『時空を越えた黄金の闘士』

第四十六話 「オリオン星座の聖闘士」

 

「こいつはBスワン。こいつはBアンドロメダ、Bドラゴン。一体どうなっているんだ?」

「俺達は確かに青銅を追ったつもりが間違いだったというのか?」

「暗黒のこいつらにとどめを刺し、ここに葬っていたとは…」

「まるで狐に抓まれたようだぜ…」

『猟犬星座』のアステリオンと『白鯨星座』のモーゼスは、自分達が葬ったと思った紫龍、氷河、瞬が別人だった事を知り、戸惑っていた。

そして、気にかかる事があると言って残った『蜥蜴星座』のミスティと迎えに行った『ケンタロウロス星座』のバベルの亡骸があった。

それぞれに、倒したのが誰かを知らせる聖闘士カードが置かれていた。

『ペガサス』と『キグナス』のカードが……。

「ペガサス…星矢は魔鈴、お前がとどめを刺した筈!」

「これはどういうことのか説明してもらおうか!」

モーゼスとアステリオンが魔鈴に追求する。

魔鈴は右へ跳んでこの場から逃げようとするか、どちらかを倒して突破口を開こうとしたが、アステリオンに看破された。

「フッ、そうだったねアステリオン。お前は相手の心を読み取れる術…いわば『サトリの法』を心得ていたのだったわよね。だったら、もう何も言わなくても全てが解った筈…」

魔鈴は観念し、開き直った。

「ああ、解ったぜこの裏切り者め!貴様は空拳をもってしてとどめを刺した様に見せかけ星矢を助けたのだ!!のみならず富士の地底からムウが八つテレポーテーションさせた流星を四つと偽り、最初に跳んだ『暗黒』を俺達に追わせた!『青銅』だと言ってな!!しかもその後、俺達はムウの幻惑にかけられ奴らを砂に埋めるまでてっきり青銅聖闘士だと思い込まされていたのだ!」

 

富士山麓 青木ヶ原の十風穴での、黄金聖衣を掛けた星矢達『青銅聖闘士』と一輝率いる『暗黒聖闘士』との私闘を、聖闘士の掟を破る行いとして、教皇――に扮したサガ――の命を受け、白銀聖闘士たちが制裁の為、来日した。

『蜥蜴星座』のミスティの『マーブルトリパー』によって、富士の地底で生き埋めにされそうになった星矢達だか、ムウのテレポーテーションによって救われ、さらに魔鈴とムウの連携(本人達が相談してとったわけではないが…)によって、暗黒四天王は、上記の通り紫龍達の身代わりとなった。

しかし、星矢に関しては、魔鈴が空拳――見せかけの拳――で幻惑した為、Bペガサスのみ身代わりにならず一命を取り留めた。

 

 ★☆★

 

いつまで経ってもクロノが戻ってこないので、様子を見に行ったギャレットが戻ってきた。

「そ…それは、クロノの『S2U』と執務官の制服!?」

ギャレットは、待機状態であるカード型になった『S2U』と執務官の制服を手に持っていた。

クロノは常に『防護服』を展開しているのだが、一応、制服も着ているのだ。

「これが地面に置き捨てられているだけで、クロノ執務官の姿は何処にも見当たらなかった……ただ、執務官のモノらしき足跡が崖の方に向かって残っていたよ……」

「ま……まさか…崖から転落したの!?飛行魔法が使えないあそこで……」

フェイトの血の気が引いた。

ASFの影響下で、飛行魔法が使えない状態で、あの深い崖から転落した……。

あの高さから落ちたら、まず助からない……。

「待ちなさいフェイト!」

フェイトはクロノを探しに一人で突入しようとしたが、それをリンディが止めた。

「義母さん!?何で止めるの?」

「今、貴女が言ってもクロノを見つける事は出来ないわ……。飛行魔法が使えない以上……下手をすれば貴女もクロノの二の舞になる……まずは、あの一体のASFを解除しなければ……」

気丈に振舞っているが、リンディの腕が小刻みに震えていた。

母親として、直ぐにでもクロノを探しに行きたい衝動に囚われているが、提督として、この部隊の指揮官としての部分がそれを押しと止めていた。

フェイトも、そんな義母の葛藤に気付き、何もいえなくなった。

「とにかく、相手に聖闘士がいる以上、私達だけでは危険です。何人いるかも判らないし……。エイミィ、リニスさん…悪いけど直ぐにカノンさんに連絡をとって、応援に来てもらえるよう依頼してください」

「了解!」

「解りました……カノンに連絡をとります…」

 

 ★☆★

 

崖から転落したクロノだったが、一命を取り留めていた。

運よく、崖から突き出ていた木の枝に引っかかり、落下のスピードが殺され、地に叩きつけられる衝撃が緩和したのだ。

さらに、その地が草花が生い茂っており、クッションの変わりになったのも幸運だった。

しかし、『暗黒流星拳』…別名『黒死拳』の影響は消えてはいない。

結局、死が先送りになっただけに過ぎなかった。

「ハア…ハア…ハア……こ…これまで…か…」

クロノは死を覚悟した。

しかし、天はクロノを見捨ててはいなかったようであった。

「……足音…!?だ…誰かが…近づいて…来る…」

「…そこの方…。怪我をしておるのか?」

一人の老人が、姿を現した。

老人はクロノの状態を見て、すぐさま駆け寄ってきた。

「これは……血が濁っておるのか…ムッ!?」

老人は、クロノをまじまじと見た。

「……な……何…か!?」

体が熱く、意識が朦朧としているクロノだったが、老人がまじまじと自分を見ているの事をいぶかしんだ。

「……わしの名はリゲル。荒療治になるが、許してくれい…」

リゲルはそう言うと、老人とは思えぬいきおいで、クロノの体に指を突き入れた。

「グッ!な…何を…」

「君の『星命点』を突き、濁った血液を抜き取る以外に、君が助かる手段はない…。君の『星命点』の数は七つ…。後は君の『小宇宙』次第じゃ…」

「…貴方は…!?」

クロノは、リゲルが『小宇宙』と口にした事に驚いた。

「君から『小宇宙』を感じる……。ならば、我ら『聖闘士』の存在を知っているのじゃろう…」

そう、このリゲルという名の老人もまた…『聖闘士』であった。

 

 

 

「……そうか…なにやら上が騒々しいと思っておったのじゃが……まさかあの聖闘士の面汚し共が……ゴホッゴホッ!」

「はい…」

処置が早かったお陰で、体が完全に黒く染まる前に、クロノは『黒死拳』の影響から回復した。

リゲルが地球《エデン》からこちらの次元世界に飛ばされたのは、今から約50年前という話である。

リゲルともう一人の聖闘士は、突如発生した次元震が原因で跳ばされてきたらしいのだ。

リゲルは次元震というモノを知らなかったが、その時の状況を聞いたクロノは、次元震だと確信したのだ。

それから、この世界に来たのだが、帰るアテもなかったので、やむを得ずこの世界で生活していたらしい。

そして、今から20年前、もう一人の聖闘士を事故で亡くし、彼の墓を守りながら、今まで生きてきたが、5年くらい前から不治の病に冒されてしまった。

この世界に駐留している『時空管理局、辺境自然保護隊』のドクターに診断を受けたが、結果は管理局の医術を持ってしても、延命が精一杯で完治は不可能な死病であると診断された。

ドクターは、ミッドチルダの病院に入院することを勧めてくれた。

しかし、友の墓を守る事を誓っていたリゲルは、それを断り、このままこの地に骨を埋める覚悟をしていた。

それ以来、この休火山で一人、墓を守りながら生活していたのである。

「一年くらい前から、なにやら上で騒がしいと思っていたのじゃが……死を待つ身…ゴホッ…としてはどうでも良かったから放置しておいたのじゃが、『暗黒聖闘士』のクズ共じゃったのなら、ゴホッゴホッ……それは失敗じゃったのう…」

正義の為の聖闘士の拳を、己の欲望の為のみに使う『暗黒聖闘士』は、まさしく聖闘士の面汚しである。

いかに此処がアテナの目の届かぬ世界とはいえ、いくら病んでいたとはいえ、奴らを放置していた事に忸怩の思いを抱いていた。

 

 ★☆★

 

「戻られたかペガサス殿」

アジトに戻ったBペカサスを出迎えたこの男こそ、次元海賊『ダークホース』の首領である。

「どうやら、管理局にこのアジトをかぎつけられたようだな」

「ならば、このアジトはさっさと放棄しましょう」

ここは所詮、幾多あるアジトの一つに過ぎず、放棄るのに何の躊躇いもなかった。

「ここは、自然保護指定がされていますからな……この山その物を爆破すれば、次元航行艦の奴らも混乱するでしょう。保護隊のベースキャンプも近くにありますから……。その混乱に乗じて…」

「逃げるのか?」

「いや、討って出ましょう。我らにはAランクの魔導師も何人かおりますし、何よりペガサス殿が率いる『暗黒聖闘士』がおられます。あなた方6人は高ランクの魔導師が相手でも後れはとらないでしょう……。それに先程、やっかいなAAA+ランクの執務官を片付けられましたからな……。ただ逃げるよりは、奴らを叩いた方が得策でしょう」

「解った。部下達を集めて来よう」

Bペガサスが退室した後、首領はこの山を爆破を部下に命じた。

 

 

 

「艦長!休火山が爆発しました!!」

エイミィが慌ててメインモニターに休火山が爆発を起こし、崩れていく有様がはっきりと映し出されていた。

「そんな…あの山にはまだクロノがいるのに…」

「いけない。直ぐにここに駐留している保護隊の救助を!」

「了解!」

「義母さん!クロノが……」

「あれじゃあ…もう……」

「そ……そんな…クロノ君…」

「……クロノ…」

リンディとフェイトとエイミィの表情は、絶望で染まった。

 

 ★☆★

 

突如崩れてきた山に押しつぶれてた思ったクロノだったが……自らの無事を確認した。

「……僕は無事なのか…何故…!?…リゲルさんは…!!」

そしてクロノは見た。

上から降り注ぐ岩盤を支えているリゲルの姿を……。

「…無事かね…クロノ…」

「…はい!でもリゲルさんが……」

病に冒され、老いたとは思えぬ力で岩盤を支えるリゲルに畏敬の念を抱いた。

「クロノ…このままでは時間の問題じゃ……この老いた体では後僅かしか持ち堪えられぬ……。わしがこの岩盤を支えている内に、君だけでも脱出しなさい…」

リゲルは、そう言うと顎で何かを指すようなしぐさをした。

「あそこの壁を破れば外に出られるじゃろう……」

「でも、僕の魔法ではあの分厚い岩壁を砕くことなんか……」

あの壁を砕くには、なのはの『ディバインバスター』級の破壊力が必要だろう。

「何を言っている。君は聖闘士の修行を受けているんじゃろう…。ならばその技を用いて砕けばよいではないか!?」

「しかし…今の弱りきった僕では…」

先程、『黒死拳』の治療の為、それなりに出血しているクロノである。

ベストの状態ではない今、あの岩壁を砕く事など出来るのか…。

「…クロノ…『小宇宙』を高めた聖闘士の拳に砕けないモノはない……そして、命ある限り『小宇宙』は無限なのじゃ……君に聖闘士の闘技を教えてた者からも聞いているはずじゃ…」

リゲルの指摘に、かつてカノンから指導された事を思い出した。

「…『小宇宙』の奇跡を信じるのじゃ…」

「……はい…。わかりました…」

クロノは立ち上がり、岩壁に向かって蹴りを放つ態勢を取った。

「……燃えろ…僕の『小宇宙』よ……限界まで高まれ!」

今のクロノの限界値まで高まった『小宇宙』を用い、クロノは渾身の蹴りを放った。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

生じた衝撃波で、岩盤は粉々に吹き飛んだ。

「み…見事じゃ!」

リゲルは満足し、感嘆の声を上げた。

「や…やった……あ…あれは!?」

クロノは今、自分が砕いた壁の奥を見て驚愕した。

「そうじゃ……あれがわし…そして、君の守護星座である『オリオン星座』の白銀聖衣じゃ…」

リゲルが、クロノの『星命点』を直ぐ理解したのは、自分とクロノが同じ守護星座を持つことを感じ取ったからであった。

『聖衣櫃』が開き、中から『オリオン星座』の聖衣が現れ、分解する。

「エッ!?」

聖衣が、そのままクロノの体に装着されていった。

「……クロノ…。この聖衣と更に置くに置いてある我が友の聖衣を君に託す…。わしももう限界が近づいておる…早く脱出しなさい…」

「でも…」

「わしはもう永くない……この降って来た岩盤を支えた時、内臓破裂を起こしたようじゃ…」

よくみると、吐血した後がある。

「ここでわしの事など…にかまっておると、君まで此処で…生き埋めになってしまう……。行け!そして、己の役…目を果た…すのじゃ!!」

既にリゲルは限界に達し始めている。

このまま、この場に留まっても、リゲルの苦しみを長引かせるだけである。

クロノは、リゲルに対し一礼し、もう一つの『聖衣櫃』を担ぎ、出口に向かって駆け出した。

「…フッ…行ったか……ゴホッゴホッ!……永い事待たせたのうアクルックス…。わしも今からそっちに逝くよ…。わしとお前の聖衣はクロノが…次代の聖闘士が役立ててくれるじゃろう…」

リゲルは、亡き親友に語りかけると、とうとう力尽き、その場に倒れこんだ。

支えていた岩盤が次々と降り注ぎ、リゲルを押しつぶしていった。

 

 

 

無事、脱出に成功したクロノは、リゲルの『小宇宙』が大きく弾け、その後、完全に消えた事を感じ取った。

「……リ…リゲルさん…。う…ううっ……うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

クロノはその場で号泣した。

 

〈第四十六話 了〉


 

真一郎「ついにクロノが聖衣を纏いました」

今、クロノの心には哀しみが渦巻いています

真一郎「しかし、以前使った技で、クロノがオリオン星座であることは何人かが予想はしていただろうな」

元々、クロノは『楯座』にしようと考えていたんだけどね

真一郎「だから、十二話で『楯座』を登場させたんだけど…オリオンに変更したんだよな」

うん

真一郎「楯座は別のキャラの方がいいと、こいつは思ったそうです」

では、これからも私の作品にお付き合いください

真一郎「お願いします。君は小宇宙を感じたことがあるか!?」




哀しい別れを経験しつつも、聖衣を手にいれたか。
美姫 「オリオンとは別にもう一つも手に入れたみたいだけれどね」
問題は聖衣を纏ったら聖闘士になるんじゃないかという事だな。
美姫 「そうなると管理局に所属ってのがどうなるかだしね」
まあ、この辺りはカノンたちと相談かな?
美姫 「管理局内でも聖衣の分析させろとか言い出さないと良いけれどね」
本当にどうなるのか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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