『時空を越えた黄金の闘士』
第三十九話 「未来へのプロローグ」
『闇の書事件』より、約半年が過ぎた。
なのは、フェイト、アリサ、すずかの四人も進級し、四年生となった。
はやての足も少しずつ回復しており、守護騎士たちも元気である。
そして、管理局の仕事の方も、仮配属期間が終わり、なのは達は正式に時空管理局に入局した。
高町なのはは、武装隊の士官候補生。
フェイト・T・ハラオウンは、執務官候補生。
八神はやては、特別捜査官候補生。
なのはは、武装隊の士官からスタートして、最高の戦闘技術を身につけ(あくまで魔導師としてであるが……)局員達にそのスキルを教えて導く『戦技教導隊』入りを目指している。
フェイトは、リンディの正式な養子となり、基本的には『アースラ』に所属しながら、執務官になるために勉強している。
カノンという保護者がいるので、フェイトが自分の義娘になってくれないかもと思っていたリンディは、フェイトが自分の義娘になってくれた事をとても喜んだ。
はやては、稀少な『融合デバイス』を用い、四人の守護騎士と共にその能力が必要とされる事件に随時出動する特別捜査官…、しかし、指揮官特性も高いので将来はまだまだ検討中との事……。
さて、その頃……。
聖域の外の不毛の大地を耕し、豊穣神デメテルの神具を使い、穀物が育つに適した土に変えているカノンとリニス、アイオリアの姿があった。
「さて、そろそろ一息入れるとするか……」
リニスの作った弁当を開く、カノンとアイオリアは自分達が開墾した畑を見渡した。
「……この大地を全て開墾するには、俺たち3人だけでは人手が足りんな……」
「まあ、別に畑に関しては俺たちが食う分を作れれば問題ないからな…」
「畑だけではなく、放牧等もいずれは行うのでしょう?」
「ああ。やはり畑だけというのもな…」
リニスの問いにカノンがそう答えた。
「さて、俺は午後からクロノの修行を見なければならんので本局に行く……。後を頼むぞ」
弁当を食べ終えたカノンは、そういい残し転送ポートに向かった。
「それにしても……フェイトが正式にリンディの養子になるとは…な」
あれほどカノンに懐いていたフェイトが、カノンの下を離れた事を、アイオリアは意外に感じていた。
「あの娘にも、思う所はあるんですよ……。むしろ、カノンの事が好きだから、カノンの被保護者からリンディ提督の養子になったんですから…」
リニスは小声でフェイトの願いを、アイオリアに囁いた。
それを聴いたアイオリアは、苦笑しながら転送ポートに向かうカノンの後ろ姿を眺めた。
「……フッ…成程…。確かにそれを願うのなら、カノンが保護者でいては、叶わんな…」
フェイトの願い…「カノンのお嫁さんになる」為には……。
★☆★
無限書庫での仕事を終え、ムウの指導を受けていたユーノは地に倒れ伏していた。
「では、本日はこれまで……」
そう言うと、意識を失い掛けていたユーノを抱えて書庫内に入っていった。
「ユーノ!」
ユーノの誘いを受け、共に無限書庫の司書になっている同族の者が駆け寄ってきて、治癒魔法を掛け始めた。
彼は、一族の中でも特に治癒魔法に長けており、シャマルに匹敵するほどであった。
此方の世界には、ムウの出身世界である『地球《エデン》』と違い、魔法という技術がある。
その為、向こうよりは過酷な聖闘士の修行でも、生存率は高い様である。
「……大丈夫か…ユーノ…」
「……うん…。ありがとう…」
「…それにしても…あんな優しそうな顔なのに……なんて厳しい人なんだ…ムウさんって…」
「……ハハハ……でも、アイオリアさんの話だと、ムウ様は黄金聖闘士の中でも変人にカテゴリーされるって……」
「聴こえているぞ……明日の修行は……楽しみにしているがいい…」
「…はぅ!!」
しっかりとユーノたちの会話を聴いていたムウは、そう微笑み、自分の新しい愛弟子に余計なことを吹き込んだ張本人に、どのような報復をするか考えていた。
同時刻、聖域で畑を耕していたアイオリアの背筋に悪寒が走った。
★☆★
本局の会議室において…管理局の高官たちが集まっていた。
アースラが記録していた次元漂流者、『獅子座』のアイオリアと『仮面の男』に変身したリーゼ姉妹との一方的な戦い。『双子座』のカノンと闇の書の闇を乗っ取った『双子座』のサガという名の邪悪との戦いがモニターに映し出されていた。
限界まで超スロー再生された映像だが、それで漸く、普通の動きの様に見える程度である。
管理局でも、トップレベルの戦闘能力を誇った、グレアム元提督の使い魔のリーゼ姉妹が成す術もなく半死半生の眼に合わされる姿、『ギャラクシアン・エクスプロージョン』同士のぶつかり合い、そして、最後の暴走状態に入った『闇の書』の防衛プログラムに対して黄金聖闘士3人による『アテナ・エクスクラメーション』。
その余りの破壊力に、皆、絶句していた。
「……彼ら『聖闘士』の存在をどうなさいますか?」
「既に、彼らの琴は地上本部も航空も知るところとなりました」
流石にいつまでも隠し通せるモノではなく、とうとう本局が今まで隠してきた『聖闘士』の存在が明らかにされてしまった。
「今の映像を見て、諸君らも悟ったと思う。彼らに対する管理局の対応は……友好関係を築くことだと…」
敵に回せば、間違いなく管理局には勝ち目はない。
彼らにしては、魔導師が魔導師以外の者に敗北するなど、絶対に認めたくないのだが……認めざる得ないのだ。
管理局の総力をかき集めても、黄金聖闘士1人相手でも歯が立たないことを……。
ましてや、最後の『アテナ・エクスクラメーション』なる技を本局でぶっ放されたら……。
本局は、間違いなく消滅する。
一般職員はおろか、提督レベルの者にも知らされていない『闇』が管理局にはある。
そして、管理局に敵対する組織も存在する。
その様な存在が、彼らを担ぎ上げたら……。
「幸い彼らは、アースラとは好意的に接している。そして、今回の件で判明したが、アースラ所属のクロノ・ハラオウン執務官は彼らの一人に師事しているとの事だ……このまま関係を維持していってもらいたいものだな……」
今まで、様々な危機を乗り越えてきたが、これほど実力差が違いすぎる相手―――しかも少数―――に巡り合ったことなどない管理局としては、藪を突いて蛇を出す愚を冒すことは避けたいことだった。
★☆★
開墾をしていたアイオリアは、本局に向かった筈のカノンの姿を捉え、疑問に思った。
「どうした…。クロノを指導しに行ったのではなかったのか?」
「……今日は中止だ…」
フェイトとシグナムがデバイスの微調整の慣らしをしていたのだが、なんだか模擬戦の流れになり、いつの間にか、フェイト、なのは、アルフ、ユーノ、クロノのミッド式の魔導師と、はやてと守護騎士たちベルカ式の騎士との団体戦という形になったらしく、修行どころでは無くなったらしい。
「修行が中止なら、戻って開墾を続けた方が良いと思ってな…。さっさと引き上げてきた」
「そうかそうか……。人手が多いに越した事はない…って、そこ!サボるな!!」
と、手を休めていたリーゼ姉妹にアイオリアが怒鳴った。
「「は…はい!!」」
よほどアイオリアが怖いのだろう。
リーゼ姉妹は、雑談を止め、作業に取り掛かった。
管理局を退職したグレアムは、嘱託扱いとなり、管理局からの出動要請があれば強制的に参加しなければならない立場になったが、退職した者に頼りすぎれば管理局の面子にもかかわるので、よほどの大事件でもない限り、出動要請は来ない。
そこで、グレアムは傷の癒えたリーゼ姉妹と共に、カノン達の開墾を手伝っているのだ。
リーゼ達は、アイオリアに恐れをなして、出来れば遠慮したかったのだが、主であるグレアムに言われて、渋々手伝っているのである。
「…どうだグレアム…。畑仕事の感想は……」
「そうだな……。こういう労働は辛いが……心地よい疲労だ…。生きているという気がしてくるよ…。管理局で働いていたときとはまた違った充実感を感じるよ…」
これから、グレアムは、カノンと同じ様に罪の償いをしていかなくてはならない…。
しかし、それとは別の生き甲斐を見つければ、どれほどの苦難の道でも乗り越えられる。
そう、思える様になった様である。
日が暮れたので、今日はここまでにして、それぞれ帰路についた。
カノンとリニスは、この聖域で寝泊りしているが、アイオリア達は「第97管理外世界、地球《テラ》」に戻る。
転送ポートを使い、地球の八神家に戻ったアイオリアをはやて達が出迎えた。
「お帰り、リア兄」
「ただいま、はやて……。カノンから聞いたがなのは達と模擬戦を行ったらしいが、どうだった?」
アイオリアの問いに、皆が苦笑いをしていた。
なのはとフェイト、はやての魔法のぶつかり合いで訓練室が破損し、結局、引き分けに終わったとのことである。
最近、なのはの影響を受けたのか、なにやら過激になってきた妹に、アイオリアは将来を心配し始めていた。
「おい、リインフォース……」
「……ま…まあ、大丈夫……」
「…本当に…?」
「……だと…いいな…」
アイオリアとリインフォースは、今回の団体模擬戦の反省会をしているはやて達を眺め、ため息を吐くが…、直ぐに苦笑し、はやて達の会話に混ざった。
〈第三十九話 了〉
A’s編も今回で終了
真一郎「次回からは、幕間2に入ります」
無印とA’sの間は半年だったので4話でしたが、今回は次のStrikerSまで10年の歳月……。一体何話になるかは見当がつきませんな…
真一郎「そして、この幕間でも様々なキャラクターが登場します…お楽しみに」
では、これからも私の作品にお付き合い下さい
真一郎「お願いします。君は小宇宙を感じたことがあるか!?」
今回は本当に平穏な。
美姫 「まあ、最後にはやての話だけとは言え、破壊シーンもあったけれどね」
まあな。にしても、リーゼ姉妹たちがカノンたちのお手伝いとはな。
美姫 「まあ良いんじゃないかしら。悠々自適とまでもいかないながらも、のんびりする事も出来るみたいだしね」
グレアムはそうだろうけれど、リーゼたちは完全にアイオリアに恐怖しているな。
美姫 「まあ、その内慣れるんじゃないかしらね」
どうなっていくのやら。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。