『時空を越えた黄金の闘士』

第五十三話 「同窓会」

 

第162観測指定世界。

時空管理局、巡航L級8番艦。次元航行艦船『アースラ』が任務を遂行していた。

任務の内容は『聖王協会』からの依頼で、この世界の遺跡から発掘された二つの『ロストロギア』を確保することである。

『アースラ』の艦長職がリンディ・ハラオウン提督から、クロノ・ハラオウン提督に引き継がれ、久しぶりに『PT事件』、『闇の書事件』で知り合ったメンバーが全員揃っていた。

ちょっとした『同窓会』である。

なのはとフェイト、リインフォースと『融合』したはやてが将来について語りながら任務に臨み、現場に到着した時、『AMF《アンチ・マギリンク・フィールド》』を備えた機械兵器と遭遇した。

『AMF』は魔力を打ち消すが、魔力によって発生した効果は消せない。

それを利用して、フィールドの範囲外で発生した効果をぶつけてしまえばいいのだ。

「…『スターダスト・フォール』!」

「…『サンダー・フォール』!!」

なのはとフェイトはそれぞれ、物質加速型射撃魔法の『スターダスト・フォール』を使い、岩を砕いてその破片を弾丸として発射し、天候操作+遠隔操作魔法の『サンダー・フォール』で発生した自然現象の雷を落とした。

岩の破片の弾丸と降り注いだ雷を受け、機械兵器たちは一掃された。

否、数機ほど逃走した様である。

「リインフォース…頼んでええ?」

【……御意!……『凍てつく足枷《フリーレン・フェッセルン》』ッ!!】

はやてと融合しているリインフォースは、設置型凍結魔法『凍てつく足枷』を使い、凍りつかせた。

発掘隊から、古代遺産『レリック』と呼ばれる宝石のような結晶体を受け取り帰路についた。

 

 

 

なのは達と別行動の守護騎士達が向かった先で見たものは……焼け野原となった発掘現場であった。

汚染物質の残留がないところを見ると、典型的な魔力爆発である。

ヴィータはこの様な焼け野原を見るたびに、三年前のあの悲劇を思い浮かべてしまう。

ザフィーラが森が動いたのに気付き、座標から調べたところ、先ほどなのは達が遭遇した機械兵器達か『レリック』を移送中のなのは達の方に向かっていることが確認された。

なのは達ならば大丈夫だろうが、運んでいる物が物である以上、自分たちが叩いた方がベストと判断し、守護騎士たちが殲滅に向かった。

 

 ★☆★

 

任務は無事に終了し、クロノは確保した『レリック』を本局の研究施設に運ぶことにしたが、『聖王教会』のカリム・グラシアから、警備員を寄越したので行動を共にしてほしいとのこと。

クロノを出迎えたのは……。

「クロノ君!」

「…ヴェロッサ…君だったか」

時空管理局、本局査察部、査察官のヴェロッサ・アコースであった。

「今日はどうした…。義姉上の手伝いか?」

「うん。カリムが君たちを心配してたから…っていうのもあるんだけど…本音を言えば面倒で退屈な査察任務より、気の合う友人と一緒の気楽な仕事の方がいいなって…」

「相変わらずだな君は…。でも、聖闘士の修行よりは査察任務の方が楽なんじゃないかい?」

「……た…確かに…。あの地獄に比べれば…査察任務の方がマシかな…」

ロッサはクロノの指摘に顔色を変える。

「カノンさんから聞いたよ。聖闘士の資格を得たんだってね」

「ああ。我が師アイオリアの試練を見事合格して、正式に聖闘士の資格を得たよ……。聖衣は…君が持ち帰った『南十字星座』だよ」

「……そうか…」

【……リゲルさん。貴方に託された聖衣は、ちゃんと次代の聖闘士に受け継がれました。どうか安心して眠ってください…】

クロノは、自分に聖衣を託した先代の『オリオン星座』の聖闘士、リゲルを思い浮かべた。

「ともあれ、君が護衛とは心強い。出る前にはやてやアイオリアさんにも声をかけるか?」

「ああ、大丈夫だよ。お土産はもう届けてあるし…」

 

 

 

アースラ艦内のレクリエーションルームに豪勢な料理が並んでいた。

「おお――――凄いですねえ!」

肉がある!

「こんなに用意されたんですか?」

エイミィ、アルフ、ユーノが用意されたご馳走を見て目を輝かせていた。

アルフは今、子犬フォームだけでなく人型においても幼い姿をしている。

今のアルフのフェイトの護り方は、共に戦う事ではなく、フェイトの帰る場所を護ることである。

子供の姿でいるのは、フェイトの魔力を食わない状態を追求したらこうなったらしい。

「半分はアコース君からの差し入れよ。任務を終えたエースたちに……ですって」

リンディは、飲み物と取り皿とコップなどを準備しながら答えた。

「それにこれが全部じゃないわよ。まだ厨房でカノンさんが腕を振るっているから……」

「カノンの料理も久しぶりだなぁ♪」

フェイト同様、カノンの料理が大好きなアルフは、目の前の肉を見て涎を垂らしながら、期待していた。

「しかし、そんなに作って食べ切れるんですか?」

目の前の料理もかなりの量がある。

食べ切れなかったら、食材を無駄にすることになることをムウは心配した。

「その点は大丈夫ですよ。艦のクルーたちにも振舞うから…」

「艦長……じゃない。リンディさんもすいません」

「ふふ、いいのよ。私も艦を降りてからは平穏な内勤職員だもん。それよりもエイミィ…そんな他人行儀な呼び方じゃく『お義母さん』でいいのよ」

「…いや、さすがにまだ早いんじゃ……」

実は、エイミィは来年クロノと結婚する予定である。

「任務の前に聞きましたけど……クロノもやっと決心したんですね」

「……でも、いまさら言うのも何なんですけど…いいんですか?聖闘士のクロノ君が私と結婚しても…」

エイミィは、不安そうな目でムウに問う。

管理局員であると同時に白銀聖闘士でもあるクロノが結婚しても良いのか…。

「…別に聖闘士だから結婚してはならないなんていう掟はありませんよ」

ギリシア神話において、アテナは処女神として伝えられているが、だからと言って恋愛や結婚などを忌んでいるわけではない。

『琴座』のオルフェのように恋人がいる聖闘士もいた。

女性聖闘士である『蛇遣い座』のシャイナは、星矢を愛している。

聖闘士は、アテナ以外は男のみの世界である。

ゆえに、女が聖闘士の世界に入るためには、女であることを捨てる為に仮面をかぶる。

そして、その素顔を見た男を殺すか、愛するかの二者択一をしなければならない。

恋愛を禁じているのなら、素顔を見た相手を殺すだけでいい筈である。

『愛する』という選択肢を入れているのだから、恋愛を禁じているわけではないのだ。

 

 

 

「リア兄様!」

人形のような大きさの小さな少女が、アイオリアの頭に飛び込んできた。

「……あかんよリイン…。リア兄の頭に乗ったら…」

この小さな少女の名は『リインフォースU』。

はやてが『夜天の魔導書』の中にあったデータを元に新たに製作した『融合デバイス』…。

リインフォースははやてとしか融合できないが、Uは適合できれば誰でも融合が可能なのだ。

はやては、シグナムとヴィータ……つまり守護騎士たちの新たな力として彼女を作った。

なのはとヴィータが海闘士達に襲われた事で、危機感を抱き、少しでも自分の家族達の助けになればと願った故である。

リインフォースUは、生みの親であるはやて同様、アイオリアに懐いていた。

「別に構わんよ…はやて。それにしても……今回の仕事では俺の出番は無かったな」

アイオリアが今回の任務に同行したのは、海闘士が現れたときの為であった。

先のなのは撃墜事件の時のように、AMFを装備した機械兵器と共に現れたら流石に魔導師では対処出来ない。

そのときの為に、アイオリアに同行してもらったのである。

ちなみにカノンはただ料理を作りに来ただけであり、ムウはユーノ同様、無限書庫の司書としてである。

 

 

 

「フェイトちゃん。リニスさんが子供たちの写真を見せてくれるって!」

久しぶりのカノンの料理を堪能しながら、そのカノンと談笑していたフェイトになのはが声を掛けてきた。

子供たちとは、童虎の下にいるエリオとキャロの事である。

エリオの素性は、フェイトも聞かされており気に掛けていた。

「エリオとキャロは、元気に育っているぞ!」

写真を見ながら、アルフが二人の近況を説明していた。

実はリニスに乞われて、アルフはたまにエリオとキャロの遊び相手を務めている。

「ただ…最近ちょっと困った事になりまして…」

リニスがため息を吐いた。

「困った事?」

「ええ。エリオとキャロの二人が「聖闘士になりたい」…って言い出したんです」

その場が沈黙した。

「……せ…聖闘士になりたい…って…」

「…だ…大丈夫なのか?」

この場にいる者は、聖闘士の修行がどんなモノなのかよく知っている。

「最初は老師も猛反対して諭したんですが……エリオ達の熱意に根負けしてしまいまして……」

「…あの老師を押し切るとは…なかなか末頼もしい子らですね…」

「……でも…あの子達が心配だよ…」

フェイトはクロノの修行をよく見ていたので、まだ年端も行かない二人を心配していた。

「その点は大丈夫でしょう…。カノンと老師では師匠としての質が違いすぎますから…」

全聖闘士に『老師』と呼ばれ、敬意を寄せられる童虎である。

星矢達五人の中で、一番の人格者である紫龍を育てたのは伊達ではない。

もともと師匠に向いていない性格のカノンと比べる方が間違いである。

現に132名居た聖闘士候補生の内、既に45名が脱落している。

奇跡的に死者は出ていないが、その45名は既に聖闘士になることを諦め、現在は雑兵としての務めに従事している。

「……しかし、私は老師があれ程まで反対するとは思いも寄りませんでしたけど…」

リニスとしても、予想外だった様である。

「……おそらく老師は、エリオとキャロの二人が紫龍のようになるのを危惧したのかも知れませんね」

先ほども述べた様に、紫龍は五人の青銅聖闘士の中で一番の人格者である。

紫龍という男は、自分の為よりも義の為に生きる男であり、人の為に命を捨てられる男なのだ。

………。

 

 

「ブラックドラゴンよ。確かにこの地上で信じられるモノ等何もないかも知れない。しかし、だからこそ友情だけでも信じたいのだ。父の愛も母の愛も知らぬ俺たちにとって、友だけが心の拠り所なのだから…少なくともこの紫龍だけは信じることの為に死にたいのだ」

!!…よ…よし今度こそわたしの全力を込めた拳を放ってやろう。友情の為に死ね紫龍!!」

「今こそ受けてみろ、これが龍星座最大の奥義!!『盧山昇龍覇』!!」

 

 

「お…お前わかっているのか。このまま上昇を続ければ二人とも摩擦熱に耐え切れず天空の塵となってしまうぞ。い…いや俺は黄金聖衣を纏っている分、お前よりは長く耐えられる。先に死ぬのは生身のお前の方だぞ、紫龍」

「こ…この紫龍、死はもとより覚悟の上。お前も必ず連れて行く言った筈だ…」

「バ…バカな、そこまでして勝ちたいか…自分が死んでの勝利など何の価値がある!?何の為にそこまで闘うのだ、何故だーっ!?」

「シュラよ。聖闘士ならわかりきったこと…アテナの為だ!!」

!!

「俺たちは沙織さんをアテナと信じ、ここまで戦ってきた。この十二宮の戦いで、もはやそれは確信した!アテナは邪悪と戦うために数百年に一度生まれるという…沙織さんはこれからその邪悪と戦わなければならない大切な人…!沙織さんが悪を打ち払い、この世が平和になり、それによって俺たちの様な不幸な子供たちがいなくなるのなら…この紫龍一人の命など安いものだ…!!」

 

 

「シ…紫龍よ。手出しはならんと何度言ったらわかるのじゃ…」

「し…しかし……しかし老師、私はアテナの聖闘士です…地上の正義と平和の為に戦うアテナの聖闘士です…。そ…その為に長い間老師に教えを受けました…。い…今ここで闘うなと言うのなら何故死ねとおっしゃって下さらないのです…?」

「紫龍…」

「わ…わたしは多くの同志が闘っているのを、見て見ぬ振りをして生きてゆく事など死んでも出来ません。こ…この紫龍には…」

「ホッホッホッ相変わらず人間堅い奴よの。まあ、それがお前の欠点であり良き所でもあるのじゃが。わかった紫龍…アテナにはわしからお詫びしておこう」

「ろ…老師…」

「一緒に死ぬか、紫龍よ」

「老師…」

 

 

「よ…よかろう…望み通り命を断ってくれるぞドラゴン…!」

「アルラウネ!!」

「ミノタウロス!!」

「バジリスク!!我等三人の力を結集してなっ!!」

 

来い!もはや俺にもあと一撃しか力は残っておらん……!!

春麗…君はまた遥か五老峰で祈ってくれているのだろう……いつも俺の為に祈り続けてくれた君…。だけど…こんな戦いも……もう、これが最後だ…さよなら、春麗…。

「紫龍…!?」

 

「さぁ、いくぞ!!」

「死ねドラゴン!!」

「…『ブラッド・フラウア・シザース』!!」

「…『グランド・アクスクラッシャー』!!」

「…『アナイアレーション・フラップ』!!」

「老師!!貴方に授けていただいた力のすべてを今ここに!!『盧山百龍覇』―――ッ!!!」

 

 

………。

「紫龍は確かに素晴らしい男です。……ただ、彼は『愛情』よりも『友情』そして『義』を優先させます。彼を愛している春麗は紫龍が戦いに出る度に、涙し、彼の無事を祈ります…。紫龍は、春麗を哀しませている自覚を持っていますが……それでも彼は、春麗を一人残し戦いの場に出向きます…」

童虎は、エリオとキャロを紫龍の様な『素晴らしくも哀しい人間』にしたくないのだろう。

『冥王』との聖戦の前に沙織が星矢たちに望んだように、ごく普通の少年少女として安らかに生きて欲しい…と。

 

 ★☆★

 

「ところでクロノ君。君から見てどうだい?君が見守ってきたエース達は」

「……なのはやはやて達のことか?今更僕が語るまでもない。それぞれ優秀な『魔導師』だよ」

希少能力と固有戦力を持って、支援特化型で指揮能力を持つ八神はやて特別捜査官。

法務と事件捜査を担当、多様な魔法と高い戦闘力で単身でも動けるフェイト・T・ハラオウン執務官。

部隊メンバーを育てることが出来て、こと戦闘になれば単身でも集団戦闘でも、ある例外を除いてあらゆる戦況を打破してみせる『勝利の鍵』、高町なのは教導官。

「…あの三人も、管理局に入局当初は危ういところがあったが、カノンさんやムウさん…アイオリアさんのお陰で成長したからな」

なのはは『無茶』はするが『無謀』さが無くなり、フェイトは精神面が強くなった。

はやては以前の純粋さがなりを潜め、腹黒くなってきているのが少し心配だが……逞しくなった。

「三人揃えば、世界のひとつやふたつ軽々と救ってくれそうだなってさ…。かの『三提督』の現役時代みたいに…」

聖闘士や海闘士の様な『神の闘士』が絡まなければの話だが……。

「まあ夢物語ではあるがな。部隊の魔導師は保持制限があるし、それぞれの進路もある」

 

 

 

「……ねぇ、カノン。今更だけどいいの?」

「何がだ?」

「…聖域を留守にして…」

現在、聖域には黄金聖闘士が一人も残っていない。

カノン、ムウ、アイオリアの三人が此方に来ており、童虎は第61管理世界『スプールズ』にいる。

つまり今の聖域には、候補生達しかいないのだ。

フェイトはこの隙に脱走者が出るのではないか…と、心配している。

今、聖域から脱走しても、カノン達なら必ず探し出して連れ戻し、処刑するだろう。

いくら掟とはいえ、やはり人が死ぬのはいい気分ではない。

カノンとムウはその辺りはシビアなので躊躇せず処刑するし、三人の中で一番優しいアイオリアでも、脱走未遂なら目を瞑るだろうが完全に脱走した者を庇うことは出来ないだろう。

「フッ…。今回俺たちが聖域を留守にしたのには理由がある…」

カノンがフェイトに説明しようとした時、アイオリアがカノンに声を掛けてきた。

「カノン。リーゼ達から念話が来た。網に掛かったようだ」

「そうか…フェイト…後でな…」

カノンはそう言うとレクリエーションルームを後にし、あらかじめクロノから借りていた一室に入り、瞑想に入った。

 

〈第五十三話 了〉


 

さて、予告どおり今回は、StrikerS THE COMICSの一話と二話を基にした話です。

真一郎「いつの間にかロッサが聖闘士になってるけど…試練ってどんなのだ?」

考えてない…。と、いうか思いつかん。

真一郎「おい!」

では、これからも私の作品にお付き合いください。

真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」

 

 

真一郎「また逃げたな」




ロッサが無事に聖闘士になったみたいだな。
美姫 「まずはおめでとうよね。よくあの地獄のような、もとい地獄の特訓を耐え抜いたわ」
で、エリオとキャロも。
美姫 「童虎が師となるのなら、多分大丈夫だと思うけれど」
とは言え、厳しいのは違いないだろうけれどな。
美姫 「二人の成長に期待ね」
で、カノンたちは何やら企んでいるようだけれど。
美姫 「それは一体何なのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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