『時空を越えた黄金の闘士』
第三十七話 「少女たちの思い」
八神家に、一人の男が来訪していた。
ギル・グレアム提督である。
グレアムは、己の所業をはやてに、告白し謝罪しに来たのだ。
グレアムは、はやてに罵詈雑言を浴びせられる事を覚悟していたのだが、カノンの予測した通り、はやてはあっさりとグレアムを赦した。
「……はやて君…」
「…グレアム小父さんの事情は、クロノ君から聞きました……。それに『闇の書』はそれだけ不幸を巻き起こしたんやから、恨みに思って当然です……。確かに小父さんのやり方は、正しかったとは言えへん……。でも……小父さんのおかげて今までウチは生きてこれた。それは事実です…。何より、今回のことでは最終的には誰も死んでへんし……一番痛い目を見たんは、小父さん達やろ?」
今回の事件で自業自得とはいえ、最も被害を受けたのは、アイオリアに半死半生の目に遭わされたグレアムの使い魔であるリーゼ姉妹たちである。
「しかし、それは結果論に過ぎない。私は……」
「……それに……小父さんは、ウチにしようとした事を悔いとるんですやろ……。こうして、逢いにきてくれて、謝ってくれたんやから……それでええです」
はやては、俯くグレアムの手を取りながら微笑んだ。
年甲斐もなく、グレアムは涙を流していた。
「……フッ…、甘いな…はやては…」
「しかし……それでこそ主だ……」
隣室で話を聞いていたアイオリアとリインフォースが苦笑していた。
「……しかし、はやてはそれで良いとしてお前らはそれでいいのか?」
「……確かに……グレアム提督が画策していたことは腹立たしい……。しかし、『闇の書』が原因でクロノ執務官の父親が亡くなられたのは事実……」
「…それ以外にも、『闇の書』に恨みを持っている人たちはたくさんいます…。私達に復讐したくなっても仕方ありません…」
「…はやてが赦すんなら……アタシも赦すよ……」
「主が決めた事なら、我らはそれに従う…」
アイオリアの問いに、シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラが答える。
「……まぁ、お前達がそう言うなら、それでいいか……」
アイオリアも、カノンからグレアムがはやてに被せられる罪を引き受けさせた事を聞いていたので、それで良しとしていた。
本来なら、一発ぐらい殴ってやろうと思ったのだが、カノンから「あの猫共をあれほど叩きのめして、まだ足らないのか?」とジト目で言われ、自重した。
アイオリアがリーゼ達をあそこまでボッコボコにしたので、カノンの方は、フェイトを傷つけられた鬱憤を晴らせない……もとい、制裁を加えられないのをしっかりと根に持っていた。
★☆★
その頃、高町家のリビングに家族全員のほかに、ムウ、リンディ、クロノ、エイミィ、フェイト、ユーノ、アルフ、アリサ、すずかといった面々が揃っていた。
カノンも赴こうとしたのだが、フェイトに涙目で「まだ安静にしてなくちゃ駄目」と懇願されたので、仕方なくアースラの医務室で横になっていた。
なのはの家族と友人たちに、次元世界を自然もしくは人為的災害から守り管理する時空管理局のこと、そこで使われる魔法のことなどの説明をする為であった。
本来は、なのはの家族だけに話す予定だったのだが、アリサとすずかは前回、巻き込まれた時に説明する約束だったので、今回、呼ばれたのである。
流石ににわかには信じられなかったが、魔法の実演などを実際に見せられては信じざる得なかった。
リンディはPT事件の折に、桃子達を欺いたことについて謝罪をしていた。
そして、恭也と美由希は自分達が助けたムウも、リンディ達とは関係ないとは言え、この世界の人間ではないことを知り驚いていた。
そして、ユーノの正体がフェレットではなく、なのはと同年代の男の子であるという事実が明らかにされ、なのはと温泉に入ったり、一緒に寝たりしていたことが問題視され、皆からシスコンと言われる恭也に凄まじい殺気を浴びせられ、アリサとすずかもなのはと一緒に温泉に入っていたので、裸を見られた事を思いだし、アリサにも睨まれ、生きた心地がしなかったユーノであった。
そして、そこでなのはは、家族の皆にお願いをしていた。
「学業とちゃんと両立するから時空管理局で武装局員として働いてもいい?」
フェイトがこれからも嘱託魔導師として、管理局に協力していくのを知り、なのはも管理局への入局を決意したのだ。
元々、なのはは自分の将来の展望が見えていなかった。
アリサとすずかは、それなりに考えていたのだが、なのはは自分に何が出来るかがわからなかったからである。
しかし、ユーノを助け、魔法と出会い……、なのはは自分の進むべき道はこれだ…と、決めたのである。
それを聞いたとき、家族の皆…特に、士郎と恭也は渋い顔をしていた。
最初に、なのはに許可を出したのは桃子だった。
「なのはがやりたい事が出来て、そして、悪い事じゃないんなら……私は反対しないわよ…」
桃子が、賛成したのを機に士郎と美由希も賛成し、恭也も無理をしないのなら…と、渋々認めた。
なのはが、家族の皆に礼を言おうとしたとき、待ったが掛かった。
それは、ムウだった。
「……随分と簡単に認めましたが……、本当に貴方達はそれでいいのですか?」
「……ああ。なのはが決めた事だ…。家族として、それを応援するのが当然だろう…。第一、時空管理局というのは、立派な仕事のようだしな……」
士郎の答えに、ムウは内心、危惧を抱いたが、結局、家族が認めるのなら、部外者である自分が口を出す筋合いはないと、引き下がった。
後日、この判断が、高町家の人間に後悔を呼び寄せる事になるのだが……。
★☆★
後日、翠屋において、忘年会を兼ねたパーティーが催された。
高町家と八神家、ハラオウン家とアースラのクルー、バニングス家、月村家の面々が集まっていた。
漸く医者の許可が出て、自由になったカノンも、リニスと共に参加していた。
「まったく……あの程度の傷で……」
「…全身から血が吹き出たのを『あの程度』とは言わないでしょう…。それに、それだけフェイトが貴方を心配していたということですよ……」
愚痴るカノンに、リニスが苦笑しながら諭していた。
「ところで……カノン…。リンディ提督がフェイトに養子にならないかと薦めているそうですね…」
「ああ。裁判が始まる前から、リンディが言っていたからな…」
「…カノンは、どう思いますか?」
「管理局の提督としては、喰えない女だが……一人の女性としては問題あるまい……。フェイトの事を考えれば、俺などが保護者をしているよりは、はるかにマシだろう……。まあ、どの道、それはフェイトが決める事だ。プレシアにも頼まれたことだから、最後まで面倒を見るつもりだが……な」
カノンの答えを聞き、リニスは以前、フェイトと話した時の事を思い出した。
「このまま、フェイトはカノンの被保護者として生きていきますか?」
「……カノンとは一緒にいたいけど……いつまでも、カノンが保護者だと……」
フェイトは、赤くなりながら言葉を濁していた。
カノンはフェイトを大事にしているが、あくまで子供としてしか見ていない。
魔導師としては、一流といってもいいくらいのフェイトだが、カノンから見ればまだまだ半人前である。
最も、カノン達聖闘士が、魔導師よりもはるかに強いからであるが……。
「どうしましたか……フェイト」
言葉を濁したフェイトに顔を寄せると、フェイトの呟きが耳に入ってきた。
リニスも素体が山猫なので、犬ほどではないが聴覚か優れている。
人間の耳には届かないほどに小さな声でもはっきりと聞き取れた。
……今のままじゃ……カノンのお嫁さんにはなれない……。
フェイトの少女らしい願いを知り、リニスはこっそり微笑んでいた。
「どうした、リニス?」
「…いえ、何でもありません!」
訝しげなカノンの問いを誤魔化しながら、リニスは考えていた。
カノンの実年齢は28歳…。
フェイトは9歳…。
歳の差は19年…。
カノンにはロリコンの気はまったくないので、フェイトの想いが通じるとはとても思えない。
しかし、カノンは何故か肉体は14歳まで若返っている(クロノスに細胞時計を弄られていることが原因であるというのを、カノン達は知らない)。
つまり10年くらい経ては、カノンの肉体年齢は24歳…。
フェイトは19歳…。
違和感はなくなるだろう。
それに、それくらい成長すれば約20年の歳の差など問題ではなくなるだろう。
それくらい歳の離れた夫婦など、別に珍しくもないのだから……。
フェイトは遺伝子学的には、歳を取ってもあれ程の美貌を持っていたプレシアの娘なのだから、将来が期待できるだろう…(スタイルの面においても…)。
等と、自分が育てたかつての主の娘と、現在の主の将来を勝手に想像し始めていた。
何か悪寒を感じたカノンは、そんな使い魔を放っておいて、ムウとアイオリアの下に向かった。
〈第三十七話 了〉
真一郎「撃墜プラグが立ったな…」
それを言うなよ……
真一郎「それにしても、グレアムの件はあれでいいのか?」
他の方の作品では、ホロクソに言われているけど……まあ、私はこんなものじゃないかと思うので、グレアムを断罪するのは他の方々に任せましょう…
真一郎「フェイトは、カノンに対する想いを明らかにしたな…」
今までは、あまり触れないようにしていたけどね…
では、これからも私の作品にお付き合いください
真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」
とりあえず、闇の書を巡る一連の事件は幕を閉じた形かな。
美姫 「そうね。はやてたちが今後どうするのか、とか、カノンたちの事はあるけれどね」
まあ、一先ずは一段落といった所だな。
美姫 「なのはに関してはちょっと気になる感じがあったけれど」
うーん、どうなるやら。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。