『時空を越えた黄金の闘士』
第四十話 「真紅の衝撃」
新暦0066年。
時空管理局地上本部、首都防衛隊最強の部隊である『ゼスト隊』は、当初の予定を早めて、『戦闘機人』事件の強制捜査に踏み切った。
地上本部の長であるレジアス・ゲイズ中将は、ゼスト隊を『戦闘機人』の捜査から外し、別任務に就かせるつもりであったが、ゼスト隊隊長、ゼスト・グランガイツが強行し、機人プラントと思われる施設の調査に踏み切ったのだ。
ゼスト隊のクイント・ナカジマ、メガーヌ・アルピーノの両名が機械兵器に襲われ、別の場所では部下を庇ったゼストが負傷してしまう。
そのゼストに、『ナンバーズ』と呼ばれる3人の『戦闘機人』が現れ、その中の一人、bT『チンク』とゼストの死闘が始まった。
ゼストはミッド式主体の管理局には珍しい古代ベルカ式の騎士であり、陸戦S+ランクのストライカー級の実力を誇る。
万全の状態ならば、如何に戦闘機人相手でも後れを取らないのだが、負傷している今は、チンクに押され気味であった。
とはいえ、ゼスト相手ではチンクも無事ではなく、チンクも満身創痍になっていた。
高みの見物を決め込んでいたbR『トーレ』とbS『クアットロ』にbP『ウーノ』から緊急連絡の念話が届き、トーレとクアットロは急いで戻ることになった。
「チンク…さっさと片付けてお前も戻って来い」
トーレはそう言い残し、クアットロと共にその場を後にした。
満身創痍の2人の睨み合いが続いたが、お互い最後の一撃を繰り出そうとしたとき、異変が起こった。
その場に、黒ずくめのローブを纏った男が現れたのだ。
「……フッ…、ここがスカリエッティとやらのアジトの一つか……今度こそ、当たりだと良いな…」
「貴様…何者だ!」
如何にも怪しげな男に、チンクもゼストも警戒心を高めた。
「……フム…。『時空管理局』とやらの魔導師と…『戦闘機人』の一体か……。魔導師如きはどうでも良いが…『海龍《シードラゴン》』殿の目当ては『戦闘機人』のデータ……。出来れば『サンプル』も欲しいとのことだったな……。どうやら今度こそ当たりのようだな」
黒ローブの男の物言いにチンクはハッとなった。
「き…貴様か…!此処最近、我らのアジトに襲撃を掛けているのは!!」
新暦0065年より、広域次元犯罪者『ジェイル・スカリエッティ』のアジトが次々と襲撃を受けていた。
「最初は管理局の仕業と思っていた。だが……老人達もこの事には驚いていたとドクターが言っていたが……」
チンクは男を睨みつけた。
「正体をみせろ!」
チンクがそう言うと、男はおもむろにローブを脱ぎ捨て、闇色のプロテクターを纏った男の姿が顕わになった。
「フッ…私の名は天捷星『バジリスク』のシルフィード……」
★☆★
冥王ハーデスの戦士……108の魔星『冥闘士』。
冥界三巨頭、天猛星『ワイバーン』のラダマンティス直属の部下で、三巨頭を除けば冥闘士屈指の戦士と称された男。
それが、この天捷星『バジリスク』のシルフィードである。
黄金聖闘士達が『嘆きの壁』を破壊した後、エリシオンへ向かおうとする星矢達を追おうとするシルフィードと天牢星『ミノタウロス』のゴードンと天魔星『アルラウネ』のクィーンは、師である『天秤座』の童虎から紫龍が受け継いだ最強の奥義『廬山百龍覇』の前に敗れた。
その後、エリシオンに向かおうとする紫龍と氷河を傷つきながらも追いかけようとするも、『神』以外を拒む超次元に呑み込まれ消滅した筈であった。
しかし、実はこの男もカノン達同様、死の直前に『時の神』クロノスによって次元世界に跳ばされたのであった。
クロノスは聖闘士だけではなく、冥闘士も次元世界へと跳ばしていたのだ。
無論、善意からではなく……気紛れによるものであるが……
その後、『海龍』に出会い、行き場の無くなったシルフィードは『海龍』に協力しているのである。
★☆★
先手必勝とばかりに、チンクは自らの武器であるスローイングナイフ『スティンガー』を投擲した。
しかし、シルフィードはナイフを二本の指で挟み込み止めた……しかし……。
「フッ、私の『スティンガー』は受け止めたのが命取りだ!」
その瞬間、『スティンガー』が爆発した。
これこそが、チンクのIS(先天固有技能)である一定時間手で触れた金属にエネルギーを付与し、爆発物に変化させる能力『ランブルデトネイター』である。
ただし、余りに巨大な金属塊の場合爆破に必要な力が拡散し、爆発に到らない為サイズ制限がある。そのため、基本的には今回の様に固有武装である投げナイフ『スティンガー』に付与して使用する。
爆発のタイミングはチンクの任意で変更でき、中距離の遠隔操作も可能である。
勝利を確信したチンクだったが、爆発による煙が晴れた時……シルフィードの姿がなかった。
「何!?」
チンクは驚愕した。
いくらなんでも、あの程度の爆発では死体が残らない筈はない……。と…言うことは…。
「その様な児戯にやられる冥闘士ではない。2人まとめて吹き飛ばしてくれるわ!」
いつの間にか、チンクたちの側面に移動していたシルフィードがチンクとゼストに襲いかかる。
「くらえ、『アナイアレーション・フラップ』!!」
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
シルフィードの必殺技。
闘気によって相手を吹き飛ばす怪鳥『バジリスク』の羽ばたき『アナイアレーション・フラップ』を受け、チンクとゼストは吹き飛ばされた。
少し距離があった事もあるが、実戦経験豊富なゼストは咄嗟に直撃を避け、至近距離にいたチンクはモロに直撃を受けるが、防御技能である『ハードシェル』作動させ防御する。
しかし……纏っていた灰色のコートがビリビリに破れ、吹き飛ばされた。
「な…何ぃ…!?バ…馬鹿なぁ!!『シェルコート』が――――ッ!!」
防御外套『シェルコート』の支援を得た『ハードシェル』は、本来は施設規模の爆発にも耐える防御力を誇る…。しかし『冥闘士』の拳の前にはまったくの無意味であった。
「……フッ…馬鹿め……。冥闘士に貴様ら如きが勝てると思ったが……。貴様ら『戦闘機人』はこれより我らの尖兵となるのだ……。貴様にもその為に働いてもらうぞ…」
「は…放せ!」
シルフィードが、抵抗するチンクを連れ去ろうとした時……。
「ま…待て!!」
直撃は避けたモノのかなりのダメージを負っているゼストが、シルフィードの前に立ちはだかった。
「……管理局に用はない……。それにこいつは貴様に取っても敵であろう……。見逃してやるからさっさと失せろ!」
「そ……そうはいかん…。……『戦闘機人』を悪用しようとする者を放っておくわけにはいかん……」
『戦闘機人』のデータを欲する者など……どう考えてもそれを悪用する者としか思えない。
ゼストは槍を握り締めた。
「死にぞこないが……。よかろう……邪魔をするなら一思いに殺してくれ……何!?」
ゼストにとどめの一撃を撃とうとした時、シルフィードは警戒態勢を取った。
「この『小宇宙』は…!?」
この場所に迫ってくる小宇宙は、シルフィードと共に来た仲間の小宇宙ではない……。
「誰だ!?姿を見せろ!!」
シルフィードが迫り来る何者かに叫ぶと、その何者かが姿を見せた。
「フッ……なにやら『小宇宙』を感じて来て見れば……冥界の亡者どもの生き残りがいたとは…な…」
「な…何ぃ……き…貴様は……ま…まさか…『黄金聖闘士』!?」
金色に輝く『聖衣』を纏い、2人の女性を肩に担ぎながら現れたこの男は……!?
「…『蠍座《スコーピオン》』のミロ!!」
ミロはゼストの傍まで近づき、担いでいた女性二人を降ろした。
「クイント、メガーヌ!?」
「た…隊長…ご無事で…」
傷だらけだが、意識のはっきりしているクイントがゼストに声に反応した。
「…メガーヌは!?」
「すいません…。生きてはいますが……危険な状態です…」
メガーヌの意識は無く、このままでは間違いなく死んでしまうだろう……。
「何があったのだ……」
「……隊長が負傷されたと連絡をもらった後、機械兵器の大群が私達に襲い掛かってきました」
この機械兵器――後に管理局が『ガジェットドローン』という名称を付ける―――は単機でAMFを発生させる事が出来るので、クイント達は魔法を封じられてしまった。
クイントは『シューティングアーツ』と呼ばれるミ格闘術『ストライクアーツ』を元にした特殊な格闘術の使い手なので、魔法無しでもそれなりに戦えたが、やはり多勢に無勢……。
絶対絶命の大ピンチに陥った時、何処からともなく現れたミロが、一瞬の内にその場の機械兵器を全て破壊してしまったのである。
「……フッ…黄金聖闘士……相手にとって不足はない!行くぞスコーピオン!!」
「来い!バジリスク!!」
アテナの聖闘士とハーデスの冥闘士。
神話の時代より、戦って来た敵同士……。
互いに問答無用と激突した。
「…『アナイアレーション・フラップ』!」
「…『スカーレット・ニードル』!!」
2人がそれぞれ必殺技を放った。
『アナイアレーション・フラップ』の威力により、ミロは吹き飛ばされた。
「フッ…スコーピオンよ…この怪鳥バジリスクの大いなる風を受け、異次元まで消し飛ぶがいい…」
シルフィードが勝利を確信したとき、そんな彼をあざ笑う声が聴こえた。
「フッ……甘いな!」
「な…何!?」
『アナイアレーション・フラップ』によって吹き飛ばした筈のミロが、上から一回転して地面にひらりと着地した。
「この程度の技でこのミロを消し飛ばせると思ったか……」
「……な…何だと……」
シルフィードは己の実力に自信を持っていた。
先の聖戦においては、死を覚悟した紫龍相手に実力を発揮することが出来なかったが……。
「お前の技に比べれば、十二宮の戦いの時に氷河から喰らった『KHOLODNYI・SMERCH』の方が遥かに威力があるぞ……」
この物言いはシルフィードのプライドを傷つけた。
「お…おのれ〜〜〜〜…ウッ」
突如、シルフィードは激痛を感じた。
「な……何だ…この針に刺されたような傷は……」
「……『スカーレット・ニードル』…。小さな針で刺したような傷跡だが、激痛と共に全身を麻痺させる。しかし、この技は一発で相手を殺すような事はない…。蠍座の15の星を形どる15発より成り立ち、1発打つごとに相手に『降伏』か『死』かの選択する機会を与える慈悲深い技なのだ。さあ、選べバジリスク!」
そう言うとミロは、再び『スカーレット・ニードル』を撃った。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ただ、今まで15発全てを喰らって、生き延びた者は一人しかいない…。それまでに発狂するか、命乞いをするか、死を選ぶか……」
そのただ一人の氷河も死の寸前、ミロが止血しなければ、そのまま確実に命を落としていた。
一発一発的確に蠍座の形に『スカーレット・ニードル』を打ち込んでいく。
「……慈悲深い技って……拷問のようにしか見えないのは私だけでしょうか隊長?」
「……俺も同感だ…」
クイントとゼストが顔を引き攣らせながら、ひそひそと話していた。
その間も、ミロは次々とシルフィードに毒針を打ち込んでいく…。
「な…何故だ…。何故、こうも歯が立たない……何故!?」
シルフィードの実力は三巨頭に次ぐ実力……聖闘士でいうなら黄金聖闘士クラスである。
にも関わらず、ミロ相手に歯が立たない。
「フッ…。俺に言わせればお前が冥闘士の中でも実力者とは信じがたい…。お前から感じる『小宇宙』は聖域に攻めてきた冥闘士たちよりも劣るぞ!」
「な……なんだと!?この俺が……『サイクロプス』や『パピヨン』に劣るというのか!?」
サガ達を監視する為に十二宮に乗り込んできた冥闘士達は、金牛宮で地暗星『ディープ』、巨蟹宮で地妖星『パピヨン』、巨蟹宮から獅子宮への階段で、地陰星『デュラハン』、地走星『ゴーゴン』、地劣星『エルフ』、獅子宮で地伏星『ワーム』他五名が、処女宮で地暴星『サイクロプス』他残り全てが全滅したので、天蠍宮を護っていたミロは直接、戦ってはいない。
しかし、彼らの小宇宙は感じていたので、それよりも弱いシルフィードの『小宇宙』に疑問を持っていた。
シルフィードにしても、自分の『小宇宙』が格下の『サイクロプス』達より劣ると言われるとは思いもよらなかった。
とうとう14発打ち込まれ、針の穴のようだった傷が広がり、血が噴出し始めてシルフィードの五感が薄れていった。
「さあ、後一発でお前は死に至る。さあ選べ、降伏するか?」
「ふ…ふざけるな……。如何に勝敗が決したとはいえ、誇り高きラダマンティス様直属の冥闘士であった俺が、聖闘士に命乞い等するか!やるならひと思いにやれ!!」
「よかろう…死を望むか…ならば受けろ!『スカーレット・ニードル』最大の致命点!!』
ミロは地を蹴り、一瞬の内にシルフィードの間合いに入った。
「う…うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「…『スカーレット・ニードル・アンタレス』!!」
★☆★
「……助けてくれたこと…部下共々感謝します…」
「気にするな…。冥闘士は俺にとっても敵……。お前達を助けたのはついでに過ぎん…」
ミロが慣れた手つきでゼストたちの応急手当をしていた。
シルフィードはとどめの一撃を受け、既に絶命していた。
「よし…次はこの少女だな…」
ミロは、シルフィードに連れさらわれそうになったチンクの手当てを始めた。
「わ…私も助けてくれるのか?」
ゼストたち管理局から見れば、スカリエッティの『娘』である自分は犯罪者である。
その自分まで手当てをしてもらえるとは思っていなかったらしい…。
「…俺にはお前が…それほどの悪人には見えん……。お前自身はとても純粋なのだろう…」
ミロからしてみれば、目の前で幼い少女が誘拐されそうになり、傷だらけで倒れているのを見過ごせないだけである。
「な…ならば…頼む…。ド…ドクターを助けてくれ…。私はさっきの男にも敵わなかった。いくらトーレやクアットロでも…奴らには勝てない」
先程のウーノからの念話は、ゼストとは別の侵入者がスカリエッティの下に向かっているので迎撃しろとのことであった。
しかし、自分が戦ったシルフィードの強さと同等の敵ならば、如何に戦闘機人の中でも最強の戦闘力を有するトーレでも勝てない。
「……そうだな…。この施設内には先程のバジリスクの他にも『小宇宙』を二つ感じる……間違いなく冥闘士だろう…」
「頼む。こんな事、頼めた義理ではないのは解っている…」
チンクは懇願を続けた。
「そうだな…ムッ!?」
その時、ミロは気付いた。
もう一つ、『小宇宙』が近づいている事を……。
しかも、その『小宇宙』は先程から感じている敵の『小宇宙』より、遥かに強大で……そして、覚えのある『小宇宙』……。
「どうやら、俺が行く必要はなさそうだな……。向こうにも俺と同格の……いや俺よりも強いかもしれん男が向かっているようだ…」
スカリエッティに迫る侵入者とは…。
そして、ミロが感じた強大な『小宇宙』の持ち主とは…。
〈第40話 了〉
真一郎「ついにミロが登場!」
あと、十一話で登場した黒ローブの男の片割れの正体も今回明かしました。
真一郎「まさか冥闘士とは……と、いうことはもう一人の男も…」
うん。原作でシルフィードと似たような死に方をした奴がもう一人いただろう…。
真一郎「あいつか…。それにしても何かシルフィードが弱くなっているようだけど…」
それにも理由がある。あくまで私がそう思っているから、そういう設定にしたんだけどね」
真一郎「でも、黒ローブの男は2人の筈なのに、もう一人いる風だけと…」
そいつは、冥闘士じゃないよ…後は秘密。
では、これからも私の作品にお付き合い下さい。
真一郎「お願いします」
ゼスト隊、どうにか生き延びれた感じかな。
美姫 「だとしても、メガーヌは危ない状態みたいだけれどね」
ここでの変化が今後にどう影響を与えるのか。
美姫 「チンクの言葉を聞いていたゼストの動きが気になる所よね」
他にもカノンたち以外にも黄金聖闘士が出てくるっぽいし。
美姫 「今回はミロだったけれど、もう一人は誰かしらね」
もう一人の冥闘士と残る一人も気になるが。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。