『時空を越えた黄金の闘士』
第三十五話 「夜天の魔導書」
気を失ったカノンは、アースラの医務室に収容された。
サガとの戦いで受けた傷を、一度シャマルの『静かなる癒し』で塞いでいたが、余りに深い傷だった故、完全には癒えていなかった。
そんな状態で、『アテナ・エクスクラメーション』を放ったのだ。
いかに最強の聖衣である『黄金聖衣』を纏っていても、その下は生身の体である。
『アテナ・エクスクラメーション』の衝撃で、表面だけ塞がっていた傷か再び開いたのである。
医務室のベッドで眠っているカノンの横に、フェイトが付き添っていた。
カノンが目を覚ますまで、傍にいるつもりである。
★☆★
「リインフォース……何を言っとるんや!」
一方その頃、食堂ではやてがリインフォースに縋りついていた。
「確かにサガが乗っ取っていた『防衛プログラム』はカノンやアイオリア達のお陰で無くなりました。しかし、破損は致命的な部分にまで至っています。『防衛プログラム』は今のところ停止していますが、歪められた基礎構造はそのままなのです。このままでは私は―――『夜天の魔導書』の本体は、やがて新たな防衛プログラムを生成し、また暴走を始めてしまいます……」
『夜天の魔導書』の管制プログラムであるリインフォースの中にも、本来の姿のデータが消えているのだ。
元の姿が分からなければ修復することが出来ない。
『防衛プログラム』がない今なら、『夜天の魔導書』の完全破壊は可能である。
破壊してしまえば、もうはやてを侵食する危険性は完全に無くなる。
幸い、サガに乗っ取られた『防衛プログラム』と共に、守護騎士システムも『夜天の魔導書』から切り離された。
『夜天の魔導書』を破壊してもシグナム達、守護騎士は消滅しない。
逝くのは、リインフォース一人で済むのだ。
「破壊なんてせんでええ!私がちゃんと抑える…だから……」
「良いのです…」
泣きじゃくり、縋りつく手を強めるはやてを優しく諭そうとするリインフォースを、アイオリアと守護騎士達は哀しげに見つめていた。
「永い永い年月を生きてきて……最後の最後で、綺麗な名前と心を貴女にいただきました。騎士達も貴女の下に残ります・・・そして、アイオリアも…
…何も心配はありません…。ですから、私は笑って逝けます・・・」
「…リインフォース…」
はやてがどれだけ止めても、リインフォースの決心が変わらない。
「私はもう、世界一幸せな魔導書ですから・・・・」
ちょうどその時、クロノが食堂に入ってきた。
「……ちょうど良かったハラオウン執務官……。貴方達、時空管理局に……私を―――『夜天の魔導書』の破壊を依頼したい…」
「あ……あかん…。やめてクロノ君!」
クロノははやてとリインフォースの顔を交互に見て、答えた。
「断る!」
「…な…!?」
「クロノ君!」
クロノの返事に、リインフォースは驚き、はやては喜色を浮かべた。
「何故!?このまま私が存在していれば、また悲劇が起こるだぞ!……十一年前の用に…」
はやてがその場にいるので言及しないが、リインフォースは自分が目の前の少年が、十一年前の暴走で死んだ管理局の提督の息子であることを悟っていた。
目の前の少年は自分を恨んでいるだろう事も……。
「……呪われた魔導書『闇の書』は確かに、不幸を撒き散らした。しかし、君は『夜天の魔導書』だ……。罪があるのは君を『闇の書』に改変したかつての『主』であって君ではない……」
「それに……私の努力を無にして欲しくはありませんね…」
そこに、リニスが入室してきた。
「……お前は?」
「私は山猫のリニス……。黄金聖闘士、『双子座』のカノンの使い魔です…」
「…カノンの?」
「はい。お初にお目にかかります。アイオリア…」
初対面になる自身の『主』と同格の存在に、リニスは礼を取る。
「…お前の努力とは…どういうことだ?」
リインフォースの問いに、リニスは一枚のデータディスクを差し出した。
「……これは!?」
「先日、無限書庫で私のマスターとユーノが見つけた『夜天の魔導書』の修復プログラムです…」
「…なっ!?」
『夜天の魔導書』を製作した初代『夜天の王』は、自分の後継者たちの誰かが魔導書を改悪する可能性を予測していた。
故に、それに備える為、『夜天の魔導書』のプログラムのバックアップを取っていたのである。
リニスは、カノン達が見つけたそれを受け取り、修復プログラムを組んでいたのである。
「それじゃあ……」
はやてが涙を流しながら、期待を込めた瞳でリニスを見つめる。
アイオリアも守護騎士たちの表情にも喜色が浮かんでいた。
「はい。『夜天の魔導書』……いえ、リインフォース…。貴女を破壊する必要などありません……。最も、あのグレアム提督が余計なことを企てなければ……今回、これほどの騒ぎにはならなかったんですけど……ね」
グレアムの名前に、はやてが反応した……。
「グレアム提督って……グレアム小父さんの事?」
「その件は、後で説明するよ……。で、どうするリインフォース……。これを聞いても、まだ自分を破壊して欲しいと願うかい?」
クロノの問いに、リインフォースは沈黙している……。
「……リインフォース…」
「私は……私はこれからも…主と…騎士達と共に生きて……いいのか…?」
「もちろんや!」
「リインフォース……」
「これからも、家族として……」
「一緒に生きていこう…」
「やはり、我らも…お前を喪いたくない…」
はやてが頷き、シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラも自分の本当の気持ちを伝える。
リインフォースは、その場で泣き崩れた。
こうして、『夜天の魔導書』が修復された。
リインフォースと守護騎士たちの強い希望により、転生システムも切り離されることとなった。
自分達の主は八神はやてだけであり、これより以降、はやて以外を主としたくないとの願いからである。
★☆★
医務室で寝ていたカノンが目を覚ました。
「カノン!良かった……」
「……フェイト…」
目を覚ましたカノンに、フェイトは泣きながら縋りついた。
「……そうか…『夜天の魔導書』いや、リインフォースの修復は済んだか…」
「うん。カノンとユーノのお陰だって、はやてが礼を言いたがっていたよ…」
「それで、はやて達は?」
「とりあえず、シグナム達は事情聴取を受けているよ……はやては病院に戻ったよ…勝手に病室を抜け出したみたいになっているから、主治医の石田医師って人にアイオリアと一緒にお説教されたらしいけど……」
「……そうか」
カノンは、ベッドから起き上がった。
「まだ寝てなくちゃ駄目だよ!」
「いや、まだ解決していない事があるのでな……。本局に行かなくてはならん…」
「その必要はないですよ…カノンさん」
そこへ、一人の少年が医務室に入ってきた。
「誰!?」
知らない人が突然入ってきたので、警戒するフェイト……。
「失礼。僕は本局の査察官補佐のヴェロッサ・アコース……。カノンさん……提督をお連れしましたよ…」
ロッサに伴われた人物は……ギル・グレアム提督だった。
〈第三十五話 了〉
まあ、よくあるパターンで申し訳ないんですがリインフォースを救済しました
真一郎「本当によくあるパターンだな」
でも、同じじゃ流石に悔しいので……
真一郎「どういうこと?」
それは、今後のお楽しみ……最も、あの子のファンには申し訳ないのですが……
真一郎「あの子?」
まだ秘密です。では、これからも私の作品にお付き合い下さい
真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」
リインフォースも無事に救済されたみたいだけれど。
美姫 「何かあるのかしらね。ちょっと気になるわね」
ああ。そして、カノンの前にはグレアムが。
美姫 「一体何をするつもりなのかしらね」
ああ、続きが気になる。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。