『時空を越えた黄金の闘士』
第七十三話 「十年越しの愛」
スバル達は、なのは達隊長陣から第二段階クリアを認められた。
今日の早朝訓練の模擬戦は、何気に見極めテストを兼ねていたのだ。
ヴィータ曰く、「これだけみっちりやってて、問題があるなら大変だ」……とのこと。
そして、FW陣が六課に配属されてから、初めての休暇をもらえる事になった。
スバルとティアナは、ヴァイスから借りたバイクでツーリングと洒落込み、エリオとキャロは、リニスから洋服をプレゼントされ、シャーリー監修による休日のお出かけを楽しむこととなった。
キャロは聖闘士の掟として、素顔を隠すためにいつものバイザーをつけているが……。
「何だ…出かけるのかアイオリア?」
カノンに声を掛けられたアイオリアは、いつもの革のプロテクター姿ではなく、珍しく管理局の本局制服に身を包んでいた。
「ああ。これから地上本部のレジアスを訪ねる…」
アイオリアは別に管理局に所属しているわけではないが、一時的とはいえ六課の顧問として立場なので、本局や地上本部に出向くときは、制服を着ている。
聖王教会や他の部隊官舎に行くときは、普段どおりの格好だが……。
ただ、管理局員ではない為、区別をつける為に青や黒ではなく、山吹色の制服である。
黄金聖闘士なので、最初は黄金色で作ろうという話もあったが、プロテクターなら兎も角、衣服に金色は流石に悪趣味だとアイオリアが猛反発し、ならば近似色である山吹色にしようという事になった。
それでも充分に派手だが……。
「お前にも話したが、本局所属の航空武装隊の一隊が丸々海闘士に寝返った件をレジアスに伝えなければならんからな」
この件は未だに緘口令が布かれ、一般の局員にはまだ伏せられているが、流石に地上のトップであるレジアスにまで秘密にするのは後々不味いと判断され、レジアスを抑えることの出来るアイオリアに伝えてもらおうという話になった。
「……外部協力者にそういう事を押し付けるとは……本局の奴等も小賢しいな…」
「まったくだ。普段は地上本部を軽くに見ているからか、頭を下げるのを嫌がる…」
地上の事を重要視しているのなら、優秀な人材のヘッドハンティング等する筈がない。
リンディ達も本局の上層部の態度に眉を顰め、三提督も呆れていたが、結局、アイオリアが引き受けることになった。
「……お前の言った通り、俺たちが海闘士と戦っている間、後顧の憂いを断つためには、今、本局と地上がいがみ合われては困るからな…」
そうでなければ、誰がこんな面倒な役割を引き受けるか…。
はやて達の件さえなければ、どちらかと言えば地上寄りのアイオリアは、本局の連中に対し憤りを感じていた。
奴等が普段から、地上の事を蔑ろにさえしなければ……こんな余計な気苦労を背負う必要もなかったのだから……。
外ばかりに目を向け、自らの足下を見ない輩に対し、腹立たしい思いを抱いていた。
確かに、真の『男』とは遥か遠くを見ているモノだが……それは自らの足下を確りと固めてからにすべきなのだ。
古代の覇王や英雄が、己が覇業を達成できなかった最大の理由が兵たちの望郷の念である。
自らの家族を残す地の治安が悪ければ、安心して異郷の地への任務に就くなど出来よう筈もない。
「ここ最近、レジアスは質量兵器の運用を提唱し、本局の連中がそれを反対しているが……奴等は反対するだけで不足がちな人材で奮闘するレジアスの苦労を考えないからな…」
確かに、質量兵器による環境汚染が問題なのはわかる。
アイオリアやカノンの故郷たる『地球《エデン》』も文明の発達による環境破壊は問題視されていた。
しかし、その一因は考え無しに管理する次元世界を増やし、慢性的な人手不足に陥らせた本局にも問題があるのだ。
管理世界の拡大だけでなく、その内政、軍事バランスの調整等、本来その世界の人間がやるべき事にまで手を出していれば人手不足になるのは当たり前である。
そして、その割りを喰ったのが地上なのだ。
拡大する管理世界の保護の為、優秀な人材を次から次へと地上から奪っていく本局に、地上が反感を持たない方が可笑しい。
そして、その打開策の為、質量兵器の運用を提唱すれば、反対される。
本局と地上の確執は、何も武闘派のレジアスの強攻策のみに原因があるわけではないのだ。
「この問題は三提督も頭を悩ませているらしいからな……どちらの言い分にもそれぞれ理がある為にな…」
本局の管理世界拡大の言い分は、ならば管理局の庇護を受けなければ滅びるかも知れない世界を見捨てよというのか…である。
確かに救いを求めている者達を見捨てるのは心が痛むし、見捨てられた方にとっては溜まったモノではない。
「……成る程…。どちらの言い分を是とするか…。これの決着は一朝一夕では済まんな…」
これは、『神』ならぬ人の身では、万人が納得する様に解決させるのは不可能に近い二律背反のようだ。
★☆★
カノンが六課に滞在している間、寝泊りしている士官室。
その部屋から美味しそうな匂いが立ち込めていた
カノンが、その腕を振るっている……わけではなく、振るっているのはフェイトだった。
新人達が休暇を利用し外出しているので、隊長陣は隊舎で待機している。
副隊長であるシグナムとヴィータは外回りである。
シグナムは、108陸士部隊との合同捜査本部立ち上げの為の会議に出席し、ヴィータは向こうの魔導師達の戦技指導の依頼が入っていた。
捜査周りの事なのでフェイトも一緒に行こうとしたのだが、シグナムが「これは副官の役目だ」と言って、1人で出向いた。
いい機会なので、割りとワーカーホリック気味のなのはとフェイトも休むべきだという意見の下、二人にも隊舎内限定だが、半休が与えられる事になった。
振って湧いた休みを利用し、フェイトはカノンに料理を振舞うことにした。
ここ10年のリニスから受けた花嫁修業の成果を発揮するチャンスを生かすことにしたのだ。
なにしろ、子供の頃と違い二人で過ごす機会など滅多に訪れない。
管理局に入局し執務官になって以来、中々カノンと時間が合わないからだ。
フェイトの料理を平らげたカノンは、実に満足していた。
フェイトが作った料理は、ミッドチルダ南部地方の家庭料理であり、地球の料理とはまた違った味わいだった。
フェイトの料理は、前述の通りリニス直伝であり、そのリニスはカノンの使い魔である。
当然、リニスはカノンの食事の支度等も行っていたが、殆ど地球の料理を用意しており、ミッドの料理を振舞ったことはなかった。
フェイトがカノンに料理を振舞う時の為に自重していたともいえる。
同じ人間とはいえ、国が違えば食文化も違う。
ましてや異なる世界ならば尚更だ。
それでいて、同じ人間なので、そこまで味覚に差異はなく、口に合わないということもなかった。
カノンは料理の腕は一流だが、別に美食家というわけでもなく、どのような粗食にも耐えることができるので、尚更である。
食事を終えたカノンとフェイトは、他愛のない雑談などをしていた。
仕事が休みの時によく聖域を訪ねていたフェイトだったが、カノンの方が候補生達の指導や畑仕事の為、あまり暇がなく、ゆっくりと語り合うなど実に久しぶりだった。
出会った時のことや、裁判の間、一緒に居たときの事などを楽しそうに語るフェイトを見て、カノンはため息を吐いた。
「……どうしたの…カノン…?」
「…いや、お前の一途さに呆れているだけだ…」
「…えっ?」
「……お前の俺に対する想いは、麻疹みたいなモノだと思っていたのだが……まさかこの十年…まったく色褪せる事がないとは…な…」
「…えっ/////」
いきなりのカノンの発言に、フェイトは頬を真っ赤に染める。
そう、フェイトのカノンに対する想いは十年前から変わっていない。
しかし、まさかカノンが自分の想いに気付いているとは思っていなかったのだ。
「……まさか、気付いていないとでも思っていたのか?」
「…だって…そんな素振りは…」
「お前…隠していなかっただろうが…」
そう、フェイトは別に好意を隠してなどいなかった。
執務官としては実に優秀で、仕事に対しては隙などないのだが、日常においては感情の表現は実に素直だった。
いくら朴訥のカノンでも気づかないわけがない。
別の時空世界の某主人公の様に、自分に対する恋愛感情にまるで気づかない等という超鈍感というわけでもないのだから…。
しかしカノンは、フェイトの想いを小さな子供が近所の年上の異性に対して抱く、麻疹みたいな初恋程度にしか考えていなかった。
もともと実年齢が二十年近く離れているのだ。
『時の神』にカノンはテロメアを弄られてるので、肉体年齢は五年程度の差だが……。
成長すれば、年齢に見合った相手と恋愛し、やがて自分から離れていくだろうと考えていたのだ。
まさか此処まで一途に自分を想い続けるなど……正直、カノンはフェイトを侮っていた。
フェイトは最初からずっと本気で、カノンを慕い続けていたのだ。
「……俺としてはお前の心変わりを期待していたのだがな」
「……どうして……迷惑だから?」
フェイトは、カノンに拒絶されたと思い涙ぐむ。
「…いや、俺が普通の男ならば……お前の気持ちを受け入れる事は吝かではない…。確かに実年齢には開きがあるが、肉体年齢はそれ程でもないし……この十年…予想を遥かに上回るくらい……お前は美しくなった…」
幼い頃から綺麗な顔立ちをしていたし、母親であるプレシア・テスタロッサも年齢を感じさせないほどの美淑女だったので、ある程度予想は出来ていたが……妖艶なプレシアとは違ったタイプの美少女に成長したフェイトに、目を奪われなかったと言えば嘘になる。
正直、カノンもたまに見惚れる程にフェイトは美しく成長した。
「……だからこそ…罪人の俺など気にせず…他の男と幸せになって欲しい……」
どれ程、正義の為にその身を掛けて戦おうとも、罪の清算をいくらしようとも、カノンの大量虐殺の罪が消えてなくなる事は、永遠にないのだ。
カノンは一生、その罪を背負い続けなくてはならない。
たとえ、アテナがカノンの罪を許そうとも……いやだからこそ、罪深い自分をお許しくだされたアテナに応える為にも、カノンは命尽きるまで罪の清算を続けるだろう。
そんな茨の道を歩く自分と共に歩む必要などないのだ。
フェイトも、確かに一度は罪人の立場に立ったこともある。
『PT事件』においても、フェイトは誰かの命を奪ったことはないし、無関係の者が犠牲になってもいない。
ただ母親の言う事を聞いていただけの9歳の少女に過ぎなかったのだから、それは罪とはいえない。
少なくとも、自らのその行いにより何千、何万もの人々の命を喪わせたカノンに比べれば微々たるモノだ。
「何より…俺では間違いなくお前を幸せには出来ん…」
必要ならば、カノンはその命を捨てることを躊躇わない。
命一つで、世界が救われるなら……カノンはあっさりと自らの命を絶つだろう。
カノンが死ぬことで、フェイトが悲しむと解っていても……。
「……カノンが死んだら…当然、私は悲しいよ……。きっと…辛くて苦しくて……ずっとそんな想いを抱いたままだと思う…」
母プレシアを喪った苦しみは、今もフェイトの心に存在している。
ならば当然、カノンが死ねば……その苦しみも心にずっと残るだろう…。
「…でも……それでも私はカノンの傍にいたい…。別にカノンに幸せにしてもらわなくてもいい……。だって…カノンの傍にいることが…私にとって…何よりも幸せなことだから……」
カノンに何かしてもらう必要など無い……。
幸せにしてもらうんじゃない…。
自分を好きでいてくれて……命ある限り、自分と共にいてくれれば……それで自分は幸せになれるのだから…。
「…それに、もうカノンには一杯一杯…大切なモノを貰っているから……もう充分幸せだよ…」
カノンは唖然としていた。
いかにも、自分に都合のいい話である。
カノンが何もせずとも、フェイトは勝手に幸せになるというのだから……。
フェイトは、どうやらカノンが想像の斜め上を行く存在だったようだ。
「……馬鹿が…俺と一緒にいても……世間一般的な幸せは絶対に味わえんぞ…」
カノンは、フェイトを優しく抱きしめた。
「……お前の好きにしろ……どうなっても知らんからな…」
「…うん…」
いつからだろう。
カノンが、フェイトの事を保護者としてではなく、1人の女性として見るようになったのは……。
年を追う事に美しく成長していったフェイト。
管理局の執務官として働くうちに、奇麗事では済まない事にも多く直面しただろう。
それでも、その心根の優しさを損なうことなく……。
だからこそ、幸せになって欲しい。
自分などよりも、きっとフェイトを幸せに出来る者がいるだろう。
なのに、フェイトは茨の道を進むカノンと共にいることを選んだ。
そして、それでいてそんなフェイトを拒絶できない自分がいる。
……アテナの為に、正義の為にこの命を捨てることに…躊躇いはない……。
それでも……そう易々とはこの命…無駄には出来なくなってしまったようだ…。
突如、六課全員に全体通信が入った。
【こちらライトニング4、緊急事態につき現場状況を報告します!】
〈第七十三話 了〉
真一郎「ロマンティックのかけらもないな」
まあ、所詮カノン相手にそんなムードのある話にはならないだろう
真一郎「まあ、それでもフェイトもようやく想いが実った…のか?」
少なくとも、カノンもフェイトの事をいつの間にやら1人の異性として見ていたのは確かだ…
真一郎「……昔と違って今のフェイトはなかなかエロいスタイルをしているしな」
外見は隙のないキャリアウーマンっぽいからな…
真一郎「中身は天然だし、仕事以外の場所ではドジッ娘だけど…な」
では、これからも私の作品にお付き合いください
真一郎「お願いします。君は小宇宙を感じたことがあるか!?」
のんびりとした休暇、とはやっぱりいかなかったみたいだな。
美姫 「それでも、カノンとフェイトの関係が少し変化したとは思うけれどね」
それにしても、折角の休暇だというのに。
美姫 「緊急事態なんてついてないわね」
一体、何が起こったんだろうか。
美姫 「続きが気になります」
次回も首を長くして待っています。
美姫 「待ってますね〜」