『時空を越えた黄金の闘士』

第七十二話 「成長と奇跡」

 

アイオリアに諭されたティアナは、今までが嘘の様に訓練が充実していた。

「最近のティアナは、調子がいいな…」

なのはと共に新人達の教導を担当していたヴィータも、満足していた。

ホテル・アグスタでのミスショット以来、足踏み状態が続いていたとは思えないくらいの上達ぶりである。

「……別に急にお前が強くなったわけでもない…。日々の積み重ねにより、自然と上達してはいたのだ……。ただ、必要以上の気負いによって実力が出し切れていなかっただけさ…」

休憩に入り、自分の上達振りが信じられなかったティアナは、その疑問をアイオリアに問うたら、そう返答された。

「なのはの教導による目に見える成果は確かにあの時点では表れてはいなかった……が、それでも着実にお前は向上していたということだ…。あの時も言ったが、お前はまだまだケツの青いヒヨコに過ぎん……師匠の方針に疑問を抱くなど10年早い。…強くなっている気がしない…という焦りが枷となり、実力を発揮できていなかったに過ぎなかっただけさ…」

カノンが最初にティアナの自主練を無駄な事と弾じたのは、ただ体を虐めているだけに過ぎなかったからである。

何の効果もなく、ただ疲労するだけの自主練など、無駄以外の何モノでもない。

「無茶をしなければならない場というのは確かにある。しかし……お前の無茶は自棄と同義のモノだった」

目に見える成果が中々現れない為に焦り、焦ったが故に手痛いミスを犯し、更に焦り自棄となった。

「まあ正直、お前がそんな状態になった一因は、なのはにもある…お前もだぞヴィータ!」

「…うっ!」

「…無茶を叱るのは当然だが……正直なところお前たちのコミニュケーションの薄さも一因だ!ティアナがあそこまで意固地になる前に腹を割って話をしていれば……俺が出る幕はなかったのに…」

技術的な事ばかり教える事にのみ目を向け、心を蔑ろにしていた2人にも非があるとアイオリアに指摘され、ヴィータは息を詰まらせた。

かつて、聖域で魔鈴の指導を受けていた星矢の悩みを聞いてやった事があった。

当時の聖域は、西洋人至上主義が台頭しており、東洋人である星矢にきつく当たる面々が多かった。

今でこそ星矢に無償の愛を捧げているシャイナも、当時はそうであった。

東洋人……日本人である星矢に聖闘士になる資格はない…と、言って蔑み、その事で星矢は一時、修行をサボろうとする様になっていた。

日本人が聖闘士になれないのなら、修行する意味なんてないじゃないか!……と。

アイオリアは、そんな星矢に魔鈴の例を挙げて諭した。

魔鈴は、星矢と同じ日本人。

その魔鈴が聖闘士になっているのだから、日本人が聖闘士になれないなんて事はない…と。

魔鈴は確かに星矢に対し、鬼の様な修行を課したが、そういった心のケアをしっかりと行っていた。

自分では対処しきれなければ、アイオリアに協力を要請したりしていた。

そういった面があるからこそ、あれほど扱かれながらも、星矢は魔鈴を慕っていたのだ。

「いつか解ってくれるだろう……などとヒヨコ相手に悠長な事をしているから、ここまで拗れるんだ。確かになのは…お前は、優秀な教導官であり、その実績は見事なモノといえる。しかし、戦闘技術を教えることには長けていても、やはり19歳の小娘……人間そのものを育てるにはまだまだ未熟だということだな」

そこに、いつの間にかこの場に来ていたカノンが口を挟んだ。

「弟子の育成というのは難しいモノだ……この十年、俺もアイオリアも痛感していることだ」

クロノやヴェロッサは兎も角、他の聖闘士候補生達の育成には2人とも手を焼かされたモノだ。

童虎の様には、中々いかないものである。

「今のお前は高度な戦闘技術のみを教える教導官というだけじゃない。こいつらの『隊長』だ……。戦闘技術を教えるだけではなく、こいつらの心の支えにならなければならない。はやても、お前ならそれが出来ると思ったから、お前をこいつらの隊長に任命したのだ……親友だからというだけで、今のポストを任せた訳でない……その事を忘れるな…」

 

 ★☆★

 

本日の午後の訓練は、座学の予定になっていた。

戦闘訓練は何も実技だけではない。

座学も重要である。

本来はなのはの講義だったのだが、予定を変更し、アイオリアとカノンが担当することになった。

いつもは座学には参加しないライトニングの二人も今回は強制参加させられている。

二人にも聞かせる必要があることだからだ。

「…聖闘士の優劣は何も纏っている聖衣によって決まるわけでない。聖闘士の優劣を決めるもの……それは『小宇宙』だ」

アイオリアは、小宇宙の概念について説明を始めた。

エリオとキャロにとっては復習だが、スバルとティアナにとっては初めて聞くことだったので、真剣に聞いていた。

『ビックバン』によって誕生した宇宙。

それは全ての次元世界に共通したこと。

宇宙に生まれた者は、全て己の中に小さな宇宙を持っている。

それが『小宇宙』であり、それを目覚めさせ、燃焼し、爆発させることで聖闘士は超人的な力を発揮する。

「……と、ここまではエリオとキャロは知っている事だ……さて、俺たち黄金聖闘士の実力はお前たちの想像よりも何倍も隔たりがある。何故、俺たちの力をそこまで強大なのか……それは、『小宇宙』の真髄を極めているからだ」

エリオもキャロも、『小宇宙』というものは精神力によって生み出されると漠然と考えていた。

二人の師である童虎も、そこまで詳しく語っていなかった。

「確かに、精神力から小宇宙が生み出されるというのも間違いではない……。しかし、突き詰めていけば究極の小宇宙というモノは……『セブンセンシズ』なのだ」

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの五感……そして、直感やムウの異能を含める第六感。

その六感を超える第七の感覚……それが小宇宙の真髄である『セブンセンシズ』である。

小宇宙が魔力と違い、人間なら誰もが持っているといわれるのはその為である。

「……何故、老師は僕たちに『セブンセンシズ』の事を教えてくれなかったのでしょうか?」

「……『セブンセンシズ』とは、誰かに教えられて身につくモノではない。自分自身の力で目覚めるしかないのだ」

最下級の青銅聖闘士でありながら、その『セブンセンシズ』に目覚め、黄金聖闘士と互角に戦った者たち。

それが、星矢達五人の青銅聖闘士なのだ。

「老師や教皇は、俺たちと違い、最初から黄金聖闘士だったわけではなく、二百数十年前の聖戦前に『セブンセンシズ』に目覚め、青銅聖闘士から黄金聖闘士に昇格したらしいし…な」

星矢達や老師の様な前例があるので、エリオやキャロにも可能性はあるのだ。

「星矢達は決して天才というわけではない。では、何故彼らが黄金聖闘士しか目覚めていない『セブンセンシズ』に目覚める事が出来たのか……それは、不屈の闘志と仲間を信頼していたからだ…」

そう、星矢達を魔導師達に例えると、なのはやフェイトの様なタイプではなく、ティアナの様なタイプである。

青銅最強と謳われる一輝を含め、彼らはずば抜けた天才というわけでないのだ……瞬を除いて……。

瞬は、間違いなく天才である。

実質、瞬は銀河戦争の時より、既に白銀聖闘士級の実力を持っていた。

戦いを好まない、人を傷つけることを嫌うその性格ゆえに実力を発揮できなかったに過ぎない。

「星矢達は、どんな時も諦めず、自己の小宇宙を最大限まで燃焼し、たとえ一瞬とはいえ、俺たち黄金聖闘士の位まで小宇宙を高めた……勿論、星矢達も人間だから、自棄になり突っかかった時もあったが、そんなときは大抵上手くは行かなかった…」

才能があろうがなかろうが、自棄になって行動して成功するなど極めて稀である。

 

 ★☆★

 

五感が薄れながらも、アテナ神殿に向かおうとする星矢。

胸に黄金の矢が刺さった沙織を救うべく、アテナの楯を手にする為に……。

 

【お…思えば、今まで何人の友が…兄弟が倒れていったろう…。俺を此処まで辿りつかせる為に…アテナの命を救う為に…】

 

紫龍が…。

氷河が…。

瞬が…。

そして、つい先ほど一輝が…。

倒れた兄弟達の想いに支えられて…。

そして今、庇う者がいなくなった星矢に今度こそトドメを刺そうとサガが迫る。

 

【そ…そうだ。俺は倒れてなんていられないんだ…俺の命の炎が燃え尽きない限りたとえ這ってでもアテナの楯を…沙織さんの命を救わなければ、全てが無になってしまう…。うう…も…もう一度、最後にもう一度だけでいい…。小宇宙よ…心の小宇宙よ奇跡を起こせ…】

 

「星矢。俺の命をお前にやるぅ―――ッ」

倒れている沙織を護るため、その傍にいる邪武が叫ぶ。

「そうだ、俺たちの小宇宙を!!」

「俺たちの命を全部お前にくれてやる。だから立て!」

「立ってくれ星矢――ッ」

市が…。

蛮が…。

那智が…。

檄が…星矢に激励の小宇宙を送る。

 

【星矢…貴方は希望…。今、全ての人々の貴方は希望…星矢…】

アテナ……沙織の声も星矢の下に……。

 

【星矢…僅かに残った俺の小宇宙を…】

魔羯宮で倒れた紫龍の…。

【星矢…消えそうな俺の命を…】

宝瓶宮で倒れた氷河の…。

【そ…そうだよ星矢…微かに残った僕の命を…僕の小宇宙を全て君にあげるから…だ…だから】

双魚宮で倒れた瞬の…。

 

だから、もう一度立ち上がれ。正義の為に、アテナを救うために…。星矢、お前は今、みんなのたった一つの希望なのだ!!

 

皆の想いと小宇宙が星矢の下に……。

「な…何ぃ!?ペガサスが再び立ち上がった」

そして、サガは立ち上がる星矢の背後に浮かぶオーラを見た。

「むうっ、これは『ペガサス』!!い…いやペガサスだけではない。星矢の後ろに無数の小宇宙が浮かんでいる!!」

『ペガサス』の他に『龍』、『白鳥』、『アンドロメダ』、『一角獣』、『子獅子』、『海蛇』、『狼』、『大熊』の小宇宙が……

同じ時代に生まれ、同じ時を分かち合い、同じ目的の為に生死を共にした…かけがえのない兄弟達の小宇宙が星矢の下に集った。

五感を断たれ、見ることも聞くことも出来ない星矢だが、それらを超えてはっきりとすべてのモノが感じ取れていた。

それこそが、六感を超えた第七感『セブンセンシズ』。

自らの小宇宙を…生命を燃やし、兄弟達に支えられ。星矢は遂に小宇宙の究極に目覚めたのだ。

「バ…馬鹿な…お前がいくら小宇宙を燃やそうと、私には一切歯が立たないのは立証済みのはず!ましてや今更『セブンセンシズ』に目覚めたとて、この私に勝るはずが無い。くらえ『ギャラクシアン・エクスプロージョン』!!」

「今、みんなが、この俺に勇気と力を与えてくれた。俺はみんなの希望なのだ。心の小宇宙よ、『セブンセンシズ』よ。今こそ究極まで燃え上がれ!!そして、今こそ邪悪を絶つ!!サガよ、お前の最後だ!!」

「な…何いこれは――!!」

「…『ペガサス彗星拳』――――!!」

流星拳を一つに纏めた星矢の必殺技…『ペガサス彗星拳』が、サガを打ち破った。

究極にまで高めた小宇宙が奇跡を起こしたのだ。

 

 ★☆★

 

「…何故、この話を今、お前たちに話したか……分かるかティアナ?」

「……はい。お兄ちゃん…、ついこの前までの私は……自分1人だけしか見ていなかった。隊長であるなのはさん達も、エリオもキャロも、そして、相棒であるスバルさえも……」

自主練の時に行っていたコンビネーションは、スバルの身を……仲間を盾にするモノ。

コンビで、そしてチームで動いているのに……ティアナは自分の事しか見ていなかった。

自分の力を証明することしか考えていなかった。

「そうだ。お前1人では超えられないモノも、皆で力を合わせればそれだけ超え易くなる。スバルが、エリオが、キャロが、なのは達が……いや、機動六課の皆が繋がっているのだ…決して1人ではない……皆の想いが集えば……奇跡は起こせるのだ…それを忘れるな…」

小宇宙だろうが、魔導師の魔力だろうが、人に秘められた力である以上……1人では不可能でも、皆が力を合わせれば……それは大きな『力』となる。

星矢達も1人だけでは、決して十二宮を突破できなかった。

黄金聖闘士達も、十二人全てが揃ったからこそ、『神』以外、決して砕けぬ筈の『嘆きの壁』を砕く事が出来た。

仲間の力を頼ることは決して恥ではない。

それは、『絆』という大いなる力なのだ。

横で聞いていたなのは達も、肝に命じた。

『仲間』の大切さを…決して諦めない不屈の心を…改めて学んだ一同だった。

 

〈第七十二話 了〉


 

なんだかクサイ話になってしまった

真一郎「現実では、こんなこっ恥ずかしい事、素面じゃ言いにくいな……」

しかし、これこそが『聖闘士星矢』のテーマの一つだと思う

真一郎「そうだね」

では、これからも私の作品にお付き合い下さい

真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じた事があるか!?」




ティアナも完全に吹っ切れたみたいだな。
美姫 「吹っ切れたというよりもちゃんと学んだって所かもね」
だな。アイオリアやカノンが居るお蔭で、色んな所でフォローしてもらえているみたいだし。
美姫 「これからの成長も楽しみの一つよね」
うんうん。次回はどんな話になるんだろうか。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待ってます。



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