『時空を越えた黄金の闘士』
第六十六話 「翔ける飛龍」
レリックを乗せて山岳地帯を走るリニアレールには、たくさんのガジェット・ドローンが取り付いていた。
レリックが格納されている車両には進入されていないが、防護扉が破られるのも時間の問題。
そして、現場に急行するなのは達を乗せたヘリの前に、飛行型のガジェットU型の編隊が襲撃を仕掛けてきた。
なのはは、制空権を確保する為、現場に急行して来たフェイトと共に迎撃に入った。
「……あれ!?」
「どうしたの、なのは?」
「……うん。あの飛行型のガジェット……8年前の奴とデザインが違う……」
あの忌まわしい撃墜事件の際、傷ついたなのはを護る為にヴィータが戦ったモノではなかった。
「それに、海闘士が乗っていない…」
今まで確認されたガジェットU型は、空を飛べない海闘士たちの空戦を補助する為に使われていたが、単独で来るのは初めてだった。
「……確かに妙だけど、今はあいつらを殲滅するのが先だよ、なのは!」
「……そうだね…。御免ねフェイトちゃん!」
ガジェットから次々と放たれる砲撃を躱しながら、なのはは『アクセルシューター』で、フェイトは『アークセイバー』で、それぞれ撃墜していった。
★☆★
なのは達が制空権を抑えているので、ヴァイス陸曹の操縦するヘリは安全無事に降下ポイントに辿り着いた。
「スターズ3、スバル・ナカジマ」
「スターズ4、ティアナ・ランスター」
「「行きます!!」」
ヘリから飛び降りたスバルとティアナは、空中でデバイスを起動させ、『防護服』を纏った。
「次、ライトニング!……チビ共は『魔導師』として降りるのか?」
「はい。一応、僕達が管理局で聖闘士として行動するにはアイオリア様の許可が要りますから……」
他の部隊に出向している聖闘士たちと違い、エリオとキャロは表向きは民間協力者の魔導師として六課に所属している為、聖闘士として作戦に参加するには、顧問であるアイオリアの承認が必要だった。
「ライトニング3、エリオ」
「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエとフリードリヒ」
「「行きます!!」」
2人は手を繋ぎながら、飛び降り『防護服』を纏う。
スバルとティアナの『防護服』は、なのはの『防護服』をベースにデザインされていた。
なのはに憧れているスバルは、すっかりと感激していた。
エリオとキャロの『防護服』も、フェイトの『防護服』を参考にデザインされていた。
2人のデバイスは、フェイトの『バルディッシュ』同様、リニスが作成したモノである。
リニスにデバイス関連は全て任せていたので、自然とそうなった様である。
任務内容は、レリックの確保とガジェットの殲滅。
1両目に降り立ったスターズ分隊と最後尾の12両目に降りたライトニング分隊がそれぞれガジェットを撃墜しながら、レリックが格納されている7両目に向かい、先に到達した方がレリックを確保することになっていた。
そして、FW陣に同行しているリインが、列車の制御を担当する。
訓練の成果もあり、それぞれ苦もなくガジェットを撃墜し、先へと進んでいた。
そして、ロングアーチの方にも部隊長のはやてと顧問のアイオリアが到着し、このまま滞りなく任務は遂行されそうだった。
しかし、ライトニング分隊が8両目に突入したとき、2人の前に新型のガジェットが立ち塞がった。
大型で強力な『AMF』を発生させる新型は、攻撃を仕掛けたエリオの『ストラーダ』の魔力を消し去り、エリオを車外に放り出した。
「エリオ君!」
アイオリア達と違い、エリオは飛行魔法も念動力も持ち合わせていない。
この高さから放り出されれば、如何に聖闘士といえど無事では済まない。
しかも、聖衣を纏っていない状態では特に……。
キャロは、とっさに列車から飛び降りた。
「ライトニング4、飛び降り!?」
「あ…あの2人、あんな高高度でのリカバリーなんて!?」
ロングアーチで管制を担当するアルトとルキノの2人が落下する2人を映すモニターを見て、息を呑む。
「いや、あれでええ!」
対照的に部隊長のはやては落ち着いていた。
「…発生源から離れれば『AMF』も弱くなる…。使えるよフルパフォーマンスの魔法が…!」
「蒼穹を走る白き閃光。我が翼となり、天を駆けよ。来よ、我が竜フリードリヒ……『竜魂召喚』!」
キャロの呪文と共に発生した魔法陣から、本来の姿である「白銀の飛竜」に戻ったフリードが、エリオを抱いたキャロをその背に乗せた。
「あれが…チビ竜の本当の姿!?」
「……カッコいい…」
ティアナとスバルも、雄雄しいフリードの真の姿に、呆然とその勇姿に見とれていた。
真の姿になったフリードは、チビ竜形態で放つ『ブラストフレア』の上位版である『ブラストレイ』を放つも、大型ガジェットの装甲を抜くことはできなかった。
「あの新型の装甲と『AMF』は厄介だね」
「うん、こうなったら……此方ライトニング3、エリオ。ロングアーチ…アイオリア様に承認を申請します!」
【……よかろうエリオ…承認する!】
アイオリアが許可を出し、エリオは今より聖闘士として行動する。
「キャロ…召喚を!」
「うん。……我求めるは、纏いし物、希望の証。我が呼び声に応えよ、聖なる衣……『聖衣召喚』!」
再び発生した魔法陣から、『麒麟星座』の聖衣が召喚された。
黄金聖衣と違い、青銅と白銀には所有者の下に飛来する能力はない。
その為、聖衣を所持していない時に敵に襲われれば、不利は否めない。
ムウや貴鬼級の念動力の持ち主ならば、かなり距離が離れた所でも聖衣を呼ぶことは出来るだろうが、彼らほどの念動力者などそうそういるものでもない。
そして、身に纏う防具とはいえ、生命が宿る神秘である『聖衣』をデバイス等に収納することも不可能。
しかし、召喚魔導師であるキャロは、聖衣を召喚することが出来る。
故に、常に持ち運ぶこともなく、必要になれば呼び寄せる事が可能だった。
『麒麟星座』の聖衣を纏ったエリオは、再び大型ガジェットと対峙する。
「でも、エリオ君。『燐光の槍撃』は、魔力も含まれるから『AMF』の範囲内では使用できないよ…」
先程、攻撃を加えてわかったが、この大型ガジェットの装甲は聖衣に近い防御力を誇っている。
如何に聖闘士とはいえ、それなりの技を使わなければ破壊できそうになかった。
エリオの必殺技『燐光の槍撃』は、魔力と小宇宙を合成させた技である。
そして、この技の射程範囲は『AMF』の効果範囲内……魔法が使えなければ、威力は半減する。
「…だから、『アレ』を使う…」
エリオにとって、『燐光の槍撃』は余技に過ぎない。
本来、麒麟とは殺生を嫌う瑞獣である。
麒麟が放つと云われる五色の燐光を模したあの技は、魔法の非殺傷設定を利用して、相手を殺さずに倒す為の技でもあった。
つまり、『燐光の槍撃』は見た目の派手さと反比例して、エリオの使う聖闘士の技の中で一番威力が低い。
魔法を併用しない純粋な『小宇宙』のみの質実剛拳(誤字にあらず)がエリオの右拳には宿ってるのだ。
エリオは小宇宙を高めながら、大型ガジェットに突撃していった。
ガジェットはベルトアームとレーザーの乱れ撃ちで迎撃する。
「…『ギャラクティカマグナム』!!」
エリオのその細腕から放たれたとは思えない程の一撃は、その拳圧でペルトアームを粉砕し、レーザーを掻き消し、ガジェットのドテッ腹に風穴を開けた。
「…相変わらず凄い技だね…」
エリオの『ギャラクティカマグナム』は、キャロの『竜王破山拳』よりも強い。
その威力は星矢が『蜥蜴座』のミスティを倒した当時の『ペガサス彗星拳』に匹敵する。
つまり、当てることさえ出来れば白銀聖闘士をも倒せる技なのだ。
エリオが大型ガジェットを倒したと同時に、スターズ分隊が7両目に突入し、これにより列車内のガジェットの殲滅とレリックの確保に成功した。
★☆★
「…ガジェットU型編隊……第5陣来ます!」
新人たちが列車で戦っていたと同じく、空においても戦いは激しさを増していた。
U型を殲滅し、制空権を確保した隊長陣だったが、すぐに新手のU型の編隊が接近してきたので、再び迎撃に移った。
第2陣、第3陣、第4陣と殲滅したが、また新たな編隊が接近してきていた。
「……敵は物量で押す気かいな?」
「……いかになのはとフェイトでも、いつかは疲弊するからな……」
如何に常人よりも高い魔力保有量でも、無限ではない物量による波状攻撃などされればいずれ限界が来てしまう。
「……!?…6時の方向より、新たなガジェット反応!」
「な…なんやて!?今までとはまっく正反対の方からか?」
「サーチャーを6時の方角へ!」
サーチャーから送られた映像が、ロンクアーチのモニターに映し出された。
「な……あれは…『海闘士』!?」
今までは、ガジェットU型のみだったが、今回のは従来通りの海闘士を伴って現れた。
「……ま…不味いで…今までは、せいぜい2、3人やったのに……今回は20人はおるやないか!?」
雑兵とはいえ、青銅聖闘士に匹敵する海闘士たち。
唯でさえ、魔導師の『神の闘士』に対する対策は、一人に対し複数で挑むこと……。
如何になのは達がオーバーS魔導師とはいえ、20名の海闘士相手に2人で挑むのは無謀すぎる。
「八神部隊長!…第5陣のガジェットの進路が変わりました!」
「えっ!?」
先に来ていたU型たちは何と、なのは達から海闘士の方にその進路を変更した。
「U型と海闘士達が交戦状態に入りました!」
ガジェットと海闘士が争い始めた事にロングアーチは混乱した。
ガジェットは、海闘士と行動を共にしている筈なのに、何故ぶつかるのか!?
はやては、先ほどのカリムの言葉を思い出した。
「やっぱり……デザインの違うガジェットは、海闘士達と別勢力のようやな…」
つまり、六課が相手をしなければならないのは、海闘士達だけではなくなった事を意味していた。
「…第5陣…海闘士達に殲滅されました。海闘士側の被害は3名…」
「……それでもまだまだ数か多い……リア兄…遊撃のリインフォースと共に出てくれるか?」
相手が海闘士の編隊なら、なのはとフェイトでは荷が重い。
ここは、アイオリアに出てもらうしかなかった。
【……待ってください!】
【ここは、任せてください!】
アイオリアが返答する前に、フリードに騎乗したライトニング分隊から通信が入ってきた。
【なのは隊長、フェイト隊長……私達を受け止めてください!】
海闘士と対峙していたなのは達にキャロからの念話が届いた。
「……受け止める!?」
「どういう事?」
疑問に思う二人の後ろからエリオとキャロを乗せたフリードが飛んで来て、なのは達の横を抜けたと同時に、エリオとキャロがフリードの背から飛び降りた。
「え…エリオ!」
「キャロ!!」
2人は、慌てて落下するライトニング分隊を受け止めた。
フリードはそのまま海闘士達に突撃する。
「何だ、このドラゴンは?」
「フン。如何にドラゴンとはいえ、俺たち海闘士の相手になるものか!」
「ま…待て!あのドラゴンから感じるこれは?」
「……『小宇宙』!?」
最強種ともいわれるドラゴンだが、聖闘士や海闘士から見れば、ちょっと手強い獣程度に過ぎない。
まあ、道教における竜の様な『神格』を持つモノならば別だが……。
西洋のドラゴンは、いずれ英雄たちに倒される存在である。
そんな英雄達以上の力を誇る『神の闘士』にとっては、手強いながらも倒せない相手ではなかった。
しかし今、目の前に迫っているドラゴンからは小宇宙を感じた。
『小宇宙』を使えるという事は『神格』を持つ竜に等しい存在とも言えるのだ。
フリードは、小宇宙を最大限まで高め、その速さは音速の領域に入った。
「行け〜〜〜〜フリード!」
『盧山龍飛翔』!!
「「「「「ウギャアァァァァァァァァァァァァ」」」」」
龍の闘気を全身に纏い、体全てを拳に変えて突進する『盧山龍飛翔』により、海闘士達は全て撃墜された。
ロンクアーチにおいてアイオリアが珍しく唖然としていた。
「どうしたんや?リア兄…」
「ま……まさか老師の技を弟子のエリオとキャロではなく、フリードが使うとは……」
『盧山龍飛翔』は童虎直伝の技である。
エリオとキャロにはそれを使いこなす適正がなかったが……。
【ちなみに、ヴォルテールは『盧山昇龍覇』が使えますよ…】
「下手な聖闘士よりも、お前の召喚竜の方が強力だな……」
下手をすると、並の聖闘士よりもフリードの方が強いのではないか……。
「老師も恐ろしい事をしてくれる…」
冷や汗を流しながら呟くアイオリアだった。
★☆★
「いや、中々興味深いモノが見れたな…老師も面白い事をなされる」
スカリエッティと共にモニターを見ていたシャカが面白そうに呟いた。
「刻印g\、護送体勢に入りました……ドクター、追撃戦力を送りますか?」
「いやウーノ。もうその必要はないよ…もともと海闘士達にレリックを取られないように先に確保しようとしただけだし……」
「その割りには、管理局が来てもすぐに退かせなかったな」
「ただ撤退させるのは芸がありませんからねシャカさん…。それに機動六課とやらには良い経験だったでしょう」
このデザインの違うガジェット達はスカリエッティの差し金だった。
管理局に対してはそれなりの反感があるが、機動六課はシャカの仲間の黄金聖闘士が協力しているという情報を掴んでいたので、その実力を試したくなったのだ。
「それにしても……」
モニターにフェイトとエリオの映像が映る。
「生きて動いている『プロジェクトF』の残滓……私の罪の象徴…。その内の一人がまさか聖闘士とは……」
エリオが『ギャラクティカマグナム』で、大型ガジェットを破壊した時の映像が再生されていた。
「……そして…タイプゼロセカンド……いや、クイントの娘…」
モニターにはクイントの愛娘、自分の技術が使われている物の、何処の誰が生み出したか解らない……少女の姿が映し出されていた。
〈第六十六話 了〉
真一郎「……ギャラクティカマグナムって…どういう繋がりでエリオが?」
まあ、あの技の生み出した剣崎順は、高値竜児の『竜』に対して『虎』なんだけど、息子は名付け親の石松に竜虎を超える『麒麟』になれという願いを込めて麟童と名付けられた訳で……
真一郎「麒麟繋がりで使わせた…と?」
まあ、そんなところ。後はギャラクティカマグナムって、高圧電流の流れる発電所で特訓して編み出された技なので、電気の魔力変換持つ繋がりも…
真一郎「こじ付けがすぎるなぁ……。んでフリードが盧山龍飛翔を使うのは?」
別サイトの感想で、フリードも小宇宙を使わせるというネタを提供してもらい、エリオとキャロに盧山系の技を持たせなかったので、じゃあフリードとヴォルテールに使わせてやろうと思い、こうなった
真一郎「…本当に行き当たりばったりだな」
では、これからも私の作品にお付き合いください
真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」
いや、まさか予想してなかった。
美姫 「本当よね。まさかフリードまで小宇宙を扱うなんて」
しかも、一撃の威力だけみたらかなりのものだしな。
美姫 「弟子二人を育てつつ、竜にも修行を積ませるなんてね」
発想も凄いが、それを実際にするのも凄いな。
美姫 「やっぱり老師だからこそかしらね」
対聖闘士に対する六課の戦力は結構、頼もしいかもな。
美姫 「あー、次回はどうなるのかしら」
次回も待っています。