『時空を越えた黄金の闘士』
第三十八話 「ユーノの決意」
『闇の書』事件と後に呼ばれる今回の事件は、終わってみれば死者ゼロという結果だった。
以前に起こった『闇の書』が齎した被害を考えれば、それは『奇跡』だった。
今回の事件の実行犯であるヴォルケンリッターは、各世界の魔導師たちを襲ったことによる障害の罪に問われる事になったが、死者を出していない事と、本人達が罪の償いを望んでいることをふまえ、管理局に入局する事で罪を償う事が決定した。
人手不足の管理局としては、高ランク魔導師に匹敵する実力を持つ彼女たちの力は喉から手が出るほど欲しかったので、まさに渡りに船だった。
『剣の騎士』と『鉄槌の騎士』は武装隊に、『湖の騎士』はその治療魔法の腕を見込まれ医療班に配属された。
今回の事件の黒幕として、責任を取ったギル・グレアム提督は表向きは希望退職として処理された。
彼の今までの功績を考慮に入れての処置だったが、実際に今回、彼がしたことは捜査妨害による混乱はともかく、事態の拡大を招いた事は管理局としても問題視されていた。
サガという邪悪なる意思に乗っ取られた『闇の書』の防衛プログラムは、黄金聖闘士という次元漂流者の協力我がなければ、管理局の手に負えなかっただろう。
切り札である『アルカンシェル』すら通用しない化け物だったのだから……。
しかし、スクライア族の少年と次元漂流者が無限書庫で見つけ、次元漂流者の使い魔が作った『夜天の魔導書』の修正プログラムを『闇の書』の管制人格の起動前に使用していれば、これほどの大事にならなかった。
管制人格が覚醒する前に修正プログラムを使用していれば、何の苦労もなくサガが乗っ取っていた防衛プログラムを『夜天の魔導書』から切り離す事が出来、サガは何も出来ずに消滅させる事ができた。
しかし、グレアムの命を受けたリーゼ姉妹が『闇の書』を完成させてしまったので、事態はややこしくなってしまったのだ。
『闇の書』の主の傍には、アイオリアと言う黄金聖闘士がいて、そのアイオリアを通じて修正プログラムを使い、『闇の書』を『夜天の魔導書』に直せば、今回のような大事にはならなかったのだから……。
その為、表向きは希望退職だが、実際は地位を剥奪されることになっていた。
しかし、嘱託魔導師扱いになっており。有事の際の現場への出向が定められていた。
普通の嘱託魔導師とちがい、現場に行けば指揮官クラスの地位が与えられるが、出動依頼の拒否権が認められていない立場であるが……。
さて、『闇の書』改め『夜天の魔導書』の主である八神はやてであるが、彼女はなのはとフェィト同様、『嘱託魔導師』となることを希望していた。
彼女は何の刑罰も受けなかったが、『夜天の魔導書』の力を世の為に役立てたいという願いから管理局への入局を望んだのだ。
これには、アイオリアが難色を示した。
「お前まで管理局に入る必要はない……。お前には罪はないのだから…。例え、シグナム達の主とはいえ、お前は何も知らなかった。『無知は罪』などと主張する者など、ただの傲慢なだけの輩だ……。そんなことをぬかす奴らなど放っておけばいいのだから…」
「ウチだって、そんなおこがましい事は言わへんよ……。そんな事言ったら、カノンさんやグレアム小父さんに悪いからなぁ……。そやけど…シグナム達はウチの大事な家族や……シグナム達の罪を肩代わりなんて出来へんけど……背負っとる罪を横から支えることくらいしたいんや……。みんなで支えあうのが『家族』っちゅうモノやろ?」
そう言われれば、アイオリアもそれ以上反対は出来なかった。
結局、はやては管理局の『嘱託魔導師』となり、その護衛として『夜天の魔導書』の管制人格と『盾の守護獣』が付く事となった。
★☆★
さて、年が明けて……1月4日。
今回の事件の功労者である高町なのは、フェイト・テスタロッサ、カノンの3人は……お正月休みの真っ最中であった。
「……フム、この『コタツ』と言うモノは良いものだな……」
カノンが育った聖域には流石に日本の暖房器具である炬燵はなく、すっかりと気に入っていた。
「炬燵は日本の誇る文化の極みだよ……」
「流石にそれは言い過ぎだと思うけど……反論できないかも……」
カノンと同じくまったりしているなのはの言に、みかんの皮を剥きながらフェイトも同調した。
「フェイトちゃん……今夜の準備は万全?」
三が日が過ぎ、今夜から高町家、ハラオウン家、バニングス家、月村家の4家族合同での2泊旅行を行う予定であった。
エイミィとアルフはその準備の為、今、買い物に行っている。
「……カノンも一緒に来てくれるんだよね?」
「ああ。まあ、暇だし、リニスがどうしてもというんでな……」
フェイトには、家族で旅行をするという思い出がない……。
かつて、プレシアとピクニックに行ったという記憶はあるのだが、それはフェイトのではなく、アリシアの記憶である。
リニスはその事をカノンに告げ、フェイトに自分自身の楽しい思い出を作ってもらいたいので、カノンも是非参加してやって欲しいと懇願してきたのだ。
真面目に懇願されれば、カノンとしても嫌とは言えず、また……自分もレジャー目的で旅行などしたことがないので、参加することにしたのだ。
「…はやてちゃん達が来れないのは残念だけど……それと、ユーノ君とムウさんも……」
八神家は、年末は検査と面接などがあり、年が明けてもまだまだ忙しいとの事で、今回は不参加となっていた。
ユーノは、スクライア族の家族の下に帰っていて、ムウもそれに同行していた。
「ユーノ君とムウさんは何をしているんだろう……?」
ユーノとムウの不参加に、なのはは内心ガッカリしているようだった。
「ムウがユーノの一族の下を訪ねたのは、探し物を依頼するために…な…」
★☆★
スクライア族の集落で、ムウはスクライアの長と話していた。
「フム……『通行証』ですか……」
「ええ。貴方達は遺跡発掘を生業としているとの事です……。この様なモノを見つけたら、我々に教えていただきたいのです……」
カノンが、『闇の書の夢』に囚われた時、それを利用したアテナとコンタクトが取れた。
『エデン』に張られている外からの侵入を全て拒む結界を越える為には、『通行証』が必要であり、カノンはムウと共に、此方の聖域を調べてみると、その『通行証』に関する文献を見つけたのだ。
しかしその文献には、通行証の図と、どこかの次元世界の古代遺跡に保管してあるとしか記されておらず、場所などについては一切、記されていなかったのだ。
そこで、ムウは遺跡発掘を生業としているスクライア族に調査を依頼する為、ユーノが里帰りをするのに便乗させてもらったのだ。
スクライアの長に『通行証』の図を見せ、その事を依頼すると、スクライア族の長は快く承知してくれた。
「……ありがとうございます…」
ムウは、謝意を込めて頭を下げた。
さて、ユーノは無限書庫の司書になることが内定しているので、このままスクライアの集落に残らず、近日中には本局に戻ることになっていた。
しかし、PT事件から、一族の元に帰っていなかったので、暫くはここに留まり、ムウもユーノと共に留まっていた。
一室を与えられていたムウの下に、ユーノが訪ねてきたのは、滞在を始めて三日たったある晩であった。
「どうしましたか…ユーノ?」
「……実は……ムウさんにお願いがあってきました…」
ユーノは、決意込めた眼をしながら、その場で膝を付き、ムウに頭を下げた。
「…僕を…弟子にしてください!」
流石のムウも驚き、眼を見開いてユーノを見た。
「……それは、聖闘士の修行を受けたい…ということですか?」
「はい……」
「…何故、聖闘士になりたいのです?強くなりたいからですか?」
聖闘士への志望を目指す少年達の動機で一番多いのが「強くなりたい」である。
稀に、姉と逢わせてもらう交換条件や、沈没した船に眠る母親の遺体を引き上げたいという願い等で聖闘士を目指す者もいるが……。
「……強くなりたいという気持ちも勿論あります…」
ユーノは聖闘士の修行により、魔導師としては格上の相手に圧倒したクロノを思い浮かべた。
男として生まれた以上は、強さを求める感情があることを否定はしない。
争いごとを好まず、地上で最も心清らかな人間である瞬ですらも、強さを求めたのだから……。
最も、瞬の動機は自分の身代わりで地獄の島に行った兄と再会したいからだったが……。
ユーノが強さを求める理由……それは、なのはを護りたいことであった。
確かに、ユーノは結界魔導師としては優秀である。
前線で戦うなのはを護ることは出来るだろう……。
しかし……やはり男としては女性を前面に立たせ、後ろにいるなど……情けなく感じてしまうのである。
女性から見れば、そんなものは男女差別だと言われてしまうだろう……。
それでも、男としては女性を引っ張る立場でいたいという矜持は存在するのだ。
「断っておきますが……既に小宇宙に目覚めていたクロノと違い、貴方の修行は想像を絶するモノになりますよ…」
クロノが聖闘士の修行を始めたのは、危機的状況下の中、小宇宙を発現させた後からなので、普通の聖闘士候補生の修行に比べれば、まだまだ軽い方である。
それでも一般人から見れば、地獄の修行だが……。
「貴方はこれから、無限書庫の司書として、膨大な数のデータを整理するという仕事があります……。聖闘士の修行は、そんな激務の合間に出来るほど生易しいものではありません……」
無限書庫は膨大な知識の宝庫であるが、管理局が怠慢だったせいで(管理局側は、人手不足という理由をつけている)長年放置されており、何処に何があるかがさっぱり分からない有様であり、何人かでチームを組み、年単位で捜索しなければならない。
だからこそ、『闇の書事件』においても解決が長引いたのである。
キチンと整理していれば、もっと早くに『闇の書』が『夜天の魔導書』であったことが判明できたのと、『闇の書』の修復が行えたかもしれない。
流石に管理局も反省し、無限書庫の司書をおいて管理することが決定され、遺跡探索を生業としているユーノを筆頭に幾人かに司書になるよう要請した。
「古代と違い、現代…いや近代以降において、歴史と情報は何よりも貴重なモノだ。戦いだけでなく、政治においても、商売においても、農耕においても…………『管理局』などと名乗っているのに、古代からの貴重かつ重要なデータの管理を怠るとはいい加減な組織だな…」
カノンの皮肉に、リンディ達は冷や汗を掻きまくっていた。
「……その事をふまえて、実は一族の何人かに無限書庫の司書を頼みました。声を掛けた全員から承諾をもらいましたから…。僕一人なら激務などと生易しいモノではありませんが、みんなが居てくれるので…。それにムウさんも無限書庫の司書になってくれるんでしたよね……」
無限書庫は管理局がスポンサーではあるが、厳密には管理局とは別機関となる。
ムウも生活の糧を得るための職として無限書庫の司書を選んでいた。
いかにアテナから「生活の糧を得るために聖闘士の力を使ってもいい」許可を得ていても、おいそれと出来るものではなかった。
故に元々興味のあった無限書庫の司書なることにしたのだ。
カノンほどではないが、ムウも空間を操る力があるし、何よりも『念動力』があるのでこういう仕事に向いているのである。
ちなみに、カノンとアイオリアは聖域の見つかった世界で、農耕をすることにしていた。
主に栽培するのは、アテナと関係が深いオリーブである。
聖域の内部にはオリーブの木が沢山生えていて、その果実から得られるオリーブ・オイルはとても品質が高く、種子から精製されるオリーブ・オイルより品質の劣るオリーブ核油ですら、一般のオリーブ・オイルよりも品質が良かった。
果汁から遠心分離で直接得られるバージン・オイルやエクストラ・バージン・オイルも既存のモノとは比べるモノにならない。
これは、オリーブがアテナを象徴する植物であり、そのアテナの小宇宙の加護が満ちている聖域ないで育ったオリーブから得られる為である。
こちらの聖域にも、アテナの加護があるので、流石に本場のモノに比べると若干品質は劣るがそれでも、上質であることは間違いなかった。
聖域の中では、オリーブを育てることにしたが、問題は聖域の外である。
聖域の外の世界は、草一本生えていない不毛の地なのだが、保管された神具の中に、豊穣神デメテルの力を宿した神具があったので、それを利用することにしたようである。
話がそれたので戻そう。
「……修行の過程で死ぬ可能性がありますよ…」
「……はい…。覚悟はあります…」
ムウはユーノを見据えた。
確かに、何度も何度も悩み、そして決心した強い眼をしていた。
「……分かりました」
ムウが承諾し、ユーノはムウの二番目の弟子となった。
〈第三十八話 了〉
ユーノ聖闘士化
真一郎「クロノに続いてユーノもか?」
「リリカルなのは」はどちらかといえば女性キャラが多いので、この話では男性キャラを目立たせようと考えてますので…
真一郎「じゃあ、ザフィーラも?」
ザフィーラは別。ザフィーラははやての守護獣であることに誇りを持っているので……。例え強さを求めても、はやて以外に忠誠は誓わないだろうから……
では、これからも私の作品にお付き合いください。
真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じた事があるか!?」
事件後の処遇も決まったみたいで。
美姫 「暫くは平穏な日が続くかしらね」
どうなるかな。にしても、ユーノも聖闘士の修行を開始か。
美姫 「どのぐらいの力を得るかしらね」
それらも含めて、続きが楽しみです。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。