『時空を越えた黄金の闘士』

第五十一話 「聖衣U」

 

本局技術部において、マリエル・アテンザは『オリオン星座』の白銀聖衣の解析を行っていた。

クロノに解析させて欲しいと頼み、自分の一存で決めかねたクロノが居合わせたカノンに訊ね、許可出されたので、何とか解析できるようになったのだが……。

「………で、解析結果は?」

「…………か…解析不能…」

もともと、聖衣に使われている材質である『オリハルコン』『ガマニオン』『銀星砂』自体が未知の金属であり、『地球《エデン》』にしか存在していないからである。

『地球《テラ》』においては『オリハルコン』は神話等に伝わる架空の金属でしかない。

更に、神々の技法によって作られてる為、管理局の技術では解析が出来ないのである。

聖衣の修復が出来るムウでも、新たな聖衣を作り出すことは不可能なのだから。

「…そもそも、聖衣の重量なんですが…まるで鉛のように重たいんです。こんなものを着けて戦えるわけがありません!」

中世の騎士達が身につける甲冑などのように凄まじい重量なのである。

にも関わらず、聖闘士は高機動型の戦闘魔導師をはるかに凌駕するスピードで動けるのである。

魔導師たちの常識では、如何に魔法で身体強化したとしても、この重たい物を身に着けていたら、まともに動く事さえも難しい。

「……マリエル…君は一つ思い違いをしている…と、いうかデバイスの技術者である君がそれでどうする?」

「へ!?」

「聖衣を身に着けただけで、力が出ると思ったら大間違いさ。聖闘士は自己の体内にある『小宇宙』を爆発させることで、超人的な力を発揮するんだ。小宇宙を使わなければ、聖衣はただの重いプロテクターに過ぎない。装着者の小宇宙が燃えれば燃えるほど、聖衣は軽くなり、発揮する力も増大する……魔力がなければデバイスが機動しないのと同様に……」

魔力を持たない一般人が機動させようとしても、デバイスはうんとも寸とも言わない。

そして、同じデバイスを使っても、使用者の魔力によって、発揮する力も大きく変わる。

なのはのデバイスである『レイジング・ハート』は本来はユーノのモノであった。

Aランクのユーノでは、レイジング・ハートを使いこなせず、『ジュエルシード』を回収することが出来なかった。

しかし、AAAランクのなのはは、素人ながら『レイジング・ハート』を使いこなし、『レイジング・ハート』も本来の持ち主であるユーノではなく、なのはの方を『Master』と認め、強い信頼関係を築いている。

聖衣もデバイスと同じであり、『魔力』と『小宇宙』を置き換えただけに過ぎないのだ。

守護星座が一致し、小宇宙を燃焼し爆発させる事により、聖衣に秘められた力を発揮できるのである。

デバイスの事に精通しているマリエルが、そのことに気付かなかったのは迂闊と言えよう。

「…まあ、例え聖衣を再現できたとしても、肝心の小宇宙を持たない限り、意味がないってことさ……」

『小宇宙』を持たない者にとっての聖衣の使い道など、せいぜいオプジェ状態のまま飾っておくだけの美術品としてしか使い道がない。

後は、聖衣を魔法で操り『動く鎧《リビングアーマー》』として使うか…であるが、それはあまり効果がない。

かつて、双児宮でサガとカノンが、双子座の聖衣を教皇の間から遠隔操作し、敵にぶつけたことがあるが、それは、彼らが『小宇宙』によって操ったからこそ聖衣の力を引き出せたが、魔法では聖衣の力を引き出す事は不可能。

せいぜい、聖衣の硬度くらいしか活用できず文字通り、動く鎧としてしか使えない。

聖衣の材質を利用して傀儡兵を作ろうにも、神の技法によって作られた聖衣を人の技に過ぎない魔法で変質させる事も不可能。

聖衣の材質に使われる『オリハルコン』などは、『地球《エデン》』の天界と失われし大陸『アトランティス』『ムー』でしか採掘できず、現在は聖域に保管された分しかなく、他の者が手に入れるのは困難である。

「……結局、聖衣を管理局に役立たせるのは不可能ですか?」

「……最も、他の連中はそんな事を思いもしないだろうから…無駄な事をしているけどね…」

「何をですか!?」

「聖闘士候補生の中にも何人か……管理局の命令を受けた者が何人か紛れ込んでいると、カノンさん達は睨んでいる…。だからこそ、あのような厳しい掟を持ち出すことにしたようだし……」

木を隠すなら森の中……人を隠すなら人ごみの中というように、聖闘士の事を探ろうとスパイが紛れこんでいる。

既に、誰がスパイなのかは当たりをつけているらしいが、実行を起こすまでは監視に留めるつもりらしい。

後、聖王教会はロッサに期待しているが、それはアテが外れている。

確かにロッサの義姉は聖王教会の騎士であり、管理局の理事官でもあるカリム・グラシアであるが。

カリムは聖闘士の闘法を教会騎士達に組み入れようと考えているが、ロッサはそれは不可能と見ている。

自身で聖闘士の修行を受けているからこそ、教会騎士達に伝えられない。

闘法を身につける前に、何人犠牲になるか分からないからである。

如何に騎士とはいえ、死ぬ確率の方がはるかに高い訓練を受け入れるはずがない。

ロッサ自身、何度逃げ出したくなったか分からない厳しさなのだから……。

それに、グラシア家に対する恩がある為、聖王教会との関わりを絶つ気はないが、ロッサの心情もかなり聖闘士に近づいている。

クロノに続き、ロッサもまた管理局にとって獅子身中の虫となるだろう。

 

 ★☆★

 

聖域にある正規の聖衣は、青銅聖衣は、『麒麟星座』、『冠星座』。

白銀聖衣は、イージスの残した『楯座』、クロノが持ち帰った『南十字星座』の四体である。

「ムウからの報告だと、ユーノが小宇宙に目覚めかけているらしい…」

「うちのロッサも、小宇宙に目覚めかけている……無限書庫の司書を兼任しているユーノはまだまだ時間がかかるが、このままいけばロッサは後、二、三年で聖闘士になれるだろうな」

カノンとアイオリアの2人は、二体の白銀聖衣の前で聖闘士候補生の中でも、最も有望性を持った二人について語り合っていた。

「それにしても……あの2人の守護星座がそれぞれ『楯座』と『南十字星座』とは……クロノの『オリオン星座』といい……偶然で片付けられる事ではないな…」

「ああ、まるであいつらの為に、聖衣が様々な方法で此方の次元世界にやってきたようだ……」

人は皆、自分の星の下の運命を持っている。

カノンとサガが『双子座』の黄金聖闘士となった事も、アイオリアが『獅子座』の黄金聖闘士になった事も、クロノが『オリオン星座』の聖闘士となったのも、それぞれが生まれ持った星の運命に導かれた結果である。

神の気紛れに、次元世界を超えたカノン達も……それが運命だったのだろう。

カノン達と出会ったクロノ達もまた……。

 

 ★☆★

 

ジェイル・スカリエッティは往診を終え、自分のラボに戻っていた。

シャカ達に命を救われたスカリエッティは、今までの自らの愚かさを悟り、その償いなのか、医者として人の命を救っていた。

ただ、流石に指名手配の身の上の為、モグリの闇医者であるが……。

しかし、科学者としての自分を捨てたわけではないし、最高評議会の欺く為にも、『戦闘機人』の研究は続けていた。

いつか、命を弄んだ自分に報いが来る…その事を確信し、その時の身の処し方も弁えていた。

スカリエッティの戦闘機人『ナンバーズ』。

新暦0051年にbP『ウーノ』、0052年にbQ『ドゥーエ』、0055年にbR『トーレ』、0060年にbT『チンク』、0061年にbS『クアットロ』、0063年にbU『セイン』、bP0『ディエチ』が製造されている。

最高評議会は、ゼスト隊のメンバーの一人であるクイントの遺伝子を使い新たな戦闘機人を作るよう指示を出してきた。

かつて、スカリエッティ以外の研究者が作ったクイントを元にした戦闘機人であり、クイントが引き取った2人のことを考え、クイントの遺伝子は戦闘機人に適応しやすい事から、そう指示を出してきたのだ。

人造魔導師適正のあったゼストとメガーヌと違い、適正がなかったクイントの遺伝子くらいは役立てようとする非情な考えである。

人を人とも思わぬ評議会に怒りを覚えたミロだったが、今はまだ動けない事をシャカに諭され自重したが、機嫌が悪い。

スカリエッティはクイントに詫び、彼女の遺伝子を元にして、新たな戦闘機人の製造を始めた。

それと同時、スカリエッティは聖衣に興味を持ち始めていた。

ミロの『蠍座』の黄金聖衣を解析した結果は、管理局同様『解析不能』ではあったが、彼は聖衣の特性に目をつけたのである。

「魔導師でも、戦闘力だけならば『神の闘士』達にもある程度対抗できる…。流石にミロやシャカには対抗できないが……しかし、ネックとなるのは防御力…『防護服《バリアジャケット》』では、彼らの攻撃に耐えられない。しかし、『聖衣《クロス》』や『冥衣《サープリス》』はある程度なら彼らの攻撃を防げる…黄金聖衣に至っては完全破壊は聖闘士でも不可能……ならば…」

確かに聖衣の解析は不可能だ…しかし、解析できた部分もある。

それを参考に、スカリエッティは決意した。

クアットロを攫っていった青のローブを着た男。

あの男も、聖闘士と冥闘士同様『神の闘士』に違いない。

ミロやシャカはおそらく、あの男達と戦う事になるだろう。

そして、自分の下から奪っていった『戦闘機人』や『レリック』を使い、何か企んでいる。

自分達も、それに巻き込まれるのは必定…。

ならば、自分の『娘』達が奴らに対抗する為に必要なモノを作り出さなくてはならない。

特に、砲撃型の魔導師ならともかく、近接型のトーレやチンクでは、先の戦闘の例もある。

「……ならば作ろう…。魔導師専用の聖衣を……」

このスカリエッティの研究が、後に新たなるデバイスの誕生に繋がる。

 

〈第五十一話 了〉


さて、今回は聖衣の話。

真一郎「そして、ついに明らかになったクロノが持ち帰った聖衣…『南十字星座』…これで『聖闘士星矢』の劇場版第一作に登場した亡霊聖闘士の聖衣が揃ったな…」

『矢座』と『琴座』は聖闘士星矢本編で登場したから除外して、『オリオン』『南十字』『楯』をオリジナル聖衣として登場させました。

真一郎「そして、スカリエッティが開発する『聖衣』とは…?」

聖闘士ではないモノが纏う聖衣といえば、あれしかないだろ…

真一郎「ああ。あれ…アニメオリジナルの…」

では、これからも私の作品にお付き合い下さい。

真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じた事があるか!?」




管理局もちゃっかりとスパイを紛れ込ませていたみたいだな。
美姫 「だとしても、そのスパイも悲惨かもね」
紛れ込む為には訓練に参加しないといけないしな。
美姫 「しかも、既にばれているみたいだし」
とは言え、油断は禁物だろうけどな。
そして、スカリエッティは新たな開発に取り掛かるみたいだな。
美姫 「どんな物が出来るのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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