『時空を越えた黄金の闘士』
第七十話 「兄への想い(前編)」
ホテル・アグスタへの海闘士とガジェットの襲撃は、無事に制圧された。
「お待たせいたしました。まもなくオークション開催です」
もう、問題はないと主催者側も判断し、予定より少し遅れたがオークションが開催された。
はやては、オークション会場の外で、ロングアーチから報告を受けていた。
ガジェットは、全機撃墜。
しかし、襲い掛かってきた3名の内、1人は取り逃がし、1人は口封じの為に仲間に殺害され、そしてもう1人、何者かに倒され―――恐らく聖衣の様なモノを纏った女性かフードの男―――気絶していた所発見したがその場で目を覚ますと同時に舌を噛み切り自害……という結果が報告されていた。
「……味方に被害は出てへんし、相手に死者が出てしもうたけど……そもそも海闘士相手に『非殺傷設定』で済まそうなんて甘い事は言ってられへんから、そこらで非難はこやへんやろ…」
これは、クロノが正式な『白銀聖闘士』となった時に解ったことだが、聖闘士や海闘士等の『神の闘士』に対して、非殺傷設定はまるで通じない事が判明したのだ。
非殺傷設定では、どれだけ高威力…たとえオーバーSランクと云えど、聖衣を抜かしてダメージを与えることが出来ないことが判明した。
10年前の『PT事件』において、クロノが聖衣を纏ったカノンと戦った時、当然、クロノは『非殺傷設定』で戦っていたが、黄金聖衣に関しては、殺傷、非殺傷関係なく、魔法自体が通用しないので、そのときには気付かなかった……。
しかし、クロノが白銀聖闘士となり、『神の闘士』対策として、なのは、フェイト、そして守護騎士達が聖衣を纏ったクロノと模擬戦を行ったのだか、非殺傷設定で放ったなのはの『スターライトブレイカー』も、フェイトの『プラズマザンバーブレイカー』も、シグナムの『シュツルムファルケン』も、ヴィータの『シュワルベフリーゲン』も、聖衣を纏ったクロノに魔力ダメージを与える事が出来なかった。
作られたときに意図されたわけではないだろうが、聖衣は『青銅』『白銀』『黄金』問わず、『非殺傷設定』の魔法を完全に無効化する機能が備わっているようである。
ならば無論のこと、海闘士の『鱗衣』にも同じ機能が備わっていても不思議ではない。
故に、対『神の闘士』では魔法は必ず『殺傷設定』にするか、先のシグナムの様に、近接で生身の部分を狙って攻撃するしかなかった。
「……任務自体は順調やし、とりあえずよしとしとこうか…」
【あと、アイオリア顧問がヴィータ副隊長の要請でそちらに向かいました…】
「えっ、リア兄を…?」
【はい。なんでも黄金聖闘士と遭遇して、預かった物があるから……だそうです】
「な…なんやて…ここに来てまた新しい黄金聖闘士が…!?」
はやてもアイオリアとムウから、後二人…黄金聖闘士が存在している可能性は聞かされていた。
『乙女座』と『蠍座』の黄金聖闘士。
その内の1人が現れたのだろうか?
「そこのお嬢さん…オークションは始まっているよ…」
考え込んでいるはやてに、1人の男性が声を掛けてきた。
「いいのかい。中に入らなくて…?」
その男は、はやての顔見知りで自分の義兄の弟子…だった。
「ご親切にどうも…そやけど、これでも一応お仕事中ですんで……って…なんで『聖衣』纏ってるの、ロッサ?」
ホテル内で、聖衣を纏っている姿は違和感がかなりあった。
「……ああ。そのことでね。はやて、我が師アイオリアに会いたいんだけど、取り次いでくれるかな?」
「…リア兄やったら、もう直ぐ此方に来るけど……なんかあったん?」
「ああ。アイオリアさんが来たら、一緒に話すよ…」
現場に到着したアイオリアは、ヴィータから『蠍座』の聖闘士カードを受け取った。
「……ロングアーチでも確認していた。『リストリクション』だな…お前たちを金縛りにした技は……間違いなくミロ本人だ…」
「…やっぱり、黄金聖闘士かよ…。それで、カードにはなんて書かれているんだ?」
「……ああ。たいした事じゃない…。『後日、乙女座の黄金聖衣を修復したいから、その事をムウに伝えて欲しい』と書いてあるだけだ…」
『乙女座』の聖衣も、『獅子座』、『天秤座』同様、『死』を司る神、タナトスによって完全に破壊されている。
「…どうやらミロはシャカと行動を共にしているようだな……」
「……シャカ様って…老師から伺ったんですけど…『最も神に近い男』と言われている方ですよね?」
シャカの名前を聞き、キャロが反応した。
「ああ。間違いなく、俺たち黄金聖闘士の中で最も恐ろしい男なのは間違いない…」
「…リアやカノンよりも強いのかよ?」
「……戦えば負けるつもりは無い……。だが、死を覚悟しなければ相手に出来ないのは確かだ……」
アイオリアは一度、シャカと戦ったことがあるが、その時は『千日戦争』に陥りかけてしまった。
サガが扮する偽教皇が『幻朧魔皇拳』で横槍を入れなければ、どちらかが…あるいは両方が死んでいたのは間違いなかった。
「シャカの恐ろしさは、例え黄金聖闘士が複数いても自らの術中に相手を嵌めれば、勝利してしまえる事だな」
先の聖戦において、シャカは最大の奥義である攻防一体の戦陣『天舞宝輪』を用い、黄金聖闘士三人を後一歩まで追い詰めている。
それに対抗する為、サガ達は『アテナ・エクスクラメーション』で対抗するしかなかった程である。
「……ア…『アテナ・エクスクラメーション』って……アレかよ!?」
『最後の闇の書事件』において、カノン、ムウ、アイオリアの3人が用いた黄金聖闘士の禁忌技は、10年経った今でもヴィータの脳裏に焼きついていた。
「ここに居ましたか、アリオリアさん」
そこにフェイトに伴われたユーノが現れた。
「…ユーノ…何故お前が?」
「今回のオークションで、品物の鑑定を依頼されていまして……」
「ああ。お前は考古学者でもあったんだな…。無限書庫の司書長というイメージが強いからな…ところでどうした?」
「ええ。取り合えず此方に…、はやてとアコース査察官を交えてお話がありますので…。じゃあ、フェイト…そういうわけだから…」
「…待って。なのはと逢っていかないの?」
「……アイオリアさんたちとの話が終わったら逢うよ…」
その返答を聞き、ホッとするフェイト。
なのはとユーノが相思相愛なのは、周りの人間にとって周知の事実。
ユーノは、自分の気持ちを自覚しているが、なのはの方は自覚していないいう救いようのない状態だが……。
★☆★
「お久しぶりです。我が師アイオリア」
はやてと一緒に待っていたロッサが、アイオリアに礼を取る。
「…久しいなロッサ……聖衣を纏っているということは……戦闘でもしたのか?」
「はい。雑兵ではなく……正規の海闘士と戦いました」
そして、ロッサはアイオリアにこれまでの事を説明した。
「……本局の武装隊の一隊が丸々海闘士側に付いた…だと?」
流石のアイオリアも顔が引き攣っている。
当然だ。
このことが明るみに出れば、地上本部の本局不信を増大させかねない。
いや、下手をすれば本局にそれ程敵愾心のなかった一般局員も、本局に対し不信を持ちかねない。
地上本部は、海闘士を完全に敵として認識しているのだから……。
「情報統制になりますが、この件はしばらく伏せておくつもりです…」
「……確かに難しい問題やね…」
はやても、頭を抱えていた。
「これは僕たちだけで判断できる事柄でもありませんので、義姉とリンディ提督、レティ提督、クロノ君と…そして、三提督とも相談しようかと思います」
「…それがいいだろうな……」
アイオリアもそれに同意した。
所詮、ここに居る者は現場の人間であり、政治的な話は門外漢である。
はやてにしても、まだまだ勉強不足、経験不足の小娘に過ぎない。
アイオリアも、六課の顧問を務めているが、基本的には管理局の協力者に過ぎない。
「ところで、それとは別に師に見てもらいたいものがあります……ユーノ先生…」
ロッサに促され、ユーノは二つの黄金の箱を魔法でこの場に転送させた。
『弓を構えた半人半馬』と『瓶』のレリーフがそれぞれ彫られていた。
「…そ…それは『黄金聖衣』!?」
スクライアが発掘し、ユーノに送ってきたモノとは、『射手座』と『水瓶座』の黄金聖衣だったのだ。
「スクライアの友人の話では、それは元々その遺跡にあったモノではなく、数年前にその遺跡に流星として天から降って来てそのまま埋没していたらしいです」
遺跡には、それらしい形跡が残されていたらしい。
「……そうか…。この二つの聖衣の所有者は既に死んでいる為、俺たちの聖衣の様に持ち主の下に現れなかったということか…」
アイオリアは、感慨深げに所有者のいなくなった……いや、兄の形見とは云える『射手座』の聖衣を見つめていた。
「中を確認しましたが、この二つの聖衣は間違いなく死んでいます……僕では死んだ聖衣の修復は出来ませんから、ムウ様に任せるしかありません」
ユーノは、ムウから聖衣の修復技術を学んでいるが、流石に死に絶えた聖衣を修復する技術は中々習得できなかった。
聖衣の修復は、ヘパイストスの技術を伝授された『ムー大陸人』の末裔でなければ難しい。
『ムー大陸人』の末裔である教皇シオンやムウや貴鬼なら兎も角、異世界人であるユーノでは、中々習得できないのも無理はなかった。
「……ムウに伝えてくれ…。『射手座』の聖衣への血の提供は俺がやる…とな!」
たとえカノンが、また自分が提供すると言っても、これだけは譲れない…。
★☆★
任務があった為、午後の訓練は中止となったが、ティアナは1人で自主練をしていた。
そんなティアナにいつもなら付き合おうとするスバルだが、彼女自身も何か考えたいことがあるのか……そのまま官舎に戻っていった。
『強くなりたい』。
その願う若い魔導師は結構いるし、無茶をしがちなのも珍しくも無い。
しかし、ティアナのそれは度が過ぎている様にもヴィータなどは感じていたので、ティアナの過去をなのはに聞いた。
全ては、ティアナの亡き兄、ティーダ・ランスター一等空尉の殉職から始まった。
ティーダ・ランスターは執務官志望のエリート局員だった。
当時は、首都航空隊に所属していた。
そして任務中、犯人を追い詰めながらも逆劇を受け取り逃がし、その若い命を散らせた。
享年21歳。
事件そのモノは、地上の陸士部隊の協力のお陰でその日の内に解決した。
しかし、その件でティーダの上官の心無いコメントが問題となった。
「犯人を追い詰めておいて取り逃がすなど、首都航空隊の魔導師としてありえない失態だ」
「たとえ死んでも取り押さえるべきだった」
「役立たず」
たった一人の肉親を亡くした当時10歳の少女には大きなショックだっただろう。
だから、ティアナは証明するのだ。
兄の教えてくれた魔法は……ランスターの弾丸は役立たずじゃない。
どんな場所でも、どんな任務もこなせる……と。
日が沈み、辺りが暗くなってもティアナの自主練は続いていた。
そんなティアナをヘリの整備の合間にずっと見ていたヴァイスはそろそろ止めようと近付こうとした時だった。
「……随分と無駄事をしているな…小娘…」
1人の男がティアナに声を掛けた。
「…だ…誰!?」
六課では見ない顔である。
「…見たところ六課のFWのようだな……まあいい。おい小娘。愚かな事は止めて、さっさと休むんだな」
自分の努力を無駄なことと云われ、ティアナはカチンとなった。
「…愚かですって!」
「フン。そんなに疲労している状態で今何か緊急事態が発生したらどう対処する?休めるときに休む事も戦士には必要な事だ。疲労が蓄積すると普段なら考えられないミスをやらかす……8年前のアイツのように……な。そんな事も解らんようなら、今のうちにFWを辞める事だな…その方が周りの連中の為になる…」
男は嘲りを隠さずティアナにそう告げた。
8年前のなのはは、激務が続いたので疲労したが、ティアナは休むべき時間を与えられながらそれを潰しているからだ。
「い…言わせておけば!」
ティアナは男に『クロスミラージュ』を向けた。
しかし、男が指で一閃したと思ったら、ティアナの体は動かなくなった。
「なっ!?」
昼の任務の時にフードの男から受けた金縛りに似たような状態となった。
「中枢神経を麻痺させたからしばらく動けん……。そこに隠れている男…この小娘を運んでやるんだな……」
男は隠れて見ていたヴァイスに気付いていたらしく、そう言うとその場を後にしようとする。
「…アンタ…一体何者だ?」
出てきたヴァイスが警戒しながら、男に問う。
六課では見ない顔であり、他の部隊の者でもこんな時間に官舎を訪れるとは思い難い。
「……『双子座』のカノンだ……強くなりたい気持ちはわからんでもないが、現場に出ている者が自らの自己管理を怠るようでは、お前自身だけではなく、周りの仲間をも危険に晒す事を忘れるな」
そう答えると、男―――カノンはその場を去っていった。
「……せ…聖闘士!?」
「しかも、『双子座』のカノンっていや、アイオリアの旦那と同じ『黄金聖闘士』じゃねぇのか?」
管理局全体に名が知られているのはアイオリアだけだが、流石に六課のメンバーはカノンやムウの名前くらいは知っていた。
(第七十話 了)
真一郎「おお。ついに『射手座』と『水瓶座』の聖衣が登場…これを纏う新たな聖闘士でもだすのか?」
いや、流石に黄金聖闘士でオリキャラを出すつもりはないし、『プロジェクトF』で復活させるつもりもないよ
真一郎「じゃあ、なんで出したの?」
そこら辺はまだ秘密…
真一郎「カノンも久々に登場だよな。主人公なのに……」
一時的に今はアイオリアがメインだったけど、そろそろカノンを登場させようと思ってな。でも、ティアナの悩みを解決させるのはカノンじゃないよ
真一郎「それは誰なのかは、まて次回」
では、これからも私の作品にお付き合い下さい。
真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」
まさか黄金聖衣だったとは。
美姫 「さすがに纏う者は今のところはいないみたいだけれどね」
この二つが現れた事にも意味があるのだろうか。
美姫 「一方、出撃したティアの方もやっぱり色々と考え込んでいる感じね」
こちらもどうなるのか。
美姫 「この先の展開も楽しみにしてます」
次回も待ってます。