『時空を越えた黄金の闘士』

第五十五話 「空港火災」

 

同窓会任務から、約二週間後。

なのはとフェイトは、保護者代行としてアイオリアを伴いGWの連休を利用してはやての研修先に遊びに来ていた。

八神家は、基本的に仕事が終われば皆、家に帰ってくる。

聖域で、カノンと共に候補生達の指導や畑仕事等をしているアイオリアも同様である。

しかし、現在はやては研修中なので、家に帰っていない。

まだ二週間しか経っていないにも関わらす、アイオリアに会いたくなったはやてが、無理を言ってなのは達に同行してもらったのだ。

高町家の面々も、アイオリアに同行してもらった方が安心できる。

既に社会に出ているとはいえ、日本の常識では中学三年生が保護者の同伴無しで、しかも海外どころか別世界を旅行するのは不安である。

少し、過保護だと自分たちも思っているが、どれだけ強くなっても、心配は心配なのだからしょうがない。

 

 ★☆★

 

ミッドチルダ北部―――臨海第8空港。

そこから、少し離れた場所に二人の男女が佇んでいた。

「……あの空港にあるのは間違いありませんわ……」

「………そうか…。しかし、『レリック』とやらは、それほど必要なものなのか?『機械人形』…」

「……私の名前はクアットロです。その呼び方は止めていただけませんか?『ナックラヴィ』様…」

「……我等に味方するというのが、本当に真意なのか…まだ見極めてはおらん…。造物主をそう簡単に裏切れるとは思えんのでな…」

スカリエッティの『戦闘機人』bS、クアットロと、海闘士の一人『ナックラヴィ』であった。

この『ナックラヴィ』は『人魚姫《マーメイド》』、『海賊《パイレーツ》』、『海女王《セドナ》』と同格の海闘士であり、『海龍《シードラゴン》』に付き従う地球《エデン》から流れてきた最後の正規の海闘士である。

「……フン。あのような情けない男……とうに見限っております。あの程度の事で私たちの崇高な目的を諦める等、ドクターもウーノお姉さまも、トーレもチンクちゃんも……所詮、その程度…。むしろ『海龍』様の目指されている事は、私達の…いえ、私の崇高な目的に近い…。つまり、貴方達につくのは私の目的に合致するからですわ」

クアットロは調整を受け、洗脳されたのではなく、自らの判断で改心したスカリエッティを裏切り、『海龍』の側についたのである。

「…できれば…、なんとかドゥーエお姉さまと接触して、此方側に来てもらいたいんですが……」

クアットロにとってbQ、ドゥーエこそが戦闘機人の理想である。

妹達には優しいが、敵には等しく残酷……。

「フン。そんな妹達に優しい姉が、造物主とその妹達を裏切った者に同調する筈もあるまい……。寝言は寝てから言え…」

『ナックラヴィ』の指摘に、反論しようとしたクアットロだったが、それが中断された。

突如、空港が爆発したのである。

「な…何事だ!?」

「…あの爆発は『レリック』の暴走…?」

 

 ★☆★

 

炎に包まれた空港。

災害担当の局員が必死に鎮火作業に当たっていた。

「駄目だ駄目だ。こっちは駄目だ!」

「この先に子供が取り残されているんだ…なんとかならないのか?」

「さっき、本局の魔導師達が突入した。救助は彼らがしてくれる!」

ミッドチルダがいかに魔法文明とはいえ、そこに住む人間がすべて魔導師というわけではない。

むしろ、資質を持たない人間の方が多い。

だからこそ、魔導師が優遇されているのであり、特に高ランク魔導師はエリートとして扱われるのである。

本局以外の管理局ではむしろ、魔力を持たない局員も多く、この場にいる災害担当の局員達も魔導師ではなかった。

 

 

 

「…お父さん……お姉ちゃん……」

一人の少女が燃え盛る炎の中を歩いていた。

「きゃあああああああ!」

震動が起こり、少女の傍らで小爆発が起こり、少女を吹き飛ばした。

「……痛いよ。熱いよ……。こんなのやだよ…。帰りたいよ…」

蹲る少女の後方にある女神像の土台に皹が入る。

「……誰か…助けて……」

ついに土台が砕け、女神像は少女に向かって倒れこんだ。

少女もそれに気付いたがどうすることも出来ず、目を閉じる。

「……『ライトニング・プラズマ』!」

秒間一億発の拳が、倒れようとした女神像を粉々に粉砕し、その破片も少女から離れた所まで吹き飛ばされた。

「…大丈夫か!?」

黄金の鎧を纏った男……『獅子座』のアイオリアが少女に駆け寄り、聖衣と共に纏っていた純白のマントをショルダーから外し、少女に被せた。

「……よく頑張ったな……」

マント越しから感じる暖かな温もりを少女はしっかりと感じていた。

「アイオリアさん!」

そこへ、白い『防護服』を着た魔導師の女性がアイオリアに駆け寄った。

「なのは!俺はこれより奥の方の様子を見に行く。お前はこの子を頼む」

「分かりました。お気をつけて」

アイオリアはなのはに少女を預けると、そのまま奥の方に突入して行った。

「もう大丈夫だからね。安全な場所まで…一直線だから…」

なのははそう言うと少女の周りに結界を張る。

レイジング・ハートが上方の安全を確認し、カートリッジをロードする。

「…『ディバイン・バスター』!!」

レイジング・ハートを天井に向け、桃色の閃光が放たれる。

閃光は、易々と天井を貫通し、上空への出口が開かる。

なのは、少女を抱え飛行魔法で飛び立った。

 

 

 

「……あれでは『レリック』の回収は無理ですね…」

クアットロは炎に包まれた空港を見ながら嘆息した。

「……火災自体は問題ないが……火災の原因がその『レリック』とやらならば……」

「ええ。もう本体は使い物にならないでしょうね…」

クアットロと『ナックラヴィ』が、その場を離れようとしたとき、炎に包まれた空港から一筋の閃光が走った。

「…あれは!?」

「桃色の魔力光……『管理局の白い悪魔』…」

「…ほう。以前、雑兵共が殺し損ねた魔導師か…」

『ナックラヴィ』は感嘆した。

「…なかなかの威力だ。いかに鱗衣を纏っていてもダメージは受けるだろうな…。まあ、『当たれば』の話だが……」

魔導師たちが着る『防護服』よりもはるかに防御力の高い鱗衣とはいえ、すべての衝撃が防げるわけではない。

海将軍の鱗衣ならまだしも、それよりも強度が低い自分の鱗衣では、多少の皹は入るかもしれない。

「……『海龍』様が、魔導師を警戒されている理由も分かる…。これで、我等に匹敵する『速さ』があれば脅威だっただろうな…」

 

 ★☆★

 

奥の方に突入したアイオリアは、フェイトと合流した。

「8番ゲートに要救助者を確認されたようだよ」

「よし、直ぐに向かうぞフェイト…」

火の勢いが増す中、二人は突入して行った。

「くそ…。こんなときにムウがいてくれれば、もっと早く要救助者を救えたんだろうが……」

ムウならば、場所さえ確認できれば外からでも、要救助者を転移させることが可能である。

並大抵の転移魔法などよりも確実に……。

「無いものねだりをしても仕方が無いよ……。いくらムウでも、旅先でこんなことが起こるなんて予想が付く筈ないし……」

「…だな…。急ごう…」

 

 

 

炎の中、三人の女性が咳き込みながら、救助を待っていた。

そこに、フェイトとアイオリアが駆けつけた。

「もう大丈夫ですから…」

フェイトは、女性たちを包んでいたバリアの上からさらに強固なバリアを張る。

「直ぐに安全な場所までお連れします」

「あ……あの…」

「はい?」

「…あの…魔導師の女の子が、このバリアを張ってくれて、それから…妹を探しに行くって…あっちに…」

女性が指差した方には炎の壁が出来ていた。

「よし、俺がその子を助けに行く。フェイトは、その人達を避難させてくれ!」

「…うん。分かった…気をつけてね」

 

 ★☆★

 

「…スバル…スバル…返事をして…」

長髪の少女が、妹の名前を呼びながらかね折れスローブを這いながら上っていた。

「…お姉ちゃんが…すぐに助けに行くから…」

「見つけた!」

そこに、アイオリアが駆けつけた。

「大丈夫か!」

少女に駆け寄り、抱き上げた。

「もう大丈夫だ…」

「…あ…あの、妹がまだ…」

「そういえば、妹を探しているそうだな……どこではぐれたか分かるか?それと…妹の名前は?」

「…あの、エントランスホールの方ではぐれてしまって……名前はスバル…、ズバル・ナカジマ…11歳です…」

「…エントランスホール……。妹はショートヘアの娘か?」

アイオリアは、先ほどなのはに託した少女の顔を思い浮かべ、目の前の少女と見比べた。

「…さっき助けた少女に似ているな…【なのは、先ほどの少女の名前は、分かるか?】」

【……スバル・ナカジマ……11歳。さっき無事に救護隊に渡しました。部隊指揮をとっているはやてちゃんにも伝えたけど…お姉ちゃんがまだ中にいるんだって…】

【そうか。今、その子の姉を保護した。その旨を伝えておいてくれ…】

【了解!】

アイオリアは、少女に妹を救出した事を伝えた。

「…スバル…良かった…」

「よし、それじゃあ脱出…」

そのとき、アイオリアの足元が崩落した。

「きゃあああああ!!」

「チィ!」

二人ともそのまま落ちていくが、アイオリアはすくさま飛行魔法を発動させた。

「アイオリア!大丈夫!!」

先ほどの要救助者を避難させたフェイトがこちら駆けつけて来た。

「先ほどの女性たちが話していた少女を保護した……名前は…」

「……ギンガ…ギンガ・ナカジマです……。陸士候補生13歳です…」

アイオリアは、ギンガをフェイトに渡すと、さらに奥の方に向かった。

「その子の事は任せたぞ!」

「うん!…候補生か…未来の同僚だ…」

「きょ…恐縮です」

フェイトはギンガを避難させるべく飛び立った。

 

 

 

その後、アイオリアは数名の要救助者を救出した。

「…ふむ。こういう時は、聖闘士としての力よりも、魔法の方が役立つな…。カノンも言っていたが…戦闘以外では、魔導師の方が聖闘士よりも優れている部分はたくさんあるな…」

アイオリアは、AAAランクの魔力を持っているので、時折、はやて達に魔法を学んでいた。

そのお陰もあり、この災害救助にも大いに役立っている。

そうでなければ、ムウやカノン程の強い念動力を持たないアイオリアでは、大した手伝いは出来なかったかも知れない。

 

 ★☆★

 

その頃、外において…到着した応援部隊の指揮官、ゲンヤ・ナカジマ三佐に部隊指揮を任せたはやては、リインフォースUをゲンヤのサポートに廻し、リインフォースと融合して消火作業を行っていた。

「仄白(ほのしろ)き雪の王、銀の翼以(も)て、眼下の大地を白銀に染めよ!」

はやての周り、4個の氷結立方体が現れる。

「八神一尉。指定ブロック避難完了です!」

「お願いします!」

「了解!来よ、『氷結の息吹《アーテム・デス・アイセス》』!!」

圧縮した気化氷結魔法を打ち込む事で着弾点周囲の熱を奪い、空港まるまる飲み込み凍結させた。

「すっげー」

「これが、オーバーSランク魔導師の力…」

はやてのみだと、微調整が困難なのだが、リインフォースと融合しているので完璧に調整できていた。

次の凍結可能ブロックを探そうとした時、上空から此方に向かってくる光が見えた。

「遅くなってすまない。現地の局員と臨時協力のエース達に感謝する…あとは此方に任せてくれ」

本局からの応援…首都航空部隊がようやく到着したようだ。

「了解しました。引き続き協力を続けますので、指示をお願いします」

 

 

 

「ふぅ〜、やっと来たか……」

ようやく到着した応援に、ため息を吐くナカジマ三佐。

Uもほっと息を吐く。

「だが…まだ油断はできねぇ……。もちっと情報整理を頼んでいいか?」

「了解です!」

 

 

 

今回の空港火災は、利用者・職員ともに多数の負傷者を出し、空港施設がほぼすべて消失する記録的な事故であった。

しかし、奇跡的に死亡者は出なかった。

その鎮火救出劇において、現場に居合わせた三人の魔導師と一人の聖闘士の働きがあったことを知る者のいない事実である。

 

〈第五十五話 了〉

 


今回は空港火災の話です

真一郎「スバルとギンガを助けるのをアイオリアにしたのか?」

まあ、あの二人のスタイルを考えると、ムウやカノンよりもアイオリアの方だろうからな

真一郎「無論、スバルとギンガはアイオリアだけでなく、それぞれ、なのは、フェイトにも憧れを抱くんだな」

そうだな。だから、なのはとフェイトも関わらせた。

真一郎「他のクロスオーバーの話だと、クロス先のキャラが助けたのに、何故かスバルはなのはに強い憧れを持つ…なんてのもあるからな…」

関わっていないんだから、有名人に対する憧れ程度にしておけよ…と感じるな…

では、これからも私の作品にお付き合いください。

真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」




クアットロがドクターを裏切ったか。
美姫 「でも、こっちの方がしっくり来るのも確かなのよね彼女の場合」
だよな。で、今回はスバルたちが関わってくる事になる火災か。
美姫 「なのはたち以外に聖闘士にも憧れるかもしれないわね」
うーん、どんな道を選ぶんだろうな。
美姫 「続きが気になります」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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