相手よ。」
瞳の言葉に奥村は息を呑む。尾崎も眼を見開いていた。県下最強『秒殺の女王』が恭也の強さを認めたのだ。
「ふん、そうかよ。おい神咲。カマトトぶっていやがったがこんな歳下のガキを誑し込む淫売女だったとはな。そんな女こっちからお断りだ。」
捨て台詞を吐いて立ち去ろうとする奥村。薫は屈辱に青ざめ、耕介、瞳、尾崎が文句を言おうした瞬間。
「貴様。もう一度言ってみろ。」
轟。
その場にいたものはそんな風の音を聞いた気がした。恭也の雰囲気が変わっていた。その身から発せられた風。……いや。質量を伴う殺気。自分にとって最も愛しい女性、神咲薫。その薫を侮辱し貶めた奥村に対し、恭也が怒りを顕にしたのだ。
「…あ…あう…あう…ああああああああああああ………。」
奥村は腰が抜けて、失禁していた。若いとはいえ恭也は御神の剣士である。全国を武者修行し幾多の修羅場を潜り抜けてきている。そんな男に安穏とした生活をしている今時の高校生が叶うはずもなかった。そして恭也もまだまだ未熟故、自分が侮辱されることは流せても、薫を侮辱されることは流せず、その感情を爆発させてしまったのだ。恭也がゆっくりと奥村に近付く。恐怖に震える奥村は逃げようとするが、身体が裏切って動けない。奥村の目の前に来ると、恭也は小太刀を振り上げた。
「も……もういい。恭也君。……もうやめて。」
薫が後ろから抱きしめ、恭也を止めた。身体は震え、顔は青ざめ、泣きじゃくっていた。
「……恭也君。うちは大丈夫。……大丈夫だから。元の恭也君に戻ってくれ。」
「……薫さん。」
恭也は薫の涙を見て冷静になった。
「すいません。薫さん。」
「謝る必要は……ないよ。恭也君が…うちの為に怒ってく……れたのは……わかっているから………。」
薫は泣きながらも恭也に笑いかけていた。
「君。とっととここから消えてくれ。」
耕介が我に返り、奥村を立たせる。
「ひ……ひえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。」
我に返った奥村は脱兎のごとく逃げ出した。
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夜の鍛錬は中止にし、耕介は恭也を自宅まで送り、薫を寮まで連れ帰っていった。
「あんな奴だったんだね。奥村君って。」
帰る途中。尾崎がつぶやいた。
「ええ。見かけにすっかりと騙されたわね。さわやかなスポーツマンだと思っていたから。」
瞳と尾崎は、奥村を完全に軽蔑しきっていた。学校でまた奥村が薫を貶めるかもしれない。そのときは自分達が薫を弁護しようと思っていた。知名度が高く、女生徒に最も信頼されている瞳が弁護すれば奥村より薫の味方に付く者が大半だろう。
「でもあの恭也君って子、とんでもないわね。」
尾崎は身を震わしていた。自分より五つも歳下の少年にあんな恐怖を感じるとは思いもよらなかった。しかし、不快ではなかった。その怒りは薫を想ってのことだから。あの二人がどれだけ真剣なのか、はっきりとわかったのだ。
「…………そうね。」
瞳は悪い癖が引っ込むのを感じていた。あの殺気に当てられ自分では問題にならないことが思い知らされたのだ。『あの子には歯がたたない』と。しかし挑む気にもなれなかった。自分達の『武道』と彼の『剣術』との違いをまざまざと見せ付けられたのだから。そして、薫の上達も納得がいっていた。あんな凄い子と鍛錬していれば強くなるはずである。いずれ、薫に追い抜かれるかもしれないと、瞳は思った。
〈第八話 了〉
後書き
実はこの話が書きたかったんです。
奥村の設定は私の完全なオリジナルです。とらハ2をやっていて美緒ルートで名前の出てくる奥村。なんとなくむかついたのでこんな奴にしてしまいました。
今回は薫が告白される〜、の巻き。
美姫 「とは言え、相手の本性が」
恭也が切れたり、出歯亀から恭也と対面したり。
美姫 「楽しい展開よね」
次回はどんなお話になるのかな。
美姫 「次回も楽しみにしてます」
ではでは。