『時空を越えた黄金の闘士』

第四十九話 「プロジェクトF」

 

新暦0068年。

フェイトは、聖域のカノンを訪ねてきた。

本局や『地球《テラ》』で会う事は多いが、聖域に赴くのは久しぶりであった。

聖域の周りは、以前来た時よりも畑や牧場が増え、そこで農業を営む者達も増えていた。

そして、聖域に足を踏み入れた時、辺りから様々な悲鳴が木霊していた。

「な……何!?」

悲鳴がする方に近づくと、何人かの少年達が呻き声を上げながら寝転がっていた。

「やあ、フェイト…」

「あっ…ロッサ…。何…この人達?」

その中でただ一人、自分の足で立っているロッサにこの惨状の理由を聞いた。

「ああ。彼らが新しく来た聖闘士候補生達だよ…。さっきまでカノンさんにシゴかれていたのさ……」

その時、新たなる悲鳴が響き渡った。

「今は、別の連中がシゴかれているけど……」

カノンが候補生達に課す修行……そもそも聖闘士の修行は、人道的とはとても言えない。

ここに呻いている者達は、まだマシな方で、既に何人かは半殺しになっている。

「……いくらなんでもやり過ぎなんじゃ…?」

「この程度で死ぬようなら、所詮其処までだよ…」

管理局員でありながら、あっさりとそう答えるロッサの目はヤバイ。

今まで、アイオリアから受けた指導を思い出し、遠くの世界に旅立ちそうな目である。

当時は辛かった管理局の士官学校時代のシゴキ等……この生き地獄に比べれば快適だったなぁ…と、ブツブツ呟いている。

「ロッサ〜。戻ってきて〜〜〜〜ッ」

 

 

 

カノンは、フェイトが訪ねてきたので、指導をアイオリアと代わってもらった。

「……お前が聖域に来るのは、執務官試験合格の報告の時以来だな……。どうしたんだ…急に?」

フェイトは二度目の執務官試験に見事合格し、執務官となっていた。

なのはもリハビリを終え、現場に復帰していた。

「うん…。実はね……私の名前の元となった……母さんが私を作った技術の事……覚えている?」

「……確か…『プロジェクトF.A.T.E』だったか?」

「その技術の理論を作り上げた人間の名前が分かったの……」

広域次元犯罪者…ジェイル・スカリエッティ…。

紛れも無い天才であり、管理局で指名手配されているにも関わらず、一度も逮捕されたかことがない。

「人の命を弄ぶ……悪魔の科学者…」

フェイトは、嫌悪を込めてそう吐き捨てた。

彼女は知らない。

スカリエッティが、黄金聖闘士のミロとシャカに助けられ、自らのコレまでの行いを悔い、改心している事を……。

「……確かに、人の命を弄ぶ事は許しがたいことだが……しかし、その男がいなければ、お前は生まれることもなく、俺やなのは達とも出会わなかっただろう……。その点だけは、奴に感謝してもいいんじゃないのか?」

なんだかんだ言いながら、カノンはフェイト達と知り合った事に関しては、素直に喜んでいた。

フェイトは、自分達が出会えたことを喜んでいるカノンを見て、確かにその点だけは、あの男に感謝しても良いのではないか…と、思った。

カノンと出会えなかった自分など…今では想像もしたくないし、出来ない。

彼という存在は、フェイトにとってそこまで大きくなっているのだから……。

でも、命を弄ぶことだけは許せないので、やはり、いつかジェイル・スカリエッティをこの手で逮捕する事を心に誓った。

「…そういえばカノン…。あのBペガサスっていうのはまだ牢にいるの?」

Bペガサスは結局、この聖域の牢に幽閉されている。

管理局の収容施設では、Bペガサスを拘束し続けるのは、難しいと判断され、処遇に関してはカノン達に一任すると、管理局の方から懇願されたからである。

その牢は、罪を犯した聖闘士を幽閉する為に作られた牢で、聖域の区画それぞれに数個存在している。

当然、本来の聖域の一部であったこの地にも存在していた。

『青銅』や『暗黒』程度の聖闘士では脱出できない牢で、『白銀』クラスでギリギリ脱出出来るか出来ないか……と、言われる程の堅牢さである。

しかし、黄金聖闘士にとってはたいしたモノでもない。

『黄金』でも脱出不可能なら、かつてサガもカノンを神の許し無しでは脱出が不可能と云われる『スニオン岬の岩牢』ではなく、こちらに幽閉しただろうし……。

Bペカサスの処遇に関しては、とりあえず、アイオリアが彼奴の根性を叩き直している最中である。

カノンも、昔の自分の事を思えば、直ぐに断罪する気にはなれなかった。

自分の様に、改心することが出来るのなら、チャンスを与えてもいいだろう…と、主張したのだ。

もしも、Bペガサスにとっての首領である一輝が、気紛れにこっちに来たら、突き出すつもりである……。

一輝が来るまでに、Bペガサスが改心していなければ……の話だが…。

 

 ★☆★

 

少年自身は、裕福な家庭で育った普通の少年だった。

しかし、少年は普通の生まれではなかった。

少年の名の本来の持ち主は、既にこの世を去っていた。

少年は、クローンだった。

少年は、攫われた。

少年の両親は、必死に抵抗した。

両親は、真実を突きつけられると、抵抗を止め、諦めてしまった。

連れ去られる途中、少年は、隙をついて逃げだした。

森の中を、必死に逃げ回った。

追跡者は、必死に追いかけた。

やっと手に入れた研究材料を失うわけにはいかなかった。

「もう逃げられんぞ…。いい加減覚悟を決めろ!」

「さあ、連れ戻して、お仕置きだ!」

少年は、追い詰められた。

追跡者達の手が、少年に伸びたその時、一人の青年が姿を現した。

「……大の大人が多勢で一人の少年を追い詰めるとは……貴様らは何者だ」

青年は、少年に手を伸ばしていた黒服の男を殴り飛ばした。

「何だね君は?邪魔しないで貰いたい」

「どう見ても、貴様らがこの幼い少年に危害を加えようとしている風にしか見えん…」

「それは誤解です。この子が悪戯をして、皆に迷惑をかけたので探していたです」

青年は、男の主張が正しいか少年に問うた。

少年は首を横に振った。

「この少年は違うと言っておるが……?」

「まったく…。この子は相変わらずの嘘吐きですね。どうかその子をお引き渡し下さい…」

「嘘吐きはそちらであろう…。わしはこれでも人を見る目はあるつもりじゃ…。どう見てもお前達の方が悪人に見えるのじゃが…」

如何にも自分はマッドな科学者ですといった白衣を着た男と、ダークスーツにサングラスという黒ずくめの人相の悪そうな男達。

客観的に見れば、堅気の人間には見えなかった。

「我々は、特殊機関の人間です。その少年は重要な参考人なのです……どうか御理解の上、お引き取りを……」

男は焦りを覚えていた。

確かに、自分達の姿は一般人から見れば怪しいだろう。

しかし、何処かの組織の人間と思わせれば、大抵は引き下がるはずであった。

この青年からは、魔力反応がないので、魔導師では無いのは分かっていた。

魔力があっても、目覚めていないのは確実である。

管理局の人間にも見えない。

一般人が、厄介事に関わるとは思えなかった。

しかし、青年は引き下がろうとしなかった。

「……ならば『時空管理局』に問う事にしよう。わしは管理局の『三提督』と懇意の間柄じゃ…。彼らに聞けば分かるじゃろう」

青年の一言に、黒服達は一斉に襲い掛かってきた。

管理局の『三提督』。

時空管理局黎明期の功労者として伝説になっている。

レオーネ・フィルス法務顧問相談役。

ラルゴ・キール武装隊栄誉元帥。

ミゼット・クローベル本局統幕議長。

彼らの知己ともなれば、自分達が違法な研究を行っている事がバレるのは不味い。

そう考え、口封じに走ったのである。

しかし、相手が悪かった。

その青年の指が光ったと同時に、黒服達は吹き飛ばされたのである。

魔力が計測出来なかったので、魔法でないことは分かったが、それだけに青年が不気味な存在である事が分かり、白衣の男は逃げ出そうとするが、あっさりと青年に捕まった。

「さて……お前達が何者なのか…白状してもらおうか」

二、三発殴られ。男はあっさりと白状した。

自分達は、違法な研究をしている組織である事を……。

青年は、管理局の知己に連絡を取り、行動に移った。

違法な研究施設は10分と経たない内に壊滅した。

青年は、時空管理局のリンディ・ハラオウン提督に連絡を取り、事後処理を任せた。

「……わしの名前は童虎。お主の名は?」

青年――『天秤座』の童虎が少年の名前を問う。

「……エリオ…。エリオ・モンディアル…」

 

 

 

童虎が三提督と顔を合わせたのは、ムウの紹介でリンディに旅の便宜を図ってもらったときであった。

三提督は、聖闘士の実質的な指導者である童虎に会談を求めてきたのである。

童虎も、それに快く応じ……意気投合したのである。

正直、童虎もカノン達と同様、『時空管理局』という組織を完全に信頼を置いている訳ではない。

しかし、三提督と呼ばれる彼ら個人は信用しても良い感じた。

既に名誉職に過ぎないが、未だに影響力の強いこの3人の人となりに好感を持ったのである。

三提督の方も同様であった。

目の前の青年は、聞けば見た目は20歳くらいだが、実年齢は自分達はおろか『最高評議会』のメンバーよりも年上である。

話をしていく内に、三提督は童虎に心酔していった。

童虎の人となりを知るうちに、彼の偉大さを感じたのである。

彼らは、『管理局』が道を誤る可能性があることに気付いていた。

しかし、彼ら聖闘士の存在が、それらを救ってくれるかも知れないと感じたのであった。

会談が終わり、童虎と三提督の間に深い信頼が生まれたのであった。

 

 ★☆★

 

現場検証に来た局員は、エリオから事情を聞こうとしたが、童虎と彼の要請を受けて駆けつけたリンディ・ハラオウンの一喝で引き下がった。

「如何に能力があれば、子供であっても一人前と扱われる『管理局』でも、流石に三歳の子供に証言能力を認めてないでしょう!」

「その三歳の子供に高圧的に尋問するとは何事か!」

ダブルで説教されて、涙目になる局員であった。

 

 

 

「………」

エリオは、呆然と目の前の状況を見つめていた。

「……なんと言うことじゃ…」

童虎も、呆然としていた。

エリオはリンディの計らいで、取り調べされる事も無く、童虎に保護されながら家に戻ってきた。

しかし、そこで待っていたのは……両親の死であった。

もう直ぐ家に到着すると思った矢先、怪しい影を見つけた童虎がそれを捕らえた。

その正体は、エリオを攫った組織の人間であった。

彼は、自分達の組織が童虎によって壊滅した事を知らず、与えられた命令を実行した帰りであった。

童虎が彼を締め上げ、吐かせた内容にエリオは顔を蒼くした。

彼に与えられた命令は、『口封じ』であった。

一度は保身に走ったとはいえ、念には念を入れ、エリオの両親を暗殺したのであった。

童虎が駆けつけた時、エリオの両親が食堂で血を吐いて倒れていた。

どうやら、料理に毒を盛られたようだ。

父親の方は既に絶命しており、まだ意識のあった母親の方も時間の問題であった。

「…ママ」

「エ…エリオ…」

死に逝こうとする母親は、エリオの見て、涙を流した。

「…ご…ゴメ…ンネ…エリオ…。馬鹿な…パパとマ…マ……を……許……」

言い切ることも出来ず、母親も息を引き取った。

「マ…ママ――――――ッ」

幼子の絶叫が、屋敷全体に響き渡った。

 

 ★☆★

 

五つの培養液の詰まったカプセルの中に、それぞれ眠りについている遺体があった。

その場所から離れた部屋に、その遺体と同じ顔をした五人の青年が眠っていた。

「……準備は出来たか『海女王《セドナ》』?》

「御意!」

『海女王』は『海龍《シードラゴン》』に答えながら、眠っている五人の横にある宝玉が埋め込まれた機具に視線を向けていた。

「……ムネモシュネの神具……役立つ時が来たな」

そう、この宝玉こそ、2000年前に『地球《エデン》』から他の次元世界に跳ばされた『楯座』のイージスたちと共に、この世界にやって来た巫女が持ち逃げした『記憶』を司る女神ムネモシュネの力を宿した神具である。

紆余曲折を経て、この『神具』は『海龍』の手に渡ったのであった。

カノンの危惧は、見事に的を射ていたのである。

この神具に宿りし力は記憶の再生。

そして、神具が埋め込まれし機具は、記憶の転写装置である。

プレシア・テスタロッサがフェイトに『アリシア』の記憶を転写する為に用いた物を改造した物だ。

「どうやら…お目覚めになられたようです」

『海女王』の言った通り、眠っていた五人が目を覚まし、起き上がった。

「……気分はどうかな?」

「……何故…、我々は…生きているのだ?」

五人は不思議に思った。

自分達は、間違いなく……海の底にある神殿で戦い、敗れ、死んだはず……。

「確かに…お前達のオリジナルは死んだ……」

『海龍』は彼らに真実を教えた。

彼らは、『海賊』のフックがプレシア・テスタロッサのところから持ち出した『プロジェクトF』によって作られた事を。

そして、ムネモシュネの神具を用い、オリジナルの能力を完全に受け継いだ事を…。

オリジナルの記憶は受け継いだが、性格は完全に一致していない事を…。

あと、必要のない記憶は与えていない事を…。

「しかし、お前達の中には『海皇』の理想への想いは有る筈だ。お前達の『オリジナル』の故郷たる世界では実現出来なかったが……それを『此方の世界』で行う為にお前達は作られた…。此方の世界も『地球《エデン》』と似たようなモノだ」

確かに地球《エデン》の様な大地を汚染させてはいない。

管理局は『魔法』をクリーンな力と言っている。

しかし、その魔法によって生み出された『古代遺産』ロストロギアによって『次元断層』を引き起こし滅びてしまった『世界』も存在するのだ。

何処がクリーンな力だ!

世界そのものを滅亡させているではないか!

やはり、地球《エデン》の人間たちと同じ様に他の次元世界の人間も穢れきっている。

「そのような穢れきった人間を粛清し、選ばれた者達による『理想郷』を築くという『海皇』の崇高なる使命の為に私はお前達を蘇らせた」

『海龍』の言葉を五人は黙って聞いていた。

「確かにコピーに過ぎないお前達だが、オリジナルが果たせなかったこの偉業を果たした時…お前達はオリジナルを越える事が出来るだろう。その意思があるのなら、お前達の『鱗衣』を纏い、私と共に来い!」

そう言うと『海龍』はそれぞれの『鱗衣』を彼らの目の前に置いた。

破損していた『鱗衣』は、完全に修復されていた。

五人は、おもむろにそれを纏った。

「…『海馬《シーホース》』のバイアン!」

「…『スキュラ』のイオ!」

「…『クリュサオル』のクリシュナ!」

「…『リュムナデス』のカーサ!」

「…『クラーケン』のアイザック!」

「「「「「我ら五人。オリジナルが果たせなかった『海皇』ポセイドン様の理想をこの地で果たす為に、そして『オリジナル』を越える為に、『海龍』と共に戦うことを誓います!」」」」」

 

 

 

「どうやら、上手くいきましたね」

『海女王』がほくそ笑んだ。

「出来れば、『海魔女《セイレーン》』様のクローンも欲しかったのですが…」

「やむを得まい。『海魔女』は先の聖戦を生き残り、此方の世界に流されて来なかっただから…」

『海魔女』のソレント以外の『海闘士』は、海底神殿崩壊の時に発生した次元震によって、『地球《エデン》』から次元世界に跳ばされてしまった。

星矢達に倒された五人の『海将軍《ジェネラル》』の遺体も共に……。

「……それにしても…『海皇』の理想…ですか?」

「…『海闘士』の力の源は『海皇』への忠義……。如何に『神具』によってオリジナルの能力を継承しても、彼奴らの能力を完全に引き出すにはそれが必要だから…な。そして、『海皇』の名の下にこの『海龍』が全ての全権を持ち、『海闘士』たちを掌握する…。そして、次元世界を征服してくれるわ!この『海龍』が全ての次元世界を支配する『神』となるのだ!!ウワーッハッハッハッ―――――ッ」

何のことはない。

結局この男も、かつてのカノンと同じ穴のムジナであった。

 

〈第四十九話 了〉


 

今回のメインはエリオです。

真一郎「他作品とのクロスでは、実験動物にされていたエリオをフェイト以外の者が助けるというのは、よくあるけど…」

まったく同じじゃ悔しいからな。その前に助けられるというのはそんなにない筈…。

真一郎「そして、『プロジェクトF』によって作られた『海将軍』たち……」

これで、『海龍』側もカノン達に対抗する戦力が整っただろう?

真一郎「…ちょっと強引過ぎる気もするけど……」

では、これからも私の作品にお付き合い下さい」

真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」

 

 

真一郎「……逃げたな」




スカリエッティが改心したからどう変化するかと思ったけれど。
美姫 「まさか持ち出された技術で海将軍たちを生み出すとはね」
カノン達に対抗する力が生まれてしまった訳だな。
益々、魔導師たちは辛いな。
美姫 「他にはエリオが早々に登場したわね」
だな。童虎に引き取られる事になるんだろうか。
美姫 「その辺りも気になる所ね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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