『時空を越えた黄金の闘士』
第四十七話 「新たなる聖闘士の誕生」
自然保護隊と現地住民の救助をしていたアースラのクルー達に、『ダークホース』が襲撃を掛けてきた。
まず、次元空間内のアースラに強襲揚陸艦が突入してきたのだ。
アースラのシールドを破り、外壁に穴を空け、五人の黒い聖衣を纏った者達が乗り込んできた。
「俺は、Bユニコーン」
「私は、Bヒドラ」
「Bベアー」
「俺は、Bウルフ」
「俺は、Bライオネット」
Bペガサスの部下達……、『暗黒聖闘士』たちであった。
「そ…そんな…艦内に聖闘士が侵入してくるなんて……」
「ま…不味いわね…」
リンディとエイミィは動揺した。
リニスがカノンに教えてもらった話によると、『暗黒聖闘士』とは戦闘力に関しては、最下級の『青銅聖闘士』と大して変わらない。
つまり、魔導師でも何とか対応できるレベルである。
しかし、それは砲撃タイプの空戦魔導師か、ヴォルケンリッターの様な百戦錬磨か、フェイト並のスピードを誇る者に限定する。
アースラの武装隊は殆ど空戦魔導師で構成されているし、その中に砲撃型の魔導師も存在する。
しかし、この狭い艦内の廊下では例外である。
空を飛べない聖闘士に対して、攻撃範囲外からの砲撃が出来ない場所では音速の動きを持つ聖闘士相手には通用しない。
それに、最下級の青銅聖衣でも、その防御力は『防護服』以上である。
殺傷、非殺傷関わらず、攻撃がその身に届かなければ意味がないからである。
聖衣を砕く程の砲撃など、それこそAAAランク以上の攻撃魔法でもなければヒビ一つ入れることすら出来ないのだ。
ちなみに白銀聖衣ならば、SSランク以上、黄金聖衣に至ってはたとえSSSランクであろうともヒビ一つ入らない。
シグナム達ほどの百戦錬磨ならば、自らよりも速い相手でも、音速《マッハ》1くらいならば対応が可能である。
現に、シグナムは自分よりも速いフェイトと、接近戦で互角以上に戦えるし、ヴィータは先のなのは撃墜事件のおり、なのはを守ると言う想いにより、実力以上の力を発揮していたとはいえ、青銅聖闘士と同格の強さを持つ『海闘士』の雑兵たちの猛攻に対抗できていた。
しかし、アースラの武装隊の面々に彼女達レベルの者は流石にいない。
それほどの者がいたら、部隊の保有ランクの規定をオーバーしてしまう。
SSランクのリンディ、AAA+のクロノ、AAAのフェィト、3人の高ランク魔導師がこの部隊に所属している。
リンディは、なのはも欲しかったのだが、なのはを加えれば確実に規定オーバーになってしまい、仕方なく彼女を別の部署に渡したのだ。
最も、それもなのはの悲劇の原因の一つになってしまったが……。
リンディの部下だったら、なのははあそこまで酷使されずに済んだであろうから……。
「少なくとも、艦内で彼らと戦えるのは、私とリニスさんの二人…か」
フェイトは今、外で保護隊の救助に回っている。
そのフェイトの前にも、魔導師を引き連れた暗黒聖闘士が現れていた。
Bペガサスである。
フェイトの前に、Bペガサスと『ダークホース』の首領と構成員たちが姿を現した。
しかも、首領は持っているASF発生装置により、この辺り一帯にASFが展開されている。
フェイト達は、飛行魔法を封じられてしまった。
先程も説明したが、聖闘士相手に陸戦で戦うのは魔導師たちとってかなり不利である。
「…クロノをどうしたの!?」
「…先程の男か?奴ならば今頃息絶えているさ…俺の拳によって…。それでなくても既に崩れた山の下敷きになっているだろうさ…」
「…ゆ…許さない!」
クロノの死を聞かされ、心が揺さぶられそうになるが、フェイトはそれを堪えた。
湧き上がる怒りは抑えられないが、それでも先日カノンに言われたとおり、動揺しては駄目と……自らに言い聞かせていた。
「フェイト〜〜〜」
アルフが心配そうな顔で見つめてくるが、フェィトはアルフの頭を撫でた。
「大丈夫……。私は大丈夫だよ…」
先の執務官試験の様な醜態は晒さない。
「フッ…心配しなくても、お前も直ぐにあの男の下に送ってやる!」
フェイトとBペカサスの戦いが始まった。
★☆★
アースラに侵入した『暗黒聖闘士』たちは、訓練室に誘導され、入ったとたん、リンディとリニス、そして武装隊の四方八方を囲まれた。
「撃て!」
リンディの合図に、その場の全員が暗黒聖闘士に砲撃魔法を打ち放った。
全方位からの砲撃魔法。
いかに音速の動きでも避けられない筈……。
「フッ…中々やるが…俺達聖闘士を甘く見すぎだな…」
しかし、暗黒聖闘士たちは小宇宙で障壁を張り巡らせ、この集中放火を防ぎきっていた。
無論、無傷ではないが……。
暗黒聖闘士たちは散開し、武装隊の面々に襲い掛かった。
乱戦が始まり、次から次へと武装隊が倒れていく。
死んではいないが、かなりの重症を負っているようである。
その中でリンディとリニスは健闘している。
SSランクとはいえ、やはり近接戦闘においてはリンディに聖闘士の相手は苦しかった。
リニスは、流石にフェィトの師だけあって、近接戦闘もお手のモノであったが、それでも相手の方が優勢だった。
しかし、それでも何とか戦えている。
それは、敵の攻撃を魔法で防御できる点であった。
カノン達黄金聖闘士相手には魔法の障壁は容易く貫かれてしまうのだが、彼らの攻撃は防ぐ事が可能だった。
それは、彼らの拳が音速に『近い』だけで『音速』ではなかったことも上げられる。
『暗黒聖闘士』は、主に二つに分類される。
1つは、『暗黒四天王』の様に青銅聖闘士に匹敵する実力の持ち主たちである。
その中でもBドラゴンは当時の紫龍に「今まで闘った中でも最強」…と言わしめた程である。
もう一つは、一輝いわく「何年修行しても、青銅聖闘士にもなれなかった能無し」である。
聖衣を授かる為の試練に打ち勝てなかった者や、認めらなかった者たち…いわば「おちこぼれ」である。
この五人の暗黒聖闘士たちも、その類である。
しかし、それでも高ランクの魔導師と互角にやりあえる位の実力を有しているのだから、魔導師から見れば強敵であった。
その時、リンディたちにとって良いニュースが伝えられた。
【艦長!カノンさんが到着しました!!】
エイミィからの通信の直後、この訓練室にカノンがテレポーテーションしてきたのである。
リニスがカノンに連絡をしたとき、運よく彼は本局にいた。
聖域で作ったオリーブオイルを本局で営業しているレストランなどに納品していたのである。
リニスからの連絡を受けた後、カノンは直ぐにアースラに向かったのである。
本局から、この世界までは個人転送では届かない距離だったので、次元高速艇をレティに手配してもらい、個人転送が可能な所まで急いだのである。
アースラの転送ポートに転送したあと、すぐさまテレポーテーションで訓練室に跳んだのであった。
「き…貴様は!?」
「ま…まさか!?」
暗黒聖闘士たちは、カノンの纏っている黄金聖衣を見て動揺した。
それを見逃すカノンではないので、問答無用で光速拳を放った。
「「「「「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――っ!!」」」」」
一瞬の内にズタズタにされる五人であった。
「……最初はどうなるかと思いましたけど……随分とあっさり片がつきましたね…」
自分達があれほど苦戦した相手を苦もなく一蹴したカノンの実力を、既に何度目かは覚えていないが、改めて思い知ったリンディであった。
「…クロノが…死んだ!?」
カノンは、エイミィにクロノが崩れた山に生き埋めになった事を、泣きながら伝えられた。
そして、現在フェイトがBペガサスと交戦中だということも……。
暗くなる面々を見わたし、カノンは苦笑していた。
「……では、今、フェイトの下に向かっているクロノの小宇宙は何なんだ?」
「「「えっ!?」」」
★☆★
管理局の魔導師の中でもトップレベルのスピードを誇るフェイトは速さの面ではBペガサスとほぼ互角であった。
ときおり入るアルフの援護もあるので、何とか凌いでいたが、流石に限界が近づいていた。
「どうやらここまでのようだな…女!」
Bペガサスは、フェイトにとどめを刺そうとしたが、その時、ここに近づいてくる小宇宙を感じとった。
「な…何!?馬鹿な…この小宇宙は…?」
フェイトは、Bペガサスが驚愕しながら目を向けた方に視線を向けた。
そして、死んだと思っていた義兄がこちらに向かってくるのを見て、喜色を浮かべた。
「ク…クロノ!」
「…心配をかけたな…フェイト…」
『オリオン星座』の白銀聖衣を纏ったクロノが、Bペカサスと対峙した。
「い…生きていたのか?…そ…それに…シ…白銀聖衣だと!?」
「先程は僕は聖衣を纏っていなかったから不利だったが、これで対等以上だな…Bペガサス!」
「フン!いくら白銀聖衣を纏ったからといって……貴様自身の実力が白銀聖闘士とは限るまい…。もう一度、黒い死の恐怖を味わえ!『暗黒流星拳』!!」
Bペガサスは、『暗黒流星拳』で不意打ちを仕掛けた。
しかし、クロノは流星拳を易々と躱し、Bペガサスの背後をとった。
「な…何ィ…!」
「お前の技は、見せてもらった。聖闘士に同じ技は二度も通じん!!」
クロノはそのまま空中で前転しながら、Bペガサスに迫った。
「うっ!」
「くらえ!『メガトン・メテオ・クラッシュ』!!」
クロノの『メガトン・メテオ・クラッシュ』が、Bペガサスの脳天に炸裂し、ぶっ飛ばした。
「ガハァ!!」
Bペカサスは起き上がれず、そのまま戦闘不能に陥った。
「ぺ…ペガサス殿…」
頼みの綱のBペガサスが倒され、首領は動揺し、その場を逃げようとするが、クロノが音速の動きで回り込み、ASF発生装置を奪い、停止させた。
「今だ!武装隊は残りの奴らを逮捕しろ!!」
クロノの命令を発し、その場にいた武装隊員たちが、一斉に『ダークホース』のメンバーを逮捕した。
こうして、次元海賊『ダークホース』は壊滅した。
★☆★
アースラに戻ったクロノは、カノンと対面し、聖衣を身に纏った経緯を説明した。
「「………」」
カノンは、難しい顔をしながらクロノを見つめていた。
フェイトがカノンに話しかけた。
「……ど…どうしたカノン…?」
「……クロノ…。経緯はわかったが、お前はどうしたい。そのまま、その聖衣を受け継ぎ『聖闘士』となるか…それともその聖衣を返上するか…?」
「……確かに管理局員を務めながら、聖闘士になるのは難しいでしょう……。でも、僕は……リゲルさんが託してくれたこの聖衣を受け継ぎたいと思います…」
クロノの返答を聞き、カノンはますます眉を顰めた。
「局員を辞めろとは言わん。だが……」
「解っています…。無闇に聖闘士の力を振るってはならないのでしょう」
管理局の仕事は、管理世界の平和を守ること。
その為に、聖闘士の拳を振るうこと自体は問題はない。
しかし、それによってクロノが昇進などをしてしまうと、微妙に『私利私欲の為に拳を振るってはならない』という、掟に反してしまうのである。
以前、カノンは沙織から、正しい行い限定で、糧を得るために聖闘士の拳を振るう許可を貰っていたが、昇進ともなれば別である。
今回は、聖衣を纏ったとはいえ、まだ正式な聖闘士と認められていないので、大目に見れるが……次からはそうはいかない。
クロノが、聖衣を返上すれば問題はない。
聖闘士にさえならなければ、アテナの管理外である地球《エデン》の外の世界のことなので、問題はないのだが、聖衣を受け継ぐ=正式な聖闘士となる…であるため、掟は適用されるのである。
と、そこでリンディが助け舟を出した。
「一応、前から決まっていることなのですが……もう直ぐ私は『アースラ』の艦長職を降り、クロノが提督に昇進して、館長職を引き継ぐことになっています。流石に艦長ともなれば、前線に出る機会は減りますから……そこまで問題にはならないと思いますが……」
「……もう一つの条件がある。聖闘士になる以上……アテナに対し忠誠を誓ってもらわなくてはならん…。例え、会った事が無かろうともな…。お前は管理局という組織に忠誠を誓っているだろうが……アテナに忠誠を誓う以上…管理局よりもこちらへの忠誠を優先してもらうことになる…」
つまり、管理局の命令よりも、聖闘士の務めを優先しなければならないのだ。
ある意味、管理局に対しての『獅子身中の虫』になるのである。
「……僕は、管理局の正義と聖闘士の正義はそれ程、大差ないと思っています……この次元世界に害となる者たちを取り締まることと、この世界に蔓延る邪悪を討つ聖闘士の使命。その二つが相反するとき……、それは管理局が『邪悪』になるという事です……。ならば……ただ上からの命令に諾々と従うのが正しいとは思えません。管理局がその理念を完全に捨て去り、世界の支配を企むならば……それに組するするもりはありません。さっさと辞表を出して、その野望を阻止する為、聖闘士として戦うだけです…」
管理局が謳うお題目。
この次元世界の平和を護る…という理念が無くなるのなら、そんな組織に従う理由などない……。
ただ盲目的に管理局に従うのではなく、間違った道に進もうとするのを止める…その覚悟はある。
もちろん、その逆も……。
有り得ないとは思うが、カノン達黄金聖闘士たちが道を間違うようならば……勝ち目が無くとも、それを正す為に敵対する覚悟も出来ていた。
その事を伝えると、カノンは苦笑した。
「生意気を抜かすな!……だか、その気概は大事だ…。俺が再び、歩む道を間違うようなら……」
「はい。でも、大丈夫だと思いますけどね…。カノンさんは決して、もう道を間違えない……僕はそう信じています…」
「フッ……さて、順番が前後してしまったが……『アテナ』はクロノを新たな聖闘士と認めた。ここに聖闘士の証である聖衣を授ける……!!」
指導者である童虎が不在である為、黄金聖闘士であり、クロノの師であるカノンが、教皇の代理でクロノに聖闘士の資格を授けた。
『オリオン星座』の白銀聖闘士、クロノが誕生した。
〈第四十七話 了〉
真一郎「……あの暗黒聖闘士5人…何しに出てきたんだ?」
もちろん……雑魚として……
真一郎「…あっそ…。気を取り直してついにクロノが正式な聖闘士となりました」
この事には賛否両論があるでしょうが、変更しませんのであしからず……。
真一郎「今回のクロノの選択は、作者自身もこれが絶対に正しいとは思っていませんし、間違っているとも思っていません」
では、これからも私の作品にお付き合いください
真一郎「お願いします。君は小宇宙を感じた事があるか!?」
苦戦していたけれど、カノンの登場で一気に形勢逆転だな。
美姫 「まあ、黄金聖闘士相手だしね」
Bペガサスの方はクロノが間に合ったみたいだし。
美姫 「正式に聖衣を授かって、とりあえずは現状も変らずにいられるみたいだしね」
残った聖衣がどうなるのかとか、まだ気になる所もありますが。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
ではでは。