『時空を越えた黄金の闘士』

第五十二話 「竜の巫女」

 

新暦0069年。

なのはは、念願の航空戦技教導隊入りを果たした。

その後、業績を重ね『無敵のエース』『管理局の白い悪魔』に続き『エース・オブ・エース』の異名を持つようになった。

 

 

 

新暦0071年。

童虎とエリオは、第6管理世界のアルザス地方に来ていた。

元々、童虎は自然に囲まれた五老峰に二百数十年間もの間、座していた。

それ故、今まで人が文明が発達した世界ばかり旅をしていたのだが、久しぶりに自然の中で寛ぎたくなり、緑豊かなこの地にやってきたのである。

エリオは、両親に見捨てられ、さらにその両親と死別した悲しみから立ち直っていた。

『悲しみ』という名の闇の中にいたエリオは、童虎と共に旅をしたこの三年間で、一筋の光明を得た。

旅の最中、エリオは童虎から、「生きる」と言う根本的な物を教えられたのだ。

特殊な生まれであるとはいえ、生まれてきた以上、最後まで生きる権利と義務が存在するということを……。

腕っ節だけでなく、人間としても強く、優しく温かな童虎に、エリオは尊敬と憧れを抱いた。

既に2人は、父(祖父?)と子(孫?)であった。

 

 

 

父子は、川辺に座り込み、釣り糸を垂らしていた。

そろそろ昼食の時間なので、魚釣りと洒落込んでいたのだ。

正直、ただ魚が食べたいなら、わざわざ釣り糸を垂らす必要はない。

童虎は泳いでいる魚の口に直接、釣り針を引っ掛けて釣る事もできるし、手づかみで簡単に獲る事も出来る。

あえて、魚釣りをしている理由は、単純に『釣り』を楽しむ為であるが、同時にエリオに糧を得る事の大変さを教える為である。

エリオを引き取って三年……、そろそろ生活手段を教えることにしたようだ。

人が糧を得る方法として、町などで生活する場合は仕事をして金銭を稼ぎ、食料を買うこと……と、文明から離れ、このような自然豊かな地で生活する場合は、野の獣を狩り、野に生茂る山菜を採り、今の様に魚を釣るということである。

エリオが、どのような生活をするかは分からないが、例え都会で生活するにしても、『釣り』自体は趣味としても楽しめるモノであるので、教えておいて損はないであろう。

結果は、童虎12匹、エリオ1匹であった。

童虎が次々と釣り上げるのに対し、エリオの釣り糸には1匹もかからなかった。

そろそろ昼食の時間が差し迫り、焦りが生まれたとき、童虎がエリオの頭を撫でた。

「…エリオ…焦ったら負けじゃ……。心を静かに保ち、自然体になるのじゃ……」

童虎に諭され、肩の力を抜いてしばらくして……エリオの釣り糸が引いた。

「今じゃ!素早く、そして焦らず釣り上げるのじゃ!!」

言われた通りに竿を引きあげると、釣り針に魚が引っかかっていた。

「……つ…釣れた…釣れました老師!」

「……魚に限らず、野生に生きる生物は皆、普通の人間など比べものにならぬ程、気配に敏感じゃ……。釣ろう釣ろうと考えるお前の『殺気』を魚は敏感に感じ取り、警戒したから、お前の釣り糸に引っかからなかったのじゃ……」

火を起こし、釣った魚を焼くと香ばしい匂いが辺りに立ち込めた。

「キュクル〜」

「…ムッ…なんじゃ今の鳴き声は?」

聞いた事のない獣らしき鳴き声のする方に視線を向けると、そこから泥だらけの少女が翼を持つ獣と共に姿を現し…その場に倒れこんだ。

「キュクル〜〜〜〜!」

獣が心配そうに鳴く。

「…ど…どうしたの!?」

驚いたエリオが少女に駆け寄ると……。

 

くぅ〜〜〜〜〜〜。

 

可愛らしい腹の虫が少女から発せられた。

「……お腹が空いているの?」

「…いかんな…大分衰弱しておる…。もう何日も碌に食べておらんようじゃ……エリオ…荷物から米を持ってきてくれ…粥を作る…」

「……あのお魚じゃ駄目なんですか?」

「……恐らく胃が受け付けまい……。そこのチビは大丈夫じゃろうが…」

 

 

 

「慌てずゆっくり食べるんじゃ…。いくら粥とはいえ弱った胃にいきなり大量に入れたら、吐いてしまうからな……」

キャロ・ル・ルシエと名乗った少女は、童虎に言われたように一口一口ゆっくりと粥を啜った。

キャロのお供をしている獣は、童虎達が釣った魚を喜びながら食べていた。

「……ありがとうございます」

食べ終わったキャロは、童虎たちに頭を下げた。

「……ところで…親はおらんのか?」

キャロの今の様子を見て孤児の可能性が高いが、必要な事なので聞く。

「……」

「……迷子なら、お主の住んでいるところまで送るが?」

自分と同じ『次元漂流者』ならば、管理局に連絡することも考えた。

キャロは……躊躇したが童虎に促され、自分の事を話始めた。

 

 ★☆★

 

少女は一人だけで……否、一匹の獣を連れて旅をしていた。

少女には、『力』があった。

その『力』は、他者にとって強力過ぎた。

少女は、その『力』故に……生まれた地から追い出された。

「アルザスの竜召喚の祖、ルシエの末裔…キャロよ」

「僅か6歳で白銀の飛竜を従え、黒き火竜の加護を受けた……。お前はまこと素晴らしい竜召喚士よ」

「じゃが、強すぎる力は災いと争いしか生まぬ……」

「済まぬな……お前をこれ以上この里に置くわけにはいかんのじゃ…」

そう言われて………。

【…竜召喚は危険な『力』……人を傷つける怖い『力』……】

以来、半年もの間、一匹の獣……つまり、白銀の飛竜『フリードリヒ』と共にアルザスの地を彷徨い続けていた。

この『第6管理世界』と管理局に指定された世界には存在しない『安住の地』を求めて……。

 

 ★☆★

 

「……酷いよ…」

キャロの過去を聞いたエリオは、憤慨した。

キャロが強い力を持っているからといって、まだ6歳に過ぎない少女を追い出すなんて……死ねと言っている様なモノである。

特殊な生まれ故に両親から見捨てられたエリオからすれば、他人事ではない。

「……確かに酷い…。わしらの常識からすれば……な。しかし……それは『文化の違い』と言えなくもないのじゃよ…」

国、又は世界が違えば文化も違う。

これは仕方のないことである。

「……しかし……追い出して、はいそれまでと言うのは無責任じゃな…」

村の護るため、村の責任者として断腸の思いでキャロを追放した……「泣いて馬謖を斬る」と言えば聞こえはいいが、幼子を何の保障もなく放り出したことに変わりはない。

ここで出会ったのは何かの縁……エリオ同様、キャロも自分が引き取ることにした。

しかし、キャロの為にはその『竜召喚』の能力を使いこなせなければならないが……いかに二百数十年生きているとはいえ、専門外の事を教えることは出来ない…。

「……ふむ…。そういえばあやつがおったな…」

童虎は、キャロを伴いアルザスの地を後にした。

 

 ★☆★

 

聖域。

候補生たちの指導を終えたカノンは、リニスの入れたコーヒーを堪能していた。

リニスは、フェイトの花嫁修業がようやく満足のいく水準に達したので、次はカノンにどうフェイトの想いを受け止めてもらおうか画策し始めていたが、我が主ながら、そちら方面はかなり朴訥なので、さてどうしようかと悩んでいた。

「入るぞ、カノン!」

扉の向こうから、童虎の声が聴こえた。

「どうぞ!」

くつろいでいたカノンは、入ってきた童虎の前に傅いた。

「お戻りになられたのなら、お迎えにあがりましたのに……」

「いや、急な事じゃったからの…」

カノンに楽にするようにいい、ソファに座った。

カノンは、童虎が伴ってきた二人の幼子を見て、いぶかしんだ。

男児の方のリンディから聞いて知っているが、女児の方は知らない。

だが、今はとりあえず二人にジュースを出すようリニスに指示した。

「…旅は終わりですか?」

「うむ。そろそろ一所に落ち着こうと思っている」

「聖域に留まられますか?」

「いや、どこか別の……五老峰ほどでなくてもよいが、自然豊かな場所がよい……。まあ、それは伝手を頼るから良いが、聖域に来たのはお前に頼みがあったからじゃ」

「頼みとは?」
童虎が自分を頼るとは何事なのか。

「ふむ、お前の使い魔という、そこのリニスを貸してほしいのじゃ…」

「…私をですか?」

リニスはカノンの使い魔になる前は、大魔導師と謳われたプレシア・テスタロッサの使い魔であり、フェイトの魔法の師でもある。

「召喚士……ですか?…確かにプレシアは召喚魔法にも長けていましたから、私もそれなりの知識があります」

「うむ。ならば、キャロにも指導してもらいたいのじゃ…。リンディは、お前は師としても優秀と言っておったからのう」

「……カノン…どうしましょうか?」

リニスは主であるカノンに聞いた。

「お前はどうしたい?俺は構わんが……老師の言うとおり、どれだけ強力な力も制御がきちんと出来なければただの害悪だが、制御さえ出来れば正しく使えば問題はないからな…」

「……わかりました。私でよければお力になりましょう…」

「助かる…。わしも体験したが、確かにキャロの力は暴走すれば被害が出るかもしれんからな」

実は、聖域に来る途中、一度、キャロはフリードを暴走させてしまったのである。

危うく大惨事になるところだったが、『天秤座』の聖衣を纏った童虎の一撃であっさりと静まった……。

「……アルザスの飛竜は、そこいらの魔導師が召喚する赤竜などよりも強力なのですが……それを拳一発でですか…?」

さすがに聖闘士を束ねる立場……と、呆れながらも畏怖するリニスであった。

「いや、きちんと制御され、冷静じゃったら苦労したじゃろうが、ただ暴走しておるだけなら、それほどでもない」

普通、暴走している方が危ないんじゃ……と、リニスは思ったが、黄金聖闘士を自分魔導師の常識で測るのは間違いであることは今までで十分理解できていたので、口には出さなかった。

 

 

 

童虎は、どこか適当な場所を三提督に紹介してくれるように頼み、ミゼット・クローベルが紹介したのは第61管理世界『スプールス』の自然保護区域であった。

そこには管理局自然保護隊が駐留しており、召喚士の能力は自然保護官向きなので、召喚士の修行にはもってこいだろうと薦めたのだ。

先の例もあり、暴走しても童虎が抑えてくれるので、ミゼットとしても安心して紹介した。

童虎も『スプールス』が気に入り、自然保護隊との面々とも意気投合し、そこで生活することになった。

 

〈第五十二話 了〉


真一郎「今回は、キャロとの出会いか…。エリオ同様、キャロもフェイトと絡ませなかったな…」

私見として、エリオやキャロは童虎が面倒見た方が良いと判断したから…。

真一郎「さて、次回は……どうする」

そろそろ、As編のエピローグ後、つまりStrikerS THE COMICSの一話くらいの話を書こうかなと思っている。

真一郎「同窓会だな…」

では、これからも私の作品にお付き合いください

真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」




キャロも童虎の下に。
美姫 「確かに暴走しても大丈夫そうだし、良かったかもね」
今回で旅もとりあえずは止めて、一箇所に留まるみたいだし、連絡は取りやすくなったかもな。
美姫 「まあ、特に問題がなければ連絡もあまり必要ではないでしょうけれどね」
さて、二人が童虎の下でどう育つのか。とっても楽しみです。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る