『時空を越えた黄金の闘士』
第六十八話 「ホテル・アグスタの死闘(前編)」
ガジェットを使いレリックを集めている海闘士以外の第三勢力を広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティと推定した機動六課は、骨董オークションが開かれるホテル・アグスタの警備を任された。
出品物の多くが個人所有を許可された『ロストロギア』なので、ガジェットがレリックと誤認してくる可能性があるからだ。
部隊長の八神はやて二佐と補佐のリインフォース一尉、分隊長の高町なのは一尉とフェイト・T・ハラオウンは、会場内の警備を、副隊長以下のFWメンバーは、ホテルの外での警備を担当することになっていた。
はやてが現場に出ているので、ロングアーチの指揮は部隊長補佐のグリフィス・ロウラン准尉が行い、アイオリアもロングアーチで待機していた。
スターズ分隊のティアナは六課の構成について考えていた。
如何に、敵が魔導師と同等以上の戦闘力を持つ海闘士とはいえ、六課の戦力は異常だった。
わざわざ、リミッターを付けてまで高ランク魔導師を集めている点。
八神部隊長は高町、ハラオウン両分隊長はオーバーSランク。
副隊長のシグナムとヴィータはニアSランク。
そして、危なげながらも潜在能力と可能性の塊である自分の相方。
10歳という若さながら、海闘士に同等の存在である聖闘士であり、魔導師のランクも自分と同じ陸戦Bランクを持つライトニング分隊のちびっ子2人。
そして、六課の顧問の魔導師を遥かに超越した存在である『黄金聖闘士』にして、魔力量もAAAランクと隊長陣とほぼ同等の『獅子座』のアイオリア。
「……やっぱり…ウチの部隊で凡人はあたしだけか……だけど、そんなの関係ない!」
ティアナは立ち止まるわけには行かなかった。
自分の目指す『夢』の為に……。
「……間違いない…数名の海闘士と奴等のガジェット達が動いている……」
ルーテシアは、召喚虫『インゼクト』からの情報で、海闘士達が動いている事を突き止めた。
「……クイント…久しぶりの実戦だ…。あまり無理をするなよ…」
「解っています…隊長…では、行ってきます」
『鋼鉄聖衣』を纏ったクイントが一人でアグスタの方に駆け出した。
★☆★
ガジェットの反応を確認したシャマルの指示で、シグナム達守護騎士が迎撃に向かった。
この3人(2人と1匹)にとって、『AMF』を装備しているとはいえガジェット等敵ではなかった。
ヴィータの『シュワルベ・フリーゲン』、シグナムの『紫電一閃』、ザフィーラの『鋼の軛』が、次々とガジェット達が撃墜していった。
シャマルのデバイス『クラールヴィント』から、ティアナの『クロスミラージュ』から送られてきている映像を見て、スバルは興奮し、ティアナは拳を強く握り締めていた。
ガジェットの迎撃を続けていたシグナムに2人の海闘士が襲いかかってきた。
とっさに対応するも、相手が海闘士では如何にシグナムでもガジェットと同時に相手をするのは不可能だった。
ガジェット達はそのままシグナムの防衛ラインを突破していった。
「ヴィータ。ラインまで退がれ……新人達のフォローを頼む!」
「わ…解った!」
【ザフィーラ、シグナムと合流して!相手が海闘士じゃいくらシグナムでも1人では不利だわ!!】
【心得た!】
シグナム達は、一対一で海闘士と戦える数少ない『魔導師(騎士)』である。
対海闘士に関しては、隊長たちよりも百戦錬磨の勇士である副隊長達の方が対抗できるのだ。
しかし、流石に2人同時に相手は出来ない。
ヴィータは8年前、海闘士の集団相手にたった一人で持ちこたえたが、それは所謂『火事場の馬鹿力』的なモノで、童虎の助けが後数分遅れていれば、どうなっていたかわからなかった。
シグナムの下にザフィーラが到着し、一進一退の攻防を繰り広げる事となった。
シグナム達を突破したガジェット達は、ティアナ達の防衛ラインまで迫ってきた。
ティアナの指揮の下、迎撃体勢に入るFW陣。
(……今までと同じだ……証明すればいい。自分の能力と勇気を証明して……あたしはそれで、いつだってやってきた!)
ティアナは『クロスミラージュ』を構え、ガジェットに向かって魔力弾を撃った。
海闘士は聖闘士と違い素手で戦う事を義務付けられてはいないので、それぞれ武装していた。
1人は、船の錨を鎖付き鉄球の様に振り回し、もう1人はトマホークを装備していた。
迫りくる錨をシグナムは『レヴァンティン』で薙ぎ払い、ザフィーラは狼から人型に変身し、間隙を縫ってシグナムに襲い掛かってくるトマホーク使いを迎撃していた。
「ほう、魔導師風情が同数で俺たちと互角に渡り合えるとは……貴様らが『ヴォルケンリッター』か?」
「そうだ…。私、烈火の将、『剣の騎士』シグナム!」
「蒼き狼、『盾の守護獣』ザフィーラ!」
「…面白い…ならここで貴様らを始末し、手柄にさせてもらうぜ!」
雑兵に対してだけとはいえ、海闘士達と互角に戦える守護騎士達は彼らにも深く認知されている。
海闘士達にとって、『エース・オブ・エース』や『金の閃光』以上に評価している相手なのだ。
「行くぜ!」
錨使いが小宇宙を込めた錨を振り回し、シグナムに投げつけた。
しかし、速さと威力は上がったが、攻撃が余りにも単調過ぎた。
シグナムは、それを紙一重のタイミングで躱し、鎖を掴み取り、相手のバランスを崩させた。
「何!?」
「……手柄にしようと欲を掻いたのが失敗だったな!……『紫電一閃』!!」
「グギャァァァァァァァァ!!」
シグナムの炎の斬撃が、海闘士を鱗衣に覆われていない横胴を捉えた。
「…フン…馬鹿な奴だ…」
トマホーク使いは、失態を演じた仲間を鼻で哂った。
「……仲間に対して冷たい物言いだな…」
敵とはいえ仲間を哂う態度にザフィーラが繭を潜めた。
「……任務を完遂する事こそが一番の手柄だ。自らの実力を弁えず、余計な事に欲を掻いた愚者に相応しい態度だと思うが?」
トマホーク使いは吐き捨てる様にザフィーラに答える。
「……流石にヴォルケンリッター2人を相手に1人でやり合うのは此方が不利…。任務は果たしたし、俺はここで失礼させてもらおう…」
そう言うとシグナムとザフィーラの方にトマホークを振り、衝撃波を放った。
ザフィーラは、シグナムの前に立ちはだかり障壁を張った。
凄まじい圧力がザフイーラに襲い掛かるが『盾の守護獣』の異名は伊達ではなく、見事に防ぎきった。
しかし、既にトマホーク使いはその場から姿を消していた。
「……引き際を心得ているようだな…それに…」
ザフィーラは倒れ付している錨使いに視線を向けた。
「……まだ息があったのに……トドメを刺していくとは……」
衝撃波はシグナム達への牽制であると同時に、錨使いの頭を潰すことも目的としていた。
敵に情報が漏れる事を防ぐ為のようだ。
「……あの男、雑兵の中でも上位の実力のようだな……」
少なくとも、この錨使い等比べ物にならない実力を秘めている。
「ああ。奴とまともに戦えば私はおろか、エリオ達でも危ない……それこそクロノ提督ぐらいでないと勝てないかも知れん……」
雑兵相手なら、魔導師でも戦い様によっては遅れは取らないというのは、若干の修正が必要かも知れなかった。
雑兵といえど、その実利かはピンからキリまである。
トマホーク使いの実力は、白銀聖闘士ほどではないにしろ、間違いなく青銅聖闘士の上位レベルだった。
「……我らも今以上の力を得なければならんかも知れん…」
「……ああ」
守護騎士達はプログラム。
経験を積み、技量を上げる事は出来ても、これ以上強くなる事は出来ない……。
そう思ってきたが、8年前にヴィータは『火事場の馬鹿力』とはいえ、実力以上の力を発揮した。
そのときにシグナム達は気付いたのだ。
自分達が限界だと思い込んでいたから、限界だったに過ぎない事を……。
★☆★
ティアナ達は、ガジェットの波状攻撃を受けていた。
倒しても倒しても、次々と迫りくるガジェット達。
シャマルは、ヴィータが到着するまで防衛ラインを持ちこたえる様、指示を出す。
「護ってばかりじゃ行き詰まります。ちゃんと全機、墜とします!」
自分の力を証明する為に、凄い隊長がいる部隊でも、どんな危険な任務でも、自分の……『ランスター』の弾丸は…ちゃんと敵を撃ちぬける事を……」
「……『クロスファイアシュート』!!」
スバルが牽き付けているガジェットに向かって複数の誘導弾が次々と着弾していった。
だが……その内の一つがそれてスバルの方に向かっていた。
明らかに制御ミス。
そのままスバルへ直撃コースの弾丸に気付いたヴィータがそれを打ち墜とす為に向かおうとしたその時……。
「はあ!」
反対方向からヴィータよりも早く、スバル近づき、スバルの展開していた『ウィングロード』を足場に、迫る弾丸を打ち堕とした。
「…えっ!?」
「だ…誰だ!?」
スバルの前に立つのは、聖衣や鱗衣の様なプロテクターを身に纏った女性であった。
〈第六十八話 了〉
真一郎「初の前・後編…」
スバルを助けた女性とは誰か?
真一郎「いや、話の流れからどう考えてもあの人だろう?」
いや、もしかしたら解らない人もいるかもしれないし……
真一郎「お前じゃあるまいし…」
酷い!
真一郎「さて、今回も黄金聖闘士の出番がなかったな」
次回は、ちゃんと出しますので……
真一郎「絶対だな!?」
では、これからも私の作品にお付き合い下さい
真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じた事があるか!?」
いよいよ六課での本格的な戦闘が始まる。
美姫 「シグナムたちはかろうじて海闘士とやり合えているみたいだけれど」
流石にガジェットなどと同時には無理みたいだな。
それにしても、スバルのピンチを救ったのは誰だ!?
美姫 「いや、彼女でしょう」
分からないぞ。意外な人がここで出てくるかもしれないし。
次回が気になる所だ。
美姫 「それでは、次回も待っていますね」
待ってます。