『時空を越えた黄金の闘士』
第五十話 「聖闘士の掟」
両親を失ったエリオは、童虎に引き取られることになった。
最初は、管理局本局の特別保護施設かフェイトの様にリンディが引き取るはずだったのだが、童虎が引き取ると言い出したのだ。
検査の結果、エリオにはリンカーコアが検出された。
万年人手不足の管理局の保護施設に入れるという事は、そのまま『魔導師』としての道を強要されかねない。
また、ハラオウン家に預けるのも問題である。
家族全員が局員なので、忙しくてエリオの面倒を見る者がいない。
次元航行艦に乗っている為に、長期的に家を空けるリンディとクロノ。
学校と管理局の二足の草鞋を履いているフェイト。
いくらなんでも、アルフでは一人で幼子の面倒を見る事は出来ない。
リンディが、高町家の人たちがいるから大丈夫!と抜かしたとき、童虎の拳骨が叩き込まれた。
「自分で面倒を見れないなら、引き取るなどと抜かすな、馬鹿者!!」
と、いうわけで童虎が引き取ることにしたのだ。
聖闘士の養成ならともかく、純粋な育児に関しては、他の黄金聖闘士はアテにならないので、却下。
幸いながら、童虎は聖闘士の養成とは別に、育児も経験がある。
最も、童虎が育てたのは女の子なので、男の子を育てるのは初めてだが……。
それでも、自分で面倒を見る暇がない者に任せるよりははるかにマシである。
引き取ると言った者が、引き取られた者を別の人間に任せる。
引き取られた者に、「自分は厄介者」という思いを抱かせる可能性がある。
下手をすれば、エリオは「第二のなのは」に成りかねない。
なのはの事をムウから聞いた童虎がリンディにそう告げると、リンディもその可能性に気付き、童虎に任せることにした。
ちなみに、エリオの両親が残した遺産は、財産管理の専門家に一任した。
正直、今のエリオには手に余るので、エリオが一人前になるまでは、その専門家が管理することとなった。
勿論、それを着服してしまうような悪徳な専門家もいるのだが、そこらへんは信用の置ける者を選んだのはいうまでもない。
管理局にそれなりに影響のある『ハラオウン家』の紹介である。
背任行為は、自滅に繋がるので、その専門家も必死である。
「さて、それじゃあ行くとするか…」
童虎は、手作りの箱車にエリオを乗せ、歩き始めた。
基本、童虎の移動手段は徒歩である。
交通機関は海を渡る時か、次元を渡る時しか使っていなかった。
それを見送ったリンディは……。
「……『子連れ狼』?…でも『童虎』だから『子連れ虎』かしら?でも、『老いた虎』なら拝一刀じゃなくて、柳生烈堂の方だし……」
しばらく地球の日本で生活している内に、時代劇と昼ドラにはまったリンディは、時代劇チャンネルで見た『子連れ狼』を連想し、わけの分からんことを呟いていた。
★☆★
ミッドチルダ首都『クラナガン』。
そこに建つ『時空管理局、地上本部』。
そこの長を務めるレジアス・ゲイズ中将が、招いた相手がいた。
黄金聖闘士『獅子座』のアイオリアである。
アイオリアは、レジアスが嫌っている『元・犯罪者』である八神はやて一等陸尉の関係者であるが、彼自身には『前科』ではないので、レジアスも見下す態度を取っていなかった。
最も、アイオリアは人伝でレジアスが、はやてを『犯罪者』呼ばわりしている事を知っているので、内心憤っているのだが、顔には出していなかった。
アイオリアも、昔と比べて成長しているようである。
「よく来てくれた。ワシが地上本部のレジアスだ」
「アイオリアだ。よろしく……。それにしてもレジアス・ゲイズ中将……地上本部…首都防衛長官……。地上本部の幹部が俺達に接触してくるのは始めてだな…」
呼ばれた理由になんとなく予想はついてはいるが……。
「すまんが、下手な腹の探りあいは性に合わん。単刀直入に要件だけ言ってくれ」
「……こちらとしても、無駄話をする暇はない。この後も予定がぎっしり詰まっているのでな……では、単刀直入に要請する。貴様ら『聖闘士』に地上本部に所属してもらいたい」
「……俺達は、お前達管理局に協力する事はあっても、お前らの組織に組み込まれるつもりはない……もう何年も前からそう言っている筈だが…?」
「そこを曲げてもらいたい…せめて今、修行している何人かが聖闘士になった暁には、何人かを帰順させて欲しいのだ」
レジアスも必死であった。
「いや、貴様ら聖闘士の証である『聖衣』とやらを持たぬものでなくてもよい。貴様らの闘技を身につけ、管理局に入局したいと願う者を回してもらえれば…」
レティ・ロウランの紹介で現在、聖闘士の修行を受けている者たちは、元々、管理局の武装隊志望だった事からの提案だった。
本音を言えば、聖闘士全員を地上本部に欲しいところだが、下手にアイオリアの機嫌を損ね、敵対行動をとられるのは不味いということくらいは理解できていた。
アイオリアたちが、自分達管理局を完全に信頼していない事も承知している。
「……それはできん!」
アイオリアは、明確に拒絶した。
「……何故だ!?」
「掟に反する……お前達に置き換えれば、『管理局法』に抵触するような者だ」
少し前までは、聖闘士候補生はクロノ、ユーノ、ロッサの三名だった。
それゆえ、地方での聖闘士養成と同じ様に「来る者拒まず、去る者追わず」でよかった。
しかし、現在は『地球《エデン》』の聖域の候補生を上回る人数になっていた。
統制を取るためには、ルールが必要である。
そこで、アイオリア達3人は相談し、聖域の掟を適用することを決めたのである。
元々、今、アイオリア達が本拠として使っている聖域は、『地球《エデン》』の聖域の一画が2000年前の聖戦で土地ごと時空を越えてしまったのである。
言うなれば『出張所』のようなモノである。
しかし、『出張所』なので、本来の掟よりは多少甘くしていた。
つまり、聖闘士候補生が聖域を出るには、見事聖闘士となるか、それとも死体となるか……であるのだが……本来なら、聖闘士志望で聖域に来た以上は、問答無用で掟を適用するのだが、まずは聖闘士の修行の辛さを教え、三日間考え直す時間を与え、さらに一週間以内なら、家族の者が連れ帰る事を許す『仮研修期間』を設けた。
期間が過ぎても、聖闘士になる事を諦めることは出来るが、それでも直ぐに帰ることは許されず、最低でも10年は雑兵として聖域に所属する。
脱走した者は、どのような理由があろうと連れ帰って処刑する。
アイオリア、カノン、ムウの3人が話し合いで決め、『教皇代理』の立場の童虎の承認を受け、決定されたのである。
この決定により、最もとばっちりを受けたのがロッサである。
ロッサは、聖闘士候補生だが、同時に管理局の『査察官』でもある。
その為、彼だけは例外的に、査察官の仕事がある時のみ、聖域から出ることを許されるが、任務終了後は直ぐに聖域に戻らなくてはならなくなった。
任務が終了して、一週間経っても戻らなかった場合は、脱走とみなし刺客が差し向けられるのである。
それを通達されたとき、ロッサの顔は蒼褪め、引き攣っていたのだが、強制されたわけでもなく、自らの意思で聖闘士を目指した為、言い訳できなかった。
そして、ユーノは特に影響を受けていない。
何故なら、ユーノは聖域で修行しているわけではないので、今まで通り、辞めたくなったら辞めてもいいのである。
その事を後で聞かされたロッサは、「僕もクロノ君の様に、本局で修行すればよかった…」と黄昏ていたらしい。
「多少、変更したとはいえ、古代から続く掟を適用すると決めた以上、決めた我々がそれを破るわけにはいかん。『アテナ』の許しでもない限り……」
聖域のある世界……かつて、第77観測指定世界と呼ばれたかの地は、今は治外法権指定世界となっている。
管理局と交流はしているが、管理局法がまったく適用されない世界と定められた。
聖闘士候補生として、聖域に足を踏み入れた以上、その掟を科せられるのだ。
「……しかし、別に我々をお前達に組み入れる必要はないのではないか?正直、聖闘士と同格の戦闘力を持つ犯罪者などそういまい。いくら人手不足とはいえ……」
アイオリアの疑問に、レジアスは苦虫を噛み締めたような表情になった。
「……オーリス!例の資料をアイオリアに見せろ」
防衛長官秘書であり、またレジアスの娘でもあるオーリス・ゲイズ陸上三佐は、空間モニターを展開しデータを映し出した。
「……こ…これは!?」
そのデータを見て、アイオリアは絶句した。
本局と地上本部の戦力差、更にミッドチルダの首都であるクラナガンの治安の悪さは、想像以上であった。
万年人手が足りないと言っている本局だが、それでも地上本部と比べるとはるかに人材が恵まれている。
稀少と言われるAランク以上の魔導師。
管理局に所属しているAランク……全体を100として、比率が本局85:地上15と圧倒的に地上本部が少ない。
更に、AAA以上の魔導師は全て本局に所属しており、地上には一人も居なかったのである。
二年前までは、地上にもSランクのストライカー級の騎士、『ゼスト・グランガイツ』がいたのだが、彼は戦闘機人の捜査中に殉職と、記録されている。
実は、スカリエッティたちと行動を共にしているのだが……レジアス達は知らない。
Aランクの魔導師も10人にも満たず、各部署にB〜Cランクの者が居ればいい方という有様である。
そんな有様なので、地上では「質より量」という形をとり、物量で補っている有様なのである。
そして、クラナガンの治安の悪さに目も当てられない有様であった。
魔導師の犯罪は、基本的に魔導師でなければ鎮圧できないので、魔力を持たない一般人による自警団では、抑止力にならない。
Aランク以上の魔導師による犯罪が起きると、地上本部の今の戦力では、対処に時間がかかりすぎるのだ。
「……優秀な魔導師は、皆、本局が持っていってしまう……。我が友であり、唯一のオーバーSだった古代ベルカ式の騎士だったゼストが死に……」
レジアスは、苦しげな表情になった。
実は、レジアスはスカリエッティのスポンサーであった。
戦力の強化の為、倫理的の問題、莫大な予算を承知で、『人造魔導師』を作ることをスカリエッティに依頼していた。
親友であり、同じ理想を持ってゼストにも黙って……。
ゼストが戦闘機人事件を追っている事を知り、彼の部隊を捜査から外そうとしたが、ゼストはレジアスの指示を無視し、捜査を強行した。
同じ理想を持っている筈のレジアスに不審を抱いた為である。
ゼストの死をスカリエッティから聞かされ、レジアスのショックは計り知れなかった。
「……如何に数を増やしても、限度がある。少しでも優秀な者が欲しい…」
アイオリアは、レジアスの言葉を聞きながら、考え込んでいた。
以前、面会した三提督の一人であるミゼット・クローベルからも聞かされていた。
「本局が扱う事件は、規模が大きいから優秀な魔導師はほとんど本局が持っていく。レジー坊や達はかなり苦労しているわ」
本局の統幕議長であるミゼットも、この件に関しては思うところがあったようである。
外のことばかりに目を向け、自分の家族達が住んでいるクラナガンを護っている地上本部を軽く見ている事に、心を痛めているのだ。
何度も、その事を指摘したのだが、豆腐に鎹、糠に釘、暖簾に腕押しであったという。
「……分かった。管理局に入局させることは出来んが……『出向』という形なら、何人か回そう…。奴らがモノになれば…の話だがな」
流石に、今の地上本部の状況に同情したのか、アイオリアは最大限譲歩することにした。
それでも、納得できないというなら、此方もそれ相応の対応になる…と、言下に匂わせたが。
レジアスも、アイオリアの意図を察し、それを受け入れた。
「…後一つ、中将に言っておくことがある」
「……なんだ?」
「……はやてを『元・犯罪者』と呼ぶのをやめてもらいたい。第一、はやては犯罪者ではない」
先の『闇の書』事件。
はやで自身は、何もしていないのだ。
シグナム達、守護騎士が『元・犯罪者』と呼ばれるのは、不快だが事実なので仕方がない。
しかし、はやては『闇の書』の転生機能により、ランダムに選ばれただけに過ぎず、『闇の書の意思』の覚醒に関しても、グレアムやリーゼの姦計が原因である。
「はやてに関しては、『犯罪者』ではなく『被害者』だ……。事実を見ずに、勝手なことを言わないでもらいたい」
アイオリアの眼光に、レジアスは押されていた。
魔力資質を持たずに、地上本部のトップにまで上り詰めた男だが、それでも黄金聖闘士の眼力に耐えられるほどの胆力は養われていなかった。
「……あと、候補生達がモノになるまでは後、数年を要する。それまではいかに本局が気に入らなくても、彼らとの連携を取れるようにしておくことだ」
地上をこれまで護ってきたのは我々だという自負があるのは認めるが、お互いが足の引っ張り合いをしていては、護れるモノも護れなくなる。
本局と地上の確執など、一般の人たちには関係ないのだ。
意地の張り合いで、惨事を招いては、市民達の管理局に対する支持を失っては、出資もしてもらえなくなり、局を運営する事も出来なくなるのだから……。
〈第五十話 了〉
真一郎「何故、子連れ狼?」
いや、なんとなく……子連れで旅をするという事で、子連れ狼を連想した。何と言っても作者が一番好きな時代劇だし……。
真一郎「そうなの?」
小学生の頃、父が再放送されていた子連れ狼(本放送は作者が生まれる前)をビデオに取っていてな…それまでは、暴れん坊将軍や遠山の金さん、水戸黄門といったパターンが決まっているモノばかりを見ていたけど…それとは毛色の違うアレを見て、すっかりとはまってしまったんだ。萬屋錦之介版最高!
真一郎「……それはともかく、アイオリアとレジアスが接触したな」
まあ、流石に本局と地上の確執なんぞ、聖闘士たちには知ったこっちゃないからね。
真一郎「レジアスも問題があるけど、極悪人というわけじゃない。手段を間違えただけだからな」
それを言ったら、StS編のなのは達、機動六課の方も問題あるからな
真一郎「そうだな」
では、これからも私の作品にお付き合い下さい
真一郎「お願いします。君は小宇宙を感じたことがあるか!?」
エリオは童虎が引き取る事になったか。
美姫 「エリオも聖闘士としての修行をするのかが気になるわね」
まあな。他には管理局に所属しないといった聖闘士に接触してきたな。
美姫 「それだけ状況的にも人手が足りないって事なんでしょうね」
これには流石にアイオリアの方が折れる形となったけれど。
美姫 「今後、どうなっていくのか非常に楽しみだわ」
うんうん。次回も待っています。
美姫 「待ってますね」