『時空を越えた黄金の闘士』

第五十六話 「新部隊構想」

 

空港火災の翌日の早朝。

アイオリアとリインフォースは、火災現場がよく見える場所に立っていた。

偶然だが、この場所はクアットロと『ナックラヴィ』が火災時に居た場所でもある。

「よぉ〜。お前さんがアイオリアかい?」

陸士の制服を着た男性が声を掛けてきた。

「…貴方は?」

「陸上警備隊108部隊のゲンヤ・ナカジマ三佐だ。アンタの事はレジアス中将から聞いて知っている」

「…ナカジマ…あの少女達の…?」

「ああ。父親だ…。昨日は娘二人を助けてくれて感謝している……」

ゲンヤは、アイオリアに深々と頭を下げた。

「……思い出した。前にレジアス中将が言っていた聖闘士を地上本部に出向させる時の預かり先が……」

「俺の部隊が預かるようレジアス中将から通達を受けている…」

レジアスとの会談で、検討されている聖闘士の地上本部出向の折、局員と聖闘士の不和が予想された。

一般局員はともかく、魔導師の局員との間に確執が生まれる可能性が高いと判断されたのだ。

聖闘士は、戦闘能力にかけては魔導師を上回る。

聖闘士の最下級の青銅聖闘士でも、オーバーSランクの魔導師と互角以上に戦えるのである。

逆に、現在は存在していないが魔導師の最高ランクであるSSSランクの魔導師でも、聖闘士の最高位である黄金聖闘士と互角に戦えるかといえば、否である。

空戦魔導師で、広域や砲撃魔導師が遠距離から攻撃しても、光速の動きを持つ黄金聖闘士にはまず当たらないし、直ぐに間合いを詰められる。

もしくは、念動力で引き寄せられる。

そして、光速の攻撃を躱す事も防ぐ事も敵わない。

これより聖闘士となる候補生達にそういう優越感がないとは言えないだろう。

たとえ、それが自分自身ではなくても……。

それに対し、魔導師達としては、聖闘士候補生達が魔力資質がE〜Fの者達で、武装隊の志望から落ちこぼれた者たちだという事実を知っているという点である。

既に魔導師達は、魔導師の落ちこぼれ達が聖闘士の方に流れたという噂が広まっていた。

他の管理世界で任務に従事する魔導師達は、未だ聖闘士に事を知らない者が過半数を占めるが、本局やミッドに在任中の魔導師の殆どは、既に聖闘士の存在を認知している。

互いが互いを見下し、それが確執になりかねないのだ。

そこでレジアスは、一般職員と魔導師のどちらにも人望が厚いゲンヤに任せる事にした。

レジアス自身も人望はあるが、同時に敵も多い。

ゲンヤは、レジアスと同等の信望を得ており、更にその人柄故に敵が少ない。

更にレジアスとは違い、本局や航空の人間とも親交がある。

出世に関してはレジアスが勝るが、人脈に関してはゲンヤの方が上。

レジアスは、ゲンヤならば旨くやれると思い、彼に一任することにした。

「…聖闘士を出向させる事は、ほぼ決定している。どうやら、あいつ等もモノになってきているしな。ただ、どうしても手に負えない場合は此方に連絡してくれ。その時は、此方で制裁を加える…」

聖闘士の制裁……それは『死』である。

明確に口にしていないが、ゲンヤはなんとなく理解した。

「出来れば…そんな事にはならないで欲しいな…」

「…そうだな…。ところで今回の火災の原因は何なんだ?」

ゲンヤは今回の事件の説明を始めた。

この件に関してはまだ機密事項なので、本来、管理局の人間ではないアイオリアに説明するのは問題なのだが、アイオリアは今回の救助活動に参加しているし、レジアスからも彼ら聖闘士に対しては、出来るだけ便宜を図るよう言われている。

「……原因は、密輸物の爆発による発火…あっという間に空港全体に広がってしまったらしい……」

「…密輸物!?」

「ああ……どうやら『ロストロギア』らしい…どういうシロモノなのかはまだ調査中らしいが……な」

後日、そのロストロギアが二週間前の任務で回収したモノと同じ『レリック』である事が判明する。

 

 ★☆★

 

ホテルに戻ったアイオリアとリインフォースは喫茶室で早めの昼食をとることにした。

サンドイッチと紅茶を注文し、先ほどのゲンヤとの話について話していた。

「それにしても……妙な縁だな…」

「何がだ!?」

「ああ、今、主はやては陸士部隊で研修をしている……、そして今回の事件の処理が終わればナカジマ三佐の下で研修することになっているらしい…」

「…なるほど…。しかし、偶然なのか?レジアス中将が裏で手を回した…とか?」

アイオリアとはやての関係を考え、やがて聖闘士達の面倒を見ることになるナカジマ三佐と面識を持たせるために仕組んだのではないか?

「いや、それはないだろう」

レジアスは、どちらかといえばアイオリアを除く八神家の面々の事を快く思っていない。

アイオリアの協力を得るために、表立ってはやてを批判しなくはなったが、内心では分からない。

アイオリアにしても、急に考えを変えられるモノではないと分かっているので、今はそれでよしとしている。

それは、これからのはやての行動次第である。

以前に顔を合わせた時に感じたことだが、レジアスは決して暗愚な人物ではない。

『犯罪者』という偏見を払拭できれば、きっとはやてを認める事ができるだろう。

「リア兄、リインフォース…おはよ!」

「リア兄様、お姉ちゃん…おはようごさいますです!」

「おはようございます。アイオリアさん。リインフォースさん」

「おはよう。アイオリア、リインフォース」

はやて達がようやく部屋から出てきて、アイオリア達と合流した。

「もう昼だ…。いくら昨日の事件があったときいえ、寝坊しすぎた…」

「ははは。もっと前に目は覚めとったんやけど……ちょっとなのはちゃん達と夢の事で話があったんよ」

「何か、妙な夢でも見たのか?」

「いや、そっちの夢やなくて……将来のことや…」

はやては、いつか自分の部隊を持ちたいという夢をアイオリアに語った。

今回の災害救助や、犯罪対策、発見されたロストロギア対策もミッドチルダ地上の管理局部隊は行動が遅すぎる…。

少数精鋭のエキスパート部隊を作り、それで成果をあげていけば上層部も少しは変わるかもしれない

そして、はやてがそんな部隊を作れたら、なのはとフェイトもそれに協力することを約束した…とのことだ。

「………」

アイオリアはため息を吐くと、はやてを手招きした。

はやてが近づくと、拳骨がはやての頭に落ちた。

「痛ッ!いきなり何すんねん…リア兄!」

「……確かに、お前の言っている事は事実だし、お前の作りたいと思っている部隊構想は良いと俺も思う……それになのはとフェイトが協力することも…な…だが…」

「主はやてが言われた地上本部の行動が遅い…などという発言を、本局に所属している者が言って良い台詞ではありません…」

「どういうこと?」

「……地上本部の行動が遅いのは、純粋な人手不足だ…。人手不足は本局も航空も同じだが、地上は特に深刻だ…。原因は、本局が優秀な人材を独占しているから……つまり、本局にも原因がある」

アイオリアは、以前、レジアスから見せられた資料のことをはやて達に伝えた。

「なのはが、航空戦技教導隊に所属しているのは良い。聞いた話だとお前の教導は評判が良いらしいから、天職なのかも知れん。フェイトにしても、はやてにしても能力に合った職場に配属されていると言っていいだろう……だが、正直、管理局は外の事ばかりに目を向けて、地上の方をおろそかにしているとしか思えん。確かに広大な次元世界の治安を護らなくてはならないのだから、人手はいくらあっても足りんのは分かるが……自分の足元を疎かにするようでは話にもならん」

まあ、カノンなどに言わせれば、一つの組織が無限近く存在する次元世界すべてを管理できる筈がない……とのことなのだが…。

その中で魔法文明の『管理世界』のみとはいえ、それでもその数は膨大であり、『管理外世界』といえど先の『P・T事件』、『最後の闇の書事件』のように、ロストロギアが持ち込まれれば、管理局が対処している。

それでは人手が足りなくなるのは当たり前である。

更に次元犯罪やロストロギア関連以外にも、各世界の軍事バランスや世界内での戦争や紛争の調停まで行っているのだ。

それは間違いなく内政干渉であり、そこまで管理局がする必要はない。

如何に管理世界とはいえ、それはその世界に住むその世界の人間の役割である。

それでは管理世界はミッドチルダの…いや管理局の植民地としか思えないのだ。

古代ベルカの戦争時代や『P・T事件』で起こった次元断層や『最後の闇の書事件』の『闇の書の闇』の様に、他の次元世界を滅びに巻き込むのなら話は別だが……。

それゆえに、アイオリア達は管理局を完全に信用できないのだ。

管理の名の下に、次元世界の征服をたくらんでいるのではないか…という疑念が生まれるのだ。

たとえも三提督の人柄に好意を持っていても、一般局員たちは心から次元世界の平和を護るという大儀を信じている事を知っても……。

逆に、その内政干渉を平然と受け入れる管理世界の方に対しても憤り感じざるおえない。

以前、アイオリアとカノンはクロノからある管理世界のことについて聞かされた。

その世界の為政者たちは、管理局がそういった介入をしてくるのことをいいことに、丸投げして自身たちは利権漁りに奔走しているらしい。

その世界は、かなり高度な魔法文明で、ミッドチルダの魔法文明もその世界の文明の良いところを組み込んでいるほどである。

故に、管理局が創設されて直ぐに管理世界に指定された程である。

にも関わらず、その世界の為政者の体たらくぶりにアイオリア達は呆れ返ってしまった。

話がそれたので戻そう。

先ほども述べたように、次元世界の方も手が足らないのは分かる。

しかし、地上は地上で問題なのだ。

危険なロストロギアの違法捜索や不法所持……。

さらにはそれらの密輸問題……。

管理局のみがロストロギアをすべて管理する…と言うのも異論はあるものの、明らかに金持ちのコレクションでは済まない危険物などを個人が所有するのは確かに問題であるのも事実である。

地上本部は、それだけではなく一般犯罪などの取り締まりも行わなければならないので、決して疎かにして良い部署ではないのだ。

にも関わらず、若い魔導師達は、本局=キャリア組。地上=ノンキャリアというイメージを持っているらしい。

実際、地上本部に配属された高ランクの魔導師達は、本局からスカウトされるとホイホイその話に乗ってしまう。

「はやて…。お前がそう思っていない事は知っているし、地上の本局に対する態度が悪いことも知っている。しかし、原因の一つは本局にもあるのだ……余計な争いの原因になりかねんから、口を慎め…いいな」

陸軍と海軍が対立する…というのは、どこの世界でも珍しい話ではない。

だが、対立することでお互いが練磨しあうのならともかく、今の本局と地上は足を引っ張り合っている。

それでは、いつまで経っても改善しないのだ。

「うん。地上本部の事情も知らんと、少し口が過ぎた……。反省します…」

とりあえず、己の間違いを認める器量がはやてにはあるので、アイオリアはホッと息を吐いた。

「でも、私の夢自体は否定せんのやろ?」

「無論だ……」

説教はされたが、アイオリアも自分の夢を認めてくれたので、はやての表情は明るくなった。

それにしても、今回の発言といい、出会った当初と比べて、段々腹黒くなるはやてに、アイオリアとリインは少し嘆息するのであった。

 

〈第五十六話 了〉

 


管理世界に関しては少し、政治的な話になってしまった。

真一郎「無学なお前にしては珍しいな」

まあねそれはおいておいて、他の方の二次小説でも指摘されていることだが、地上の現状は何も地上だけの責任ではない。

真一郎「半分は本局側に問題がある……」

と、私は思っています。

では、これからも私の作品にお付き合いください。

真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」




はやての将来の夢か。
美姫 「それに伴い、現状の管理局の状況ね」
でも、確かに人手が少ないよな。
美姫 「まあ、その辺りの事も今回で少しは知ったみたいだしね」
その上で更にはやては腹黒……もとい成長していくんだろな。
どうなっていくのか、こちらも楽しみです。
美姫 「次回も待っていますね」
待っています。



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