『時空を越えた黄金の闘士』

第四十一話 「最も神に近い男」

 

ゼストとチンクがシルフィードに襲われている頃……。

スカリエッティの方にも冥闘士が現れていた。

その場には、ウーノと駆けつけたトーレ、クアットロと共に地に倒れ伏していた。

そして、スカリエッティは……。

「体の自由が効かない……これは『バインド』なのか?」

ウーノたちも同じ様な技で、両手両足の骨を折られ、身動きがとれなくなっていたのだ。

デバイスを用い『バインドブレイク』を使用するがまったくの効果がなかった。

「……『バインド』じゃない…」

流石のスカリエッティにも焦りの表情が見え始めた。

自慢の『戦闘機人』たちもなす術も無く倒れている。

そして、自分の命も風前の灯のようなモノである。

「フッ……私の『コズミック・マリオネーション』は貴様らでは解く事は不可能……。この天貴星『グリフォン』のミーノスの前では広域次元犯罪者と悪名の高い貴方でも雑魚に過ぎません…」

冥界三巨頭の一人、天貴星『グリフォン』のミーノス。

彼もシルフィード同様、超次元で消滅する寸前、時の神『クロノス』の力により、次元世界に跳ばされた者の一人である。

『コズミック・マリオネーション』でスカリエッティの体をまるで操り人形の様に操り、スカリエッテイのデバイスを奪い取った。

「さて、しばらく大人しくしておいてもらいましょう……。貴方の研究は我々の偉大なる計画に使用させてもらいます。光栄に思ってください」

ミーノスと同行している青のローブの男が端末から今までの『戦闘機人』のデータを吸いだしていた。

「フム……このレリックというモノも、役立ちそうだな……これも貰っておこう…」

必要なデータを全て奪い、青ローブの男は意識を失って倒れているクアットロを担ぎあげた。

「……『戦闘機人』のサンプルとしてこの女も貰っておこう…」

「ま…待て!い…妹をは…放せ!!」

ミーノスの『コズミック・マリオネーション』によって戦闘不能に追い込まれたトーレが這いながら青ローブの男の足首を骨折した腕で無理矢理掴んだ。

そんなトーレに、青ローブの男はその鼻面を足の爪先で蹴り上げた。

「……ミーノス殿…後の始末は貴方にお任せします…」

「心得た…ムッ!」

その時、ミーノスと青ローブの男は顔を見合わせた。

「今、シルフィードの小宇宙を大きく弾けて……完全に消えました」

「……シルフィード殿は敗れたようですね……」

自分達の他にこの施設内に強大な小宇宙が現れ、シルフィードの小宇宙が消えた……。

「どうやら邪魔者が現れたようですね……」

「これほどの小宇宙……『黄金聖闘士』ですか…。ミーノス殿…『冥界三巨頭』の貴方なら…黄金聖闘士相手でも後れはとりますまい…」

青ローブの男はそう言うと、クアットロを担ぎながら『テレポーテーション』でこの場を去っていった。

「ま…待て!クアットロを返せ!!」

トーレが叫ぶが、既に青ロープの男はこの場所を離れてしまった。

「……サンプルは一人で十分……貴女達はこの場でまとめて始末してあげましょう……『コズミック・マリオネーション』!!」

再び、ウーノとトーレは『コズミック・マリオネーション』に捉われてしまう。

「は…放せ!」

「クッ……」

身動きが取れないスカリエッティたちを、ミーノスは侮蔑の視線を送りながら嘲っていた。

「フッ…今の今まで『生命』を弄んでいた報いを受けるときが来たようですね……」

スカリエッティは今まで、ある者たちの命令で『生命』というモノを弄び、まさしく『神』に対する冒涜を行ってきた。

無理矢理させられていたわけではなく、彼自身も嬉々としてそれを行ってきた。

冥界の裁判官であったミーノスから見れば、彼は間違いなく有罪である。

「このまま首の骨を折るのは容易いが……ゆっくりと苦しめてから殺す事にしましょう……指の骨を一本一本折っていき、全ての骨を折ってから、最後に首の骨を折ることにしましょう……」

ミーノスの残酷な宣告を聞き、流石のスカリエッティも顔が青くなった。

彼は今まで、生命を弄んできたが、自らがその対象になったことはなかった。

今、始めて弄ばれる立場に立ち、己の今までの行いを思い返すことが出来るようになった。

ミーノスの指が動き、スカリエッティの小指の間接が逆方向に曲がっていく…。

その時、ミーノスとスカリエッティを繋ぐ糸が切断された。

「何!?」

宙に浮いていたスカリエッティたちは、そのまま床に倒れこんだ。

「……た…助かったでしょうか…」

息も絶え絶えのウーノが呟く。

「誰ですか!私の楽しみを邪魔するものは……」

ミーノスの怒りに満ちた声が、辺りに響く。

 

≪フッ……生命を弄んでいるのは、君も同じであろう……。人の事が言えるのかな?≫

 

「な…何者だ!?」

ミーノスは、戦慄しながら警戒した。

先程、シルフィードを倒した『小宇宙』とは別の、余りにも強大な『小宇宙』を感じているのだ。

その『小宇宙』の持ち主が姿を現した。

「お……お前は…!?」

「…『乙女座《バルゴ》』のシャカ……三巨頭・ミーノス!私の顔が引導代わりだ…迷わず成仏したまえ!!」

 

 ★☆★

 

「…『乙女座』のシャカ…!?」

ミロに背負われているチンクは、ミロからその男の名を聞いた。。

「そうだ。俺たち黄金聖闘士の中で、『最も神に近い男』と言われている男よ…」

「な…なんと…!?」

意識の無いメガーヌを背負うゼストも驚嘆した。

ゼストは、以前聞いた『黄金聖闘士』の噂を思い出した。

本局のリンディ・ハラオウン率いる『アースラ』が接触した『次元漂流者』。

昨年、同管理外世界で起こった2大事件、『PT事件』、『闇の書事件』解決の立役者。

その実力は、たった一人でもオーバーSランクの魔導師はおろか管理局が総力を上げても歯が立たないと言われている。

眉唾物と思っていたが、先程のミロを見て誇張であっても、虚報ではないことを痛感させられた。

そんな者たちの中で『神に近い』と言われている男とは……どのような存在なのか…。

ゼストには想像すら出来なかった。

 

 ★☆★

 

「バ……馬鹿な…」

ミーノスは、この世の悪夢を見ているようであった。

冥闘士の頂点に位置する『冥界三巨頭』である自分が、『神にもっとも近い』と言われる男とはいえ、聖衣を纏っていない聖闘士に手も足も出ない状況に陥るとは思いもよらなかった。

『乙女座』の聖衣は、『獅子座』の聖衣同様、エリシオンで『死』を司る神、タナトスによって粉々に粉砕されている。

故に、シャカは聖衣を纏っていないのである。

にも拘らず、『コズミック・マリオネーション』はおろか、いくら拳や蹴りを放っても通用しなかった。

そう、シルフィードがミロにまったく歯が立たなかった様に……。

「な……何故、私の力が悉く通用しないのだ?」

「フッ……今の君では、この私は基より、他の黄金聖闘士の誰にも勝てんよ…」

「何!?どういう意味だ!!」

「コレを見れば解る!」

そう言うと、シャカは懐から数珠を取り出した。

「そ…それは!?」

「そう。この数珠の球は、君たち魔星・冥闘士と同じ108つある。これは108の魔星・冥闘士を退散させる為に神仏が御作りになったモノ…。冥闘士が一人滅びれば、数珠の球も色が変わるのだ」

嘆きの壁で、一輝はタナトスに殺されたパンドラの遺体にこの数珠を握らせ、エリシオンに向かったのだが、ハーデスがアテナに倒され、冥界が崩壊したとき、破損した『乙女座』の黄金聖衣と共にこの数珠も、シャカの手元に戻ってきたのである。

「見たまえ…108の数珠、全ての色が変わっている……。すなわち108の魔星は既に滅んでいる証拠なのだ…」

冥闘士は、過酷な修行を経て超人的な戦闘力を身につける聖闘士や、既に資質を持った者が鱗衣に選ばれ、海皇の理想に共鳴し、海皇への是タイ的な忠義心を力の源とする海闘士と違い、魔星に見出された者、つまり冥衣が装着者の体へ直接的に働きかけ、冥衣に合わせた体質へと変換させる特性によるものであり、言い換えれば冥闘士とは、冥衣を機能させる為の触媒であり、冥衣の方が冥闘士の本体とも言えるのである。

「今、君の纏っている冥衣は……魔星の抜け殻に過ぎないということだ……」

そもそも今、天貴星『グリフォン』の冥衣は、超次元において粉々に粉砕されてしまっている。

今、ミーノスが纏っている冥衣は、『海龍』が持っている特殊な技術で復元した冥衣の粗悪な『コピー』に過ぎず、冥衣よりも鱗衣に近いモノなのである。

「そ……それでは…」

「そう。魔星本体が滅びた今、君に残っているのはその『残りカス』のようなモノに過ぎないのだ」

つまり、今、ミーノスがシャカにまったく敵わないのも、先程、シルフィードがミロにあっさりと敗北したのも、魔星本体を喪った為、弱体化していたのが原因だった。

だからミロは、シルフィードが「聖域に乗り込んできた冥闘士たちよりも劣る」と感じたのだ。

今のミーノスとシルフィードの強さは、せいぜい青銅聖闘士と白銀聖闘士の中間ぐらい程度でしかない。

故に青銅聖闘士レベルの『魔導師』や『戦闘機人』には圧倒できても、黄金聖闘士には手も足も出ないのである。

「そ…そんな馬鹿なことがあってたまるか――――っ!!」

もはやミーノスには冥界三巨頭としての余裕も貫禄もなかった。

自身の弱体化を認められず、自暴自棄の如くシャカに飛び掛った。

「……自分を見失ったか……哀れな…」

シャカは、同情しながらもミーノスに反撃した。

「……さらば……冥界三巨頭……『天空破邪魑魅魍魎』!!」

異次元から現れた妖怪たちが、ミーノスに襲い掛かった。

「う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

妖怪たちに包み込まれ、絶叫を上げミーノスは息絶えた。

昔のミーノスならば、この程度の技は通用しなかっただろうが、弱体化した今では対抗すらできなかったようである。

「どうやら終わったようだな……」

そこに、チンクとゼスト達を連れたミロが到着した。

「……久しぶりだなミロ…」

「ああ。やはりお前も生きていたのか…」

2人は約一年ぶりに再会した。

 

 ★☆★

 

青ローブの男は、ミーノスの『小宇宙』が消えた事を感じとった。

「……フッ…どうやらミーノスも敗れたか…。まあ、魔星の力を喪った冥闘士などこの程度に過ぎん」

先程までの丁寧な態度はどこへやら……侮蔑を込めながら、ミーノス達がいる方角に視線を向けていた。

「ごくろうだったな…『海女王《セドナ》』…」

そこに、『海龍』が姿を現した。

「ハッ…『海龍』様…。スカリエッティの研究……使えそうなモノ全てのデータを奪ってきました。後、『戦闘機人』のサンプルもこちらに…」

データの入ったディスクと、奪ってきたレリックとクアットロを『海龍』に渡した。

「ミーノス達は…?」

「2人とも、黄金聖闘士に殺られました…」

「……そうか…まあ構わん。お前が為の足止めにはなったか…。まだ黄金聖闘士と事を構えるわけにはいかんからな…。あの負け犬共は『捨て駒』に過ぎん……。弱体化した『駒』でも、この程度の役に立てば上等だ。むしろ始末する手間が省けたな……」

「御意!」

『海女王』と呼ばれた青ローブの男は、『人魚姫《マーメイド》』のテティス、海賊《パイレーツ》』のフックと同格の『海闘士』であった。

彼もまたフックと同じ様に、こちらの世界に跳ばされ、そこで出会った真の『海龍』に忠誠を誓ったのである。

「しかし……ここまで慎重に事を運ぶ必要があるのでしょうか…」

「…『海女王』。自己を過信して、奴らを侮ってはならん!」

『海龍』はけっして『聖闘士』を侮ってはいないのである。

「海闘士最強の『七将軍』のうち、5人までも最下級の『青銅聖闘士』に敗れたと言っていたのはお前達だろう。ならば聖闘士の最高位である『黄金聖闘士』も当然、侮るべきではない…」

「……ハッ…申し訳ございません…」

『海女王』は、自らの非を認め、『海龍』に詫びた。

 

 ★☆★

 

瀕死の重傷を負っていたメガーヌは、スカリエッティの適切な処置により、一命を取り留めた。

ゼスト、クイント両名もスカリエッティの治療を受けている。

「……隊長…よろしいのですか…。管理局に戻らなくて…」

「…今、戻るのは不味い…」

ゼスト隊は、このままスカリエッティの下に留まるつもりである。

その理由は、スカリエッティが『最高評議会』と繋がっていたことを知った為である。

『最高評議会』とは、時空管理局の最上層部に君臨する『評議員』『書記』『評議長』の3名で構成されている。

旧暦の時代、未だ統制の取れていなかった数多の次元世界を平定してそれを次代に託し、自分達も評議会を設立して見守り続けていた。

何れも姿を見せないモニター越しであり、正体は謎に包まれている。

その『最高評議会』が、広域次元犯罪者『ジェイル・スカリエッティ』と繋がっていたのだ。

今、下手に管理局に戻れば、口封じの為に何をされるかわからない。

ゼストは独身であり、天涯孤独の身である為心配ないが、問題はクイントとメガーヌである。

クイントには、夫と娘が2人居る。

夫の方は、後に地上本部の108陸士部隊の部隊長となり、現在でもその人柄から地上本部の局員たちに信奉されており、最高責任者のレジアス・ゲイズ中将と二分する人物である。

娘の2人は、スカリエッティとは別の組織により『戦闘機人』の実験体としてクイントの遺伝子から造られ、保護された後にナカジマ家の養子となった。

メガーヌは、既に夫とは死別しているが、ルーテシアという愛娘がいる。

その為、2人が戻れば2人だけではなく、家族にも類が及ぶ。

特に、クイントの娘2人は『戦闘機人』である為特に……。

そこで、ゼスト隊は全滅したことにし、ゼストとメガーヌは『人造魔導師』の素体として適応している事を利用し、人造魔導師として蘇生した事にしたのである。

更に、ルーテシアの事が心配なメガーヌの為に、ウーノが最高評議会に要請し、その身柄を確保させた。

クイントの家族は、下手に干渉するとかえって不審に思われるかも知れないので、そのままであるが……。

 

 

 

「……スカリエッティ…。何故、ここまでしてくれる…」

流石にここまでの便宜を図ってくれたスカリエッティの意図が読めなかったぜストは、スカリエッティに問い質した。

そして、ゼストはスカリエッティを見て、軽く驚いていた。

スカリエッティの雰囲気が変わっていたからである。

「犯罪者でさえなければ歴史に名を遺す」とさえ称される天才でありながら、並外れて傲慢且つサディスティックなその性格と言動から多くの者に忌み嫌われていた男とは思えない程、人が変わっていたのである。

その理由は、ミーノスに生命を弄ぶことの醜さを思い知らされ、『無限の欲望《アンリミテッド・デザイア》』である自分とは対極の存在であるシャカと出会った事が、彼を変えたのである。

スカリエッティの心は常に満たされなかった。

無限の欲望…それが、彼に癒えることの無い渇きを齎していた。

しかし、シャカという存在が、彼の欲望地獄からの救済となったのである。

「私は…最高評議会と袂を分かつ決心をしたのだよ……騎士ゼスト…」

その後、スカリエッティとゼストはミロとシャカを交え、今後の事を話し合った。

ミロからすれば、最高評議会は今すぐ制裁したい存在であった。

彼らも、かつては優れた指導者であったようで、一線を退いた後も評議会制を作り見守ってきたが、今ではもはや権力の座にしがみついた上に、目的のためには一切手段を選ばない次元犯罪者同然の存在に成り果てている。

自分とシャカならば…いや、自分一人でも最高評議会を始末することなど容易い。

しかし、その後に来るのは次元世界全体の混乱である。

問題点はかなりあるモノの、『時空管理局』という存在が、次元世界の平和を危ういところで支えているのは事実である。

今、ここで最高評議会を始末すれば、管理局は混乱し、下手をすれば組織は崩壊しかねない。

支えを失えば……この次元世界の秩序が乱れ、悲哀と悲劇を大量生産することは目に見えていた。

次元世界間での戦乱など、ミロもシャカも望むことではない。

故に、今はまだ、スカリエッティも評議会に従う振りをしなくてはならないのである。

全ての準備が整うまで……。

 

〈第四十一話 了〉


 

真一郎「おや、スカリエッティを改心させたのか?」

そうだな。StS編は原作とはかけ離れた話になるので、スカリエッティを敵側にしない事にしたんだ。

真一郎「敵側は、『海龍』たちだからな…」

とりあえず、スカリエッティサイドの話はこれで一旦終了し、次はいよいよ……

真一郎「あの事件が起こるわけだな」

では、これからも私の作品にお付き合い下さい。

真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じた事があるか!?」




神に近い男、シャカまでもが現れたか。
美姫 「おまけにスカリエッティも改心したみたいだしね」
かなり大きな変化だな。しかし、クアットロは攫われてしまったけれどな。
美姫 「今後がどのように変化するのか楽しみよね」
ああ。次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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