この話は、『桜舞う日の邂逅』や『桜散りし日の決闘』を参考にして創作した話です。

すべてにおいて初挑戦の二次創作SSです。

文法などおかしな点が多々あると思いますが、海より深く、山より高く、大目に見てください。

 

『少年恭也と女子高生薫の恋物語』

第五話 「退魔の業」

 

 土曜日の午後2時。恭也は義母の経営する喫茶店「翠屋」の手伝いをしていた。「翠屋」は一流ホテルのチーフパティシエだった義母、高町桃子が父、士郎と結婚した後に開業した洋風喫茶店である。特にシュークリームが絶品で女子高生を中心にかなりの利用客がいる。特に午前11時から午後2時までの昼食時は戦場であった。

 

「恭也。忙しい時間もそろそろ終わる頃だからもう上がっていいわよ。」

 

 桃子が朝から店を手伝っていた恭也にねぎらいの言葉をかける。桃子の言葉に従い帰宅する。朝に見た天気予報どおり、かなり強い雨が降っていた。

 

「ふう………。薫さんはそろそろ戻ってくるかな。」

 

 一週間前から薫は退魔の仕事で海鳴を離れていたので、その間恭也は一人で鍛錬していた。一週間も薫の顔を見ていないので、少しさびしい思いをしている。薫と初めて会ったときから、ほぼ毎日顔を合わせていた。自分のこともある程度話し、薫の秘めた仕事のことも聞いていたので友達のほとんどいない恭也にとって、家族………亡き父、士郎。義母、桃子。義妹、美由希。異母妹、なのは。高町家居候、城島晶。遠き地にいるクリステラ親子………と同じくらい大切な存在になっていた

 すると、向こうからその当人が歩いてきた。声をかけようとしたとき恭也は絶句した。

 

「……あ………恭也君…………。」

 

 この雨の中、傘も差さずびしょぬれになっていて、呆然としていた。いつもの凛とした薫とは、まるで違っていた。

 

「どうしたんですか、薫さん。このままでは風邪をひきますよ。」

 

 いつもと違う薫に戸惑い、とりあえず最近買って貰ったケータイで家に連絡し、家に居た晶に風呂を沸かしてもらうよう頼み、薫を家まで連れて行った。家に到着後、薫に風呂を進め、母に連絡して着替えを借りると断り美由希に用意させた。

 

「師匠。あの女の人は誰ですか。」

 

 男の子のような少女。城島晶が尋ねる。彼女は恭也を尊敬し彼のことを師匠と呼ぶ。

 

「ああ、俺の鍛錬仲間の神咲薫さんだ。」

 

「お兄ちゃん。夜の鍛錬はあの人とやってるんだ。」

 

 美由希は自分が参加していない夜間鍛錬の相手に興味を持つ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 薫が風呂に入っている間、霊剣『十六夜』を部屋に持ってきて、十六夜から事情を聞いていた。

 

「今回の仕事は、半月前に事故死した一家の霊の鎮魂でした。」

 

 半月前。旅行帰りの一家の乗った車が居眠り運転の10tトラックに後ろから押し出され、ガードレールを突き破り崖に転落して命を落とした。幸せ絶頂の一家が一瞬にして死にいたってしまい、己の死を認められなかった彼らは悲しみからその道で事故を引き起こしていた。

 薫の説得に応じず、薫を引き込もうとしたため強制的に成仏させたのだった。

 

 話しがちょうど終わったときに晶が部屋を訪ねてきたため十六夜は刀身に戻った。

 

「師匠。薫さんの着替えが終わりました。」

 

「そうか、じゃあこの部屋に連れてきてくれ。」

 

 しばらくして、薫を部屋に連れてきてくれた晶に薫の食事の用意を頼む。

 

「夢に、出てくるんじゃ。」

 

 ぽつり、ぽつりと話し出す。

 

「仕事が終わった後、宿で一泊して、眠りにつくと何度もあの光景が夢に出てくるんじゃ。」

 

《何故、俺たちがこんな目にあうんだ。》

 

《この子達だけでも助けて。この子達だけでも生きさせて。》

 

《痛い。痛いよ。熱いよ。焼けそうだよ。》

 

《助けて。ここから助けて。お家に帰りたいよ。》

 

「その夢で目が覚めて、また眠るとまたその夢を見る。」

 

「薫さんは、その霊たちを救ったのでは「殺したんじゃ。」……ないん……。」

 

 薫の叫びに遮られる。

 

「強制的に成仏させるのは、霊となった人を斬ってもう一度殺すことなんじゃ。」

 

「殺したわけではないじゃないですか。」

 

「だって……泣いていた。痛がっていた。」

 

 薫は泣き出していた。恭也の膝の治療したときとはちがう、苦しみの涙であった。恭也は何も言えなくなっていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 食事を取り終えた薫を恭也は寮に送っていた。そしていつも鍛錬に使っている八束神社に来たとき見慣れぬ神主が立っていた。

 

「お嬢。ごくろうじゃったな。」

 

「先生。」

 

 この神主は薫の同業であり、霊力は薫より劣るが老練な退魔師であり、薫が師事していた。

 

「今回はお嬢に辛い思いをさせてしまったな。」

 

「いえ、依頼があれば、それを行うだけです。それで痛む心は、退魔に身をおくものとして当然のことだと。」

 

「その少年はそう思っておらんようじゃぞ。」

 

 薫は恭也に視線を送り、恭也が頷くのを見て悲しそうな顔をする。

 

「もう一度、かの地にいってみなされ。お嬢の悩み。救われるやもしれん。」

 

 翌日。

 耕介が真雪から借りた車に薫を乗せ恭也を迎えに来た。昨日、薫を寮に送り届けたとき出迎えた耕介に簡単な自己紹介をした後、神主の話をすると耕介が二人を送ることになったのだ。

 現地に到着すると、そこに一人の老婆が立っていた。

 

「どうされたのですか。」

 

「いえ、ここで息子夫婦と孫か事故で逝ってしまいましての。あの子達がここで他の人を事故にあわしているという噂を聞いて、じっとしていられなくなりここに来ましたのですじゃ。」

 

 老婆は悲しそうな声で話す。

 

「もし、本当にそうならどう思われます。」

 

 恭也は薫の為、失礼を承知で尋ねる。

 

「本当にそうなら、あの子達が哀れでならぬよ。幸せじゃったあの子達が不幸を振りまいておるのなら。あの子達を成仏させてやってほしい。聞いた話によると御祓いがなされたと聞いておる。あの子達は救われたのじゃろうか。」

 

「大丈夫です。自分はその祓い師に面識があります。その人ならきっと、ご家族を救ってくれたはずです。」

 

 恭也は小さな微笑を浮かべた。老婆はうれしそうな顔をした。

 

「あの子達は安らかに眠れるんじゃな。どんな理由であれ、ここで事故が起きるのはあの子達を連想してしまう。成仏してくれることが、これからあの子達が安らげる唯一のことじゃ。」

 

 老婆が去ったあと、薫は涙を溢れさせた。

 

「薫さんのお陰じゃないですか。」

 

「う……うああああああ。」

 

「薫さんは、その一家と残されたあのご老人の心を救ったんです。」

 

 薫は膝をつき、恭也の胸にしがみついて心の限り泣いた。恭也も薫の頭を抱きしめていた。そんな二人を耕介は優しく見守っていた。

 

〈第五話 了〉

 

 


後書き

 第五話、いかがだったでしょうか。とらハ2の薫ルートを多少アレンジしてみました。

 次回、二人の仲は進展します。そしてあの、魔人が二人の前に立ちふさがります。からかいという武器引っ提げて。

 では、これからもこの駄文にお付き合いください。




薫ルート恭也ヴァージョン。
美姫 「これにより二人の仲が更に進展」
次回はいよいよあの人が出てくるのか。
美姫 「さてさて、どんな騒ぎになるのかしらね」
いやー、楽しみでもあり、怖くもあるな。
美姫 「それじゃあ、また次回で〜」



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