『時空を越えた黄金の闘士』

第六十一話 「Standby 機動六課」

 

すべての始まりの地より、現れし海神の戦士。

大地の法の塔を破壊し、数多の次元を護る法の船を奪うべく……。

対するは、同じ始まりの地より使わされし戦女神の戦士。

心改めし無限の欲望が、法の守護者らに剣を与えん。

はるか古代に沈みし船が王と共に蘇り、女神の戦士を戦場に誘わん。

破滅か存続か。

星々すらも、この未来を見通すこと叶わず……。

 

聖王教会教会騎士団兼時空管理局理事官、カリム・グラシア少将の希少技能『プロフェーティン・シュリフテン』より。

 

 ★☆★

 

新暦0075年。

ミッドチルダ中央区画湾岸地区。

ここに、時空管理局の新しい部隊の隊舎が準備されていた。

「なんや、こーして隊舎を見てると、いよいよやなーって気になるな―――」

「そうですね、はやてちゃん…………八神『部隊長』♪」

「あはは…」

新設された古代遺失管理部『機動六課』。

交通の便が悪いが、ヘリが出入りし易い場所であり、第97管理外世界『地球』の海鳴市に雰囲気が似ている為、部隊長八神はやて陸上二佐とシャマル医務官は気に入っていた。

「あれ…そういえばリア兄は?」

「アイオリアさんなら、散歩がてらに隊舎の中を見てくるといって先ほど歩いていきましたよ…」

「そっか〜。でも、今回はリア兄にかなり手伝どうてもろたからなぁ……」

「そうですね。アイオリアさんのお陰で、地上本部との対立も何とか緩和していますからね……」

地上本部の長、レジアス・ゲイズ中将の要請により、出向してきた聖闘士達の活躍は目覚しく、地上の犯罪者の検挙率は30%上昇しており、中将も面目躍如といったところであり、機嫌が良いらしい。

予想された聖闘士と魔導師の確執も、陸士108部隊、部隊長のゲンヤ・ナカジマ陸上三佐の人柄と影響によりうまく、緩和されている。

アイオリアが仲立をしたことにより、とりあえず、地上本部と機動六課の仲もそれほど悪くなっていないのだ。

最初はレジアスと対立していたはやてだったが、地上の本局に対する不信感の理由を知り、そんな中、地上の平和の為に粉骨砕身で働いている中将に対し、敬意を持つようになっていた。

レジアスにしても、自分の為に犯してしまった罪の償いを支えるべく、白眼視される事を覚悟の上で、働いている事をアイオリアに諭され、『犯罪者』という偏見をもって侮蔑していた事を恥じるようになっていた。

とはいえ、対立することを止めただけで、けっして友好関係になったわけではないが………。

 

 

 

機動六課、駐機場。

そこに足を伸ばしたアイオリアは、男女二人組と遭遇した。

「……シグナムか」

「…ああ、アイオリアか…」

女性の方は、彼にとっては家族同然の存在、六課FW部隊『ライトニング分隊』副隊長、シグナム二等空尉だった。

「…そういえば、アイオリアとは初めて顔をあわせるんだったな……彼は、ヴァイス・グランセニック陸曹。六課のヘリパイロットを務めることになっている……武装隊でかつて私の部下だった男だ。ヴァイス、この人が私の家族の一人の……」

「アイオリアだ…よろしくな…グランセニック陸曹…」

「此方こそ、俺のことはヴァイスでいいっスよ……アイオリアの旦那…。噂に名高い『黄金の獅子』に会えて光栄です」

カノンとムウと違い、はやてやレジアスと繋がりが深いアイオリアは、黄金聖闘士の中で最も管理局員に名が売れている。

「……ところで、ヘリはまだ来ていないのか?」

駐機場の中には、ヘリの姿は見当たらない。

「今日の夕方到着ッス。届くのは武装隊用の最新型!前から乗ってみたかった機体なんでこれがもー楽しみで!」

何処の世界、何時の時代でも、男というモノは、こういうマシンに夢を抱く様で、今のヴァイスはまるで少年のようであった。

アイオリアも男なので、彼の気持ちは少しは理解していた。

「シグナム副隊長〜!ヴァイス陸曹〜!」

そこに、一人の少女が此方に駆け寄ってきた。

「アルト・クラエッタ二等陸士、只今到着です!」

彼女は、魔法能力のない内勤組で、かつてシグナムとヴァイスと同じ部隊であり、六課では司令部である『ロングアーチ』に通信士として所属している。

新型ヘリ『JF704式』が配備される事を聞き、見学に来たようだ。

ちなみに彼女を六課に推薦したのはシグナムである。

それから少しして、アルトを探していた彼女の同僚であるルキノ・リリエ二等陸士がやってきた。

シグナムが二人にもアイオリアを紹介し、彼女達の直接の上官である通信主任、シャリオ・フィニーノ一等陸士が来るまで、隊舎の中を見回ることを薦めた。

「俺も、散歩がてらに隊舎を回っている所だ。良ければ一緒に行くか?」

「は…はい!」

「よ……よろしくお願いします!」

アルトとルキノも、『黄金の獅子』の噂は耳にしていたので、緊張気味のようだ。

三人がその場を離れた後、ヴァイスがぼそりと呟いた。

「……あんなに緊張していたら、息抜きの散歩にじゃないっスか…?」

「……フッ…すぐに慣れるさ……」

アイオリアの人柄をよく知るシグナムがそう応えた。

「…しっかし…大丈夫なんスかねえ、あんなガキんちょ共で」

「入隊したてのお前を見て、私もまったく同じ感想を持ったものだよ。なあ8年目?」

「いや、シグナム姐さん。それは言わねー約束で……」

 

 ★☆★

 

シグナムが予想した通り、アルトとルキノの緊張は直ぐに解けた。

最初こそ、管理局内では高名な『黄金の獅子』に対しガチガチだったが、アイオリアの『頼れる兄貴』という人柄に触れることによって打ち解けていった。

「隊舎内、広いですね」

「……中古物件らしいが、造りは結構良いからな。六課の試験期間は一年だから、わざわざ新築する必要はあるまい」

アルトとアイオリアがそう話していると、ルキノが突然、足を止めた。

「ん?ルキノさんどーかした?」

ルキノの視線の先には、お人形サイズの小さな少女が飛行しながら、周りの隊員達に挨拶していた。

「「か…可愛い……」」

少女の愛らしさに、キャーキヤーとまるでアイドルを前にしたミーハー少女の様にはしゃぎ出した。

「ああ、あいつは……「…ここに居たのかアイオリア…」…リインフォースか…」

そこに、愛らしい少女に良く似た容姿の女性が声を掛けてきた。

「……クラエッタ二等陸士にリリエ二等陸士だな?」

「「は…はい!」」

「始めまして、機動六課部隊長首席補佐及び遊撃要員のリインフォース一等陸尉だ!」

「は…始めまして…アルト・クラエッタ二等陸士です!」

「同じく、ルキノ・リリエ二等陸士です!」

リインフォースは挨拶を返す二人に頷いた後、先ほど二人がキャーキャー言いながら見ていた妹を呼んだ。

「あ、お姉ちゃんに…リア兄様〜〜〜〜!!」

呼ばれた小さな少女は、直ぐに飛んで来て、アイオリアの肩の上に乗った。

「………お前と同じ職場になる者たちだ。挨拶しろ!」

「ハイです、お姉ちゃん!機動六課部隊長次席補佐及びロングアーチスタッフ、リインフォースU空曹長です!」

上   司  !?

ちなみに管理局の階級は、下から研修生、三等空/陸士、二等空/陸士、一等空/陸士、空/陸曹、空/陸曹長の順である。

つまり、この小さな少女はアルトとルキノより三階級も上の上官だった。

「「し……失礼しましたっ!!」」

背筋を伸ばし敬礼する二人にリインは、楽にするように諭す。

自分の方が年下だし、ロングアーチのスタッフ同士仲良くやれたらよいと思っているからだ。

「リイン……これから時間はあるのか!?」

「はい。今は休憩時間ですよ…リア兄様…」

「ならば、親睦を深める為に、この二人の隊舎の見回りに付き合ってやれ」

「解りました…。リア兄様はどうするんですか?」

「無論、俺も付き合うさ」

「ハイです!」

大好きな兄と一緒に散歩できることで、リインのテンションは急上昇した。

「リインフォースはどうする?」

「私はこれから、主はや……いや、八神部隊長から頼まれた仕事があるので遠慮しよう…」

「そうか…では、また後でな」

「お姉ちゃん…失礼するです」

「「お疲れ様です!」」

リインフォースと別れたアイオリア達は、散歩を続けるのだった。

 

 ★☆★

 

第61管理世界『スプールス』、自然保護区画にある『管理局自然保護隊』のベースキャンプ。

「じゃあ、エリオ、キャロ…忘れ物はないね?」

自然保護官タントとミラ、そして他の隊員達が、旅立とうとするエリオとキャロを見送っていた。

「はい」

「それじゃあ、行って来ます」

「二人には、ずっとここに居て欲しかったよ…」

エリオとキャロの肩に手を掛けながら、ミラが呟く。

『麒麟星座』と『冠星座』の聖闘士であるエリオとキャロだが、童虎からの指導の他に、リニスから魔導師としての基本も教育されていた。

特に『召喚魔導師』としてのキャロの能力は、自然保護官向きの能力なので、尚更そう思える。

彼らは、民間協力者の『魔導師』として『機動六課』に出向する予定である。

有事の際には、聖衣を纏い聖闘士として動くことになるが……。

機動六課はその任務の性質上、『神の闘士』と戦わなくてはならない可能性がある。

機動六課は、ロストロギア『レリック』専任の部隊。

そして、そのレリックを狙ってやってくる『ガジェット』と管理局が命名した機動兵器と、たまにそれと行動を共にする神の闘士『海闘士』の雑兵達の迎撃が六課の任務となる。

魔導師が『神の闘士』に対する対処法はまだ確立されていない。

何人かの犠牲を考慮した上ならば、青銅聖闘士や海闘士の雑兵くらいなら対処可能だが、唯でさえ人手不足の管理局としては、その方法を取ることは出来なかった。

白銀聖闘士以上に対しては、そもそも相手にならない。

故に神の闘士には神の闘士をぶつける事が一番の対処法だ。

しかし、地上本部に出向している聖闘士達の数も少ない為、とても機動六課に回すことは出来ない。

それを強引にしてしまえば、和解の目処が立ちつつあるはやてとレジアスの関係を再び抉らせかねない。

本局が、有能な魔導師を次々と地上から奪っていって行くのに、その対策として協力を取り付けた聖闘士まで採られれば、もはや関係回復は絶望的になるだろう。

更に、管理局に所属している『オリオン星座』のクロノ、『南十字星座』のヴェロッサもそれぞれ局員としての任務がある為、聖闘士として六課に協力できる状態ではない。

ヴェロッサは少しは自由に動けるが、次元航行部隊の提督であるクロノは無理であり、彼に出来るのはせいぜい『後見人』の一人として名を連ねることくらいだ。

三人目の白銀聖闘士である『楯座』のユーノも、『無限書庫』の司書長として毎日、目が回るほどの忙しさであり、これまた不可能である。

無論、『海闘士』全体が動けば、聖闘士としての責務を最優先することになるが……。

そこではやてはアイオリアを通じて童虎に、エリオとキャロの協力を要請したのである。

海闘士が動く可能性がある以上、童虎も断る理由がない為、それを了承し二人を派遣することにしたのだ。

「……出向する部隊は、一年間の試験運用らしいから、終わればここに戻ってきますよ」

エリオは、明るく二人に答えるが、これから戦うことになるであろう相手の強大さを考えれば、楽観視は出来ない。

そのことに対しての覚悟は決めているが、それでも『家族』同然の自然保護隊の人たちの前ではそんなことはおくびにも出せなかった。

「確か、二人の直接の上司となるのは、本局のお偉いさんだったな?」

「……本局次元航行部隊所属のフェイト・T・ハラオウン執務官ね」

「ああ、リニスさんの元教え子で、たまに使い魔のアルフと共に逢いに来てくれてる……」

フェイトは、自分によく似た境遇である二人、特に同じ『プロジェクトF.A.T.E』によって生み出されたエリオを気に掛けて、度々、休暇などを利用して二人に逢いに来ていた。

「おお、二人とも待たせたな」

そこに、童虎が旅支度を整えたリニスと共に現れた。

「二人とも、無事に帰ってくるんじゃぞ……」

了承したとはいえ、やはり童虎としては、二人を死地に向かわせたくはなかった。

聖闘士は、アテナと正義を護る闘士。

しかし、何度も過酷な戦いに傷つき、失明し、何度も死の淵に彷徨いながらも立ち向かって行った一番弟子の紫龍の事を考えると……心穏やかではいられなかった。

決して、表には出さなかったが……。

「あと、キャロにはこれを渡しておこう……」

「…これは?」

「仮面の代わりじゃ…。流石に従来の女性聖闘士の仮面では、食事時など不便じゃろうからな…」

女性聖闘士の仮面は、顔のすべてを覆っている為、食事時は仮面を外さなくては食べられない。

家族同然の童虎やエリオ、自然保護隊の面々の前では仮面を被っていないキャロだが、それ以外の前では起きて通り被っている。

仮面の下の素顔を見られる事は女性聖闘士にとって、裸を見られること以上に屈辱的であり、その相手を殺すか愛するかの二者択一を選択しなければならない。

キャロとしては、見られても屈辱はそれほど感じないが、一応掟であるし、親しい人間以外には見られたくは無い。

そこで、童虎が用意したのは、顔の上半分を隠すバイザータイプの仮面であった。

これならば、入浴と睡眠時くらいしか外す必要はない。

「ありがとうございます老師」

仮面を受け取ったキャロは、さっそくそれを付けた。

「では、リニス…。二人を頼むぞ」

「はい老師。ちゃんと二人をミッドチルダまで送ります」

「リニスさんもお元気で…」

「ええ、皆さんもお元気で…」

リニスは、二人をミッドに送った後、本来の主であるカノンの下に戻る予定である。

「それでは老師…」

「行って参ります…」

エリオ、キャロ、リニスの三人は、童虎に傅き挨拶を済ませて、その場を後にした。

 

 ★☆★

 

ミッドチルダ北部、旧ベルカ自治領、『聖王教会』大聖堂。

「機動六課……かぁ。お子様だったはやてももう部隊長か」

「あの子と出会って、私は8年、貴方は10年よ。はやても立派な大人だわ」

教会騎士団、騎士カリム・グラシアとその義弟、本局査察官ヴェロッサ・アコースがはやての事で話し合っていた。

義姉弟という関係ゆえに、ヴェロッサはカリムと彼女が属する『聖王教会』に協力してくれているが、すでに彼は『聖王』ではなく、『戦女神アテナ』を信仰している。

既に歴史上の偉人に過ぎない『聖王』と、二百数十年に一度、『地球《エデン》』の愛と正義を護る為に降臨する『女神』。

多くの神々が人間を見捨てる中、ただ『一柱』…最後まで人間を愛し、護り続けている『アテナ』に比べれば、『聖王』に対する信仰はただの英雄崇拝に過ぎないのかも知れない。

聖闘士の技能を、教会騎士団に組み込む為に、義弟を聖闘士に送り込んだのだが……それは、あてが外れてしまった。

正直言って、余りにも過酷過ぎるため、皆が耐え切れないのだ。

なまじ、魔法という便利で強力な力を持っているが故に、過酷過ぎる修行をしてまで、『小宇宙』を得たいとは思えないのかもしれない。

教会の中でも指折りの実力者であるAAAランクのシャッハ・ヌエラですら、耐え切れるか解らない程なのだから……。

クロノ提督、そして我が義弟も、よくやり遂げたモノだ…と、感心してしまうカリムであった。

最も、途中で投げ出し脱走でもすれば処刑されていただろうから、ロッサも必死だったのだが……。

「後見人で監査役でもあるクロノ提督は、いろいろお忙しいし、私やシャッハも教会からあんまり動けないし…」

カリムは、書類から目を離し、義弟の方に顔を向ける。

「はやての事、助けてあげてねロッサ」

「了解、義姉さん。僕らの可愛い妹分の為……そして、『南十字星座』の白銀聖闘士として、ヴェロッサ・アコース頑張りますとも…」

と、応える義弟をすこし複雑な心境で見つめる義姉であった。

 

〈第六十一話 了〉


 

真一郎「幕間が終わり、とうとうStrikerS編に入ったな」

流石に10年の間は長かったです。さて、これからですが……

真一郎「基本的に、ホテル・アグスタ辺りまでは原作ベースだけど、それ以降は原作からかけ離れます」

では、これからも私の作品にお付き合いください。

真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」




機動六課が遂に出来たか。
美姫 「はやても苦労したんでしょうね」
ともあれ、無事にスタートだな。とは言え、やっぱり聖闘士には聖闘士しかない現状か。
美姫 「中々厳しそうね」
六課での聖闘士はエリオとキャロの二人だけみたいだしな。
美姫 「これからどうなっていくのか楽しみね」
ああ。次回も待っています。
美姫 「待ってますね」



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