『時空を越えた黄金の闘士』

第四十五話 「黒い死」

 

「そうか。なのはのリハビリは順調なのか」

「うん。なのはちゃん、一生懸命頑張っとるよ…」

休暇が取れたはやては、アイオリアが居る聖域に足を伸ばしていた。

「結局、なのはは管理局を辞めなかったのか…」

「でも……、今度は士郎さん達としっかり話し合った結果やからな…」

「お前はどうするんだ?今回の事で、戦いというものがどういうものかお前も実感出来ただろう…。シグナム達の支えになりたいというお前の気持ちは立派だが……」

アイオリアとしては、はやてには管理局……いや、戦いというモノに関わって欲しくない。

特に最近、はやてがだんだん腹黒くなってきた様な気がするし……。

「……リア兄が心配してくれるのは嬉しいし、確かに怖いけど……でも、だからこそ辞めるわけにはいかん。皆が帰ってくるのをただ待つだけの方が苦しいからな…」

皆が危険な仕事に就いている中、ただ一人で待っているのは、はやてにとってはとても辛い事であった。

「……ところで、最近、この世界も人が増えてきたなぁ」

重い話になりそうだったので、はやては話題を逸らした。

「ああ。管理局を退職した者たちが、レティの紹介で第二の人生としてこの地で農業をやってくれているからな……」

定年になり、管理局を辞した者や、任務中に事故に遭い、復帰が出来なくなった者などに、レティがこの世界で農業をやる事を勧め、それを受け入れた者たちが、この世界に集まっていた。

それとは別に、リンディの昔の知己である有名な料理評論家が、聖域で作られたオリーブオイルを絶賛してくれたお陰で、注目が高まっているのだ。

その評論家が、諸事情で土地を失った農家の人間などをこちらに回してくれた。

働き手が増えたので、畑だけではなく放牧も可能になり、大農園や大牧場といった規模にまでなっていた。

「アイオリアさん。とりあえず課題は終了しました」

そこに、一人の青年が姿を見せた。

「ああ、ロッサ…邪魔しとるで」

「やぁ、はやて……来ていたのか…」

この青年は、ヴェロッサ・アコース。

時空管理局査察部の査察官である。

『闇の書事件』の後、謝罪する為はやての家を訪ねたグレアムに付き添い、はやてと面識が出来ていたが、その後、聖王教会騎士団の任務に派遣されたはやては、ロッサの義姉である聖王教会の騎士であり、管理局の理事官を兼任するカリム・グラシアと出会い、その縁で親しくなっていた。

ロッサは、親友であるクロノが聖闘士の修行をしている事に興味を持ち、はやてを通じてアイオリアに弟子入りしたのである。

執務官であるクロノに比べれば、融通が利く立場であるロッサは、査察官としてよっぽどの事がない限りは、部下に仕事を任せていた。

管理局上層部としても、聖闘士との友好関係を構築する為、ロッサの弟子入りは都合が良かったので便宜を図っていた。

「そういえば、今朝方慌ただしくアースラが本局から出て行ったけど、なんかあったん?」

「ああ。『次元海賊』の件だろうな」

 

 ★☆★

 

「何をやっているんだフェイト、それに……リニス!?」

アースラの厨房で、リニスと一緒に料理をしているフェイトを見て、クロノがいぶかしんだ。

「見ての通り、料理の指導です。フェイトは材料を切るのと、火を使うのは得意なのですが……味付け等が苦手でしてね……。そろそろフェイトには花嫁修業が必要だと思いまして……」

義妹の花嫁修業……、最近シスコンになりつつあるクロノは、一瞬、不愉快そうな顔になったが、フェイトが誰を想っているか思い出したので、「まあ、仕方がないか」というような表情になった。

師匠であるカノンに対して、いちゃもんを付けるのは憚るからである。

最も、カノンは未だにフェイトに対して『保護者』としての感情しか持っていないのであるが……。

「まあ、何れは必要なことだろうけど……でも、カノンさんは確か料理の腕前もプロ顔負けだった筈だけど……」

以前、カノンの料理を食べて、料理に自信のあったエイミィが悔しそうにしていた事を思い出した。

「確かにハードルが高いですけど、カノンの料理はどちらかと言えば、店で出す料理です。『家庭』料理とは違いますからね…」

「それはいいとして……ところで、どうしてリニスがこの艦に乗り込んでいるんだ……」

リニスは、フェイトの育ての親とも呼べる立場だが、彼女はフェイトの使い魔ではない。

一応、部外者なのである。

リニスの主であるカノンが居ないのに、何故乗り込んで入るのか。

「リンディの許可は取っていますよ……。娘の花嫁修業の講師として……」

母の職権乱用ぶりに、気苦労が増えるクロノだった。

「……まあ、気を取り直して……フェイト、一時間後にブリーフィングが始まるから、遅れないようにな」

「……うん」

「そこ!塩の入れすぎです。味を生かすも殺すも塩加減次第!!」

「……本当に忘れるなよ……」

 

 

 

「さて、それじゃあ今回の任務について、説明する」

ブリーフィングルームで、会議が始まった。

ちなみにリンディとフェイトの頭にはタンコブがそれぞれ一つ。

案の定、遅刻をして、フェイトはクロノから拳骨をもらったようである。

リンディは、職権乱用で任務に必要のない部外者の乗艦を認めた事で、クロノから説教をもらい、拳骨を貰っていた。

「最近、クロノ君が暴力的になってきたねぇ…」

「エイミィ…君も一発、落とされたいか」

クロノが拳骨を握ると、エイミィは慌てて首を振った。

「……さて、今回の任務は最近、勢力を伸ばしてきた『次元海賊、ダークホース』に関してだ」

『次元海賊、ダークホース』は、『闇の書事件』が終結して、二ヶ月くらいから活動している振興犯罪組織である。

航行中の次元航行船を遅う海賊行為が、主な活動である。

今回、遺失管理部所属のアースラが、この組織の追討命令を受けたのは、つい先日発見されたロストロギアを管理局に輸送していた船が、『ダークホース』に襲われ、ロストロギアを強奪されたからである。

「奪われたロストロギアは、調査の結果、危険などなく、一個人が所有を許される類の物であるので、後日、オークションなどで出品される予定だったらしい……、そして、輸送船の乗組員達だが……」

輸送船の乗組員は、護衛していた武装局員を含め、全員、殺害されていた。

「そこで、これを見てもらいたい」

エイミィが端末を操作し、局員の遺体の画像が映し出した。

「見ての通り、全身が真っ黒に染まっている……この様な死因は、過去に類を見ない……。他の乗組員は、斬殺、撲殺、もしくは殺傷設定の魔法によって殺されているが、武装局員は、このような変死だ……」

司法解剖の結果、彼らの血液がどす黒く変色しており、それが死因であると判明した。

「これが、魔法によるものなのか、毒物によるものなのか不明だが、十分注意してくれ。『ダークホース』のアジトは、強奪された荷物の中に忍ばせてある発信機でおおよその場所は見当がついている。我々の今回の任務は、この『次元海賊、ダークホース』を壊滅させ、全員逮捕する事だ。何か質問は……」

部下達からの質問に答えた後、ブリーフィングが終了した。

 

 ★☆★

 

『ダークホース』のアジトは、自然保護指定世界の一つで、その世界で最も巨大な休火山(富士山の三倍)である。

自然保護の指定を受けているので、その火山事ごとアジトを潰すわけには行かないので、慎重に潜入することになった。

先遣として、クロノとフェイトがコンビを組み、潜入したとき、それに気付いた。

「ASF……!?かなり珍しいモノを使っているな……」

ASF――アンチ・スカイ・フィールドは、AMF《アンチ・マギリンク・フィールド》の亜種で、飛行魔法を無効化するフィールドである。

「更に通信妨害も……アースラや他の突入部隊との通信も念話も封じられている……」

「ああ。敵も馬鹿ではない……か…」

警戒しながら進んでいく二人だが、ふとクロノが足を止めた。

「どうしたの?」

「……バ…馬鹿な……この先から『小宇宙』を持った者が近づいてくる…」

「エッ!?」

『小宇宙』を持っている……つまり、相手は『聖闘士』と同等の力を持っていることになる……。

「まさか、先日なのは達を襲った『海闘士』とかいう……」

「だとしたら、不味い……僕達だけでは対処出来ないかもしれない…」

戦闘態勢のまま、警戒を続けていると、その『小宇宙』を持った男が姿を見せた。

「ま…『海闘士』!?」

「いや、違う……あれは『聖衣』!?」

「ほう、管理局の魔導師が聖闘士の事を知っているのか!?」

その男は、黒色の聖衣を身につけていた。

「……青銅聖衣じゃない……。白銀でも、ましてや黄金聖衣でもない……黒色の聖衣……ま…まさか…『暗黒聖闘士』!?」

「その通り。俺は暗黒聖闘士最強の『暗黒四天王』の一人、『ブラックペガサス』だ」

 

 

 

暗黒聖闘士…

彼らは正しかるべき聖闘士の拳を自らの欲望の為のみに使い

修羅界の中で未来永劫殺戮を繰り広げると言われる

 

その存在はアテナからも見放された

 

そう、彼らは欲望の為だけに悪魔に魂を売った暗黒の聖闘士

それが、『暗黒聖闘士』!!

 

 

 

「フェイト!お前は退却しろ、そして待機している皆を全員を下がらせるんだ!」

「エッ…なんで!?」

「いかに暗黒聖闘士が、聖闘士の落ちこぼれの集まりとはいえ、その戦闘能力は脅威だ!暗黒聖闘士が奴一人とは限らない。もし、他にも居るのなら……全滅しかねない。アースラに戻ってカノンさん達の誰かに協力を要請しろ!いけ!!」

「でも、クロノは…」

「2人で逃げるのは危険だ……僕は何とか奴を退ける…だから、行くんだ!これは命令だ!!」

そういうと、クロノはBベガサスと対峙し、小宇宙を燃焼する。

「まさか…管理局に『小宇宙』を使える者がいるとは…な…」

フェイトは渋々、命令に従い撤退していった。

「……『小宇宙』を使えるということは、分かっているんだろう?『聖衣』を纏った聖闘士相手に、生身で対抗するのは無謀であることを…」

「確かに……でも、だからと言って退くわけには行かない!」

「よかろう……ならば死ね」

Bペガサスが跳び上がり、クロノに向けて拳を放った。

「喰らえ、『暗黒流星拳』!!」

秒間百発近い拳がクロノに襲い掛かる。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

『暗黒流星拳』の威力によりクロノは吹っ飛び、岩壁に叩きつけられた。

「フッ…いかに『小宇宙』を使えようが所詮は『魔導師』…俺の敵ではないようだな」

そう言うと、Bペガサスはフェイトの後を追おうとしたが、その前に先程、倒した後のクロノが立ちはだかった。

「な…なんだと…。まさか『暗黒流星拳』を全て躱したというのか!?」

「いや、二・三発は喰らったよ…。急所は外したけどな……まともに喰らえば、僕の命はなかっただろうけど……伊達に黄金聖闘士に指導を受けているわけじゃない……この程度で、この僕、時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンを倒せると思うな…!」

クロノは反撃する為に、小宇宙を高めた。

その時、この空間にアラートが鳴り響いた。

「ちっ、撤退の指示か…」

Bペカサスがその場を離れようとする。

「待て!逃げるのか!?」

「フン!既に必勝の拳は放っている。もう、会うこともあるまい。クロノとやら…さらばだ!!」

そう言うと、Bペガサスはその場から姿を消した。

 

 ★☆★

 

その場を離れ、アースラに戻ろう撤退を始めたクロノだったが、体に異常が感じていた。

「お…おかしい…。か…体がだるい…。い…一体どうしたんだ……」

『暗黒流星拳』を受けたところが、うずきだしたのだ。

クロノは防護服を解除し、執務官の制服姿になる。

制服を脱ぎ捨て、上半身裸になるとその体に異常を確認した。

「…『暗黒流星拳』を受けた箇所に、黒い斑点が出来ている………あ…熱い!黒い斑点が燃えるようだ〜〜〜〜っ。し……しかも徐々に斑点が拡がって……このままじゃ全身が黒く覆いつくされてしまう…」

その時クロノは変死体として発見された、輸送船の護衛の事を思い浮かべた。

「そ……そうか……。彼らの死因はこれだったのか……。ふ…不覚…。お…おそるべき男だ……Bペガサス…」

よろけたクロノは、そのまま、崖から足を踏み外し、そのまま転げ落ちていった。

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

〈第四十五話 了〉


 

真一郎「まさかのBペガサス登場。こいつ死んだんじゃあ?」

アニメでは、間違いなく死んでいるけど、原作では生死不明だからね

真一郎「そうだっけ?」

詳しくは次回の冒頭で説明するけど、こいつだけは他の3人と違って身代わりにならなかったし……

真一郎「ロッサがアイオリアの弟子になったな」

アイオリアには弟子は作らない予定だったけど、変更して彼を弟子にした

では、これからも私の作品にお付き合いください

真一郎「お願いします。君は小宇宙を感じた事があるか!?」




アイオリアにも弟子が出来ていたな。
美姫 「しかも、ロッサみたいね」
これまた成長が楽しみな所だな。
美姫 「そうよね。そして、新たな聖闘士の登場ね」
うん、これまた予想してなかった人物が出てきたな。しかも聖衣ありで。
美姫 「とりあえずは撤退してくれたみたいだけれど」
クロノの安否が気になるな。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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