『時空を越えた黄金の闘士』

第六十話 「海龍の正体」

 

次元航行中の『アースラ』に、カノンから連絡が届いた。

「……では、老師の教え子であるエリオとキャロが、『麒麟星座』と『冠星座』を継承したんですか?」

「……ああ。あの馬鹿弟子どもには呆れ果てるが……どうやら、エリオとキャロに星の宿命が向いていたようだ…」

「…昨年、ユーノも無事『楯座』の聖闘士になりましたし……これで、現存する正規の聖闘士が揃ったわけですね…」

9年前の『P・T事件』後に見つかった3体の聖衣……そして、クロノが先代『オリオン座』の聖闘士リゲルに託された2体の聖衣。

その全てが、主を得たわけである。

そして、カノン、ムウ、アイオリア、童虎の4人の黄金聖闘士…。

更に、修行を終えた聖闘士候補生10人に、正規外の聖衣40体の内の10体がそれぞれ与えられている。

『P・T事件』の最中に現れた海闘士、『海賊《パイレーツ》』のフック。

数年前のなのは撃墜事件の際に現れた海闘士の雑兵たち。

これらの件から、海闘士との戦いは避けられないだろう。

いかにカノン達黄金聖闘士が強大でも、敵の数が多ければ対処は難しくなる。

敗北しないにしても、数多くの犠牲者が出るかも知れない。

その為にも、聖闘士は一人でも多く欲しい。

「とりあえず、今、現存する正規、正規外を含め、全ての聖衣を使える様にしておきたいな…」

「……そうですね」

クロノは思う。

確かに、人間というのは罪深い生き物なのかも知れない。

しかし、それでも、滅ぼされなければならない程ではない筈である。

なぜなら、人間には『愛』というモノがあるのだから……。

だから……『海皇』に選ばれた人間以外を滅ぼそうとする海闘士を認める訳にはいかない。

 

 ★☆★

 

海闘士を束ねる『海将軍』筆頭、『海龍《シードラゴン》』。

彼は、着々と己の野望を果たす為の準備を整えていた。

「…フッ…もうすぐだ…。もうすぐ、この世界を理想の世界にするための戦いが始まる…。あの愚かなる『最高評議会』と……それに良い様に利用されている『管理局』に代わり……我ら海闘士…いや、私が『神』となり…この世界を導くのだ…!」

彼は、自らの野望の原点である過去に思いを馳せた。

 

 

 

――――二十余年前、時空管理局本局。

「……アルファロメオ君!」

「……これは、クライド提督……何用ですか?」

廊下を歩いているアルファロメオ・ベルリーナ執務官を、クライド・ハラオウン提督が呼び止めた。

「そう畏まらなくてもいいじゃないか?……明日からは君も私同様、巡航L級次元航行艦船の艦長に昇進するんだから…」

「ですが…今はまだ上官です。それに先任ですし……」

「堅いな…君は…。共にグレアム提督の下で働いた仲じゃないか…」

クライドとアルファロメオは、ギル・グレアム提督が執務官だった頃、共に執務官補佐として付き従っていた。

アルファロメオは、現在15歳。

既に1歳になる息子のいる23歳のクライドよりも若く、同期の出世頭と言われている程の優秀な局員である。

魔導師ランクは空、陸戦共にS+、総合SSと、クライドやその妻であり、現在育児休暇中のリンディ・ハラオウン女史にも匹敵する魔力を持ち、管理局最強と謳われるギル・グレアム…彼の使い魔であるリーゼ姉妹とも互角以上に戦える空戦魔導師である。

「……息子さんはお元気ですか?」

「ああ。ようやくよちよち歩きを卒業したよ…」

「それは何よりですね。仕事が残っていますので、リンディ女史……奥様にもよろしく言っておいて下さい。では…」

そう言い残し、一礼してその場を後にした。

アルファロメオは、クライドやグレアムを魔導師としては尊敬している。

しかし、出世願望が強いので、グレアムは兎も角、クライドに対しては自分よりも8歳年長にも拘らずライバル意識も持っていた。

彼の目的は、管理局で上を目指し、腐敗が目立ってきた管理局の改革をする事であった。

グレアムの様な管理外世界出身者は兎も角、管理世界出身の上役には平然と汚職をしている者が目立ってきていた。

管理局黎明期、三提督の活躍によって存在意義を確立できたと言うのに……『最高評議会』の方々が、旧暦の悲劇を繰り返させない為に、『時空管理局』を設立したというのに……その苦労と努力を無に帰そうする輩を排除する為に……彼は、地位と権限を欲していた。

 

 

 

次元航行中の巡航L級4番艦『レイティア』。

アルファロメオ・ベルリーナ提督が艦長を務めるこの艦内は…地獄であった。

突如として発生したエンジントラブル。

そして、艦内に侵入してきたテロリストの攻撃により、瓦解寸前であった。

「クッ…こいつら一体何者だ!」

伊達にオーバーSランクの魔導師ではない。

テロリストの殆どの拘束に成功したアルファロメオだったが……その時、惨事が襲い掛かった。

「艦長!トラブルを起こしたエンジンがオーバーヒートしました…。このままでは……この艦は沈みます…」

「何だと!…止むをえん…。脱出艇を用意…総員に退艦命令を出せ!」

「駄目です…。先のテロによって脱出艇及び転送ポートが破壊され、使用出来ません!」

「な…何ぃ!!な…ならば何とか何処かの世界に不時着させろ!」

「り…了解!!」

その時、拘束されていたテロリストが笑い声を上げた。

「何が可笑しい!」

「フフフッ…無駄だ…。お前たちはここで死ぬのだ……これは『最高評議会』の決定なのだから……」

「な…何だと!」

管理局の改革を進めるアルファロメオは若さゆえの無謀さから、既に行動を起こしていた。

その行動の幾つかは、『最高評議会』にとっても不利益を齎していた。

そして、とうとう評議会も容認出来なくなり、極秘裏に評議会からアルファロメオの抹殺指令が出されたのである。

「…バ…馬鹿な…『最高評議会』が…!?」

管理局の改革は、『最高評議会』に対する敬意からであったのに……。

その評議会が、裏でテロリストを操り、自分を抹殺しようとした。

その時、彼は悟った。

『最高評議会』はもはや、権力の座にしがみ付き、目的の為ならば一切手段を選ばない…次元犯罪者同様に成り下がっている事を……。

そして…『レイティア』のエンジンが爆発し、艦は無人世界に墜落した。

死を覚悟したアルファロメオだったが、その時……彼の内に何かが響いた。

それは……『海皇の意思』であった。

「……『海皇』ポセイドン…!?ま…まさか…先祖代々から伝えられた伝説は……真実だったのか?」

アルファロメオの先祖は、地球《エデン》出身であり、先の戦女神アテナと海皇ポセイドンとの聖戦の折り、海将軍筆頭である『海龍』の海闘士であった。

グレアムの下にいた当時、グレアムの出身世界が『地球』という名前なので、そこが自分の先祖の出身世界と思い、伝説の真偽を調べたが、所詮、伝説は伝説でしかない…と、確信していた。

しかし、グレアムの地球は『テラ』であり、彼の先祖の地球である『エデン』の鏡面世界に過ぎない。

『海皇の意思』により、海闘士最強の『海将軍』として覚醒したアルファロメオは、何とか生き残る事ができた。

しかし、彼の部下たちは……。

「エッセ執務官…ティグラ三尉…ジンガー空曹…キミーラ二士……誰か生き残っているのはいないのか?……レバート一士、ヤリス三士、ブーン陸曹、フリーカ三尉……」

部下たちの返答は無かった。

「……おのれ、最高評議会め!」

彼は悟った。

改革などと甘い事では駄目だ。

所詮、この世は『力が正義』。

そして、彼は今、魔導師を超える最強の力を手に入れた。

ならば……最強である自分が、最高評議会を処分し、管理局を手中に納め……全次元世界を力で支配する『神』となってやる。

最も優れた力を持つ『選ばれた』自分が支配することにより、管理世界も管理外世界も、真の理想郷となるだろう…と。

理想に裏切られ、自分についてきてくれていた部下たちを失った絶望により、アルファロメオの野心は、壮大な野望と化した。

その為に更なる力を得るべく、海闘士として『海皇』の下に向かおうとしたアルファロメオだったが、いかに『海皇』といえど一柱の神のみの力では、地球《エデン》の結界を外から越えさせる事は出来なかった。

『海皇の意思』によって、力を取り戻したベルリーノ家先祖代々から伝わる家宝である『海皇』の神具と、海闘士関連の古文書等を解析しても、地球《エデン》に行くことは叶わなかった。

その過程で、約2000年前に此方の次元世界に堕ちて来た『聖域』の一部から持ち去られた『記憶』の神具を手に入れたが……。

そんな、無為の年月が過ぎたある時、星矢たちとの戦いの果て、海底神殿が崩壊し、それに伴い発生した次元震により、聖戦を生き残った『人魚姫』のテティスと『海魔女』のソレント以外の海闘士達が、彼の前に漂流してきたのだ。

カノンが纏っていた、本来、彼のモノである『海龍』の鱗衣と共に……。

そして彼らから、『海皇』の許可を得て『海龍』の鱗衣を纏っていた『双子座』の黄金聖闘士、カノンの存在を知らされる事となった。

 

 ★☆★

 

「……『海龍』様…」

過去に思いを馳せていたアルファロメオは、『海女王《セドナ》』の海闘士、ネリビックから声を掛けられ、現実に戻った。

「…『海女王』…それに『ナックラビィー』か…何用だ?」

「はっ!先日、雑兵たちが管理局と戦闘に入りましたが、無事、『レリック』の確保に成功しました」

『ナックラビィー』の海闘士、ジャックの報告を聞き、ほくそ笑む。

「そうか……ようやく準備も終わる……決行の時は近いぞ!」

「「御意!!」」

 

〈第六十話 了〉

 


今回は、海闘士サイドのお話です。

真一郎「今まで、鱗衣の名前のみだったオリキャラ達の名前がようやく明かされたな」

そうだね。

真一郎「それで、名前の由来は?」

アルファロメオは、イタリア車のアルファロメオから…又は『聖闘士星矢』の次に連載された『週刊少年ジャンプ』最後の車田漫画『SILENT KNIGHT翔』に登場した『ネオ・ソサエティ』のビショップ、『グリフォン』アルファロメオから……。

ネリビックは、イヌイット神話の海の女神、又は海の女王『セドナ』の別名であるネリビックから……。

ジャックは、単純に日本人名の『太郎』に相当するイギリス人によく付けられる名前を付けました。

真一郎「ちなみに、『ナックラビィー』とはスコットランド民話に登場する凶悪な水妖《フーア》で、スコットランドの海中に生息し、その姿はケンタウロスの様な半身半馬で、口が裂けていて、皮膚が無く、むき出しの筋肉が脈打っているというけっこうグロい外見で、不作や病の流行、干ばつを齎すとされていて、皮膚がないので淡水に弱いらしく、淡水をかけると追い払う事ができるらしいな」

では、これからも私の作品にお付き合いください
真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じた事があるか!?」




海闘士側の海龍の名前と共に。
美姫 「その出身まで出てきたわね」
彼の先祖もまたエデンの出身だったんだな。
美姫 「そして、その行動理由も分かったし」
これから先の展開も楽しみです。
美姫 「次回も待っていますね」
待ってます。



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