『時空を越えた黄金の闘士』
第六十四話 「スターズ対冠星座」
スバルとティアナは我が目を疑っていた。
目の前にいる模擬戦の相手は、午前中、自分たちと共に訓練を受けていた民間協力者のエリオとキャロ・ル・ルシエであった。
自分達が訓練服ではなく、『防護服』になっているが、彼らは聖闘士が身に付けるプロテクター…『聖衣』を纏っていた。
エリオは訓練服の上から、頭部に額と米神を覆うヘッドギア、胴体部にはショルダーガードと胸部のみ覆うプレートアーマーとベルト、手足には前腕部まで覆ったガントレットに、膝関節のみ覆ったニーパッド。
キャロの聖衣は、エリオよりもかなり軽装で、レオタードのような服装の上に、左肩のみのショルダーガードと未成熟なバストの上を覆うプレートアーマー、右腕には前腕部を覆ったガントレット、左腕には肘を覆ったエルボーパッド、両膝のニーバッド、そして頭部にはヘッドギアと、先ほどまで付けていたバイザーではなく、無機質な仮面が彼女の顔を全て覆い隠していた。
「わざわざ隠している必要もないので教えるが、二人は表向きは嘱託魔導師だが、聖闘士でもある。六課が戦うべき海闘士と同格の実力を持つ『青銅聖闘士』だ」
二組の間に立ったアイオリアが、エリオ達について説明していた。
敵に海闘士がいる以上、聖闘士が六課に協力するのは吝かではない。
しかし、管理局に出頭している聖闘士達を六課に集めるわけにはいかないので、この二人を表向きは嘱託魔導師として六課に所属させたのだ。
「さて、スバルとランスターの二人には、この二人のどちらかと模擬戦をしてもらう」
「つまり、私とスバルがちびっ子達とそれぞれ一対一で、模擬戦を行うということですか?」
「……違うよ、ティアナとスバルは二人掛かりで、この二人のどちらかと模擬戦を行うんだよ」
アイオリアの傍らにいたなのはの説明に、ティアナは内心ムッとしていた。
舐められている……そう感じたようだ。
しかし、そんなティアナの思い等、看破されていた。
「舐めているんじゃなくて、純然たる事実だよ……。私だってエリオとキャロを一対一で戦えば、負けないにしても相当の覚悟が必要だよ…」
そのあと今はね…と呟く『エース・オブ・エース』の異名を誇る管理局のエースにティアナは絶句する。
「今は、エリオもキャロも実戦経験が少ないから、私が勝つ確率は高い。でも、二人が経験を積んでいけば、陸戦で一対一では勝つのは難しい」
空の飛べない聖闘士に空戦魔導師が最も有効なのは、空中戦だ。
黄金聖闘士相手には空が飛べた所でハンデにもならないが、青銅聖闘士相手には有利に戦えるだろう。
最も、エリオとキャロには飛竜であるフリードリヒに騎乗するという、空戦方法があるが……。
一般の召喚魔導師が召喚する赤竜程度なら、オーバーSランクの魔導師なら容易に倒せる。
しかし、アルザスの竜召喚士ルシエの末裔であるキャロが使役するフリードリヒと赤竜は比べ物にならない。
今、キャロの傍らにいる小さな姿ならともかく、『真の姿』になればオーバーSランク魔導師といえど油断できない。
「今回の模擬戦の目的は、先ほども言ったが『神の闘士』の実力を肌で感じ取ってもらう為だ。ランスターの反応からもわかるが、体験せねば実感できまい?」
言葉だけでは、決して実感できない。
スバルもティアナも、アイオリアがゼブラ・ベリーサを一撃で仕留める映像を見ているが、彼女たちは、ゼブラ・ベリーサがどれ程の実力だったのかを理解している訳ではない。
だから、その身で体験した方が実感しやすい。
アイオリアでは実力差があり過ぎて、かえって実感しにくいかも知れない。
故に、スバル達でもある程度は対抗できそうな青銅聖闘士と模擬戦を行うことにしたのだった。
★☆★
二人の対戦相手は、コイン・トスの結果、キャロに決まった。
「…ねえ、キャロ…。さっきつけていたバイザーといい、今の仮面といい、何で顔を隠しているの?」
朝から疑問に思っていた事を口にするスバル。
「……聖闘士は本来、アテナ以外は男だけの世界です。そこに女子が入るためには、女である事を捨てる為に仮面をつけるんです。そして、その仮面の下の素顔を見た相手に対しては、二通りの選択をしなければなりません」
「…選択?」
「…まあ、そのことはいいでしょう」
内容が内容だけにキャロは話を打ち切り、構えを取った。
「三人とも準備はいいな?始めるぞ!」
アイオリアの合図の直後、キャロは二人に拳を放った。
繰り出される拳からの衝撃波が、二人を襲う。
「わっ!?」
「な…何なの?」
二人の間をすり抜けていった拳圧は、二人の後ろにあったコンクリートの柱を容易く薙ぎ倒した。
「「なっ!?」」
シュミレーターが作り出したモノとはいえ、本物と変わらないそれを、容易く破壊したことに驚愕する。
「……余所見をするな!」
アイオリアの声に、ハッとなったスバルとティアナが前を見たとき、既にキャロの姿はなかった。
そして、二人の上から太陽の光が遮られたので、上の方に視線を向けると、キャロが二人に蹴り降りてきた。
「「キャア!」」
慌てそれを躱した二人だったが、キャロの蹴りが地を打った時に発せられた衝撃に吹き飛ばされた。
体勢を立て直した二人が見たものは、まるで流星が落ちた後のようなクレーターであった。
あんな蹴りをまともに喰らったら……。
二人の背中に冷たい汗が流れていた。
「これで、二人には聖闘士の攻撃力がどれ程のものか理解出来ただろう」
「流石にあの一撃は、防護服でも防げませんからね」
最初のキャロの攻撃は、わざと外す様にアイオリアの指示によるものであった。
魔法と違い、聖闘士の技には『非殺傷設定』などはない。
故に通常の模擬戦なら相手を殺さない程度の手加減をしなければならないが、今回はスバルとティアナに聖闘士の力を知ってもらう事も目的の一つである。
最初だけは全力で攻撃して、それをわざと外すように指示を出していたのだ。
「キャロ!これは模擬戦だ。もう少し威力を弱めろ!」
「はい!」
このやりとりも予定通りである。
これで、この後キャロの攻撃力が落ちても、それは『手加減』していると二人に認識させることが出来る。
なぜなら、魔導師が二人掛かりなら攻撃力さえ弱めれば、青銅聖闘士相手なら、それなりには戦えるのだから……。
しかし、それで聖闘士の攻撃力を侮ってもらっても困るので、しっかりと認識させなければならかった。
改めて対峙するスターズとキャロ。
「ティア、先手必勝…行くよ!」
「ま…待ちなさい!!」
ティアナの静止が聞こえていないのか、そのまま突撃をしかけるスバル。
「行くよキャロ!『リボルバーシュート』!!」
リボルバーナックルが回転し、突進しながら拳を突き出した。
しかし、キャロはそれをあっさり躱すとカウンターの掌低打ちをスバルの腹に放つ。
「…『ブーストナックル』!!」
『防護服』を抜かないよう手加減したが、それでも相当の威力である。
「グハッ!」
スバルはそのままティアナの横まで吹っ飛ばされた。
「このバカスバル!いくらアンタが近接型とはいえ、聖闘士相手に真正面から突っ込んだら、返り討ちに合うに決まってるでしょ!!」
ティアナも、聖闘士が最低でもマッハ1の速さを持っていることは聞き及んでいた。
魔導師にとっての最高速が、聖闘士の基本速度。
つまり、いくら突進力の強いスバルでも、聖闘士からみたらまだまだ遅いのだ。
「いい加減、頭を切り替えなさい……私達じゃ、いくら最下級の聖闘士でもバカ正直に戦えば、勝率は0だってことを……」
最初は舐められているといきり立っていたティアナだったが、先ほどのキャロの蹴りを見て、純然たる事実と認識した。
おそらく陸戦では、なのはでもバカ正直に戦えば、キャロには勝てない。
実際、エリオとキャロと近接でまともに戦えるのはシグナムくらいであろう。
シグナムは、豊富な経験で自分よりも速い相手に対しても、対応できる。
フェイトも、速さは青銅聖闘士と互角だが、残念ながら防御力が弱い。
近接限定では、フェイトはシグナムの様に聖闘士と戦うことはできなかった。
「じ……じゃあ、どうするの?」
「とにかく地形を利用して、私とアンタの持ち味をフルに生かすしかないわね……」
★☆★
「ほう……考えたなランスター…」
「そうですね」
ティアナがとった行動を見て、アイオリアとなのはが感心していた。
魔力弾を撃ち、キャロの周囲でそれを破裂させて視界を遮り、ビル群に紛れ込み姿を隠す。
その後、いたる所からスバルとティアナが現れ、キャロを翻弄していた。
そんなキャロを見て、エリオはハラハラしている。
「……ティアナの幻術ですね…」
「キャロは、聖闘士の基礎的な闘技を習得しただけに過ぎない青銅聖闘士だ。俺の知る限り、青銅で幻術系統を使えるのは一輝しかいない」
幻術等は白銀聖闘士級なので、一般の青銅聖闘士には扱えない。
最初から、白銀聖闘士を圧倒できる実力を有していた『鳳凰星座』の一輝以外には幻術は有効な手段である。
最も、アイオリア達黄金聖闘士には、ティアナ程度の幻術は通用しない。
アイオリア達を翻弄させるには、カノン、一輝、シャカ級の技量が必要である。
特に一輝の『鳳凰幻魔拳』が通用しないのは、シャカくらいである。
「まだまだキャロは相手の気配を探ることにはなれていないからな……特に今は『ケリュケイオン』を持っていないから、魔力探知も難しいだろう」
デバイス無しでの魔力探知は難しいので、『ケリュケイオン』を外しているキャロは魔力でティアナ達の位置を特定できていない。
聖闘士になって、まだ一度も実戦を経験していないから、特にである。
「僕達は、老師と模擬戦をしている程度でしたからね」
「それだけでも紫龍に比べれば、十分お前たちは恵まれているけどな」
エリオとキャロは、聖闘士になった時点での実力は紫龍よりも上とも言えた。
二人は、修行中に童虎と手合わせできていたが、紫龍にはそんな経験はなかった。
無理もない。
紫龍の修行中は、童虎はずっと五老峰の大滝の前に座したまま、動かなかった。
今の若々しい姿でもなく、二百数十年前からずっと『108の魔星』が封じられた塔を監視していたのだから……。
当然、そんな状態で紫龍と手合わせなど出来ない。
その点においては、エリオとキャロは紫龍よりも恵まれていた。
最も、聖闘士になって星矢に敗北してからの紫龍は常に強者と戦っていた。
恐らくは、一輝、星矢の次に強敵とぶつかったのが紫龍と言えよう。
暗黒ドラゴンは、暗黒四天王最強だった。
『ペルセウス座』のアルゴルも、教皇に青銅抹殺を命じられた白銀の中では最強であり、自らの両目を捨てなければ勝てなかった。
『蟹座』のデスマスクも、黄金聖衣がデスマスクを見放さなければ、死界の穴に叩き落とされていただろうし、『山羊座』のシュラも禁じ手の『盧山亢龍覇』で相打ちを仕掛けなければ勝てなかった。
『クリュサオル』のクリシュナも、シュラから『聖剣』を受け継いでいなければ……。
これほどの強敵、難敵との激戦を潜り抜け成長した紫龍にエリオとキャロが追いつくのは至難の業である。
「後はアンタ次第よスバル!」
幻術に紛れ込んだスバルの足元に近代ベルカ式の魔法陣が展開する。
「しまった!」
幻術に翻弄されたキャロは対応が遅れてしまっていた。
「行くよキャロ!一撃必倒『ディバイン・ボルト』!!」
スバルの拳から撃ち放たれた砲撃がキャロに直撃した。
「……『ディバイン・ボルト』?」
「ええ、この前のBランク昇格試験の時も使っていましたけど、私の『ディバインバスター』とアイオリアさんの『ライトニングボルト』から取ったみたいです…」
「……ほう…」
4年前の空港火災でアイオリアとなのはに助けられて以来、ずっと二人に憧れ続けたスバルらしい命名であった。
「それにしても、今のはいいタイミングだった…。キャロは避ける間もなくスバルの魔法に直撃した……が…」
「あれでキャロを倒せたと思うのは間違いですね……」
全力で放った『ディバイン・ボルト』が直撃した手ごたえを感じていたスバルにティアナが近づいて来た。
「上手くいったねティア」
「ま、正面から戦わなければ私達でも、なんとかなったわね……」
二人はホッと息をついていた。
しかし、これが勝敗を分ける結果となった。
「エッ!?」
「な……何…この感じ!?」
二人が感じるのは『宇宙』。
魔力と小宇宙はまったくの別物であるが、それぞれ必殺技とも言えるくらいの技放つときは、お互い感知することが出来る。
「う…嘘!?」
煙が晴れて、見えてきたは、しっかりと立っているキャロの姿だった。
なんだかんだ言いながら、まだまだスバルとティアナは甘く見ていたのだ。
キャロ本人をではなく、キャロが纏っている『聖衣』を……。
たとえ、最下級の『青銅聖衣』でも、その防御力は『防護服』など軽く凌駕する。
残念ながら、スバルの『ディバイン・ボルト』の衝撃は、『冠星座』の聖衣によって殆ど防がれていたのだ。
「残念だが、『ディバイン・ボルト』の威力は聖衣を抜く程ではない…」
「もう少し威力と技量を上げなければ、難しいですね…」
「この『小宇宙』の大きさ……アイオリアさん……どうやらキャロはアレを使うつもりです……キャロの技の中では、恐らく二番目の威力を誇るあの技を……」
実は、キャロは聖闘士の中でも、多彩な技を持っている。
通常、必殺技とも言えるほどの威力を持つ技は、一人の聖闘士でだいたい三つ前後なのだが、キャロは八つである。
「凄かったですよスバルさん。聖衣を纏っていなかったら今の魔法で終わりでした…」
そう言うとキャロは、一気に二人との距離を縮めてきた。
「「なっ!?」」
「でも、倒した事をちゃんと確認もせず気を緩めるのは聖闘士相手でなくとも無謀です。『龍王破山拳』!!」
その細腕からでは信じられない程の威力で二人を薙ぎ払った。
「「キャアアアアアアアアアアア!!」」
ビルに叩きつけられたスバルとティアナはそのまま意識を失った。
〈第六十四話 了〉
スターズ対聖闘士の対決は、キャロに軍配が上がりました
真一郎「まあ、妥当っちゃ妥当だな」
そうだね〜
真一郎「ところで、キャロの技って……」
声優繋がりで、キャロの技はスーパーロボット大戦のクスハの愛機『グルンガスト弐式』と『龍人機』、『龍虎王』の技から取りました。
真一郎「……『真・龍虎王」は!?」
あれのは派手すぎて……『青銅聖闘士』レベルじゃないだろ?
真一郎「……納得」
では、これからも私の作品にお付き合いください
真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」
やっぱり青銅とは言え、キャロの勝ちだな。
美姫 「実戦経験が少なくても、やっぱり聖闘士として修行して聖衣を授かるぐらいだもんね」
ティアナの作戦もそう悪くはなかったんだろうけれどな。
美姫 「でも、聖闘士と訓練を行えるのは良い事じゃないかしら」
だよな。行き成り実戦で出会って戦闘になるよいもな。
美姫 「さて、次回はどんなお話が待っているのかしらね」
次回も待っています。