『時空を越えた黄金の闘士』

第六十九話 「ホテル・アグスタの死闘(後編)」

 

六課FW陣が、防衛ラインを突破したガジェットを迎撃しているすぐ近くで、クイントは海闘士の雑兵と戦闘を行っていた。

「……何なんだこの魔導師は……『ヴォルケンリッター』とやらの他に我々と互角に戦える奴がいたのか?」

青銅聖闘士と同格の強さを持つ海闘士の雑兵は、当然、音速で動ける。

クイントは、並の魔導師よりも速いが、それでもフェイトに比べれば遅いし、守護騎士達程の戦闘経験もない。

にも関らず、音速の動きについていけているのは偏にミロとの訓練と『鋼鉄聖衣』のお陰である。

ゼストとクイントは、暇があればミロに鍛錬してもらっていた。

既に成人している2人は、鍛錬によって『小宇宙』に目覚めることは出来ない。

海闘士の様に『海皇』の意思によって『小宇宙』を覚醒させるならともかく、自力で『小宇宙』に目覚めれるのは、成長期の過程でなければ出来ない。

故に、ゼストとクイントは『小宇宙』を身に付けることは出来なかった……。

だが、『黄金聖闘士』という規格外と鍛錬する事は決して無駄ではなく、『神の闘士』対策には充分だった。

それでも、守護騎士達のような膨大な戦闘経験がない為、やはり一対一では不利は否めない。

それを補ったのが『鋼鉄聖衣』である。

『鋼鉄聖衣』に組み込まれているのは、原子破壊の疎外だけではなく、音速の動きを計測出来るほどの高い演算機能と、フェイトの『クイックムーヴ』に匹敵するほどの高速魔法の術式も組み込まれている。

複数の事を同時に処理するマルチタスクが必須である戦闘魔導師だからこそ『鋼鉄聖衣』の性能を使いこなせるのだ。

青銅聖闘士級の相手に互角に戦える力が与えられた魔導師……いや『鋼鉄聖闘士』の誕生である。

 

 

 

クイントの戦いを少し離れた位置で、ゼストとルーテシアが観戦していた。

「……凄いね…クイント小母様…」

「うむ。これで『鋼鉄聖衣』の有用性が完全に証明できたな……」

「……その様だな…」

突然、背後から答えられ、ゼストとルーテシアは驚いて、背後を見た。

「……ミロ殿…来ておられましたか?」

いつの間にかミロとアギトが2人の後ろに立っていた。

「ミロ、アギト……心臓に悪いから、気配を絶って後ろから声を掛けないで……」

「悪いなルールー…」

そういいながら、ちっとも悪びれていないアギトが軽く謝った。

「……ミロ殿から見てどうですか?」

「充分、及第点をやれるな……海将軍以外の海闘士など、このミロの敵ではないが…数だけは揃っているからな…。一斉に蜂起されれば俺とシャカ…それに他の黄金聖闘士だけでは対処できん…。しかし、『鋼鉄聖衣』を纏った魔導師がいれば、対抗が可能だな。最も今、クイントが相手をしているのは雑兵の中でも、雑魚のようだがな……。」

海闘士の雑兵はそれこそ何百人といるので、対抗するにはそれなりの数が必要なのは間違いない。

カノンやアイオリア達も聖闘士の育成をしているが、それでもやはり物量では海闘士達に及ばないのだから……。

「でもさ…ミロの旦那…。あれ以上のモノを作るのは流石の変態ドクターでも無理なんだろ?」

『鋼鉄聖衣』に組み込まれている術式は、スカリエッティという最高の天才が魔法という力の限界を突き詰めて完成させた術式なので、これ以上のモノは作ることが出来ないのだ。

「……魔導師達が雑兵共の相手をしてくれれば、海闘士達の野望を砕くことなど造作も無い。海将軍達は星矢達が2人を除いて全滅させた。白銀級の強さを持つ海闘士も数が少ない筈だ……。その程度ならばこのミロ1人で充分だ…」

ミロが知る限りでは、海将軍の生き残りは『海龍』と『海魔女』の2人である。

「その内の1人は、我らが同志である黄金聖闘士『双子座』のカノンだ。もう1人も、海商王ジュリアン・ソロと共に『海皇』の起こした水害の被災者たちの救済の旅に出ているとの事だ……」

ミロ達はまだこの世界に存在する真の『海龍』や『プロジェクトF』で新たに誕生した『海将軍』の存在を知らなかった。

 

 

 

ミロに指摘された様に、今クイントが相手をしている海闘士は、雑兵の中でもレベルの低い相手である。

無論、それでも魔導師にとっては強敵だが……。

しかし、『鋼鉄聖衣』を纏ったクイントにとって敵ではなかった。

戦いは、クイント優勢で進んでいた。

その時、愛娘のスバルの危機が視界に映った。

制御に失敗したティアナの誘導魔力弾がスバルに向かっていたのだ。

今から『ウィングロード』を展開しても、到底間に合わない。

「隙あり!」

海闘士は、そんなクイントの隙を突き、襲い掛かってきた。

「…『フライング・クラッシュ』!!」

跳躍し、全体重を乗せて真下にいる相手に音速の蹴りを放った。

しかしクイントは海闘士よりも高く跳躍し、海闘士の頭部を足場にして更に跳躍し、『鋼鉄聖衣』に組み込まれている高速魔法を発動させ、一気にスバルの下へと向かった。

「お…俺を踏み台にしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

と、某ロボットアニメの敵役の台詞を吐きながら、海闘士は地面に叩きつけられ意識を失った。

スバルの下にたどり着いたクイントは、スバルが展開していた『ウィングロード』を足場にして、彼女に迫る魔力弾を叩き堕とした。

 

 ★☆★

 

一方その頃、ホテル・アグスタ内。

客たちがオークションの会場で開会を待っている中、3人の男がホテルを抜け出そうとしていた。

オークション参加者として、入場していた管理局、1948航空武装隊隊長のアプローズ・エッセ一等空尉と部下の2人である。

「……これで『あの方』から頼まれたモノの確保は出来たな……。さて、外で雑兵達が陽動で暴れているウチに撤収するか…」

2人の部下が背負っているものを見ながら、アプローズはそう呟いた。

「……やれやれ。まさか武装隊の隊長がドサクサに紛れ火事場泥棒とは…嘆かわしいね。エッセ君……」

アプローズは、背後から聞き覚えのある声がしたので、驚愕しながら振り向いた。

「……アコースか?」

「久しぶりだねエッセ君……士官学校卒業以来だね…」

アプローズは、士官学校時代のロッサやクロノと同期生であった。

特に親しい間柄でもなかったが……。

「……それで、エッセ一尉殿は何ゆえ『火事場泥棒』に身を落とされたのかな?」

ロッサの顔は笑っているが、目は笑っていなかった……。

「………」

「…前々からマークしていたが…まさか盗みを働くとは…」

「…マークしていた…だと!?」

「ああ。査察部としても君の行動に疑問が出ていてね。二月前から君は査察対象だよ。最も部下たちは何度も君に撒かれていた様だけど…」

「成る程…確かにその位から妙な視線を感じていたが……査察部だったとはな……まあいい。どの道、お前にはここで消えてもらう事に変わりはない!」

そう言うと、アプローズは『小宇宙』を燃焼させ、ロッサに拳を放った。

「…何!?」

今度はロッサが驚愕する番だった。

「……『小宇宙』だと……君は…まさか!?」

「フッ…俺の正体を見せてやろう……」

アプローズの周りに、いつの間にか、海闘士の雑兵が何人か集まってきた。

ロッサはそれらの顔に見覚えがあった。

「な…彼らは君の部下の1948航空隊の武装局員!?では…やはり…!?」

「……フッ…その通りだ!」

アプローズは、礼服を脱ぎ捨てると部下が持ってきた自分の『鱗衣』を身に纏った。

「…海闘士…『海賊《パイレーツ》』のアプローズ…。それが俺の正体だ!」

流石のロッサも、アプローズ達が海闘士であることまでは突き止めていなかった。

「……『海賊』だって!?…確か海賊の海闘士は十年前にカノンさんが葬った筈……」

「……確かに先代の『海賊』の海闘士フックは、カノンとか言う黄金聖闘士に殺された。俺はその空位になった鱗衣を継承したのだ」

「…いつから海闘士になった?」

「もはや問答無用…死ねアコース!かかれ!!」

アプローズの命令で、武装局員……いや雑兵たちがロッサに襲い掛かった。

だが、その側面から1人の男が雑兵たちに攻撃を仕掛けていた。

「君達か…?僕の友人から盗みを働いた輩は…」

そこには『白銀聖衣』を纏った青年が立っていた。

「…ユーノ先生、ナイスタイミングです!!」

「…チッ…『あの方』の言ったとおり、本当に学者風情が聖闘士だったのか?」

白銀聖闘士『楯座《スキュータム》』のユーノである。

「お待たせしました、ヴェロッサさん…これを!」

ユーノは、背負っていた箱をロッサの方に放り投げた。

「…何…それは『聖衣櫃』…ま…まさかアコース…貴様も!?」

ヴェロッサは聖衣櫃の開け、聖衣を装着する。

「……白銀聖闘士…『南十字星座《サザンクロス》』のヴェロッサ!」

「…ハラオウンとアコースが聖闘士の指導を受けていたという噂は本当だったのか…」

クロノとヴェロッサが聖闘士だというを知っているのは、管理局内でも一部の者のみであるが、噂としては流れていた。

最も、オーバーSランクの魔導師があえて聖闘士になるとは思われず、あまり信じられてはいなかったが……。

それが真実と知っているのはカノン達の関係者を除けば、本局所属の佐官以上の階級の者のみだった。

「…君が海闘士だと知った以上、僕も査察官ではなく『聖闘士』として動かせてもらう…」

「ヴェロッサさん。雑兵は僕が引き受けましょう…」

「助かります…。ユーノ先生…しかし、よろしいのですか?」

「大丈夫です…オークション開始までには終わらせるつもりです」

ユーのは自信満々にそう言うと、雑兵たちに蹴りを放った。

 

 

 

 

ロッサの拳とアプローズの拳が交差する。

2人の実力は伯仲しており、共に決め手を撃てない状況だ。

黄金聖闘士ではないが、『千日戦争』に近い様相を見せていた。

「……このままでは埒が明かん…。一気に決めてくれる!!」

「来るか!」

互いに、最強の技を放つべく『小宇宙』を燃焼させる…。

「喰らえ、アコース…『バイキングアックス』!」

「させるか!…『サザンクロス・サンダーボルト』!!」

2人の必殺技がぶつかり合い、凄まじい衝撃が2人を吹き飛ばした。

「「うわあ―――――――っ!」」

 

 

 

白銀聖闘士のユーノにとって、海闘士の雑兵など所詮、青銅聖闘士レベル…数を揃っていても敵ではない。

元々、『白銀』と『青銅』では実力にかなりの開きがある。

星矢達に敗北したことで、白銀は大した事がないというイメージがあるが、何度も言う様に星矢達は例外であって、青銅が白銀に勝つなどまずありえないのだ。

かつて、偽教皇から10人の白銀聖闘士がたった5人の青銅聖闘士に返り討ちにあったと聞いたミロが「青銅聖闘士が白銀聖闘士を倒した話など聞いた事がない」と述べたように……。

5分と掛からずに、雑兵達は全て地に倒れ付していた。

ユーノは、アプローズに奪われたモノを取り戻した。

お互いの技に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられていたアプローズは奪ったモノが奪い返された事を知り、悔しげな表情になった。

「…クッ…やはり…雑兵では白銀聖闘士の相手は無理だったか……。流石に『白銀』2人を相手にするのは不利…か…」

そう言うと、アプローズは倒れている部下達と共にに転送魔法で離脱した。

【…勝負は預けておくぞ…アコース…いや、『南十字星座』のヴェロッサ!!】

海闘士達の姿が消えた後、ロッサに念話が届いた。

「…随分あっさりと退きましたね?」

「恐らく、それ程厳命されていたわけではない様ですね…」

ユーノからの問いに答えながら、ロッサは内心で頭を抱えていた。

本局所属の航空武装隊の一隊がまるまる海闘士に寝返っていたのだ。

この件を公表すれば、局員達の間に疑心暗鬼が芽生えることは間違いなしである。

海闘士との戦闘で、負傷、殉職した局員は数多く居るため、管理局にとってもはや『海闘士』は反管理局勢力である。

聖闘士が地上部隊に協力している事もあり、陸士達は海闘士に敵愾心を持つ者が多い。

そんな中、本局所属の武装隊が海闘士側に言った事を知れば、ロッサにとって師であるアイオリアがある程度緩和させた、地上と本局の確執が再発する可能性が高い。

「……ところで、エッセ君が盗んだモノとはオークションの品ではないのですか!?」

気持ちを切り替えるべく、ロッサはユーノに何気なく問うた。

「…僕も詳しくは聞いていないんですが、オークションに出すモノと一緒に持ってきただけで、直接、僕に渡す予定だったそうです…」

「中身を確認しても?」

「ええ、構いません。友人は、手間が省けるからそのまま持っていってくれと言っていました。厄介払いが出来てオークションの方に集中できるからと…」

ユーノの許可を取り、『モノ』の梱包を解き中身を確認したヴェロッサは驚愕した。

「ユーノ先生…これは!?」

「…成る程…海闘士が狙うわけですね…」

2人が見たモノとは一体、何なのか!?

 

 ★☆★

 

全てのガジェットを撃墜した機動六課は、『聖衣』の様なプロテクターを纏って突如現れた謎の女性を囲んでいた。

だが、その中でティアナとスバルの様子がおかしかった。

ティアナは無論、先の誤射に対しヴィータから叱責を受けた為である。

そして、スバルは……蒼褪めた顔で女性を見ていた。

「…部下を助けてくれて礼を言います。アタシは、機動六課、スターズ分隊副隊長のヴィータ三等空尉です。色々と事情を伺いたいので、ご同行を願います」

はやてとアイオリアの教育の賜物か、それとも管理局の研修での成果か丁寧な口調で話すヴィータ。

しかし、女性は首を横に振り、その場を離れようとする。

「ま…待て!」

「…『リストリクション』!」

直ぐに地に戻り、慌てて女性を制止しようとするヴィータと新人達だったが、突然、体が金縛りにあった様に動かなくなった。

「な…何!?」

「…すまないな。まだお前たちと行動を共にするわけには行かんのだ…」

そこにフードで顔を隠した男が現れた。

「お前は先に行っていろ!」

フードの男に促された女性は、スバルの横を横切りその場を去ろうとする。

「ま…待って!」

動かない体を何とか動かそうと足掻きながら、スバルは女性に静止の言葉を掛ける。

女性は、スバルの傍で一度立ち止まると、彼女の頭を2、3回撫でると何も言わずに去っていった。

スバルは、目から涙が溢れ、その場で泣きじゃぐった。

そんなスバルを見てあっけに取られていたヴィータに、フードの男が近付いた。

「すまんが、アイオリアにこれを渡してくれ……そして、再会を楽しみにしているぞ…とな」

男は、ヴィータの襟にカードの様なモノを挟むと、女性の後を追っていった。

 

 

 

金縛りが解けたヴィータ達は、フードの男が残していったカードを見ていた。

「なんだこれ?」

「こ…これは『聖闘士カード』!?」

ヴィータの持っているカードを見てエリオとキャロは驚いていた。

カードには蠍が描かれているからだ。

「聖闘士カードとは、聖闘士が敵を倒したときに、その証拠として残す為のモノです。滅多に使われることはありませんが……」

わざわざ自分が倒した事を証明する必要など殆ど無いが、稀に挑戦状代わりにメッセージとして使う為である。

「……これは『蠍座《スコーピオン》のカード…、ならばさっきの人は…黄金聖闘士…」

「…『蠍座』のミロ様か、彼に親しい人物…。でも、あの『小宇宙』は間違いなく黄金聖闘士級……。ならば本人に間違いないと思うよエリオ君…」

カードの裏側には、文字が書かれているがヴィータには読めなかった。

「なんて書いてあるんだ?」

「……これは…ギリシア文字ですね…。流石にギリシア語は勉強中なので……漢字だったら読めるんですが……」

ギリシア語は聖闘士共通語であるが、まだ10歳のエリオとキャロはまだ読めなかった。

「まあ、後でリアに渡しておくか…」

 

 

 

ティアナは、己のミスに悔し涙を流していた。

そんなティアナにいつもなら、おせっかいの相棒が話しかけてくるのだが、今回は違った。

ティアナから少し離れた場所で、スバルは座り込んでいた。

「…あの人は……まさか…まさか…」

いかに顔を隠していてもスバルにはあれが誰なのかはっきりと解っていた。

大好きな母を、間違えるはずが無い。

しかし、クイントは死んだ筈なのだ。

スバルは、この事を父や姉に話すべきなのかどうか迷っていた。

 

〈第六十九話 了〉


 

というわけで後編です

真一郎「ついに出会ったスバルとクイント…」

そして、聖闘士対海闘士……管理局士官学校の同期同士の対決……

真一郎「ところでアプローズが盗もうとしたモノって何!?」

それは次回までのお楽しみ……

では、これからも私の作品にお付き合い下さい。、

真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」




スバルのピンチに思わず駆けつけたクイントだったけれど。
美姫 「それでスバルに正体が」
果たしてこの事をスバルはどうするんだろうか。
美姫 「管理局内部に裏切り者もいたしね」
まだいる可能性もあるかもな。とは言え、それで疑心暗鬼にかられて動けなくなるのも困るし。
美姫 「色々と動き出すと同時に事態も複雑になりそうね」
それにしても、ユーノが受け取った物って何なんだろう。
美姫 「非常に気になる所よね」
うんうん。次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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