『時空を越えた黄金の闘士』
第五十八話 「スカリエッティたちの日常」
数あるスカリエッティの研究施設の一つ。
本日の往診を終えたスカリエッティは、『レリック』捜索から戻ったゼストとある実験を行っていた。
「どうだい騎士ゼスト?」
「……防御力は問題ないが……やはり重い……。いくら身体強化をしようがこの重さでは戦いに支障がでるな…」
「…駄目か……」
そう、これは魔導師専用の聖衣の開発であった。
「……とりあえず、シャカさんから防御力のお墨付きはもらったけど……やはり重さがネックだね……」
破壊の究極である原子を砕く聖闘士……つまり、神の闘士達の攻撃を防ぐのは特殊な防御力が必要である。
スカリエッティは完全にとはいかないが、なんとか原子の破壊をある程度阻害する術式を組み込んだ金属の錬成に成功し、シャカからも黄金聖闘士級ならともかく、下級聖闘士ではそう簡単に砕けないだろう…と認めてもらったのだが……重量が洒落にならなかった。
それなりの筋力を持つゼストでさえも、魔法による身体強化でなんとか動けるがその分、速度が殺される。
はっきり言って、音速以上の動きを持つ神の闘士相手にそれは致命的である。
そう簡単に砕けないとはいえ、絶対に砕けないわけではない。
確かに、青銅聖衣に匹敵する防御力を得たが、その青銅聖衣を易々と砕く実力を持つ聖闘士や海闘士が相手ならぱ、それでも砕かれてしまうだろう。
聖闘士の拳の一発や二発は耐えられても、100発喰らえば青銅聖衣を砕くことは容易なのだから……。
無論、青銅聖衣でも『黄金の血』で蘇った黄金に限りなく近い青銅聖衣や『霊血』で蘇った聖衣は例外だが……。
「……しかし、ミロ殿の話では聖衣も鉛の様に重いそうだぞ……。小宇宙を燃やすことによって聖衣の重みを感じなくなるらしい……。つまり、小宇宙を身に着けていなければ、聖衣もただの重たいプロテクターに過ぎない…と…」
魔法による身体強化と小宇宙の燃焼は、似たようなモノである。
ただ、それによって得られる質が違うだけだ。
ゼストの指摘に、スカリエッティは考え込んだ。
「……術式を見直して、魔法の身体強化でなんとかなるようにするしかないのかな……」
「しかし、お前が作ろうとしている聖衣は、『デバイス』の機能を加えたメカニックなのだろう……。ならば、聖衣以上の重量になるのは必然なのではないのか?」
難しいのは分かっている。
しかしゼストやクイント、そして自分の大切な『娘』達を護る為には……どうしても必要なのだ。
神の闘士たちとの戦いで少しでも生き残れる可能性を上げる為には……。
★☆★
「今日はここまでにしておきましょう……」
「……そうだね……『母さん』…」
クイントは、戦闘機人『ナンバーズ』のbX『ノーヴェ』との鍛錬を行っていた。
ノーヴェは、クイントの遺伝子を元にクローン培養によって作られた戦闘機人なので、クイントの娘と言える。
ナンバーズ達の元となった『タイプゼロ』……つまり、ギンガ・ナカジマとスバル・ナカジマも同様にクイントの遺伝子を元に生み出されているので、実質、彼女達の『妹』とも言える存在である。
容姿も、次女であるスバルとほぼ瓜二つであり。知らない人が見れば双子と間違うだろう。
それゆえに、ノーヴェはクイントを『母』と慕っている。
クイントから、シューティングアーツを習い、共に鍛錬しているのだ。
「ノーヴェ…。鍛錬は終わったっスか?」
「ああ。ウェンディ……今から上がる所だ…」
「それじゃあ、セイン姉がそろそろ夕食の時間だから呼んで来いって言ってたっスから……」
「ああ。今行く!」
ノーヴェに声を掛けたのは、bP1『ウェンディ』。
現在、稼動中の戦闘機人の中では一番下の『妹』であり(未稼働の戦闘機人は残り三人)姉妹全員に対等に接している明るい妹である。
「…じゃあ、母さん。はやく行こう……。急がないとみんなに全部食われちまう…」
「はいはい…」
娘に促され、クイントは苦笑しながら汗を流しに浴場に向かった。
「……ノーヴェもお母さんも遅いっス!」
「…汗くらい流させろ!」
ノーヴェ達が一番最後だったらしい。
ちなみに、ウェンディもクイントを『母』と呼んでいる。
ディエチと何故かチンクまでも……。
「それじゃあ、みんな揃ったし食べよう…」
ミロやゼストたちが遠出をする時以外、夕食は皆と一緒に食べている。
スカリエッティが改心したことと、『母』であるクイントとメガーヌの存在が、次元犯罪者だった彼らを暖かな家族へと変えてしまっていた。
『家族』というモノに縁の無かったミロとシャカも、すっかり馴染んでいた。
「…うむ。今日の料理も美味いぞセイン…」
「やっぱ、セインの料理は最高っスよ」
「ありがと〜ミロ兄、ウェンディ……。ううっ…他の姉妹達はせっかくアタシが愛情込めて作った料理なのに、ちっとも褒めてくれない…」
ナンバーズの中で一番料理を作るのが得意なのが、bU『セイン』である。
性格は、ウェンディと同様明るい……と、いうかウェンディの教育はセインが担当だったので、ウェンディはセインの影響を強く受けている為、性格が近い。
その明るく気さくな性格故に、姉妹たちはさほど構えず接することが出来るせいか、「あまり姉扱いしてもらえない」という悩みを持っている。
「…セインの料理が美味いのは認める……しかし毎回、ミロ兄とウェンディが言っているから、いちいち私達が言う必要はね〜だろ…」
ノーヴェが、落ち込むセインに更に追い討ちをかける。
すっかり落ち込んだセインをウェンディが慰めるが、その態度はやはり姉に対するというより、友達感覚であった。
「ところでスカリエッティ……。魔導師用の聖衣とやらの開発はどうだ?」
流石にセインが気の毒になったミロが、話題を変えた。
「……難航しているよ…」
重量を軽くしたら、今度は原子破壊の阻害度が低下してしまい、防御力が問題になる。
まさに、「あちらを立てれば此方が立たず」であった。
「……だけど、奴等が表立った活動を起こす前に完成させたいね…」
「……攫われたクア姉を助けないと……」
ディエチが気が合っていた姉、クアットロの安否を心配していた。
「……ディエチ…。君には酷かもしれないが……おそらくクアットロは……」
珍しくスカリエッティの歯切れが悪い…。
「もう、殺されているってドクターはそう思うの?」
「いや……まず間違いなく…彼女は私を裏切り、奴等の側についているだろう…」
「…!?」
bP〜bSまでのナンバーズ達は『スカリエッティの因子』を持っている。
その中で、最もスカリエッティの性格を受け継いでいるのが、bQ『ドゥーエ』である。
故に、ドゥーエはウーノと同じくらいスカリエッティの気持ちを理解できる存在である。
それゆえに、スカリエッティの変節を受け入れるのに抵抗がない。
しかしクアットロは、スカリエッティの最も『悪い部分』を受け継いでいる。
むしろ、彼よりも彼女の方が悪辣なほどである。
先ほど、ディエチはクアットロと気が合っていると述べたが、それはディエチの側からの感情であり、クアットロ自身は根が善良なディエチの事を「お馬鹿なディエチちゃん」と見下している。
人間味を余分と感じて折り、それを強く持つチンクやセインに対しても「つまんない子」と言って、ディエチ同様見下している。
彼女が、同じナンバーズで敬意を払うのはウーノと教育係だったドゥーエだけであり、表には出さないが他のメンバーに対してはそれ程評価していなかったのが実情なのだ。
他のナンバーズは、クアットロのそんな一面に気付いていなかったが、創造主であるスカリエッティは無論、気付いていた。
そして今の自分に対し、彼女がどの様に思うかも……。
「……そんな…クア姉が……」
「君にはつらいだろうが、もはやクアットロは私はおろか、頭が上がらなかったウーノに対しても失望と反感を持っている……」
流石に、ドゥーエに対する敬意まではまだ消えていないだろうが……それも時間の問題であろう。
恐らくクアットロは、なんとか管理局に潜入しているドゥーエとコンタクトを取ろうとする筈。
しかし、ドゥーエには既にスカリエッティの変節を伝えてあり、ドゥーエもそれを受け入れている。
その事をクアットロが知れば、ドゥーエに対する敬意も失せるだろう……。
ドゥーエは、クアットロいわく「究極の戦闘機人」と言わしめる存在ではあるが、単身戦闘力は決して低くは無いものの、それでもトーレやチンク、ノーヴェよりは弱く、そしてまだ稼動していないbVとbP2よりも……。
クアットロよりは強いが、彼女は神の闘士が同行している可能性が高い……。
故に、ドゥーエにはクアットロからコンタクトを求めてられても、会うなとは言わないが、決して直接顔を合わせるな…間違っても敵の手から助けようとするな…と、厳命してある。
「…私としても、彼女もまだ大切な『娘』であるが……向こうは既にそう思っていまい…」
寂しさの滲む顔で、そう告げるスカリエッティだった。
★☆★
夜も更けて、そろそろ就寝するべくベットに入るクイントとノーヴェの二人。
クイントは寝る前に、管理局員としての最後の任務である戦闘機人事件の捜査に赴く前に、夫と愛娘二人と撮った写真を眺めるのが習慣になっていた。
「……母さん…。やっぱり会いたい?」
「…ええ。会いたいわ……。あの子達も貴女同様、私の大切な『娘』。でも、私の生存が評議会に知られれば……スカリエッティの造反も知られ、きっとあの子達も危険に巻き込まれる…。だから会えない…」
だから、スカリエッティに手を回してもらい、自分のデバイスである『リボルバーナックル』を形見として、家族に送ってもらう事くらいしか出来なかった。
「……今は、アタシがお母さんを独占しているから……『姉貴』達がその事を知ったら……恨まれる…かな?」
大切な母を独り占めしている。
ノーヴェはまだ見ぬ姉達に対する負い目を感じていた。
ノーヴェにとって、大切な姉妹はチンク達ナンバーズなのだが、『母』と慕うクイントの娘たちの存在も無視できなかった。
「……大丈夫よ。ギンガもスバルも……優しい子だから……。むしろ、新しい『妹』が出来た事を喜ぶ筈だわ…」
その点を、まったく疑っていないクイントである。
「でも、スカリエッティの話では、先年、大規模火災に巻き込まれたらしいから……その点が心配ね…」
ギンガはともかく、泣き虫で甘ったれのスバルの方は特に……。
彼女は知らない。
その事故で、彼女の娘二人は今後の自分を変える『運命の出会い』にめぐり合った事を……。
『エース・オブ・エース(白い悪魔)』と『金色の雷神』、そして『黄金の獅子』との出会いが……泣き虫だった娘とその姉にとても大きな影響を与えた事を……。
★☆★
スカリエッティは、シャカ達と出会うまでは生命と言うものを軽んじていた。
彼にとって、『生命』とは自らの知識欲を満たす為の素材にすぎず、それ以外に価値が無いものだった。
しかし、自身の『生命』をミーノスに弄ばれ、そしてシャカと出会い、そのシャカによって生命の神秘を実感させられた。
今ではシャカに師事し、『悟り』を開く為の指導を受けているくらいである。
故に、スカリエッティはシャカに対してのみは敬称をつけている。
無論、シャカもスカリエッティ自身も完全な『悟り』など開けるとは思っていない。
彼の中の『無限の欲望《アンリミテッド・デザイア》』を制御する事が、第一の目的である。
欲望というのは、人間にとって原動力である事を否定はしないが、それは上手く制御してこそである。
ただ、欲望のまま行動する等、獣よりも劣る行為である。
獰猛な肉食動物でも、自分にとって必要な分しか獲物を狩らないのだから……。
「……夕食での話しだが……そのクアットロとやらの性根を私が叩き直してやっても良いぞ…」
指導を終え、茶を飲んでいたシャカがそう呟いた。
「……そうですね。確かにシャカさんならば、あの子の矯正などたやすいでしょう」
スカリエッティ以上に悪辣とは言うものの、結局のところクアットロのそれは、自らの身の安全が確保されていれば……の話である。
安全な場所で相手を見下し、悪女ぶる……それが彼女の本質である。
自らの安全が侵害されれば、醜態をさらしてしまうだろう。
スカリエッティは、クアットロのそんな所も見抜いていた。
以前の彼は気付かなかったが、改心し、別の見方をしてみれば、それが直ぐに分かったのだ。
「…ですが…、その機会があるかどうか……。夕食の席でクアットロは変節した私を見限り、敵方に寝返ったと言いましたが……その実は、ただ強い者に媚びて、自分の身を護ろうとしているに過ぎない。その敵方がクアットロをそれほど重用しているとは……」
「……なるほど…」
スカリエッティとシャカは気付いていた。
あの時、襲ってきた冥闘士……ミーノスとシルフィードでさえも、おそらく『捨て駒』であることを……。
『魔星』を失い、弱体化していたとはいえ、それでもそこそこの実力を持つ冥闘士。
おそらくは、それよりも遥かに劣る『戦闘機人』……それも情報操作や作戦指揮などの後方がメインの彼女を……神の闘士が重用するはずがない。
なにより、自らの利の為に創造主を裏切り、敵方に寝返る者を信用するとは思えないのだ。
傲慢な彼女には気付けない。
逆に自分が、言い様に利用され、用がなくなれば切り捨てられる事を……。
他者を愚弄する彼女は、自らがその他者と同じ扱いを受けるかもしれない事に気付けない。
「私が彼女を矯正する前に、奴等に始末される可能性が高い…と、いうことか?」
「ええ。クアットロは利用価値が無くなった者をあっさり切り捨てる。ですが、今、自分がその立場に居ることに…果たして気が付いているのか?」
敵の正体はまだ分からない。
何処にいるのか、どれほどの戦力を有しているのか?
スカリエッティの情報網に引っかかりもせず、おそらく管理局でも掴んでいないのだろう……。
敵側に回った娘の安否を気遣うスカリエッティであった。
〈第五十八話 了〉
今回も、全開に引き続き変態医師サイドのお話
真一郎「中心は、ノーヴェとスカリエッティだな」
この話ではクイントが生きているので、遺伝子学的に母であるクイントとノーヴェを良好な親子にしました
真一郎「そして、寝返ったクアットロを心配するスカさん」
原作から、けっこう魔改造しちゃったな……
では、これからも私の作品にお付き合いください
真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」
他のナンバーズたち、性格は兎も角、かなり変わってきているみたいだな。
美姫 「みたいね。やっぱりスカリエッティの改心が一番大きかったって所かしら」
しかし、親の心とはよく言ったもんだな。
美姫 「確かにね。クアットロを気に掛けるスカリエッティの事を見限ったものね」
このまま利用されて終わってしまうのかどうか。
美姫 「敵側の動向も気になるわね」
だな。次回も待っています。
美姫 「待ってますね」